こちらも”超ライジングサンダー”と同じく、名称の元ネタは存在しています。
「ゴールド! 大丈夫か!?」
アキラがヤナギの乗る氷人形を相手に防戦一方を強いられていた間、彼が蹴り飛ばす形で引き離していたゴールドは、レッドのフシギバナが伸ばした”つるのムチ”でピチューと共に回収されていた。
「レッド先輩、俺のことより――」
ゴールドの視線は、今戦っているアキラに向けられていた。
腕に付けている盾を駆使してヤナギが操る氷人形の猛攻を彼は防いだり捌いていたが、幾ら反射神経などの身体能力が高くても膂力では上回る相手なので目に見えて苦戦を強いられていた。
彼の相棒と言えるカイリューはヤナギが今に至るきっかけとなったラプラスと”つのドリル”をぶつけ合っており、他の面々も何かしらの援護や加勢をしたくても戦いの激しさやアキラとヤナギとの距離が近過ぎて難しかった。
そんな攻防の最中、流し切れなかった攻撃の衝撃により、アキラが背中に背負い直していたロケットランチャーが弾き飛ばされた。
目の前の戦いに手一杯のアキラは、そのことに気付きながらも回収する余裕は無かったが、”
「やってくれるか相棒?」
主語を含めて肝心なところは言及していない一方的な問い掛けだったが、ゴールドの肩に乗っていたピチューは力強く頷く。
「レッド先輩! アキラが使っている武器だかメカの回収を頼むッス!」
「え? わ、わかった」
すぐさまゴールドはレッドの協力を得て漂っていたロケットランチャーをフシギバナの”つるのムチ”で回収する。
手にしたアキラ愛用のアイテムは、思っていたよりも重くて片手で軽々と振り回していた彼は色々とおかしいことを改めて実感するが、それでもゴールドはアキラがどの様に動かしていたかを思い出しながら手を動かしていく。
その過程でゴールドは、空いているモンスターボールの一つにピチューを収めた。
孵してからはモンスターボールに入れていない野生状態だったが、これでピチューは正式にゴールドの手持ちになった。
一方、ゴールドがそんなことをしていると知らないアキラは超人染みた動体視力と反射神経、そして膂力を駆使してヤナギが操る氷人形の猛烈な勢いで繰り出される殴打を防いでいたが、膂力では明確にヤナギの氷人形の方が上回っていたのでかなり苦戦していた。
「これで、終わりだ!!」
「っ!」
そして、盾を構えていたアキラの腕が大きく弾かれて無防備な姿が晒され、ヤナギが重い一撃を彼に叩き込もうとした時だった。
「下がれアキラ!!!」
その掛け声を合図にゴールドはアキラがやる様に肩で抑える形でロケットランチャーを構え、狙いを定めて引き金を引いた。
次の瞬間、轟音と共に砲身からピチューが撃ち出された。
備えていても伝わる強烈過ぎる反動が、抑え込んでいる肩を通じて全身に響くが、例え骨が砕けることになったとしてもゴールドは狙いを外さない覚悟だった。
ロケットランチャーから撃ち出されたピチューは、電撃を激しく纏った状態で雷と金色の軌跡を描きながら一直線にヤナギへと突撃し、氷の体にぶつかるや纏っていた電撃を放出した。
その直後、目が眩む程の光と共に大爆発でも起こしたかの様な衝撃と爆音が瞬く間に広がり、アキラとヤナギは互いに反発する様に反対方向へそれぞれ吹き飛んだ。
「がっ…は!」
「む、無茶をする…」
ゴールドがアキラのロケットランチャーを利用して撃ち出されたピチューの決死の攻撃は、勢いに乗っていたこともあって、その威力は一目でわかる程に大きかった。
解放された電撃が周囲に拡散したことで吹き飛んだアキラとヤナギの両者だが、アキラは体を回転させながらもグリーンとリザードンに受け止められたが、ヤナギはそのまま果てしなく吹き飛んでいく。
