SPECIALな冒険記   作:冴龍

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この話で今回の連続更新は終了です。


片鱗

「ジュゴン、”オーロラビーム”!」

「バーット、”かえんほうしゃ”!」

 

 互いのトレーナーの命を受けて放たれた虹色の光線と炎が激しくぶつかり合う。

 ところが炎はそのまま光線に押されて、強烈な反動とパワーにブーバーは後ろに下がる。それだけでアキラは、正面から挑んだら今の自分達には勝ち目が無いことを悟った。

 

 相手はシバと同じ四天王なのだ。実力差などわかっている。とにかく今はこの場から逃げることが最優先だと考え、他の手持ちも繰り出して彼は時間を稼ごうとする。

 

「エレット、リュット、”10まんボルト”!」

 

 二匹はみずタイプには相性抜群の電気技を繰り出すが、ジュゴンの前にヤドランが立ち塞がって、代わりに彼らが放出した電撃を受ける。ヤドランのタイプにもみずタイプは含まれている筈なのだが、二匹分の”10まんボルト”を受けたにも関わらずヤドランは平然と立っていた。

 

「”ドわすれ”で特殊攻撃には強くなっているわ!」

「面倒ですね!」

 

 ”ドわすれ”などの能力向上系の技によるポケモン強化は、ボールに戻るまでの条件付きではあるが非常に効果的だ。”こうそくいどう”を頻繁に活用し、その効果を実感している身からすれば、敵に回すと本当に厄介極まりない。

 しかもヤドランは素の物理防御は高いので、特殊攻撃の効きが悪くては一時的に相手を圧倒して時間を稼ぐ目論見は頓挫したと言っても良い。

 

「ジュゴン”れいとうビーム”! ヤドラン”ふぶき”!」

「エレット、”ひかりのかべ”!!」

 

 ジュゴンとヤドランが仕掛けようとしたタイミングに、エレブーは自分の出番だとばかりに守りの構えを取ると同時に特殊攻撃を軽減する”ひかりのかべ”を張る。

 これで一時的に攻撃を防ぎ、更にその後受ける特殊技によるダメージも減らそうとアキラは考えていた。しかし、放たれた強烈な青白い光と強い冷気を秘めた暴風は予想以上に強力だった。

 壁がまだ実体化して直接防いでいたにも関わらず、その余波でエレブーの体を凍り付かせて行動不能にまで追い込んだのだ。

 

「貴方のエレブーが、防御に優れていることは知っているわ。でも凍らせてしまえば打たれ強さ何て関係無い」

 

 アキラが連れているエレブーの強さの秘訣は、とにかくタフで打たれ強い事だが、動けなくなっては意味が無い。昔のアキラならこの展開に動揺していただろうが、エレブーの打たれ強さとその力が絶対では無いことを、何年も前に彼は彼女の仲間から学んでいた。

 それに一撃を防いでくれただけでも、エレブーは十分に仕事をしてくれた。

 

「皆”あやしいひかり”だ!!」

 

 何時の間にか飛び出していたゲンガーは、ブーバーと共に”あやしいひかり”を放ち、ハクリューとサンドパンも”ものまね”で”あやしいひかり”を実行する。四匹が一斉に放った予想外に強烈な眩い光にカンナは目を逸らし、まともに直視したジュゴンとヤドランも足元がおぼつかなくなる。

 その間にアキラは凍り付いたエレブーをボールに戻すと、手持ちと一緒にブーバーの”テレポート”でその場から離脱する。

 

「…逃げたわね」

 

 

 

 

 

「何かあった時に備えて、逃走の練習をやっておいて本当に良かった!!!」

 

 ”テレポート”したアキラは、すぐにボールにポケモン達を戻すと一目散に人がいる街へと繋がる道を走っていく。さっきの密猟者の時もそうだが、こういう危機的状況から離脱するのを想定して手持ちと一緒に逃走の練習をして正解だった。以前ならこうもスムーズにはいかなかった。

 

 カントー四天王と敵対する事になることは記憶では知っていたが、シバと関わったが故に自分が彼らに目を付けられるとは夢にも思わなかった。しかも仲間にならないと判断するや否や、本気で攻撃してきたのだから洒落にならない。

 

 今回遭った出来事をレッド達にどう伝えようか考えていたら、後ろから森のざわめきとは異なる音が彼の耳は捉えた。まさかと思って確認してみると、ラプラスに乗ったカンナが追い掛けて来ていたのだ。

