SPECIALな冒険記   作:冴龍

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大変長らくお待たせしてすみません。

まだ二章は書き上がっていませんが、長く待たせ過ぎるのは考えものと判断して、この章とキリが良いと思える二章の序盤数話まで投稿を再開します。

二章終盤までの投稿を楽しみにしている方がいましたらすみません。


第1.5章
再始動


 大都会コガネシティに拠点を置くコガネ警察署。

 

 ジョウト地方最大の街を守る為、他の街に比べて多くの人材が所属しているが、近年急増するポケモン犯罪への対応力を高めるべく、まだ若い少年ではあるがポケモンバトルの実力が優れているアキラを講師として招いて特別講習を行っていた。

 

 その警察署内にあるバトルフィールドで、二匹のポケモンが距離を取って向き合っていた。片や手を鳴らし、片や準備体操をしたりと前準備に余念は無かったが、互いに体から溢れ出る力を抑え切れていないのは目に見えて明らかだった。

 

「署長…今更ですが本当に良いのですか?」

「構わないさ。幹部クラスと戦うとしたら、どれだけのものなのかを署員達に見せる良い機会になると思う」

 

 二匹の様子を眺めながら、アキラは心配そうに尋ねるが署長は気にしていない様子だった。

 休憩から戻ってすぐに次の指導に入ろうとしたが、署長の提案で自分の手持ち同士を対決させることが急遽決まった。目的は今署長が語っていることからもわかるが、正直言って不安要素の方が多い。

 

 理由は幾つかあるのだが、理に適っているかを考える前に提案を聞くや否や二匹はバトルフィールドに移動してしまったので止める間も無かった。

 取り敢えず本気で戦うとまずいので、手加減することを前提に今立っている場所から動かない、攻撃は全て正面から受け切るなどの条件を付けたが、あの二匹がどこまで守るか。

 

「――ここ大丈夫かな?」

 

 万が一に備えて、残った四匹が実力行使で止める準備は整ってはいる。

 バトルフィールドがあるこの建物内の構造を確認するアキラの心配を余所に、睨み合っていた二匹の戦いは始まった。

 

 先手を取った方は体から溢れる熱を一際強くすると、数え切れない拳の残像を繰り出しながら襲い掛かった。いきなり仕掛けられた派手な技に観戦していた人達は一気に注目するが、対峙していた方は迫る拳の嵐を目で追えない速さで腕を動かして巧みに防いでいく。

 

「……”みきり”ですか?」

「いえ、”みきり”でしたら避けています」

 

 確かに”みきり”なら全ての拳の動きを見切れるだろうが、見切れたとしてもあれでは体が反応し切れない。始まったばかりとはいえ、仕掛けている方もそうだが、防いでいる方の能力の高さを窺わせる攻防と言えるだろう。

 全ての拳を受け切ると、すぐさま受け切った方は体から炎の様に揺らぐオーラを放ち、右手を握り締めて作った拳に纏わせると突き出す様に光弾として飛ばす。

 

 規模から見て加減していることがわかるが、威力は十分。しかも先程の物理攻撃とは違い、防ぐのが難しい特殊攻撃だ。何時もなら避ける流れではあるが、この模擬戦では繰り出された攻撃は避けずに全て正面から受け止めることが対戦条件になっている。

 反撃の立場に置かれた方は背中に背負っていたものを抜き、どこから出したのか激しい炎を纏わせると迫る光弾にそれをぶつけて、爆音と共に破裂させる様に掻き消す。

 

「そういえば、あのポケモンは何故()()を背負っているのですか?」

「――色々ありまして」

 

 話すと長くなるし、目の前に集中できなくなるので詳しい説明は後回しにする。

 攻撃を防がれたことに放った方は悔しそうに歯軋りをするが、防ぎ切った方は当然だと言いたげな態度で、纏わせた炎を振り払うと再び背中に背負い直す。

 

