SPECIALな冒険記   作:冴龍

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望まぬ介入

 アキラが病室から姿を消したと言う情報は、タマムシジムにいるエリカにすぐ伝えられた。

 

 部屋の様子から何か争った形跡があったことから、彼が何者かの襲撃を受けたのは明らかで、この事実に彼女は衝撃を受けた。彼が入院している情報は、関係者以外外部に漏らさない様に細心の注意を払っていたが、考えている以上にロケット団の手は広まっている事実を突き付けられた。

 

 すぐにでも彼の行方を捜したかったが、状況はそれを許してくれなかった。

 レッド達の動向やマサラタウン付近でロケット団らしき集団が目撃されたことなど、情報の精査や対策と言ったやることが多過ぎてアキラの捜索に中々人員を割くことが出来なかった。そんな状況に精鋭の一人が慌てた様子で駆け込み、エリカに火急の報を知らせる。

 

「エリカお嬢様! たった今レッドとグリーンの二人がヤマブキシティのバリアを突破したとの情報が!」

 

 突然知らされた報告に、エリカは耳を疑った。

 ヤマブキシティはカントー地方の中心とも言える大きな街だが、ジムリーダーがロケット団に加担してシルフカンパニーを占拠したのを切っ掛けに、街そのものがロケット団の一大拠点と化している。

 

 何とかしたくても街は表向き普段通りに取り繕われているだけでなく、詳しく確認したくても強力なバリアで街を覆い、住んでいる住民達も人質に取られている状況でエリカ達は中々手出しが出来ないでいた。

 ただ街を取り戻すには戦力的に十分に可能ではあったので、一気に攻めるだけの切っ掛けが欲しかった。故に二人が街に突入したのは、待ちに待った好機と言えるだろう。

 

「わかりました。すぐに他の皆さんにもお伝えしてください。――決戦です」

 

 その一言に駆け込んだ精鋭は気を引き締めて、彼女の言葉を他の仲間達にも知らせるべく部屋を出る。そしてエリカの方もカスミやタケシなど、同じ志を持つ正義のジムリーダー達にこの事を伝えるべく動いた。

 

 

 

 

 

 慌ただしくロケット団との決戦が近付いていたその頃、アキラはタマムシシティから離れた森の中に身を潜めていた。

 

 昨日か今日の深夜からずっと彼は、”かなしばり”が解けたブーバーや”ものまね”することで使える様になったサンドパンとミニリュウの”テレポート”を多用して逃げていた。”テレポート”は確かに逃げるのには有用だった。しかし、戦闘状態を含めた限られた状況下で無ければ発動出来ない上に、移動先を指定することが出来ないことも何回も使っている内にわかってきた。

 その為か、逃げている内に何時の間にか街から遠く離れていき、ロケット団から逃れることは出来ても状況は良くなかった。

 

 手持ちも疲れてきたので本来なら彼らをモンスターボールに収めて歩くべきだが、ボールは病室に置きっ放しにしている。移動したくても自力では動けないので、こうして隠れながら休息を取っていた。

 

「せめて靴くらいは履いておくべきだったな」

 

 靴を履く暇も無く飛び出してきたので、足は靴下のままで土で大分汚れていた。

 と言っても、今の彼が着ているのは病院服で体の至る所に包帯やガーゼが施されているなど、どう考えても外を出歩くのには適していない。休む為にこうして木に寄り掛かっているだけでも体は休まるどころか、傷などに響いてしまう。

 

「――先を知っていても、案外活用できないものだな」

 

 この先何が起きるのかがある程度わかるのは確かに大きなアドバンテージだが、何かの指標や未然に危険を避けるくらいでしか、今のアキラは活かせていなかった。

 これらの知識を活かすとしたら、やっぱりレッド達の手助けだろうけど、今の自分達はあまりに力不足だ。

 