それに気付いたラプラスは、戦っているカイリューを相手になりふり構わなくなったのかヘッドバットするかの様に力任せに”つのドリル”をカイリューにぶつけた。
同じ”つのドリル”で防御していたドラゴンポケモンはダメージこそ受けなかったが、空中にも似た足場が無い様である空間では踏み止まることは難しく、その体は後方へと飛んだ。
そのタイミングを狙って仕掛けて来たブルーのカメックスやシルバー達を乗せた伝説のポケモン達を周囲を荒らす様な”ふぶき”で跳ね除けながら、ラプラスは後方に漂っているヤナギと合流する。
「すまん、ヒョウガ」
今最優先すべきことを思い出し、ヤナギは体に受けたダメージを堪えながらラプラスと共に再び目的の時間軸を目指して動く。
「待てヤナギ!!!」
当然ゴールドは逃がすつもりは無かったが、再び彼の前を遮る様に氷の壁が現れる。
単純ではあるが効果的な妨害に思わずゴールドは舌打ちをするが、いざ砕こうとした時にライコウやエンテイに乗ったシルバー、スイクンに跨ったクリスが駆け付けた。
「俺達のことを忘れるな!」
「最後までやり遂げましょう!」
「サンキュー! シルバー! クリス!」
三人は手持ち達の協力も借りて氷の壁を砕いていくが、砕いても砕いても氷の壁が無くなることは無かった。
このままではヤナギに逃げられる、どうしようかという迷いが生まれた時だった。
「ゴールド!!! 退け!!!」
後方から飛行体勢のカイリューの背中に乗ったアキラが、怒鳴る様な大きな声でゴールド達に警告した。
彼らの後ろにはレッド達が続いていたが、目の前を遮る様に広がる何重にも重ねられた巨大な氷の壁を見据え、アキラは今自分がやるべきことを悟っていた。
「俺とリュットが壁を突破するから最後の役目は任せたぞ!!
アキラから伝えられた思わぬ言葉に、ゴールドは理解が遅れた。
彼は壁の突破は自分がやるから最後は――つまりヤナギの相手は自分達に任せると言ったのだ。
思わず聞き返しそうになったが、彼を乗せたカイリューは体勢を整えて体に力を入れると、その口内を光らせ始めた。
先程まで放っていた”げきりん”に良く似ていたが、発している光の強さと音の重さが大きく違っていた。
何か――それこそとんでもない一撃を彼らは放とうとしていることを直感した。
実際、アキラは突貫でカイリューと同調しながら二人分で意識して制御しながら、体内に溢れる力の全てを集約していった。
破壊的な光線
これが、自分達がこの戦いで仕掛ける最後の一撃になる。
かつてミュウツーを退け、ワタルの攻撃を掻き消してイエローの時間を稼いだ決定打。
数々の戦いを終わらせる切っ掛けになった一撃。
この技に関しては、別の技を優先して具体的な仕組みなどが完全に解明し切れていなかったので練習は一切やっていないぶっつけ本番であったが、彼らは失敗するつもりは無かった。
そして、名前を言うべきか少し迷ったが脳裏にカイリューの叱責が流れたのとゴールドが勢いでピチューの技を叫んでいたのを思い出して、アキラは腹を括った。
ルギアを倒した”ドラゴンスマッシュ”よりも威力は高く、今の自分達にとって最強の技。
その名を、アキラは叫んだ。
「”ドラゴンバースト”!!!」
アキラの口から発せられた技名を合図に、カイリューは口に溜め始めた膨大なドラゴンタイプのエネルギーを”げきりん”の形で具現化し、それを”はかいこうせん”に混ぜ込んだ極太の黄緑色の光線を大砲の様な轟音と共に放った。
あまりの規模にゴールド達三人は大慌てて退いたが、ドラゴンポケモンが放った強大な光線は、射線上にあった氷の壁をいとも簡単に突き破る。
氷の壁は何枚どころか、何十枚にも渡って重ねられていたが、それらをカイリューが放った光線は想像を絶する威力によって次々と貫いていった。
