SPECIALな冒険記   作:冴龍

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投稿前の仮タイトルは「余の顔を見忘れたか」


複雑な立場

 陽が沈むにつれて、空は少しずつ夜空へと変化していく。

 暗くなるのに応じてタマムシの街々に明かりが灯されていく中、街外れの広場にあるサーカスに良く見られる派手に膨らんだ大きなドーム状のテントから、アキラとレッドが出てきた。

 既に見物客は帰っていてショーも終わっているが、今回訪れる切っ掛けを作った青年に用があったので他より遅れて出てきたのだ。

 

「初めて見たけど、スッゲェ面白かったな」

「あぁ、実際に目にすると自然と引き付けられたよ」

 

 見物に行く前はイマイチ面白いイメージが湧かなかったアキラだったが、会場の興奮感もあって定番の芸でもかなり楽しめた。けど何よりも興味を引いたのは、彼らが披露したのがただの芸だけでなく、攻撃技を上手い具合に制御して魅せたり、使うには制約がある技をその制約を超えて扱うと言った技術と応用だった。

 

「サンットの”スピードスター”みたいに、練習すれば色々応用できるのは知っていたけど、まさかあそこまで自由にできる何て思っていなかったよ」

 

 理解が及ぶ範囲でもエスパー技の力で、”かえんほうしゃ”などの他タイプ技の制御。舞い上がった水を一瞬にして凍らせて電気系ポケモンの放電と合わせての幻想的な光景の演出。更に魅せた後、その氷もご丁寧にジャグリング出来る様な形に凍らせて、その後の芸に繋げたりと見ていて飽きなかった。

 どれも楽しむだけでなく考察のし甲斐があるものばかりだが、それらの中でも特に二人の興味を引いた技があった。

 

「あの兄ちゃんのバリヤードも凄かったよな。俺のピカも使える様になるかな?」

「さぁ、あんな感じで出来るのはわかったけど、未知数だからね」

 

 様々な技を組み合わせての演出や芸も素晴らしかったが、青年が連れていたバリヤードの”みがわり”が彼らにとっては一番衝撃的だった。”みがわり”はHPの四分の一を消費することで、自身と同じ分身を生み出す技だ。生み出された分身はある程度自立して動けるので使い方次第では有用な技だが、複数の分身を作ることは基本的に出来ないとされており、色も本体に比べると薄いので見分けやすい。

 

 ところが青年のバリヤードが生み出した”みがわり”の分身は、本体と変わらない色をしていただけでなく、本来は出来ないはずの自らの分身を二体も生み出した。

 芸自体は地味ではあったが、ポケモンバトルを良く知る者なら驚愕ものであった。一体どうやればそんなことが出来るのか気になって、さっきショーが終わった後お礼のついでに尋ねたのだが、流石にそこまでは教えて貰えなかった。

 

「秘訣は秘密…まあ飯の種だから教えてくれる訳は無いよな」

「でも、ああいう技術もあるってことがわかっただけでも良かったと思うよ」

 

 ゲームではプログラムの都合上どうしてもポケモンの限界は数値の形でハッキリと決まってしまうが、この世界ではそれも努力と工夫、発想次第で幾らでも補える。

 現実となった世界でのポケモンは、本当に奥が深いことを改めてアキラは感じる。けど見栄えや派手さ故にメリットばかりに目が行くが、デメリットも考慮すべきだ。

 

 ”みがわり”は体力を削る性質上体への負担が大きく、複数生み出す以前に繰り返し”みがわり”を行う事自体、何か作戦でもない限り自殺行為だ。それに本体がやられてしまえば分身は消えてしまうので、実戦で使いこなすのはかなり難しいだろう。

 このまま二人の会話が何時までも続くかと思われたが、少し肌寒い風が吹いたのを機に彼らは今日と言う日が残り短いのを悟る。

 

「アキラ、この後どうする?」

「俺はタマムシ大学に戻ってヒラタ博士と合流する。それに今日は戦ったから、リュットのケアもしないといけないし」

「あぁ~、まだ体調を崩しやすいのか?」

「最近はミニリュウだった頃と変わらなくなったけど、それでも油断は出来ないからね」

 

 生き物と一緒に暮らすのは、お金が掛かるだけでなく世話も大変。

 元の世界でもそう言われていたが、本当にそうなのをこの一年半の間にアキラは学んでいた。

 