 直接彼らと一緒になるのではなく、遠回しで伝えたり彼らの及ばないところで少し手伝う程度なのを想定していたが、今回は意図せずかなり深くまで足を踏み入れてしまった。いや、この世界に本来いない自分が加わっている時点で関わっているいない関係無い。簡単に強くなることは出来ないが、やっぱり力があった方がやれることや選択肢は広がる。

 

「なぁ…リュット」

 

 唐突にアキラは、近くでとぐろを巻いているミニリュウに声を掛けた。

 ミュウツーと戦ってから今日まで、このドラゴンポケモンとは会うことは出来なかっただけでなく、話す機会も無かった。あの時おぼろげながら頭に流れた知らない記憶など色々尋ねたいことが山の様にあったが、今から聞くのはそれでは無い。

 

「まだお前を連れるのに相応しいトレーナーにはなれたつもりは無いけど、少しは気を許せるくらいにはなれたかな?」

 

 今まではアキラの方は信じていても、ミニリュウの方は信じていないという微妙な関係だった。

 けれどあの激戦の最中に感じた不思議な感覚のおかげで、腹を割って話すまではいかなくても互いに本心と相手をどう思っているかを知ることはできた。それに追い詰められた状況とはいえ信じて貰えたのだから、あの出来事を切っ掛けに今までとは違う返事を返してくれるかもしれない。

 しかし、彼の問いにミニリュウは呆れた様な表情を浮かべると尾を立てて横に振る。

 

「そうか…」

 

 まだダメと言う意味だろう。

 案外正直に答えられたが、以前に比べると表情や反応が豊かになっているので、アキラは残念には思いつつも溜息を吐くのではなく苦笑を浮かべた。

 他の手持ちに目をやると、聞こえていたのかサンドパンにエレブー、遅れてヤドンは頷いていたが、ブーバーは何時もの腕組みしたまま細めた目付きで首を傾げ、ゲンガーは「わかりませ~ん」と言わんばかりのジェスチャーをするなど彼らなりの答えを見せる。

 

「まだまだ目標には至れていないか」

 

 そうとなれば更に己を高めていかなければならない。

 その為にも早く病院に戻って体を治すべきだ。

 皆の様子を見る限りでは、完全では無いにしても多少は疲労感は取れただろう。

 

 しかし、逃げてから食事は全く取っていないからアキラも含めて皆空腹状態だ。まだ陽は真上だが、このままでは朝ご飯どころか昼ご飯にもあり付けない。適切な食事が摂れなければ、傷の治りは悪くなるし疲労感も回復しない。

 エレブーには苦労を掛けるが、もう一度背負って貰うことでここから移動しようと思った時、森の茂みから巨大な胴の長い影が飛び出した。

 

「スット!!」

 

 反射的にアキラは近くにいたゲンガーの名を叫ぶ。

 咄嗟にゲンガーは両手を伸ばして”サイコキネシス”を放ち、その波動で影を弾き飛ばした。飛ばされた影の正体であるへびポケモンのアーボックは、激しく木に叩き付けられるがすぐに起き上がる。どうやらここで休んでいることをロケット団に嗅ぎ付けられたらしい。

 

「皆固まるんだ!」

 

 アキラの掛け声を合図に休んでいたポケモン達は一斉にブーバーへ集まり、彼らは”テレポート”を使ってその場から離脱した。アーボックとそのトレーナーだけなら何とか返り討ちにはできるかもしれないが、必ずと言って良い程ロケット団は集団で行動している為、間違いなく何人も近くにいるはずだ。

 

 一人を片付けても、すぐに倍の数が来るのだ。

 まだ万全ではないこともあるが、戦うのは避けた方が良い。

 ところが、次に”テレポート”した先も必ずしも良い場所とはいなかった。

 何故かロケット団の目の前に移動してしまったのだ。

 

「むっ」

「やべ」

 

