SPECIALな冒険記   作:冴龍

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力の根源

 ゴールドが連れるピチューが勢いで放った大技、”(スーパー)ライジングサンダー”。

 小さな体から放たれたとは思えない程に強力な電撃は一直線にヤナギへと飛ぶが、すぐさまラプラスはヤナギを守る様に動く。

 射線上に氷の盾を作り上げることでピチューの攻撃を遮ろうと試みたが、威力と速度を見誤ったのか、氷の盾が完全に出来上がる前に突破されてしまったのとそのまま正面からまともに受けてしまう。

 

「ヒョウガ!!」

 

 尋常では無い威力の電撃を受けて悲鳴を上げるラプラスにヤナギは焦る。

 体力こそ回復しているが、それでも一度は瀕死寸前まで追い詰められ、その後も何回も消耗していて今では気力だけで戦い続けている様なもの。

 見たことが無い威力の電撃のインターバルのタイミングで、ヤナギはグッタリしているラプラスをモンスターボールにすぐに戻すと、ゴールド達に背を向けてでも目的の時間軸へ急ぐ。

 

「待ちやがれ! ヤナギィ!!」

 

 ゴールドは手にしたキューを投げ付けるが、ヤナギは氷人形の腕を振るってそれを払い除ける。

 そしてピチューが再び”(スーパー)ライジングサンダー”と呼ぶ大技を放とうとするが、ヤナギの膝の上に乗っていたウリムーが必死になって”ふぶき”を放ち、ゴールド達を遮る様に巨大な氷の壁を作り上げた。

 

「ちくしょう! 本当に何でもありだな!」

「一斉に攻撃するぞゴールド!」

 

 シルバーの呼び掛けもあってゴールド達は力を合わせて攻撃するが、目の前に広がる氷の壁を砕いた先にもまた同じ氷の壁が存在していた。

 

 どれだけかは知らないが、ヤナギは何層にも渡って巨大な氷の壁を張っているらしかった。

 氷の壁を避けて追い掛けることは出来なくも無いが、大幅な遠回りになる。かと言って一枚ずつ砕いていくのも時間が掛かる。

 だけど、いずれにせよ行動を起こさなければヤナギを逃すことだけは確かだった。

 

「頼むぜちっちゃな相棒!」

 

 ゴールドの呼び掛けに応える様に、ピチューはもう一度”(スーパー)ライジングサンダー”と名付けた特大の電撃を放つ。

 それは氷の壁を一枚砕くだけに留まらず、何枚も砕いていく。

 

 ところが何枚目かの氷壁に大きなヒビを入れるところで、大技の連発で疲弊の色を強く見せ始めたピチューの攻撃は止まった。

 あともう少しではあったが、生まれたばかりのポケモンにゴールドはこれ以上無理はさせたくなかった。

 

「任せろゴールド!」

 

 次の手を考えていた時、後ろからレッドが声を上げる。

 彼らのポケモン達が援護射撃とばかりのあらゆるタイプの技を放ち、何枚も隔てている氷の壁を次々と砕いていく。

 当初は氷とは思えないまで頑丈であったヤナギの氷ポケモンが作り出した氷の壁だが、力が弱っているからなのか急ごしらえだからなのか定かでは無かったが比較的脆かった。

 そして何枚目かの氷の壁を破壊したその先で、遂に背を向けて目的の時間軸を目指すヤナギ達の背が見えた。

 

「待ちやがれぇええ!!!」

 

 今度こそ逃がさない。

 

 ゴールドは飛び掛かると、ヤナギの氷の体に手にしていたキューを力強く突き刺した。

 動きを止めるつもりは無い。彼としてはキューを突き刺したのには別の狙いがあったが、直後にヤナギは彼を振り払うのではなく自身が乗っている氷人形の腕を伸ばしてきた。

 

 意表を突かれた彼は、そのまま成す術も無く首を鷲掴みにされて完全に動きを止められる。

 すぐにピチューが動くが、彼もヤナギの膝の上に乗っていたウリムーの強烈な”たいあたり”を受けてしまい、強く突き飛ばされてしまった。

 

「ゴールド!」

「無茶をする!」

 

 クリスとシルバーを乗せたスイクンとエンテイ、そしてライコウがゴールドを助けようとするが、即座にウリムーが仕掛けた”ふぶき”の猛烈な勢いに圧倒されて返り討ちにされる。

