SPECIALな冒険記   作:冴龍

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この話から何話か独自解釈要素、独自設定要素、ご都合主義全開な展開が続きますので、ご注意ください。


予想外の進化

 サイクリングロード。

 その名の通り自転車などの軽車両専用道であり、カントー地方ではセキチクシティとタマムシシティを繋いでいる主要な交通路である。しかし、自転車やバイクしか通ることが出来ず、警察の目が隅々まで行き渡っていないなどの要因が重なり、自然と不良や暴走族などの無法者の溜まり場と化していた。

 

 そしてこの日も昼間から、強面で派手な格好をしたガラの悪そうな暴走族が仲間を伴って爆走していた。法定速度オーバーは勿論、クラクションを鳴らしたり蛇行運転をしたりと好き勝手にやっていたが、珍しく彼らはサイクリンロードから出ることを目指して走っていた。

 その理由は先頭を走るリーダーのバイクに、表情をガチガチに固めた状態で乗っているアキラにあった。

 

「あ…あの…スピード…大丈夫で……」

「あん!? 何だって!?」

「――何でも無いです…」

 

 ドスの利いた声で返されて、アキラは委縮する。

 このまま彼らと一緒に行動しているところを警察に見られたらどうしよう。

 さっきからそんな考えばかりが浮かんでいたが、離れようにも離れる訳にもいかないので、どうか警察に見つからない様に祈るしかなかった。一体何があって彼が暴走族のバイクに乗り、一緒に行動していると言う理由は今から一時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 セキチクシティで一夜過ごした後、アキラはタマムシシティにいるヒラタ博士と合流するべく風を受けながらサイクリンロードを走っていた。

 ようやくフルメンバーを揃えられたことや初めて手持ちとじゃれ合ったりしたことで、この日の彼はすこぶる機嫌が良かった。

 

 ところがそんな穏やかな時間は、突如として終わりを告げた。

 呑気に鼻歌を歌いながら自転車を漕いでいた時、目の前からバイクの集団が走って来るのが見えてきたのだ。

 

「? なんだ?」

 

 目を凝らして見てみると、元の世界で噂に聞いたことのある世紀末で暴れる無法者の様な外見をした若者達が、我が物顔でバイクを走らせていたのだ。このサイクリンロードでは、ガラの悪い連中がよく問題を起こしていると通る前に聞いてはいたが、まさか遭遇するとは思っていなかった。

 

 なるべく関わらない様に迫ってくる彼らの動向に注意しながら、アキラは避ける様に道を譲る。彼らが通り過ぎるのを見届けて一安心したが、何故かバイクのエンジン音は遠ざかるどころか逆に近付いてくるのを彼の耳は感じ取った。

 

「え? 嘘、何で?」

 

 振り返って見ると、さっき通り過ぎたはずの暴走族が揃って逆走してくるのが目に入った。

 訳がわからなかったが、アキラの疑問を暴走族達は罵声を飛ばす形で答える。

 

「待ってやゴラッ!!!」

「俺達ムッシュタカブリッジ連合にガンつけた報いを受けやがれ!」

 

 何時怒らせる様なことをしたのか全く身に覚えが無いが、彼らの狙いはどうやら自分らしい。

 言い掛かりだと言い返したいが、そんなことをやれば火に油を注ぐ様なものだ。

 とにかく逃げるべく、アキラは全速力で自転車のペダルを漕ぎ始めた。しかし自転車でバイクを振り切ることは叶わず、ドンドン距離を詰められて彼は成す術も無く暴走族に囲まれてしまった。

 

「あの…謝りますのでどうか見逃してください」

 

 仕方なく自転車を止めて周りを確認するが、完全に包囲されていて逃げ道は全く無かった。相手がロケット団なら力づくでも逃げる場面だが、こういう時は抵抗しないのが一番だ。下手に手持ちを消耗させたくないし、強行突破が失敗した時の事を考えると痛い目に遭わないのなら、土下座でも所持金を全額渡すことくらい喜んでやるつもりだった。

