SPECIALな冒険記   作:冴龍

162 / 172
積み重ねた想い

 アキラ達と仮面の男達との戦いが最終局面を迎える少し前、ブーバーとデリバードの一騎打ちが一足早く佳境を迎えていた。

 

 互いに体と同じ色の軌跡しか見えない速度で駆けながら、手にした得物や両手に纏った氷の刃をすれ違い際にぶつけ合っていたが、戦いながら彼らもまるで惹かれる様にポケモンリーグ会場へと戻りつつあった。

 と言うのも、デリバード含めて仮面の男が出した氷人形が彼らの加勢に向かう様な動きをするので、ブーバーは他の手持ち達共々追跡するしか無かった。

 

 ”めざめるパワー”と同時に”かみなりパンチ”使用時に発生する電気タイプのエネルギーを利用した肉体を活性化させる応用は、”こうそくいどう”の様に素早さを向上させて雷速を彷彿させる程の俊敏な動きを実現出来るが、時間制限付きだ。

 万全の状態で使用しても、今は三十秒くらいしかまともな効果は維持出来ない。無理をして伸ばすことは出来るが、どの道一定時間を過ぎたら強制的に効力を失うどころか逆に全身が硬直してしまうかの様に動きが鈍くなってしまうデメリットがある。

 しかも、一度使い始めたら途中中断も出来ない。

 

 絶大な力と引き換えに使い勝手が悪く、短期決戦向けではあったが短い時間でも相手を少しでも上回るとしたらブーバーが取れる選択肢はこれしか無かった。

 攻防の末に維持出来る時間も残り僅か、そうなればひふきポケモンがデリバードを止めることは出来ない。それどころか無防備な姿を晒してしまう為、成す術もなくやられてしまう。

 

 他の仲間達も氷人形の相手に手一杯で加勢は見込めない。

 けど――

 

 周囲を見渡し、そこまで考えたブーバーは勝負に出た。

 

 何の小細工も無い鍛え抜かれた純粋な力で今の己と互角のスピードを出すデリバードの動きを読み、予測した先へブーバーは”ホネブーメラン”を意識して”ふといホネ”を投擲する。

 だが如何に動きを読んでも、移動速度よりも遅い”ホネブーメラン”では効果は薄く、呆気なく”ふといホネ”は弾かれる。それどころか手にした武器をブーバーは失ったと見たデリバードが勝負を決めるべく突貫した。

 

 ブーバーも即座に無手で構えるが、得物の有無でのリード差があった。

 しかし、ひふきポケモンはその事も承知の上だった。

 

 一発逆転に懸けているのは確かだが、何も考えていない訳では無かった。

 残された動ける時間、五感全てを突撃してくるデリバードに対して向けていた時、真っ直ぐ突っ込むデリバードに複数の影が立ち塞がった。

 

 それはシルバーが連れているポケモン達だった。

 

 ここまでロクにブーバーとデリバードが繰り広げる戦いに加勢することが出来ていなかったシルバーと彼の手持ち達であったが、ひふきポケモンの動きが止まったこととその様子から仕掛けるならここだとシルバーが判断したからだ。

 

 単に数で押せばデリバードを追い詰められる訳で無いことは、既に彼らにはわかり切っていた。

 ならば一体どうすれば良いのか。

 その答え、そして最適な教材を彼らは見出していた。

 

 ニューラが見た目通りの素早い動きで横からデリバードに接近するのに合わせて、反対側からもヤミカラスが詰める様に迫る。

 当然気付いたデリバードは挟み撃ちを目論んでいると思われる二匹を一蹴しようとするが、その直前にキングドラが大量の”えんまく”を筒状の口から放った。

 

 瞬く間に周囲は黒い煙幕で覆われるも、デリバードは動揺することなく宙で急停止するやすぐさま”ふぶき”を放ち、煙幕だけでなく攻撃しようとしていたニューラやヤミカラスを吹き飛ばそうとした。

 

 ところが吹き荒れる冷気によって煙幕が晴れた視界では、さっきまで何かを仕掛けようと接近していた筈のニューラとヤミカラスの姿は何処にもいなかった。

 姿を消した二匹の行方がデリバードには気になったが、直後にキングドラが放った”みずでっぽう”の鋭い放出が目前にまで迫っており、それ以上考える余裕は無かった。

 ギリギリで躱すも、遅れて赤いギャラドスが口を大きく開けているのを目にしていたことから続けて体を横に動かそうとした時だった。

 