 突然目の前に人とポケモンが現れて団員達は身構えるが、何かされる前にアキラ達はピンポンダッシュの様にその場から消える。しかし、今潜んでいる森にまで手が伸びているのか、さっきまでのんびりと休息を取れていたのが嘘の様な頻度で、彼らはロケット団に遭遇する様になってしまった。

 

 逃れ切れず軽い小競り合いを何回も繰り返すが、そんなことを繰り返している内に陽は沈み始めて時間がわからないアキラでも夕方になってきたのがわかってきた。

 

「はぁ、はぁ……中々戻れない…」

 

 今日中には戻れるかと思ったが、全く戻れる様子は無かった。

 空腹も限界だが、ポケモン達の方も休む間が急に少なくなって疲れた顔を浮かべるのが増えた。さっきからずっと逃走手段として”テレポート”を使い続けているが、流石にそろそろ技を放つエネルギーが切れてしまうだろう。

 本家”テレポート”使いのブーバーと”ものまね”で使える二匹が使えなくなったら本格的にまずいので、早急に手を打たなくてはならない。

 

「バーット、もうこの際、全てのエネルギーを使っても良いから人がいる場所へ一気に飛ぶってことは出来ない?」

 

 アキラはブーバーに尋ねるが、ひふきポケモンは「お前は何を言っているんだ」と言わんばかりの呆れた眼差しで応える。

 どうやら無理そうである。

 そもそもそんなことが出来るのなら、頭の働くブーバーは既にやっていただろう。昨日まで病院で寝てたのから一転して遭難にも等しい状態になり、流石に慣れてきたとはいえアキラは危機感を抱く。

 

 何とかして人がいる場所に行きたい。

 だけど、”テレポート”は後何回出来るのかわからない上に戦闘状態でなければ機能しない。徒歩で移動しようにも現在地は不明だ。

 正直言って、今彼らが置かれている状況はかなりヤバイ。

 

「まずいな。この後どうしよう」

 

 逃げても状況は悪化の一途を辿るばかり、本当に困った。無い知恵を絞って方法を考え始めた時、ぼんやりとしていることが多かったヤドンが動いた。

 動き始めた彼は、最初にあまり仲が良くないゲンガーに何かを伝える。始めは嫌な顔をしていたゲンガーだったが、閃くものがあったのか積極的に動き始めた。サンドパンやミニリュウ、ブーバーにも声を掛けると、五匹はアキラと彼を背負っているエレブーを囲む円陣の様なものを組み始めた。

 

「? 皆どうしたの?」

 

 彼らは集中しているのか、アキラの問いには反応しなかった。

 互いに手を繋ぐか体のどこかに触れると、目を閉じて一心に集中していた。ただならぬ雰囲気から、彼らが何か凄いことをやるのでは無いかと推測した彼は静かに見守る。実際凄い事であるのかを除けば、彼らは今ヤドンが提案した方法を試していた。

 ブーバーと一時的に”テレポート”が使えるサンドパン達の力を念の力を上手に扱えるヤドンとゲンガーが補助して、敵の接近を察知すると同時により遠く且つ望んだ場所に移動できる様に集中しているのだ。

 

 徐々に”テレポート”をする時に湧き上がる特有の力が普段よりも強まるのを、ブーバーと”ものまね”で一時的に使える二匹は感じる。慣れない力なので今まで暴発させる形で発揮させてきたが、本家エスパータイプの補助もあって上手く抑えていた。

 

 この時点で敵意を抱いた存在が近付いているのを感じ取っていたが、彼らは集中を続ける。そして脳裏に人が居ると思われる大きな建物のイメージが浮かび上がった瞬間、ブーバーが制御から解放したのを機に彼らは再び”テレポート”によりその場から消えた。

 

 

 

 

 

 特別強い”テレポート”でも、長距離の移動は一瞬だった。

 エレブーの背に乗ったアキラと他の五匹のポケモン達は、森の中から一転して薄暗いコンクリートの壁に覆われた広い空間に姿を現した。これまでは適当にランダムで飛んできたが、今回は初めて意図的に建物の中へジャンプすることが出来たようだ。

