「ちょ、もうちょっとゆっくり頼む」
背中に乗せて貰っているピジョットの動きを気にしながら、アキラは下の景色に目をやることは勿論、なるべく高度を上げ過ぎない様に注意していた。
現在彼は、オツキミ山にある程度の土地勘があるタケシと一緒にレッドの行方を捜索中だった。
タマムシシティで各々の役目を果たすべく解散した後、元々ある程度準備していたアキラは、一旦ニビシティに戻るタケシに同行する形でこの山にやって来た。
今乗っているピジョットは、エリカが組織した自警団の一人から借りたポケモンだが、空を飛ぶこと自体アキラにはあまり経験が無い。カナヅチみたいに高所恐怖症がある訳では無いが、命綱やパラシュート無しで空を飛ぶのは気持ちが良いどころか怖いのだ。
何回かレッドのプテラに肩を掴まれて飛び回された挙句、空中で放り投げられて自然落下していく時に感じた股が締まる様な経験は、あまり慣れたくない。
「こちらアキラ、引き続き空から探索するもレッドの姿及び見覚えのある地形は見られません」
オツキミ山は何回か訪れたことはあるが、タケシ程土地勘がある訳では無い。だけどシバ程のトレーナーが鍛錬しているとなると、多少地形が変化していてもおかしくないのでそれも目印になるはずだ。裸眼と手に持った双眼鏡を交互に使い分けて一通り見渡すと、アキラは渡された無線機でタケシと連絡を取る。
『こちらタケシ、基本的な山道から外れた付近を捜索しているが、人為的に荒れたと思われる場所は確認できない』
すぐに手持ちの助けを借りて、地上から入念に調べているタケシからの応答が来るが、成果は乏しかった。まだ探し始めて数時間しか経っていないので、そうすぐに見つかるとは思っていない。だがオツキミ山自体、範囲が広過ぎて大雑把に飛び回っても、その全てを見て回るのには時間が掛かってしまう。出来る限り巨大なクレーターや激しく特訓しても問題が無さそうな広い荒地や岩場を重点的に探しているが、どこも似た様なところだらけだ。
「全く、行き先くらい誰かに教えればいいのに」
思わずアキラは愚痴るが、仮に場所を教えて貰えても「オツキミ山」くらいしか伝えられず、具体的な位置がわからず結局今みたいに探すことになることには変わりなかっただろう。
唐突にピジョットが強風に煽られて体勢を崩すと、アキラは落ちまいと慌ててしがみ付く。さっきから休みなく自分を背中に乗せて飛んでいるので、そろそろ休む必要があるかもしれない。
「こちらアキラ、休む為に一旦降ります」
『こちらタケシ、了解した。無理しなくていいぞ』
タケシから了承を得て、アキラはピジョットと共に地上に降りる。
一息つくピジョットに食べ物や水を与えて、彼は適当な大きさの岩に座り込む。
「――念の為、頼む」
どうも安心出来なかったアキラは、ボールから何時も連れている手持ちを六匹出す。ピジョットを含めると連れているポケモンの数は七匹ではあるが、連れて歩くだけなら特に問題は無い。
手元にいる手持ちの数が七匹以上のトレーナーは嫌われると言われているが、それは不正を行う可能性があるのとちゃんと均等に手持ちの面倒を見れないとされるからだ。現在はマサキが開発したボックスシステムが広く普及している為、多くのトレーナーは手持ちが七匹以上になったらボックスに預けて、手持ちが六匹になる様に調節する。
しかし、ポケモンリーグなどの公式の場以外では厳しく定められている訳では無く、所持数に関しては一般的に暗黙の了解の様なものだ。なので何らかの事情でボックスが利用出来ない、或いは多くのポケモンの力が必要なトレーナーは、手持ちを七匹以上連れている。今回のアキラは後者に当て嵌まるが、彼の場合はレッド探しに人手がいることに加えて、連れている手持ちがボックスシステムをかなり嫌っていると言うことも理由にある。
まあ理由がどうあれ、今はそんなことを気にしている場合では無い。