 煙幕を吹き飛ばしてから姿が見えなくなっていたニューラとヤミカラスの二匹が、まるで取り押さえる様にデリバードにしがみ付いたのだ。

 

 二匹の予想外な行動にプレゼントポケモンは焦った。

 どう考えても今のタイミングに自分に近付けば、これからのギャラドスの攻撃に巻き込まれる可能性があるからだ。

 だから今にも攻撃しようとしているギャラドスのことばかり意識していたが、二匹はそんなデリバードの意識の空白が産まれる隙を見事に突いていた。

 

 そしてしがみ付いた二匹はデリバードの懸念通り、自分達がギャラドスの攻撃に巻き込まれることはわかっていたが、それは覚悟の上だった。

 今の自分達では、デリバードを相手にまともに戦うことは出来ない。だけど、それは個々に挑んだ場合であって、皆で力を合わせれば強大な敵であっても勝つことは出来る。彼らの行動はその為の一手であった。

 

「すまない。ニューラ、ヤミカラス」

 

 この判断をしたシルバーも、この戦い――自身の運命に決着を付ける為に必要なこととはいえ、手持ち――特に付き合いの長い二匹に苦しくも痛い思いをさせることになるこの一手を実行するか否かを判断するのには寸前まで迷った。

 けど、彼の苦悩を長年間近で見て来たニューラとヤミカラスの二匹だけでなく他の手持ちもシルバーを信頼し、彼に”勝つ為に必要な決断と指示”を自分達に下す様に促した。

 

 二匹がしがみ付いたことで生まれた数秒。

 僅かな時間ではあるが、この状況でデリバードがそれだけの時間、身動きを封じられるのはとてつもなく重かった。

 

 そのままデリバードはしがみ付く二匹を振り払うことが出来ないまま、色違いの赤いギャラドスが放った”りゅうのいぶき”が三匹を呑み込んだ。

 遂にシルバーのポケモンが放った技の直撃を受けてしまったデリバードだが、吹き飛ばされながらニューラとヤミカラスを振り払い、放たれた息吹から飛び出した。

 ダメージは思ったよりも少なかったが、ダメージ以上に自身の動きに違和感を感じていた。

 

 体が痺れる。

 

 悔しそうな表情を浮かべ、何が起こったのかデリバードは既に察していた。

 

 ”りゅうのいぶき”が持つ、受けた相手を麻痺させる影響を諸に受けてしまった。

 

「リングマ、”ほのおのパンチ”!!!」

 

 ただの回復では如何にもならない状態異常にさせられたことで、デリバードの挙動が一転して鈍くなったのを見逃さなかったシルバーの鋭い指示が飛び、応えたリングマが相性の良い”ほのおのパンチ”を仕掛けた。

 デリバードはぎこちない動きながらもリングマが放った炎を纏った拳を正面から防ぐと、小さい体から想像出来ない膂力を発揮してリングマを返り討ちにした。

 

 しかし、その直後に見計らっていたかの様にオーダイルが巨体に似合わない俊敏な動きで、デリバードとの距離を詰めていた。

 ここまで流れる様なシルバーの手持ち達のスムーズな動きに、流石のデリバードも動きが鈍っていたことも相俟って苦々しい表情に顔を歪めた。

 薄々デリバードも感じていたが、実は最後はオーダイルが決めるとシルバーは決めていた。

 

 オーダイル以外のシルバーのポケモン達の動き全ては、この為の誘導と時間稼ぎであった。

 

 シルバーが手持ちに連携を意識した動きをこの土壇場でさせたのは、先程伝説のポケモン達を打ち負かしたアキラのポケモン達がやっていた手持ち同士の連携プレーをシルバーなりに意識したものだった。

 しっかり準備と練習を重ねていたアキラの手持ちの様に上手くは出来なかったが、それでも急造の連携ながら最も求めていた結果をシルバーは手持ち達と共に見事に手繰り寄せた。

 

「”おんがえし”!!!」

 

 力の籠ったシルバーの命にオーダイルは応えた。

 それもただ指示された技を実行するだけでは無かった。

 ウツギ博士の研究所から連れ出した自身をここまで育ててくれたシルバーへの恩や感謝、それらの想いを込めた最大の一撃をデリバードに叩き込んだ。

 凄まじい膂力から繰り出されたおおあごポケモンの攻撃は、一瞬だけとはいえデリバードの意識を体ごと飛ばした。

 

 無防備な状態で攻撃を受け、物凄い勢いでデリバードは吹き飛んだが、シルバー達が放った強烈な一撃を受けながらも意識はまだ保てていた。

 しかし、最も恐ろしいこと――自身が致命的な隙を晒してしまっていることに遅れて気付いた。

 

