「ーーっ! ーーっ!!」
カイリューと共に雄叫びを上げていたアキラであったが、同調しているドラゴンポケモンを介して伝わる反動による骨の芯まで響く様な痛みに、彼は右腕を左手で抑えながら堪える様に食い縛った歯の隙間から荒く呼吸をするだけでなく顔から大量の汗を滲ませ始めていた。
だけど感覚を共有していることで、正常に動ける状態であるアキラの腕と相まって気持ちの問題ではあるが、痛覚は分散している様に感じられてはいた。
ポケモンカードから名付けた今まで偶発的に発揮していた爆発的な鉄拳。
”ドラゴンスマッシュ”
カイリューが引き出すドラゴンタイプのエネルギーを”げきりん”の形で最大まで引き出し、そのエネルギーを暴発する限界近くまで腕全体に纏わせて、”メガトンパンチ”の要領で叩き込むことで直撃時の衝撃で纏ったエネルギーを爆発させる様に開放させる技だ。
当然、威力が高過ぎるが故の反動もそうだが、こんなものをその辺のポッポやコラッタに仕掛けたらどうなるかは火を見るよりも明らかだ。なので、ぶつける相手は万全でも苦戦する様な強敵や伝説のポケモンのみと決めていた。
単にエネルギーを纏って殴り付けるだけでは、開放時の反動や負荷が大きいので”メガトンパンチ”を意識するだけでなく、体や腕の動かし方などもアキラとカイリューは気を付けていた。
昔の様に苦しい状況を打破出来るだけの力を求めるだけではない。今までは闇雲に勢いのままにぶっつけ本番でやってきたが、ちゃんと威力や反動を考慮して意識して調整をしたお陰でカイリューの腕がズタズタになったり、しばらく戦闘では使い物にならなくて片腕で戦うことになることは避けれた。
これだけでも大きな改善と言えた。
気が付けば、ルギアが倒れたことが影響しているのか、降り注いでいた雨は収まり始めただけでなく、空を覆っていた厚い雲が瞬く間に風に流されて陽の光が差し込んでいた。
改めて伝説のポケモンを倒したことを実感しながら、アキラはカイリューと共に可能な限り右腕を解すなどで早く痛みを和らがせようとしていた。
そうした試みのお陰で痺れや微妙に右手の感覚が鈍いなどの問題はあったが、戦い続けられそうな状態にまで落ち着いてきたと彼らが思った時だった。
「カイリュー。そのままじっとしているんだ」
唐突に背後から声を掛けられて、彼らは揃って後ろを振り返った。
そこには拘束したロケット団幹部を見張っている筈のキョウが足早くやって来ていた。
目的はわからなかったが、アキラは視界を通じて得られるキョウの動きから敵意や怪しげな動きが無いことを確信していたが、何故か彼は片手を固く握り締めていた。
「”せいなるはい”の残りを、このドラゴンの右腕に掛ける」
アキラが尋ねるよりも前にキョウは自分がやって来た目的を告げると、握り締めていた僅かな量の”せいなるはい”を少し痙攣をしているカイリューの右腕に向けて振り撒いた。
すると灰を浴びたカイリューの右腕から傷跡が目に見えて消えていき、同時に激痛や極度の疲労も急速に腕から引いていくのと指先含めた感覚も徐々に戻っていくのも彼らは感じた。
「仮面の男と戦うんだろう?」
単刀直入にキョウが尋ねると、アキラとカイリューは右腕の感覚を確かめながらではあったが、共に頷いて答える。
予想通りの彼らの返答に、キョウは溜息にも似た息を深く吐いた。
たった今ルギアを再び倒すなどの大戦果を挙げた彼らだが、伝説のポケモンの様な強大な存在を相手に連戦を重ねれば、どれだけ強かろうと消耗は免れられない。
