今回の連続更新が終わる前に第二章より前の話の追記・修正も終わりましたが、まだどこか気になる所はあるかも。
後、主人公がたまにやる悲鳴は成長するにつれて減らすつもりでしたが、違和感を感じるなどのご指摘を頂いたので、今後は出さない様にします。
密猟者達との戦いを無事に制したアキラ達だったが、その後の後始末には時間が掛かった。
何とかシロガネ山を管理している人達がいる場所まで、密猟者達を可能な限りの拘束を施して運んだが、それだけでもかなり苦労した。しかも手持ちが回復している間に、事情聴取の様なものまでしたので疲労し切っていた。
「疲れた…」
サイドンを野生に帰す場所を見に来ただけなのに、とんでもない出来事に巻き込まれたものだ。自転車を押しながら、アキラはゆったりとした足取りで近くの町へ続いている道を進む。
ある意味今回の出来事の切っ掛けとなったバンギラス親子とは、アキラが管理をしている人達の元へ向かう時に別れた。
元々彼らは野生のポケモンであることや迫っていた危険も無くなったので、そこまで同行して貰う理由は無かった。親であるバンギラスはすぐに理解したが、ヨーギラスは別れるのが嫌なのかまた”いやなおと”混じりの大声で泣くので、宥めるのにもかなり時間が掛かった。しかもエレブーやサンドパンも名残惜しそうにしていたのだから、こちらも納得させるのに同じくらい労力を費やした。
仮に自分に付いて行きたいとしても、生まれたばかりなことや捕獲禁止区域のポケモンなので許可を貰わないといけない、既に手持ちは六匹いるなど問題が山積みだ。
と言った感じではあったが、自分の苦労はともかくバンギラス親子の写真は撮らして貰えたので、ヒラタ博士経由でオーキド博士にバンギラスを新種として報告できるだろう。他にも既に生まれてしまっているが、ポケモンはタマゴから生まれるらしいことも伝えられるので、後に繋がる情報を得られたと考えれば中々の成果だ。
少しずつではあるが、シロガネ山よりも西のジョウト地方を中心に新たなポケモン、そして技も既知のとは異なるものが存在していることがカントー地方に知られつつある。
あくタイプやはがねタイプはまだ未確認だが、この調子ならいずれ確認されるだろう。
「って、バンギラスはあくタイプがあったな」
カイリュー同様に好きなポケモンだったので、特徴は良く知っているつもりだったが、見落としていたことにアキラは今更気付く。
写真と言う証拠はあるが、あくタイプの存在を知らなければバンギラスのタイプを判別することは困難極まりない。密猟者達が言っていた様に、既知の種で近いのはニドクインやサイドンなので、いわタイプかじめんタイプのどちらかまでは考えが至っても、もう一つのタイプが何なのかはわからない。
今までとは違った能力やタイプを持つジョウトのポケモンが、今後表舞台に出てくるだろう。
しかし、既に手持ちを六匹揃えたアキラは、もう他のポケモンを手持ちに加える気は無い。
なので彼としては、ポケモンの種類やタイプが増えるよりは使える技の幅が広がってくれる方がずっと有り難い。
理由としては、イッシュ地方までのポケモンと技を知っているアキラにとって、現段階で使える技がかなり限られているのを少し不便に感じていた。単純に使える技の種類もそうだが、ゴーストタイプは”したでなめる”や”ナイトヘッド”、ドラゴンタイプに至っては”りゅうのいかり”だけだったりとタイプの間で技の数にも大きな差がある。
ここにジョウト地方の技が加われば、この現状は少しは解決すると思うが、そこまで考えて彼はあることが頭に浮かんできた。
ジョウトのポケモンの発見が進んでいるとなると、ジョウト地方の図鑑所有者であるゴールドやクリス、シルバーの三人が動く時期も近い。
しかし、彼ら三人の前に登場するもう一人の図鑑所有者がいる。
「え~と、次の戦い何時だったっけ?」
四人目の図鑑所有者であるイエローが登場するのは、レッドとゴールドの間、つまり四巻と七巻の間なのだが、アキラはその間に起こった出来事は殆ど知らない。知っているのは、四人目である彼女の登場とカントー四天王が敵として出てくること、そしてレッドが行方不明になるくらいだ。
レッドにはどこかに行く際は誰かに行き先を教えておく様に伝えているが、あんまり聞いている様子は無い。
加えてもう二年近くこの世界を過ごしているので、大分記憶も風化していて細かい内容を思い出すことも容易では無くなってきている。ノートの片隅などに思い出せるだけのことを戯言の様な形で断片的には書き留めているが、彼らとの戦いに彼として気に掛かる事があった。
「シバさんと戦うのは…気が進まないな…」