 レッドの場合だと手持ちの半分以上が大型のポケモンで構成されている上に、大食らいのカビゴンもいるので食費だけでも現実逃避をしたくなる程だ。

 アキラの方は手持ちが小型揃いなので、食費に関してはレッドに比べれば遥かにマシではあったが、彼らの体調管理――特に今彼に話した様にハクリューの体調に気を遣っていた。

 

 理由は、進化してから体調を崩す機会が増えたからだ。

 

 あまりに唐突であったので、ヒラタ博士やエリカや彼らの伝手を頼って原因を探っていったら、どうやらミニリュウ時代に原因があったらしかった。と言うのもヤマブキシティでの決戦後に押収されたロケット団の資料の中に、アキラが連れているミニリュウに該当すると考えられる生体実験の資料が見つかったのだ。

 

 それによるとロケット団によって施されたであろう改造は、ミニリュウの姿であるのを前提にしていたらしく、ハクリューに進化して体質が変化したことで噛み合わなくなっている可能性があったのだ。

 最初はどうすればいいのかわからず慌てふためくだけでなく右往左往していたが、治療以外にも激しいバトルを控えさせたり、故郷と思われるセキチクシティのサファリゾーンの湖に療養させたりしてきたおかげで、ここ最近は改善はされてきてはいる。

 

 だけど、ドラゴンタイプのポケモンは他のタイプに比べると研究があまり進んでいなく、情報不足なのも重なって軽い健康診断でもかなり費用が掛かる。

 タマムシシティやクチバシティ付近の道中にいるトレーナーに、アキラはたまに腕試しで勝負を挑みに訪れることはあるが、最近は腕試しよりも医療費を稼ぐ意図でのポケモンバトルをすることが多くなった。しかもヒラタ博士達の手助けがあってこれなのだから、手持ちの体調管理や食費などをほぼ全て自力でこなしているレッドをアキラはある意味尊敬していた。

 手持ち関係での問題は相変わらず山積みだが、それ以外にも彼には気になる事があった。

 

「――なぁレッド」

「何だ?」

「…俺の体って太っている様に見える?」

「え? 俺と大して変わんないと思うけど」

「だよね」

 

 手持ちの定期的な健康診断をするついでに、アキラ自身も健康診断をしているのだが、何故か体重が記憶にある元の世界で測った数値よりも増えていたのだ。

 当初はあまり気にならなかったが、健康的に良くなかったのかこの前医者から不思議に思われながら指摘を受けた。そんなこともあって機会がある事に体重計で測っているが、それでも今の年齢の男子の平均体重と比べると何故か高いままだ。

 

「何で体重を気にしなきゃいけないんだか…」

「まあ、大体の不満には同意できるけど、俺のライバルなんだから健康でいろよ」

「……ライバルね」

 

 ポケモンリーグが終わってから、たまにレッドはアキラを「ライバル」と称することがある。本人はグリーンと同じ好敵手の一人と言う認識なのだろうけど、聞く度にアキラは嬉しくも恐れ多い気持ちになる。

 理由としては、彼の一番のライバルであるグリーンを差し置いている気がするのと、自分達の実力が彼らと張れる程では無いと考えているからだ。

 

 やまおとこやたんぱんこぞうなどのトレーナーなら、油断したり想定外の事態にならなければ問題は無い。でもベテランや腕の立つエリートトレーナーが相手だと手持ちが万全でも苦戦を強いられることは多く、彼らとのバトルは負けも多い。

 そんなエリートトレーナー未満の実力しかない自分が、幾ら仲良くしているとはいえ、この地方最強のトレーナーのライバルの一人だなんて分不相応だ。

 

「………」

「どうした? ぼんやり見上げて」

「――いや…どうすればレッドに勝てるかな~って、思っただけ」

 

 ポケモンリーグが終わってから一年半、今日までアキラは度々レッドと戦ってはいたが、結果は全戦全敗。

 本で得た知識の活用から始まり、新しい技を習得することや更なるレベルアップの鍛錬、力押しがダメならレッドの手持ちの戦い方などと言った動きも研究――と言えるのかは知らないが、とにかく自分なりに研究してきた。そして彼以外のバトルで味わった敗北の反省も糧にしてきたが、アッサリやられる時もあれば、ギリギリまで追い詰めたりと結果は同じ負けでも過程は安定していない。

 

 一体自分には何が足りないのか。

 確かにレッドと彼が連れているポケモン達は、戦う度に思いもよらない技の応用や戦術を駆使するだけでなく、追い詰めた際に底知れない爆発力を発揮するので手強い。相手が何を仕掛けようと関係無く勝てる様に今以上に勝つ為に努力するべきなのか、それとも無意識に彼には勝ってはいけないと思っているのか、皆目見当が付かない。