なのでキョウとしては最高戦力であるカイリューか、トレーナーであるアキラのどちらかを回復させられるであろう僅かな量の”せいなるはい”をゴールド達に渡す前に確保していた。
量から考えて完全回復は無理でも部分的に傷や疲労を癒すくらいになるかと思っていたが、まさか弱っていたとはいえ片腕の動きに支障が出る程の大技でルギアを叩きのめすとは夢にも思わなかった。
しかも片腕が満足に使えない状態でも彼らは仮面の男と戦うつもりだったと言うのだから、もう頭が痛かった。
一体、何が彼らをここまで戦いに駆り立てるのか、その原動力や理由が激しく気になった。
だけど、彼らに仮面の男を倒す可能性があるのもまた事実。流石に片腕が満足に使えない状態であの仮面の男と戦うのは無理なので、キョウとしてはルギアと戦う前と同じ様に少しでも勝率を上げて送り出したかった。
「途中で帽子も拾ったが、邪魔になるみたいなら受け取らなくても良いぞ」
先程の激しい爆風で抑えることなく吹き飛んでしまったアキラの帽子も、キョウはここに来る途中で拾っていたが、彼はカイリューを通じて感じる痛みが引いて感覚を取り戻しつつある右手で静かに受け取った。
「…
しばらくして右腕が完全に復調したことをアキラはカイリューが感じている感覚を通じて確信すると、彼らは帽子を拾ってくれたことも含めてキョウに心から感謝の言葉と礼を口にした。
”せいなるはい”の量が十分では無かったので右腕以外の完全回復は叶わなかったのと自分達が消耗していることには変わりないが、それでも彼のお陰で右腕がルギアを倒す前と変わらない状態に回復出来たのはとても大きかった。
これで自分達は、本当の全力で仮面の男――ヤナギと戦うことが出来る。
チョウジタウンの山奥でのロケット団の軍勢との激突。
操られた状態でのジョウト地方に言い伝えられる二体の伝説のポケモンとの総力戦。
そして、封じられていた意思と持ち得る力の全てを怒りのままに解放したルギアとの戦い。
今日起きたそれら全ての戦いをアキラと手持ち達は制することが出来た。
これで残る戦いは、倒すべき相手は――
そこまで考えたアキラはレッドの色違いと言える自身の青い帽子を再び被ると、カイリューや周囲に集まった手持ち達と共に目と意識を次の戦いの場へと向けるのだった。
「きゃあっ!」
強い衝撃と共にスイクンと背中に乗っていたカスミの体はフィールドに打ち付けられる。
砕いても砕いても際限無く再生しては襲って来る氷人形との終わりの見えない戦い。表面上は幾ら自らを鼓舞し続けても、どこかで限界を迎えてしまう。
そして遂に彼女とスイクンは、その隙を突かれてしまった。
すぐにスイクンは起き上がろうとするが、押し寄せる氷人形達に瞬く間に囲まれて袋叩きにされてしまう。
そんな中、一部の氷人形が投げ出されてから倒れたままのカスミへと迫る。
「おい! 早く立ちやがれ!!」
「カスミ君!」
マチスやカツラが声を上げるが、彼女を助けようとしても他の氷人形に阻まれてしまう。
カスミは何とか腕の力で体を起こすが、既に氷人形達は距離を詰めており、このままではスイクン同様に痛め付けられることは容易に想像出来た。
歯を食い縛って、これから来るであろう暴力に耐えることを考えた時だった。
派手に氷が砕ける音と共に、氷人形が突如現れた巨大な何かによって撥ね退けられながらバラバラになった。
手を下したのは、先程まで別の場所でルギアと戦っていた筈のアキラのカイリューだ。
頭部には激しく螺旋回転する黄緑色のエネルギーのドリルが回転しており、”つのドリル”で突っ込むと同時にそのまま氷人形を薙ぎ払ったことが窺えた。