 

「動くな!」

 

 遠回りの形で横に回り込んで仕掛ける素振りを見せたレッドとブルーに対して、ヤナギは首を掴んだゴールドを見せ付ける様に掲げた。

 露骨なまでの人質としての強調であったが、これには二人だけでなく全員の動きが止まる。

 首を掴まれている影響で声を発することは出来なかったが、ゴールドなら自分に構うなとレッド達に言っていただろう。

 しかし、だからと言って彼の言う通りに戦い続けることはレッド達には出来なかった。

 

「この…野郎…」

「ふん、お前も随分と諦めが悪い奴だ」

 

 周囲を警戒しながらも、ヤナギは掴んだゴールドに視線を向ける。

 これから目の前の少年をどうしてくれようか考え始めた時、不意にゴールドのすぐ傍で過去の一場面が流れていて、興味が惹かれたのかヤナギはその場面に少しだけ意識を向けた。

 そこに映っている光景はその場にいた面々にとって見覚えは無かったが、映っている姿には見覚えがあった。

 

「アキラさん?」

 

 半信半疑でクリスは思わず呟く。

 流れて来た過去の一場面はアキラが手持ちと共に戦っているものであったが、今の彼と比べると少し自信が無さげな雰囲気をさせていたので、クリスはすぐに彼であるとは認識出来なかった。

 だけど、その場にいた彼らが流れて来た過去の場面に注目していたのは、アキラと手持ち達がある存在と対峙していたからだ。

 そして、何人かは流れて来たその過去でアキラ達が戦っている相手を知っていた。

 

「ミュウツー?」

 

 かつて共闘したポケモンを相手に、アキラとその手持ち達が総力戦を挑んでいる過去の場面にイエローは言葉を漏らす。

 何故彼らが戦っているのかと思ったが、そういえばスオウ島でワタルと戦っていた時、顔を合わせたカイリューと嫌そうな顔を浮かべていたことを思い出した。

 過去に何かあったらしいのはその時察したが、まさかこんな戦いを繰り広げていたとは思っていなかった。

 

 最初に気付いたヤナギも、警戒しながらも流れて来たアキラ達とミュウツーとの戦いの場面に視線を向けていた。

 

 相手が誰であろうと倒してやるという気概で挑む彼らが、最初から敵を倒すよりも逃走する時間と隙を作る為に戦うと言う今の彼らを見ると、ちょっと考えにくい消極的な選択。

 何より、当時のアキラは今のアキラと比較して意志が弱そうな目付き――どこにでもいそうなごく普通の少年に見えた。

 

 そんな当時のアキラが決意を固めてからは、現在の彼らを彷彿させる連続攻撃を仕掛けるなどの全力を尽くしてミュウツーに挑むも尽く返り討ちにされ、良い流れになった後の一斉攻撃さえも通じなかった。

 だがそんな状況でも抗っている数年後にカイリューに進化するミニリュウの前に、思い掛けない存在が現れた。

 

「あれって…」

「ミュウだ」

 

 ブルーが漏らした言葉にレッドは答えた。

 

 セレビィ同様に幻のポケモンと呼ばれるポケモン――ミュウだった。

 

 突如やって来たミュウは、ミュウツーの攻撃を防いでからミニリュウと会話らしきことを交わし合うと、自身が使える”へんしん”の技を真似たミニリュウと共に融合する様な形でカイリューの姿へ変化した。

 カイリューの姿になってからようやくミュウツー相手にまともに戦える様になり、途中で目をやられてしまったもののアキラを背に乗せて以降は互角以上に渡り合っていた。

 

 アキラの過去を詳しく知らないゴールドは、かつてアキラが今回の様な戦いを繰り広げていたことを初めて知るが、レッドはこの戦いについてアキラから話こそ聞いてはいたものの自分が思っていた以上の激戦であったことを初めて知る。

 意識がある状態で直接この戦いを目撃したのはアキラ本人とその手持ち達、そして戦ったミュウツーと加勢したミュウだけであり、恐らく彼が経験した最初の地方を揺るがす程の力を持った強大な存在との戦い。

 

「ふん、成程な」

 

