SPECIALな冒険記   作:冴龍

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先週は諸事情で更新が一時的に止まってしまって申し訳ございませんでした。
今日から三章の終わりまで更新を再開します。


神様がいる森

「ハァ…ハァ…何とか撒くことは出来たみたい」

 

 木々が生い茂る森の奥深くで、麦わら帽子を被ったイエローは疲れた様に息を荒くしていた。

 何日も前に遭遇した”うずまき島”での戦いに巻き込まれた彼女であったが、気が付けば砂浜に漂着して所持品からポケモン育て屋に関係のある人物としてポケモン育て屋を営む老夫婦の元に運ばれていた。

 しばらくの間、助けて貰った恩や一緒に居た手持ちの事情も相俟って内職の手伝いをしながらポケモン育て屋に居候していたが、突然現れた顔の半分を仮面で隠したロケット団の集団に彼女達は襲われた。

 

 ロケット団の注意が何故か自分にしか向けられていなかったので、敵の狙いが不明なりにイエローはそれを利用して非戦闘員である叔父や育て屋老夫婦を逃がし、自分も近くの”ウバメの森”へと飛び込んだ。

 そのお陰で何とか追跡から逃れることは出来たが、森全体が騒めいてる感覚にイエローは懸念を抱いていた。

 

 ロケット団が森を荒らしながら自分を探しているからではない。もっと別の――それこそワタルの様な強大な力を持つ者、或いは激しい戦いの舞台になることを森が予見している――感覚だった。

 

 何か恐ろしい存在に、この森は震えている。

 突然現れたロケット団の集団やさっきまで聞いていたラジオ放送でポケモンリーグで何かが起こったことと関係しているのか。

 様々な考えや可能性が頭に浮かんだが、今のイエローが判断するには情報が少な過ぎた。

 

「あっちゃ~、こんなところまで逃げて来ちゃった」

「やっぱり下っ端は何人集まろうと下っ端ね」

「!」

 

 唐突に聞こえた声に、イエローはすぐに警戒しながら周囲を見渡した。

 話し方や内容から考えて、明らかに友好的とは言い難い内容だったからだ。

 しかし、警戒する彼女を嘲笑うかの様に突如として弾かれる様な強い衝撃が頭を襲った。

 

「っ、ぁぅ…」

 

 衝撃で頭に被っていた麦わら帽子は宙を舞い、中に畳んでいた長いポニーテールを露わにし、そのまま彼女は倒れ込んでしまった。

 

「あったあった。やっぱり羽飾りを装って隠していたみたい」

「こんな楽なことも出来ないなんて、下っ端はどんだけ無能なんだよ」

 

 頭に響く痛みを堪えながら倒れた体をイエローは腕の力で起こすと、さっきまで被っていた麦わら帽子を手にした長髪をした柄の悪そうな女性に奇抜な格好をした青年が近くに立っていた。

 

 薄々察していたが、目の前の二人も先程襲ってきたロケット団と関係があるのは今の襲撃でハッキリした。

 何とかして距離を取って身を守らなければと考えて、イエローは腰にあるモンスターボールに手を伸ばそうとするが、唐突に体が浮き上がると同時に目に見えない力で締め上げられる様な感覚に襲われた。

 

「ワタルって名前の四天王を負かしたトレーナーって聞いていたけど全然大したことないじゃん」

「気を抜き過ぎよイツキ。今回失敗したらヤバイのはアンタだってわかるでしょ」

「大丈夫大丈夫。今頃ヤバイ戦力は全部、あの人が相手しているよ。カリンは心配性だな~」

「ッ!」

 

 目の前の二人は動けない自分を既に敵と見ていない様子だったが、そんなことはイエロー自身も良くわかっていた。

 自分には、レッドみたいな巧みにポケモンを導く卓越したバトルの才能やアキラみたいに徹底的に戦いに備えて敵を倒すことが出来ないのはわかっていた。

 戦うことが苦手な自分が最後まで戦い抜けたのやワタルの野望を阻止する決定打を放つことが出来たのは、そこに至るまでの過程でレッドを始めとした多くの人達に支えられたからこそ出来たことだ。