だが踏ん張りが効きにくい空間なのもあって、カイリューはかつてのワタル戦の様に反動によって体は後ろへと後退していく。
最後に放った時は、強烈な反動で猛烈な勢いで逆走したが今回はそうはなっていなかった。
そこまで吹き飛んでいないのは、カメックスやリザードンが背中合わせでカイリューを支えながら口や両肩から炎と水流をそれぞれ放った反動での相殺、フシギバナもその巨体を活かしていたからだ。
しかし、それでも放っている技の威力の方が遥かに大きいのか、ドラゴンポケモンの体が後ろへと下がっていくことを止めることは出来なかった。
「ちょっと! この技どんだけ威力があるのよ!」
「何をやるにも無茶苦茶だな!」
「これは、予想外です!」
「皆踏ん張れ!!!」
自らも手伝いながらレッドは手持ち達を鼓舞していたものの、同じく支えていたブルーやグリーン、イエローの三人からしたら”ドラゴンバースト”と名付けたアキラのカイリューが放った技の威力はあまりにも想定外であった。
しかし、それでもその威力は絶大だった。
やがてカイリューから放たれた光線が途切れたタイミングで、ライコウに乗ったゴールドはクリスやシルバーらと共にその先へと飛ぶようにヤナギの元へと向かった。
そして向かう先には、氷人形から落ちそうになっているヤナギの姿が見えた。
恐らく、突然背後から迫ったカイリューの一撃を辛うじて避けたと見られたが、この絶好のチャンスを逃す手は無かった。
「ヤナギィィィイイ!!!」
ゴールドの叫びにピチューが呼応し、再び”
気付いたラプラスが今度こそ防ごうとするが、不思議な軌道を描いて電撃はラプラスから逸れる。
「しまった!!」
ヤナギは焦るあまり気にしていなかったが、ゴールドが氷人形に突き立てたキューが避雷針となっており、放たれた電撃はそれに引かれていたのだ。
”
「ぐあああ!!!」
”
一方、防ぐつもりで放ったラプラスの”ふぶき”は、スイクンを始めとした三匹の攻撃によって相殺されてゴールド達三人には何も影響は無かった。
「ヤナギ! もう終わりにするんだ!」
「終わりだと! ここまで来て諦める訳が無いだろシルバー!」
だが、ヤナギは諦めなかった。
この戦いが終わったら死んでも構わない。
老いて衰えた今の体では、今日一日の戦いで受けた戦いの余波によるダメージや疲労の蓄積は大きく、自らの命を削っている、或いはもう長くは無いことをヤナギは悟っていた。
後、もう少しなのだと自らに言い聞かせた直後だった。
嫌な音を立てて、手にした”
元々何回も激しい攻防の余波を受けていたが、先程のピチューの”
「そんな…」
ヤナギは否定したかったが、無情にも”
「やった!」
「しゃあ!!」
セレビィが解放されたことに皆が喜ぶが、対照的にヤナギは絶望的な表情を浮かべる。
そのタイミングに三人の後方から、アキラを含めたレッド達五人が自分達のポケモン達と共に――大技を放ったことで疲れ切った様子のカイリューをフシギバナが”つるのムチ”で絡め取って引っ張る形で――追い付く。
セレビィが手元から離れたことで彼を”
「ヤナギ! 大人しく負けを認めやがれ!」
「誰が…認める…ものか」
セレビィや二枚の羽の加護が無くなった今、”
しかしそれでもヤナギは、負けを認める様に促しつつもゴールドから差し伸べられた手を拒否した。
その時だった。
逃れた筈のセレビィが、ヤナギの目の前に戻って来たのだ。
「なんで…セレビィがまだヤナギの元にいるの?」
「まだ奴の影響下なのか?」
誰もがセレビィの行動に疑問を抱いた時だった。
どこからともなく”