 しかし、そんな穏便な解決手段は打ち砕かれる事となった。

 

「クソガキ…てめぇのその態度、気に入らねぇ」

 

 何か気に障ったのか。見逃して貰えるどころか逆に彼らの怒りを買ってしまった。

 囲んでいた暴走族は、どこからか鉄パイプを手にしたり連れているポケモンをボールから出して着々とアキラを追い詰める。このままでは、集団リンチで痛め付けられるのは目に見えている。

 

「――仕方ないか」

 

 どの道痛い目に遭うなら、大人しくペコペコする理由も無い。

 目を閉じて静かに息を整えていくと、さっきまで抱いていた恐怖心は和らいでいく。

 あまり嬉しいことではないが、この世界に来てから命の危機を含めた本来の世界ではまず考えられない出来事を度々経験した影響なのか、こういう危機的な状況に彼はある程度慣れてしまった。

 

 現に同じ集団に囲まれた状況でも、オツキミ山でのロケット団との遭遇と比べればまだマシに思えると場違いなことを考えていた。

 そして気持ち的に慣れた以外にも彼らならやってくれると言う信頼を胸に抱き、腰に付けたモンスターボールの固定を外すと、アキラは連れている六匹全てを召喚する。

 

「何だこの野郎! 散々腰低くしてたクセにやる気か!」

 

 威圧的なリーゼントをした青年が吠えるが、アキラが出したポケモン達は動じるどころかやる気満々であった。特にゲンガーとブーバーは、戦隊物に出てくる数で攻める雑魚怪人を相手にする気分なのか妙に機嫌が良さそうだった。

 

「いくぜ野郎ども!!」

 

 相手にするポケモンの数と位置を確認していた時、暴走族の一人が上げた声を合図に戦いは始まった。

 ミニリュウ、ブーバー、ゲンガーの三匹はそれぞれ殴り込み、残る三匹は己のトレーナーであるアキラを守る様に場を固める。不意にアーボがアキラに襲い掛かるが、それをエレブーが身を挺してでも防ぎ、サンドパンが返り討ちにする。加わったばかりであるヤドンは動きは遅かったが、二匹が時間を稼ぐおかげで余裕をもって”ねんりき”を発揮して援護する。

 守られている安心感を得られたことで、落ち着いてアキラは切り込んでいった三匹に指示やアドバイスを伝えていくことに専念する。

 

「スットはとにかく動きを乱す。バーットとリュットは自由にやっていいが互いをカバー出来る様に」

 

 少し前なら戦っている彼らの好みを考えずに指示を出していたが、アキラは彼らの好みを考慮しながら、こちらの意図した通りに誘導する。以前のロケット団との戦いの時は皆好き勝手に戦っていたが、今回は好きに戦いながらもそれぞれ己が成すべき役割を意識していた。

 

 狙い通り、ゲンガーは攻撃を加えつつも積極的に相手を状態異常にして惑わし、その混乱を突く形でミニリュウは”はかいこうせん”などの大技で一網打尽にする。大技を使えばミニリュウに隙が生じるが、その隙をゲンガーの攪乱で誤魔化すのみならず、ブーバーが自らの拳で打ちのめすなどで自然とカバーをする。

 昨日はケンタロスに一方的に蹂躙された彼らだが、秘めている能力は状況次第ではジムリーダーを倒すことが可能なだけあって十分に高い。

 

「うおっ! 何だこいつ!」

「ヤベェ、ガキつえぇ」

 

 まさか因縁を付けた少年がここまで強いとは誰も予想していなかったのか、まさかの展開に暴走族達は焦る。戦いは互角に近かったが、流れは誰がどう見てもアキラが握っており、トレーナー達の動揺はポケモン達にも波及して勢いが弱まる。

 その隙を突いて行く内に戦える暴走族のポケモンは数匹にまで減ったところで、彼の前に一際派手な格好をした男が三人出てきた。

 

「ガキだと舐めていたが中々やるじゃねぇか」

「いや、その…ありがとうございます」

 