そしてドラゴンポケモンのすぐ隣にはアキラもおり、その右腕には分類すればカイトシールドと言えるが、向きを変えることでその形状を活かして疑似的に剣の様にも扱っている盾を身に付けていた。
彼とカイリューはカスミが無事なのを一瞥すると、彼女が警告を伝える前に砕けた体を再生させる氷人形を強烈な羽ばたきでまだ小さな破片の内に吹き飛ばす。
まるで何が起こるのかわかっていたかの様な動き、だけど彼女は気付いていた。
普段の彼なら一言だけでもこちらの安否を確認する筈なのに、今回はそれが無い。つまり、それだけで余裕が無いことは察せた。
「……仮面の男は…どこに行きました?」
「外よ。奴は会場の外へ飛び出したわ」
やっと発したアキラからの問い掛けにカスミはすぐに行き先を伝えると、確認を取った彼はカイリューと視線を交わし合った。
何をするべきか理解していたドラゴンポケモンは、その口からまるで光線の様に洗練された竜の炎――”りゅうのいかり”を放ち、スイクンを袋叩きにしていた氷人形達を薙ぎ払った。
そしてアキラを抱える様に持ち上げたカイリューは力を入れる様に体を屈ませると、天井に空いた大穴目掛けて爆音と共に周囲に衝撃波にも似た強風を撒き散らしながら勢い良く飛び立った。
ポケモンリーグ会場の外へと出た仮面の男は、デリバードに伴われて急ぐ様に飛行をしていた。
彼としては予定から大きく外れてしまっただけでなく、まだポケモンリーグの会場を襲撃した一番の目的を果たせていないからだ。
襲撃事件を起こしてから予想以上に時間が経ち過ぎているのも、仮面の男が焦っている理由でもあった。
空を見上げてみれば、まだ陽は頭上で輝いているものの猶予はもう残されていなかった。
そうして飛んでいた時、眼下に大勢の人々の姿が見えてきた。
それは先程までポケモンリーグを観戦しに来ていたが避難していた観客達だった。
「っ! おい、あれは!」
彼らは警備員などの指示に従って規則正しく秩序を保って移動していたが、飛んでくる仮面の男に気付いた一部によってパニックに陥り始める。
だが仮面の男はそれらの騒ぎを無視して、上空から忙しなく探す様に首を動かす。
その姿は明らかに余裕が無いものであったが、パニックになっていた人達は誰も気付いていなかった。
そして、彼は遂に見つけた。
「ガンテツ!!!」
多くの観客の中でも目立ちやすい作務衣を着た老人に、仮面の男は上空から真っ直ぐ突っ込む。
ガンテツの方も自分が狙われていることに気付くが、手を打つ前にあっという間に首を鷲掴みされて持ち上げられる。
「渡して貰おうかガンテツ! 貴様が持つボール作りの秘伝の書を!」
首を圧迫する力で握り締め、苦しみを与えながら仮面の男はガンテツが持つぼんぐりの実から作られる特殊モンスターボール製造法が記された書物を渡す様に迫ったが、命の危機にも関わらずガンテツはせめての抵抗とばかりに仮面の男を睨み付けた。
「ッ! 誰が…渡すものか…」
「……お前が強情なのはわかっている」
そう告げた仮面の男はすぐに考えを切り替え、ガンテツの懐から彼がボール職人として肌身離さず持ち歩いているボール作りの極意が記された巻物を抵抗する間も与えず、無理矢理奪い取った。
もう用は無いと言わんばかりにガンテツを投げ捨てたが、達成感に浸る間も無く、何の前触れもなく鋭い爪を光らせたペルシアンが仮面の男に襲い掛かった。
「むっ!?」
思わぬ奇襲に仮面の男は躱しながらもよろける。
すぐにデリバードがペルシアンを撃退したが、今度はゴーストが”さいみんじゅつ”らしき技を仕掛けて揺さぶりを掛けてくる。
そこに間髪入れず、パルシェンが”とげキャノン”でデリバードを狙い撃ち、続けてカイリキーが仮面の男を取り押さえようとする。
