SPECIALな冒険記   作:冴龍

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手掛かりを求めて

 ニビシティの少し外れにある広々とした草むらで、風に吹かれながらアキラはミニリュウの様子を窺っていた。天気は雲一つない穏やかな青空ではあったが、草むらにいる両者は穏やかな空とはかけ離れた雰囲気だった。

 

 今アキラは、この世界にあるポケモン育成に関する本を読んだことで得た様々な方法を用いて、最初に手にしたポケモンであるミニリュウと仲良くなることを試みていた。

 今のところ、ミニリュウがどれだけ気性が荒くて言うことを聞かないかの再確認止まりで、何一つ進展していない。だけど、どうやって「生きる」かで頭が一杯だった少し前と比べれば、今のアキラは大分精神的に余裕を持てていた。

 

 理由は二日前のことだ。

 話し合いの末、トキワの森で出会ったヒラタ博士の計らいで取り敢えず警察に身元を調べて貰っている間、アキラは博士の元で助手のような手伝いをすることを条件に保護下に置いてくれることになったからだ。

 それは端的に言えば、この世界にやって来てから一番の不安要素である衣住食が、ある程度保障されることを意味していた。この事が、今の彼にミニリュウと仲良くなろうと試みる行動を起こすまでの精神的な余裕を与えてくれた。

 

「ミニリュウ~、こっちに来てくれ~~」

 

 緊張した面でアキラは、少し距離を置いているドラゴンポケモンに子どもを呼ぶ親の様な声で呼び掛けるが、竜の子は相変わらず不機嫌な態度のままだった。

 トキワの森の出来事から色々察してはいたが、人間を信用していないのかあの日ボールに収めてからずっとこの調子だ。玉砕覚悟で意気込んでも、いざミニリュウを目の前にすると、痛め付けられた恐怖を思い出して若干弱腰になってしまう。

 

 現に保護者となったヒラタ博士からは、今のミニリュウは手元に置いておかない方が良いことをアキラは勧められている。確かにポケモンの扱いに慣れていない初心者が、これだけ人に不信感を抱いていると思われる荒れたポケモンを持つのは危険だ。

 

 それに精神的に余裕を持てたとしても、まだアキラはミニリュウに対する「恐怖感」が完全に拭えていない。加えてそれらの要因を除いても、元々ドラゴンタイプは初心者が連れるのには向いていないポケモンでもあった。

 

「――う~ん、どうしよう」

 

 ポケモンと一緒に寝食を共にすることは、何も良いことばかりなだけでなく、怪我をするなどの痛くて怖い経験も付き物。

 

 ミニリュウと交流を重ねていく内にアキラは、自分が元の世界で抱いて来たポケモンに関する認識が通用しないこと、今のミニリュウをこのまま手持ちとして連れて行くことが楽観的なものであることは理解しつつあった。

 でもミニリュウは、この世界で最初に手にしたポケモンであると同時に進化すれば頼れる存在になる可能性を秘めているのだ。どうしても手持ちから外す気にはなれなかった。

 

 あまりの暴れっぷりの為、ヒラタ博士は検知はされなかったがミニリュウの異常な凶暴性は、自身が追い掛けている隕石のエネルギーの影響では無いかとさえ考えている。

 だけどアキラは、ミニリュウがここまで凶暴になる理由が他にもあることを知っている。

 

 それは丁度この時期、ロケット団が自分達の手で改造や訓練を施したポケモン達を森に放していることだ。

 つまり今博士が気にしているトキワの森の異変は、彼が考えていることとは異なり、今カントー各地で暗躍しているロケット団の仕業の可能性の方が遥かに高い。

 もしロケット団の仕業で凶暴化しているのなら、下手に逃がしたりボールに入れたまま放置でもしたら、余計に悪化することが容易に想像出来る。

 

 ちなみにアキラは、自らが知っているロケット団絡みの事件をヒラタ博士に教えようかと思ったが、結局は止めた。

 軽度の記憶喪失を装っている十歳の少年が、そんな悪の組織の事情を知っているのは誰がどう考えてもおかしいからだ。

 他にも話す以前に信用されるかどうかの問題もあるが、それ以上に大きな問題がある。

 

 それは単純にこの先起こる出来事を知っているだけではなく、普通なら本人くらいしか知らない色んな秘密や裏事情も、それなりにアキラは知っていることだ。

 

 これから先、彼はどう動くかはまだ考えていない。

 だけど、もしこれから先に起こる事件や戦いに巻き込まれるか身を投じるならば、それらを知っているだけでもかなり有利だ。適切に動きさえすればではあるが、戦況や一部の者の運命も変えることすら可能とも言える。