 何故ラプラスに乗っているのかと思ったが、ラプラスが口から水流を放ち、その水流を横に並んで並走するジュゴンが光線で凍らせて氷の道を作り、その氷の上を滑っていたのだ。

 

 やはり腕の立つトレーナーが相手だと、単純な”テレポート”では逃げ切るのは難しい。さっきも今回も焦っていたのや時間が無かったので出来なかったが、”テレポート”で逃げるのなら、エスパー技が使える手持ちの補助前提の特別強力な”テレポート”をするべきだろう。

 別の逃走手段を実行するべくアキラはボールを手に取るが、ラプラスは放ち続けている水流を彼らに向けてきた。口から放出しているのがただの水だとしても、勢いを考えると当たれば無事では済まない。

 辛うじてアキラは避けるが、体を捻り過ぎて転ぶように倒れてしまう。

 

「覚悟!」

 

 倒れた事で動きを鈍っているのをチャンスと見たのか、カンナが乗るポケモン達が氷の上を滑る速度は加速する。急いで立ち上がりながら、アキラはラプラス達の動きに目と意識を集中させる。

 走って逃げるのは論外、距離を詰められるまでに時間は僅かにあるが、ブーバーの”テレポート”では間に合わない。

 だけど一太刀を入れるのには十分だ。

 

「サンット! ”じわれ”!」

 

 アキラはサンドパンを繰り出して”じわれ”を命ずる。まだ練習中の未完成だが、それでも相応の破壊力を秘めており、進路が固定されているラプラス達に当てるのは容易な筈だ。

 

 飛び出したサンドパンは宙で一回転した後、カンナのポケモン達が作り上げた氷の道に両爪を突き立てる。氷は一直線に砕ける様に割れていくが、亀裂は迫るラプラス達までは伸びなかった。

 しかし、代わりに広がった衝撃のおかげで剥がれる様に地面に張られた氷が舞い上がり、ラプラス達も巻き込まれて動きが止まる。

 

「バーット”テレポート”!」

「ヤドラン”かなしばり”!!」

 

 すぐにアキラはブーバーを出して短距離でも良いから逃走を試みようとしたが、カンナが再び召喚したヤドランの”かなしばり”がブーバーの動きを封じる。

 時間が経てば動ける様になるが、それでも技の効果でしばらくの間は技が一つだけ使えない。もしそれが”テレポート”なら厄介なので、別の方法に切り替えようとしたが、彼にそれを行う時間は無かった。

 

「”ふぶき”!」

「リュット、スット”ものまね”!!」

 

 彼が歯痒い思いをしている間に、ジュゴンとラプラスが口から豪雪を放つ。

 アキラは一度ボールに戻っていたハクリューとゲンガーを出して、”ものまね”による同じ”ふぶき”で対抗するが、威力が違い過ぎた。

 

「所詮は物真似、本家に敵う筈が無いわ!」

 

 悪あがきなのは承知しているが、カンナの言う通りだ。元々の能力も含めて、タイプ一致や技の習熟度が違うのだ。相殺を狙っていたが、これでは時間稼ぎにしかならない。

 全力を尽くして放っている二匹の物真似”ふぶき”は押し切られそうになったが、突然カンナ達が放つ”ふぶき”は別の軌道を描いて見当違いの方に飛んでいった。

 

「あら、やるわねその子」

 

 外れた原因がアキラの傍に控えているヤドンの力なのに気付くと、カンナは興味深そうに呟く。念の力は強いものの動きや反応が遅い所為であまり出てこないと聞いていたが、この局面でその力を発揮されるのは予想外だった。

 

「やられたけど、今度はどうかしら?」

 

 だけどその幸運は一回限りだ。再びジュゴンとラプラスは、必殺の”ふぶき”を放とうと動く。

 それを彼らの動向を集中して窺っていたアキラは気付き、自分達に迫っている危機を一際強く意識したその時だった。

 

 電流が走る様な感覚が生じた瞬間、彼の視界から見える世界が変わったのだ。

 

「! これって」

 

 すぐにアキラは、今自分がどういう状態になっているのかを理解する。

 この感覚に浸れる機会は滅多に無い――そもそも意識的に感じられるのは、全部危機的状況なので喜ばしい事では無い証だが、流石に何回も経験すればある程度は慣れた形で活かせる。願ってもいないチャンスに、アキラは視界に映るカンナとそのポケモン達の動きに目を凝らす。

