SPECIALな冒険記   作:冴龍

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大変長らくお待たせしました。

終盤の数話を除いてようやく第二章が書き上がりました。
更新中に残った数話を書き上げるのは可能と判断して、ここから一気に二章の終盤までの更新を再開します。

もし途中で書くのに詰まったり、書き直しか何かで更新が止まったらすみません。



英知の結晶

「フェフェ、それでまんまと逃げられたって訳ね」

 

 手にした円系の盤に似た装置を磨きながら、四天王の一人であるキクコは同志であるカンナと連絡を取っていた。通信機に映し出されたカンナの表情は強張っていたが、老婆は全く気にしていなかった。

 

『あまり言いたくないけど、今回は私の完全なミス。断られた時点で彼を一撃で仕留めるべきだった』

「おぉ~珍しいのう。そこまで自分のミスを認めるなんて」

 

 珍しく反省している彼女に、キクコは興味を抱く。

 今席を外している一人と彼女は、四天王としてのプライドが人一倍強い。カンナの実力なら何も問題無いと思っていたが、非を認めざるを得ない程までにやられたのだろうか。

 

『最初は大したことが無いって思っていたけど、追い詰めた途端急に動きを読まれて防戦一方に追いやられた』

「”動きを読まれる”ね」

 

 腕の立つトレーナーなら、豊富な経験か天性のセンス、或いはその両方を活かして相手の動きを予測することが出来る。だがカンナ程の実力のあるトレーナーと、そのポケモンが簡単に動きを読まれるとは思えない。寧ろ動きを読む方だ。

 

 少なくともキクコの調べでは、アキラは何十回も戦っているクセにレッドには勝てないどころか道中のトレーナーにも負ける時がある。実力は精々、エリートトレーナーを名乗るトレーナーに及ぶか及ばないと言っても良い。

 その程度で、カンナを一方的に追い込む程の”読み”を発揮するとは考えにくい。

 

『そういう読みって感じじゃ無かった。まるで……未来を見通せているんじゃないかって思いたくなるくらい』

「ふ~む、それは気になるの」

 

 時たまにいる”エスパー”と言う考えも浮かんだが、それなら彼の様な少年は日常でも活用しているだろう。今の目的を果たしたら、次に彼を排除することを窺わせながら、カンナは通信を切る。相手がいなくなったことで通信に使った画面は真っ暗になるが、しばらくすると安堵が溜息かわからない息をキクコは吐く。

 

「――やれやれ、ワタルがここにいなくて良かったわよ」

 

 どこかをフラついている四天王の将の姿を、キクコは浮かべながら呟く。

 あの少年の手持ちを従えているとは言えない姿に苛立ちを隠さない彼が、まんまと逃げられた話を聞いたら面倒なことになるのは目に見えている。ただのトレーナーなら見下す程度で気にも止めないが、希少なドラゴンポケモンを連れているトレーナーを見ると彼の目は何時にも増して刺々しくなる。

 まあ本人が考えている様に、ドラゴンの扱いで右に出る者がいないのをキクコは知ってはいる。

 

「う~む。障害にはなりそうじゃが、どうも気が乗らん」

 

 必要とあれば始末はする。

 しかし、それでもアキラを始末することはキクコの中では優先順位が低かった。

 カンナも脅威ではあると考えている様だが、結局は後回しにして当初の目的を優先している。このまま放置しても特に支障はない気はするが、万が一という事もある。

 暫く悩み、キクコはあることを思い付いた。

 

「――そうじゃ。ここらでちょっと実戦テストでもしてみるか」

 

 思い付いたのは、前から計画の為に進めているある試みだ。

 ポケモンの理想郷を築くと言う目的に反する様なやり方ではあるが、必要な手段であると彼らは割り切っているし、元々キクコは別の目的で進めていた方法だ。

 

「さて、普通に戻っているのなら小僧はクチバかタマムシ…どちらにいるんだろうね」

 

 

 

 

 

「それでなそれでな。ギャロップがもう……くぅ……たまらんのじゃよ」

「――そうですか」

 

 目の前の老紳士が語るポケモン自慢に、アキラは疲れた様子を見せながら同意する。

 四天王カンナの手から逃れることに成功した代償としてギャラドスに囲まれた小島に飛んでしまった彼だが、リュックに入れていた”ピーピーエイド”の効果で力を取り戻したブーバーが再び発揮した特別強力な”テレポート”をおかげで、辛うじてカントー地方に戻って来れた。