 

 しかし、あまり知っていることを意識し過ぎて行動するべきでは無い。

 不審に思われたり、悪の組織の関係者と勘違いされたら堪ったものではないからだ。

 

 それに幾ら憶えているとしても、知らないことの方が多い。

 しかし、もし自分がほぼ確実な未来を知っていることをこの世界の人達が知ってしまったら、どこかの組織が彼を計画の障害となる危険要素と判断して始末に動くかもしれない。自衛出来るだけの力が無いのなら、極力明かさない方が良い。

 仮に自分自身の身に何かが起こらなくても、様々な弊害が起こる可能性も否定出来ない。

 

 改めてアキラは、この世界でこれから起きる事件や戦いに詳しいことや自らの素性を秘密にしていくことを固く決意する。

 と、同時に飛んできたミニリュウの”はかいこうせん”の荒々しい破壊的な光の奔流を、彼は死に物狂いで避けた。

 

「本当に心臓に悪いな」

 

 直撃を受ければ、無事では済まないことはわかる。

 だが殴るや蹴るなどの物理的なダメージしか知らないアキラにとって、光線系の技を受けた時のダメージは想像出来なかった。これ以上は無理だと判断すると、彼はミニリュウをボールに戻すことを決める。

 

 何度前にしても恐怖で足が竦んでしまうが、遠くからボールを投げても弾かれるだけなので、モンスターボールを片手にアキラは駆け出した。

 

 今ならミニリュウは、”はかいこうせん”を放った反動で動けない。

 未だに感じる体の妙な重さの所為で動きはぎこちないままだが、多少は慣れたおかげで思ったよりもスピードは出てくれる。

 

 ところがもう立ち直ったのか、ミニリュウは近付いてくる彼に向けて、今度は青緑色をした炎である”りゅうのいかり”を放つ。鮮やかな色をした炎がアキラに迫るが、幸い予測済みだった彼はサッカーのスライディングの要領で躱す。そして流れる様な動きでボールを押し付けて、荒れ狂うドラゴンをボールの中に戻す。

 

「よし――って、暴れないで!」

 

 ホッとしたのも束の間、中に収まったミニリュウが暴れ始めたことで、衝撃でボールは彼の手から転げ落ちてしまう。

 幸い飛び出すことは無かったが、慌ててアキラはボールに飛び付くと両手で抑え付ける。

 

「ふぅ、危ない危ない」

 

 しばらく抑え付けていると、ようやくミニリュウは暴れることを止めて大人しくなる。

 だけど、これでもまだ油断できない。今の様にボールを中から動かすことが出来るので、上手く転がして開閉スイッチを押せばミニリュウが飛び出してくる可能性があるからだ。

 

 一応何もわからず体当たりで仲良くなるのではなく、本に書かれているポケモンを懐かせる方法を実践してはいる。しかし、結果はこの通りあまり期待出来る効果は得られていなかった。

 

 試しに草むらに棲んでいるポケモンを相手に戦わせてみたが、初めて会ったばかりのスピアーの群れと戦った時と同じ様に好き勝手に暴れるだけだ。

 他にも手加減せずに瀕死状態に追い込むので、手持ちに新しいポケモンを加えようにも、瀕死状態ではモンスターボールが正常に機能してくれないなどの困った面もある。

 

 今も変わらない様々な悩みにアキラはどうするか考え始めるが、ここで彼はもう一つ別の用事を思い出した。それは博士に頼まれた仕事の中でもある意味重要なことで、腰に付けたミニリュウのボールとは別のボールを手に取った。

 

「ほらゴース、あまり遠くに行くんじゃないぞ」

 

 開閉スイッチを押すと、紫色のガスに包まれた顔だけの球体状のポケモン――ゴースをアキラはボールから出した。

 まだそれ程経っていないが、アキラの仕事は主に掃除や荷物運びなどの雑用に加えて、ゴースを毎日に外に連れ出してストレスを発散させることだ。

 

 このガスじょうポケモンは、大分前から博物館でイタズラをしていたところを職員に捕獲されたポケモンだ。捕獲されてからはずっとボールの中で過ごしていたが、何時までもボールに入れておくのは幾らなんでも酷だという事で、博物館の職員が交代で毎日面倒を見ていた。

 

 しかし、やんちゃでイタズラ好きな性格の持ち主なのも相俟って、目を離すとすぐにトラブルを引き起こすトラブルメーカーでもあった。その為、最近は誰も面倒を見なくなっていたらしい。

