SPECIALな冒険記   作:冴龍

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目指す先は

「”がまん”を解放したエレットが…負けた…」

 

 エレブーが負けたことに、アキラは未だに信じられないのか呆然としていた。

 今までは時間切れにでもならない限り、”がまん”を解放したエレブーを止めることは誰にも出来なかった。その為、強敵を相手にした時のエレブーはとても頼れる存在で、例えシバが相手でも活躍してくれると期待していた。

 

 しかし、今回は一匹も倒すこと無く力尽きてしまった。

 唯一の救いはエレブーにやられた影響でエビワラーの息は上がっていたことだが、相手が相手なだけに安心できない。

 

「まさかエレブーが”がまん”を使ってくるとは思わなかった。だが過信は禁物だ。”無敵”などあり得ないからな」

 

 確かにシバの言う通り、”がまん”が解放されたエレブーにある種の無敗神話の様なものをアキラは抱いていた。悔しいが、この過信がロケット団などの大きな戦いではなく今ここで露呈したのは良かったと言えなくもない。

 

 エレブーを戻して、残った手持ちの中でシバのポケモンを相手に有利に戦えるであろう一匹が入ったボールにアキラは手を伸ばす。

 ゲームの中でシバが使ってきた手持ちを考えれば、先に出した二匹以外の手持ちは予想できる。シバの方もエビワラーをボールに戻すと、ヌンチャクでは無く腰に付けたボールを手に取る。

 

「ヤドット! ”ねんりき”!」

「イワーク!」

 

 アキラが技を命じながら投げたボールからぼんやりとした表情をしたヤドンが出てくるが、シバの方はさっき倒されたのとは違うイワークを繰り出した。大地を揺らし、地響きを鳴らす程の巨大な姿だけでもアキラ達は圧倒されるが、彼らは耐える。

 

 カイリキーが出ることを予想していたが、イワークが相手でもやることは変わらない。彼の脳裏にシバが相手では、今までやってきた戦い方はあまり通用しないかもしれない考えがチラついていた。だからと言って、ぶっつけ本番で今までとは異なる戦い方で挑んでも勝てる可能性は低い。

 ならば、今自分達がやれることに全力を尽くすまでのことだ。

 

 ヤドンの戦い方は、動きが鈍い分シンプルだ。

 強力なエスパー技で倒すか、倒す寸前まで追い詰めるかのどちらかだ。

 イワーク程の巨体が相手でも念の力が上手く働くかはわからないが、やるしかない。

 

「”じわれ”だ!」

「へっ?」

 

 しかし、アキラの目論見はさっきのエレブー同様に呆気なく崩されることとなった。

 いわへびポケモンは強く尾を叩き付けると、叩き付けられた地面は一直線に割れていく様に崩れていく。その崩壊に、動きが鈍いヤドンは成す術も無く呑み込まれてしまう。

 

「ヤ、ヤドット!?」

 

 アキラは思わず手持ちの名を呼び掛けるが、”じわれ”によって生じた砂埃が舞い上がって視界を遮られる。砂が目や鼻に入り、彼は手を振って払い除けようとするが、晴れると地割れの中で土や岩の下敷きになったヤドンの姿があった。

 

 既に三十秒は経過しているはずだが、ヤドンはピクリとも動く様子は見られなかった。何時もなら三十秒程経過しなければ反応も痛覚も感じないはずだが、一撃技ではその性質は発揮されなかったらしい。さっきのエレブーと言い、尽く今までの戦い方がまるで通じない。

 

「――やっぱり強いな…」

 

 レッドは勿論、ジムリーダーや道中で手合わせしたトレーナーの何人かもかなり強かったが、シバは桁違いだ。

 これで残る手持ちは二匹。相手の実力を考えるともう勝つ見込みは無いと言っても良いが、アキラは勝負を諦めるつもりは無かった。

 せめて一匹くらいは戦闘不能にしてやりたい。そう意気込み、彼は手にしたボールから次のポケモンを召喚する。

 

「サンット!」

 

 五匹目であるサンドパンがボールから飛び出す。

 体格差を考慮するとイワークの方が圧倒的で、対抗できるだけの相性の良い技は殆ど無いが、彼はさっき閃いた秘策を考えていた。普通に戦っても勝てるはずは無い、何時も通りの戦い方で全力を尽くすとさっきまで考えていたが、その考えを撤回して博打紛いな作戦にアキラは賭けた。

 

「”たいあたり”だ!」

 

 体を持ち上げ、勢いよくイワークはサンドパンに迫る。

 最も基本的な技でありながら、その巨体故に別の技だと錯覚してしまう程の威圧感だった。

 

