SPECIALな冒険記   作:冴龍

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友の危機

 西に沈み始めた太陽の夕焼けを背景に、アキラは手持ちの六匹を連れ歩きながらクチバシティにあるヒラタ博士の自宅を目指していた。

 

 結局何日もの間連絡していないので、この世界での保護者である博士には心配を掛けてしまっているのは目に見えている。どう謝るかを考えながら、彼は昼間にあった出来事を振り返っていた。

 

 後で子ども達からヤドキングに進化した詳しい経緯を聞くと、ゲンガーが拾った王冠みたいなものをヤドンが被り、そこにシェルダーが噛み付いた途端に進化したのだと言う。それを聞いた彼は、ゲンガーが拾ったのはヤドンがヤドキングへ進化するのに必要な”おうじゃのしるし”であると考えた。

 

 ヤドランとは異なって、ヤドンをヤドキングに進化させるには”おうじゃのしるし”を持たせて通信交換――他人に預けて育てて貰うしか手段は無いと思っていたが、まさか”おうじゃのしるし”を被った状態でシェルダーを頭に噛ませるとは思っていなかった。

 

「ようやく、進化したんだなヤドット」

 

 アキラの問い掛けにヤドキングは頷く。前だったら返事が返って来るのに何十秒か待たなくてはいけなかったが、進化した影響なのか、その必要も無くなった。

 ゲンガーはヤドンが進化したことが気に入らないのか、さっきから後頭部に両手を組ませて不貞腐れている様子だった。先程の戦いでは見事な連携を見せていたのだが、やはり馬が合わないのだろうか。

 

 ヤドキングが進化した謎は解けたが、問題は襲ってきたシェルダーの群れだ。

 幾らクチバシティ近海が彼らの生息地であるとはいえ、あれだけの数とパルシェンが襲ってくるのはおかしい。思い当たることがあるとすれば、シェルダーはカンナが連れているパルシェンの進化前だ。アキラ達が四天王の手から逃れてまだ間もないので、もしかしたら何らかの関係がある可能性があるかもしれない。

 

「まさか狙われる様になるとはな…」

 

 自分よりも遥かに格上の相手に命を狙われるのに憂鬱になりながら、アキラはすっかりこの世界での彼にとっての帰る場所であり、帰宅先になったヒラタ博士と息子夫婦の家に辿り着いた。

 

「アキラ、ただいま帰りました」

 

 心配させていると考えて、普段よりも丁寧にアキラは帰宅したことを告げながら玄関に入るが、誰もいないのか返事は無かった。

 一緒に入ったポケモン達も足に付いた泥などを置かれていたタオルで拭いたり、自主的にボールに戻ったりして家の中を汚さない様にする。

 

 すぐにでも博士や息子夫婦の誰かと会って事情を話したかったが、いないのなら仕方ない。

 そのままアキラは、誰かが帰って来るまで自室に割り振られた屋根裏部屋に戻ろうとしたが、ヒラタ博士の研究部屋から声が漏れていることに気付いた。聞き耳を立てると声からして博士らしいのに彼は安心するが、仕事の邪魔にならない様に会うのは終わってからにしようとした時、唐突に扉が開いて慌ただしくヒラタ博士が出てきた。

 

「おお!? アキラ君! 無事じゃったのか!」

「え? あぁ、はい。何日も連絡をしなくてごめんなさい。ちょっとトラブルに巻き込まれて、それで手一杯でした」

「トラブル? まぁ今は良い。丁度どうやって君を探そうか考えていたところじゃ!」

「?」

 

 ヒラタ博士の様子に、アキラは訳が分からず首を傾げる。

 一体自分の何を求めているのかわからないまま、彼は背負っていたリュックを降ろすと、促されるままに博士の研究部屋に入る。相変わらず博士の部屋は本や資料が山積みになっていたが、ヒラタ博士は部屋の中で唯一周辺が整理されているパソコンの電源を付ける。

 すると、最初からそうなる様に設定にされていたのか、タマムシシティにいるエリカの顔が画面に映った

 