 

 今攻撃を仕掛けようとしているのはジュゴンとラプラスの二匹のみ、それ以外で出ているヤドランは勿論、カンナが追加でポケモンをボールを出す様子も無かった。

 冷静に淡々と対処する敵の優先順位を決め、今まさに”ふぶき”を放とうとしている二匹の動作に、彼は意識を更に集中させる。

 

 時間がある訳では無い。

 

 だが見える範囲内にいる相手の動きがわかるだけでなく、自分を含めて全てが緩慢に感じられる感覚のおかげでアキラはある程度の余裕を持って思考を行えていた。そして二匹の動きと体への力の入り具合から、上手く言葉で解釈したり表現できないが、感覚的に()()()()理解した彼はすぐ傍に控えていたサンドパンに一つの指示を出した。

 

「サンット! ジュゴンの額とラプラスの喉元を”どくばり”で撃ち抜くんだ!!」

 

 普段以上に狙う箇所を指定された指示ではあったが、アキラの気迫はサンドパンに伝播する。

 必ず成功させる――確固たる意志を抱いて素早く構えたサンドパンは、無意識に何故か()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を理解していた。

 そして両爪からそれぞれ今までの中で一番威力だけでなく、スピードと精度に重点を置いた”どくばり”を一本ずつ放った。二本の毒針は目で追えない速さで飛び、それぞれが今まさに放とうとしたジュゴンの額とラプラスの喉元などに狙い通りに刺さる。

 

 その直後だった。

 

 ジュゴンは本能的に恐怖を覚える様な恐ろしい悲鳴を上げ、ラプラスは声こそ上げなかったが青い顔をより一層黒寄りに変化させて、まるで息が出来ない様な苦しそうな表情に一変した。

 

「!? これは一体!?」

「今がチャンスだ!」

 

 二匹の突然の急変に、氷の様に表情を変えなかったカンナは初めて戸惑いを見せる。 それをチャンスと見たアキラが声を上げると、ハクリューは元を叩くべく”こうそくいどう”でカンナ達に迫る。

 

「パルシェン! ルージュラ!」

「”つのドリル”で押し切れ!!」

 

 新しいボールを投げて、カンナはルージュラとパルシェンを繰り出す。

 それを見たアキラは、ハクリューに最近覚えた”つのドリル”を伝えると、ドラゴンポケモンは頭部のツノに激しく螺旋状に回転するエネルギーを纏わせて突撃する。

 決まれば一撃で相手を戦闘不能に出来るが、立ちはだかったパルシェンはレベル差が関係しているのか純粋に効いていないのか定かではないが、激しく火花を散らしながらハクリューの”つのドリル”を硬い殻で防ぐ。

 

 無理矢理にでも押し切ろうとするが、それでも動きの止まったハクリューをヤドランと新たに出てきたルージュラが狙うが、ハクリューの後ろから何かが飛来する。飛んで来た影はルージュラの顔面に当たり、ヤドランも気を取られて動きを鈍らせる。

 

「ホネ!?」

 

 ルージュラにぶつかった後に音を立てながら地面を転がっている影の正体に、カンナを目を瞠るが、同時にそれが意味することに気付く。

 ”かなしばり”の拘束から動ける様になったブーバーが、アキラの指示を受けて”ものまね”した”こうそくいどう”による超スピードを発揮して、パルシェンと矛盾対決しているハクリューの横を駆け抜ける。そして跳び上がったブーバーは、”こうそくいどう”での加速を上乗せした必殺の”メガトンキック”をヤドランに叩き込む。

 今日までブーバーが磨いてきた最強の技を無防備な状態で受けて、流石のヤドランも体が宙を舞って倒れ込む。

 

「ルージュラ”あくまのキッス”!」

 

 ブーバーが着地するタイミングを狙ってルージュラは唇を向けるが、近くを転がっていた”ふといホネ”は突然引き寄せられる様に浮き上がり、ルージュラの後頭部を直撃する。

 原因を探すと、距離はあるがブーバーの後ろでゲンガーが体を屈めたアキラに耳打ちされながら手を動かしているのがカンナには見えた。恐らく念の力か何かで、”ふといホネ”を動かしているのだろう。

 

「ホネを手にして止めを刺せ!!!」

 