 どう反応すれば良いのか一瞬困り、敵なのにアキラはつい反射的に礼を口にする。

 振る舞いから見る限りでは、この三人がこの暴走族の幹部格だろう。

 

 三人は手にしていたボールを投げると、それぞれの手持ちと思われるウツドンにゴローン、オコリザルが出てきた。さっきまで戦っていたポケモン達が殆ど進化していなかったことを考えると、一段階進化している彼らを相手にするのは少し苦労しそうなのが彼でも容易に予想出来た。

 

「俺達の力を思い知らせろ!」

「迎え撃つんだ!」

 

 各々の号令に三匹は一斉に動くが、いずれもアキラが連れている問題児トリオにアッサリと返り討ちにされた。一撃で片付けたことにゲンガーとブーバーは得意気だが、簡単にやられるのを見たアキラは違和感を覚える。

 これではさっきまで相手にしていたポケモンと大して変わらない。

 

 詳しく考える前に、彼の疑問の答えはすぐに出た。

 

 返り討ちにされた三匹はトレーナーの元に戻ると、その姿が崩れ始めたのだ。まるでスライムの様な動きだったが、やがてそれはピンク色の粘土の塊みたいなポケモンに変化した。

 

「メタモンで姿を真似ていたのか」

 

 メタモンは使える技は”へんしん”のみだが、相手の姿のみならず能力や覚えている技さえもコピーすることができる。

 しかし、それはゲームでの場合の話だ。

 さっきの様子を見る限りでは、この世界では姿を変えられても能力のコピーはできないか、出来たとしても劣化版なのだろう。

 

「アッサリやられちまった。やっぱり目の前で戦ってる奴の姿を真似た方が良くね?」

「以前姿を真似た奴とレベル差があるだけだろ」

「いや俺達のメタモンがしっかりと真似できていないだけだろ」

 

 手持ちのメタモンが呆気なく負かされたことに、連れていた三人はバトルの途中にも関わらず敗因についてあれこれ議論し始めた。

 律儀に待つつもりは無いので、彼ら以外の仲間のポケモンを片付けたのを機にアキラは停めていた自転車に乗ろうとしたが、その前に話が纏まったのか結局三人は立ち塞がった。

 

「喜べ小僧! 我らムッシュタカブリッジ連合の切り札を見せてやろう」

「切り札?」

 

 まだ三人は、メタモン以外のポケモンを連れているのだろうか。

 それも彼らとしての切り札ではなくこの集団としての切り札となれば、かなり強さに自信があるだろう。油断せず警戒し始めた直後、出ていた三匹のメタモン達は互いに混ざる様に体を重ねて一つの塊になった。複数のメタモンを合体させての見掛け倒しか、と無意識に構えていた力は抜けたが、メタモンの集合体が少しずつ巨大な姿を形作り、変化した姿にアキラは言葉を失った。

 

「なっ…」

 

 暴走族が切り札と言うのだから、強いポケモンの姿になるのは当然だ。

 更に自分の考えが間違っていなければ、それはただ姿を模っただけのハリボテの筈だ。ならば恐れる必要は無いのだが、メタモン達が切り札として変化したポケモンに彼は驚きを隠せなかった。

 

「よしいけ! 俺達のフリーザー!!」

 

 鮮やかな青白い両翼を広げ、伝説のポケモンの一体であるフリーザーに姿を変えたメタモン達がアキラ達に襲い掛かった。

 

「皆散るんだ!」

 

 さっきまでの油断にも似た軽い気持ちは、完全に消えていた。

 ヤドンはエレブーに抱えられる形ではあったが、アキラの指示に彼を含めた六匹全員は突き出された巨大なフリーザーの趾を避ける。趾での踏み付けは空振りで終わったが、見せ掛けの姿で無いことを証明するかの様に地面は窪む。

 