 実際、彼も本棚の片隅に置いてあったボールの中に入っているとは知らなかったので、目を眩まされてボールを落とした拍子で飛び出したゴースに酷い目に遭わされたものだ。

 

 ふわふわと漂う様にゴースは移動する。

 こうしてただ浮いているだけなら特に害は無いは、逸れない様にアキラは後を付ける。

 聞く耳を持たないミニリュウと比べれば、ある程度言うことは聞いてくれるが、聞くと見せ掛けて勝手な行動をするパターンが多い。昨日は見事騙されて危うく逃げられかけたが、今回はそうならないように注意しなければならない。

 そう思っていた矢先、強風に煽られてゴースはアキラの頭上を越えてしまう。

 

「げっ、ゴースどこに行く!?」

 

 慌ててアキラは追い掛ける。

 ゴースがあの程度の風で、流されることはあり得ないからだ。

 実際それを証明するかの様に、離れたゴースは体を反転させて全速力で逃げ始めた。目的は不明だが、博物館の職員からゴースがやった悪行の数々は聞いている。このまま逃がしたら、また何かをしでかすに違いない。

 

 モンスターボールを手にしたアキラは投げ付けるが、遠投力が無いのかボールはゴースに当たる直前で力を失って落ちてしまう。

 

 このままでは逃げられる。

 

 一瞬だけ脳裏に今から数年後に活躍するとある少女の姿が過ぎり、彼は決意した。

 

「シュートォ―――ッ!!!」

 

 走った勢いを出来る限り殺さずに踏み込み、アキラは落ちていたモンスターボールをゴース目掛けて蹴り飛ばした。大きさ的に野球ボールを蹴る感覚だったので、コントロール以前に上手く飛んで行ってくれているかが不安ではあった。

 

 だが、蹴り飛ばされたボールが奇跡的にゴースの後頭部を直撃したことで、彼の心配は杞憂で終わった。

 衝撃でゴースの体とボールは反発したが、吸い込まれる様にゴースはボールの中に戻り、地面に落ちる寸前のモンスターボールを彼はダイビングキャッチで受け止めた。

 

 普通なら半袖半ズボンである今の格好だと腕や膝を擦っていたが、ここが土ばかりの校庭ではなく草の上で助かった。

 何がともあれ、これでやるべきことは大体終えた。

 

 一旦ヒラタ博士の元に戻ろうかと考え始めたが、少し離れたところから博士らしき人物の姿が彼の目に映った。

 急いでアキラは駆け寄ると、どこかに行くつもりなのか博士は手持ちのスリーパーに以前会った時に見た研究機材を持たせていた。

 

「おぉアキラ君、急で済まないがこれからわしの調査を手伝ってくれんか?」

「勿論ですよ。ぁ、荷物をお持ちします」

 

 願ってもいないお手伝いの機会に、アキラは意気揚々とヒラタ博士がスリーパーに持たせていた荷物を代わりに背負い込んだ。

 ところが予想外の重さに背負い込んだ直後、彼は思わず倒れ掛かった。

 

「っ…」

「大丈夫かね?」

「はい……何とか」

「その機材は8キロぐらいじゃが、無理はせんように」

 

 アキラは何でもないように取り繕ったが、ヒラタ博士は少し気にしていた。

 事実、博士の懸念は当たっていた。

 彼は大丈夫な様には装っているが、本音を言うと今背負い込んでいる機材はかなり重くて少しでも気を緩めれば倒れてしまいそうだった。体が重く感じられることによる動きの鈍さに、大した重さじゃないものが異様に重かったりと、この世界に来てから不思議なことばかりだ。

 

 けどお世話になっている以上、心配させてしまうことは自分が許せない。

 出来る限り表情に出さない様に、アキラは歯を食い縛って博士の後を付いて行く。

 

「ミニリュウの調子はどうじゃ?」

「――相変わらずです」

 

 正直言って、生き物を手懐けることがここまで大変だとは思っていなかった。

 既に何回もヒラタ博士に助言を求めてはいたが、その時は良いと思った解決策でも実際にやってみると期待していた効果は全く無かった。

 下手をすれば半殺しにされる可能性があることも考えると、もう時間を掛けてゆっくりと互いに信頼関係を築いていくしか道は無い気がしてきていた。

 

「うむ。気の難しいポケモンを手懐けるのは、一流のブリーダーでも骨じゃからな」

 

 アキラの返答に、博士は頭を働かせる。

 ミニリュウの様なドラゴンポケモンは、今アキラが手持ちにしている個体の荒さを除いても総じて扱いにくいのが多く、手懐けることは中々難しいと聞く。昔見た研究論文によれば、ドラゴンポケモンは本能的に高いプライドを有しており、これが扱いにくさに関与しているらしい。