最初は呆気にとられていた面々だが、音色を聞いていくにつれて心が癒されていき、不思議とさっきまでの激戦で高ぶった感情が落ち着きを取り戻すのを感じた。
「良い音色…」
「何だか心が癒されます」
クリスは聞こえてきた音色を受け入れ、イエローも心が安らかになるのを感じていた。
さっきまで興奮気味だったゴールドとシルバーも、さっきまで感じていた自分の内から込み上がる衝動的な感情が消えて、気持ちが落ち着いていった。
「”いやしのすず”か」
「多分、”これ以上戦う必要は無い”って言うセレビィなりの意思表示なのかもしれないわね」
セレビィの意図はわからなかったが、ブルーはこの音色はセレビィからの意思表示だと察した。
そして”
それはヤナギがヒョウガの名付けたラプラスの両親と別れた場所であったが、今までの過去とは何か異なっていた。
ヤナギの姿は無く、二匹のラプラスが激しく吹雪いている氷原の上で何かを待っているかの様に佇んでいた。
その時、どこからか先程までの”いやしのすず”の音色とは異なる誰かが歌っている様な歌が”
「なんだ? この歌?」
「あら? この歌って…」
「クルミちゃんが良く歌う”ラプラスに乗った少年”じゃねえか!」
レッドは知らなかったが、アイドルであるクルミの大ファンであるゴールドはすぐに聞こえて来たのが彼女が良く歌っている歌であることに気付いた。
一体何故と誰もが思ったが、この場でヤナギの過去の詳細を知っていたアキラは落ち込むヤナギを励まそうとオーキド博士を始めとした親友達が作った曲なのを思い出していた。
当時はラプラスを亡くした喪失感が大きかったヤナギの心には届かなかった歌だが、今のヤナギはさっきまでの恐ろしい顔付きとは程遠い、何も知らない人からしたら穏やかな老人みたいな顔を浮かべながら涙を流していた。
まるで歌に込められた意味を理解し、これまで過ごして来た幸せな思い出を思い出しているかの様だった。
「…行くんだ…ヒョウガ」
やがて涙を拭い、ヤナギは傍に居たラプラスに促すと、なみのりポケモンの体は自然と浮き上がり始めた。
最初は驚いていたラプラスであったが、ヤナギの優しい眼差しに落ち着きを取り戻すと浮かび上がった先にある過去の世界へと吸い込まれる様に入り込んだ。
止めるべき場面と思われたが、セレビィが何も拒否しないのでゴールドだけでなく、レッドやアキラも何もせず見守っていた。
そしてヒョウガと名付けられたラプラスは、吸い込まれる様に入った過去の世界に降り立ち、氷原で待つ二匹のラプラス――両親と抱擁を交わす様に身を寄せ合った。
そんな三匹の姿をヤナギだけでなくゴールド達も静かに見守るが、しばらくすると三匹のラプラスは見つめるヤナギへと体ごと視線を向けた。
しばらく彼らは見つめ合っていたが、ヤナギが静かに頷くとヒョウガと呼ばれたラプラスが両親と再会した過去の時間軸は閉ざされるかの様に消えた。
「セレビィが…罪深い私の気持ちを汲んでくれたのか…」
一度は拭った筈の涙がヤナギの目から大粒で再び溢れ始めたが、彼は拭うことなく声を詰まらせながら流し続けた。
ヤナギのラプラスは、今見ていた通り、過去の世界――親であるラプラス夫婦が生きている世界へ旅立った。
亡くなった過去のことを考えると、何故ヤナギのラプラス達が生きてあの場に居たのかという謎はあったが、この事に関して見届けていたアキラにはある考えがあった。
恐らくセレビィは、ヤナギのラプラスが”生きて子どもを待っている”過去の時間軸に導いたのだろう。
自分が元居た世界――異なる世界が存在する様に、この世界にも無数の未来や過去が存在していて、その中でセレビィは今自分達がいる時間軸には一切影響しない。だけど何かしらの理由で生存していた過去の時間軸にヒョウガと呼ばれるラプラスを迎え入れたのだろう。