 距離を取ったブーバーは”かえんほうしゃ”で逆襲するが、放たれた炎は翼を羽ばたかせた際に起こった雪混じりの突風で掻き消された。ただ姿を真似ただけのハリボテなら、ある程度風は起こせてもそれに雪などの氷を含ませることは出来ない筈だ。つまり今対峙しているフリーザーは姿どころか、本物に近い能力を有している可能性が高いと判断せざるを得なかった。

 

「どうだ! 対象が強過ぎると中途半端なコピーになっちまうが」

「三体のメタモンが力を合わせることで足りない部分を補う!」

「結束の力だ!」

 

 切り札を繰り出したことで流れが好転したのがわかったのか、メタモンのトレーナーである三人はご丁寧に種明かしをする。

 言っている意味は断片的でよくわからなかったが、簡単に纏めるとメタモン一匹だけではフリーザーを完全にコピーすることは無理だが、三匹が互いを補い合う形でコピーすることで限り無く本物に近い姿を再現したと言うことだろう。

 この世界でメタモンが使う”へんしん”が、どこまでコピーできるのかまたわからなくなったが、今は目の前の強大な存在を如何にかする方が優先だ。

 

「――限り無く本物に近いか」

 

 仮に伝説のポケモンと戦うとしたらもっと先、或いは避けるべきものと考えていたが、まさか紛い物とはいえフリーザーと戦うことになるとは思っていなかった。

 何故フリーザーが変身対象に選ばれたのかはわからないが、近くにフリーザーが住んでいるとされる島があるからなのだろう。本物と同じではなく再現された力だが、ブーバーの攻撃を悠々と防いだのを見ると脅威なのは間違いない。

 

 しかし、アキラのポケモン達は戦意を失っていなかった。

 と言うより、何故かひどく場違いな空気が流れていた。

 原因に目を移すと、ゲンガーとエレブーがフリーザーに憧れにも似た輝く眼差しを向けていた。フリーザーに見惚れている様に見えなくはないが、この二匹が「綺麗」や「美しい」に感動を覚える様な性格とは思えなかった。

 

「あっ」

 

 ここでアキラは気付いた。

 目の前のフリーザーは、メタモン三体合体の結果出来上がった存在だ。この合体して強い存在が出来る流れは、最近彼らが見ている番組の巨大ロボが登場するのに該当するではないか。確かにメカが合体を重ねて更に強くなる展開は彼も好きだが、この状況でそれを思い出すのは場違いだ。

 気を引き締めさせようとしたら、二匹は思いもよらない行動に出た。

 

 ゲンガーが高々とジャンプして、エレブーもそれに続いたのだ。

 格好の的だったが、幸運なことにメタモンの集合体であるフリーザーと暴走族達は律儀に見守ってくれた。飛び上がった二匹はゲンガーがエレブーに肩車する様に乗り、エレブーは太陽を背にポーズを決める。

 その姿は、正に合体を終えたメカを彷彿させる――

 

「ただ乗っただけじゃん…」

 

 呆れ混じりでその姿にアキラはぼやくが、合体(?)したエレブーとゲンガーは着地するとフリーザーと対峙する。二匹が合わさってもフリーザーの方がまだ大きいが、彼ら――合体ボディの大半を占めるエレブーは珍しく怖がるどころか怯んでもいなかった。

 今のエレブーは、自分達が正にテレビの中で戦っていたロボになった気分だった。

 そう考えれば、目の前の敵がロケット団だろうと伝説だろうと怖く無かった。

 そして頭部の司令塔(?)に該当するゲンガーが、突撃の指示を出すとエレブーは両拳を帯電させてフリーザー目掛けて駆け出した。

 

「”ふぶき”!!」

 

 しかし、彼らの作戦はアッサリ砕かれることとなった。

 雪混じりの激しい暴風を受けて、二匹はアキラの足元まで吹き飛ばされる。

 あそこでゲンガーが、”あやしいひかり”を仕掛けるなどをしてフリーザーの気を逸らせば良かったのだが、ゲンガーは合体した頭に成り切っていたのか、すっかり自分が動くのを忘れていたみたいだ。幸い一撃で仕留められるだけの威力は無く、ダメージの大半は元々打たれ強いエレブーが引き受けたおかげか、二匹は寒そうに体を震わせながら起き上がるだけで済んだ。

