倒れ込んでいるアキラの目の前に現れた、ほぼ攻撃態勢のエビワラー。
パンチポケモンの姿を目にした瞬間、彼は今反応しても避けられないことを直感したが、紙一重のタイミングでエレブーが”でんこうせっか”で跳び込んできた。
でんげきポケモンに抱え込まれる形で一緒に氷の上を激しく転がる事になったが、おかげで彼は何とかエビワラーから逃れることが出来た。
しかし、放たれた拳を打ち付けられた氷は、クレーターが出来たかの様に砕けた氷片を舞い上がらせながら凹んだ。
「アキラ大丈夫か!?」
「他を気にしている余裕はあるかしら?」
レッドはピンチな様子であるアキラが気になっていたが、カンナのポケモン達は容赦なく彼に襲い掛かってきた。
一度は消した筈のレッドが生きていた事、イエローの時もアキラの時も出し惜しみをして逃した為か、彼女は最初から切り札であるラプラスも含めた手持ち全てを繰り出して、最初から全力を出していた。
レッドも対抗してオツキミ山でのリベンジを果たすべく、フルメンバーで挑もうとまだ出していない手持ちを繰り出そうとする。
しかし――
「くっ!」
突然モンスターボールを握った腕から痺れを感じて、彼の手は思う様に動けなくなる。数日前に助けられてから度々感じる手足の痺れが、このタイミングで再発してしまったのだ。何とかしたいが、腕だけでなく足まで痺れるので動こうにも動けない。
「何だか動きが鈍いね。病み上がりなのかしら?」
そんなことを知らないカンナは、ポケモン達にそれぞれ指示を与えて彼を攻撃する。
今度こそ永遠に氷の中に閉じ込めようとする彼女のポケモン達が放った冷凍攻撃がレッドに迫るが、ボールに入っていたニョロボンは自力で飛び出すと彼を抱える形で避けた。ニョロボンのおかげで辛うじて攻撃を避けられたが、これでは足手まといだと、レッドは悔しさを滲ませる。
「レッドさん!」
彼のピンチに離れた場所まで飛ばされたイエローは気付くが、どうするべきか迷っていた。
グリーンはキクコを相手取りながらなんとか渡り合っているが、他の二人の形勢は良くない。苦しそうなレッドに危うそうなアキラ、どちらに加勢するべきか。
「イエロー!! レッドを助けるんだ!!!」
そんな中、エビワラーの攻撃をエレブーと一緒に並んで逃げながらアキラは叫ぶ。
レッドの様子がおかしいのは、彼の目から見ても明らかだ。こちらはシバの相手で手一杯だが、誰よりも助けが必要なのはレッドなのだ。
「でも…」
「こっちは普通に大丈夫! だからレッドに加勢してくれ!!」
誰がどう見ても全然大丈夫ではないが、エビワラーに対して”ふといホネ”を持ったブーバーとサンドパンが二匹掛かりで割り込んだおかげで、一応状況は良くなった。それを見て、イエローは決意を固めると苦しそうにしているレッドの方へと急ぐ。
他の三人と違い、自分には四天王を相手に正面から戦える力は無い。だけど、それは知恵と工夫次第で補えるのをさっきの戦いで経験したおかげで、イエローは加勢することに迷いは無かった。
「フェフェフェ、アタシら全員がここに集まるのは予想外だったかい?」
「っ!」
気に障る笑い声を上げるキクコに、グリーンは反論する余裕も無いのか表情を歪ませる。
イエローはキクコと戦っているグリーンを渡り合っていると見ていたが、実際はかなり危うい状況であった。
アーボックが放つ”ようかいえき”をキュウコンの”だいもんじ”で相殺しながら、背後から不意を突こうとするゴルバットをストライクに迎撃させる。悔しいがキクコの言う通り、ワタルの様に四天王の一人と戦う事は予測出来ても、今ここで全員と戦う事になるとは思わない。
今のところ何とか凌いではいるが、同じ四人でもレッドは体調不良で万全には程遠く、イエローは完全に実力不足、アキラは辛うじて食らい付けるくらいだ。
「ほれほれ、余所を気にしている場合か?」
「ぐぁっ!」
