SPECIALな冒険記   作:冴龍

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最大の激突

 砕いた氷人形の欠片がまだ宙を舞っている間に、仮面の男とラプラスへと肉薄したアキラとカイリュー。

 ラプラスは信じられないとばかりの表情を浮かべていたが、すぐに状況を把握した仮面の男は真正面から対峙する。

 経験豊富な手練れでも、ここまで接近を許せば避けるどころか防ぐことも難しい状況であったが、彼らはそれぞれ咄嗟に動いた。

 

 ラプラスは回避不可能と判断するや長い首を引っ込ませる様に後ろに下げながら、体を捻らせて背中の硬い甲羅を前面に出すことでカイリューの鋭いエネルギーの鉤爪を火花を散らしながら流す様に防ぐ。

 仮面の男の方も、腕を持ち上げるとアキラが盾の細長い向きの鋭利な側面を剣の様に振るったのを深々と食い込ませながら防ぐと、食い込ませたまま根本から腕を即座に砕いてラプラスと共に滑る様に大きく後ろに下がる。

 

 その動きが読めていたアキラとカイリューだが、追撃を仕掛けようとしたタイミングでラプラスは”しろいきり”を周囲に放つ。

 感じ取った冷気に危機感を感じたアキラ達は動きを止めたが、瞬く間に視界が見えにくくなった直後、霧に紛れてデリバードがアキラに対して手に纏った鋭利な氷柱を振るう。

 

 死角から仕掛けられたが、危機察知能力と反射神経で即座に反応したアキラは右腕に付けた盾を空いている片手で支える様に構え、削れる音や氷の粉と欠片を散らばせながら鋭い氷柱を盾で受け流して防いでいく。

 ”しろいきり”が邪魔ではあったが、デリバードの動きや次に取るであろう行動はアキラの目から読めていた。

 彼の意識がプレゼントポケモンに向けられていた時、距離を取っていたラプラスが”れいとうビーム”を放った。

 

 青白い冷気の光線がアキラ達に迫ったが、それに対して今度はカイリューがドラゴンのエネルギーを纏った爪を振るう。

 すると、衝撃と共に放たれたドラゴンのエネルギーの余波で”れいとうビーム”は切り裂かれると同時にその軌道も変わる。

 

 エネルギーを纏っているとはいえ、直撃を免れられるだけ光線の軌道を変えられたことにゴールド達は驚くが、アキラとカイリューは力強く踏み締めて仮面の男とラプラスへと迫った。

 デリバードは自身を無視する彼らに追撃を仕掛けようとするが、それは出来なかった。

 

 シルバーが繰り出したニューラの鋭い鉤爪が襲って来たからだ。

 

「いけニューラ! オーダイル! リングマ!」

 

 プレゼントポケモンは機敏な動きで鋭い一閃を回避するが、シルバーは今が好機とばかりに全ての手持ちを出して、デリバードを仕留めようとした。

 オーダイルは”きりさく”、リングマは”ほのおのパンチ”をそれぞれ仕掛けるが、デリバードは迫るシルバーのポケモン達を邪魔だと言わんばかりに攻撃を避けては、小さな体からは想像出来ない膂力で蹴散らしていった。

 色違いの赤いギャラドスが放った”はかいこうせん”も躱すと、纏めて一掃するつもりなのか鋭利な氷の礫混じりの”ふぶき”を放った。

 

 ポケモンなら受けても手痛いダメージで済むが、人が受ければ全身が凍るどころかズタズタにされる容赦無い攻撃。

 思わずシルバーは身構えたが、遮る様に彼の前に二つの大柄な影が突如現れた。

 

 それはアキラが連れているエレブーとバンギラスだった。

 

 二匹は同時に”まもる”を大規模に展開することで、シルバー達を狙った猛烈な吹雪を阻止する。

 

 思わぬ乱入者が登場したが、不意を突く様に振り下ろされた骨――ブーバーの”ふといホネ”による一撃に咄嗟に気付くやデリバードは慌てて逃れた。

 

 気が付けば周囲ではポケモンリーグの会場から飛び出した彼らの後を追ったアキラのポケモン達が続々と到着しており、先程カイリューが斬り捨てたり粉砕したが再生するが故に殆どが健在である氷人形を相手に戦い始めていた。

 だけど彼らの戦い方は目の前の敵を倒すものでありながらも、別の目的が色濃く出ていた。

 

 アキラとカイリューの戦いの邪魔はさせない。

 

