SPECIALな冒険記   作:冴龍

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今も読み込んでいますが、ポケスペディアが思っていた以上に詳細で大満足です。
各キャラの詳細なプロフィール、各地方の紹介、先生へ密着や秘話とか色々たくさん。
これぞ長年ファンが求めていた物です。


厄介な勢力

 「わぁ~、待ってよ~~!」

 

 カスミの屋敷内に作られたバトルフィールドで、イエローは勝手に動き回るオムナイトとゴローンの動きに振り回されていた。

 

 アキラ達四人がこの屋敷に集結して既に一週間程経過していたが、各々四天王打倒を掲げてトレーニングに励んでいた。

 体の痺れはまだ改善されていないものの、それでも動けるまでには回復できたレッドは、イーブイの進化に関しての実戦的な特訓をアキラの協力を得て行っている。

 

 イエローの方もグリーンの指導を受けながら少しずつ力を付けて来てはいたが、見ての通りカスミとタケシから譲り受けた二匹が言う事を聞かないことに頭を痛めていた。何とか話だけでも聞いて貰おうとしても、オムナイトからは水を掛けられ、ゴローンは体を丸めてその場から動こうとしないなど手を焼いていた。

 

「まるでアキラみたいだな。イエロー」

「レッドさん…」

 

 二匹の態度に困っているイエローの様子に苦笑しながら、レッドは近くにやって来た。

 事情は違うかもしれないが、手持ちが言う事を聞かないところや手懐けることに苦労している点は昔のアキラにソックリだ。あの頃の彼らを間近で見たことがあるレッドから見ると、ある種の懐かしささえ感じられる。

 

「カスミさんからも色々聞きましたけど、どうしたら…良いのでしょうか?」

「今度はアキラに聞いてみたら? あいつの方がこういうのは得意だし」

「…本当に得意なのか?」

 

 イエローの指導を担当しているグリーンは、喧嘩を始めたヤドキングとゲンガーの仲裁に入ったが邪魔と言わんばかりに目もくれず双方に顔面を殴られて、倒れたアキラの姿を見てぼやく。

 他にもサンドパンが止めてはいるが、突然体中から熱を一気に放出させ始めたブーバーなどの好き勝手にやっている面々を見ると、どう考えても言う事を聞かないポケモンの扱いが得意とは思えない。

 

「大丈夫大丈夫。あれがあいつなりのポケモンとの付き合い方なんだよ」

 

 懐疑的なグリーンにレッドは自信を持って答えるが、手持ちをしっかりと躾けている彼から見れば、アキラの手持ちは無秩序にも程がある。

 昔だったらポケモントレーナーのあるべき姿とは何かを教えるべく、説教みたいなことをしていたかもしれない。

 

 だけど今は、レッドと会ってからポケモンとの付き合い方は人それぞれと言う意識が出来ていたので、単純にアドバイスを乞うのは適任なのか純粋に疑問に思っていた。それは彼だけでなく、レッドの提案に疑問までは抱かなくても、イエロー自身も大丈夫かどうか少し不安だった。

 この一週間の内にカスミ同様に聞く機会は幾らでもあったのだが、アキラとその手持ちに若干苦手意識がある為、少し躊躇い気味だ。

 

「心配するなイエロー。あんな風に見えるけど、仲は良いから」

「そう…ですか…」

 

 レッドはイエローの不安を和らげようとするが、現在進行形で喧嘩の規模が大きくなっていくのを目の当たりにしているので、正直言うと説得力が無かった。

 ポケモンは友達。

 その考えを今まで胸に抱いてきたイエローにとって、アキラとそのポケモン達のある意味遠慮の無い関係は、かなり衝撃的であると言わざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 その後、何とか手持ち達を大人しくさせたアキラは、レッドの頼みを受けてイエローが言う事を聞いてくれなくて困っているオムナイトとゴローンの様子を窺い始めていた。

 