 

「やっと、森から抜け出せたな」

 

 どこかはわからないが、恐らくタマムシシティのどこかの建物の中だろう。初めはそう思っていたが、辺りを見渡している内にアキラは今自分達がいる空間が奇妙な場所であることに気付いた。

 

 これだけ広いのに窓一つ無いどころか物一つ置かれていない。しかも壁には、何故か格闘技のリングみたいに有刺鉄線の様なものが張り巡らされており何だか焦げ臭い。

 異様な空気が漂っているのをアキラは感じ取るが、サンドパンが何かに気付いたのか急かす様に突いてきた。

 

「サンット、何かい……ギョェアアァアァァァーーー!?」

 

 確認の為に彼は振り返るが、視界に入ったものを目にした直後、悲鳴に近い驚きの声を上げた。

 

 何と黒焦げ寸前の人間が転がっていたのだ。

 弱弱しく痙攣しているところを見る限りでは、幸い焼死体と言う訳で無さそうだが、倒れている人物に一体何があったのだろうか。

 恐る恐る近付いてみると、白目を剥いて倒れている人はどこかで見覚えのある顔だった。あやふやな記憶を手繰り寄せていく内に、彼は何時か見た新聞に載っていた記事の見出しを思い出した。

 

「クチバジムジムリーダー、マチス……」

 

 黒焦げで倒れている人物がクチバジムのジムリーダーにして、ナツメと同じロケット団幹部の一人であるマチスだったことにアキラは驚きを隠せなかった。

 確か彼は、レッドと戦ってから行方知れずの筈だ。では何故ここに倒れているのかという疑問が募るが、とんでもないところにテレポートしてしまったことだけは確かだ。

 

「バーット、もう一度”テレポート”!」

 

 ここにいるのはまずい。

 すぐにアキラはもう一度”テレポート”を命ずるが、ブーバーは首を横に振る。危機的状況なのがわかっていないのかと思ったが、状況がわかっていないのは彼の方だった。

 

 この場所に来ることになった”テレポート”でブーバー達は、アキラの言う通り残ったエネルギーを注ぎ込んだ為、もう使うことが出来ないのだ。それに”テレポート”は、戦闘状態か近い状況で無ければ使えない制約がある。マチスは脅威になる存在だが、倒れている上に敵意は向けられていない。つまり、元から使うことは出来ないのだ。

 

「と…とにかく、早くここから逃げよう」

 

 エネルギーを使い果たしていることにアキラは気付かないが、使う条件が整っていないことだけは理解する。エレブーには負担を掛けっ放しだが、急いでこの建物から出る為にももう一仕事してもらおう。

 出入り口と思われる扉に手持ちを引き連れて、エレブーに背負われたアキラは向かうが、ブーバーとゲンガーは付いて行かずに何故か倒れているマチスが身に付けている装備を物色し始めた。

 

「おいおい何をやっている。何か手に入れても荷物になるから止めようよ」

 

 一体何が彼らの興味を引いたのかは知らないが、変に荷物になったら最悪だ。

 呼び掛けに応じたのか、元々使えそうなものはあまり無かったのか定かではないが、渋々二匹は物色を止める。しかし、マチスが所持していたロケットランチャー的なものだけは担いで戻ってきた。アキラは目線で「捨てろ」と伝えるが、二匹はこれだけはどうしても持ち帰るつもりらしく退く様子は見られなかった。

 

「――わかったよ。だけど、逃げるのに邪魔になったらすぐに捨てるんだぞ」

 

 前にブーバーが手にした鉄筋を武器にミュウツーを殴り付けていたのを思い出したアキラは、彼らが特撮番組の影響を大いに受けているのを悟り、呆れながら説得することを諦めた。