 

 何が目的なのかは知らないが、二人をこのままにしておくのは良くないと直感は囁いていた。

 だけど、先手を取られただけでなく、動きを封じられた今の自分では出来るであろうことは何も無いのが歯痒かった。

 

「祠には誰も近付けるなって指示だし、丁度良いから人質とかに――」

 

 捕らえたイエローの身柄をどう利用しようしてやろうかカリン達が考え始めたその時、三人の周りが影に隠れた。

 今彼らがいるのは森の中でも拓けた場所だ。森にある木の枝が遮った訳では無かったので、影が現れると言うことは頭上に何かがやって来たことを意味しているからだ。

 咄嗟に三人は顔を見上げたが、揃って驚愕を露にする結果となった。

 

「な…」

「え!? ちょっと待って! 聞いてないよ!!」

 

 カリンは冷や汗を流し、信じられないとばかりにイツキは喚くが、イエローは信じられない顔を浮かべながらもどこか嬉しそうだった。

 何故なら――

 

「レッドさん、グリーンさん、それにブルーさんも」

 

 イエローが最も信頼している三人が駆け付けたのだ。

 しかも伝説のポケモンと呼ばれるフリーザー、サンダー、ファイヤーの三匹の背にそれぞれ乗ってだ。

 

「イエロー!!」

 

 彼女の姿を見るやレッドは急いでフリーザーの背から飛び降り、手持ちであるフシギバナを繰り出してイエローを追い詰めているイツキとカリンを相手に対峙した。

 最初は伝説のポケモンに目を取られていた二人も、今目の前にいるのが誰なのか知っていた。

 

 ポケモンリーグ前回大会優勝者、マサラタウンのレッド。

 今回の計画で最も警戒すべき存在であると同時に陽動の為に遠く離れた場所へ引き離した筈の少年だ。

 

「な、ななな、なんで…」

「冗談じゃないわよ…」

 

 思ってもいなかった人物が姿を現したことに、イツキとカリンは目に見えて動揺した。

 二人の役目は今日一日、祠に近付く者全てを排除することだ。

 事前に聞かされていた話ではレッドは遠くへ引き離し、捕獲した伝説のポケモンであるルギアとホウオウもポケモンリーグ会場でその力を知らしめた後に送ることを伝えられていたが、どれも話が違っていた。

 

 更にサンダーとファイヤーの背からもグリーンとブルーも遅れて飛び降り、フシギバナに続いてリザードンやカメックスも姿を見せたのでイツキは慌てふためくが、カリンは冷静に頭を働かせた。

 仮面の男の元で何年も修行を重ね、最近遭遇したアキラに手痛い敗北を喫してからまた過酷な鍛錬を課されて、以前よりも強くなった自覚があっても今の状況を覆すことは不可能。

 自分達の状況や考えられる可能性を考えていき、カリンはある決断を下した。

 

「? 何をしている」

「何って、見てわかんないの。降参よ降参」

「ちょ、ちょっとカリン!!」

 

 軽く両手を挙げるポーズをしながら呆れた様に、カリンは今自分が何をやっているのかをレッドに教えた。

 当然、対峙していたレッド達は驚き、イツキに至っては目に見えて慌てるが、彼女は自分の考えを変える気は無かった。

 

「よく考えなさいよイツキ。レッドがこの森にいる意味、そして何時まで経っても増援が送られて来ない理由、どう考えてもあの人の計画が上手く行っていない証拠よ」

 

 祠に近付く者を排除するからには、相応の実力者がやって来ることが想定されていた。

 だからこそ、仮面の男からは後で捕獲したルギアとホウオウを増援として送ることを伝えられていたが、未だに送り込まれる様子は無かった。

 

 レッドの実力は仮面の男が最大級に警戒していた様に一対一で挑めば、如何にイツキやカリンでも勝つ見込みは薄い。

 二人掛かりなら、もしかしたらレッド一人なら勝てるかもしれないが、彼と同等の実力であるグリーンや油断出来ない存在である元仮面の子供たち(マスクド・チルドレン)であるブルーがいては、勝つ可能性は最早皆無。