出てきた六匹もアキラが考えていることを気にすることなく、それぞれ気が抜けた雰囲気もあるが、出てきた役割を意識しつつ周囲に気を配る。
アキラも休みながら警戒するが、ある意味慣れた場所ではあるので土地勘は無くても多少は勝手がわかっていた。
「少し歩くか」
空から探すのが自分の役目だが、ちょっと歩いても良いだろう。
ピジョットをモンスターボールに戻し、アキラは六匹を伴って歩き始める。道は岩だらけで荒れているが、何かと慣れているので普通に進む分には問題ない。忙しく周辺を気にしながら進んでいると、周囲を念の力を広げて探っていたヤドキングの表情が変わった。
「何か感じたのか?」
ヤドキングは頷き、彼らはおうじゃポケモンが何かを感じたと思われる先に進路を変更する。
タケシに報告するべきか迷ったが、まずは当たりなのかを確認してからにした。
ヤドキングを先頭にアキラ達は進んでいくが、僅かな見落としが無い様に気配察知に努めながら警戒を一段と強める。しばらく進むと、彼らは探している対象の一つである荒れてはいるがバトルをするには適している広々とした場所に出た。
ある程度は探している条件に該当するので、アキラはタケシに無線連絡を行う。
「こちらアキラ、広々とした場所を発見、これから入念に調べます」
『こちらタケシ、了解。俺も向かうから場所を教えてくれ』
「わかりました。リュットの”はかいこうせん”を上空に打ち上げます」
アキラはハクリューに頼むと、ハクリューは天へ向けて”はかいこうせん”を放つ。
当人は普段通りのつもりだろうが、雲も吹き飛ばしていたので目印にしては少々過剰だったかもしれない。
『こちらタケシ、確認した。すぐに向かう』
狙い通りに上手くいったことを確認して、アキラは背中に背負っていたロケットランチャーを肩に担いで歩き始める。空砲なので直接的な威力は皆無で脅しにしか使えないが、それでも武器を所持している威圧感はある。
周りを見ていくと、どう考えても人為的な影響で砕けたり崩れている箇所が多い。最近なのかはわからなくても、誰かがここでバトルかそれに近いことを行ったのは間違いないだろう。
「ん?」
見て回っている途中で、アキラは奇妙なまでに大きな穴を見つける。
自然の力で出来たにしては、穴は周りも含めてかなり粗が目立つものだった。
これだけの大穴を作り、そして通るとしたら彼の中ではイワークが真っ先に浮かんだ。そしてイワークは、シバの手持ちポケモンの一匹でもある。
「かなり深いな…」
詳しく調べるべきか考え始めた直後、穴の先から何かが砕ける音が響き渡った。
あまりに唐突過ぎて、アキラの体は硬直したかの様に強張る。音からして岩では無く、ガラスかそれに類する物が割れたみたいな音だ。
「――行くか?」
本来ならタケシと合流するまで待つのが正しいだろう。
しかし、もし今の音が探しているレッドに関係しているものだとしたら、事態は急を要する。
焦りを隠せないアキラの問い掛けに、六匹は戦意を滾らせた目付きで頷く。
何があろうと蹴散らしてやるという彼らの強い意思を確認すると、アキラはロケットランチャー以外の荷物を近くに投げ捨て、エレブーに抱えられる形で手持ちを伴って穴へ飛び降りた。
岩肌が目立つ薄暗い空間の中で、一人の男が蹲る少年を見下ろしていた。
全てを賭けた戦いに敗れ、己の力不足を実感して修行の旅を続けていた時、彼はここで氷漬けになった宿敵である少年を見つけた。
その時、男が抱いた感情は胸がすくものではなく怒りだった。
かつて自分を負かしておきながら、どこの馬の骨に負けて無様な姿を晒しているのは、まるで己が受けている様な屈辱であったからだ。
「ぅ、俺は…」
目が見えていないのか、たった今叩き割る形で氷の中から出てきた彼は、意識を取り戻しても周囲の状況が良くわかっていないらしい。
だが好都合だ。