 

「どうだ! 俺達のフリーザーの力を思い知ったか!」

「こいつと戦って生きて帰れた奴はいねえんだぜ!」

「謝るなら今の内だぜ!」

 

 暴走族が煽って来るが、アキラは無視する。実際、余裕のつもりなのか、フリーザーも何も仕掛けようとせず冷たい空気を周囲に流しながら宙に留まっている。

 彼らが慢心している時間を利用して、アキラは対抗手段を編み出すべくフリーザーに関して覚えている限りの情報を思い出す。メタモンから変身している点を除けば、こおりとひこうの二タイプで、特殊に関しては攻めも守りも優れていたが物理関係の能力は低かった筈だ。浮かび上がった情報を元に、アキラは今の手持ちでフリーザーを倒すのに最適な戦略を立てる。

 

「よしスット。何でも良いからフリーザーの動きを翻弄するんだ。その間にバーットとエレットはそれぞれの得意技を――」

 

 ところが、ここで彼の言葉は途切れた。

 六匹全ての力が必要な場面なのに、また手持ちが勝手に動いたのだ。

 それも一番鈍いはずのヤドンだ。

 

「待てヤドット! お前だけで如何にかなる奴じゃない!」

 

 手持ちに迎えた証であるニックネームで呼び掛けるが、ヤドンは歩き続ける。

 仮に聞こえていたとしても、反応を見せるのは三十秒後なのでどの道手遅れではあったが。

 

「”はかいこうせん”!」

 

 ノロノロと前に出てきたヤドンを新たな標的と判断したのか、破壊的なエネルギーがフリーザーの口から放たれる。氷技では無いのを見ると、みずタイプには効果が薄いと考えたのだろう。

 当然鈍いヤドンはまともに受けてしまうが、直撃を受けたにも関わらず何事も無かったかの様に立っていた。

 

「効いていないだと?」

 

 まさかの効果無しに暴走族は動揺するが、アキラは別だった。

 ヤドンが無反応なのは効いていないのではなくて、反応もダメージも遅れて認識するだけだ。今の攻撃で受けたダメージは、後数十秒もしない内に来るだろう。

 反動で空を飛んでいたフリーザーが地に降りたその時、ヤドンの目が念を発揮した証である青色に光った。

 

 対象となったフリーザーは、ヤドンの解放された”ねんりき”に体を拘束される。

 こうなればヤドンがダメージを感じるまでの短い時間で、どれだけフリーザーを弱らせることが出来るのか時間との勝負だ。

 念の力に捉えられたフリーザーは、何度も激しく地面に叩き付けられる。単純な攻撃ではあったが、徐々にフリーザーの姿が歪み始めた。どうやら強い攻撃を受け続けてもフリーザーの姿を保ち続けられる程、メタモン達は打たれ強く無かったらしい。

 

 最終的に衝撃に耐え兼ねたフリーザーは元の三匹のメタモンの姿に戻り、それぞれのトレーナーへ返す様に飛ばされた。飛ばされたメタモン達が顔に張り付いて暴走族は慌てふためくが、同時にダメージがきたのかヤドンは横に倒れた。

 

「お…俺達のフリーザーが…」

 

 顔にへばり付いたメタモンを引き離した彼らは、自分達の切り札が負けたことに動揺を隠せなかった。三匹のメタモンが互いに協力し合い、能力も含めて限り無く本物に近いフリーザーの姿を模したのは確かに見事だった。しかし、合体する形で作り上げたが故の脆さと呼ぶべき弱点を三人は見落としていた様だ。

 彼らが呆然としている間に、アキラはヤドンの様子を見るべく駆け寄ろうとした時、雷が轟く様な声が上がった。

 

「お前ら!! 何やってんだ!」

 

 唖然としている彼らに対して落とされた怒りの声にアキラは思わず足を止める。

 声の主は、どうやらこの暴走族のリーダーらしき人物で、呆然としている三人の後ろから姿を現した。

 