 そして上空には、伝説の鳥ポケモン達が警戒する様に空を舞っている。

 どう考えても戦力的に二人で如何にか出来るレベルを超えていると言っても過言では無い。

 

「で、でもさ」

「このままあの人に付いて行ってロケット団みたいに豚箱に送られるのか、見切り付けてさっさと退散するのか、どちらかを選びなさい」

「えっ、ぇ…どっちも嫌なんだけど」

 

 究極とも言える二択を迫られてイツキは困惑するが、本気で悩む素振りを見せる。

 思ってもいなかったかつての修行仲間の反応と対応に、ブルーは疑いの目を向けながらも拍子抜けすら感じていた。

 

「随分とアッサリ引き下がるのね」

「アンタは知らないだろうけど、アタシらは誘拐されたんじゃなくて自分からあの人に弟子入りを願い出たのよ。流石にアンタらの年で弟子入りを願い出るのはいなかったみたいだから誘拐って手段を取ったらしいけど」

「!」

 

 サラリと語られたカリンとイツキの事情にブルーは驚きを露にする。

 だがよく考えれば、表向きは従順に従って脱走の機会を窺っていた自分達と違い、彼らはそんな様子は無かった。それどころか居心地が良さそうに過ごしていた。

 洗脳されているなどの可能性も考慮して、脱走計画を持ち掛けたり一緒に考えたのはペアを組んでいたシルバーしかいなかったので、殆ど交流が無かった。

 労せずアッサリ退けられるのは嬉しいが、何だか複雑な心境であった。

 

「逃げるのか?」

「わかりやすい挑発ね。乗る訳無いでしょ」

 

 グリーンとリザードンは身構えるが、カリンはもう戦う気は無いのかダルそうに対応する。

 今は一分一秒でも早く、この場から離れたいのが態度からも露骨であった。

 

「イツキ、あんたは報復が怖くて悩んでいるんでしようけど、あの人ももう時間が無いみたいだし、こんだけ派手にやったんだから今回がラストチャンスでしょ」

「そ、そうだね。確かに良く考えればそうだね。うん、何を怖がっていたんだろう」

「そういうこと、さっさとここから退散するわ。あっ、一応言っておくけど計画が上手く行っていないだけで、何が何でもここには来ると思うわよ。あの人は執念深いから」

 

 最後に忠告とも取れることを伝え、カリンはイツキが連れていたネイティオの”テレポート”の力で二人は揃って、その場から瞬く間に姿を消した。

 警戒をしていた割にはアッサリと終わった為、何とも言えない空気が残されたが、もう敵がいないことを悟ったレッドは念の力による拘束から解放されて倒れ込んでいるイエローの元へ駆け寄った。

 

「イエロー! 大丈夫か!?」

「だ、大丈夫ですレッドさん」

 

 色々痛い目には遭ったが、幸いにも目立った怪我は負ってはいなかった。

 それに加えてイエローは、状況的に今自分が大きな戦いの中心にいることを既に察していた。

 ならば少しでもレッド達の力になりたいと心の底から思っていたので、このくらいのことで倒れているつもりも無かった。

 

「祠には…誰もいないわね」

 

 最後の障害はアッサリと無くなったが、それでもブルーは気を抜いていなかった。

 何も祠を守っていた二人がいなくなったから終わりではない。状況はどうあれ今日一日――あの祠に仮面の男を近付けさせないようにすれば。

 

 そこまで考えていた時、彼らのすぐ傍にある茂みから突如として人影が現れた。

 咄嗟にレッドとグリーンは伏兵かと言わんばかりに構えるが、何故かブルーとカメックスが咄嗟に彼らから庇う様に遮った。

 

「待って! 彼は味方よ!」

 

 大きな声で止める彼女の声にレッドとグリーンもすぐに動きを止めるが、彼らの動きを見届けるまでもなくブルーは急いで現れた人物に駆け寄った。

 