カントー四天王の一人にして、格闘使いのシバ。アキラにとって、彼は助けて貰った恩人でありトレーナーとしての姿勢や考え方に尊敬の念を抱いている人物だ。
実力差が大きいから戦いたくないと言うよりは、敬意を抱いているからこそ、世界の命運を賭けて、各々の思惑が入り混じった形で彼と戦う可能性があることが嫌なのだ。そもそもカントー四天王がレッド達と敵対する理由は何だったのか、ハッキリ言って知らない。
覚えている範囲でカントー四天王の動向を思い出すと、シバはジョウトでの戦いでレッド達に助力した後、何時の間にかポケモン協会公認のジョウト四天王になっていた。
カンナはナナシマでの戦いで、同じく「敵の敵は味方」みたいな感じではあったが、レッド達とロケット団を相手に共闘している。
ワタルの方は微妙な形ではあるが、シルバーに助言したり、オーキド博士にメッセージを送ったりと後に味方として出てきているから、何か勘違いがあったのだろう。
そうなると勘違いで対立をする事になった原因として考えられるのが――
「キクコか…」
後の物語でも殆ど触れられていないカントー四天王最年長にしてゴーストタイプの使い手。
カントー四天王の情報は出来る限り探してきたが、まともに確認できたのはキクコだけだった。加えてその情報は、ポケモンリーグでオーキド博士と戦って準優勝だったことやオーキド博士と一時期一緒に研究をしていたことくらいだ。
どの情報にもオーキド博士が関わっているので、彼に私怨的なものがあると考えられるが、推測の域なので明確な目的は全くわからない。それにもしかしたら勘違いじゃなくて後に改心するけど、とある目的の為に彼ら四人が野望に燃えて、それをレッド達が止める為にぶつかったと言う可能性も十分考えられる。
レッド達の手助けをしたいのは山々だが、二章の流れを全く知らないことと実力がまだ伴っていないことも相俟って、アキラは今回もそこまで関わらない方が良さそうだと考える。
だけど友人であるレッドやその仲間が、やられたり苦しい思いをするのを黙って見ているつもりも無い。どこまでやれるかはわからないが、出来る限り影から動くなり、彼らの力になる事はしようとは思っている。
そう考えていたら、アキラは背筋に寒気を感じて軽く震えた。
「――冷たい空気……と言うよりは…冷気?」
感じたのはまるで冷凍庫を開けた時に流れる冷たい空気によく似ていた為、ただの冷たい風にしては奇妙であることに彼は気付く。
自然のものとは思えなくて辺りを見渡すが、今通っている道の周りの木々からは何も見えない。
だが、気の所為で済ませるにはおかしい。
アキラは自転車を折り畳み、背負っているリュックの上に重ねると専用の器具で固定すると、ブーバーとヤドンを出した。
「誰ですか? 出てきてください」
一応大きめの声で、アキラは周囲に呼び掛ける。
大人しく出てくる可能性は低いが、やらないよりはマシだ。
それに今ここに人がいるとしたら自分と警戒対象だけなのだから、変に見られる心配も無い。
「――ギリギリ及第点かしらね」
ハッキリと人の声が聞こえて、アキラとポケモン達は身構えるが、彼らが通っている道の目の前に赤い髪をした眼鏡を掛けた女性が森から出てきた。
「貴方は…誰ですか?」
ヤドンはぼんやりとしたままだが、アキラと”ふといホネ”を両手で握り締めたブーバーは警戒しつつ何時でも一歩下がれる様に身構える。
姿を見せたのが若い女性なのは意外だったが、それでも彼の直感は不吉なものがすることを告げていた。女性は掛けている眼鏡を怪しく光らせながら、アキラ達を観察する様に眺める。
「構え方は悪くない。でも何時でも避けられることに比重を置いているのは気になるわね」
さっきから彼女は、まるで見定める様にアキラ達の動き一つ一つを指摘する。今の構えが良いのか悪いのかはわからないが、何時でも避けられる様にしているのは事実だ。
目的が見えないだけでなく、上から目線で見られている感じがして少し気分は悪いが、恐らくそれを言えるだけの自信があるのだろう。
「もう一度尋ねますが何者ですか? まさか密猟者の仲間ですか?」
「仲間? むしろ……敵の方よ」
仕返しの意味で意図的に怒りそうなことを加えてアキラが尋ねると、目の前の女性は心外だと言わんばかりの反応を見せる。
その瞬間だった。
凍り付く様な冷たさだったが、実力者が持っている風格と威圧感が発せられたのをアキラは感じ取った。どうもあちらの方から何かを答えそうに無い。
彼は目の前の人物が何者なのか頭の中で情報を整理しつつ精査していくが、中々該当しそうな人物の姿は浮かび上がらなかった。