 デリバードと対峙するブーバーは、周囲の戦いに意識を向けることなくプレゼントポケモンに対して、突き付ける様に手にした”ふといホネ”を構えて全身から放つ戦意をぶつけた。

 その目は野心や更なる力を渇望こそしていたが、少しずつ離れていくアキラとカイリューの戦いには横槍をさせないという意思を滲ませていた。

 シルバーのオーダイルとニューラも戦いに備えていたが、ひふきポケモンの挑戦的な目に応えるかの様に、デリバードは両手により長く鋭利に洗練させた氷柱を纏わせてブーバーへと突っ込み、両者は壮絶な剣劇へと身を投じるのだった。

 

 

 

 

 

「ゴールド、仮面の男の相手はアキラさんに任せて観客の人達を避難させないと!」

 

 クリスは逃げ遅れた観客達の避難を促しながら、まだ茫然と立ち尽くすかの様に立っているゴールドに声を掛けた。

 周りではシルバーと自分達のポケモンだけでなく、アキラのポケモン達も仮面の男が生み出した氷人形達と戦っているのだ。このままではさっきみたいに人質にされたり、戦いに巻き込まれるのは必至。

 彼らが戦っている間に人々の避難を促さなければならなかった。

 

 だけどクリスの言葉こそ届いていたものの、ゴールドは仮面の男と壮絶な戦いを繰り広げるアキラとカイリューの姿に目を離せなかった。

 アキラのポケモン達と氷人形の軍団が互いに彼らの戦いの邪魔が入らない様にしていることもあったが、アキラ達が繰り広げる仮面の男との一騎打ちは壮絶なものだった。

 

 カイリューとラプラス。

 互いに伝説のポケモンであるルギアやホウオウよりもずっと体は小さいが、今の両者の戦いは最早伝説のポケモン同士が激突しているのでは無いかと錯覚してしまうまでに激しく、そして凄まじいものだった。

 

 桁違いな範囲と常識外れの威力を有するであろう冷気を操るラプラス。

 それらを文字通り圧倒的な力で尽く撥ね退けて正面から攻めるカイリュー。

 

 攻めていくカイリューに対してラプラスはあらゆる手段を駆使して、接近を防ぐと同時に距離を保とうとする。

 逆にカイリューの方は、ラプラスが仕掛ける攻撃や妨害を片っ端から蹴散らして距離を詰めようとする。

 空気が冷えているからなのか、彼らが吐く息は白くなっていたが、まるで漫画に出てくる強大な存在を彷彿させる姿だった。

 

 本気だった。

 正真正銘、全ての力を引き出したアキラ達だ。

 伝説さえ倒す程の強大過ぎる力を闇雲に振るうのではなく、巧みに彼らは使いこなしていた。

 

 カイリューはともかく、雄叫びを上げるなど普段の彼の姿から想像出来ないまでに荒々しい姿をアキラは見せていた。だが、だからと言って怒りや憎悪と言った負の感情や高ぶった感情を力任せにぶつけていなかった。

 来たる戦いの為に鍛え、研ぎ澄まされた牙――言うなれば洗練された闘志や殺意にも似た気迫を彼らは剥き出しに放っていた。

 

 もう、アキラがカイリューと同じ動きをしているのが変だと言う気にはなれなかった。

 単にカイリューと並ぶだけでなく、共に同じ戦いの場に立ち、時には互いに背中を預けて共に戦っている様にしか見えないからだ。

 

 そんな凄まじい気迫を放つアキラに対して、仮面の男の方は防戦一方まではいかなくても常に下がりながら距離を保ち続けていた。

 あれだけ強気だった仮面の男が、まさかの逃げ寄りの姿勢。卑怯者と言いたくなるが、そんなことは相手もわかっているだろうし、癪ではあるがその判断は賢明と言わざるを得なかった。

 

 今のアキラ達に距離を詰められたら、それこそ敗北は確定と言っても過言では無いくらい彼らには勢いがあった。

 この場に駆け付けたのだから彼らが伝説のポケモン――ルギアを倒したことは察せるが、今のアキラ達の姿を見れば、体格で大きく勝るルギアやホウオウが相手であっても倒すことに全く違和感が無かった。

 

 そんな彼らを見ていたら、フとゴールドは以前タンバジムで修業しているアキラの元を訪れた時に見た奇妙な夢を思い出した。

 世紀末風の超人になったアキラが同じく超人みたいな肉体を露わにした仮面の男と激闘を繰り広げるというふざけた夢だったが、あの時みたいにアキラ自身がオーラを纏うどころかカイリューみたいになったとしても、違和感は全く感じられなかった。