 そんなことをぼんやりと考えながら歩いていた時だった。

 

「あっ! いたいた!」

 

 聞き覚えのある声にアキラは脱力気味に振り返ると、自分達とほぼ同じ年か少し下の少年達が集まって来た。人数は四人と大幅に減ってはいたが、昼間に青年や自分から金品を巻き上げようとした少年達であることに彼は気付いた。

 

「あっ、お前ら」

「知り合い?」

「違うよ。ポケモンの力を笠に着てカツアゲ働いていた奴らだよ」

「カツアゲ?」

 

 昼間にあったことをアキラは簡単に話すと、レッドは納得すると同時に何をやっているんだとばかりに声を上げる。

 

「君達、ポケモンは大切な仲間なんだ。そんな悪い事に利用するなんていけないことだぞ」

 

 まだ若いが、レッドはポケモンと接するのに必要な確固たる心構えを胸に抱いている。

 彼は真面目に自分が信じているトレーナーとしての在り方や考えを説くが、少年達はバカにする様な目付きで全く意に介していなかった。

 

「レッド、いきなりお前の考えを語っても無理だよ」

「でも…」

 

 レッドが考えている在るべきポケモントレーナーの姿は、確かにポケモントレーナーの基本であると同時に理想的な姿の一つだ。それが彼の強さの一番の秘訣であるのをアキラは理解しているが、それを完全に体現出来ているのは、彼を始めとしたごく少数。目の前の少年達からすれば、頭の中が花畑な奴の考えと受け止められているかもしれない。

 

「ちぇ、さっきは勝てたからって調子に乗りやがって」

 

 二人が自分達の事をあまりに気にしていないのが癪なのか、一人が苛立ちを零す。どう見ても昼間の出来事を詫びに来たと言うより、仕返しに来たと言った方が正しい雰囲気だ。もう一度負かして今度こそ警察に突き出すべきかと考えたが、あれだけやられたにしては妙に彼らは余裕そうだ。

 

「昼は一方的にやられたけど、今度はそうはいかないからな」

「なんせ最強の助っ人を呼んで来たんだからな」

「…最強の助っ人?」

 

 怪訝な顔で聞くと、リーダー格と思われる少年が後ろに振り返る。

 

「兄ちゃん! こいつだよこいつ!」

 

 すると、彼らの後ろから排気音を鳴らしながら一台のバイクがゆっくりと止まり、乗っていた如何にも”不良”の姿をした柄の悪い青年が前に進み出てきた。

 

「おうおう、てめぇらか。弟やその友達に手を上げたって奴は?」

「えっ? 俺も?」

「レッドは下がっていて」

 

 キョトンとするレッドを下げて、アキラは青年と対峙する様に前に進み出る。

 これは自分の問題だ。無関係のレッドを巻き込む訳にはいかない。

 相手の方が一回りも大きい体格ではあったが、色んな交友関係や経験を積んだお陰もあって彼は、臆することなく相手の動きに意識を集中させながら堂々と振る舞った。

 

「俺は彼らのバトルに応じただけです。それに文句を言うならこっちの方です」

「文句だぁ?」

 

 アキラの台詞に青年は怒りで顔を赤くする。

 若干喧嘩腰の態度の彼にレッドは心配で目を離せなかったが、アキラはまだ大丈夫だと確信していた。具体的に何が大丈夫なのかは上手く言葉にはできないが、青年の体の力み具合を見る限りでは今すぐ殴り掛かってくることは無いと確信していた。

 もしそういう動きが見られたら、すぐに気付いて下がる事も出来る。

 

「お前誰に口聞いてんのかわかってんのか? あ゙っ!?」

 

 脅す様にドスの効いた声で顔を近付けて迫って来るが、アキラは嫌そうに目を細めたがそれだけだった。確かに怖いが、手を出してくる動きが見られないのやミュウツーとの戦いを思い出せば、命の危険が全く感じられないので十分に恐怖心を抑えて冷静でいられた。

 だけどこの様子では、こちらの言い分を伝えても火に油を注ぐだけだろう。

 

「強がるのは止めとけよ。兄ちゃんはムッシュタカブリッジって暴走族のメンバーなんだから、謝るなら今の内だぜ」

「――え?」

 