「ブルー、シルバー…今更謝っても許してはくれないだろうし、私が奪った君達の時間を戻すことは出来ないが、これだけは言わせて欲しい」
長年の憑き物が落ちたのか、顔を涙にグチャグチャに濡らしながら口にするヤナギの謝罪にブルーとシルバーは無表情であったが、心なしかブルーの目は若干潤んでいるようにも見えなくも無かった。
「未来ある若い少年少女達よ。君達はこれから先、長い時間をポケモンと一緒に過ごすだろう。辛い時もあるかもしれんが、私のように決して道を踏み外さないでくれ…それが今の私の願いだ」
ヤナギのあらゆる感情と想いの籠った言葉に、ゴールドだけでなく敵意を持つカイリューさえも鋭い視線を向けながらも余計な事は考えずに静かに聞く。
ヤナギだけでなくオーキド博士も、自分達の友情は永遠と何一つ疑うことなく信じていただろう。だが、たった一つの思い掛けない悲劇で終わりを告げてしまったのだから、自分達もそうなってしまう可能性がある。
そのことをヤナギは危惧しているのではと、何となくアキラにはそう思えた。
「もう…思い残すことは無い…」
完全に戦意を喪失したことでこれまでの緊張の糸が切れたのか、ヤナギは意識を失うかの様に車椅子でグッタリとして静かに動かなくなった。
しばらくの間は誰もが様子見をしていたが、気を失っていると判断をしたアキラとゴールドが手持ちを伴って彼の元に近付く。
「…なぁ…アキラ…」
「ゴールド、あれだけのことをやったんだ。最後に望みを叶えられて満足だろうけど、長年に渡って暗躍して、その過程で数え切れないくらいの被害をヤナギは出して来た。ちゃんと身柄を引き渡して然るべき対応をするべきだ」
ゴールドは納得して良いものかと戸惑い気味な表情だったが、アキラとカイリューは連行する気満々であった。
ヤナギの過去は同情こそ出来るが、罪は罪だ。
情状酌量の余地はあっても、誘拐だけでなくロケット団を利用して多くの人達や幾つもの町に被害を出して来たのだ。
悪いことをしたなら、ちゃんと罪に応じた法的な裁きを下すべきだ。
三年前のカントー地方でのロケット団が起こした事件や一年前のワタルが起こした事件は解決こそしたが、その後は首謀者や幹部は軒並み逃れているという不完全燃焼で終わっているだけに、アキラとしてはちゃんとした形で締めたかった。
ヤナギの膝の上に乗るウリムーも抵抗する気は無かったので、彼らはこのままヤナギを連れて行こうとした時、セレビィが静かに彼らの目の前に降り立った。
意図がわからず、カイリューとアキラは揃って怪訝そうな顔でセレビィを見るが、ときわたりポケモンは動じることなく凛々しい目で応じた。
まるでヤナギを連れて行くことを、セレビィは望んでいないみたいであった。
「セレビィ、どういう思惑があるのか知らないけど、この人は連れて行かせて貰う」
真剣な目でアキラは告げるが、それでもセレビィは下がろうとしなかった。
かつて自分とカイリューに力を貸してくれたミュウ同様に、セレビィにも何かしらの思惑があることは察していたが、だからと言ってヤナギの身柄を引き渡す気にはなれなかった。
「良いわよアキラ。セレビィに任せて」
静かな睨み合いが続く中、ブルーがアキラとカイリューに声を掛けた。
アキラは少し驚いた様に目を開けていたが、彼女としてはこのままだと勝敗はともかくヤナギの身柄を巡って、セレビィとカイリューが争いそうであったからだ。
「ブルー…」
「ヤナギがやったことは許されないわ。私だってさっきの謝罪だけで済ませるつもりは微塵も無いわ。でも、私と同じ被害者のセレビィにも権利があると思う」
「……ブルーの言い分もわかる。だけど、ヤナギの被害を受けたのはセレビィやお前やシルバー以外にもたくさんいるんだ。セレビィが相応の対応をしてくれるとしても、ちゃんと法的な裁きとかの対応が必要だ」