 まだ戦いが始まって一分も経っていないが、注目を集めるには十分過ぎる激しい攻防に、殆どの人は釘付けだった。だがアキラとしてはこの場に集まっている人達が、この戦いに使われた技と技術の応用をどれだけ把握できているのかが気になっていた。

 軽く見渡してみるが、表情からしてパンチの嵐や光弾、その光弾をアイテムに炎を纏わせて防いだなどの表面的な部分しかわかっていないといった感じだ。

 

「まあしょうがないか」

 

 彼らを始めとした自分が連れているポケモン達の戦い方や技は、独自と言うべきか独特と言うべきか奇妙な方向に発達をしている部分があるから、大体どういう技かだけわかれば十分だろう。

 今戦っている二匹は、アキラの手持ちでは一、二を争う力を持っているので、互いに手加減した状態ではどの道決着はつかない。そろそろ止めさせるべく声を掛けようとしたが、アキラは双方の体に必要以上の力が込められていることと次の動きを察した。

 

「やめるんだ!!」

 

 しかし、声を上げると同時に両者はアキラの言い付けを破り、フィールドが砕ける程の力で地を蹴り激突した。

 さっきまでとは比にならない力の籠った拳が激突して、両者を中心にフィールドは大きく凹む。だが、足場の悪さを気にすることなく二匹はすぐに別の行動に移る。

 序盤の攻防を再現する様に、両者は目で追えない速さで拳を繰り出し、互いに拳の弾幕を激しくぶつけ合う。しかし、今繰り広げられている戦いのスピードがさっきとは微妙に違っていることに気付く者は、彼らのトレーナーであるアキラ以外いなかった。

 

 その違いはすぐに出て、片方は防戦に追いやられて一歩ずつ後退し始めるが、一瞬の隙を突いて飛び上がる。天井を突き破りそうな勢いではあったが、ギリギリで急停止して留まり、まだ下にいる相手に狙いを定める。そのままエネルギーの充填を待たずに必殺の一撃を放とうとしたが、意識の範囲外から何かが体にしがみ付いてきた。

 思わず反撃し掛けたが、空中であるにも関わらず完全に抑えられたことにより体は真っ直ぐ落ちていく。このままバトルフィールドに叩き付けられるかと思いきや、ぶつかる直前に体は外的な力の働きかけによって緩やかに着地する。

 

「そこまでだ。やり過ぎるなって言ったはずだ」

 

 何時の間に移動していたアキラは、両者の間に割って入る形ですっかり荒れたフィールドに立っていた。バトルフィールドに残っていた方も普通に立ってはいたが、動こうにも動けない状態で取り押さえられていた。

 こうなることは予測していたのでこの段階で止めることは出来たが、あのまま続けていたら間違いなくこの施設はボロボロになっていた。

 

「場所を考えるんだ。必要無いのにこの建物を破壊してでも自分達の力を見せ付けたいのか?」

 

 まだ彼らが不満気な様子であるのを見て、アキラは興奮で頭に血が上がっている二匹の頭に冷水を浴びせるかの如く冷めた声で問い掛ける。力が付くと今の自分や彼らの様に出来る事や行動範囲は広がるが、大きな力である程好き勝手に動けてしまうので扱いには気を付ける必要がある。

 そこまで告げて、ようやく彼らは自分達が何をやっているのか気付いたのか矛先を収める。

 

「まっ、磨いた力を見せたいって気持ちはわからなくも無いから、程々にな」

 

 一転してアキラは明るく告げるが、彼の言葉に二匹はゆっくり深く頷く。

 特に片方からは目に見えて反省の色が窺えたので、今回はこれで十分だろう。

 

 彼らと同様にアキラも今の自分の力には満足していないし、もっと強くなりたいと言う願望は抱いている。だけど力が増したら、それだけ扱いや振る舞いには気を付けなければならない。