 手懐けるのに効果的なのは、ポケモンにトレーナーの方が実力が上であることを示すことか、一緒にいた方が自らに有益であることを見出させることだ。

 

 まだ数日しか面倒を見ていないが、アキラのポケモンに関する知識は特性などの一部よくわからないことを知っていることや偏っている面はあるが、同年代にしては豊富な方だ。どこでそれだけの知識を身に付けたかは知らないが、ヒラタ博士は彼の知識の多さに一目置いている。

 ただ、幾ら知識が豊富でも活かせなければ何の意味も無い。

 現に彼は、知識とは不釣合いなまでに経験が無い。

 だからこそ、その経験を積む為にある提案を持ち掛けた。

 

「今ニビジムが挑戦者を募っておるようじゃが、試しに挑戦してみてはどうかね?」

 

 ジムとはポケモンジムのことだ。

 ポケモン協会から任命されたトレーナーがリーダーを務め、挑戦してくるトレーナーの実力を計ることが主な仕事だ。故にジムリーダーの実力は、一般的なトレーナーより一線を画している。

 

 けれどもアキラの知識を元にした指示とミニリュウの実力が上手く噛み合えば、ジムリーダーに勝てなくても善戦することは十分に可能だろうと、ヒラタ博士は見込んでいた。

 勝っても負けても貴重な経験になるし、互いに協力せざるを得ない極限状態に追い込めば、ひょっとしたら信頼関係が芽生えるかもしれない。

 しかし、ヒラタ博士のこの提案をアキラはやんわり断る。

 

「止めた方が良いと思います。バトルしているポケモンじゃなくて、トレーナーを狙い出したら目も当てられませんので」

 

 ごく普通の野生のポケモンとのバトルでも、目に見えてわかる殺気を放った状態で戦うのだ。そんな状態のポケモンで、トレーナーと戦うのは好ましく無い。

 もしかしたら戦っていたポケモンを倒すだけでは飽き足らず、相手トレーナーにも襲い掛かる可能性もある。

 仮にミニリュウの暴走を十分に止められる実力者が相手だとしてもだ。

 

「…そうか」

 

 アキラの意見に博士は納得する。

 確かにミニリュウのこれまでの行動を考えれば、アキラが言っていることは何も間違いでは無い。しかし、恐れるあまり一歩踏み出そうとしないのはどうかとも思いつつも、それ以上は言わなかった。

 

「――ゴースとは上手くやっておるか?」

 

 話を変える意味も含めて、世話を頼んでいるポケモンについて尋ねる。

 博士の質問にアキラは、さっきまでの出来事を含めて今までゴースとのやり取りを振り返りながら答えた。

 

「逃げられそうになったりはしますが、案外上手くやっていけていますね」

「そうか、よしよし」

 

 良い内容なのか、アキラの言葉にヒラタ博士は満足する。

 妙に上機嫌なのが気になったが、余計なことを考えていると背中の荷物の重みに負けそうになるので、取り敢えず彼は目的地まで運ぶことに専念するのだった。

 

 

 

 

 

 しばらく歩いていている内に彼らは、昔ディグダが掘った地下通路で有名なディグダの洞窟近辺にやって来た。

 実は言うと、アキラがヒラタ博士の調査に同行することは今回が初めてだ。

 一見すると何の役に立つか不明な機材を使ってどんな形で調べるのか気になっていたが、調査の準備と仕方は至って単純だった。

 

 初めにアキラが背負っていた箱の様な装置とパラボラアンテナをケーブルで繋ぎ、博士のポケモンであるスリーパーと呼ばれるポケモンの念の力でケーブルの限界まで空高く浮かび上がらせる。

 こうすることで近辺に目的のエネルギーがあるかどうかを確かめて、何かを探知すればその方角にある程度足を進め、また同じことを繰り返す。そうやって大体の場所まで絞れたら、今度は片手サイズの探知機での探索に切り替えると言う若干地味なものだ。

 

 フワフワとスリーパーの念動力でパラボラアンテナが浮かび上がるのを見届け、早速ヒラタ博士はエネルギーが探知されそうな場所を確認し始める。

 アキラはレーダーの様なものをイメージしていたが、画面には心電図に似た波長の様なものしか表示されていなくて、横から見ていてもよくわからなかった。

 ただ、表情から見て博士にとっては好ましく無い結果なのは理解出来た。

 

「う~む…」

「反応が無いのですか?」

「いや、あるにはあるんじゃが……トキワの森の方角なのじゃ」

「え?」

 