「シルバー! どうしたのこの怪我、ボロボロじゃない!」

「姉さん…」

 

 ポケモンリーグの会場では姿を見なかった弟がこの場所に、それも一目でボロボロとわかる状態で現れたことに彼女は驚きを隠せなかった。

 一体何があったのかと尋ねようとしたら、シルバーに続いて彼の手持ちであるオーダイルも出てくるが、何故かバクフーンや二匹のピカチュウ――レッドのピカとイエローのチュチュも四人の前に現れた。

 

「チュチュ! ピカ!」

 

 育て屋でロケット団から逃げる際、一旦別れた手持ちと合流出来たことにイエローは喜ぶが、すぐにあることに気付いた。

 

 二匹が逃げる時に大切に抱えていたタマゴがどこにも無かったのだ。

 

 イエローが育て屋老夫婦の元に留まっていたのは、何時の間にか二匹が大切そうにタマゴを抱えていたからだ。

 さっきロケット団に囲まれても、イエローが逃げるのを促すまでタマゴを気にしていた彼らが手離す筈が無い。何かあったに違いないと彼女は直感した。

 そう考えたイエローは姿を見せた二匹にタマゴの行方について尋ねようとした時、今度は三つの影――スイクンとエンテイ、ライコウの三匹がクリスと共に祠の周りに集まっていたレッド達の元に降り立った。

 

「レ、レッドさん!? え!? 何で皆さんここいるんですか!?」

 

 敵がいることを警戒しながら着地したクリスであったが、祠の周りには敵どころか離れた場所で戦っている筈のレッドやポケモンリーグ会場から引き離されたグリーンなどの面々がいることに驚く。

 

「…人が多くなってきたが、今どういう状況なのか整理したい」

 

 これまで別々の場所でそれぞれ戦っていた面々が次々と集結したことで収拾がつかなくなったことを悟ったグリーンは、正確に状況を把握するべく、今この場にいる皆がどういう経緯や何が目的でやって来たのかを聞くことにした。

 

「…ここにいる面々なら既に知っていると思うが、仮面の男の正体はヤナギだ」

 

 グリーンの提案に乗る形で、最初にシルバーは敵の正体を明かすと自分達の身に何があったのかをその場にいた面々に聞かせるように語り始めた。

 

 ポケモンリーグの会場からゴールドと共に仮面の男を追い掛けたこと。

 消耗していたこともあって、その正体がヤナギであることを暴くところまで追い詰めたが、タマゴを抱えている二匹のピカチュウを人質にされて逃れられたこと。

 守る為に抱えていたタマゴから生まれたピカチュウの幼体らしき子どもと共にゴールドがヤナギを追い掛けて、それっきり行方知れずになっていること。

 

 そこまで話したシルバーは、悔しそうに拳を握り締めた。

 

「今、あいつがどうなっているのかはわからない」

 

 重い空気が漂うが、話を終わらせる訳にはいかなかったこともあり、シルバーはクリスと共に駆け付けた三匹の伝説のポケモン達に目を向ける。

 

「クリスの方はエンテイ達と共に駆け付けたみたいだが、会場に残っていた氷人形を如何にか出来たのか?」

「えぇ、アキラさんの手持ちが氷人形を無力化する方法を得たお陰で」

 

 クリスが話す内容を聞くとアキラは他の手持ちと残っている様に思えたが、どうもそれだけでは無い気がすることをレッドは察していた。

 

「クリス…アキラは」

「アキラさんは、協力してくれたシバさんとキョウさんと一緒にルギアとホウオウを倒してくれましたが、その後の仮面の男との戦いは後一歩のところで…」

 

 そこまでクリスが語ってくれた時点で、レッドはアキラがどうなったのかを悟った。

 何故シバやキョウがアキラに協力してくれたのかは知らないが、大きな脅威である敵の手中に堕ちた伝説のポケモンを倒し、消耗している連戦にも関わらず黒幕を後一歩のところまで追い詰めた。