「鬱陶しい!」
それらの強襲も仮面の男とデリバードは撥ね退けるが、気が付けば彼らは多くのポケモン達とトレーナー達に包囲されていた。
仮面の男を囲んだ面々の大半は、今回のポケモンリーグに出場しようとしていたトレーナー達だった。
ロケット団の乱入に伝説のポケモンの出現などのパニックが重なって他の観客達と一緒に避難していたが、全ての元凶と言える存在が目の前に現れたこともあって、彼らはこの脅威を退けるべく自然と共闘する形になっていた。
「今の奴には伝説のポケモンはいない!!」
「あれだけ戦った後だ! 数で押せ!」
「やっちまえ!!!」
柄の悪い暴走族らしき男達が叫ぶと、彼らのポケモンだけでなく他のトレーナー達も連れているポケモン達と共に一斉に雄叫びを上げるなどして仮面の男に挑んだ。
一対一で挑めば敵わないことは彼らは百も承知であったが、同時にこれだけの数で攻めれば何とか倒せるだろうと言う思惑もあった。
しかし、それが甘い考えであったことを彼らはすぐに思い知らされた。
「あの戦いに加勢出来なかった者共が…漁夫の利で倒せると思ったら大間違いだ!!!」
仮面の男が怒鳴った次の瞬間、デリバードと再び繰り出されたラプラスが起こした竜巻の様な大規模な”ふぶき”が周囲を白で埋め尽くす。
彼らが少し本気を出しただけで、仮面の男を囲んでいた多くのポケモン達とトレーナー達は、呆気無く吹き飛ばされる形で一蹴される。
幸い咄嗟に”まもる”などの防御関係の技で防いだり、範囲の都合で巻き込まれなかった者もいたが、無事であったトレーナー達どころか避難していた観客達も仮面の男が持つ強大な力を目の当たりにして恐怖で固まる。
「私と戦おうとする愚か者はまだいるか!? 次は容赦はしないぞ!」
仮面の男は周囲に問い掛けるが、誰も挑もうとはしなかった。
そもそもの話、それだけの勇敢さと無謀さを持ったトレーナーの大半は最初の”ふぶき”で一蹴されており、残っているトレーナー達は仮面の男の圧倒的な強さに心を折られていた。
「待て仮面の男!!」
誰も挑んでくる様子も無く、この場で最も果たすべき目的を達成したこともあって今にも去ろうとする仮面の男に待ったを掛ける声が上がった。
振り返ってみれば、バクフーンやオーダイル、メガニウムなどの手持ちを引き連れたゴールドとシルバー、クリスが駆け付けていた。
彼らの相変わらずのしつこさに仮面の男は鬱陶しさと苛立ちを隠そうとしなかったが、無視することなく三人と対峙した。
「ふん、手持ちが回復しているのを見る限りでは、何かしらの回復アイテムを使ったか。破れても尚挑んでくるとは諦めの悪い奴らだ」
何かしらアイテムで三人の手持ちが戦線復帰出来るまでに回復したことはわかっても、”せいなるはい”で復活したことまでは仮面の男は知らない様子であった。
余裕そうな仮面の男に構わず、シルバーを筆頭にその手持ち達は構えるが、仮面の男の態度は変わらなかった。
「だがここで私と戦うつもりか? 私がその気なら、片手間に貴様らの相手をしながらこの場にいる者達にも手を下すことが出来るぞ」
周囲にいる観客達やトレーナー達の存在を示しながら、実質的な人質宣言にシルバーだけでなくクリスやゴールドも思わず体を強張らせる。
自分達が戦えば、勝てる勝てない関係無く周囲を巻き込む。
逃げれる者は既に逃げていたが、それでも周囲には返り討ちに遭って倒れたトレーナーやポケモン達、そして彼らを見捨てず助けようとしている人達がいる。
仮面の男の言葉に、ゴールドは悔しそうに歯を食い縛る。