 二匹はイエローに対しては反抗的ではあったが、彼が様子を見に来た途端、急に従順まではいかなくても大人しくなった。

 ハクリューみたいな感じかと想定していたので拍子抜けではあったが、しばらく観察して彼はある可能性を話す。

 

「これは多分、イエローがまだ信用出来ていないって感じなのもそうだけど、従う義理が無いって思っているかも」

 

 もし反抗的なのが性格によるものなら、ブーバーやハクリューの様に誰が相手だろうと我を貫いているが、この二匹はそうでは無かった。

 手持ち以外の例を本以外で見たことは無いが、本に書かれていた定義で当て嵌めると一般的とされる手持ちポケモンの反抗だ。もしレベルが高いが故の反抗だったら、イエローの現状を考えると厄介ではあったが、この二匹はそこまで高くは無い。

 なので簡単ではないものの、対処はそこまで難しくも無い筈である。

 

「こう言うのはアレだけど、ポケモンが反抗するのはトレーナーに対して”信頼”が無い以外にも、付いて行っても”自分には利益が無い”って意識も関わっているからね」

「えっと…その利益と言うのは?」

「一番多いのは、トレーナーに付いて行けば野生の時よりも強くなれる保証があることかな。個体によって差はあるけど、基本的にポケモンは生きていく為にも本能的に強くなりたがっている。付いて行っても強くなれる可能性が無いどころか自力で戦った方が勝てるのなら、そのトレーナーが幾ら信頼を寄せても従う必要は無いからね」

 

 こうして語ると、損得勘定無しでポケモンは友達と考えているイエローから聞くと、冷淡まではいかなくてもかなりドライな考えに思えるだろう。でも実際、言葉が通じない見ず知らずの生き物を従わせたり、一緒に付いて行くことを促すには自分に付いて行けば他には無いメリットがあるのを意識させることが必要だ。

 しかし、どうしても納得できないのか、イエローの表情は少し暗かった。

 

「アキラさんは…そういう風に考えているのですか?」

「まあ、人間不信だったり我の強いあいつらを見ていたら、ただ信頼しているのを示す以外にも自分がしっかりしないといけないって感じたからね」

 

 アキラが連れているポケモン達も、今は信頼と言う要素があるものの、従ったり付いて来てくれるのは昔と変わらず、自分に何らかのメリットを見出しているからだ。

 イエローが目指していると考えられる理想的なトレーナーとポケモンの信頼関係と比べると、何かあれば簡単に壊れてしまいそうな関係に見えてしまうが、そうだとしても彼は構わなかった。人間に置き換えれば、ダメ上司に付いて行く有能な部下や仲間なんて御人好しでも無い限りそうはいないからだ。

 

 それに彼らを率いることでアキラは、ある程度強いポケモントレーナーと見て貰えたり、移動の補助や危険地帯探索で身を守って貰うなどの利益を受け取っているのだ。ならばトレーナー側も彼らの働きや努力に見合う様に、ポケモン達が求めている利益を与えていくことは勿論、彼らが付いて行きたいと感じるか率いるのに相応しいトレーナーであり続けなければならない。

 

「でも、このやり方や考えはポケモンを友達って思っているイエローには向いていない。人によっては冷たいと感じるからね」

 

 チラリとアキラは、隣に立っているイエローの表情を確認するとそれに気付いたイエローは慌てふためく。アドバイスを頼んでおきながら、彼の話が進むにつれて無意識の内に到底受け入れられないと言っても良い表情を浮かべてしまっていたのだ。

 

 確かにポケモントレーナーは、ポケモンを連れるからには彼らを大事にする責任が有る。

 イエローも連れている手持ちも含めてポケモンは大切にしているが、それは彼らが大事な友達だからだ。彼らが助けや力を必要としているのなら、イエローは自分にとって損であろうと手助けをするつもりだ。だからこそ、アキラの語る利益前提での信頼関係はあまり良い様には思えなかった。

