SPECIALな冒険記   作:冴龍

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砂浜大乱闘

 横で倒れていたゲンガーは勿論、ブーバーや子ども達もヤドンの身に起こった変化に気付く。

 この二年間、ヤドンはシェルダーが尻尾に噛み付くのを拒否していたが、今回の危機を乗り越えるべく進化を選択したのだろうか。しかし、光が弱まるにつれて明らかになってきた姿は、ヤドンの進化形であるヤドランとは大きく異なっていた。

 

 シェルダーが噛み付いたのが頭だからなのか、シェルダーが変化した特徴的な大きな巻貝は尻尾では無く頭にあった。

 そして表情はヤドンやヤドランに見られるどこか恍けたものではなく、凛々しい顔で知的な空気を纏っている。二本足で立っている点はヤドランと同じではあったが、それ以外はまるで別物だった。

 

 全く予想していなかったヤドンの進化形にブーバーは目を疑うが、立ち上がったゲンガーは怪訝な顔で進化したヤドンをつぶさに観察し始めた。時折触れたり見る位置を変えたりして観察を続けるが、ヤドンは進化したままの姿勢と表情のままだ。

 

 試しにガンを飛ばしたりするが、それでも表情一つ変えなかったので、ゲンガーはヤドンの足を何度も踏み付け始めた。ヤドランに進化した時にやっても無反応だったのだから、外見は異なっていても今回もきっとそうだろうと言うゲンガーお決まりのちょっかいだった。

 

 しかし、その考え自体大間違いであった。

 

 踏み付けるのを止めようとした刹那、進化したヤドンはゲンガーの顔面に左ストレートを叩き込んで殴り飛ばしたのだ。

 あまりにも綺麗にストレートパンチが決まったことにブーバーと子ども達は唖然とするが、殴り付けた拳を握り締めているヤドンは、今まで一度も見せたことが無い憤怒の形相でゲンガーを睨み付けていた。念の力は強いものの動きは鈍い上に何があっても表情は変わらなかったあのヤドンが、怒った様な顔ではあるがハッキリと感情を表に出している。

 

 一方殴り飛ばされたゲンガーは勢いで上半身を砂にめり込ませるが、すぐに抜け出すと殴り飛ばしたヤドンに怒りの声を上げる。どう考えても彼の自業自得なのだが、進化したヤドンの方も同じく怒った様な声を上げる。

 進化した影響なのか、感情がハッキリさせるだけでなく反応も遅れずに言い返すヤドンにブーバーは言葉を失う。

 

 まだ危機は去っていない。にも関わらず、二匹はギャーギャーと言う擬音が出てもおかしくない言い争いを続ける。

 子ども達はヤドンが敵になってしまったのかと感じているのか不安を隠せない表情だったが、二匹が言っていることがわかるブーバーは段々口論の内容に呆れ始めた。

 

 まるで子どもの喧嘩だ。

 

 そしてとうとうゲンガーは進化したヤドンに飛び掛かり、二匹は取っ組み合いを始めた。

 子ども達は口々に止めようと声を上げるが、それでも二匹は殴り合うのを止めない。

 チャンスと見たのか、それまで固まっていたシェルダー達は動き始める。ブーバーも意識を切り替えて応戦を再開するが、さっきまでとは異なりゲンガーの手助けが無いので防ぎ切れなかった。

 

 ひふきポケモンの防衛線を突破したシェルダー達は二匹に飛び掛かるが、馬乗りにされていたヤドンは掌をゲンガーに突き出すと念の波動を放ち、ゲンガーごとシェルダーを宙に打ち上げる。巻き込む形ではあったが、纏めて吹き飛ばした自覚が無いヤドンは体の調子を確認しながら起き上がる。

 真っ先に仕掛けなかった残ったシェルダー達は”オーロラビーム”を放つが、ヤドンは進化する前とは別人の様な反応速度で体を動かして光線を避ける。

 

 今度は明確に反撃しようと構えるが、唐突にヤドンの体に何かが巻き付く。

 元を辿ると、ゲンガーが口を大きく開けて舌を長く伸ばしているのが見えた。抵抗しようとするが、その前にゲンガーは力任せて舌を巻き付かせたヤドンを振り回し始めた。

 

 振り回す過程でシェルダーの多くが巻き込まれていくが、最後は勢い良く舌を戻して頭に噛み付いているシェルダーを軸にヤドンをコマの様に回す。回されたヤドンの勢いは強く、シェルダー達は次々と弾き飛ばされていき、二匹の喧嘩によって砂浜は気絶したシェルダーが山程あちらこちらに転がっていく。