 

 ”いかりのみずうみ”でも、彼は仮面の男を相手にこんな戦いを繰り広げたのかと、眺めながらゴールドは思ったが、すっかり自分達は蚊帳の外と思われた想像を超えた戦いは思わぬ形で彼らを巻き込んだ。

 

「クリス危ねぇ!!」

 

 思わずゴールドは切羽詰まった声を上げて、彼女に警告した。

 何故なら、アキラとカイリューの激しい猛攻から逃れる様に仮面の男とラプラスが大きく退いた先は、観客達の避難誘導をしていたクリスのすぐ傍だったからだ。

 こんな状況だ。アキラも仮面の男も、お互いに勝つ為になりふり構っていられなかった。

 それはポケモン同士だけでなく、互いのトレーナーさえもサポートどころか加勢している様な激戦からも明白だ。

 

 ゴールドの警告でクリスは状況を悟るも、仮面の男もまたすぐ近くにクリスがいることに気付くと、その手を伸ばした。

 何を狙っているのか悟ったクリスは、避難を促していたと思われる子どもを庇う様にしながらも何とか逃れようと咄嗟に体を動かした。

 

 ゴールドだけでなく戦っていたシルバーも彼女を助けるべく動いていたが、反応するのが遅かったのや仮面の男の方が動きが速かった。

 そして仮面の男の冷たい魔の手が届こうとした時、塗装が所々剥がれてきている紺色の盾が残像で見える速さで飛来、伸ばされた仮面の男の腕にぶつけられたことで大きくズレたその手はクリスを掴むことなく見当違いな空を掴んだ。

 

「ッ! チィ!」

 

 直後、ラプラスが放った”ふぶき”を”つのドリル”の規模を大きくさせてある種のバリアー的な活用法で防ぐと同時に強行突破したカイリューが、凄まじい怒りの声を上げながら仮面の男とラプラスに両手に纏ったエネルギーで形成した竜の鉤爪を前面に出して襲ってきたことで、彼らは再び回避を余儀なくされた。

 

 飛び掛かったカイリューだが、すぐに追撃は仕掛けずに足を止めて仮面の男とラプラスの動向を伺い、直後にアキラも飛び込む様な動きで駆け付けるや先程投げ付けた盾を体を前転させながら拾うと、すぐさま腕に装着した。

 

 それから彼とカイリューは後ろにいるゴールド達には目もくれず、腰を落として構えながら仮面の男達の動きを一挙手一投足で見逃さない様にしていた。

 

「クリス、大丈夫か」

「えぇ…何とか…」

 

 クリスの安否をゴールドは確認するが、彼らはこの現状に少し自責の念を感じていた。

 荒っぽくもアキラ達が自分達を背に隠す様に立ち回っているのは、守る為であることが容易に察せたからだ

 普段の彼なら安否確認や気に掛ける言葉の一つや二つは掛けてくれるが、余裕の無い状況なのや今の彼はカイリューの様に荒っぽくなっているので、ゴールドは怒られることを覚悟していた。

 

「――ゴールド、クリス、何時でも戦える様に備えておくんだ」

 

 だが予想に反して、アキラは普段の彼と変わらない声色と調子でゴールド達に戦う準備をすることを告げるだけだった。

 ”備える”とはどういうことだ、自分達も加勢した方が良いと言うことなのか、とゴールドは思ったが、アキラは顔を向ける事なく言葉を続けた。

 

()()()()()()()()()()()()

 

 今度は彼であって彼では無い声で言い残すと再び彼らは、仮面の男とラプラスとの戦いへと身を投じた。

 そんな彼らの姿をゴールドとクリスは見届けるが、呆然と立ち尽くすことはせずに彼が言い残した言葉について考えながら、今自分に出来る事をするべく動くのだった。

 

 

 

 

 

「だあああぁぁああぁぁっ!!!」

 

 アキラが右腕に付けた盾を剣の様に振るうと、その動きをなぞる様にカイリューも黄緑色に輝く巨大な爪を振るい、ラプラスとの間に現れた氷の壁を裂く様に削る。

 強固な氷の壁ではあったがたった一撃でそれなので、何回も滅多切りにされて氷の壁は砕ける様に破られる。

 