「もしもしエリカ君か? アキラ君がたった今戻った」

『そうですか。良かった』

 

 エリカは安心した様な表情を見て、アキラは嫌な予感がした。ヒラタ博士と彼女が大学関係で話すことは良くあるが、自分の話はそんなに上がらない。それに帰って来たのに安心した、となると何か良くない事が起きたのだろう。

 まさか四天王関係なのでは、と思いながらアキラはテレビ電話に顔を出す。

 

『アキラ』

「エリカさん、何かあったのですか?」

『そうです』

 

 やはり、とアキラは自分が抱いた直感が正しかったことを予感する。

 四天王関係、それもさっき海岸で繰り広げた戦いを考えると、それらに関わるかもしれない何かが起こったのだろうか。ではそれが何なのかに考えを張り巡らせたが、想像以上に悪いのをエリカから告げられた。

 

『レッドが…行方不明になりました…』

「!」

 

 彼女から告げられた内容に、アキラは表情を強張らせる。

 とうとう、この時が来てしまった。

 四天王との戦いの詳しい流れは知らないが、レッドが行方不明になったことからこの戦いの幕が本格的に上がったことはおぼろげながら知っている。遠回しに色々な忠告はしてきたが、それでも彼の力になることは無かった。

 

 後に元気に戻って来るとしても実際に聞かされると、焦燥などの気持ちが湧き上がる。それ以前に自分が存在していることで本来の流れとは、大きく変わっている可能性が高いのだ。

 彼が元気に戻るどころか、無事なのかも全く不明だ。

 

「彼が行方不明なんて、どうして……」

『まだ詳細は把握し切れていませんが、ピカが傷だらけで戻って来たのや彼に挑戦状を送り付けた人物の名がシバと言う――』

 

 続けて伝えられていく内容にアキラは、先程レッドが行方不明と告げられた時と同等かそれ以上の衝撃、頭をハンマーで殴られた気分になった。

 

 傷だらけのピカ、挑戦状、そしてシバ。

 

 まさかトレーナーとして尊敬しているシバが、全ての発端になっていたとは微塵も想像していなかった。それにレッドが彼らに挑むとしたら悪行を止める為と予想していたが、まさか四天王側からレッドを誘い込んだことも予想していなかった。

 これは自分が存在している影響が有る無し関係無く、考えている以上に状況は悪い。

 

「――傷を負ったピカは今はどうしているのですか?」

『それなのですが……』

「?」

 

 アキラの質問に、何故かエリカは答えるのを躊躇う。

 まさか、何か口にしたくない程の悪いことが起きたのか。

 強まった心臓の拍動で体が跳ね上がりそうなのを堪え、アキラはエリカが口を開くのを待つ。

 

『麦藁帽子を被った男の子が連れて行きました』

「………へ?」

 

 これまた予想外の答えに、アキラは間抜けな声を漏らす。

 何回も衝撃的な内容や予想外の事を伝えられて、とうとう彼の頭は情報量が多過ぎる訳ではないのに処理し切れなくなった。

 麦藁帽子を被った男の子? 麦藁帽子と聞くと第二章の主人公であるイエローが浮かぶが、確かイエローは女の子だった筈だ。

 麦藁帽子を被っている点を考えれば彼女に該当はするが、エリカが言っている性別とは違う。

 

「え~と、レッドのピカをその男の子が連れて行って…」

 

 レッドが行方不明なのとシバがこの事件の切っ掛けであることを知ってパニックになっている今のアキラには、それらを冷静に処理することは困難だった。

 そこで彼は頭の中で考えるのを止め、机の上にあったボールペンと紙の真っ白な裏面を使って、今伝えられた情報を走り書きで纏める。

 

「えっと、レッドはシバさんの挑戦を受けて行方不明、そして戻って来たピカは麦藁帽子を被った男の子が連れて行った…これで良いですか?」

『そうです。オーキド博士は信じていらっしゃる様ですが、私達はあの子が四天王に対抗できるのか不安でして』

「確かに不安ですね」

 