 しかし、それでもシェルダー達は絶えず海から姿を現し続ける。

 

 回転が止まったことでヤドンは起き上がるが、再びゲンガーと対峙する様に睨み合う。

 お互い周りに敵がいるにも関わらず、余程頭に血が上っているのか目の前の相手しか眼中に無い様子だ。そんな二匹をシェルダー達は、ブーバーの相手をしながら徐々に取り囲んでいく。

 

 手にしたホネを駆使して戦い続けていたブーバーは、二匹の姿勢にいい加減怒りを感じていた。進化してからずっとこの調子で、状況は好転するどころか逆に悪化している。

 こうなるのなら進化しない方が何倍もマシだ。

 

 だがひふきポケモンが抱いている怒りや周りの状況など知らんとばかりに、念の力を高めた時に見られる特有の歪みを片手に両者は互いに突っ込む。

 この期に及んでとブーバーは思ったが、二匹は溜め込んだ念の力を互いにぶつけるのでは無くてすれ違う形で、それぞれの後ろに居たシェルダー達に向けて放った。

 

 完全に不意を突かれたシェルダー達は、この奇襲攻撃によってパニックに陥る。

 統率も無く各々の判断で”オーロラビーム”が二匹に飛んでいくが、砂浜にある砂が舞い上がる程の強力な念の渦が二匹を包んだことで防がれた。砂嵐の様な念の渦が収まると、渦の中心で目を青く光らせたゲンガーと進化したヤドンが互いに背中を合わせる形で姿を見せる。

 さっきまで共闘するような雰囲気では無かったので、仲間割れは演技かと思いきやブーバーは二匹の目を見て違うのを悟った。

 

 邪魔するな

 

 無言ではあったが今の二匹の目付きはそう語っており、再び彼らの周囲は渦巻き始めた。

 

 

 

 

 

「だぁ~、あいつらどこに行ったんだ?」

 

 自らの監督不届きを後悔しながら、クチバの街中をアキラはポケモン大好きクラブの人達と一緒に手分けして駆け回っていた。

 ゲンガー達が何の目的で子ども達と一緒に外を出歩くのか全く分からないが、面倒事になる前に見つけなくてはならない。反応が鈍いヤドンがいなかったことを考えると、彼らに付いて行ったと言うよりは追い掛けているのだろう。

 けど、ヤドンには自らの居場所を知らせる手段は無い。

 となると彼らは一体どこにいるのか。

 

「ムッ、あれは何じゃ?」

 

 頭を悩ませていたら、一緒に居た大好きクラブ会長が声を上げる。

 彼が注目した先に目を向けると、海岸がある方角から竜巻の様なものが空へと届かんばかりに真っ直ぐ立っていた。

 

「――まさか」

 

 その竜巻に若干の既視感を抱いたアキラは、直感的に彼らがそこにいると考え、ハクリュー達を連れて急いで現場へと走る。

 

 

 

 

 

 砂浜ではゲンガーと進化したヤドンは、互いに念の力を操って強力な念の竜巻を起こしていた。

 

 彼らの力が合わさっても二年前に戦ったミュウツーが起こしたのと比べると遠く及ばないが、それでも周囲を取り囲んでいたシェルダーの多くを砂と一緒に巻き込むと同時に攻撃を防ぐなど、十分過ぎる攻防一体の力を発揮していた。

 念の力を止めると、念の竜巻はあっという間に霧散して、砂と一緒に巻き込まれたシェルダーは落ちていく。

 

 竜巻が収まったのを見計らってシェルダー達は、”オーロラビーム”を放ったり殻で挟もうと飛び掛かるが、二匹は”かげぶんしん”とその技の”ものまね”で分身を作って避ける。

 既に分かっている事だが、一匹一匹の力は特に問題無い。誰かが指示を出しているにしては動きが単調なので、野生の可能性は高い。ただ数が多い事だけは非常に厄介だ。

 

 進化前からは想像できない軽快な動きで攻撃を躱しながら進化したヤドンは、進化してから感じる体の奥底から際限無く湧き上がる力の感覚に身を委ねる。

 すると両手から、強い念が生じた時に見られる特有の歪みが生まれた。

 

 遠距離から仕掛けても意味が無いと考えているのか、将又何も考えていないのかバカの一つ覚えの様にシェルダーは懲りずに接近してくるが、進化したヤドンは念の力を纏った掌による突っ張りや張り手で蹴散らす。