 過去を振り返りながら、アキラは手持ちを伴って砕けたりデコボコになったフィールドの整地に取り掛かっている職員達の手伝いに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 

 

 鳥ポケモンが穏やかに飛ぶ、晴天の青空。

 人の手が加わっていない踏み固められた街外れの道を、アキラを先頭に彼が連れている手持ちのポケモン達は走っていた。

 今やっているランニングは、普段なら体力作りの為の日課と定めている彼しか走らないが、今日は手持ちも一緒に走る日だった。

 

「よし。もう一回やるぞ。一、二、三――はい!」

 

 走りながらアキラは、合図を出すとちょっと音程は外れてはいるがリズムの取れた掛け声で音頭を取る。一緒に走っているポケモン達も、少し遅れる形で彼の外れ気味ではあるがリズムの取れた声を繰り返す様な声で応える。

 テレビで見たゲームのCMと同じものなので軍隊の様なフレーズだが、ポケモン達は面白いのか一部を除いてノリノリだ。ただ走るだけの方が集中できるが、それでは彼らが退屈してしまう。なので何時もより疲れるが、少しでも手持ちのテンションを上げる為に必要なので、アキラは掛け声を上げ続ける。

 

 そんな時だった。走りながらリズム良く掛け声を上げていたアキラの視線は、何気無く向けたとある方向に固定された。

 少し離れた所から人影らしいのが見えてきたのだ。

 何やらよからぬ気配を感じた彼は目を凝らして見ると、見えてきた人影はまるで何かから逃げる様に走っていた。

 

「ごめん! 一旦ストップ!」

 

 アキラが制止を掛けると走っていた手持ちは足を止めるが、最後尾でヤドンを背負って走っていたエレブーは止まり切れず、ゲンガーとブーバーを巻き込んで倒れ込む。サンドパンと呆れながらハクリューが手助けしているのを確認すると、アキラは見えてきた人影に意識を向ける。

 

 見えてきた青年は、どうやらポッポやオニスズメ、ズバットに追い掛け回されているらしい。種類が違うポケモンが一緒になって追い掛けていることにアキラは違和感を抱くが、取り敢えず助けるべきだろう。

 

「サンット、”スピードスター”を頼む」

 

 アキラがそう告げると、サンドパンは片腕を持ち上げて爪から星型の光弾を多少間隔を空けて三発放つ。本来”スピードスター”は無数、或いは連続で星型の光弾を飛ばす技だが、練習を重ねたことで精度に速度、威力を上げた単発形式をサンドパンは放てる様になっていた。

 撃ち出された三つの光弾は、それぞれ青年を追い掛けていた三匹に命中して一撃で落とす。

 

「大丈夫ですか?」

 

 余程疲れているのか、目の前で膝を着いて息を荒くしている青年に声を掛けるが、顔を上げた彼は礼を言うどころか縋る様に声を上げた。

 

「頼む! たっ、助けて!」

「え?」

 

 突然助けを求められて、アキラは戸惑う。

 彼を追い掛けていた三匹は撃退したのに、一体何から助けて貰いたいのか。

 かなり切羽詰まった表情なのも相俟って事情が理解できなかったが、すぐに彼の疑問の答えは出ることとなった。

 

「あっ、いたぞ!」

 

 訳を青年に尋ねる前に、ポケモンを連れたアキラと同じか少し下の年と思われる少年達が続々と集まって来たのだ。何やら面倒そうな事に巻き込まれた予感がしてきたが、彼らは連れていたポケモン達を並べると口々に声を上げ始めた。

 

「やいてめぇ! 逃げるなよ!」

「俺達とポケモンバトルしろ!!」

「戦えないからって年下から逃げる何て情けないと思わないのか!」

「――バトル?」

 

 アキラは何気無く顔を青年に向けるが、彼は首を横に振り、モンスターボールの中でグッタリしている手持ちを見せる。

 

「手持ちがもう戦えないので…」

「そうですか」

 