 博士の答えに、アキラは何故浮かない顔をしているかを理解する。

 普通ならそれ程気にしなくてもいいのだが、今のトキワの森は類を見ない凶暴なポケモン達が棲み付いているため非常に危険だ。

 

「――やっぱりトキワの森ですか」

 

 真剣な目付きで、アキラは視線の先を見据える。

 トキワの森はカントー地方最大の森にして、カントー地方を舞台としたゲームをやっている者なら誰もが最初に挑むダンジョンだ。

 

 最初に挑むダンジョン故に、ゲームでの森は迷路には程遠い単純な構造だった。

 ところが現実のトキワの森は、足を踏み入れてみると陽が遮られて暗い上に複雑な道どころか道らしい道は殆ど無い。一歩間違えれば、冗談抜きで遭難コース直行だ。

 この森に関して知っていること全てを思い出して、アキラは思考を巡らせた。

 

 今のトキワの森は、ロケット団の手によって凶暴化したポケモンが放されている。

 彼らに対抗出来る術が無いなら、入るべきでは無いのが普通だ。

 だけど、あの出来事からまだ数日しか経っていないので、手掛かりがまだ残っている可能性は否定できない。特にヒラタ博士にはまだ伝えていないが、目覚めた時に自分の周りにあった草むらの上に散らばっていた石。もしかしたら紫色の濃霧に関係しているかもしれない。

 どうするかアキラは悩むが、その前に博士の方が先に悩みを吹き飛ばした。

 

「しょうがない。危険かもしれないが、行ける所まで行くか」

「――そうしましょう。危ないと思ったらすぐに逃げればいいですし」

 

 ヒラタ博士の考えに、アキラはすぐに同意した。

 確かに森の中は危険だが簡単な話、遭遇しなければ何の問題も無いのだ。元の世界に戻りたい気持ちに変わりはないが、仮に謎のことがわかっても必ずしもすぐに戻れる訳では無い。

 ならばこの世界を満喫しつつ気長に過ごせばいい。

 それに空のモンスターボールもヒラタ博士から何個か与えられているので、今回は手持ちを増やす良い機会でもある。

 

 トキワの森は、放されているポケモンを除いてもピカチュウを始め、記憶によればガルーラさえも棲んでいる。もしかしたら自分が考えている以上に、多種多様なポケモンが生息している可能性がある。昨日襲い掛かったスピアーも加えたい気はするが、捕まえたとしてもミニリュウの様に暴れられたら堪ったものではない。

 

 とにかく今の自分のレベル相応に大人しそうなポケモンを迎えたい。

 しばらく考えていたアキラは、ミニリュウが入ったボールを手に取って中の様子を窺う。

 

 こうして手持ちポケモンとして連れ歩いておきながら、内心では彼はまだミニリュウには恐怖とも言える恐れを抱いている。だけどこの先、この世界で起きる出来事を考えるとドラゴンポケモンの力は必要不可欠だ。

 陳腐な考えかもしれないが、ポケモントレーナーなら連れているポケモンを信じなくてどうする。

 

「これからこの森を突き進むから頼むぞ」

 

 態度がどうあれ、自分は信頼しているのをアキラはミニリュウに伝える。

 しかし、こちらの一方的な信頼は迷惑なのか、背を向けている所為で聞いているのか聞いていないのかまではわからない。微動だにしていないのを見ると、多分何も聞いていないだろう。何時になったら気を許してくれるのか、と思うが元の世界に帰るのと同じように気長にやっていこう、と気持ちを切り替える。

 一緒に連れているゴースにも同様のことを彼は伝えると、森の中を突き進むべく体のストレッチを始めて気合を入れる。

 

「さて、ヒラタ博士、俺は何時でも行けますよ」

「うむ、では行こうか」

 

 ヒラタ博士に行くことを促して、二人はトキワの森に足を踏み入れた。

 重い研究器具を担いで博士に付いて行く傍ら、アキラはさっきまでの不安な気持ちを忘れて、将来自分が率いているであろう手持ちのイメージを浮かべてワクワクしていた。

 しかし、彼らはトキワの森が大変なことになっていることはわかってはいたものの、それが想像以上であったことを、この時知る由も無かった。




アキラ、ミニリュウとの関係に悩みながらもトキワの森へ再び足を踏み入れる。

もっとテンポ良く書きたいけど、まだまだ上手く少ない描写で描き切れない自分の技量に頭を抱えます。
アキラが連れているミニリュウについては、彼とはどう付き合いどのような過程を経て信頼関係を築いていくかも序盤のテーマの一つのつもりです。
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