 殻は硬くても中身は柔らかいシェルダーにとって、進化したヤドンが行うこの攻撃は、外殻は耐えられても念の衝撃が中にまで響くので非常に良く効いた。ところがやはり数が多いのと接近戦は不慣れなのか、多方面から仕掛けられると後手に回ってしまう。

 

 正面の敵に気を取られたのと同時に背後から一匹のシェルダーが襲い掛かるが、反応する前にゲンガーの飛び蹴りが二枚貝を蹴り飛ばす。

 それを見たヤドンは舌打ちの様な音を立てると、掌に念の力を更に込めてさっきよりもペースを上げてシェルダー達を倒していく。

 

 ヤドンの背中に回ったゲンガーの方も身軽な体を活かして立ち回り、自分から仕掛けていくことは勿論、お得意の同士討ちを引き起こしたりする。

 最初は対立していた二匹だが、今では自然と互いの死角を守る形で次々と押し寄せてくるシェルダーの大群をちぎっては投げちぎっては投げていく。敵の大半が巧みに立ち回っている二匹に向けられているのを見て、ブーバーは一旦この場は彼らに任せてすぐさま子ども達と一緒に砂浜を離れることを選ぶ。

 

「バーット!?」

 

 砂浜に面している道路にまで子ども達を避難誘導させていたら、アキラが何人かの大人達と一緒にやって来た。まさかのアキラが到着するタイミングに、ブーバーは舌打ちをする。

 己の判断が軽率であった自覚はあるが、もし怒られても謝るつもりは無かった。

 

「こんなところにいたのか、スットとヤドットは?」

 

 怒るよりも何事も無かったのに安堵したアキラはブーバーに二匹の居場所を尋ねるが、答えを聞く前に砂浜が騒がしいことに気付く。

 首を伸ばして窺うと、ゲンガーと進化したヤドンがシェルダーの大群を相手に正面から激しく戦っていたのだ。どうやら全然何事も無かった訳では無かった様だ。

 しかも戦っていた二匹は、徐々に数で押されてきている。

 

「まずいな。会長、彼らをお願いします。行くぞ皆!」

 

 子ども達を大人達に任せて、アキラは他の手持ちを引き連れて戦っているゲンガーとヤドンの加勢に向かう。ゲンガー達も仲間達が加勢に来たのに気付いたのか、念の波動を連続で飛ばしながら後ろに退いて合流する。

 

「スットにヤドット…え?」

 

 砂浜に足を踏み入れたアキラだったが、合流したヤドンの姿に彼は驚く。

 何時ものぼんやりとした表情と四足歩行では無く、二本足で力強く立ち、頭に巻貝を冠みたいに被っていたのだ。良く知られているヤドランとは明らかに異なる姿ではあったが、その特徴的な姿をアキラは知っていた。

 

 ヤドンのもう一つの進化形であるヤドキングだ。

 

 以前からアキラはヤドンを進化させようと様々な方法を試していた。

 尻尾にシェルダーを噛み付かせるのは本人が嫌がるので、もう一つの進化形であるヤドキングにしようとシェルダーを頭に噛み付かせようと誘導した事はあるが、実際に噛み付いても何も変化は起きなかった。それを見た当時の彼は、やはりヤドキングに進化させるには”おうじゃのしるし”と呼ぶアイテムが無いとダメかと思ったが、自分が見ていない間に何があったのだろうか。

 

 ヤドキングの姿に考え事をして意識を飛ばしていたが、合流したヤドキングは激しく身振り手振りでアキラに状況を伝えようとする。

 頭にシェルダーが噛み付いた影響でヤドキングは知能が高まっていると言う話は知っているが、反応や挙動、振る舞いがヤドン時代とは大違いだ。これで手持ちで残るは、ハクリューがカイリューに進化するだけと思いながら、アキラは目の前の状況にも意識を向ける。

 

「さて、どうしてこうなってしまったのか…」

 

 クチバの海にシェルダーがそれなりにいることは知っているが、幾ら手持ちが何かやらかしたとしてもここまで大規模にやって来るのはおかしい。

 何か裏があるのでは、とシェルダー達の挙動に目を配りながらアキラは警戒する。

 

「こういう時にボスがいると助かるんだけどな」

 

 マンキーの群れを率いるオコリザルに追い掛け回された過去を思い出しながら、アキラはボスに該当しそうなパルシェンを探す。しかし、どこを見てもあの目立つ大きな殻を持つポケモンはいなかった。

 簡単に倒せるとしても、数が多いと面倒なのは経験している。

 さてどうしたものかと考えるが、誰かが彼の服の裾を引っ張る。

 

「サン…じゃなかったヤドットか」

 