「タカさん!」

「馬鹿野郎! タカ”閣下”って言ってるだろうが、俺が相手するから下がれ!」

「へいっ!!」

 

 一喝された三人は、慌てて自分達のリーダーである”タカ閣下”の道を開けるべく下がる。

 

「閣下! やっちまってください!」

「俺達の力を見せ付けてくれ!」

「おうよ!」

 

 既に手持ちがやられた仲間から声援が送られ、タカと言う名の男は得意気に応える。当然アキラは、最後に出てきた彼を警戒する。暴走族の頭なのだから手強いのが予想されるが、彼としては早く倒れているヤドンの元にも向かいたかった。

 

 なので必要とあれば相手が繰り出すポケモンの数に関わらず、残る五匹で一気に勝負を決めるつもりだ。ルール違反だが先にあちらの方が破っているし、元々これは公式戦では無いルール無用の野良バトルなのだから、いざとなったら手段は選ばない。

 

「いけ! ギガルダー! ギガリキー!」

 

 手持ちのニックネームを呼びながら、リーダーのタカは腰に付けた刺青の様な装飾が施されたモンスターボールを投げる。

 どんなポケモンが出てくるのかアキラとポケモン達は身構えるが、出てきたのはシェルダーとワンリキーの二匹だった。

 

「………」

 

 新たに繰り出されたポケモン達に、アキラは我が目を疑った。

 暴走族のリーダーなのだからどれ程の厄介なポケモンを連れているかと思っていたが、最初に蹴散らした下っ端が連れているポケモン達と殆ど変わらない。

 やる気は有る様だが、どこか頼りなさそうで正直に言うと拍子抜けだ。

 

「なんだその顔は! バカにしてるのか!!!」

 

 変えたつもりは無かったのだが、内心で思っていたことが顔に出ていたのか怒鳴り声を飛ばされてアキラは少し委縮する。しかし、この二匹とさっき戦った可能な限り本物を再現したフリーザーを比べると、どうしても後者の方が手強いと言う印象は拭えなかった。なので警戒していた分、気が緩んでしまったのに変わりは無かった。

 

「しょうがねぇよな」

「今まで俺達のフリーザーで何とかしてきたし」

「ていうか閣下が自分からバトルするのって久し振りじゃね?」

「聞こえてるぞてめぇら!!!」

 

 漫才の様なやり取りをされて殺伐とした空気は緩む。

 緊張感があまり感じられなくなって、正直色々と台無しだった。

 仲間にまで実力不足であるのを匂わせる指摘をされているのだから、恐らく先に戦った仲間と大差は無いのだろう。

 

「舐めんなよ! こう見えてもちゃんと鍛えてんだからな!」

 

 さり気なく仲間達がぼやいていたことを肯定する様なことを口にしながら、タカは二匹に技を仕掛ける様に指示する。仕掛けられた攻撃をアキラ達は避けると、反撃を伝える前にミニリュウとブーバーが進んで暴走族リーダーのポケモンに挑んだ。

 

 バトルは自然とまだ公式には認められていないダブルバトル形式となったが、勝負の流れは一方的だった。元々レベル差があるからか、ワンリキーはブーバーと組み合った際に手を焼かれて、まともに攻撃できなくなったところを丸焼きにされる。

 シェルダーはミニリュウの”たたきつける”を殻を固く閉じて耐えていたが、やられるのは時間の問題だった。

 

「一矢報いるんだギガルダー! 根性見せろ!!」

 

 だけどタカは負けるのを認めるつもりは無いのか、大声でシェルダーを鼓舞する。

 トレーナーの言葉が引き金になったのか、一瞬の隙を突いてシェルダーは何度も叩き付けてくるミニリュウの尾の先を殻で挟む。尾の先端を万力の様な力で挟まれたミニリュウは、激痛のあまりのたうち、取り除こうと何度も地面に叩き付けるが、シェルダーは意地でも離そうとしない。

 