 男の子と言う点は気になるが、本当にイエローだとしたら確か彼女はあまりバトルが得意では無かった筈だ。最後まで戦い抜くことを考えれば、レッドに及ばなくても十分な強さを持っているとしても、相手はあの四天王だ。トレーナーになってどれくらいの経験があるのかは知らないが、不安なものは不安だ。

 特に自分がいる所為で、何らかの変化があったら堪ったものでは無い。

 

『情報では、その子と外見が一致する人物がタマムシシティの近くで目撃されています。私としては一度会って話そうと考えています』

「そうですか。自分も気になることやエリカさんに話したいことがあるので、向かって良いですか?」

『お願いします。タマムシシティで合流しましょう』

 

 それを機に通信は終わり、エリカの顔は画面から消える。

 アキラはエリカの顔が消えて暗くなった画面をしばらく見つめた後、気持ちを落ち着けようと深く息を吐く。

 

「ヒラタ博士すみません。自分は――」

「わかっておる」

 

 遮る形で、ヒラタ博士は直ぐに許可を出す。

 危険ではあるが、自覚しているかは定かではないがアキラにはエリカを始めとしたジムリーダー達が信頼を寄せるだけの力がある。仮に力が無かったとしても、友の危機に黙っていられないのも彼にはわかった。

 

「――ありがとうございます」

 

 自分の無茶な要望を許してくれた保護者に感謝の言葉を口にすると、すぐさまアキラは戻って来たばかりにも関わらず、エリカと合流する準備に取り掛かる。

 まだ本当の意味で対抗出来るだけの力が身に付いているとは言い難いが、シロガネ山でのカンナとの会話を思い出せば自分は四天王に狙われているのだ。言い訳を並べながら逃げ回るよりは、レッドやジムリーダー達と協力して少しでも彼らの勝率を上げる手助けをして挑んだ方が遥かにマシだ。

 

 何よりレッドの命が懸かっているのだ。

 

 彼はアキラにとってこの世界で最初に出来た友人であると同時に、伝え切れない程自分を助けてくれた恩人だ。自分の素状を明かすことは出来ないけれど、可能な限りこの先起こるであろうことに対する注意を促してきた。それで何事も無ければ良いが、結果的にこうなってしまったら、次に取るべき選択肢は決まっている。

 

 まだまだ未熟だとしても、今の自分達には力があるのだ。その力を友人の危機を救う為に使わず何時使う。

 改めてリュックの中に回復道具などの荷を纏め終えると、彼は連れている手持ち達を自分の前に並べた。

 

「シバさんや最近戦ったカンナと言った強敵と戦う事になるが……付いて来てくれるか?」

 

 一番大切なことである彼らがこの戦いに身を投じる意思があるのかを、アキラは確認する。

 力があると言っても、直接戦うのは手持ちである彼らなのだ。

 そして首を突っ込むことを決めたのは自分の我儘だ。

 やる気も覚悟も無いのにトレーナーの手持ちだからと言う理由で、過酷な戦いに引き摺り込むのはあんまりである。

 

 例え彼らにやる気が無くても、アキラは既に一人でも首を突っ込む覚悟は出来ていたが、彼の問い掛けに六匹は息を荒くしながらも神妙な顔で頷く。以前からシバとの再戦に六匹は燃えていたので、寧ろリベンジを果たせる機会がやって来たとやる気満々だった。彼らの反応に、アキラは嬉しくも満足する。

 

「さて行くとし――」

 

 知り合いから貰った青いキャップ帽を整えて外に出ようとした時、何かがアキラの元にフワフワと漂ってきた。反射的に彼は受け止めると、それは彼が管理しているロケットランチャーだった。

 

「――持って行けってことか?」

 

 手元まで引き寄せた張本人であるゲンガーは頷く。

 確かに見た目は威圧的なのでハッタリ程度には使えるが、最後にまともに使ったのは半年前の巨大サイドン襲撃事件だ。まだ上手く扱えない上に重いので荷物になるから不要な気はするが、ブーバーは自らが手にしている”ふといホネ”を見せ付けて、道具を持つ有用性を説く。