 何となく事情を理解したアキラは、被っていた帽子を調節すると少年達に向けて声を上げた。

 

「この人のポケモン達は瀕死状態だからもう戦えないよ!」

「はぁ!? そんなの理由にならねぇよ!」

「そうだそうだ! 戦えないポケモンを連れてる兄ちゃんが悪い!」

「戦えないなら勝ったら貰える分の賞金をよこせ!」

 

 何を言っているんだこいつら、と思わず言いたくなる彼らのあまりにも理不尽な要求にアキラは思わず眉を顰める。

 

 ポケモントレーナーなら目が合ったり、申し込まれたバトルは受けるべきとあたかも常識の様に言われているが、当然断る事は出来る。そうでなければ仕事の為、或いはただ愛玩用としてポケモンを連れているトレーナーは安心して外を出歩くことが出来ないからだ。

 それに青年みたいに手持ちのポケモンが瀕死なら、他のトレーナーは野生のポケモンに襲われる心配の無い安全な場所まで手助けするのがマナーだ。

 

 そして賞金はただ勝負に勝つだけでなく、互いの合意がある場合でのみ払われるものであり、戦えないポケモントレーナーに挑んで不戦勝だから賞金を渡せは通じない。更に彼らの場合、さっきの三匹のポケモンの動きを見ると、戦えない青年をポケモンを使って追い掛け回していたと考えられる。

 無防備な人間に対してポケモンの力を笠に着て執拗に金品を要求することは、マナー違反どころか歴とした犯罪だ。

 

「ポケモンバトルが出来ないトレーナーにバトルや金品を要求するのは犯罪だぞ。警察のお世話になっても良いのか?」

「うるさいな! そんなにゴチャゴチャ言うならお前が相手をしろ!」

「負けたら賞金として持ってる金は全部置いて行けよ!」

 

 どうやら彼らは何が何でもお金が欲しいらしい。

 話が通じず、アキラは嘆息すると同時にある可能性を頭に浮かべる。

 最近タマムシシティの外れで、トレーナーや旅人を狙った恐喝が起きていると言う話を彼は耳にしている。まさか目の前にいる自分とほぼ同年代の彼らが、その主犯なのではないか。

 

「どうやら彼らは、この付近で恐喝をしている犯人みたいです」

「でしょうね。まさか遭遇するとは思っていませんでした」

 

 青年の言葉からアキラは確信する。

 どこかから流れ着いた腕に覚えのある不良トレーナーがやっているのだと思っていたが、彼らが組織的にやっているとは思っていなかった。

 ポケモンは人間にとって良き相棒になってくれる存在ではあるが、関わり方を間違えればどんな兵器よりも恐ろしい存在になる。

 一緒に走っていた手持ちをモンスターボールに戻し、ボールを片手にアキラは前に進み出る。

 

「あの…止めた方が…」

「大丈夫です。このまま逃げたとしても追い掛けてくるのは目に見えています」

 

 手口は不明だが、彼らが連れているポケモンを見る限りでは、この近辺で捕まえられる未進化ポケモンばかりだ。そして少年達は、ポケモンを手にしてまだ間もないと見て良い。つまりレベルの低さを補う戦い方をしてくるはずだ。

 恐らく連れているポケモン達を一気に繰り出して数で押すか、やられる度に彼らが何回も入れ替わる様に連戦して戦えなくなったところで金品を強請るのだろう。前者は正式なバトルでは無いので目立つが、こうも被害が広がっているのを見ると後者で巧妙に隠してやってきたのだろう。

 仕掛けてくるであろう戦術を頭の中でシミュレーションして、アキラは声を上げた。

 

「代わりだけど、俺が相手をしようか?」

「OK! 良いだろ!!」

 

 バトルが了承されたとして知って、少年の一人がナゾノクサを伴って前に出る。

 それを見たアキラは、手にしていたボールを投げてゲンガーを繰り出す。

 