もし姿が見えていたら、話すどころでは無かっただろう。
「これを持って行け、レッド。お前はこんなところで朽ちる奴では無い」
一方的にそう告げて、男は懐から三つの石を差し出す。
見つけた時点でもすぐに氷の中から助け出すことは出来たが、ただ助けてはまた同じことを繰り返してしまうかもしれない。そう考えが至り、男は目の前の少年が特別なイーブイを連れていることを思い出し、クチバ湾にあると言われていた”使っても消えない進化の石”を取って来た。
敵に塩を送る形になるが、それ以上に己が強くなれば良いだけの話なので気にしてはいない。
そして男は最後に、自らが従わせていた部下からかつて渡されたあるアイテムも取り出す。
「これもだ。再びお前を決戦の地へ導くものだ」
それはスプーンではあったが、その先端は今目の前で蹲っているレッドに曲がっていた。
男がこの場を訪れることになったのは、今まで何も無かったスプーンが突然行くべき道を示すかの様に曲がったのに従ったからだ。そしてこのスプーンは、まるで自分の手元ではなく彼に譲られるべきと言っている様に男は感じていた。
「…貴方…は?」
レッドは立ち上がろうとするが、上手く力が入らずまた目の前で倒れ込む。
男は自分を負かした彼を屈服させることを望んでいたが、こんな形で彼が屈する姿を見ることは望んでいない。
何時の日か必ず自らの手で――
「――面倒なのが来たな」
僅かな気配を察してボールを手にすると、傍に控えていたニドキングも備える。
それからほぼ間もなく、天井に空いていた穴から複数の影が飛び降りてきた。
六匹の手持ちと共に降りたアキラは、すぐさま降りた先に広がっている空間内の状況を見渡そうとしたが、それは不要だった。
目の前にはニドキングとそれを連れたトレーナー、そして見覚えのある姿が倒れていたからだ。
「バーット、サンット! アタックだ!!」
飛び降りるにあたって、アキラは幾つかやる事を決めていた。
まずレッド以外の姿が見えたら即攻撃。
この場所を知っているとしたら、敵の関係者である可能性が高いからだ。
全く関係無い人だったら後で謝るつもりではあるが、とにかく速攻が重要だ。
アキラの指示に、ブーバーとサンドパンはすぐさま駆け出す。
高い素早さと俊敏性を持つ二匹は、どちらかに狙いを絞らせない様に二方向からほぼ同時にニドキングに仕掛ける。
「蹴散らせ」
男が静かに命ずると、ニドキングは両腕をただ広げる様に振った。一見すると工夫も何も無いただの動作にしか見えなかったが、振るわれた先には二匹がそれぞれいた。
完全に動きを読まれていたが、既に勢い付けて飛び上がっている二匹は方向転換をすることは出来なかった。彼らはそのまま成す術も無く殴り飛ばされると、砕ける程の勢いで岩壁に叩き付けられて砂埃と粉塵が舞った。
「…ヤバイ」
一撃で二匹が逆にやられてしまったことは勿論、自分が相手をしているのが何者なのかにアキラは気付いてしまった。しかし、もう引き下がれないし、引き下がる訳にはいかない。
先陣を切った二匹は倒れてしまったが、注意を引き付けてくれただけでも十分だ。
既に一番の目的を果たしてくれていた。
「え? あっ」
蹲っていたレッドだったが、唐突に目に見えない力に引っ張られているのかの様に、勢い良くアキラの方に飛ぶ。ヤドキングとゲンガーの念が上手く機能していると見たアキラは、飛んで来たレッドの体をエレブーと一緒に受け止める。
これでレッドの身の安全は確保できた。後は目の前にいる男を片付けるか、一目散にここから逃げるだけだが、すぐにどちらかを実行するのは無理だ。
何故なら相手が相手だからだ。
自分の記憶と知識が間違っていなければ、あの男の正体は――
元トキワジムジムリーダーにしてロケット団首領、サカキ
直接彼を見た事はアキラには無いが、目の前に立っている男は新聞や雑誌などに載っていた写真に写っていた姿と瓜二つだ。