 レッド達は初めて見る知られざるアキラが繰り広げていた激戦に目を奪われていたが、ヤナギは何か得心したとばかりの反応だった。

 

「何を…納得しているんだ」

「お前は不思議に思わないのか? アキラとカイリュー、お互いの性格は大きく異なっているのに何故あそこまで息の合った同じ動きが出来るのかに」

「知る訳…無いだろ」

 

 ヤナギに問われても、ゴールドはアキラについてそこまで知らないのと強さの秘訣に興味はあってもそういう点は気にしていなかったが、昔からアキラを知るレッドは気付く。

 確かにヤナギの言う通り、アキラとカイリューの性格は大きく違っている。

 

 特に出会ったばかりの頃は顕著だ。

 昔のアキラは今と変わらず真面目で若干融通が効かない面はあったが、少し弱気で自信が無さげなだけでなく過剰に敵意を見せることはなく、やり過ぎることもなるべく避けようとしていた。

 逆にカイリューは多少は大人しくはなっているがきまぐれ且つ好戦的で、敵と認識した相手は何であろうと容赦しない過激な点は全く変わっていなかった。

 戦いの時はどちらも似た様な雰囲気になるが、そんな傾向が出始めたのはここ最近のことだ。

 

「性格と思考、いずれも全く異なっているポケモンと同調へ至ることは不可能な訳で無いが、実現するには相応の月日を掛けた鍛錬と信頼関係の構築が必要な筈だ。奴にマサラタウンの出身者並みのポケモンと心を通わせる素質がある訳では無いのなら尚更だ」

 

 かつてヤナギにも心を通わせた存在がいたが、互いに全てを託せる程の信頼関係はあっても性格や思考は異なっていたので、研究や鍛錬を重ねても心を通わせる境地に至るのにはそれなりに年月を費やした。

 アキラとカイリューも、相応の鍛錬や普通なら経験しない頻度と密度で戦ってきたことで相応の信頼関係を築いているが、それでも三年程しか一緒に過ごしていない。

 

 ポケモンと心を通わせる素養――”波動”が強い。

 或いはトレーナーとポケモンの両者が放つ”波動”の波長が似通っている。

 

 アキラとカイリューは、そのいずれの条件にも該当しない。

 にも関わらず、短期間で互いの息を合わせて一心同体の感覚が出来る境地にまで至れている。

 何か気付いていない特別な才能があるのか、そう思っていたがこの”時間(とき)のはざま”で、思わぬ形でヤナギは答えを得られた。

 

「だが、ようやくわかった。奴らが短期間であそこまで息の合った動きが出来る理由…その切っ掛けはあのロケット団が生み出したいでんしポケモンとの戦いの時、一時的にミュウがミニリュウと一体化した影響か、或いは彼らの”波動”を調整するなどをしてそれが影響しているのだろう」

 

 ミュウは全てのポケモンの遺伝子を持つと同時にセレビィ同様に幻のポケモンらしく不思議な力の持ち主だ。

 可能性として考えられるのは、ミニリュウが”へんしん”を利用してミュウと融合したことで、ミュウが持つ力の影響を受けてミニリュウの”波動”の波長が変わったこと。

 若しくはミュウが自身の持つ力で、意図的に本来なら大きく異なっている筈のミニリュウかアキラ、或いは両者の”波動”の波長を合う様に調整したことだ。

 

 だが、幾らミュウが”波動”の波長を調節したとしても、それは切っ掛けに過ぎない。

 

 アキラとカイリューが至った境地は、マサラタウン出身者並みに素養に恵まれていようと、互いの”波動”の波長がどれだけ似通っていたとしても信頼関係――互いに自分の全てを相手に晒したり思いを見せることを許さなければ成立することは無いからだ。

 追い詰められた状況であったこともあるが、あの時点でアキラとミニリュウは心を通わせる最低限の要素を満たしていた。だからこそ、ミュウツーとの戦いの途中からアキラがカイリューの背に乗ったが、時間が経つにつれて両者の意思疎通などの息が徐々に合い始めた

 

 ミュウがいなくなったことで彼らは調整役を失ったが、一度でも意識の奥深くまで共有する感覚を経験すれば、その強烈な経験が脳や体に強く刻み込まれるので決して忘れる筈が無い。

 