「よし! ”しびれごな”だ!」

 

 すぐさまナゾノクサは、自らの役目を果たすべく”しびれごな”を撒き始める。上手い事バトルに持ち込めて、彼らの殆どはアキラの事をバカな奴だと思っていた。

 

 今挑んでいる仲間は、相手のポケモンを状態異常にして弱らせる役目を担っている。彼がやられて賞金として幾らか差し出したとしても、すぐに別の誰かが挑むのを繰り返せば、どんなトレーナーでも疲弊する。連れているポケモン全てを倒せば、取られた分は取り返せる上に”お願い”をすれば手に入るお金も増える。今までそれで上手くやってこれたのだから、今回も上手くいくだろう。

 そう信じ切っていた。

 

「”サイコキネシス”」

 

 風に流れてくる黄色い粉を粉ごと”サイコキネシス”で、ゲンガーはくさポケモンを吹き飛ばす。

 強烈な念の衝撃を受けたナゾノクサは、地面に叩き付けられて動かなくなり、少年は驚く。

 

「いっ、一撃って」

 

 確かにゲンガーが強いポケモンなのは知っているが、ここまでなのは予想していなかった。

 自分とほぼ同年代なのに、これだけ強力なポケモンを連れているのを羨ましく感じていたが、軽く一蹴されて湧き上がって来た憧れの気持ちも吹き飛ぶ。

 

 だけど呆然としている暇は無い。

 最近覚えたポケモンの相性を思い出しながら、次に彼はエスパータイプの攻撃が効きにくいスリープを出した。

 

「スリープ、”さいみんじゅつ”!」

 

 出てきたスリープは相手を眠らせようと手を複雑に動かし始めたが、間を置かずに動いたゲンガーのドロップキックを食らう。予想外の攻撃にスリープは怯み、そのまま”ナイトヘッド”を腹部に受けて呆気なく倒された。

 

「つ、強い」

 

 今まで一撃で手持ちを倒された経験が無いのか、少年は表情を青ざめる。

 外見を見ると年は自分達と変わらないが、もしかしたらとんでもないトレーナーに挑んでしまったのかもしれない。事実、最初の”サイコキネシス”を放つ以外で、ゲンガーのトレーナーであるアキラは一切指示を出していないのだ。

 彼の動揺は他の少年達にも波及していたが、何やら彼らはヒソヒソと話すと最後に頷き合った。

 

「大丈夫だ! 俺達が付いてるって!」

 

 リーダー格と思われる少年が励ますと、怖気ていた彼はコラッタを出す。

 二戦とも余裕の勝利で気が緩んでいるのか、目の前のゲンガーは背中をポリポリと掻くなど完全に舐めた態度だった。

 

「いけコラッタ! ”でんこうせっか”だ!」

 

 余裕なのを後悔させてやると意気込み、目にも止まらない速さでコラッタは突進するが、ねずみポケモンの体はゲンガーをすり抜けてしまう。

 

「えっ!? どうなっているの!?」

「ゴーストタイプにノーマルタイプの技は基本的に効果は無いよ」

 

 工夫次第では当てることができるけど、と心の中で思いながら、アキラは少年に当たり前の様に告げる。焦るあまりタイプ相性を少年は忘れており、すり抜けてしまうのを予想していなかったコラッタは、勢い余って草の上を転がる。悠々とゲンガーはバランスを崩したコラッタに追撃を仕掛けようとしたが、背後から腕に白いものが巻き付いて動きを封じられる。

 元に目をやると、何時の間にか出ていたビードルとキャタピーが口から糸を吐き出していた。

 

「おい! ルール違反だぞ!」

「そんなの知るかよ!」

「皆いくぞ!」

 

 青年は抗議の声を上げるが、手段を選ばなくなったのか、少年達は他の手持ちもボールから出して数で押してきた。このまま一対一のバトルをしていても勝ち目が無いと見て、それなら数で圧倒してしまおうと考えたのだろう。