 しかし、カントー地方に戻って来れたと言っても、飛んだ先の距離の関係でクチバシティに帰るのにひどく時間が掛かってしまった。

 

 あれから二日も経過しているが、通信手段が確保出来なかったので保護者であるヒラタ博士には連絡を一切入れていない。

 なので心配を掛けない様に早く帰ろうとしていたが、その矢先に目の前の老紳士ならぬポケモン大好きクラブ会長に掴まってしまった。何故今こうしてポケモン大好きクラブ会長の長話に付き合っているのかと言うと、一言で言えば口封じの為だ。

 

 と言っても、そんな大袈裟なものでは無い。

 彼らがクチバシティに戻っている道中で、偶然会長が手持ちのギャロップとオニドリルに”ネコにこばん”を使わせている場面を目撃してしまったからだ。

 普通なら覚えない技を使っているのを見てしまったのがまずかったのか、半分強引に大好きクラブに連れて来られて、さっき見たことを秘密にする条件で自慢話を無理矢理聞かされていると言う訳だ。

 

「どうじゃ? 儂のポケモン達は?」

「えぇ、まぁ……魅力はわかる気がすると思いますが…」

「そうじゃろそうじゃろ。でっ、内緒にしてくれる気になってくれたかの?」

 

 身を乗り出して大好きクラブ会長はアキラに迫るが、彼は内緒にするとしてもどうしても気になることがあった。

 

「他言しないことは約束しますが、どうやって本来覚えない筈の技である”ネコにこばん”を覚えたのですか?」

「むっ! それは流石にできん。企業秘密と言う奴じゃ」

「……”ものまね”を利用した技教えですか?」

 

 何気無く頭に浮かんだ可能性を口にすると、露骨に会長の動きが挙動不審になる。

 どうやら図星だったらしく、アキラは少しワクワク感を抱いた。

 

 ”ものまね”を利用した技の習得補助は、彼がよく手持ちに使っている方法だ。

 コイキングなどの一部を除けば、ほぼ全てのポケモンが使える技であり、対象にした相手の技を無条件で一つだけ一時的に使える様にできるのは強力だ。アキラも手持ち全員に覚えさせる程よく”ものまね”を多用するが、この技は実戦以外では新技習得の手段としても重宝している。

 実際ハクリューやエレブーに”10まんボルト”を覚えさせる際に、レッドのピカチュウの”10まんボルト”を何回も”ものまね”させて使う時の感覚を教え込ませるのに利用していた。しかし、まさか本来覚えない技の習得にも利用できるとは思っていなかった。

 

「では、君を我がポケモン大好きクラブ名誉会員に――」

「遠慮します」

「何故じゃー!!! それだけじゃダメなのか!? 一緒にポケモンの魅力を語ったり触れ合ったりしようではないか!!」

 

 会長は悲鳴にも似た涙声混じりの声を上げて、アキラに迫る。

 別に口封じの条件として物足りない訳では無い。だけどポケモン大好きクラブの会員になるには、連れているポケモン達は気難しいのが多過ぎるからだ。

 

 ハクリューとブーバーはその代表格で、ブーバーは勝手に離れたり素っ気無い態度だけで済むが、ハクリューは減ってきてはいるがいきなり攻撃を仕掛けてくる可能性がある。

 ゲンガーは今クラブ内にいる子ども達と遊んでいるが、イタズラや何か変なことをやらかさないかをサンドパンは気にしている。

 エレブーは目を離せばトラブル吸引体質を発揮してしまう。

 ヤドンは動きが鈍いことも相俟って適しているのかさえわからない。

 他者との交流で問題を起こさないと断言できるのは、残念ながらサンドパンしかいないのだ。

 

「むむ、では――」

「えぇ~~」

 

 どうしても”ネコにこばん”に関することを漏らしたくないのか、会長の自慢話は続く。

 骨が折れそうだと思いながら、アキラは貴重な情報を引き出す為に疲れた体に鞭を打つ。

 無理をすることには、この二年の間にすっかり慣れた。

 ところが、目の前の対応に意識の全て向けていた事で、アキラはサンドパンと何人かの大人がうつ伏せの棒倒れ状態で眠り込んでいるのと、ゲンガーとブーバーが子ども達と一緒に外に出てしまったことには気付いていなかった。