 そう伝えてやっと二匹は頷き、彼らはマチスが気絶している部屋から出た。出た先の通路は嘘みたいに静かだったが、アキラ達は少しも警戒を解かず可能な限り静かに且つ慎重に進む。

 

 先頭はゲンガーとロケットランチャーを担いだブーバーが担ったが、ここでも二匹はテレビの影響なのか通路に背を付けながら曲がり角などでは慎重に様子を窺ったり、身振り手振りで進むように伝える。その後をミニリュウとアキラを背負ったエレブーとヤドンが付いて行き、サンドパンが殿を務めて後ろから誰かが不意を突かれることが無い様に警戒する。

 

 誰とも遭遇しない不気味な静けさに、彼らの緊張感は自然と高まる。

 僅かな異変一つを見逃さない様に進み続け、曲がり角でブーバーが身を屈めて様子を窺うが、突然大量の水流に襲われて壁に叩き付けられた。

 

「バーット!?」

 

 アキラは驚きの声を上げるが、敵襲と判断したゲンガーとミニリュウは曲がり角を飛び出して、水流を放った下手人に対して反撃を開始する。後ろに下がっていたアキラからは相手の姿は見えないが、仕掛けた方も黙ってやられるつもりは無いのか更に技らしきものを繰り出す。

 何時もなら開幕の大技で蹴散らせるミニリュウとゲンガーを同時に相手取っているのだから、今戦っている相手は強敵だろう。ここから抜け出す為にも、この一戦は踏ん張りどころと考えたアキラは気を引き締める。

 

「ゴルダック! リザードン!」

「――え?」

 

 対策を考え始めた正にその時、聞き覚えのある声が角の先から聞こえる。

 まさかと思い、二匹と戦っている相手との攻撃の応酬が止んだタイミングでアキラはエレブーを前に進ませて、角から顔を出すと知っている人物がそこにいた。

 

「――グリーン?」

「お前は……アキラ?」

 

 ミニリュウとゲンガーが戦っていたポケモンを率いていたのは、大分前に戦ったことのあるグリーンだった。アキラの方の二匹は身構え続けていたが、グリーンの手持ちであるゴルダックとリザードンは、今戦っていた相手が敵ではないことに気付いて大人しくなる。

 

「何でお前がここいる?」

「”テレポート”を使って逃げていたらこの建物に来てしまったんだ。ていうかここどこ?」

 

 彼と会ったことで、アキラは今自分達がいる場所がどこなのか、疑問のパズルのピースが嵌っていくのを感じていた。

 さっきマチスが気絶していたこと、そしてグリーンがここにいること、それらが意味することを考えると嫌な答えしか想像できない。

 

「ここはシルフカンパニー本社ビルだ」

 

 予想通りの答えが返ってきて、アキラは思わず天を仰いだ。

 シルフカンパニーにグリーンがいるという事は、現在進行形でヤマブキシティでロケット団との決戦真っ最中だ。今の自分では如何にもならないから首を突っ込むつもりは無かったが、何で体調が万全では無い状態でこんな大規模な戦いに紛れてしまったのだろうか。

 

 ミュウツーと遭遇して病院送りにされた上にナツメに追い掛け回された挙句、カントー地方の命運を賭けた戦いに巻き込まれるなど誰が想像できる。

 己の不運を嘆くべきかアキラは途方にくれるが、グリーンの後ろからロケット団とは違う人達が姿を見せた。

 

「後ろの人達は?」

「拉致されていたマサラタウンの人々だ」

 

 成程とアキラは納得するが、突然ビルが轟音と共に大きく揺れた。

 音といい天井から埃や塵が落ちてきたことから、何か強い衝撃がこの建物を揺らしたらしい。

 

「急いだ方が良さそうだな。アキラ、町の人達を逃がすのに協力しろ!」

「言われなくても協力するよ。俺もここから去りたいし」

 

 ここがロケット団の本拠地ならば、一人で動くよりは誰かと一緒に行動した方が良いだろう。それにグリーンがいるのならかなり安心だ。

 