”せいなるはい”のお陰で戦える力を取り戻したとしても、仮面の男と自分達との力の差は歴然としている。
アキラやジムリーダー達程の力があれば、奴をこの場から引き離せたかもしれない。
だが、さっきオーキド博士が語っていた様に自分達には彼らとは異なる力、向いている方向性が違うとはいえ、三人では力不足であった。
しかし、このままでは手を出してこないのを良いことに仮面の男はどこかに去ってしまうかもしれない。
そもそもこうして脅してくる時点で、見逃す様に見せて最後の最後で手を出してくる可能性も捨て切れない。
幾つものパターンが浮かんでくるが、それら全てに有効な手段や打開策がゴールドのみならず他の二人も浮かばない。
その為か、三人は対峙している仮面の男に対して睨み付けて牽制することで、今の硬直状態を保つことを選択するしか出来なかった。
誰が見ても時間稼ぎではあったが、ゴールド達はこれが今自分達に出来る最善の行動だと信じていた。
一方の仮面の男も、彼らの行動は時間稼ぎであることを見抜いていた。
その気になれば一蹴出来る筈だが、それでも彼らはこれまでの戦いで幾度となく始末しようとして始末し損ねるだけでなく、邪魔をしてきた相手でもあったので安易な選択は出来なかった。
そんな静かに睨み合う時間が何時までも続くかと思われた時だった。
少し離れた場所にあったポケモンリーグ会場から、これだけ離れていても聞こえる程の轟音と共に何かが飛び出したのを目にした。
それは黄緑色の光を纏った何かで、猛スピードでこの場へと瞬く間に飛来して来た。
思わず仮面の男は睨み合っていた三人から目を離して直感的に身構えたが、飛んで来た黄緑色の光は仮面の男から少し離れた背後の地面に衝撃と土を巻き上げながら激しく落ちた。
「なっ、なんなの!?」
突然の事態にクリスは驚くが、ゴールドは周囲に広がる舞い上がった土埃から顔を守りながらもこんなことをする存在が何なのか既に察していた。
衝撃で舞っていた土埃は徐々に収まりつつあったが、その中からまるで踏み締めるかの様に重々しい地鳴りを鳴らしながら動く影があった。
そしてその影の正体――カイリューが着地時に被った舞い上がった土を体から落としながらゆっくりと姿を現した。
普段から鋭い目付きは更に凶悪さを増し、体から発する圧は見る者を圧倒する程であった。
「カイリュー…」
「あぁ、ということは…」
ドラゴンポケモンの姿に、クリスとシルバーも遅れて理解した。
土埃の中から出て来たカイリューとは少し遅れて、アキラも右腕に付けた盾を剣の様に揺らしながらゆっくりとした足取りで出てくるが、纏う雰囲気はカイリューと同様に違っていた。
そして彼らが目を向けた先には、同じく彼らに気付いた仮面の男とラプラスがおり、自然と目線が合った。
それから彼は大きく息を吸い、地面に接した足腰に力を入れた。
「
アキラの声であって彼ではない声と共にカイリューも空気が震える程の声で咆哮する。
それを合図にアキラとカイリューは、片や土埃を上げ、片や地面を踏み砕き、仮面の男目掛けて荒々しくも真っ直ぐ突っ込んだ。
一心同体の感覚特有のカイリューから伝わる強い感情の影響を受けつつも、アキラはなるべく冷静であることを務めながら状況を整理していた。
ルギアとホウオウの撃破。
”せいなるはい”によってルギアが完全復活されたが、それも何とか倒すことは出来た。
戦果としては十分過ぎるが、それでも仮面の男は温存していたラプラス含めて、デリバードさえも消耗しているとはいえ未だ健在。
だがデリバードのみならず、これまで一切姿を見せなかったラプラスも繰り出したことが意味するのは、”窮地”、”総力戦”だ。