何時の間にか影から影を伝って近付いて来ていたゲンガーがグリーンの影から飛び出し、シャドーポケモンの襲撃をグリーンは受けてしまう。
形勢はハッキリ言って極めて悪い。
あらゆる面を見ても四天王の方が勝っている為、この状況から四天王全員を相手にして勝つのは厳しいを通り越して不可能であると言わざるを得ない。
それはグリーンだけでなくアキラもわかっていたが、逃げ出すのは難しいだけでなく仮に出来たとしても逃げる訳にはいかなかった。
ここで自分達が逃げたら、残った四天王達が何をやらかすかわからないからだ。
ワタルが連れていたポケモンだけで、港の一部を消し飛ばしたのだ。
四人全員がその力を発揮したら、クチバシテイは壊滅を通り越して消滅の可能性すらある。逃げることも負けることも許されない極限の状況、それも被害は自分一人では無くて他にも及ぶ可能性があると考えるだけでも、アキラの心臓は気を抜くと体が跳ね上がってしまうのではないかと錯覚するまでに強まる。
今まで経験してきた数々の激痛の感覚と恐怖が頭に浮かんでくるが、同時にそれは彼にとってチャンスでもあった。
徐々に最も頼りにしている感覚が目に浸透していくのを感じ、それに伴って視界に映る世界がハッキリ冴え渡って来たのだ。問題は今まで短期決戦だったので、この状態でどこまで戦えるのかは未知数なことだ。
結構疲れるので、ひょっとしたら一人倒すので力尽きてしまうかもしれない。だからと言ってただでは倒れず、少なくともあちらから撤退したくなるくらいには悪あがきはしたいと恐怖を抑え付けて、アキラは強気でいく。
「――無言で攻撃何て、らしくないやり方ですね」
視界を通じて得られる情報を可能な限り頭で処理しながら、アキラは無言で構えているシバを見据える。彼なら堂々と技名を叫ぶか掛け声を上げているはずだが、不意を突いてくるのは予想外だった。
それにさっきから感じていることだが、無表情を貫いたままで明らかに様子がおかしい。出ているエビワラーとサワムラーも、表情だけでなく記憶にある動きと比べて淡々としている。
何があったのかは知らないし、こうして戦うのは怖い。
だけど、今までとは違って退くという選択肢は無い。
どちらかが残り、どちらかが倒れるかだ。
「今回は何が何でも勝たなければいけませんので、手段は選びませんよ!!!」
内心で正々堂々とした戦いでは無いのを謝りながら宣言した直後、シバの近くに立っていた二匹は動いた。
「スット達はサワムラー! バーット達はエビワラーだ!」
平時だったら無駄の無い素早い動きで迫っているのが見えただろうが、今のアキラはどう動くかが読めていたので、大雑把ながらも先手を打つ。
サワムラーがブーバーに踵落としを落とそうとするが、そこにゲンガーとヤドキングが飛び蹴りやら張り手を真横から叩き込んで阻止する。ブーバーとサンドパンは、指示通りに仕掛けられた攻撃を防ぐとそのままエビワラーを相手に戦い始める。
「イワークも警戒しておくべきだが、ここは氷の上だからまずは出てこない。二匹掛かりで挑めば勝機はある」
数が増えると指示を伝えにくいが、強い相手に数で挑むのはちゃんとした戦術だ。
戦っている四匹の動きを気にしながら、アキラはにじり寄るカイリキーに対してハクリューとエレブーと一緒に構える。何時でも迎え撃てる体勢だったが、シバから指示らしい指示は全く出ていないにも関わらずカイリキーは飛び掛かる。
「”10まんボルト”!!」
あまりに露骨過ぎて読む程では無かったが、相手がシバのポケモンなのもあってアキラの指示に力が入る。
奇妙なまでに雑だ。
シバが無言なのが影響しているのか、エビワラーとサワムラーの戦いを見ても、ただ能力に任せて闇雲に攻める事しか考えていない様だ。
シバの身に一体何が起きたのか知りたいが、全てはこの戦いを終えてからだ。二匹は同時に”10まんボルト”を浴びせるが、直撃を受けたにも関わらずカイリキーは怯みはしても突っ込むことを止めない。