 

「だけど、どんな関係であっても一番大事なのは――」

 

 イエローが受け入れられないことをわかっていたアキラは、気にすることなく語りながら目の前にいるオムナイトとゴローンの前で体を屈める。目の前の二匹は緊張しているのか体を強張らせるが、自分の手持ちにはまず見られない反応に彼は頬を緩ませて告げた。

 

「ちゃんと正面から向き合うことだから」

 

 基本的にポケモンと人間は言葉が通じない。

 正確にはポケモンの方は人の言葉を理解できるけど、人間の方はポケモンの言葉が全く理解できない。どんな関係でもポケモンはトレーナーの意図を察して、行動出来る様にならなければならないと言う考えもあるが、そういうのは形がどうであれ信頼関係が出来ているのが前提のものだ。

 

 その信頼関係を築く第一歩として、言葉がわかるわからない関係無く、仲が良かろうと悪かろうと恐れずに一度は正面から向き合い、互いに何を考えているかを断片的でも良いから理解するのは必要なことだ。

 

 イエローは生まれ持った能力のおかげで容易に意思疎通をすることは出来るが、それが無くてもポケモンを大切に想っている。

 自らに付いて行くことに利益があるのを示してから少しずつ信頼を築いていく考えは、アキラ自身の未熟さから生まれたものだ。イエローならその誠実な気持ちで向き合えば、余程のことでも無い限りポケモン達は頼みを受け入れてくれるだろう。

 

 それを機にイエローは、アキラと同じく神妙にしているオムナイトとゴローンと同じ高さまで体を屈める。

 後はもう大丈夫だろうと判断したアキラは静かに立ち上がると、二匹と話し合いの様なことを始めたイエローの様子を窺いながら音も無く離れた。双方とも穏やかな雰囲気で話が進んでいる様に見えるのに、彼は一安心する。

 

「振り回されている割には随分と考えていたんだな」

 

 話を聞いていたのか、何時の間にか横に立っていたグリーンはアキラに話し掛ける。

 グリーンもポケモンを従わせているからには彼らを連れる責任感は持っていたが、互いに利益をもたらす事まで深く考えてはいなかった。確かに意識して考えてみれば、トレーナーもポケモンも形は違えど何らかの形で共に利益を得ている。

 そういう考えに至らざるを得ない状況であったことを加味しても、アキラの考えは言い出しっぺである彼が上手く機能させているかを除けば良く考えられている。

 

「纏めると”互いに利益をもたらし合う関係”なのが今のお前と手持ちとの関係か。ぞんざいに扱われているのを見ると、とてもそこまで考えているとは微塵も感じられないけどな」

「もう慣れちゃったよ。それに、彼らとやっていくにはそういう考えが必要だと感じたからね」

 

 二年前の時点では一部を除けば、今ほど仲間と言える信頼関係は無かったし、お願いすればやってくれる様な御人好しな性格ばかりでも無かった。

 

 ポケモントレーナーなら上下関係をハッキリさせることは必要ではあるが、それを見せ付けたり誇示することはハクリューやブーバーは嫌っている。

 自由にやりたいなら野生に戻ればいいと考える者はいるが、野生には無いメリットを彼らは自分に見出しているので、そういう矛盾したものを抱えながらも付いて来てくれている。今は信頼関係がある程度は築けているが、だからと言って胡坐を掻いたり蔑ろにすれば、あっという間にそれは崩れるだろう。

 

 これからもニビジムでの経験から至った自らのトレーナーとしての心構えである「手持ちと一緒にトレーナーも変わっていく」と言う方針をアキラは貫いて行くつもりだ。

 

「まぁ、お前のアドバイスがあいつの力になれば良いが、お前から見てイエローはどう思う?」

「現段階での実力は、初心者よりちょっとあるってところ。でもポケモンと仲良くなりやすいのと意思疎通がズバ抜けている」

 