 以前このオツキミ山を訪れたばかりであるアキラとサンドパンなら、その圧力に呑まれていた可能性は高かっただろうが、経験を積んだ今は怯まなかった。ねずみポケモンは迫るイワークを避けると、すかさず”どくばり”を放つが、岩の様に硬い体に針は弾かれて全く効いている様子は無かった。

 それどころか逆に居場所を教えた様なもので、薙ぎ払う様に振るわれたイワークの尾に巻き込まれて吹き飛ばされる。

 

「地面に潜るんだ!」

 

 一旦身を隠して体勢を立て直す必要があるとアキラは判断を下す。

 もしシバのイワークが”じしん”を覚えていたら逆に危険性は増してしまうが、こうする以外手は浮かばなかった。宙を舞っていたサンドパンは辛うじて着地すると、水の中に飛び込む様に素早く地面の土を掻き上げて地中に身を潜める。

 

「後を追えっ!」

 

 相手が仕掛けてくるまで待つつもりは無かったシバは、イワークにサンドパンを追うべく同じ”あなをほる”を命ずる。

 サンドパンとは違い、頭を地面にぶつけるだけでそのままイワークの巨体は地中へと消えていくが、同時にサンドパンはさっきまでイワークが居た場所の近くから飛び出した。潜った様に見せ掛けてすぐに奇襲を仕掛けようとしたのだが、タイミング悪くすれ違ってしまったようだ。

 

 逆に奇襲を警戒する立場になったサンドパンは周囲に神経を尖らせるが、地響きを伴ってイワークが足元の地面から飛び出して、その勢いにサンドパンは打ち上げられる。

 

「”スピードスター”で顔を狙うんだ!」

 

 更なる追撃を仕掛けようとするイワークに、サンドパンは両手と背中のトゲから無数の星状の光弾を放つ。いわタイプを併せ持つイワークにノーマルタイプの技でダメージは期待できないが、生物にとって重要な感覚器官が集中している顔を狙われるのは嫌なはずだとアキラは考えたのだ。

 狙い通り、ダメージは殆ど受けていないが、それでも目などに当たることを嫌がったのか僅かに軌道をズラすことはできた。

 

「臆するなイワーク! 積極的に攻め続けるんだ!」

 

 地に足を付けたサンドパンに、再びイワークが襲い掛かる。

 正直に言えば最大の武器である自慢の爪も役に立たないのでは、イワークに対する有効手段はサンドパンには無い。あるとしたら”どく”状態にして時間を稼ぐことだが、力尽きるまで避け続けられる自信は無い。

 

 だけど、アキラの頭の中では別の方法で逆転することを考えていた。ひたすら攻撃を避けながら、技を放つのに時間を要さない”どくばり”や”スピードスター”で地道に無視できないダメージを与えていく。

 

 シバのイワークは巨体に似合わず小回りは利いているが、それはあの巨体として考えた場合だ。

 種が違うとはいえ、小回りはサンドパンの方が上だ。小柄な体格と機動力を活かして、ねずみポケモンは積極的に避けながら攻撃を続ける。

 そんな地道な戦いを続けていたら、今まで弾かれていたイワークの体に遂に針が刺さり、含んでいた毒がいわへびポケモンを侵し始めた。

 

「”たたきつける”!」

 

 しかし喜ぶ間もなく、巨体相応の長くて巨大なを尾が箒を掃く様に振るわれた。

 サンドパンは避けようとしたが、逃げ切れずに岩や土砂に巻き込まれる形で薙ぎ払われて一緒に埋もれてしまう。

 

「止めだ!」

 

 サンドパンが土砂に埋もれて機動力が発揮できないと見るや、イワークはヤドンを一撃で倒した文字通り一撃必殺の技である”じわれ”を引き起こす。

 時間が経てば経つほど、毒で体力を奪われたり疲労するのだ。長期戦になれば不利なので、ここに来てシバは勝負を掛けてきたのだ。

 

 だが、アキラはこれを待っていた。

 長期戦になる可能性を見せながら上手く状態異常にすれば、彼は一撃で倒す為に強力な技を繰り出してくる筈と考えていた。仕掛けてくる大技まで誘導することは出来ないが、全ての条件は満たされた。

 後は活かすだけだ。

 

「チャンスだサンット! ”ものまね”だ!」

「何!?」

 

 地割れに呑み込まれる寸前に、土砂の中からサンドパンは飛び出す。割けていく大地から逃れると両手の爪を地面に突き立て、今イワークが放った”じわれ”を”ものまね”でコピーして放つ。