記憶では実力はレッドと互角以上どころか、勝因の殆どが幸運に恵まれていた結果と言う間違いなく最強トレーナーの一角。連れているポケモンがニドキングなのも、目の前の男の正体がサカキである可能性を更に高めていたが、何故ここにいるのかが謎だった。
「私の姿を見るやすぐに警戒か、悪くは無い」
強者特有のクセなのか、以前のカンナと同じくサカキは構えているアキラとそのポケモン達の動きを窺う。アキラも対抗して、サカキとニドキングの動きにより一層注視する。
短期間の内に激しい戦いを経験する数が増えてきた影響か、最近は容易に目を通じて相手の動きが読める感覚を得られる様に彼はなっていた。おかげでサカキとニドキングの動きはある程度読める。しかし、望んでいるそれ以上先の感覚には、中々至れていなかった。
相手の動きをほぼ完全に見通すだけでなく、自らの思考以外視界に映るもの全てがゆっくりと感じられるあの感覚。全てを引き出す一番の条件が危機的状況であることはアキラもわかっているのだが、動きが何となく読める程度止まりなのに彼は焦る。
もう一度あの感覚に至れれば、相手がサカキでも対抗できるはずなのだ。
「何を考えているのかは知らないが――隙だらけだぞ」
「え?」
それを理解する前に、ポケモントレーナーなら聞き覚えのある小さな音が響く。
目の前の敵と自らの更なる可能性を引き出すことに意識を傾け過ぎて、近くを転がっていた
死
久し振りにその単語が頭を過ぎったが、気付いたら頬を掠めるギリギリのところで巨大な針が止まっていた。
「反応は良いが、ミュウツーを退けたトレーナーにしては拍子抜けだな」
つまらなさそうにサカキは吐き捨てる。
余裕があれば、ロケット団関係者にそう認識されていることをアキラは否定するなりしていたが、今の彼にはそんな余裕は無かった。もしこの場でサカキが本気で殺すつもりだったら、自分は確実にスピアーの針で貫かれていた。そうでなければ、頬を掠める程度に寸止めされる訳が無いからだ。
久し振りに「死」を目の前で感じたからなのか、アキラの体からは冷や汗が噴き出し、心臓もこれ以上無いまでに拍動が強まる。敵が自分達の懐に潜り込んでいることに気付いた他のアキラのポケモン達は直ちに動くが、その時点で既にスピアーの姿は消えてサカキの元に戻っていた。
「ふん。レッド程では無いが、惜しいな」
棒立ち状態から立ち直ったアキラ達を見て、サカキは鼻を鳴らす。
目の前の彼らは見下されていると感じていたが、実は彼なりに高い評価であることには全く気付いていなかった。サカキとしては、スピアーの針を眉間に突き立てる寸前で止めるつもりだったが、狙いは大きく外れて頬を掠めるか掠めないかのところで止まっていた。
スピアーの攻撃が外れたのでは無い。
アキラが迫る身の危険に気付き、それを回避しようと反応した結果なのをサカキはハッキリと目にしていた。
己ならそんな隙は見せないが、万が一不意を突かれたら回避することは難しい。なのに彼の場合は掠めているとはいえ、限り無く回避に成功している状態であった。意識しているのか無意識なのかは定かではないが、とにかく驚異的なまでの反応速度の持ち主であることにサカキは少しだけ興味を抱いた。
余計な雑念や思考の一切を省いてアキラ達は身構えるが、戦意を滾らせている彼らを目にしながらもサカキは背を向ける。それは露骨なまでに隙だらけはあったが、彼らは目の前から去って行こうとする男が放つ威圧感と風格に圧倒されて動こうにも動けなかった。
今ならスピアーが死を実感させてくれたおかげで全ての条件を満たすことは出来たが、理性的に考えると本当に倒せるのかとアキラは自分の力を疑ってしまう。そのまま去って行くかと思ったが、足を止めるのに気付いたアキラはより一層警戒を強めたが、足を止めたサカキは顔だけ振り返った。