 実力とは言っているが、それは単純な火力だ。

 派手さは無いけど、意思疎通能力はポケモンの気持ちが読み取れることもあって、初心者でありながら熟練のトレーナーと大差無い細かい動きや通常では考えられない動きも可能だ。ポケモンバトルにはポケモンとトレーナー双方に高い能力は必要だが、それ以上に互いの考えを理解できる意思疎通能力が重要だ。

 

 それさえ長けていれば、ただ能力があるポケモンの力任せな戦い方以上に伸びしろがある。更に良く憶えていないが、この先イエローはポケモンを癒したり気持ちを読み取る以外にも強力な力も使えるようになるので、その事を考えると――

 

「今後次第では、()()は化けると思う」

「――彼女?」

「え?」

 

 グリーンの反応にアキラは違和感を感じる。

 まるでイエローが女の子であることを、自分が知っていなかったと思っていた様な反応だ。

 

「そうか…お前も気付いていたのか」

「いや、気付くも何もイエローって女の子でしょ?」

 

 最初から知っていたこともあるが、よく観察すれば確かに外見は少年っぽいものの違っているのがわかる。

 グリーンは自分とは違って鋭いので、早い段階で気付いていたのだろう。

 

「俺達はこうして気付いているが、レッドの奴は…」

「――あっ」

 

 一体何にグリーンは呆れているのか気になったが、具体的に名前が挙がってようやくアキラは気付いた。

 

 言われてみれば、振り返ってみるとレッドがイエローに接する時の態度は、全て男の子であることを前提にしている。一緒に過ごしていれば自然と気付くだろうと思われがちだが、屋敷内でもイエローはレッドの目の前では麦藁帽子を被っているので、彼がイエローは女の子であると気付く機会はあんまりない。

 イエローの男装が様になっていることもあるが、自分達二人は気付いたのに全く気付く様子が無いレッドは鈍いと言うべきか。

 

「教える?」

「大して問題になってないから別に良い。面倒だ」

 

 面倒の一言で済ませて良いのか気になるが、早い段階で教えた方が良いだろうとは思う。

 そうなれば何時くらいにレッドに教えるべきなのかをアキラが考えていたら、慌ただしく屋内バトルフィールドの横に備え付けられていた扉が開いて屋敷の主であるカスミが飛び込んできた。

 

「カスミさん、どうしたのですか?」

「大変! ロケット団の残党がクチバに!」

 

 切羽詰まった様子でカスミから伝えられた内容に、四人は互いに顔を見合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 カントー地方最大の港町があるクチバシティ。

 その港があるクチバ湾は、物々しい空気に包まれていた。

 港には一隻の豪華客船サントアンヌ号が停泊していたが、その豪華客船は現在ロケット団を名乗るメンバーに乗っ取られていたのだ。

 通報を受けて港には多くの警察関係者が集結していたが、船には人質がいるのと集まった野次馬を抑えていることもあって、駆け付けた警察達は動こうにも動けなかった。

 

 今回船を乗っ取ったロケット団は三人だけだが、自分達の事を下っ端ではなくロケット団のエリートである中隊長だと名乗っている。組織の末端である下っ端にさえ手こずってしまう警察官達からすれば、人質の有無関係無く実力が未知数でまるで手が出せない。

 更に彼らは、この手の事件には良く見られる警察への要求を幾つか出していた。しかし、それは捕まった仲間達の釈放などでは無く、どれも奇妙なものだった。

 一つはテレビ局を呼んでこの状況を大々的に生中継する事、そして――

 

「レッドーーー!!! 隠れているのはわかっているんだぞ! 出て来ーい!!」

 

 船の上から、サントアンヌ号を乗っ取った首謀者であるロケット団中隊長の一人であるケンが大きな声を上げる。

 