 ゲームでの設定では、一撃必殺はレベルが高いポケモンには効果は無い。

 その法則に従えば、確実にサンドパンはシバのイワークより下だ。

 

 だけど今は現実。

 以前ゴースが棍棒と言う形とはいえじめんタイプの技を受けた様に、全てがゲームの通りとは限らない。迫る地割れから逃れようとイワークは体を動かすが、大技が躱されると想定していなかったのかすぐには動けず、そのまま亀裂へと巨体を崩していく。

 イワーク程の大きさのポケモンが落ちていく衝撃は凄まじいもので、彼らが勝負を繰り広げていた場所は、揺れるだけでなく舞い上がった砂埃に覆われた。

 

「か…勝った?」

 

 まさかの成功に、アキラは呆然と口にする。

 あんな賭けと言うべきか、どんなに上手くいっても強力な技をコピーするところまでと考えていた妄想に近い作戦が、こうも上手くいくとは流石に思っていなかった。

 地面に突き立てていた爪を引き抜いたサンドパンは失敗を想定して構えるが、晴れた視界の先にある巨大な亀裂の中でイワークは横たわっていた。

 

 ピクリとも動かないところを見ると、戦闘不能であるのは間違いないだろう。

 四天王を相手にまさかの大金星を勝ち取ったことを悟ったアキラは思わず拳を握るが、直後にシバは豪快に笑い始めた。

 

「やるではないか!! まさか俺自身が仕掛けた技で倒されるとは思っていなかったぞ!」

 

 さっきのエレブーの様に相手の勢いを利用して反撃や攻撃に転ずることは良くあるが、今の様な自分が仕掛けた技をそのまま返されるとはシバは思ってもいなかった。今まで数々のトレーナーと戦ってきたが、彼の様なトレーナーはシバにとっては初めてだった。

 

 お世辞にも良いとは言えない粗の多い指示、自分に近い方針とは言っていたもののまだまだポケモンの機嫌を窺っている節などあるが、発想力に粘りは見所はある。元々フルメンバーで挑むつもりだったが、手持ちを初めて手合わせする相手に倒されるのは久し振りでもあった。

 増々彼に興味を抱き、イワークを戻したシバはまだ出していない最後のボールに手を掛ける。

 

「まだまだ力を出せるだろう。いくぞ!」

 

 イワークと同じく素手でボールを投擲すると、ボールからシバの切り札的存在であるカイリキーが姿を現す。

 腕を組んだ一見すると隙だらけの登場だったが、背丈はシバと変わらないのにさっきのイワークを遥かに凌ぐ歴戦の猛者が放つ威圧感を放っていた。

 

「さあカイリキー、”きあいだめ”だ! オオオオオォォォォ!!!」

 

 シバの雄叫びに合わせて、カイリキーも声を上げて体に力を漲らせる。

 一見するとトレーナーの行動は無意味に見えるが、大なり小なりトレーナーの状態はポケモンに影響する。やる気があればポケモンもやる気に溢れ、やる気が無ければポケモンも気力を無くして適当にしか動かない。一心同体と錯覚してしまうまでの彼らの様子にサンドパンは怖じ気づくが、アキラは彼らの姿に不思議と感じるものがあった。

 それが何なのか理解する前に、気合を入れ終えたカイリキーは体を屈めると、サンドパン目掛けて突進する。

 

「もう一回”じわれ”だ!」

 

 さっきの様なラッキーは期待できないが、動きを阻害することは出来るはずだと考えたアキラの指示に、サンドパンは再び両爪を地面に突き立てる。

 音を立ててカイリキー目掛けて再び大地が割けていくが、カイリキーはジャンプして地割れを飛び越えた。

 

「”スピードスター”!!」

 

 どんどん距離を詰められ、慌ててアキラ達は止めようとするが、信じがたいことにカイリキーは放たれた無数の光弾を四つの腕を巧みに動かして尽く砕く様に弾いていく。

 

「”からてチョップ”!!」

 

 すぐ目の前に接近してくる直前までサンドパンは攻撃を続けていたが、結局カイリキーは止まることなく手刀を振り下ろしてくる。

 咄嗟にサンドパンは両手を持ち上げて爪を交差させる形で防ごうとするが、驚異的なパワーの前に守りは呆気なく破られる。そのまま頭から手刀の直撃を受け、砂埃が舞い上がる程の勢いでサンドパンは顔を地面に叩き付けられて力尽きた。

 

「ありがとうサンット、良くやってくれた」

 