 吹き飛ぶデリバードとは真逆の方向から、残された力の全てを足腰に注ぎ、固いコンクリートのフィールドが砕ける程の力で踏み込んだブーバーが、瞬間移動をした様な速さでプレゼントポケモン目掛けて飛び込んだからだ。

 

 シルバー達の作戦が上手く行った直後のひふきポケモンの行動。

 まるで示し合わせた様に見えるが、そんなことは無いのと何ならブーバーはシルバーと彼のポケモン達がやってくれると信じていた訳でも無かった。

 

 もしあのまま突っ込まれても一発逆転のカウンター攻撃で仕留めると言う目論見はあったので、作戦を修正しただけだ。

 不俱戴天の敵であるワタルと関係があることは許せないが、仕留めやすくしてくれたことにはブーバーは素直に彼のことを評価するのと同時に少しだけ見直していた。

 

 気付いたプレゼントポケモンは可能な限り体を捻らせて回避を試みたが、勢いそのままに放たれた”メガトンパンチ”から逃れることは出来なかった。

 腹部に捻じ込まれた拳がブーバー自身の力と弾丸の様なスピードで突っ込んだ勢いが相乗効果を生み、デリバードは意識が飛んだかの様に白目を剥いて吹き飛び、その先にあった瓦礫の山と化しているポケモンリーグ会場の観客席へと轟音に土埃を上げて叩き付けられるのだった。

 

 そしてブーバーは、デリバードを叩き付けたのを見届けると肉体活性が有効な制限時間を過ぎたことで体が思う様に動かなくなるのを感じながら、腕を高々と上げてサムズアップをしながら仰向けに倒れるのだった。

 

「サムズアップって…もう少し別の応え方があっただろう」

 

 倒れるまでブーバーがしていたサムズアップが自分に向けられたものなのにシルバーは気付いていたが、正直言って他に良いハンドサインは無かったのかと思った。

 だが、デリバードを撃破したからと言って戦いが終わった訳では無かった。

 

 周囲ではアキラのポケモン達と際限無く再生する氷人形達の終わりが見えない戦いが未だ続いていたからだ。

 自分が先走っていたこともあったが、観客達の避難を終えたと思われるクリスやゴールドも遅れて駆け付けてきたので、今度はアキラのポケモン達への加勢を考えた時、ポケモンリーグの会場がある建物から大きな鈍い音が何度も響くのが聞こえた。

 

「シルバー、アキラの加勢に向かうぞ」

「…そうだな」

 

 ゴールドの言葉に、シルバーも同意した。

 ここで相手にするよりも氷人形達を無力化するには、操っているであろう仮面の男を止めるのが一番だ。

 先程の規模の戦いでは、本当に力になれないどころか枯葉が吹き飛ぶ様に片付けられる可能性もあったが、困難であったとしても上手くいけばこの戦いを一早く終わらせられる。

 

 そして三人は、手持ち達と共に半壊しているポケモンリーグの会場がある建物内を再び走る。

 走っている内に大きな鈍い音と悲鳴が何度も響くのが聞こえたが、それが敵なのか、味方なのかわからなかった。しかし、先頭を走るゴールドは足を速めていた。

 

 その頭の中では、シルバーやクリスに言われた様にいざ自分が戦うとしたらどうしたら良いのか必死に考えていた。

 この調子なら、一見すると加勢が困難なアキラと仮面の男との直接対決でも何か出来るかもしれない。

 

 様々な出来るかもしれないことを考えながら、彼ら三人がポケモンリーグのバトルコートや観客席を備えた屋内へ出た瞬間、眩い黄緑色の光と耳を塞ぎたくなる程の爆音を目にした。

 

 

 

 

 

 土埃や粉塵が舞う中、振り下ろした腕を痙攣させるかの様に震わせながら、アキラは苦しそうに呼吸を荒げて大粒の汗を顔中から流していた。

 カイリューの体であることを強く意識して、共に渾身の力を込めた決死の一撃。

 万全とは言い難いが、それでも今の極限状態でも可能な限りの力を込めて放った技であった。

 

 仮面の男が――ヤナギが完全に止まるまでは戦い続けたいが、カイリューはともかくアキラの体はこれ以上は限界であった。

 まだウリムーが健在ではあると思われるが、ラプラスとの戦いの最中に目立った妨害が無かったことから弱っていると考えれば、最高戦力と思われるラプラスを仕留めたことは――

 

「!?」

 