 手持ちとのシンクロを実現するのに一番難しいのは、入り口に至るまでの段階だ。

 それさえ乗り越えれば、”波動”の波長が幾ら異なっていたとしても、何かしらの残滓が残っているので切っ掛けさえあれば以前よりも容易にその境地に至ることが出来る。

 

 そして何かしらの切っ掛け――少し離れた場所に流れている過去の一場面を見る限りでは、カントー四天王との激戦を機に再び彼らは繋がり、その感覚を忘れない内にシジマの元で鍛錬を積み重ねたことで現在へと至れた。

 そう考えれば、”波動”の波長がまるで異なっている筈の両者が短期間で一心同体の感覚へ至れたことが説明出来た。

 

 これは彼の過去を詳しく知っていなければ気付く筈が無いのと、当のアキラとカイリューも良くわからないのも当然だ。

 

「何が切っ掛けになるかはわからんものだな。それは…貴様も当て嵌まる」

 

 他にも見えたアキラの過去に関する場面に目を通しながら、鷲掴みにしているゴールドにヤナギは告げる。

 

「ゴールドと言ったな? お前もレッドを始めとしたマサラタウン出身程では無いと思っていたが、どうやら限定的ながらポケモンと心を通わせる素養は高いと見る。全く警戒されていなかったアキラが急成長した様に、お前も度々私に食らい付いて来た」

 

 当初アキラも大した存在ではなく、全く気にも留められていなかったが、気が付いたら伝説のポケモンを倒す程の存在にまで成長した。

 それは逆境や厳しい状況に追い詰められたり、打ちのめされても尚立ち上がり続ける強い精神力などの普段は目立たないが極限状況にこそ大きな力を発揮する力も持っていたからだ。

 そしてそれは、今捕まえているゴールドにも当て嵌まっており、アキラとの戦いで手痛い目に遭ったことも相俟ってヤナギは彼に鋭い眼差しを向けた。

 

「確か自分の事を”孵す者”と言っていたな。生まれたばかりのポケモンがあれだけの力を発揮するとは思っていなかった。このままお前を放置するのは、私にとってリスクが大きい。これ以上邪魔されない様に別の時間軸に葬ってから向かうとしよう」

「ッ、クソ…」

「まずい」

 

 人質扱いをしながらヤナギはゴールドを葬る機会を窺っていたと知り、レッドは居ても立ってもいられなかった。

 何としてでもゴールドを助ける。そう思った直後だった。

 

 突如としてゴールドを掴んでいた氷の腕が砕かれたのだ。

 ヤナギは驚愕を露にすると同時に、まるで跳び上がる様に氷を砕いた影に目を奪われた。

 

 背中を向けるその姿。

 一瞬だけカイリューに見えたが違った。

 

 ドラゴンポケモンが持つ小さな翼に見えたのは裂けたジャケットがそう見えただけだ。

 高速飛行で移動出来るカイリューのお陰で何時の間にか戻って来たアキラが、ヤナギの真下に潜り込むとすかさずカイリューが彼を投げ飛ばし、ゴールドを掴んでいたヤナギの氷の腕をアキラが盾で切り裂く様に砕いたのだ。

 

「貴様!」

「そうはさせないぞヤナギ!」

 

 振り返るやアキラはすかさず、片手でロケットランチャーを構えて砲口をヤナギに向ける。

 容赦ない彼の鋭い目にヤナギは思わず身構えるが、彼の狙いは別にあった。

 

 小さな影――先程ウリムーに突き飛ばされたピチューがアキラの肩を借りて跳び上がり、”(スーパー)ライジングサンダー”をヤナギの膝の上に乗るウリムー目掛けて放ったのだ。

 

「ぐああああっ!!!」

 

 ウリムーの巻き添えを受ける形で強烈な電撃を浴びる中、アキラが砲身を向けたのは脅しだったことにヤナギは気付くが、彼が電撃で怯んでいる間にアキラは漂うゴールドをレッドに向けて蹴り飛ばしていた。

 

 苦しむヤナギを助けるべく、モンスターボールに戻っていたラプラスが飛び出すと、”サイコキネシス”による不可視な念の衝撃波でピチューを弾き飛ばした。

 ヤナギはすかさず乗っている氷人形の氷の腕を伸ばして殴り掛かるが、アキラは腕に付けた盾で上手く流しながら防ぐ。

 