 労いの言葉を掛けながら、アキラはサンドパンをボールに戻す。攻撃をする前にやられた訳でも無く、こちらから攻撃を仕掛け続けたにも関わらず何も出来ないまま倒されてしまった。

 これが真にポケモンと共に自らも鍛え抜いたトレーナーの実力。

 

 ポケモンのレベルもそうだが、彼らを導くシバの観察力と判断力もズバ抜けている。

 四天王でなくても彼は雲の上の様な存在であることを実感するが、アキラの胸中は悔しさよりも興奮にも似た高揚感の方が占めていた。それは敵わないと分かっていても増々挑みたくなる不思議な気持ちであったが、彼はその理由を何となく理解する。

 

 バトルが楽しくて仕方ないのだ。

 

 振り返ってみれば、この世界に来てから手持ちとの関係に悩んでいたり余裕が無い切羽詰まったバトルが多くて、レッドの様に伸び伸びと楽しくバトルをする機会はあまり無かった。

 

 もっと長く戦いたい。

 もっと強くなりたい。

 

 様々な思いを抱いて、アキラは最後のボールを手に取る。

 

「準備は良い?」

 

 モンスターボールの中にいる最後の手持ちであるミニリュウにアキラは語り掛ける。

 以前はどう伝えようとお構いなしだったミニリュウも最初は睨む様な目付きだったが、徐々に不敵な笑みを浮かべる。

 

 カイリキーは、シバのエースポケモンと言える存在だ。

 恐らく万全状態の手持ちが束になってもミュウツー程ではないとしても、倒すのは一苦労なのが容易に想像できる。だけどさっきのサンドパンを見ればわかる様に、勝負は最後までわからないものだ。気分が高揚していることもあって、今なら何でもできる気がしていた。

 

「さぁ、行くぞ!」

 

 ボールからミニリュウが飛び出すと同時に、アキラもドラゴンポケモンと共にカイリキー目掛けて駆け出した。

 サンドパンの時は、イチかバチか賭けたことでイワークを倒すことが出来た。そう何度も幸運に恵まれるとは思っていないが、ある可能性にアキラは期待を寄せていた。

 

 それはこの前、ミュウツーとの激戦の最中に体感した戦っているポケモンと互いの思考などを共有する様な不思議な感覚だ。さっきのシバとカイリキーが共に雄叫びを上げている姿に、彼はかつて感じた感覚に似たものを見出していた。

 謎が多く錯覚の可能性も十分にあるが、上手くあの領域に再び至れれば二度目の番狂わせも十分に可能だ。その為にも、彼は可能な限りミニリュウの傍に居るべく一緒に動くことにしたのだ。

 

「”こうそくいどう”からの”たたきつける”!」

「迎え撃つんだカイリキー!」

 

 楽し気にアキラが指示をすると、シバもまた興奮した様子でカイリキーに迎撃を命ずる。

 双方の拳と尾が鈍い音を立ててぶつかり合うが、勢いを付けたにも関わらずミニリュウの体は後ろに飛ばされる。けど、そうなる可能性は織り込み済みだ。

 本当の意味ですぐ傍は流石に無理だが、こうして可能な限りポケモンの近くにいるとあの時ほど気持ちは読み取れなくても、どの様に動けば良いのかアキラにはわかる気がした。

 

「”でんじは”!」

 

 追撃を仕掛けてくるカイリキーに、ミニリュウは青白い電流を浴びせる。

 鍛え上げられたカイリキーでも”まひ”状態にされては堪らないのか、少しぎこちなく”からてチョップ”が振り下ろされる。

 

「横に転がって”りゅうのいかり”!」

 

 自分が戦っているミニリュウの立場であるのを想像しながら、アキラは最適且つ無理のない動きを伝える。

 体を転がして避けるのはミニリュウは得意としており、加えて”りゅうのいかり”は覚えている技の中でも特に溜めの必要が無い。指示通りに体を転がして避けたミニリュウは、痺れで思う様に動けないカイリキー目掛けて青緑色の炎を放つが、カイリキーは踏み止まった。

 

「”メガトンパンチ”!!」

 

 炎を払い除ける様に、カイリキーは握り締めた右上の腕でミニリュウの頭を殴り付ける。強い衝撃を受けて、ミニリュウは頭の中が真っ白になってしまい、次の行動を起こす間もなく今度は左下の腕に殴られた。

 

「”こうそくいどう”で距離を取るんだ!」

 

 まずいと判断したアキラは離れる様に伝えるが、殴られた衝撃で頭を揺さぶられるミニリュウはまともに思考が行える状態では無かった。苦し紛れに再び”りゅうのいかり”を放ってカイリキーを退かせるが、僅か数秒の間に受けたダメージはかなりのものなのか、エレブーに次いでタフであるドラゴンポケモンの息は荒くなっていた。