 条件反射でサンドパンかと思ったが、実際はヤドキングだった。

 進化前であるヤドンの時は殆どしなかった行動なのに彼は戸惑うが、ヤドキングはアキラに自らの胸を叩いて見せる。

 

「? ボスは任せろってこと?」

 

 半信半疑で尋ねるとヤドキングは頷く。

 それはそれで助かるが、自分の目で見る限りではボスらしいのはいないので、この場合は「探す」と言う意味での「任せろ」なのだろう。

 

「それじゃ、俺達はお前がボスを見つけるまで時間稼ぎに徹した方が良いかな?」

 

 アキラの言葉に、ヤドキングはまた頷く。

 今まで見た事が無い真剣な目付きなだけに、彼の本気具合が窺える。ヤドキングに触発されたのか、エレブーも前に進み出て自らの胸を叩く。ボスを探しをするヤドキングの護衛、或いは守りを買って出たのだろう。

 彼らの意気込みを見て、アキラは判断を下す。

 

「よし。ヤドットはボス探し、エレットはヤドットの護衛を頼む。それ以外は…好きに暴れて良いぞ!」

 

 彼の許可を合図にハクリューは”つのドリル”を発動、ブーバーは”ふといホネ”を振り回し、サンドパンは鋭い爪を構えてシェルダーの群れに切り込んでいく。

 ゲンガーも無双と言っても過言でない暴れっぷりの三匹に加わろうとするが、何故かヤドキングに肩を掴まれて止められた。

 

「スット、ヤドットがお前を必要としているみたいだからサポートを頼む」

 

 今この場ではヤドキングが頼りなのだから、徹底してヤドキングを中心にアキラは自分は勿論、手持ちを動かすつもりだった。しかし、ゲンガーは不服なのか露骨に嫌そうな顔で断固拒否する。

 伸ばされたヤドキングの手を振り払ってでも戦っている三匹の元に行こうとするが、アキラは通りの良い声色でハッキリと伝える。

 

「さっき押されていただろ。一時の気分の良さに浸ってピンチなのを忘れるな」

 

 アキラから伝えられた言葉に、ゲンガーの動きは止まる。

 確かに強い力を見せ付けたり、最大限に振るうのは気分が良い。だけど、どれだけ力を持とうと慢心すれば足元をすくわれる恐れがある。

 それに倒しても倒しても敵の数が減らないという事は、この戦いに勝つ最終的なゴールが見えないのだ。どんなゲームやスポーツ、戦いでもゴールが無いもの程面白くないものは無く、そして恐ろしいものは無い。

 

 頭の回るゲンガーは彼から伝えられた内容を理解すると、舌打ちをしながらも渋々アキラの言う通りにする。それから二匹は正座する形で向き合うと、目を閉じて見えるか見えないかの薄さではあるが、オーラの様なものを放ちながら集中し始めた。

 

 彼らが何をやっているのかトレーナーであるアキラは詳しくは知らないが、テレビか何かで念の力を集中させて探る展開があるのを見たことがあるのでそれに近いのだろう。そう考察していたら、前線に出ていた三匹が倒し損ねたシェルダーが彼とヤドキング達に迫った。

 気付いたエレブーは、彼らの間に素早く割って入るだけでなく突破してきたシェルダー数匹に”10まんボルト”を浴びせる。

 

「ナイスだエレット」

 

 見事な自己判断を褒めながら、アキラは敢えてエレブーの横に立つ。

 

「エレット、ヤドット達を守る準備は出来ているか?」

 

 彼の言葉にエレブーは力強く頷く。

 シロガネ山での出来事を経験してから、打たれ強さの意義を見出したエレブーは自らの役目である彼らの護衛兼盾を果たそうと体中に力を籠める。

 仲間達がそれぞれ奮闘している間、ヤドキングとゲンガーは互いが持つ念の力を使って周囲を探索していた。ゲンガーの念の補助を得ながら、ヤドキングは今戦っているシェルダーと比較して強い力を持つのを探る。

 そして、それを見つけた。

 

 見出した方角にヤドキングは手をかざすと、少し離れた海面から水飛沫と共にシェルダーの進化形であるパルシェンが飛び出した。

 正確には、飛び出したのではなくヤドキングの念の力で引き摺り出されたのだ。宙を舞っていたパルシェンは、そのまま砂浜に落下していくと2まいがいポケモンの存在に気付いたアキラは声を荒げる。

 

「あのパルシェンを仕留めろ!!!」

 

 彼の命令を最初に実行したのはサンドパンだった。以前カンナから逃れる切っ掛けになったあの攻撃をもう一度再現しようと、爪を向けて単発”スピードスター”での精密射撃を行うが、パルシェンが殻を閉じたことで弾かれた。