 二つ目の要求、それはポケモンリーグ優勝者であるレッドを呼ぶことだ。

 彼らが要求したテレビ局に関しては、どこから聞き付けたのか警察を介さずに既にやって来て事件を生中継している。しかし、二つ目のレッドを呼ぶことに関しては、本人には全く連絡が付かないでいた。今のところ警察は時間稼ぎに徹しているが、この状況が何時まで持つのか悩んでいた。

 だが、現状に悩んでいるのは意外にもサントアンヌ号を乗っ取った中隊長の三人も同じなのは、警察官達は知る由も無かった。

 

「調子はどうだ?」

「全然…」

「それはそれで困ったな」

 

 ハリーの問い掛けにケンは答えるが、甲板に集められた人質達が変な動きをしていないか目を光らせていたリョウは嘆息する。

 自分達に()()()()()今回の任務は、ロケット団の復活をカントー全土に宣言するのと同時にレッドが”()()()()()()()”と知らせて、ある連中をおびき寄せる事だ。前者は上手くいったが、後者に関しては当人が現れる気配は一切無く、代わりに港には警察関係者が続々と集まってきている。

 

「中々上手くいかないものだな」

「そもそもレッドがクチバに隠れているって事は嘘だしな」

 

 一応クチバシティには、レッドと交流があるアキラが住んでいると言う情報があるので、姿を消した彼が友人を頼ってここに身を隠していると考えても全くおかしくない。だが、このまま目的を果たせずだらだら時間ばかりが過ぎていくと、警察の数と包囲網は厚さを増していく。

 自分達の実力に自信はあるが、あんまり増えられるといざこの場から離脱する時に骨が折れる。

 

 本当にこのまま任務を継続して大丈夫なのかと心配に思っていた時、唐突に警察と野次馬が集まっている港が騒がしくなった。何か動きがあったのかとケンは様子を窺うが、騒ぎの中心を目にした途端、彼は目に見えて狼狽え始めた。

 

「どうした!?」

「あっ、ああ、あ…アレ!」

 

 震えが止まらない腕で、ケンはある場所を指差す。

 彼が指差した先には、さっきから彼らが警察達に呼んでくる様に要求していた人物――レッドがプテラに乗って港にやって来たからだ。

 

「おっ、おい! アレって…」

「マジかよ」

「嘘…」

 

 騒ぎの中心にいるレッドに、サントアンヌ号を乗っ取ったロケット団中隊長の三人は動揺する。

 二年前のヤマブキシティの決戦で、ロケット団を壊滅へ追いやった張本人なのだから忘れるはずが無い。確かにレッドが出てくる様に要求はしていたが、それは別の目的の為だ。本当に本人が来ることまでは望んでいなかった。

 しかも来たのは彼だけでなく、同郷にしてライバルであるグリーンまでも彼と一緒にこの場に来ているのも見えた。レッドだけでも彼らにとっては最悪なのに、オーキド博士の孫まで来るのは想定外だった。

 

「ヤバイヤバイ! まさか本当に来るなんて!」

「おおおおおおおお、落ち着け! こっちには人質がいるんだ! 奴らでも下手な動きは出来ないはずだ!」

 

 慌てふためくケンを、リョウは落ち着かせようとする。

 認めたくはないが、ポケモントレーナーとしての腕も連れているポケモンのレベルも完全にあちらの方が上だ。正面から挑めばまず間違いなく勝てないが、こちらには”人質”と言う大きなアドバンテージがあるのだ。如何に腕の立つ二人でも、そう簡単には手出しができないはずであると彼らは都合良く考える。

 

 

 

 

 

「お願いします。奴らの狙いは俺です。ですから、俺に行かせてください」

「しかし…」

 

 港にやって来たレッドとグリーンは、集まった野次馬達から歓声や非難めいたヤジを浴びせられていたが、それら全てを無視して真っ先に警察の人と相談を始めた。

 警察関係者も彼が来るとは思っていなかったが、リーグ優勝者とはいえ一般人の少年であるレッドをロケット団の要求通り、本当に行かせて良いものか悩む。

 