「貴方の主張は尤もだわ。でも、薄々気付いているんじゃない? このままだと貴方の言う然るべき法的な裁きがされる前に、望みを叶えるだけでなく全てを出し切ったのに満足したヤナギは死んじゃうわ」
ブルーが話す内容に、アキラは目こそ細めるが反論はしなかった。
彼女の言う通り、今日一日の間に繰り広げた戦いで受けたダメージが老いた体にはかなり重いのか、ヤナギの呼吸などの生命活動が徐々に弱っている気がした。
故に冷静に考えれば、このまま連行しても良い結果になるとは思えなかった。
この状況を脱する唯一の手段、それこそブルーが主張するヤナギの身柄をセレビィに任せるだ。
知る限りでは”
でも当時の段階では機会が無かっただけで、もしかしたら何かしらの形で姿を見せるかもしれない。そう考えたら、ヤナギが死んでしまうことは望ましいことでは無かった。
セレビィが如何にか出来るのかという保証は無いが、相手は幻のポケモン、何か不思議な力でヤナギを生かしそうな可能性は考えられた。
そうして無言の時間が過ぎていったが、やがてカイリューが不服そうな目付きで長い長い溜息を吐き出したタイミングでアキラも渋々そうだがヤナギから離れた。
「退くぞゴールド」
「え? 退くって…あ」
セレビィは力を失って気を失っているヤナギの体と車椅子を浮かび上がらせるとどこかに連行する様に連れて行く。
ゴールドは戸惑っていた。このままヤナギを放置して良いのかという考えと、あれだけ激しく戦っていたアキラがアッサリと引き下がったのだから別に良いのでは、と迷う。
「改めてブルーとシルバーに聞くけど、本当にセレビィに任せても良い?」
「えぇ、私としてはもう決着を付けたから後はセレビィの好きにしても良いと思うわ」
「…俺も…姉さんと同じく」
ブルーもヤナギとの因縁を終えた認識なのか、アッサリと引き下がり、シルバーも思うところはあるが姉と同意見だった。
二人の意見を聞いたアキラとカイリューは揃って再び息を吐き、首を横に小さく振った。
「…そういう訳だゴールド。二人も納得しているみたいだし、どうするかは何十年も追い掛けられた被害者がやるんなら、俺達の出る幕は無い」
「おっ、おぅ」
一体セレビィはヤナギをどうするつもりなのか、それはアキラにはわからなかった。
何か意味が――役割がある。そう信じるしか無かった。
それが一体、何なのかは今の時点では知らないが。
ヤナギ達を連れたセレビィが、”
「…帰るか。皆で」
それは数か月に渡って、ジョウト地方を揺るがした大事件の終わりを意味していた。
ヤナギとの戦いが終わり、元の場所へ戻り始めるアキラ達。
”ドラゴンバースト”
「ポケモンカードゲームADV 第3弾拡張パック 天空の覇者」に収録されていたレックウザexのカードが使える技です。
ゴールドに触発されたのと時間が無かったので勢いで名付けましたが、現時点でのアキラとカイリューが出せる中で最強の技扱いです。
可能な限り単行本や話が掲載された時期に登場したカードから名称を探していますが、”ドラゴンスマッシュ”については登場時期と名称が共に、奇跡とも言えるくらいドンピシャでした。
ゴールドにアキラが使っているロケットランチャーを使わせたかったので、ようやく出せました。
原作でのヤナギが連れていたヒョウガがどうなったのかについては、後の第九章でのヤナギの発言や最近の時間旅行関係の作品を参考に、”無数に存在している過去の中の一つの時間軸へ旅立った”と本作では解釈をしました。
次回、三章の完結と本来の時間軸の彼が出ます。
ラストなのでもしかしたら明日更新するかもしれません。