「……見覚えがあると思ったら、
サカキが口にした言葉の意味が、アキラには理解できなかった。
しかし、今はそれが何なのかを詳しく考えることも惜しかった彼は、目の前の男の動き全てに集中力を注ぐ。
「あの時は間抜けな面を晒していたものだが…変わるものだな」
それを最後に、サカキはニドキングを伴って、地下空間に幾つかある横穴の一つから去って行き、それをアキラ達は見届けることしか出来なかった。
やがて完全に姿だけでなくサカキの足音が聞こえなくなり、ほぼ危険が去ったと判断した途端、彼らは緊張の糸が切れたのか荒く呼吸しながら尻餅を付く。
実力差や戦うなどを語る以前に、完全に気迫だけで圧倒されていた。
二年前のミュウツーを始めとした数々の危機を乗り切る時に発揮される絶大な力とも言える感覚があっても、アキラはサカキを相手に正面から挑む気にもなれなかった。戦わずして負けたも同然だが、今回の自分の目的はレッドの捜索及び救助だ。四天王クラスと戦う事は想定しても、積極的に戦う必要は無いのだと自らに言い聞かせる。
「――”あの時の小僧”…か」
更にサカキが残した言葉も、彼は気になっていた。アキラはサカキと面識は無いので、今回が初対面かと思ったが、あちらの方は思い出す形ではあったがそうではないらしい。
もしどこかで会っているのなら、あれだけ存在感があるのだ。少しくらい覚えていても良い筈なのに、彼には全く身に覚えが無い。あまり考えたくはないが、この世界ではトキワの森で転がっていた以前の記憶が無い様に装っているけれど、本当に自分は何か忘れているのかもしれない。
「アキ…ラ?」
サカキの発言に頭が一杯になっていたが、自らの名を呼ばれてアキラは思い出す。
エレブーに抱えられる形でレッドは立ってはいたが、まだそこまで足に力は入っていなく、目の焦点も合っていなかった。
「レッド、大丈夫か?」
「やっぱり…その声はアキラなんだな」
目は見えていないが耳の方は聞こえているらしく、聞き覚えのある友人の声に安心したのかレッドは表情を緩ませる。
そのまま立たせるのは辛いだろうから、アキラは地面の上ではあるものの彼を横に寝かせる。全身に負っている傷の数々から、彼にはすぐに治療の必要があると判断すると、アキラは手持ちにさっき置いて来たリュックなどの装備の回収を頼む。
「何でお前がここに…」
「決まってるじゃん。助けに来たんだよ」
持ってきてくれたリュックを枕代わりにして応急処置の準備を進めながら、アキラは何故自分がここにいるのかを答える。大切な友人がいなくなり、自分には探せるだけの力があるのだ。探しに来るのは当然だ。
「皆心配していたけど、無事に見つかって良かったよ。タケシさんがこっちに向かっているから、安心して」
「そんなに…大変な事になっているのか…」
元気付けようと軽く話すが、何故だかレッドはあまり嬉しく無さそうだ。
自分の所為で皆に迷惑を掛けていると責任を感じているのかと思ったが、静かに理由をレッドは語り始めた。
挑戦状に同封されていた場所で、シバと純粋なポケモンバトルをしたこと――
突然彼の仲間である他の四天王が乱入して、サカキの行方を尋ねられたのと仲間に誘われたのを断ったこと――
彼らの野望を止めるべく全力を尽くそうとしたが、不思議な力で一瞬にしてピカチュウを除いてやられてしまったこと――
それら全てを彼はアキラに伝えると、情けない声で続けた。
「悪いアキラ…あいつらを……四天王を止められなかった」
四天王達が目指しているポケモンの理想郷建国への野望。
聞こえは良いが放っておけば、カントー地方全体に大きな被害が出てしまうのが彼にはすぐにわかった。だからこそ、ここで絶対に止めなくてはならなかったが、力及ばず負けてしまった。
この二年近く、殆ど負けたことが無かったので少々天狗になっていた。