 だが壁を突破されるまでの間に距離を取っていたラプラスは、自らの周囲に先が鋭く尖った大量の氷柱の様なものを瞬時に生み出すと、それらをカイリューとアキラ目掛けて飛ばしていく。

 カイリューは避けながら、どうしても避け切れないのは腕を振るうことで弾いたり砕いて行く。ドラゴンポケモンのすぐ傍にいるアキラは、可変式なのを活かして盾の向きを守りに適したのに即座に変えるや体を屈めながら構えて、飛んでくる氷柱を防ぎながら耐えていく。

 如何に人間離れした力を持つとはいえ、アキラは人間だ。当たりどころが悪ければ、体に深く突き刺さる致命傷になってもおかしくない。

 

 足を止めてまで飛んでくる氷柱に耐えるアキラの姿を見て、カイリューも無意識に彼を守れる様な位置に移動する。

 だが何時までも防ぎ続ける訳にもいかなかったので、ドラゴンポケモンは咄嗟に”りゅうのいかり”を放って回避を強制させることでラプラスの動きを乱す。

 そんな僅か隙に、カイリューは土が巻き上がる程の力で地を踏み締めてなみのりポケモンに接近する。

 

 そこに仮面の男がラプラスを守る様に割り込むが、仮面の男の体の秘密を知っているカイリューは構わず固形化した巨大なエネルギーの爪を振るう。

 しかし、目の前に楕円形の様な氷の盾が瞬時に両者の間に現れて、カイリューの攻撃は削れた氷の欠片と竜のエネルギーの光が火花の様に飛び散るだけで終わる。

 

 防がれたのを認識するやカイリューは即座に攻撃方法を変更。空振りで終わった攻撃の勢いを利用して、アキラの動きに沿って片足を軸に回し蹴りの要領で太い尾での”たたきつける”を叩き込んで氷の盾に大きな凹みとヒビを入れると、両手に纏った鉤爪をパンチの様に突き立てて砕く。

 その時点で仮面の男とラプラスは再び離れていたのや多用していたことで”げきりん”のエネルギーが鉤爪の形を保てなくなって解かれたが、すぐさま彼らは次の手に切り換える。

 

「ふぅー…」

 

 アキラが集中する様に目を閉じながら両手を力強く握り締め、カイリューも倣う様に万力の力で両手を握り締め始める。すると、徐々にドラゴンポケモンの手と腕が金属の様に鉛色に染まり始めた。

 そして鉛色に染まった両腕に”げきりん”のオーラが弱々しいながらも纏わった瞬間、アキラは目を勢い良く開けた。

 

「…おらぁぁあぁぁーーッ!!!」

 

 雄叫びを上げながら、アキラは次々と腕を前へと繰り出し、カイリューもその動きをなぞっていくことで目の前にある氷の壁をまるで金属で殴り付ける様な音と共に砕いていく。

 

 今彼らは、体の一部である尾を金属の様に変化させて攻撃する”アイアンテール”を応用して両腕を硬質化させていた。

 覚えて間もない上に複数の技の同時発動や通常とは異なる箇所を硬質化させるのは、意識の仕方の問題もあって相応に時間を掛けて鍛錬しなければ実現するのは困難だ。

 だけど今のカイリューはアキラと思考を共有すると同時に分散させていることで、本来なら無意識に出来るまでに反復練習を積む必要がある過程を省略して今だけ実現させていた。

 見た目では爪の方が派手だったが、分厚い氷の壁が相手なら物理的な破壊力は今の状態の方が上らしく、彼らは氷の盾や氷壁などをその拳で次々と粉砕していった。

 

 形勢は一方的に、アキラ達の方が仮面の男達を攻め立てていた。

 

 しかし、アキラの表情は優位とは思えないまでに優れていなかった。

 後退する形で常に自分との距離を保ち続ける仮面の男とその手持ちであるラプラスに中々攻撃を叩き込めないこともあったが、周囲に広がる冷気の影響で徐々に体が動きにくくなっていたからだ。

 

 カイリューはフスベシティで読んだ書物にあった技術である感情を高ぶらせることで”げきりん”には程遠いが全身から微弱なエネルギーを発することで冷たい空気程度は遮断しているつもりではあったが、人間の体であるアキラにはそういう手段は無かったので思わぬ消耗を強いられる一方であった。

 加えて、”しろいきり”を展開することでアキラの最大の武器である驚異的な動体視力を視界事しつこく封じようとして来るのも彼らには面倒な要素だった。

 だが、それら以上に厄介な懸念が彼らにはあった。

 