 ちなみに隅っこでとぐろを巻いて丸くなっていたハクリューは、ゲンガー達が抜け出す一連の流れを見ていたが、アキラの監督不届きと見ていたので我関せずな態度であった。

 

 

 

 

 

 ポケモン大好きクラブがある建物から少し離れたタイミングで、子ども達はゲンガーと一緒にお口のチャックを開ける仕草をすると嬉しそうな声を漏らした。付いて来た子ども達は皆、自分のポケモンを持っていなかったり、親からポケモンバトルを禁止されている子達だ。

 

 最初は建物内で普通に遊んでいたが、段々と彼らからポケモンバトルをするところが見たいと要望されたのだ。アキラに事情を伝えれば少しは理解して貰えることはわかっていたが、どうもすぐに動ける様子では無かった為、ゲンガーとブーバーは彼らの望みを叶えるべく結託したのだ。

 

 流石に子ども達の指示で戦うつもりは無いが、それでも自分達が磨いてきた力をバトルと言う形で誰かに見せることができるのに、二匹の気分は高揚としていた。人が多い街中では派手に実演することは難しいので、二匹はどう戦うのかを考えながら誰もいなさそうな広々とした海に面した砂浜に向かう事にした。

 

 それから子ども達と行動を共にする二匹は、訪れた砂浜で潮風に吹かれながら足を踏み入れた。何人かは抜け出した目的そっちのけに砂浜で遊び始めるが、ブーバーとゲンガーは足元の感触や範囲を確認する。バトルをするには問題無いことを互いに確認するも、直後に何かが砂浜に飛び込んできた。

 

 二匹と子ども達は一斉に注目するが、舞い上がった砂が収まると一匹のヤドンが頭から上を砂の中にめり込ませていた。

 

「あっ、さっきのヤドン」

 

 子ども達の一人が、その存在の名を口にする。

 めり込んでいたヤドンは、自らに念の力を掛けることで体を浮かび上がらせる形で砂に埋まった頭を引き抜くと、滑る様に二匹の目の前まで移動する。子ども達はヤドンが見せた芸当に驚きと興奮の声を上げるが、ゲンガーとブーバーは面倒そうに舌打ちをする。

 

 アキラやサンドパンなら頭を働かせれば上手く出し抜くことが出来るが、目の前にいるヤドンは動きや反応は鈍いがそうはいかない。十中八九、抜け出した自分達の御目付か追い掛けてきたと言う所だろう。

 

 どうやってヤドンの目を誤魔化そうかとゲンガーは考えを張り巡らせるが、波打ち際に妙なものが転がっていることに気付いた。

 それは塗装がボロボロに剥がれた王冠の様なものだった。

 最初はみすぼらしかったので、無視しようと思ったが何気なく足がそれに触れた瞬間、ゲンガーは雷に打たれたかの様なただならぬものを感じた。

 

 何故かは知らないが、このボロボロの冠を被れば自分は風格の様なものが纏える気がする。

 そう直感したのだ。

 仲間であるブーバーは、”ふといホネ”と呼ぶ道具を手にして自由に扱っているのだ。自分だって、何か道具を手にしても罰は当たらないだろう。

 そう考えたゲンガーは、冠を拾ってそれを頭の上に被せる様に乗せるが、触れた瞬間に感じられた変化は無かった。だけど、効果が感じられなくても何かアイテムを身に付けるだけでも気分が良かった。

 

「カッコイイ!」

「まるで王様みたい」

 

 子ども達も気付き始め、気を良くしたゲンガーは頭に乗せているのが王冠っぽい形だからなのか王様の様に胸を張る。

 ブーバーはあまりにもボロい冠を被っているシャドーポケモンに呆れの眼差しを向けていたが、そんなブーバーにゲンガーは不敵な笑みを浮かべながら指を動かして挑発する。

 挑発に応じたのか、ブーバーは口元を吊り上げて背中に背負っていたホネを抜く。

 

 ヤドンの御目付があるにも関わらず、今まさに二匹が激突しようとした時、波が押し寄せる海が陽の光の反射とは異なる輝きを放った。両者は反射的に体を屈めると、海から放たれた光は無数の虹色の光線として彼らの頭上を通り過ぎる。

 それが何を意味するのか理解する前に、海から無数の影が飛び出すが、ゲンガーは即座に”サイコキネシス”でそれらを吹き飛ばす。

 

「なになに?」

「どうしたの?」

 