 立ち上がったアキラは、ブーバーに力強く呼び掛ける。

 彼に言われるまでも無く、一直線に飛ぶ”ふといホネ”をブーバーは腕を真っ直ぐ伸ばして巧みに掴み、両手で強く握り締めると振り抜くほどの勢いで無防備なルージュラの頭を再び殴り付ける。それだけで打たれ弱いルージュラの意識は朦朧とするが、”かえんほうしゃ”の追い打ちを受けて完全に気絶する。

 まさか自分が連れているポケモンが倒されると思っていなかったのか、カンナは歯を噛んで悔しさと屈辱に震える。

 

「くっ! おのれっ!」

「リュット”10まんボルト”!」

 

 畳み掛ける様にぶつかり合っていたハクリューは、角に纏わせていたエネルギーの螺旋が消えると同時に殻に籠っているパルシェンに強烈な電撃を浴びせる。”つのドリル”でも突破し切れなかった様にパルシェンは物理防御に優れているが、その分中身は脆いのか内部に衝撃が伝わる技が多い特殊攻撃には滅法弱い。

 ハクリューが放つ電撃はエレブーのと比べれば威力は低いが、相性が良いのもあってパルシェンはフラつく。

 

「皆下がれ! 退くぞ!!」

 

 追い掛けられていたさっきまでとは一転して状況はアキラが優勢だったが、彼は追撃は仕掛けないことを伝えると、ハクリューを始めとした彼のポケモン達は一斉に下がり始めた。

 

「逃がすんじゃない!! ”とげキャノン”!」

 

 焦げた煙を上げながら、主人の切羽詰まった命を受けたパルシェンは殻を開くと、先の尖ったトゲを無数に放つ。

 ルージュラは倒され、ヤドランは鈍さとダメージの大きさ故に持ち直すのに時間が掛かり、ジュゴンとラプラスは戦うどころでは無い。こうも形勢が不利になるのは予想外ではあったが、ここまでやられて逃げられるのは四天王としてのプライドが許さなかった。

 ”とげキャノン”のトゲがアキラ達に迫るが、突如としてそれらのトゲは空中で静止する。

 

「何っ!?」

「ありがとうヤドット、最初の指示とは違うけど結果は最高だ」

 

 唖然とするカンナを余所に、アキラは自分の横で目を青く光らせて念の力を発揮しているヤドンに感謝の言葉を伝える。元々は仕掛けているブーバーとハクリューの援護を考えていたが、予想以上に上手くいったので念を掛ける対象を発揮する直前に変えた結果だった。

 止められたトゲは全てヤドンの力で見当違いの方向に飛んでいき、ハクリューは置き土産だと言わんばかりに”りゅうのいかり”を放ち、青緑色の炎にカンナ達は包まれる。

 

「よし、スットにヤドット、頼むぞ」

 

 ハクリューの攻撃がカンナ達の動きを封じている間に、アキラは()()()ヤドンを持ち上げるとブーバーの肩に乗せる。そしてゲンガーもブーバーの手を握ると、三匹は集中し始める。

 既にブーバーは完全に”かなしばり”の呪縛から解放されていた為、二匹の念の力の補助を受けた一際強力な”テレポート”を発揮して、アキラ達は再びその場から消えた。

 

「――今度こそ…逃げられたか」

 

 ヤドランの念で龍の炎を掻き消した頃には、既にアキラとそのポケモン達は消えていた。

 さっきの”テレポート”とは違い、近くから気配が感じられないのを考慮すると、今度は遠くへと飛んだのだろう。

 

 元々カンナがこの辺りを訪れたのは別目的の為だ。今回彼を勧誘したのもたまたま見掛けたのとシバが注目しているので、ついで程度の認識だった。

 仲間になってくれるなら、実力は自分達に及ばなくても使い勝手の良い手駒として使える。仲間にならないのなら、今後の計画の障害になる可能性やトレーナーとしての力の差を考えれば、今ここで始末することは容易い相手だと思っていた。

 しかし、結果は格下と見ていた彼に良い様にやられた挙句逃げられた。

 四天王の一員になって以来、初めての大失態だ。

 

「それにしても…良く狙えたものね」

 