ならばこの場でアキラに出来ることは、今残された全ての力を賭けて仮面の男――ヤナギをこの場で倒すことで全てを終わらせることだ。
自分が知っている通りの形に沿わせるつもりは無い。
昔と違い、今の自分達には
圧倒的な力を有していることを自覚しているが故に高ぶった感情から齎された威圧感を放ちながら突撃するアキラとカイリュー。
一見すると考え無しに見えるが、今の彼らは対峙しただけで相手は一瞬だけ残酷な結末を幻視して怯んでしまう程の圧を放っていた。
しかし、それに負ける仮面の男では無かった。
彼らの様子から異常なものを感じ取ったのか、即座にデリバードが先手を打って猛烈な”ふぶき”を放つ。
それをカイリューは”しんぴのまもり”と”つのドリル”の併用という、通常では有り得ない技の組み合わせで冷気を遮断しながら勢いこそ落ちたが駆ける足は止まらなかった。
力には力と言わんばかりに仮面の男達が出した答えに、彼らも力と言う解答で真正面から強行突破で迫った。
「……良いだろう」
仕掛けた技を撥ね退け、荒々しく迫る彼らの姿を見て、仮面の男は静かに呟く。
計画は既に最終段階、チャンスもこれが最後で逃せばもう次は無い。
長年の望みが叶うのも後一歩。そして、それを邪魔する最強最悪の障害が今目の前にいる。
仮面の男は決意した。
散々邪魔をしてきたアキラを止めるべく、ここで奴の意識を奪う。
即ち――
「今ここで…お前を倒す!!!」
感情が高ぶった声でアキラは倒すことを宣言した仮面の男は、手を緩めることなく次の一手を打った。
デリバードに代わってラプラスが瞬く間に氷人形を何体も作り出し、それをアキラとカイリューに差し向けたのだ。
押し寄せてくる無数の氷人形。
砕いても特別な炎を使わない限り、倒すことが出来ない不死身の存在。まともに相手をすれば、破壊をすることは出来るが消耗を強いられる。
だけど、それらを片付けなければ仮面の男に迫ることは出来ない。
迫る氷人形達を視界内に収め、そこまで考えが至ると同時にアキラとカイリューは両腕に力を入れ、彼はあるイメージを膨らませる。
すると、カイリューの両腕から”げきりん”を彷彿させる黄緑色のエネルギーが溢れ出すが、瞬く間に変化していく。
溢れたドラゴンのエネルギーは両手を包み込み、サンドパンが”みがわり”で形成した刃の様に洗練された鉤爪よりも大きく、荒々しいものへと固形化していく。
アキラの手持ち達は、頭の良さから生まれる発想力や身に付けた技術の応用、足りない部分をアイテムで補うなどで武器や得物を生み出す手段を得たが、カイリューはまだそこまで出来ない。
引き出したエネルギーを思い描いた形に固めることをイメージするのは勿論、それを考えながら必要なエネルギーや力を引き出すことも意識しつつ、戦闘時の体も動かすといった複数の過程を同時にこなさければならない。
だからこそ頭が良いのや技術的に優れていた面々は、想像力や必要最低限の力を引き出す術に長けていることから幾つかの動きを無意識に出来るので、短い時間でも何とか実戦で使えるレベルには仕上がった。
カイリューも手持ちではトップクラスの実力を有するだけでなく頭も悪くは無い。寧ろ、血の気は多いものの賢い方だ。
だけどイメージを含めた細かい力の制御や技術的な部分は、昔よりは練習しているもののまだ十分では無く数少ない弱点のままだった。
しかし、今のカイリューはアキラとは肉体的な感覚だけでなく思考さえも同調している状態だ。
引き出すエネルギーの量や放出する方向性、形作るイメージなどをアキラが浮かべ、カイリュー自身は体を動かすことに専念する。