「気分は良いか? 答える余裕は…無いか」

 

 仮面の男からの問い掛けに、アキラ達は更に力を入れて攻めた。

 挑発の意図があるだろうとは思っているが、それとは別の事にアキラとカイリューは気付いていた。

 防戦一方の様に後ろ下がりながらも接近を許さず守り続ける彼らの動きは、()()()()()()()()()()()()

 

 仮面の男は――ヤナギは今自分達が使っているこの感覚、力を知っている。

 

 そうでなければ、これまでの奴らの戦いぶりを考えれば、ここまで直接戦闘を避けて露骨な時間稼ぎみたいな動きはしない。

 ラプラスはその体格故に、機動力が優れているとは言えないポケモンだ。にも関わらず、地面に氷を張って体を滑らせるなど積極的にカイリューから距離を取るべく常に動き続けていることからも、まともに戦うつもりが無いのが伺える。

 相手がどこまで把握しているかは知らないが、確かに今の状態になったアキラ達は接近戦ではスイクンだけでなく、ワタルのカイリューさえ片腕だけでも圧倒出来る力を発揮出来る。

 

 徹底的に接近戦は避けて、仕掛ける攻撃も特殊攻撃などの遠距離技が中心。

 

 時間こそ掛かるが、それが無駄な消耗を避けて確実な勝利を手にする彼らの必勝策なのだろう。

 

 勿論、アキラ達はそれを許すつもりは無かった。

 目まぐるしい攻防を繰り広げていく内に、彼らはさっき飛び出したポケモンリーグ会場へ戻りつつあった。

 中ではまだ残された氷人形とカスミ達がスイクン達と共に戦っている喧騒が聞こえていたが、このまま壁際に追い詰めるかまだ戦っている彼女達の元まで後退させれば、仮面の男としてはかなり嫌な筈だ。

 

 そう考えながら、アキラは会場内へ仮面の男を追い立てていたのと同じ時、仮面の男は彼の苛烈な猛攻を巧みに捌きながら戦い方や傾向を冷静に分析していた。

 

 結論から言えば、今のアキラ達は非常に危険だ。

 

 さっきまで伝説を相手に連戦を重ね、消耗しても尚この強さ。

 万全だったら、後先考えない本気を出した状態で挑んだとしても確実に痛手は免れない。脅威度で言えば、今のアキラ達の方が伝説のポケモンであるルギアやホウオウを凌いでいる。

 切り札であるカイリューの動きや反応速度、判断力が先程見た時とは何もかもが異なっているのには、隣に立つトレーナーであるアキラが関係していることは既に察している。

 しかし、単にトレーナーを潰したとしても戦っているカイリューは行動不能にはならない。第一、その程度の不測の事態で簡単に止まる様な相手ではない。

 

 だがシジマの元で修業していた関係故か、攻撃手段は肉体動作を伴うものが多い。

 ならば絶え間なく凍える様な寒さに晒せば、直接ダメージは薄くても、効果的に彼らの動きを鈍らせることが出来る。

 

 そして脅威の一つである彼のずば抜けた先読みが可能な動体視力にも手を打っていた。

 さっきからラプラスが頻繁に”しろいきり”を放っているのは、確かに彼の視界を遮ったり惑わしたりする意図はあるが、それだけでは効果が薄い。そこで仮面の男とラプラスは”しろいきり”に少し手を加えていた。

 ”いかりのみずうみ”での戦いでは、目の様子を頻繁に気にする素振りを見せていたので、アキラは目に支障が出る事態を嫌っていることは推測出来た。

 なので彼らは、ある程度の冷気を込めた”しろいきり”を放っていた。

 髪の毛に霜が降りる程度の冷気でも眼球には致命的だ。その程度なら仮面の男達は息を吸うくらい簡単なことだ。

 

 アキラがこの戦いの為に様々な対策や準備をしてきた様に、仮面の男もまた彼と再び直接対決することを想定して、可能な限り相手が本領を発揮出来ない様にあらゆる手段を打っていた。

 尤も、今の彼らの戦い方は()()()()()()()()()()()()()()を理解しているが故に出来るやり方ではあったが、仮面の男としてはこれ以上の消耗や余計なダメージを避けたいのも本音であった。

 

 だが仮面の男が考えている()()()()()()()()()()()()は、アキラ達もわかっていた。

 その為か何度目かの氷柱を撃ち出す攻撃に対して、彼らは少し無理をしてでもラプラスと仮面の男との距離を詰めようとしていた。

 カイリューだけでなく、アキラ自身も守る面積が広い向きに切り替えて盾を構えたまま槍の様に飛んでくる無数の氷柱の中を突き進んだ。

 