仕方なく万が一に備えて神経を張り詰めらせて、さっきの密猟者のスピアーの時の様に不意打ちに気を付けながら、視界に映る範囲内で女性の動きにも意識を傾ける。最近時間を掛けて対象を観察すれば、どういう風に動こうとしているかが何となくわかる様になったが、どれだけ目を凝らしても動く様子は見られない。
「相手を観察する目は中々ね。求めている基準に達していない能力も多いけど、シバが気に掛けるだけはあるわ」
情報不足過ぎて困っていたが、意外な人物の名を耳にした途端、アキラの頭は急速にその意味を理解して働き始めた。彼女は知る人が殆どいないシバの事を知っている。
それが意味することはつまり――
「シバさんを知っているのですか?」
「そうね。だって彼は私達の仲間だし」
仲間
その単語だけで、アキラの頭はすぐさま目の前の女性に該当する情報を絞り出す。
赤い髪に眼鏡、氷の様な雰囲気を纏った女性、カントー四天王の一人、氷使いのカンナだ。
確かにシバと同じく四天王を名乗っており、仲間と言えば仲間ではある。
しかし、あまり人に姿を見せないと思われる四天王の一人が、何故この場で自分に姿を見せたのかが疑問だった。さっきから何か試されている様に感じることも重なって、不穏な空気を感じる。
「少し聞きたいことがあるけど、良いかしら?」
「何でしょうか?」
二年前にシバと会った時とは異なり、目の前に立っている女性への警戒心は収まるどころか増々強くなる一方だ。無意識の内にアキラの目付きは敵対している相手に向けるものになっていたが、カンナは気にせずに淡々と尋ねる。
「さっき戦っていた密猟者のこと、どう思う?」
「どうって…手強い――」
「違う違う。人としてもトレーナーとしても彼らはどうなのか? ってことを聞いているの」
一瞬だけ呆れっぽい仕草が見えた気はしたが、彼女がどこかでさっきの戦いを見ていたと考えると、人間の性質としての意味かとアキラは理解する。
何故自分にこんな事を聞いているのか気になったが、多分試しているのだろう。ただ、どんな狙いがあるのかはわからないしどう答えても嫌な予感しかしない。
そもそも自分は元の世界に帰る術やレッドに勝つとしたらどうしたら良いのか、手持ちの問題など自らの事で手一杯で、そんな善悪論や社会問題に関係ありそうなことを深く考えたことは無い。
だけど変なことを答えて、機嫌を損なわせでもしたら冗談抜きで怖い。焦りながら無い知恵をフル回転させて、アキラは口を開く。
「まあ…率直に言いますと色んな意味で許せませんね。それに――」
「それに?」
「そんな悪い事じゃなくて、もっと別の事にその力を使えば良いのにって思います」
恐らくカンナが期待した様な答えでは無いだろう。
でもこれが、今アキラがロケット団を始めとしたポケモンを使って悪事を働く人間に対して率直に抱いていることだ。前々から何故ポケモンの世界では、悪の組織がやたらと出てきたり犯罪が多いのか疑問を抱いていたが、恐らくポケモンの存在が大きい。
この世界で強いポケモンを連れていると言うことは、下手をすれば社会のルールを破った場合にある制裁の力を超えてしまうことがある。ロケット団の幹部格が中々捕まらないのは、証拠の問題や行方知れずなのもあるが、何より彼らの持つ力――連れているポケモンが警察などの取り締まる側の対処出来る範囲と力を大きく上回っているのが一番の原因だ。
力が強ければ強いほど、どんな危機的状況であろうと相手が誰であろうとその力で捻じ伏せたり、逃れることが出来る。要するに強いポケモンを連れている人物である程、その気になればポケモンの力や能力でのゴリ押しで事態の打開が出来たり、自由に好き勝手出来るという訳だ。
アキラが抱いている手持ちが強くなれば、自分達の行動範囲が広がることやレッド達の手助けになると考えているのも、根本を辿ればその心理が働いていると言える。
「確かに、そういうくだらないことや自分の欲を満たすのに、ポケモンの力を利用したり自分の力の様に振る舞うトレーナーは山ほど存在しているわね」
「力があると、どうしても強気になっちゃうと言うべきでしょうね」
半年前にカツアゲを働いていた少年達でさえ、まだ力が十分でない捕まえたばかりのポケモンの力を利用して荒稼ぎしようと小規模の悪事を働いていたのだ。もし彼らが、自分達には忠実で警察どころかジムリーダーでも止められない強いポケモンを手にしていたら、もっと大きな事をしでかしていたかもしれない。
だからこそ、強い力を持つならばその扱いに気を付けなければならない。
力を求めることや有すること自体悪い事では無い。問題はそれをどう扱うか、そして本当に力を持っているのが誰なのかをちゃんと意識することが、ポケモントレーナーには求められていると彼は考えている。