 猛烈な頭痛を含めたあらゆる苦しみを堪えながら、カイリューとの一心同体の感覚を維持していたアキラはカイリューが感じた感覚を介して違和感に気付く。

 振り下ろしたカイリューの拳が、意思に反して少しずつ押し退けられているのだ。

 

 まだ土埃や粉塵は周囲に広がっていたが、それを見下ろしているカイリューの目はハッキリとその原因を捉えていた。

 

「まだ…意識があるのか…」

 

 信じられない声色でアキラは思わず言葉を漏らす。

 頭部に叩き込まれたカイリューの拳を受けながらも、ラプラスは意識を失うことなく()()()()()目付きで耐えていたのだ。

 

 最後の瞬間、ラプラスは”れいとうビーム”を放とうとしていた。

 だからこそアキラ達は先手を打ち、”攻撃する瞬間”と言う無防備な時に出せる限りの力で最大の攻撃を仕掛けた。

 

 手応えは、しっかりと感じた。

 何なら拳を押し付けているラプラスの感触すらしっかり捉えていた。

 

 にも関わらず、ラプラスは耐えた。

 

 有り得ない。

 

 そしてアキラよりは格段にマシとはいえ、カイリューもかなり消耗していた。

 揃って全てを終わらせるつもりで攻撃を仕掛けたのだ。耐え切られる可能性は完全に頭には浮かべていなかったので、すぐに退くなり行動を起こそうにも体は思う様に動いてくれなかった。

 体が疲弊していたこともあったが、これまでずっと止まることなく体を動かし続けてきたことで振り払ったり意識しない様にしていたラプラスの”しろいきり”や仮面の男が周囲に広げていた冷気の影響が、ここに来て動きを止めてしまった彼らに重くのしかかっていた。

 

 そもそもアキラとカイリューのどちらの視点、判断でもあの状況と状態のラプラスが耐えるビジョンは浮かんでいなかった。

 一時的なブーストや勢いがあったとはいえ、渡り合えたのだから全く及ばない力不足という訳では無い。ならば一体どこでその差が生じたのか。

 

 冷静であるか気持ち的に余裕があれば、何故ラプラスがギリギリで踏ん張っているかの理由を恐らくアキラは考えることは出来た。

 しかし、一心同体の感覚を維持し続けたことで体内が人間の身では負荷が大き過ぎるカイリューに近い状態になりつつあり、その反動と苦しみで今の彼にはどちらも欠けていた。

 加えて、止めの一撃として放ったにも関わらず耐えられたことも彼の焦りに拍車を掛けていた。

 

 まともに思考が出来ない頭でも状況を正確に把握しようとする中、離れたところで終盤を迎えた彼らの戦いをスイクン達と共に氷人形達の相手をしながら合間を縫って窺っていたジムリーダー達も驚いていた。

 

 ラプラスがカイリューの一撃を耐えた。

 

 間違いなくアキラ達の最後の攻撃は、決まればラプラスを倒せるものだった。

 あれだけの大技を弱っていたにも関わらず、耐え切ったことは信じ難かった。

 

 しかし、三人の中でカツラは冷静に知識を漁る中で、そんな不可能を可能にする方法が確かに存在することを思い出した。

 だけど、一瞬とも言える僅かな時間で”攻撃”から”耐える”に切り替えた咄嗟の判断。

 信じられないことであったが、それを実現して見せたのは仮面の男の正体がヤナギであることを考えれば、不可能と思えることを可能にしても不思議ではない可能性はあった。

 

 アキラはすぐにはわからなかったが、()()()であったカツラだけはすぐに気付いた。

 

 追い込まれた極限状態でもラプラスの咄嗟の判断と僅かな力の絞り出しを可能にしたもの。

 

 それは仮面の男――ヤナギ達にはあって、アキラ達には無いもの。

 

 数十年間の経験。

 

 

 

 彼が素顔を仮面の下に隠し、友情を始めとした全てを投げ打ってでも叶えたい望みの為に費やし、積み重ねて来た月日の差。

 

 

 

「オオオオォォォオオオオッ!!!」

 

 仮面の男の空気が震える程の雄叫びに呼応するかの様に、ラプラスの眼に一際強い光が宿った瞬間、なみのりポケモンもまた口内に並んでいる小さな牙が見える程に口を大きく開けて吠える。

 残された気力を振り絞り、頭を勢い良く持ち上げ、叩き込まれていたカイリューの右腕を押し退ける膂力を発揮する。

 攻撃に全てを費やしていたカイリューは、その勢いで体が倒れそうな程に後ろに後退してしまうだけでなく、何一つ守りの動きが出来ない無防備な姿を晒してしまう。

 