「――率直に言わせて貰うが、他に解決する手段はあるのか?」

 

 険しい眼差しで集まった警官達にグリーンが尋ねると、彼らは何も言えなくなった。

 確かに現状は人質を取られて動けないこともあるとはいえ、自分達の力不足故にロクに打開策を見出せず悪戯に時間ばかりを消費している。やれている事と言えば応援を呼ぶのとサントアンヌ号の包囲を固めていくだけで、手をこまねている状況には変わりない。

 

「……わかった」

 

 少し迷いながら、責任者と思われる警官は、レッドとグリーンが先へ進むことを許す。

 サントアンヌ号へ向かうのを許された二人は、出していたポケモンを戻すと堂々とした佇まいで、港に停泊しているサントアンヌ号へ歩き始めた。

 

「そっ、それ以上近付くな!」

「お前達! 俺に用があるんだろ! 目的は何だ!?」

 

 まだ傷が完全に癒えていないにも関わらず、制止の声を上げるハリーに負けない大きな声で、レッドは彼らに何が目的なのかを問い質す。

 十代前半の少年でありながら、その堂々とした振る舞いに港にいた野次馬達は静まり、乗っ取った三人も息をのむ。

 

「ポ…ポケモンが入ったボールを全部置いて来るのなら話してやろう!!」

 

 本当は来て欲しくは無かったです、などとは口が裂けても言えないので、咄嗟にリョウは時間稼ぎと保険を掛ける目的でそう告げる。

 彼らの新たな要求に、レッドとグリーンは言い返すことなく素直に一旦下がって腰に付けたボールを警察関係者に預けると、再び呼び止められた位置までサントアンヌ号に近付いた。

 

「置いて来たぞ! さあ、俺に何の用がある!!!」

 

 まさか本当にやるとは思っていなかったのと、この後どうするかを考えていなかった三人は更に焦る。

 出まかせでも良いから、また何か言うべきか。

 どう対応するべきなのか悩んでいたら、彼らが持つロケット団に身を置いている内に磨かれた第六感と呼ぶべき直感が何かを感じ取った。振り返ると、さっきまで甲板に集めていた人質達はいなくなって、代わりに見覚えの無い少年二人がポケモンを連れて立っていた。

 

「おっ、お前ら何者だ!?」

「人質はどこに消えたんだ!?」

「ここにはもういませんよ」

 

 青い帽子を被ったアキラが、目に見えて動揺する彼らの質問に答える。

 レッドと同じく堂々としていたが、内心ではグリーンが提案したレッドを利用した陽動作戦がここまで上手くいくとは思っていなかった。

 

 今こうしてレッドを含めた彼らはこの現場に駆け付けているが、当初アキラとグリーンはレッドが出向くことには反対だった。

 まだレッドの手足には痺れが残っているのや、集まった報道陣によって事件は生中継されているので、この状況で姿を見せれば四天王に彼が生きていることを教える様なものだからだ。しかし、報道されているニュースからもロケット団が探していると知った彼は、解決するには自分が出向くしかないと頑なに主張した。

 それだけなら彼らは押さえ付けてでも行かせないつもりだったが、何も考えずにレッドは助けに行くことを主張している訳では無く、幾つか理由があった。

 

 一つ目は、彼がサカキに渡されたスプーンがクチバシティの方角へ曲がっていること。

 二つ目は、彼は中継を通じて、自分が健在であるのを四天王達に見せ付けてやるつもりなのだと言う。

 

 一つ目の時点で出向く理由として弱い以前に、そのサカキが組織した集団の残党が事件を起こしているのだ。誰がどう考えても、細工を施したスプーンを信用させる為に妙なことを吹き込んだサカキが、これを機にレッドを始末しようとする罠の可能性が高いと二人は考えていた。