「人の過去を勝手に見やがって、まあお互い様だし、今俺の過去を見られても大して意味は無いから別に良いけど」

「いや、意味はあった。お前を退ける為のな」

「!」

 

 ヤナギが口にした言葉にアキラは警戒する。

 直後、ヤナギが乗る氷人形の両腕は猛烈な勢いで彼に攻撃を始めた。

 

「お前が私の過去を見て目的を理解した様に、私もお前の過去を見させて貰った! 今お前が私が操る氷人形を相手に渡り合えているその常軌を逸した身体能力を始めとした幾つかの強さの秘密、見させて貰った!!」

 

 大人の成人男性であるロケット団の団員を容易に叩きのめすなど、今のアキラの身体能力は十代前半とは思えない程に高い。

 だけどヤナギは長年の経験と知識、そしてアキラの過去を幾つか見たことで、カイリューとの一心同体の感覚に至れた理由を見抜いた様に、何故そこまで高い身体能力を実現出来ているのかにも彼は気付いた。

 

「お前のその力は人間がポケモンの攻撃を頻繁に受けたり、通常には無い特殊な攻撃を受けた時に生じる副作用によるものだ! 本来なら手足の痺れなどの目に見える障害になるが、体質なのか知らないがお前の場合は麻痺などと言った障害が肉体のリミッターを麻痺させる形で上手くプラスの方向に作用しているみたいだがな!」

「!?」

 

 思ってもいなかったことをヤナギに告げられ、アキラは目に見えて動揺した。

 彼としては命の危険に関わる出来事が多過ぎて、何時も火事場の馬鹿力を発揮する必要に迫られた影響で肉体のリミッターが外れてしまい、今みたいな超人染みた身体能力を発揮する様になったと考えていたからだ。

 

 しかし、リミッターが解除された根本的な原因が、つい数か月前までレッドを苦しめていた手足の痺れなどの麻痺が良い方向に作用していたからとは全く思っていなかった。

 だけど言われてみれば、アキラは三年前にこの世界にやって来てから平時でも手持ちポケモン――主にカイリューやブーバー、ゲンガーの三匹――から攻撃を受けたり巻き添えを受けることはあっても、体が傷付くだけで変な後遺症が出ることは無かった。

 カンナが仕掛けた氷の技が特別なだけかと思っていたが、実は今自分が大暴れ出来ている力の理由がそうだとは微塵も思っていなかっただけにかなり衝撃を受けていた。

 

「どうした!? 過去を見られても気にしないんじゃ無かったのか!?」

「ッ!」

 

 動揺が影響して防戦一方なアキラに対して挑発を交えて飛び掛かりながら、ヤナギはこの”時間(とき)のはざま”で見た彼の過去を振り返った。

 

 ミュウツーとの死闘

 ミュウからの力添え

 

 ごく普通のトレーナーでも、どれか一つでも乗り越えたり経験すれば飛躍する切っ掛けに成り得るものばかりだが、それらさえもアキラの中ではこれまで経験した出来事の一つに過ぎない。

 過去を見ていけば、アキラは様々な事件や戦いに巻き込まれたり首を突っ込んでいるので、こうした幾つもの機会に遭遇していたが、その時に得られた多くの経験を上手く活かして自分の力に変えて来ている。

 

 ここに来てようやくヤナギは、短期間でのカイリューとの同調が実現出来た以外にも、アキラがあれ程までに強くなれた理由がわかった気がした。

 

 

 彼は必要と判断したものを自らの力に変えたり、身に付けるのが上手いのだ。

 

 

 ”ものまね”を全ての手持ちに覚えさせていることからもわかるが、彼は優れた力や技は積極的に真似ることで我が物にしたり独自の形に昇華させることが多い。

 レッドを始めとしたジムリーダー達から教わったり見せて貰ったものだけでなく、手持ち共々ロケット団以上に嫌っているワタルが使って来た技や技術さえも、使えると判断したものは積極的に取り入れている。

 

 それらの試みはすぐに結果に繋がることは無くても、彼自身の性格も相俟って堅実に少しずつ時間を掛けることで確実に力を蓄えていき、シジマの元で本格的な鍛錬を積んだことを切っ掛けに遂に爆発した、とヤナギは推測した。