 致命的なのは防いではいたが、流石に防ぎ切れないものもあった。

 その防ぎ切れなかった氷柱で腕や足の一部が服ごと裂けたり、被っていた帽子さえも吹き飛んでは裂けた側頭部からは血が流れ出す。

 

 しかし、それでもアキラは怯まない。

 

 体の至る箇所から血を流しながらも鬼気迫る彼らに仮面の男は思わず目を瞠ったが、接近するやドラゴンポケモンから拳では無くて強靭な腕から振るわれる手刀がラプラスへと迫る。

 

「させん!!」

 

 躱そうにも避け切れそうになかったその攻撃を、仮面の男が再び両者の間に割り込んで腕を盾代わりにしつつもう片方の腕で支えながら防いだ。

 アキラとカイリューが止めることなく攻撃を続行していることからもわかるが、()()などの致命的な箇所への攻撃で無ければ、幾らこの体が攻撃を受けようと問題は無いからだ。

 それでもカイリューの膂力が凄まじく、逸らしながらも盾にした腕を砕かれた勢いで仮面の男の体は一切の手加減無く地面に叩き付けられた。

 

 だけどラプラスが免れるだけの時間を稼げたのと、突然の行動でアキラ達の体が硬直したことでの隙が生まれた。

 体を横に滑らせる形で移動したラプラスは、頭部にある突起に青白い光を灯すと、瞬く間に青白い輝きを放つ”つのドリル”を纏わせた。

 まともに当たれば一撃必殺と称される威力を誇る技が、カイリューを突き刺そうとした。

 

 だが、今のカイリューは普通ではない。

 普段以上の反射神経のみならず、アキラ経由で感じられる目に映る世界がゆっくり見える感覚も相俟って、自らに迫る危機を認識した瞬間、即座に回避の為に動く。

 それでも十分ではあったが、更に万全を期すのと反撃の時間を稼ぐ意図で先程の仮面の男の様にアキラも両者の間に割り込み、ラプラスの”つのドリル”を右腕に付けた盾で防ぐ。

 当然真正面から防ぐつもりはなく、巧みにドリルの側面に盾の面をぶつけることで上手く逸らしていくが、それでも込められたエネルギーによる激しい火花や勢いに対して全力で力を入れた両腕で盾を支えながら流していく。

 

 そしてカイリューも頭の角に、黄緑色のエネルギーを纏わせて螺旋回転させた”つのドリル”を発動していた。

 今ラプラスは全身を横にズラされたことで無防備な姿を晒していた。

 絶好の好機とばかりにドラゴンポケモンは前へ踏み出そうとしたが、何故か片足は動かなかった。

 

 足に目を向けると、倒れていた仮面の男がまだ無事な方の腕を伸ばしてカイリューの足を掴んでいたのだ。

 極限状況での死角からの咄嗟の妨害に、すぐカイリューは仮面の男を遠くへ飛ばす形で振り払うも一歩踏み出すだけの時間を無駄にされたことで、ラプラスは体勢を立て直して再び”つのドリル”を向けて突撃してきた。

 すぐさまドラゴンポケモンは体をラプラスに向けるが、離れたところまで飛ばした筈の仮面の男が立ち上がり、背後から飛び掛かってきたことを察知した。

 

 挟み撃ちの懸念がカイリューの頭に浮かんだ瞬間、思考を共有していたアキラが即座に動く。

 再生しながら振り被った仮面の男の氷の拳とアキラが突き出した盾の面が激突し、ほぼ同時に剣の様に振るわれたカイリューとラプラス、両者の青白い”つのドリル”と黄緑色の”つのドリル”も正面からぶつかり合った。

 

「「おぉおおおおお!!!」」

 

 両者共に一歩も譲らず、拳と盾は力の限り押し合い、すぐ傍では二匹の竜が押し切ろうと首を動かしつつ激しく螺旋回転する”つのドリル”は絶え間なく削り合う音と共にエネルギーの火花を散らせて鍔競り合った。

 その気迫は互いに、何が何でも目の前にいる敵を倒す。その一心であった。




アキラとカイリュー、仮面の男とラプラスを相手に壮絶な激戦を繰り広げる。

次回、激戦が続く中、思ってもいなかったことをアキラ達は知ります。
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