 今の自分でもそこまで出来るか難しいことを彼はやり遂げた。

 

 彼がどんな状態になっているかまでは聞かない。

 残ったアキラの手持ち達が奮闘しているのなら、自分も成すべき役割を――彼がやり残したことをやり遂げる。

 最後の最後で手柄を横取りするみたいな感じになるが、今はここで成すべきことを優先する。

 

 彼なら――アキラならそう言う。

 

 内心では別の期待もあったが、今は希望的なことは考えずに目の前の現実を彼は見た。

 

「仮面の男は…ヤナギは祠にやって来る時を操るポケモンを手にすることが目的だ」

「なら、その祠を守ることが俺達の勝利条件ってことだな」

 

 ヤナギを倒すか祠を守り切る。

 シルバーが教えてくれた情報から自分達が成すべきことがハッキリしたことで、レッドは気を引き締めた。

 心なしか祠から光が放たれていることにレッドは気付いており、この光が消える時まで耐えることも選択肢に入っていた。

 

「随分と…賑やかな気配を感じる…」

 

 そんな時だった。

 疲労感を匂わせながらも威厳にも似た声が、祠の周りに集まっていたレッド達の耳に入った。

 祠に集まっていた面々が一斉に声がした方へ振り返ると、そこには人の形に作られた氷の頭部に当たる部分に座っている車椅子を嵌め込んだ姿をした氷人形を歩かせて祠に近付くチョウジジム・ジムリーダーのヤナギがいた。

 

「ヤナギ!!」

 

 顔と全身を隠していた仮面とマントが無いこともあるが、素顔が知られる前からも正体を確信していたこともあって、驚くことなくレッド達とその手持ち達は身構える。

 一番戦いから離れていたイエローも、これまでの経験から感じられるヤナギの気配や周囲の様子、何より二匹のピカチュウ達が敵意を見せたことからも対峙する意思を見せる。

 

「……イツキとカリンめ、あれ程誰もここに近付けさせるなと言ったのに」

「あら、その二人ならアタシ達が駆け付けた時点で戦意を失って逃げ出したわよ。随分と人望が無いようね」

 

 苛立ちを見せるヤナギに、ブルーは先程までの事実を交えた挑発をした。

 あれ程強くて恐ろしい存在であった仮面の男の正体であるヤナギが、今では度重なる連戦の影響か一目でわかるまでに疲労困憊とも言える状態だ。

 だけど、相手は伝説のポケモンを操り、長年に渡って暗躍して来た存在だ。ブルーは一切油断するつもりは無かった。

 

「ルギアとホウオウ、そしてお前が従えていたロケット団や部下達はもういない」

 

 シルバーは傷付いた体に力を込めながら立ち上がり、ヤナギに今彼が置かれているであろう状況を告げ始める。

 最も大きな戦力である伝説のポケモンは揃って戦闘不能、カーツやシャムなどの直属の部下達もこの場にはいない。

 そしてヤナギ自身、幾度となく追い詰められたことで一部が戦闘不能になるなど手持ち共々もう余裕が無い。対してこちらには、スイクン達以外の伝説のポケモンに万全状態のレッド達がいる。

 

 過剰とも言える戦力だが、これ程までに過剰であっても相手がヤナギなら油断は出来なかった。

 伝説のポケモンを力押しで倒せたアキラ達でさえ、後一歩及ばなかったのだから、どれだけ戦力があっても過剰とはシルバーは微塵も思わなかった。

 

「お前の野望も潰える時だ! これだけの戦力を前に最早太刀打ちできまい!」

 

 シルバーの力強い宣言を合図に、その場にいたポケモン達は一斉に技を放った。

 

 ”ソーラービーム”

 ”ハイドロポンプ”

 ”かえんほうしゃ”

 ”10まんボルト”

 ”れいとうビーム”

 

 フシギバナ達やバクフーン達だけでなく、スイクン達や上空を飛んでいるフリーザー達が放った各々最も力を発揮すること出来るタイプの技が、それぞれ一直線に無防備な姿を晒すヤナギへと迫る。

 