 悔しさを抱きながら消耗した手持ちをボールに戻していくが、ボールの中でも苦しそうなジュゴンとラプラスを見てカンナは呟く。

 ”ふぶき”で追い詰めるところまでは完全に自分達の流れだったが、サンドパンが二匹に仕掛けた攻撃を切っ掛けに全ての流れが変わった。サンドパンが二匹に”どくばり”を当てた箇所は、カンナが知る限りではそれぞれの種にとって急所やそれに該当するであろう部分だ。しかも断定は出来ないが、ただ大きなダメージを与えるだけでなくて”どくばり”程度の毒でも致命傷に近い影響を及ぼすと思われる箇所でもあった。

 一匹だけなら偶然と片付けられるが、二匹同時にこの状態に追い込んだのを見ると最早狙ってやったものとしか言えない。

 

「シバが気に掛けるだけのことはあるわね…」

 

 意図的に急所を狙って当てるだけでも、戦うポケモンは勿論、指示を出すトレーナーにはかなりの技量と対象とするポケモンの体構造を理解する知識が要求される。

 これだけの事をした彼を、実力の無いトレーナーと判断するのは愚かなことだ。

 他にも事前情報で連れているポケモンの能力が高いことも知っていたが、トレーナーの指示無しでも厄介な動きや高度な連携が取れるなど、実際に手合わせしないとわからない部分もあった。

 しかし、それらよりもカンナには気になる事があった。

 

 四天王である自分が一方的に後手に回された終盤の怒涛の猛反撃、あれはただ勢いがあっただけでは説明がつかない。確かにこちらに息をつく間もない連続攻撃と見るなら勢いはあったが、それなら何かしらの粗や隙があってもおかしくないが、そんなものは無かった。

 しかもこちらの反撃の手を尽く潰していったのだ。

 今冷静に考えてみると、まるで――

 

 こちらの動きを全て読んだ上でそれに対応する形で動いた様な感じだった。

 

「奴は一体……」

 

 さっきまでは本当に少し腕が立つ程度だった。

 それがこの一変、理由がわからない。

 実力を隠していたとしても、披露する機会が遅過ぎる。

 わからないことだらけで、カンナはアキラに得体の知れなさを感じるのだった。

 

 

 

 

 

 一方辛くもカンナの手から逃れたアキラ達であったが、今自分達が置かれている状況に困り果てていた。それは二年前の決戦真っ最中のヤマブキシティへの”テレポート”を彷彿させたが、状況の悪さは比較し難かった。

 

 ブーバーの”テレポート”は、エスパータイプの力が使えるポケモンの補助を受けることで行き先をある程度絞ってより遠くへと飛ぶことが出来るのだが、急いでいたので行き先を良く考えずに飛んでしまった。

 

 四天王と言うこの地方最強のトレーナーの一人から逃れられるのなら、テレポート先に文句を言っていられないことはわかっている。しかし今回彼らが飛んだ先は、海に浮かぶ絶海の孤島ならぬただの岩の上だった。

 

「どうしてこうなった…」

 

 これだけでも状況は厄介なのに、岩の周りを十匹のギャラドスが取り囲む様に海面から顔を出してグルグルと回っていた。どうやら彼らはこの岩に自分達が来たことには気付いていなかったが、もし気付かれたらあっという間に海の藻屑だ。もう一度”テレポート”で離脱しようにも、既にブーバーは”テレポート”を使うだけのエネルギーは無い。

 

 例の感覚の代償と思われる物凄い疲労感と気分の悪さで今にも寝込みたかったが、そんなことをしている場合でも無い。

 何とかこの場から穏便に去ることは出来ないか考えるが、リュックの中に”ピーピーエイド”を入れていることをアキラが思い出すまで、この状況は続くのだった。




アキラ、怒涛の猛反撃で無事(?)にカンナの追撃から逃げ切る事に成功する。

最近アキラの感覚の変化が良く出てきますが、当人が自覚している危機的状況が増えている以外にも訳はあります。
重大な秘密などではありませんが、今後も感覚を発揮していくのを描く以外にも他の描写なども含めて、何故そうなっているのかを少しずつ描いたり明かしていくつもりです。
察しが良い人なら、断片的にちょっとわかるかもしれません。

キリが良いと個人的に思いますので、連続更新はここで一旦終わりです。
次回の更新は今度こそ二章の終盤まで書いて一気に上げたいですけど、また長くなりそうでしたら、今回みたいにキリが良いと思う途中まで連続で更新します。
その時また読んで頂けたら何よりです。

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