 その隙をラプラスが見逃す筈も無く、なみのりポケモンは真っ直ぐ見据えたカイリューに対して荒々しく雄叫びを上げながら大きな体を捻らせて、背中の甲羅を強調させつつも全身を使った体当たりを繰り出した。

 激突の瞬間、生身の肉体同士がぶつかるには重く生々しい音が響き、ドラゴンポケモンは大きく目を瞠り、声よりも息を吐き出すかの様に口を大きく開けてしまった。

 

「このっ! 力…は!?」

 

 カイリューを通じた感覚から、アキラもラプラスの攻撃の威力に衝撃を受ける。

 普通に考えれば技名でも何でもない力任せな体当たり。強いて技名を付ければ”かいりき”と言える様なラプラスの攻撃であったが、アキラはそんなものではないことをすぐに悟った。

 

 何故ならばそれは――

 

 

 トレーナーを信頼する強い想いがあればこそ引き出せる力だったからだ。

 

 

「っ! ()()()()!」

 

 アキラの口から、カイリューの脳裏を過ぎった言葉が彼であって彼では無い声で思わず零れた。

 カイリューの視界を通じて見えたラプラスの強い意思の宿った目付き。アキラにとっては見慣れたものであったので、この技が何なのか理解するのもまたすぐであった。

 

 ラプラスが仕掛けた全身全霊の一撃を受けた瞬間、繋がっていた感覚を通してカイリューの意識が瞬く間に遠のいたのと連動して、アキラも自身の体から力と意識が急速に失われた。

 刹那ではあったが、ゆっくりと感じられる感覚故にそこまで理解した瞬間、踏み止まれなかったカイリューの体は勢い良く吹き飛んだ。

 

 途中でアキラの体も吹き飛ぶカイリューに巻き込まれる形で弾かれて、瓦礫まみれの固いフィールドの上を激しく転がっていく。

 そして一部の氷人形も撥ねながら、ドラゴンポケモンの体はポケモンリーグの会場がある建物の壁に叩き付けられた。

 

「――”別れは望む望まない関係無く。生きてれば何時かは来るもの”…お前達の言う通り、それは正しいだろう」

 

 今にも倒れそうなラプラスの元へ歩み寄りながら、仮面の男は未だに周囲で繰り広げられる戦いの喧騒を気にせず語り始めた。

 全てを懸けて――全てを捨ててでも成し遂げたい。自身の願いをだ。

 

「だが、納得出来るか出来ないかは別だ。それが心を通わせた存在であり、別れを招いてしまった原因が自分自身によるものなら尚更だ」

 

 かつて高め合っていた友の強さの理由。別の友と共に冗談半分で調べ、そして()()()()()

 だけど、今まで以上に心を通わせることが出来て、勝てる様になったことで過信――心の隙を生んでしまい、最悪の形で判断を誤ってしまう結果に繋がった。

 

「それだけの存在を失うのは、半身を失う――いや、死んだも同然だ。そして、この子は産まれながら全てを失っていた」

 

 あの悲しみ、望んでいなかった最期。

 

 窮地だったからこそ知ってしまった。

 

 ()()()()()()()()()

 

「この子の為ならなんだってやる。だからこそ……私は取り戻すのだ」

 

 ラプラスの体に優しく触れ、力強く仮面の男は告げる。

 その言葉に悪意や邪な思惑は一切絡んでいない、彼の本音――願いそのものであった。

 理解されたい訳では無いが、それでも彼は語らずにはいられなかった。

 ここまで自分達を追い詰め、立ち塞がった彼らに対してだ。

 しかし――

 

「……ふん。既に聞こえていないか」

 

 そう呟く仮面の男が視線を向けた先には、固い壁が砕けたことで瓦礫や粉塵が周囲に広がる中、壁にもたれかかる形で崩れる様に力無く顔を俯かせたカイリュー。

 そして、限界が近い状態で吹き飛ぶドラゴンポケモンに撥ねられたのが決定打となり、その身に傷跡などの先程までの激戦の痕を色濃く残し、意識が完全に途絶えたアキラの倒れた姿があった。




アキラとカイリュー、自分達には無いものによって生まれた僅かではあるが非常に重い差により仮面の男との個人戦は完全敗北。

数十年の間で今と似た様な状況、もっと過酷な場面にも遭遇したことがあるかなと思っています。
”おんがえし”が最近のポケモンの技から無くなっているのが非常に残念です。

明日も更新をします。
次回、残された面々が行動を起こします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。