「バーット、リュットを…え~と…」

 

 アキラはブーバーに助けるのを頼もうとしたが、ミニリュウの動きが激しいのと助けると言ってもどういう風に伝えれば良いのかわからなかった。

 悩んでいる間にブーバーは”かえんほうしゃ”を放つが、運悪くシェルダーでは無くミニリュウの顔を焼いてしまった。悪気が無かったのは確かだが、のたうちながらミニリュウは仕返しにシェルダーが挟み付いている尾をブーバーにぶつける。当然ブーバーは怒り、まだバトル中であるのに二匹は取っ組み合いを始めた。

 

「待て待てこんな時に喧嘩をしてどうする!」

 

 エレブーとサンドパンを伴い、慌ててアキラは二匹の仲裁に入る。

 そんな彼らを無視して殴り付けて来るブーバーに対して、ミニリュウは尾の先を挟んでいるシェルダーを金槌の様に頭に叩き付ける。流石に何度も繰り返される激しい衝撃に耐え切れなくなったのか、遠心力でシェルダーはミニリュウの尾から離れた。

 

 痛みの元凶が無くなったことで二匹の喧嘩は悪化の一途を辿り、彼らを止めることにアキラ達は手を焼くが、彼は気付いていなかった。飛んで行ったシェルダーの先に、まだボールに戻していないヤドンがいたことに。

 

 緩やかに回りながら飛んでいたシェルダーは、倒れていたヤドンの尻尾に刺さる様に嵌る。

 その瞬間、二匹は眩い光に包まれた。

 

「え?」

「なんだ?」

 

 周りの視線がその光に注目する。

 中でもアキラは、この光がポケモンが進化をする時の特有のものなのに真っ先に気付く。

 何が進化したのかと疑問を抱くが、光が収まったことで露わになった進化した存在を目にした途端、顔から血の気が引いた。

 

 ヤドンがヤドランに進化していたのだ。

 本来なら自分のポケモンが進化したことに喜ぶところだが、進化の仕方が非常にまずかった。

 ヤドンは既に確認されているヤドラン、まだ公式では確認されていないヤドキングのどちらかに分岐進化する種だ。前者はゲームではレベルアップ、後者は特定のアイテムを必要としていたが両者にはある共通点がある。

 

 それはどちらも部位は違えど、シェルダーが噛み付いているという点だ。

 この世界にある本で知ったことだが、ゲームとは違いヤドンはシェルダーを噛み付かせることによって、初めて進化することが出来る不思議なポケモンだ。

 故にトレーナーは、バトルする際にヤドンとシェルダーを戦わせてはいけない。もしバトル中に何かの拍子でシェルダーがヤドンの体のどこかに噛み付いたら、そのまま一体化してしまうからだ。そして今回のヤドンの進化は、さっきまで暴走族が連れていたシェルダーが倒れていたアキラのヤドンの尻尾に噛み付いたことで起こったのは明らかだ。

 

「ど…どうしよう……」

 

 何が起きたのか理解した周りからの刺すような視線と空気に晒されて、アキラはどうすればいいのかわからなかった。




アキラのヤドン、まさかの形で進化。
ゲームではシェルダーは不要ですけど、アニメでヤドンが進化する場面は全部シェルダーが噛み付いているんですよね。
本当に違うトレーナーが連れているシェルダーが、ヤドンの尻尾に噛み付いてしまったらどういう扱いになるんでしょう。(図鑑には一応救済策は載っていますけど)

メタモンの”へんしん”については、ポケスペ2巻でブルーが「姿は似せられても能力は同じにならない」と発言していますが、その前のページでのロケット団戦や他のメタモンの描写、ゲームとアニメなどを参考に、相手の能力を完全コピーするゲーム版の”へんしん”に近い扱いにします。

コピー対象が強過ぎると劣化コピーになるけど、”へんしん”を使える個体同士が合体することで強い個体になるなどツッコミどころは多いですが、展開的にこうした方が色々と都合が良かったり、やれる展開が広がるので。
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