 二匹の様子が変わったことに子ども達は戸惑うが、構わずブーバーはゲンガーと共に身構えつつ波打ち際から下がる。青かった海が、徐々に海面に集まってくる影らしき黒によって紺に近い色に変わっていく。

 

 何故こうなったのかはわからないが、言うまでも無く状況はまずい。

 一刻も早くこの砂浜から逃げなければならない。

 連れてきた子ども達と一緒に”テレポート”でこの場から逃れようとした時、再び海から多数の影が飛び出した。

 

 

 

 

 

「むむむむ……」

「ダメですか? 大雑把な仕組みは大体わかりますが、どういう過程なのや覚えるに至るまでどれくらい時間を費やしたのか教えていただけないでしょうか?」

 

 その頃、会長の自慢話はアキラとの交渉に変わっていた。

 会長としては、何故”ネコにこばん”を二匹に覚えさせたのかやそこに至るまでの血の滲む様な努力の過程を知られたくない。一方のアキラは、”ものまね”を技を覚える補助として既に利用しているがあくまで我流なので、更なる発展や改善の為にも他人の”ものまね”を活用した技教えを知りたかった。

 それも本来覚えない技を覚えさせたのだから興味が尽きない。

 

「はぁ~、儂の血と汗の結晶なのに…」

「ていうか、何で”ネコにこばん”なのですか? 覚えさせるなら他に有用な技は幾らでもあるじゃないですか」

 

 流石にギャロップが水技、オニドリルが草技の感じで苦手なタイプの弱点を突く技を”ものまね”によって完全習得することは無理な気はするが、それでも何故”ネコにこばん”をチョイスしたのかわからなかった。

 そもそも”ネコにこばん”は、生み出した小判で相手を攻撃する技だ。技としての威力は低いが、散らばった小判には質次第ではあるがこの世界基準で言えば十数円分の価値があるので、集めればちょっとした”お小遣い稼ぎ”になる。

 

「――お小遣い稼ぎ?」

 

 無意識にそう呟いた直後、会長は挙動不審と思えるくらい激しく反応する。

 どうやら、またしても意図せず図星を突いてしまったらしい。

 

「頼む! 教えるから儂がサントアンヌ号に乗りたいが為に”ネコにこばん”を覚えさせてコツコツ貯金していることは黙っていてくれ!」

「わかりましたわかりました!!」

 

 あまりにも会長が必死に懇願するので、アキラは嬉しさよりも動揺の方が大きかった。確かに覚えさせた理由は少々せこいが、本来覚えないはずの技を覚えさせるまでに積み上げた努力は何ら恥じる必要は無い。しかし何がともあれ、今後の育成の手助けになりそうな情報を得られるのはありがたい。

 何時も記録しているノートが手元には無いので、何か適当な紙や筆記用具を借りようと周囲を見渡した時、彼は何か足りないことに気付いた。

 

「あれ? スットとバーットは?」

 

 このタイミングでようやくアキラは、二匹が居ないことに気付いた。

 会長との長話を呆れながらもバカ正直に真面目に聞いていたので、すっかり彼らのことを意識の外にやってしまっていた。サンドパンが何も反応しないから問題は起こしていないと思っていたが、御目付役であるねずみポケモンはエレブーと一緒にうつ伏せの棒倒れ状態で眠っていた。

 

「しまった! またスットにやられた!」

 

 またしてもゲンガーが悪知恵を働かせたのをアキラは悟るが、他にも色々問題があった。

 ブーバーは勿論、ヤドンもいない。そして、何時の間にか大好きクラブに来ていた子ども達の姿も殆ど見られない。ただ彼らが姿を消した以上に、大きな問題になっている可能性があるのをアキラは悟った。

 

「サンット! エレット! 起きてくれ! 緊急事態だ!」

 

 ついでに周りで一緒に眠り込んでいる大人達も含めて、アキラは姿を消した三匹と子ども達を探しに行く前に起こすことに奔走する。

 

 

 

 

 

 アキラが慌てていた頃、抜け出したゲンガーとブーバーはもっと大変なことになっていた。

 

 何が彼らの気に障ったのかわからないが、突然2まいがいポケモンのシェルダーの群れが襲ってきたのだ。個々の力は大したことはなかったが、それでも倒しても倒しても際限なくシェルダーが海から出てくるので、逃げようにも逃げられなかった。