 グリーンはボールから出していたポケモン達を引き連れて建物の外へ出て行き、アキラもブーバーが復活したのを確認するとエレブーに後を追う様に頼む。

 建物の外に出ると、目の前に広がっていた光景は混乱の一言だった。

 今出てきたシルフカンパニー本社から出火した火が周囲の建物に広がっており、ロケット団は大騒ぎになっていた。我先に逃げる者もいれば、火の手を止めようとする者もいたが、共通しているのは誰もビルから大勢の人々が出てきたことを気に留めていなかったことだ。

 

「町の人達を守る様に動いてくれ」

「わかった」

 

 グリーンを先頭にアキラは、手持ちをマサラの人々を護衛する形で配置させて彼に続く。

 周囲の混乱を余所に逃げる彼らは、誰からも気付かれないことを祈っていたが、気付いた一部の団員がポケモンを差し向けてきた。対抗できるのはグリーンとアキラだけしかいなかったので、二人は人々を守るべく手分けしてロケット団のポケモン達を相手取る。

 疲労が溜まってはいたが、幸い手強そうな進化形態のポケモンはグリーンの手持ちが積極的に引き受けてくれたので、アキラ達はそれ以外の敵を相手取る。

 

 アキラは手持ちに指示を出したりしていたが、具体的に言わなくても彼らはやることがわかっているのか、マサラの人達が逃げる時間を稼いだり、相手取っていた敵を倒すことが出来たら別の仲間の援護に向かったりする。

 中でもミニリュウは、これまでの鬱憤を晴らすかの様にとにかく暴れた。その荒々しさは形はどうあれ助かってはいたが、このままだとアキラの手の届かなそうな場所へ行きそうな勢いだった。

 

「リュット、深追いをする必要は無い。皆疲れているし、今は逃げるのが最優先だ」

 

 エレブーの背に乗るアキラは、釘を刺す様にミニリュウに忠告する。理由はわかっているが、ここは私情よりも周りの安全確保が優先だ。もし聞いてくれなかったらボールに戻して頭を冷やさせようと考えていたが、ミニリュウは渋々ながら深追いはせず逃げるアキラ達に付いて行く。

 以前なら全く耳を貸してくれない場面だったが、こうして見ると彼らも少しずつ変わってきているのだと場違いながらもアキラは改めて実感するのだった。

 

「もう少しで通行用ゲートに着くが油断するな!」

「言われなくても!」

 

 戦いが長引くにつれて仕掛けてくる団員は増えてギリギリの状況が続くが、何とか退けつつ彼らは順調にヤマブキシティの出入り口へと向かう。進むにつれて、ようやく街の外に出られる通用門らしき建物を視認できる距離までアキラ達は近付けた。

 あと一息でこの街から抜け出せる。

 飛び交う攻撃は激しさを増し、彼らは気を緩めずに進み続けるが、突然アキラは刺す様な痛みを腕から感じた。

 

「ッ!」

 

 急いで確認すると、たった今エレブーが躱した”どくばり”らしき針が腕に刺さっていた。すぐに引き抜くが刺さった箇所は紫色に染まっており、アキラは痛みだけでなく気怠さや息苦しさを感じ始める。ただでさえ疲れている体を毒に侵されては長くは持たない。

 あっという間に意識は朦朧としてきたが、それでも彼は街を脱出するその瞬間まで粘る。

 

「固まれぇ! とにかく奴らをこの街から出すな!!」

「邪魔!!!」

 

 団員の何人かが、通用門の前でスクラムを組む様に密集してマサラの人々の脱出を阻もうとしたが、限界が近かったアキラとその手持ち達は力任せに突撃する。

 

 通り魔の様に目の前に立ち塞がるロケット団とポケモン達を強引に蹴散らすと同時に、建物の出入り口を破壊した彼らは、マサラの人達を先導する形で建物内をくぐり抜ける。この時点で既にアキラの視界はぼやけていたが、建物を通り過ぎた先にはロケット団とは明らかに異なる人達が大勢待ち受けていた。