 どうしようか考えようとした直後、青年の弟が伝えた内容にアキラは目を見開き、何回か目の前の不良青年に視線を向けると、それっきり何も言わず黙り込んだ。

 

「どうした? 謝る気になったのか?」

「慰謝料と俺達のポケモンの治療費全額払ってくれるなら見逃してやっても良いぜ」

 

 彼の驚いた様な反応を見て、少年達は暴走族を相手にしていることを知って怖気ていると判断したのか口々に煽るが、それでもアキラは反応しない。

 心配になったレッドは友人が危機に瀕している印象を抱いたが、よくよく見ると何故か彼は呆れにも似た雰囲気を漂わせ始めているのに気付いた。黙っていたアキラは少し考える素振り見せると、威圧している青年に対して口を開いた。

 

「悪いことは言いません。今日は……後でややこしいことになるので、これ以上俺と関わるのは止めた方が良いですよ」

 

 一応言葉を選んでいるのかアキラは慎重に伝えるが、青年はキレた。

 

「止めた方が良いだ? バカにしてるのか!!」

 

 青年は殴り掛かるが、腕の動きに気付いていたアキラは少し大袈裟ではあったが、既に大きく後ろにジャンプして下がったので空振りで終わる。殴られそうになったにも関わらず、彼があまり焦っている様が無かったことも腹が立つのか、頭に血が上った青年はとうとう腰に付けているモンスターボールに手を掛けた。

 

「こっちにもメンツがあるんだよ」

 

 それだけを口にすると、彼はボールからガラガラを召喚する。

 出てきたガラガラは片手のみならず、もう片方の手にもホネを持ち、更に背中にもホネを何本か担いでいると言う奇妙ながら青年と同じ威圧的な外見をしていた。

 

「何だ? あのガラガラ?」

「初めて見るけど、複数のホネを持つガラガラっているんだ」

「今更謝ってもおせぇからな!」

 

 対決は避けられないと見たアキラはサンドパンのボールを手に掛けたが、別のボールが自己主張し始めたのでそちらに持ち替えた。

 

「程々にな、バーット」

 

 怪訝に思いながら、アキラはブーバーを繰り出す。

 本来なら相性はあまり良くないが、ブーバーの実力を考えれば恐らく問題は無い。相手が出たのを見てガラガラは両手のホネを振り上げて迫るが、工夫も何も無いただの勢い任せの突撃だった。

 

「バーット、”かえんほうしゃ”」

 

 勢いも特殊攻撃で十分に押し返せるとアキラは判断するが、ブーバーの口から放たれたのは炎では無く黒い煙だった。驚いたガラガラは足を止めるが、あっという間に両者は黒い煙に包まれて姿は見えなくなった。

 

「”えんまく”って、何を考えているんだ?」

 

 別にこの選択をされても致命的では無いので問題は無いが、ブーバーの目的がわからなかった。

 黒い煙で視界を遮られているので二匹がどうなっているのか確認できなかったが、煙幕の中で戦っているのか、絶え間なく鈍い音が聞こえる。

 しばらくすると、煙幕の中からボコボコにされたガラガラが飛び出し、少し遅れてガラガラが手にしていたホネを構えたブーバーが姿を現した。

 

「成程、それがお目当てだったって訳ね」

 

 すぐにアキラは、ブーバーが出たがっていた理由も含めて全て理解する。

 目付きは何時もの細めた鋭いものだったが、心なしか輝いている様に見える。

 本当にテレビの影響を受けやすいと言うべきか、特撮番組での決めポーズや技の真似だけで飽き足らず武器までも欲しがるとは思っていなかった。

 

「この野郎、ふざけやがって!」

 

 一方的に痛め付けられたのとホネを取られたことで、青年は怒りを爆発させる。

 彼はボコボコにされたガラガラを無理矢理起き上がらせると、加勢のつもりなのかニドラン♂を出す。加えて後ろの少年達もポケモンを出して、昼間みたいに数で押す気が満々だった為、アキラも対抗して他のボールに手を掛ける。

 再び戦いが繰り広げられるかと思われたその時、彼らの近くに一台のバイクが止まった。

 

「おぅおぅ、ケンジじゃねぇか。何やってんだ?」

「リュウジさん!」

 

 リュウジと呼ばれた青年がやって来たことに、ケンジと呼ばれた青年は表情を明るくする。

 

「このガキどもが俺達……ムッシュタカブリッジ連合に喧嘩吹っ掛けてきたんすよ!」

「ちょっと待て! 先に仕掛けてきたのはそっちだろ!」

 