 

 これ以上の長期戦は難しい。

 一瞬の判断の遅れが命取りになることを胸に刻むと、これが最後になると思いながらアキラはミニリュウに最強の技を命じた。

 

「リュット、”はかいこうせん”!!!」

 

 命じた直後、不本意だったのか一瞬だけミニリュウの反応は遅れたが、それでも残された力の全てを振り絞って”はかいこうせん”を放つ。荒々しい光の束は、カイリキー目掛けて一直線に飛ぶ。

 避けられたらそれで終わりだが、シバは予想外の行動に打って出た。

 

「正面から打ち破れ!」

 

 避けられる時間的な余裕が十分あったにも関わらず、何とシバはカイリキーに迫る光に突撃することを命じた。下手をすればやられるかもしれなかったが、カイリキーは主人の命令を忠実に守って”はかいこうせん”を正面から受け止める。

 

「パワーを上げるんだ!」

 

 アキラはそう命ずるが、既に残された力を注いでいたミニリュウはこれ以上”はかいこうせん”の威力を上げることは出来なかった。正面から受けたカイリキーは、破壊的な光線に耐えながら一歩ずつミニリュウに迫る。

 

 折角相手が堂々と正面から挑んできたのだ。何としてでもこのチャンスをものにしたかったが、その前にミニリュウは限界に達したのか放っていた”はかいこうせん”の光はか細くなり、最終的には途切れてしまう。

 

「止めだ。”じごくぐるま”!」

 

 反動と疲労で動きが緩慢になったミニリュウを、カイリキーは四本の腕で羽交い絞めにすると勢いよく転がり始めた。

 ”はかいこうせん”を正面から受け切っただけでなく、自身にもダメージが来るにも構わずカイリキーは転がり続けると、最後にミニリュウを投げ飛ばす。その勢いはミニリュウの体が大岩にめり込むどころか、貫通して更にその奥の絶壁に蜘蛛の巣状のヒビを入れてめり込ませる程強烈なものだった。

 

「リュット!」

 

 急いでアキラはミニリュウの元に駆け寄るが、壁から剥がれる様に足元に倒れたミニリュウは完全に気絶していた。

 

「――よくやってくれたリュット。ちゃんと導き切れなくてごめん」

 

 労いの言葉を掛けながら、体を屈めたアキラはミニリュウをボールに戻す。

 手持ち六匹で挑み、繰り出された四匹の内一匹しか倒すことは出来なかった。

 完敗ではあったが、セキチクシティでケンタロス一体に蹂躙された時とは違いアキラの気分は清々しかった。ボールを腰に付けて一息つくと、カイリキーを伴って歩み寄って来たシバは手を差し出した。

 

「久し振りに良い勝負ができた。礼を言う」

「こちらこそ、ありがとうございます」

 

 アキラも手を差し出して握手に応じる。

 エレブーの”がまん”、ヤドンの”ねんりき”など、今まで頼りにしてきた戦い方が必ずしもこの先も通じるとは限らないことを知るだけでなく、時には賭けにも近い冒険をする必要があるなど考え方を改める良い機会にもなった。他にもバトルのみならず様々な面で色々と学べたことも多く、今回のシバとのバトルは今までに無く良い経験だった。

 

「――俺は…」

「?」

「いや、俺達はまだ強くなれますか?」

 

 思わずアキラは、シバから見て自分達はまだ伸びしろがあるのか尋ねた。

 そんな事は自分達の努力次第なので彼にわかるはずは無いのだが、一流のトレーナーはどう見ているのか気になったのだ。

 

「お前達次第だ」

 

 握手しているのと同じ大きく武骨で豆だらけの手を肩に乗せて、彼の質問にシバはそう答えた。やはり明確な答えは貰えなかったが、ただ言葉を掛けて貰っただけなのにアキラは体からやる気と力が漲るのを感じる。

 目指す先は遥か彼方、だけどそれでも何時かとは思わずにはいられなかった。




アキラ、敗北するもシバの言葉で更に飛躍したい想いに火が付く。

ようやくサンドパンに”じわれ”を使わせることが出来て大満足です。
アニポケでサンドが”じわれ”を決める場面を見てから、自分の中ではサンド系統=”じわれ”の使い手のイメージが付いちゃっています、

シバはストイックでバトルに関して人一倍厳しいのがゲーム中では描かれているので、多分こんなに優しくは無いと思いますが、そこはどうか目を瞑ってください。



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