 だけどレッドは「サカキなら小細工抜きで自らの手で俺を倒そうとするから罠の可能性は無い」とハッキリと言い切った。

 他にもスプーンは渡される時「再び決戦の地へと導いてくれる」物であると伝えられているらしいが、アキラとグリーンはどうしても信用出来なかった。

 

 そして二つ目だが、この時点で天変地異などの大災害が起こる予兆にも似たポケモン達の大移動の情報が彼らの耳に入っていた。それをレッドは四天王達が動き出す前兆と捉えていたのか、本格的に動き出す前に彼らが脅威に感じている自身が姿を見せて、四天王達の注意を一手に引き付けるつもりなのだと言う。

 

 最初その案を聞いた時は無茶過ぎるとアキラ達は感じたが、四天王を一点に引き寄せて他には被害を出させないことを考えると納得は出来た。

 問題は本当に四天王を引き寄せた後なのだが、それを尋ねる前にレッドがカスミの屋敷を飛び出してしまったので、仕方なくこの事件解決に力を貸すことになった。

 

 作戦はレッドとグリーンが表に出てロケット団の注意を引き付け、その間にアキラはイエローと一緒に遠回りでサントアンヌ号へと潜入して、人質をアキラの手持ちが覚えている”テレポート”とそれの”ものまね”を使用してここから逃がすと言うものだ。

 

 何匹か残しておきたかったが、確実に人質達の安全を確保するべく六匹全てが協力し合ったことで、今のアキラは無防備だ。

 代わりにイエローは全ての手持ちを連れているので、特訓によってどれだけ力が付いたのかを見る良い機会であると言えなくもなかった。

 

「あっ! お前あの時の!」

「? どこかで会った…かな?」

 

 アキラを指差してハリーは声を上げるが、指された彼は何か心当たりがあるのは認識出来たが、思い出せそうで思い出せなかった。

 ハリーはアキラが今連れている当時ミニリュウだったハクリューに叩きのめされたことを憶えているが、彼の方はロケット団に襲撃された経験以外は相手の顔までは憶えていなかった。

 だが呑気に思い出している暇は無い。人質と言うアドバンテージを無くされたことに怒っているのか、三人はそれぞれの手持ちを召喚してくる。

 

「アキラさん…」

「大丈夫。すぐに加勢が来るから、特訓の成果を確認する実戦テストのつもりで、出来るだけのことをやるんだ」

「は、はい!」

 

 そう促すと、アキラは邪魔にならない様にその場から少し下がる。

 数は丁度六対六。グリーンが課した特訓がイエローにちゃんと身に付いているのか、そしてどう捌いていくのかを彼は避けながら観察するつもりだ。

 

「よし。皆行こう!」

 

 その掛け声を合図に、イエローは手持ち全員を連れてロケット団に戦いを挑む。




アキラ達、空気の読めない奴らと思いながらもレッドが飛び出してしまったので、仕方なくロケット団の要求通りに出向く。

初期から最新話でも中隊長の割にはあまり目立った活躍の無い三人。
良くやられていますけど、中隊長を名乗っているからには一般的なトレーナーよりは強い筈だと思います・・・多分。
でないとロケット団の下っ端のレベルがかなり低いことに。

個人的には、ポケモントレーナーは主従関係以外にも連れているポケモンとは互いに有益な利益を与え合う共生みたいな関係でもあると考えています。

蔑ろにするのは良くないですけど、悪のボスとかで見られる「ポケモンを道具の様に扱っている」のに手持ちから不満があんまり出ないのは、トレーナーからそう扱われてもそのデメリットを大きく超えたメリットが得られるからでは無いかと思います。

ダイパ編の七章でアカギの命令でリッシ湖を封鎖していた変な研究員が連れていたドラピオンが、足跡博士の解読によると日々の扱いに不満を零しているのに、もっと荒い筈の悪のボスには見られないのを見るとそんな気がします。

でも懐き進化のクロバット所持率も高いので、もしかしたら違うかもしれませんけど。

次回からは、バトルが連続していきます。

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