 まさかのでっち上げに、レッドは慌てて反論する。

 このままでは自分達に正当性があっても更に面倒な事になる。

 ところが、アキラは慌てるどころか場違いな気鬱な表情を浮かべて溜息を吐く。

 

「ん? お前は…」

 

 リュウジがアキラに目線を向けるが、彼は気まずそうに顔を逸らす。

 相手が誰であれ失礼なことだが、リュウジと言う名の人物は怒るどころか表情を明るくして姿勢を正した。

 

「アキラの若頭じゃないですか。お久し振りッス!」

「………え?」

 

 突然リュウジが取った行動が、ケンジには理解出来なかった。

 あまりにも予想外な流れに、理由を知っていると思われる二人以外何がどうなっているのか理解が追い付かなかった。

 

「ほらケンジ、お前もちゃんとしろ。彼は俺達ムッシュタカブリッジ連合名誉総長なんだぞ」

「なったつもりも引き受けたつもりも無いんですが…ていうか普通にアキラで良いです…」

「いえいえ、俺達が勝手に祭り上げているだけなんで、お気になさらず」

「…物凄く気になるんですけど」

 

 目に見えて沈んだ空気を纏いながらアキラは返すが、そんな彼の様子に気付いていないのか気にしていないのかリュウジは話を進める。

 

「――え? 名誉総長って…アキラが?」

「え?」

 

 レッドの言葉に二人以外呆気に取られていた者は、一斉にアキラに注目する。

 名誉総長と言う事は何らかの集団のリーダー、そしてムッシュタカブリッジ連合名乗る暴走族の幹部格の一人であるリュウジのアキラに対する態度。

 しばらく間はあったが、二人の会話内容を彼らが理解した途端、一斉に悲鳴染みた驚きの声が街中で響いた。

 

「アキラ、お前暴走族の一員なのか!? 何があったんだ!? 何か世の中に不満でも抱いているのか!?」

「レレレレ、レッド落ち着いて、なったつもりはないし、不満があったとしても非行に走る程じゃないし」

 

 レッドに肩を激しく揺さぶられて、アキラは戸惑いながらも何とか言葉を紡ぐ。

 正直言って、ミュウツーとの激戦から出来た縁がここまで続くとは思ってもいなかった。

 今回の様にたまに関係者に会うとやたらとこういう扱いになるので、彼にとっては恥ずかしくて気まずいものであった。

 

「あの…アキラの兄貴」

「普通に呼び捨てで良いですよ。年は俺の方が下ですし」

「わかりましたアキラの大将!」

「わかってない」

 

 肩を落としながらツッコミを入れるが、話が進まないので訂正させるのをアキラは諦めた。

 

「では尋ねますが、新入りのケンジと何かありました?」

 

 リュウジの質問に、ケンジは肩を震わせた。

 知らなかったとはいえ、所属している集団の中で最も目上の人物に喧嘩を売ったと知られたらどんな制裁を受けるのか。恐る恐るアキラの動きに目をやると、彼はこちらに目を向けていた。

 この後自分がどうなるのかは、彼の心次第。

 

「――いえ、特に何もありませんでした」

「え? でも何か揉めている様に見えたんですが」

「大丈夫です。少し勘違いがあっただけです」

 

 アキラは断言する様に言い切ると、ケンジは目に見えて安心した様な表情を浮かべた。

 早いところこの場から去りたかったアキラは、ブーバーにガラガラから奪い取ったホネを返す様に促すが、ブーバーは渋る。その様子から一筋縄ではいかないのを察したが、起き上がったガラガラの様子と安心しているケンジの表情を見てある考えが浮かんだ。

 しかし、そんなことをして良いものか。

 数秒の間だけ色々な悩むが、今回くらいは良いかと自分を納得させた。

 

「――ケンジさん」

「はいぃぃ!! 何でしょうかアキラ閣下!!!」

「それタカさんの敬称」

 

 声を掛けると、条件反射の如き早さでケンジは姿勢を正す。

 取り敢えず本来のリーダーであるタカの呼び方に関するツッコミを入れるが、さっきまでの強気から一転して強張った表情をしていた。

 

「このガラガラのホネ…貰っても良いですか?」

「はいぃぃ!! どうぞどうぞ! 何本でも持って行ってください!! ウチの実家は葬儀屋ですので! ホネなら何本でもご用意できますんで!」

「一本で良いです」

 