 次にブーバーが”ふといホネ”を”ホネブーメラン”の要領で投げ付けるが、これも硬い殻によって阻まれる。

 そしてハクリューはパルシェンの殻の硬さを身をもって知っていたので、他の二匹とは違ってツノから特殊技である”10まんボルト”を放つ。

 強烈な電撃を浴びてパルシェンは焼き焦げた様な煙を上げながら砂浜に落ちるが、シェルダー達の勢いは止まらなかった。

 

「ボスを倒しただけではダメなのか?」

 

 狙うべき相手を間違えたのかと言う考えが頭を過ぎるが、単純にまだパルシェンは倒れていないだけだった。ゆっくりと殻を開けたパルシェンは、シェルダー達を相手にしている三匹に鋭いトゲの先端で狙いを定める。

 

「エレット”でんこうせっか”!」

 

 ここは倒す場面と判断し、ヤドキングとゲンガーの守りに付いていたエレブーは”こうそくいどう”に迫るスピードでパルシェンに接近、思い切って蹴り付けた。

 ところが蹴った部分がナパームでも砕けない強固な殻であったので、スピードを上乗せにしたエレブーの蹴りでもビクともしなかった。それどころか逆にダメージを受けてしまったのか、エレブーは赤く腫れ上がってしまった蹴り付けた足を抱えてあまりの痛さに喚く。

 

 騒いでいるエレブーにパルシェンは標的を変更するが、何時の間にかゲンガーが懐に飛び込んでいた。エレブーが”でんこうせっか”を発揮した際に、すぐさま”ものまね”で同じ技を使って距離を詰めていたのだ。

 パルシェンは逃れようと重い体を動かそうとするが、間に合わずゲンガーが合わせた両手を腰に引いて溜め込んでいた渾身の”サイコキネシス”が炸裂する。

 

 強い念の波動を受けてパルシェンは吹き飛ぶが、まだ意識はあった。

 宙を舞いながら落ちた時の衝撃に備えるも、唐突に体は影に隠れる。

 パルシェンには見えていなかったが、自らに念力を掛けて飛び上がったヤドキングが太陽を背に背後に回り込んでいたのだ。固い殻に守られているにも構わずヤドキングは念の力を籠めた掌をぶつけると、ゼロ距離から”サイコキネシス”を叩き込む。

 ヤドキングが放った念の波動は、殻が守っている柔らかい内部にも激しく伝わり、パルシェンの意識は砂浜に落ちる前に今度こそ刈り取られた。

 

 落下したパルシェンは大量の砂を舞い上げたが、それが収まると力尽きた姿を周囲に晒す。その途端、唐突に何匹かのシェルダーは力を失ったかの様に倒れ込んだり、統率が取れなくなったのか我先にと海へ逃げ始めた。

 

「ふぅ~、大変だったな」

 

 彼らの動きを見て、アキラはこの戦いが終わったことを悟る。

 自分が彼らから目を離してしまった監督不届きもあるが、まさかこんな一大事になるとは思っていなかった。

 

「スットにバーット、何か群れにちょっかいを出したのか?」

 

 戻って来た二匹に一応尋ねるが、二匹は揃って首を激しく横に振る。

 様子から見て本当の様に思えるが、二匹は嘘をつくのに手慣れているので、嘘か真かこれだけでは判断しにくい。

 

「ヤドット、あいつらの言う事は本当か?」

 

 なので第三者として追い掛けたと思われるヤドキングからも意見を求めるが、彼も二匹の答えを肯定するかの様に頷いた。その姿にアキラはどことなくサンドパンと似たものを感じるが、進化した理由も含めて何故シェルダーの大群が襲ってきたのかは、未だに謎だ。

 

 何もしてないのに襲われたとなると別の理由が考えられるが、襲ってきたポケモンの種類を考えると、正直言って嫌な予感しか浮かばないのだった。




アキラ、無事に進化したヤドキングのおかげで退けるも悪い未来が近いのを予期する。

今回ヤドキングに進化したことで、能力が格段に上がっただけでなくヤドン時代の鈍さが解消されて、普通のポケモンと変わらないまでに動けます。
そしてアキラの手持ちは完全にハト派とタカ派に綺麗に分かれる模様。

ようやく本格的にゲンガーとはライバル関係と言うべきか、頭は良いのに低レベルな張り合いや喧嘩がヒートアップする予定。

後、何故だか知らないけど、ヤドキングを高い所から落としたいネタ的な意味で。


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