 

「まあ、何が役に立つのかわからないもんな」

 

 半年前もピンチを脱するのに大きな役割を果たしたのだ。

 重いのを我慢すれば何かの役に立つだろう。

 それにそこまで愛着も無いので、いざ邪魔になったら捨てれば良い。

 ベルトを体に引っ掛けて背負い、レッドと同じ格好でありながら色は彼とは対になる青と黒の服と帽子を身に纏い、エリカと合流するべくアキラは外に出るのだった。

 

 

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 

 

「これは…どうしたら良いかな」

 

 目の前にいるポケモンと手にした資料を見比べて、アキラは頭を悩ませていた。

 

 ポケモンに持たせる道具に関する解説を終えたので、彼は次にちょっと一手間掛けるだけで何かと役に立ってくれる技の簡単な応用や工夫などについての解説と指導を行っていた。応用に工夫と聞くと、大人だろうと子どもだろうと大体の人が難しいイメージを抱いてしまう。

 確かにどうやっているのかわからない難しいことや試みには危ういものも存在しているが、この場で教えていることは本当に手軽なものだ。

 

「よし良いぞ。もう一度やって見よう」

「何時もみたいに一気に放つんじゃないよ。何て言えば良いんだろう…出すのを我慢する?」

 

 屋内に設けられたバトルフィールドの上で、警察官達は各々の手持ちにアキラから教わった方法を試みさせていた。今彼らがやっているのは、でんきタイプやエスパータイプなどの特殊技に分類される技を多用するポケモン達に使える方法だ。

 

 特殊技の多くは、ポケモンが体内に有しているエネルギーを何らかの形で外に放出させているものだ。その為、鍛え方次第では、体の中に溜め込んでいるエネルギーの放出先をある程度操作するということが出来なくも無い。

 レッドのニョロボンが”れいとうパンチ”を使える様になったのも、”れいとうビーム”を放つ時に使うエネルギーを拳に集中させた結果だ。

 

 だが、レッド達はすぐに出来たこのエネルギーを意図的に体の一部に回す技術は、簡単な様に見えて意外と出来ないものだ。なので、特殊技をメインに扱うポケモン達には、その第一歩として何時も使う技を普段よりも低い威力で放つ練習をさせていた。

 

 ポケモンの技は何も考えずにただ漠然と放つと、基本的にその技の種類に応じた一定の威力を発揮する。例を挙げると”でんきショック”なら”でんきショック”と認定されるであろう範疇内の威力、”10まんボルト”なら”10まんボルト”に良く見られる範囲内の威力と言った感じだ。そこに使用するポケモンのタイプや能力を始めとした要素も加わって、初めて同じ技でも威力に個体差や種族の違いが出てくる。

 

 技を使いこなすと言うのは、ただその技の力を十分に引き出すのではなくて、威力調節も含めて自在に操れる様になることであると言っても良い。

 先に例を挙げた”10まんボルト”なら、一気に放つのではなく上手くエネルギーを暴発させずに抑え込みながら小出しにしていく感じだ。上手くやれば別の技に見えるので相手を騙せるし、”10まんボルト”のパワーを有する”かみなりパンチ”を実現させたりと、技だけでなくエネルギーを上手くコントロールする下地も出来る。

 

 しかし、この方法は特殊技やエネルギーの扱いに慣れているか、多く覚えているポケモンにのみ有効な手段だ。

 かくとうタイプなどの物理攻撃がメインのポケモンは、文字通り肉体を活かしての攻撃が主なので単体では応用と工夫することは難しい。故にこれに関しては、アキラもどう教えたら良いのか悩みながら一人一人個別にどうすればいいのかを一緒に考えながら教えていた。

 

 そして今彼が資料と睨めっこしながら頭を悩ませているのは、ある女性警官が連れているニャースだ。資料によると”ひっかく”や”ネコにこばん”などのニャースが使える代表的な技は覚えているが、それ以外に覚えている技はあまり無かった。