以前からアキラにその事を指摘されていたので、直していたつもりだったが、全然直ってなどいなかった。日々挑戦者とバトルする形で鍛えてきたが、チャンピオンと言う肩書に無意識の内に驕っていたことにレッドは自分が情けなく、そして許せなかった。
珍しく弱音を吐いていくレッドをアキラは黙って聞いていたが、彼が話すのを止めるとすぐに口を開いた。
「――レッド、四天王を止められなかったのに責任を感じる必要は無いよ」
「だけど、俺がここであいつらを止めていれば、こんな事にはならなかったのに」
「確かにレッドが彼らを倒せば止められただろうけど、それは一時的だと思うよ」
後悔の念に苛まれる彼に、アキラは毅然とした態度で答える。
カンナの様子を見ると、一度破れたり失敗しただけで諦める様な感じでは無かった。今度会ったら確実に全力で挑まれるか何らかの対策を引っ提げているだろうから、もしレッドが勝てたとしても奴らは更に時間を掛けて力を付ける事のみならず、計画も推し進めていただろう。
「誰にも行き先を告げずにどこかに行っていたのは問題だけど、それ以外は謝ることも後悔する必要も無いよ」
仮にレッドが行方不明にならなくても、遅かれ早かれ四天王達とは激突するはずだっただろう。
今回はたまたま彼が行方不明になってしまったのが、今回の戦いの発端になっただけだ。
「不意を突かれたにしても純粋に力量負けしていたとしても、こうして生きているんだから挽回のチャンスはまだあるよ」
失敗したからと言って、更に転落してそこで腐るか這い上がるかはその人次第だ。どちらの機会も与えられずに死ぬよりは、這い上がる機会があった方が遥かにマシだ。
これだけ早くレッドを見つけることが出来たのは、ハッキリ言って幸運と言っても良い。時間はそこまで残っていないかもしれないが、治療をして体調を万全にするだけでなく、特訓をして更に強くなることも可能だ。
「一人で抱え込もうとするなレッド。一人で無理なら誰か…もっと周りを頼っても良いんだよ」
諭す様にアキラは告げると、さっきからずっと暗い表情を浮かべていたレッドは、微かに笑みの様なものを浮かべた。
確かに、彼の言う通りだ。
一人では如何にもならないのならば、誰かの手を借りる。
そもそもポケモントレーナーは、ポケモンの力を借りている存在だ。
誰かの力を借りると言う考えや発想自体、最も基本的なことである。
こんな当たり前のことも忘れていたのかと、レッドは自分自身に呆れてしまうが、それを思い出させてくれたアキラに彼は深く感謝する。
四天王を相手にリベンジすることを目指すとしても、この戦いで戦っているのは何も自分だけでは無い。
一緒にいる手持ち、そして彼を始めとした友人や仲間達全員もだ。
「ありがとう…アキラ…」
「なぁに、俺は何時もレッドに助けられているんだから、俺で良ければ何時でも力になるよ」
初めて会った時から今に至るまで、アキラはレッドに度々助けて貰ったのだ。これで少しは今までの恩返しが出来れば何よりだ。
消毒薬などの薬を負傷が目立つ箇所に大体処置し終えると、改めて彼はタケシに連絡をしようとした時、天井の穴から差し込む光が影に変わる。
「アキラ! いるか!?」
見上げると、イシツブテ達とサイドンを連れたタケシがこちらを見下ろしていた。
最高のタイミングにやって来た迎えに、アキラは笑顔で両手を振って応えるのだった。
アキラ、サカキと遭遇して一悶着だけでなくまた謎が増えるも、無事にレッドを発見する。
今回彼がレッドに掛けた言葉が、何時か言った当人にも返ってきそうな予感がしなくも無いです。
サカキがレッドを助けた過程について
修行の旅の途中に、ナツメのスプーンに偶然サカキは一度レッドを発見、そしてクチバの消えない石を手に入れてレッドを助けるのと同時に石を渡したと、この物語の流れでは解釈しています。
実際はすぐに助けた可能性の方が高いですけど。