 

 激しく繰り出される氷の腕をアキラはしばらく盾で防いでいたものの、何時までも流し切れなくて遂には盾が弾かれた瞬間、顔を殴られた衝撃で背負い直していたロケットランチャーが弾き飛ばされた。

 カイリューも駆け付けるが、ラプラスに邪魔されて中々アキラの助けに向かうことが出来なかった。

 

「お前の常識外れの身体能力には、私の知らない特別な力があると思っていたが、いざわかれば対処は容易い! お前が発揮出来る身体能力を上回る力を出せば済むことだ!」

 

 アキラが持つ”ポケモントレーナー”としての才能や能力は何なのか、それにばかり意識が向いていたが、そもそも注目すべき点が違っていたのだ。

 彼はレッド達みたいなポケモンに関する優れた才能を持つポケモントレーナーと言うよりは、”ポケモントレーナー”と言う分野でも通じる、或いは応用が利く才能や能力を持っているタイプと言えた。

 

 彼の強さの理由が中々わからなかったのは、見るべき視点を間違えたこともあったが、先天的な素質に見える力や能力を外的要因によって後天的に獲得すると言った特殊なケースが複数重なったことで複雑さが増していることが一番の原因だった。    

 ミュウの力添えだけでなく、本来なら体の障害になる原因すらプラス要素に変わっているなど、誰も想像出来ないからだ。

 

 まだわからない謎――正確過ぎる情報収集能力とタマムシ大学で学ぶ前から有していたと思われる知識の出処などもあるが、そこまでわかればもう不必要にアキラを警戒する必要はヤナギには無かった。

 

「流石に力任せに振るうことを良しとせず、指導者(シジマ)の元で学んできただけのことはある。あのままスランプから抜け出せなくなるか、力に溺れてくれたら私としては楽だったが、指導者として見たら良い判断をしたものだ。だが、何時まで保つか!?」

 

 手痛い攻撃を受けながらも痛みに慣れていたアキラは、無闇に攻めることはなくすぐに守りを固めたが、過去に彼がした選択をヤナギは褒める様な内容を口にしながら構うこと無く攻撃を続ける。

 

 アキラのポケモントレーナーとしてのタイプは、大きく分類すれば優れた身体能力を最大限に活かしてポケモン達と共に強くなっていく師匠のシジマみたいな肉体派のトレーナー――ではなく、元来は豊富な知識や収集した情報を元にホウオウやルギアを倒したみたいに対策や準備をすることで効率良く敵を倒していくデータ重視の頭脳派寄りのトレーナーだ。

 

 強大な力でのゴリ押しやバリバリの肉体派的な行動が印象的且つ目立つが、それらは手持ちの好みや彼自身の肉体のリミッターが外れたこと、何よりカイリューとの一心同体の感覚を物にするべく体を鍛えたが故にそう言った強引なことが出来る選択肢を得られたからだ。

 過去の場面を見る限りでは、本来の彼はポケモンに関する知識や情報などのデータ、戦うまでの事前準備を大切にしている。

 

 まだ見ぬ隠し玉の存在に警戒しつつも、ヤナギはアキラが発揮出来る力――人間の限界を上回る力でただ正面からゴリ押す。それだけで彼を圧倒出来る。

 これまでの経験や出来事で得た力を自らの力にするのは、一見すると良いこと尽くめに見えるが、デメリットや代償を帳消しにしている訳では無い。

 肉体のリミッターが外れている彼が今全力で抵抗したとしても、カイリューとの一心同体の感覚同様に肉体は自ら発揮する力に耐え切れなくて勝手に彼は自滅する。

 そしてそれは当のアキラもよくわかっていた。

 

 覆し様が無い圧倒的な膂力で迫るヤナギが操る氷人形が繰り出す猛攻に、アキラは悔し気な目を向けながらひたすらに耐えるしか無かった。




無数の過去が見れる時間のはざまで、ヤナギやレッド達だけでなく自らの力の根本について知るアキラ。

大成したスポーツ選手の経歴や話を聞きますと、運命的な出来事や出会い、そして切っ掛けなどは当時はわからなくても後になってみないと意外とわからないものだと思います。

次回、時間のはざまでの戦いは終わりを迎えます。
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