 つまり、使える手札が限られているのだ。

 

「どうしたら良いのでしょう?」

「う~~ん」

 

 ニャースのトレーナーである女性警官は困った様に尋ねるが、それはアキラもこの場で指導役を務めていなかったら口にしたい台詞だった。

 

 ”ネコにこばん”が何かに使えなくは無いと思うが、この技構成では何か武術の心得が無いと相手の急所を狙う以外難しい。正確には、とある技を覚えているおかげで一つだけ教えられる方法があるが、問題点も把握できているだけに教えるのはあまり気が進まなかった。

 

「――一応とある技を使った方法を、このニャースはやれなくも無いです…」

「本当ですか?」

「えぇ。ただ、ちょっと問題があるので…」

「構いません。教えて頂けないでしょうか?」

 

 余程知りたいのかニャースと一緒に女性警官は迫るので、その勢いに押されてアキラは思わず反り返る。

 

「わ、わかりました。教えます」

 

 彼らの熱意と勢いに負けて、アキラは彼女達にニャースが出来るであろうその方法について教え始めた。

 彼が教えているのは、”どくどく”を使った攻撃バリエーションの拡大と呼ぶべきものだ。”どくどく”はどくタイプの代表的な技でありながら、アキラが多用する”ものまね”に匹敵するくらい様々なポケモンも覚えることが出来る技だ。

 彼女が連れているニャースも偶然にも”どくどく”を使えるが、この技はただ相手に毒液を浴びせたり流し込んだりして”どく”状態にする以外にも、ちょっとした攻撃に利用できるのだ。

 

 尋ねてみると、ニャースは爪先から”どくどく”の毒を出すことが出来るらしいので、試しに”どくどく”を出しながら”ひっかく”などの爪を使った攻撃が出来るか、アキラはやらせてみた。

 最初は爪先に毒液らしき液が少しだけ垂れたが、別の技を意識し始めた途端、毒液の分泌は止まってしまう。だけど、既に爪に毒を乗せると言う目的を果たしているので、常時垂れ流す必要は無い。

 

 鋭い爪先に毒を乗せて相手を斬り付けるのは、傷口から直接毒を注入する様なものだ。

 この方法なら、ただ毒液を浴びせて皮膚の上から浸透させるよりも効果的に相手を”どく”状態に犯すことが出来る。更に追求して人間で言う血液の流れが多い部分を攻撃すれば、全身に素早く毒を行き渡らせて通常の”どく”状態よりも早く相手の体力を削ることも可能だ。そして毒を乗せた技は疑似的などくタイプに仕立てることも出来るので、くさタイプを相手に戦う時に有利になれるオマケ付きだ。

 

「確かに爪を突き立てる様なことを今までしてきましたが、こんな風に攻撃目的で使うのは…考えたことがありませんでした」

「しかし、先程も言いましたが、この方法には問題点があります」

 

 この”どくどく”を利用した攻撃の問題点。

 それは使うポケモンが自ら生み出したとはいえ、どくタイプでは無いポケモンが長く毒に触れ続けることはあまり良くないことだ。長時間維持していると自ら”どく”状態になってしまうし、触れる時間が短くても体の敏感な箇所に毒液が垂れてしまっても”どく”状態になってしまう。

 

 実際、ニャースは上手く爪先に”どくどく”の毒液を浸らせたまま”ひっかく”などの攻撃を行うことには成功はしたが、唐突に体が毒に犯され始めた。

 思ったよりも早く”どく”状態になってしまったが、すぐに”どくけし”を与えて解毒させる。

 

「使い続ければ体が少しずつ慣れていきますが、今教えたのは技の応用のほんの一例です。このやり方だけに固執せず、新しい技を覚えて他のやり方も探したり、試みたりすることもオススメします」

 

 そう伝えると、女性警官はニャースと一緒に頭を下げて今回の指導に感謝する。

 こんな風に今のところアキラは何とか上手く教えることは出来ていたが、教えていくことを進めていく内に、自分自身もまだまだ勉強不足なのを思い知る様になってきた。

 