そうすることで技術面や細かな反応などの穴をアキラの思考が引き受ける形で埋めることで、ドラゴンポケモン自身の強大な力の安定性を高める。
その結果、カイリューはドラゴンタイプのエネルギーを如何にもドラゴンらしい鋭い爪であると同時に好みそうな大型なものに形作ることが出来た。
そしてアキラの方もイメージなどに専念していると言っても、走ることを止める程では無い。
先程の技としての系統や仕組みが違い過ぎる”しんぴのまもり”と”つのドリル”の同時併用も、ある意味では思考が二倍になったが故に可能になった常識外れな方法だった。
そして彼らはそのまま、押し寄せる氷人形達へ突貫し、誰もが目を疑う様な光景を見せ付けた。
「なっ…」
それには仮面の男さえも、驚きを露にした。
カイリューがエネルギーの爪を纏った腕の一振りで二体の氷人形を薙ぎ払った瞬間、腕に付けた盾を剣に見立てて振るうアキラと同じ様に、まるで飛び跳ねる様な俊敏な動きで全身捻らせながら腕を振り回し、次々と氷人形を破壊したり斬り捨てながら突っ込んで行ったのだ。
正面からゴリ押しを前面に出した力押しでの強行突破ならわかるが、今カイリューが披露している軽快で身軽な動きは、とてもではないがドラゴンポケモンの体格で許された動きでは無かった。
そして何より、腕を振るう度に鮮やかな黄緑色の軌跡が描かれ、その軌跡や氷人形が砕かれた際に飛び散る氷の破片や粒に照らされた彼らの姿は、荒くも舞いを彷彿させるような動きも相俟ってある種の美しさを放っていた。
ゴールド達三人も、立ち止まっている場合でもそんな余裕がある訳では無いことはわかっていたが、想像だにしていなかった鮮烈な光景に目を奪われていた。
仮面の男の驚愕と立ち尽くす三人を余所に動きは荒ぶっていたアキラだが、その思考は驚く程に冷静だった。
今この場で仮面の男――ヤナギを倒し、全てを終わらせる。
そのことを強く意識したことで、彼は今まで余計な負荷で体を痛めない様に意識して抑えていた肉体の限界を解放した。
結果、アキラは追い詰められた極限状態では無くても再び自分以外の視界に映る世界が全てゆっくり見える境地へと至った。
冷静さを保てていたのは、視界に映る光景が体感的にゆっくり感じられることもあって、じっくり考える時間があったことも影響していた。
こうなれば後はこちらの独壇場だった。感覚を共有しているカイリューにアキラの認識や考え、そして判断が僅かなタイムラグも無く直に伝わるのだ。
共有しているカイリューの視界から自分がカイリューの立場であることを考えて、腕の動かし方や力加減がカイリューにも伝わったことでドラゴンポケモンは彼と同じ軽快で身軽に飛び跳ねるかの様に体を動かせた。
カイリューの右腕が復調したことも相俟って、全ての感覚を何の制限も掛けず、十全に扱える様になったアキラには闇雲に仕向けられた氷人形は壁程度の障害にしかならなかった。
最後に跳び上がる形で押し寄せる氷人形達を軽々と突破したアキラとカイリューは、仮面の男とラプラスの前に前屈みで荒々しく着地するや、すぐさま顔だけを持ち上げた彼らは射貫く様な鋭い目でそれぞれ目の前の敵を見据えた。
「倒れるのは、
屈ませた体を起こしながら、アキラは彼自身と別の誰かの声が重なった様な声で吠えた。
そして彼らは黄緑色に輝く鋭く大きな爪、鋭利な先端を剣に見立てた盾を側面から横薙ぎで、目の前に立つ仮面の男とラプラス目掛けてそれぞれ振るった。
アキラと仮面の男、どちらかが倒れるまで終わらない戦いを始める。
次回、歴代最大の戦いへ。