 完全なルール違反だが、既に犯罪紛いな行為をしている彼らは聞き入れるはずも無かった。しかし戦っていたアキラは、気にすること無く他のボールを手にする。

 

「好きにして良いよ」

 

 そう告げて両手に持ったボールを開くと、軽い炸裂音と共に鋭い爪を構えたサンドパン、燃え滾る炎を溢れさせたブーバーが飛び出し、押し寄せる集団へと駆けていく。

 ゲンガーに襲い掛かろうとしたポケモンを二匹が蹴散らすと、すぐにシャドーポケモンの動きを封じていた糸を断ち切る。

 

 ようやく自由になったゲンガーは、不意を突いてきたことに怒っているのか物理攻撃が低いにも関わらず積極的に肉弾戦を挑み、ワンリキーを流れる様に叩きのめす。

 ブーバーには何匹かが組み付こうとするが、ひふきポケモンは全身から炎を放って一掃すると足元から迫ったコラッタとアーボの首根っこを掴んで投げ飛ばす。

 サンドパンは仕掛けられた攻撃を避けながら、冷静に一匹一匹に単発形式の”スピードスター”や”どくばり”で正確に撃ち抜いたり、爪で切り裂いていく。

 

 二十匹近いポケモンが加勢しているはずなのに、たった三匹に何も出来ずにやられていく。サンドパン以外の戦い方がかなり荒いこともあるが、蹂躙とも言える光景に彼らは恐怖を抱く。

 

「トレーナーだ! トレーナーを狙うんだ!!」

「えっ、でもそれヤバくない?」

「良いからやれ!」

 

 恐怖のあまり、とうとう彼らのリーダー格はポケモン達のトレーナーを狙うと言う暴挙に出る。

 あんまりな指示に青年は勿論、仲間の何人かは驚きで目を見開くが、標的にされたアキラは「別に俺を倒しても意味は無いんだけどな」と呑気な事を口にしていた。仮に自分が倒れたとしても手持ちは何の問題も無く戦い続けるだろうと彼は思っていたが、彼らを止める者がいなくなって余計に面倒になる事まで考えは至っていなかった。

 

 オニスズメなどの飛べるポケモン達は空から突っ込み、距離を取っていた何匹かは何らかの飛び技をアキラ目掛けて放つ。

 どんなに弱そうなポケモンの攻撃でも、生身の人間には脅威だ。

 

 だが迫っていた鳥ポケモン達は、アキラとの間に割り込んできたエレブーがガラス板の様な輝く壁を盾にして防ぎ、飛んできた攻撃も何時の間にか彼の背後に控えていたヤドンの”ねんりき”によって軌道を変えられる。起死回生の一手を阻止されて、少年達にはもう打つ手が無かった。

 

「さて、締めは任せるぞ!」

 

 終わりが近いと見たアキラは、最後に残っていたボールを投げる。

 浮き上がったモンスターボールが開くと、陽の光を受けて鮮やかな青い輝きを放ちながらハクリューが姿を現す。その美しい姿に彼とその仲間達以外は見惚れるが、宙を舞いながらドラゴンポケモンは角の先端にエネルギーを溜めていく。

 そして溜められた光をハクリューは、自らの綺麗な姿からは想像できない荒々しい”はかいこうせん”として放つのだった。




現在でも過去でも気合入りまくりのアキラの手持ち達。
ここからは今まで以上に色濃く、現代の彼らに繋がる独自解釈や設定を含めた要素が所々に出てくる予定です。

そしてこの1.5章は、ちょっと影が薄くなってきたアキラの目的やそれに関する出来事に焦点が当てられます。
その為、オリジナルと言う名の色々な捏造設定や解釈、展開が出てきますのでご注意下さい。

今回のオリジナル章は数話で終わる予定。

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