「はぁ、こうして見ると俺って、あんまり引き出しは多く無いな」

 

 技の応用や工夫、組み合わせるのが上手いと言う者はいるが、それは”ものまね”や手持ち達のたゆまぬ努力と頭の良さ故に実現出来ているものが多い。

 他にも多くの技を覚えているからこそ出来ているゴリ押しな面もあるので、ゲームみたいに覚えられる技が四つだけだったら、応用する発想すら浮かばなかったかもしれない。

 

 普段活用しているのとは異なる慣れない技の組み合わせや応用方法を考えたりすることは、視野を広める意味では大いに意味がある。だけど教えるからには、その場の思い付きでは無くてちゃんとした習得過程や根拠、有効性を教える側が理解していないと、教えて貰う側は混乱してしまう。

 

「あの技を覚えていたら、あの使い方が出来るけど……う~~ん」

 

 手に持っていた資料を隣にいた手持ちに預けて、アキラは悩み始めた。

 いっそのこと、自分の手持ち全員に覚えさせている”ものまね”ともう一つの技を覚える様に指導した方が、教えやすいし彼らの戦いの幅が広がるのでは無いかとフとアキラは考える。どちらの技も基本的には、一部のポケモンを除いて殆どのポケモンが覚えられる技で使い方次第では強力だ。

 

 前者は戦いで活かすには少し鍛錬する必要があるが、それ以外では技を覚えさせる補助に活用出来るなど戦闘以外での汎用性は非常に高い。

 後者は”ものまね”と違って戦いの場で扱う前提ではあるが、彼の手持ちの一部はある意味”ものまね”以上に熱心に活用しており、中には変わった応用や決め技にまで発展させたのもいる。

 しかし、わざマシン無しでポケモンに技を覚えさせるのは時間が掛かることなので、この講習中に全員に教えるのは非現実的だ。

 

 「わざマシンで覚えさせようにも…”ものまね”のわざマシンは無くなっちゃったしな…」

 

 二年近く前にわざマシンの再編がポケモン協会主導で行われた影響で、”ものまね”を始めとした幾つかのわざマシンは非公式且つ販売中止になってしまった。

 これはアキラにとって非常に大きな痛手で、所持していることまでは咎められないことを知るや否や、大急ぎで既に製造された”ものまね”を覚えさせることが出来る旧わざマシン31を掻き集めたものだ。もう一つの技も最近になって新しいナンバーを付けられて加わったわざマシンではあるが、こちらも何時消えてしまうのかわからない。

 

「――俺自身が、わざマシン無しでも他人に技を覚えさせられる様になれるのを目指そうかな」

 

 ゲームで出てきたプレイヤーのポケモンに、技を教えてくれるキャラをアキラは思い出す。この世界では二言返事でポケモンに技を覚えさせることは出来ないが、それでも一部の技を上手く教えることが出来るトレーナーは存在している。

 自分もそんな風になれれば、よく利用する二つの技に関してはわざマシンに頼ることは無くなるし、好きな時に覚えさせたいポケモンに教えることが出来る様になる。

 

 新しい目標が出来た、とアキラは思いながら、次の人の様子を窺いに向かった。




アキラ、レッドのピンチを知って四天王と本格的に戦う決意を固める。

アキラは第二章が掲載されている4~7巻を読んでいないのもあって、第二章はどういう流れで何が起こるのかは詳しくは知らないです。
ここから彼が介入することで、第二章は微妙に原作とは異なる流れを辿る事になります。
そして、少しずつ現代の彼らへと繋がる下地も出来上がりつつあります。

現代で主人公が教えた”どくどく”の応用方法は、第四世代で”どくづき”が出た時に「毒を纏わせた貫手?」と言う個人的な想像から少し広げました。
ポケモンの技は、現実的に考えると上手くやれば本当に技名を付け足りないくらい色々なことが出来そうです。

今日の夕方に更新します。

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