 

「エリカ様! あれは――」

 

 誰が言ったのかはわからないが、今の発言で彼らはエリカ率いる自警団のトレーナーだと判断するには十分だった。

 彼女達は突然現れた一般人の集団に驚きを隠せないでいたが、アキラはそれに気付くこと無くやっと逃げ切れたことに安心したのか、エレブーの背中から滑り落ちて眠る様に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 大勢の人が行き交うタマムシシティ内にあるとある病院の病室に、二人の少年が雑談を楽しんでいた。一人はそこまで体に問題は無いのか自由に動き回っており、もう一人は体が不自由なのか車椅子に乗っていたが、互いに今自分達が置かれている状況を気にしていなかった。

 

「本当に良く助かったなレッド。俺は入院が長引いた上にまたしばらく動けなさそうだ」

「運が良かっただけだよ」

 

 後から耳にした彼の活躍をアキラは語っていたが、レッドは嬉しそうにしつつも謙遜する。

 

 意識を失った後、ヤマブキシティでの戦いはアキラが知っている通りの形で終結した。

 シルフカンパニー本社と周辺の建物が倒壊する被害は出たが、それ以外の被害は殆どと言って良いほど無かった。更に街の中にいた団員達は全員逮捕、主要な幹部達は瓦礫の中に埋もれた証言があるなどこちら側の完全勝利だった。

 

 中でもレッドは中心的な役割を果たし、頬に大きな絆創膏に体の一部に包帯を巻いてはいたものの比較的軽い怪我で済んでいた。

 一方のアキラの方は、退院の先延ばしが決まっていた。

 元々怪我が治っていないだけでなく体調も良くないのに、無理して体を動かしたことや”どくばり”を受けたのが原因なのは言うまでもない。

 

「でもやっと気になることが無くなったよ。これで落ち着いてポケモンリーグに専念できる」

「ポケモンリーグ?」

「そうだ。もう何か月もしない内にセキエイで開催される。アキラも参加しようぜ」

 

 レッドは彼を誘うが、既にアキラの意識はポケモンリーグそのものに集中していた。

 ポケモンリーグとは三年に一度行われる大規模なポケモンバトルの大会で、アキラの世界観で見るとオリンピック的な立ち位置の大会と見ていい。この世界に来てから詳しくは調べていないが、記憶では地方ごとにバラバラに行われているだけでなく出場条件も異なっていた気がする。

 

 時代的に考えると、ポケモンの種類と同様に各地方との交流や公式戦ルールの整備が整っていないからだろう。何の実績も無い自分は無理だろうと思ったが、レッドの話を聞く限りでは、今回のセキエイで行われる大会はバッジ保有などの条件は不要らしい。なので出ようと思えば、アキラでもポケモンリーグに出場することは可能だ。

 

「――退院してからの体調次第かな」

「なら早く治そう。カスミのところで修業した時と比べて俺達は結構強くなっているから、良い所までいけると思うぜ」

「そうかな?」

 

 確かにあの時に比べれば、アキラは手持ちとの理解が進んでいることもあって強くはなっているが、本当にレッドの言う通り良い所まで勝ち上がれるか。

 車椅子を僅かに動かしながら、彼はこの世界で行われる最大の大会であるポケモンリーグへの参加を少しだけ検討し始めるのだった。




アキラ、逃亡の末決戦中のヤマブキシティに巻き込まれるの巻

今回は巻き込まれる形ですが、彼が本格的に自らの意志で介入を始めるのは次の章からを予定しています。
ポケモンリーグに関しては、後の章ではアニメみたいにジムバッジが必須化していますけど、一章や三章までのリーグはオーキド博士が偽名で出場できたのやクルミの解説を見ますと出ようと思えば誰でも出れる様な気がします。
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