 正確には、やろうと思えば出来なくはないが二匹はその選択肢が取れなかった。

 

 理由は、彼らの背後には付いて来た子ども達がいるのだ。

 本当なら自分達がシェルダーの大群を一手に引き受けて、彼らには脇目も振らずに逃げて貰うのが良いのだが、敵の数が多過ぎた。こうなることは予想外ではあるが、勝手に子ども達を連れ出したからには何が何でも彼らを守り抜かなければならない。シロガネ山でエレブーができたのだから、自分達もやり方や形は違えど出来ない道理は無い。

 

 手にした”ふといホネ”をブーバーは振るうが、シェルダーの殻は硬いからなのか物理攻撃の効き目は薄い。苛立って焼き貝にするべく今度は”かえんほうしゃ”を薙ぎ払う様に放つが、みずタイプには相性が悪いこともあって勢いは止まらない。

 ゲンガーも大立ち回りはブーバーに任せて子ども達を守りながら、”ナイトヘッド”や”サイコキネシス”などの飛び技で援護する。

 ヤドンも傍に居たが、普段の反応の鈍さ故かほぼ置物同然だ。

 

 ヤドンの態度にゲンガーは普段の自分達を棚に上げて苛立つが、何匹かのシェルダーが一斉に”ちょうおんぱ”と”オーロラビーム”を放ってきた。

 ブーバーは根性で音波に耐えながら、”ふといホネ”を盾代わりにして虹色の光線をある程度防ぐが、ゲンガーは無防備な状態で受けてしまい体が吹き飛ぶ。ダメージはそこそこではあったが、当たりどころが悪かったのか頭がフラついて中々立ち上がれない。

 

 ゲンガーからの援護が途絶えたことで、何匹かのシェルダーが前線を張っているブーバーを突破してしまう。このままではまずいと直感した直後、突破したシェルダーとブーバーと戦っていたシェルダー達は青い光に包まれる形で静止するとそのまま弾かれる様に飛んだ。

 

 ここにきてようやく、ヤドンが動き始めたのだ。

 

 未知の敵が登場したと認識したのか、シェルダー達は襲撃を止めて様子を窺い始める。

 短い時間ではあるが生まれた静寂を気にせずに、ヤドンはとことことした足取りでブーバーに加勢しようとしているのか前に歩き始める。

 途中で未だに蹲っているゲンガーを踏み付けたが、ゲンガーが頭に被っていた冠に体の一部が掠った瞬間、ヤドンの脳裏に何かのイメージが流れ込む様にフラッシュバックした。

 

 唐突の出来事に、ヤドンは足を止める。

 それは白黒の光景で一瞬しか頭に浮かばなかったが、まるで怒涛の勢いで瞬く間に色んな知らない誰かと会った様な感覚だった。一通り収まると、不思議と自分が成すべきことを悟ったヤドンは、器用に前足を使ってゲンガーの頭から冠を外すとそれを被った。これだけでも力が湧き上がるのを感じるが、まだ足りない。だけど、ヤドンは次にどうすれば良いのかわかっていた。

 

 過去の事故から、噛み付かれない様に背中にずっと張り付ける様に付けていた尻尾をヤドンは持ち上げる。すると尾の先からどこか甘い香りが周囲に漂い始めて、様子見をしていたシェルダー達が何故かソワソワし始めた。敵意とは違う反応ではあるものの万が一に備えてブーバーは構え直すが、一匹のシェルダーがひふきポケモンの隙を突いてヤドンに飛び掛かった。

 

 すぐに対処しなければならないと焦ったが、普段反応が鈍いヤドンはその時だけ素早く立ち上がり、シェルダーは冠ごとヤドンの頭に噛み付く。

 

 その瞬間、ヤドンの体は眩い光に包まれた。




アキラ、無事にクチバに戻るもまたしてもトラブルに見舞われる。
ようやくヤドン進化。色々と変わるので出番もかなり増えると思います。

タイトル名の所為なのか、世界的に有名な司令官の姿が浮かんでしまう。
???「私にいい考えがある」

会長のギャロップとオニドリルが使える”ネコにこばん”。
作中の描写を見てスペのオリジナルかと思いきや、昔のイベントの時に配布されたポケモンが覚えていた技が元ネタなのを、この小説を書く時に調べた際に初めて知りました。
こういう細かい所も、ポケモン関係なら作品に反映させるポケスペが大好きです。

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