と言っても、そういうアキラも意識しているしていない関係無く、手持ちの力をアテにした大胆で強気な行動をしてしまう時はあるし、これからも彼らの力を頼りに動くことを考えてもいる。なのであまり偉そうには言えないし、彼自身も扱いや振る舞いには気を付けなければならない。
「でも…世の中、誰のおかげで大手を振っていられているのかもわからない人間だらけ、そういう人間に従わされているポケモン達を不憫に思わない?」
カンナの問い掛けに、どう答えるべきかアキラは戸惑う。
ポケモンの事を道具みたいにひどく扱ったり、悪事に利用する人間が許せないのはわかる。だけど、何の考えも躊躇いもせず、ただトレーナーの指示に従うことに不満を抱くどころか逆に良しとするポケモンもいるだろう。
他にもトレーナーに絶対の忠誠と信頼があるからこそ、悪いとわかっていても躊躇無く実行するポケモンもいると思うので、一概に不憫であるとは言いにくい。
「貴方は…どうするべきだと考えているのですか?」
思わず尋ねてしまったが、カンナは少しも気を悪くせずに答えてくれた。
「そうね。一握りの優秀なトレーナーだけを残して、それ以外の人間は徹底的に排除するべきだと思っているわ」
氷使いの名に恥じない冷酷な言葉にアキラは軽く恐怖を抱いたが、それだけ彼女――恐らくカントー四天王はそういう人間に腹を据えかねているのだろう。
「成程ね。そういう考えを持っているのね」
何やら一人納得しているが、アキラは納得どころか早く彼女から離れたかった。
しかし、話はそれで終わらなかった。
「貴方は私達の仲間にならない? シバが貴方を気に入っているのもあるけど、力を持つ者はどうあるべきかわかっているみたいだし」
「えっと………お断りします」
冷や汗を流しながら顔を強張らせたアキラは、両手を合わせながらすぐ丁重にお断りする。
多分、レッド達がカントー四天王と対立した原因はこれだ。
世の中、ポケモンを悪事に利用したり、悪い様に扱う人間が多過ぎる。ならばそういう人間やトレーナーは徹底的に排除、つまり行き過ぎた過激な正義感とも言える行動を止めようとしたのが、二章での戦いの理由。
何らかの理由で四天王の目的を知ったレッドが、彼らを止めようとして返り討ちに遭い、行方不明になった彼を探す為にイエローが旅を始めたと言う流れなのだろう、とアキラは考えた。
カンナはポケモンと上手く接したり扱える優秀なトレーナーのみを残すと言っているが、その残すトレーナーを選ぶ基準は彼らの判断次第。それに本当に優秀なトレーナーだけを残したからと言って、必ず上手くいくとは思えない。
何時だったか何かの本で読んだ気がするが、カンナが纏っていた空気や雰囲気が一変した。
「そう……残念ね」
「!」
何時の間にか彼女が手にしていたボールが開くと、大粒の雪混じりの暴風が吹き荒れる。
吹雪の様な暴風に襲われて、アキラと出ていた二匹は吹き飛ばされる。
「なっ、何をするんですか!?」
「シバが注目しているのとポケモンとの関係が面白いから、今実力が無くても同志に迎えようと思ったけど、断るなら仕方ないわね。でも私の話を聞いたからにはここで消えて貰うわ」
ジュゴンを伴って、カンナは淡々と冷たく告げる。
シバが自分を気にしているだけでも驚きだったが、まさか勧誘を断ったから口封じで始末までするとは思っていなかった。
悪い予感が当たってしまった上に、相手は最強の実力者集団である四天王の一角。二年前シバと戦った時よりは自分も手持ちも力を付けてはいるが、それでもかなりの実力差があることは容易に想像できる。
だけどアキラは勿論、出ていたブーバーを始めとしたボールに収まっている手持ちもこのまま黙ってやられるつもりは無かった。
アキラ、四天王カンナの勧誘を断るも状況は一変して戦う流れへ。
ポケモン世界で悪の組織や悪事を働く人間がやたらと出る最大の原因は、取り締まる側の警察が頼りないのが大きいと個人的には思います。
一章でエリカが自警団的なのを結成しているのは、警察上層部にロケット団と繋がっている人物がいるからだと考えられますが、他の章での様子や七章でのプラチナ父に対してトウガンが告げた発言を聞きますと、警察組織の力不足はかなり深刻そうです。
国際警察は、ラクツの例を見ますと実力のあるトレーナーが何名か所属していると思われますが、各章の様子を見るとあまり手が回っていないっぽいですし。
作中に書きました様に第二章の流れをアキラは殆ど知らない設定なので、四天王と戦う理由や物語の始まり方は全部彼の推測です。
後、第九章についての情報は、単行本の発売は2012年からですが、アキラがやって来た扱いの時期である2011年より前から雑誌上では連載していたので、途中までは知っている扱いです。
次回で今回の連続更新は終了します。