 ”これが最後の戦い”という意識も重なり、一切手を抜いていない大火力。

 しかし、伝説のポケモンを捻じ伏せ、ジムリーダーも含めた指折りの実力者達を蹴散らして来たヤナギは臆しなかった。

 正面から迫る無数のエネルギーに対して、膝の上に乗せていたウリムーが強烈な冷気を放ち、瞬く間に水晶の様に透き通った巨大な氷の盾を作り上げた。

 

 直後、激しい衝突音と衝撃が”ウバメの森”を揺るがした。

 

「何っ!?」

「そんな!」

 

 伝説のポケモンが六匹も加わった一斉攻撃を正面から防がれたことにシルバーとクリスは動揺し、その動揺はオーダイルやメガニウムなどの彼らの手持ちに伝搬する。

 思わず攻撃を中断しそうになったが、レッドは声を張り上げる。

 

「怯むな!! 攻撃を続けるんだ!!!」

 

 全く根拠の無い言葉ではあったが、周囲はレッドの言葉を信じて攻撃を続ける。

 目も眩むような光を放ち続ける攻撃は、彼の言う通り今の状況を維持して入ればいずれ盾を突破出来る様に見えたが、ヤナギのウリムーは削れたり溶けていく氷の盾に追加の形で氷を増やして盾を補強していく。

 それだけでなく、彼らが放った一斉攻撃を防いだ氷の盾は単に巨大な平面では無く尖らせるような傾斜にすることで、盾に掛かる負担を軽減するだけでなく攻撃を拡散するなども工夫も凝らされていた。

 

 その為、このまま攻撃を続けても無駄の様に見えたが、レッドはこの状況を保つことが正解だと直感していた。

 敵であるヤナギが消耗しているからやこちらには伝説のポケモンがいることや数で勝っているからでは無い。今この場にいるの自分達だけ、当初はそう思っていたが今はそんなことは考えていなかった。

 

 ここが正念場。

 

 攻撃が続く間、激しい衝突音に轟音、拡散される攻撃によって木々が吹き飛んだりへし折れていく。

 そんな壮絶な光景が眩い光と共に何時までも繰り広げられていた時、攻撃とは異なる轟音がどこからか徐々に聞こえてきた。

 

 その音に気付いたヤナギは怪訝そうな顔を浮かべるが、レッドは嬉しそうに顔を空へ向けた。

 

 先程のクリスの話を聞けば、アキラは死力を尽くしたものの力及ばずに力尽きた。

 ここに駆け付けることは無い。

 

 普通ならそう考えても無理は無い。

 だけど、彼なら裏技みたいな想像も出来ない方法でまた立ち上がるのでは無いかとレッドは信じていた。

 

 性格、実力、そして何より――諦めの悪さ。

 

 彼なら――アキラは駆け付ける。

 

 そして、彼の直感は当たっていた。

 

 ”ウバメの森”の木々を揺らし、空気を震わせる轟音と共に猛スピードで飛来した()()は、空中で鋭く曲がると氷の盾が無い真横に爆音と共に土を巻き上げながら着地した。

 

 本来なら木々が地面が見えないまでに茂っていたが、レッド達の攻撃を防いだ際の衝撃と氷の盾によって拡散させられた技によってヤナギの周囲の木々は吹き飛んだりへし折れており、着地するのには適した拓けた場所になっていた。

 そして土埃がまだ舞う中、最大級にまで溜め込んだエネルギーを圧縮させた青緑色の光線同然の炎――”りゅうのいかり”が飛び出した。




最後の戦いの地に敵味方問わずに集結していく中、レッドは彼が来たことを確信する

原作ではヤナギ戦には出ていなかった三鳥も、本作では敵の強大さが知られているので参戦です。
これだけの戦力があってもヤナギと彼のポケモン達なら、太刀打ち出来るイメージが書いている過程でも浮かんでしまう為、盛っているつもりは無いのに有り得そうなインパクトを与えたヤナギは本当に凄いです。

次回、ウバメの森に本当の意味で全員集結します。
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