 予想以上の反応に戸惑いながらも、アキラはガラガラのホネを貰うことを許して貰えた。

 ポケモンに関しての研究が進み、ガラガラの様な道具を所持しているポケモンが近年確認されつつある。更にそれらのポケモンの存在から、バトルの幅を広げる為にポケモンに道具を持たせる話も上がってきているらしい。

 本来ならガラガラのホネ、”ふといホネ”をブーバーが持っても何の効果も恩恵は得られないが、彼が気に入っているので今回は迷惑料のつもりで貰う事にしたのだ。

 腰に付けているボールに入っているゲンガーが、もう一本頼む様に意思表明しているが無視だ。

 

「あの…アキラ局長」

「アキラで良いです…ってまた呼び方が変わっている…」

「サイクリングロードを爆走してストレス発散の予定があるんですが、一緒にしませんか?」

「する気はありません」

 

 微妙に早口で即答するが、ここは話題を変えた方が良いとアキラは判断する。

 

「そういえばタカさん達は?」

「閣下や仲間達はボスの言い付けを守って、昼間は真面目に働いているッス!!」

「あぁ…そうですか…」

 

 いっそのこと解散宣言をすれば良かったのだが、面倒だったのか今でもよくわからないが取り敢えず真面目に働いて社会に貢献する様に伝えていたが、どうやら一応は守っているらしい。

 別にそこまで拘束力があるとは思っていなかったし、事前にエリカなどから教えて貰った人手が欲しい仕事を軽く教えたりしただけなのだが、意外と上手くやっているみたいだ。

 

「昼間ってのが気になりますけど、爆走するとしても近所迷惑にならない程度にして下さいよ」

「へい! 勿論です! 爆走以外にも道中のゴミ清掃や砂浜清掃なども行って社会貢献しているッス」

 

 何か自分が出した命令が妙な方向に効果を上げているらしく、アキラは本当にこれで良いのか悩み始めた。最近は減ってきたのに、何だか胃が痛く感じられてきたのでさっさと話を切り上げたかった。

 

「あっ、そうだ。如何でも良い事ですけど、最近サイクリングロード近くで変な紫色の濃霧が出ているらしいんでご注意ください」

「――なに?」

 

 何気ない言葉であったがそれを耳にした直後、アキラは胃の痛みと帰りたい考えを忘れて目付きだけでなく雰囲気も一変した。

 

「もう一度聞きますが、その話は本当ですか?」

「へい、有毒ガスかわかりませんが、確かに最近そんな霧が出ているらしいッス」

「アキラ?」

 

 突然積極的になったアキラにレッドは声を掛けるが、既に彼は別の事に意識を集中させていた。

 紫色の濃霧、それは目的は多少異なっているがヒラタ博士と共に追い掛けている謎の現象であり、自分がこの世界に来る切っ掛けになったと考えているもの。この一年半の間、片手で数える程しか調査では目的のエネルギー反応は確認出来なかった上に、紫色の濃霧自体に遭遇することすら無かったが、今回の様な話を聞くのは初めてだ。

 

 もしかしたらすぐに動けば可能性はあるかもしれない。

 

 今まで経験したことが無いほど、アキラは期待を抱いた。

 

 

 

 

 

 月明かりに照らされた波の音だけが鳴る夜の大海原を、どこからともなく紫色の霧が海面を這う様に広がりつつあった。

 不気味な色をした霧は潮風の影響を受けずに広がっていくが、その霧の中で一際巨大な影が蠢いていた。




アキラ、昼間の仕返しを受けるが、何とか乗り切ると同時に手持ちに持たせる道具も入手する。
この話から、ブーバーは体術だけでなく”ふといホネ”を使った戦いもやっていきます。
何気に未だに暴走族と関係があるのやホネ入手以外にも色々な要素が入っていますけど、実際に書くとしたら何時になるのか。

第一章を投稿する際に、ブーストが掛かった最大の理由はリージョンフォームの発表と以前書いたと思いますが、もっと突き詰めればリージョンフォームガラガラが出てきたからです。
近いのを考えていただけで資格が無いのはわかっていますが、あれだけは「先を越された!」って思いを抱きました。

それ以外にもSMでは考えていた設定に近い要素も幾つかありましたが、それらの方は悔しいと言うよりは公式がそういうのを考えていると知れて嬉しかっただけでなく、もっとやって欲しいと思いました。
何よりゲームも楽しくて考察のし甲斐もあります。

次回から元ネタはありますが、本格的にこの物語でのオリジナルと言う名の色々な捏造設定や解釈、展開が出てきますのでご注意下さい。

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