「”つのドリル”だ!!」
力任せに倒そうとするのならば、一撃で倒すことは容易い。
ハクリューは角の先端にエネルギーを螺旋状に回転させて、カイリキーに突撃する。
”つのドリル”の脅威を知っているのかカイリキーは避けようとするが、エレブーは”でんこうせっか”で先回りをして逃走を阻止しようとする。
しかし、カイリキーは上手くエレブーを捕まえるとハクリューに投げ飛ばした。
味方に当てることを恐れてハクリューは体を曲げて避けるが、生じた隙をカイリキーは突く形でドラゴンポケモンを蹴り飛ばす。それを見て、アキラは雑とはいえ戦闘力だけでなく判断力も高いと訂正する。
他と戦っている四匹に目を向けるが、エビワラーを相手にしているブーバーとサンドパンは苦戦を強いられ、サワムラーと戦っているゲンガーとヤドキングのコンビでも相性が抜群に良い筈なのに中々倒せずにいる。そして肝心のアキラはと言うと、コンディション的には最高の一歩手前なのだが、注意を向けるべき戦いが多くて処理し切れないのと、中々次の段階へ至る感覚は掴めないでいた。
「落ち着け、目に意識を集中させろ。そうすれば自ずと勝ち筋が見えるはずだ」
片目を片手で覆い、アキラは念じる様に呟く。
別に考える余裕が出来る世界がゆっくり感じられる感覚は必要無い。ただ動きが手に取る様に読める様になるだけで、ミュウツーやカンナなどの強敵と互角以上に渡り合えたのだ。格闘戦を主軸にしているシバと、動きが読める感覚は相性が良い筈である。
高揚感に近いものや精度はそこまででは無いが、今の段階でも十分だ。
気持ちを落ち着けて、いざ反撃と意気込んだ時、突如アキラとシバの間に雷が落ちた。
「か、雷?」
目の前で氷が砕け散るのを目の当たりにして、アキラは若干引いた声で呟くが、彼以外にも謎の出来事が起こる。
戦っていたレッドとイエローを襲おうとした”ふぶき”は、目に見えない何かが働いたからなのか捻じられた様に軌道を変えて二人を逸れていく。決定的だったのは、グリーンの元に誰の手持ちでも無いベトベトンが姿を現して、彼をゲンガーの攻撃から守ったのだ。
「けっ、ふざけてやがるぜ」
この場にいる誰でも無い声がどこからか聞こえて、皆戦うことを止めて声の元を探す。
明らかに今戦っている誰か以外、第三者の力が働いている。
敵か味方か、どちらかと言うと味方の様に見えなくはないが、一体何者なのか。
そしてアキラは、今自分達が戦っている上空に誰かがいることに気付いた。
「クチバシティにレッドが潜伏していると言う情報を流して、ノコノコとやって来た四天王を一網打尽にする」
「まさかこうも上手くいくとはな」
「戦う未来は見えていたけど、ここまでになるなんてね」
「……誰?」
見上げた先には、複数のレアコイルが作ったガラスらしきもので出来たテトラポッド的なのに包まれた三人の男女が浮いていたのだ。
彼らが一体何者なのかアキラはすぐにはわからなかったが、レッドとグリーンは知っているのか驚きを露わにしていた。
「何で…何でお前らがここにいるんだよ。マチス!!!」
「え? マチスって…え?」
レッドの叫びを聞いて、ようやくアキラは三人が何者なのかを知る。
レアコイル達が作る浮遊台に乗っていたのは、行方不明になっていたマチスとナツメ、キョウの三人だったのだ。この二年の間、警察や正義のジムリーダーズの懸命な捜索にも関わらず、消息が掴めなくて既に死んでいるとさえ思われていた彼らの乱入に、戦っていた四人は驚く。
「何しに来たって? 四天王をぶちのめし来たんだよ!」
「静かに身を潜めていたけど、そうは言っていられなくなったしね」
「カントーを制圧するのは我らだ。勝手な真似は許さん」
何とも無茶苦茶で身勝手な参戦理由を、三人は声高く堂々と伝える。
アキラ達は知る由も無いが、実は彼ら三人はこのクチバシティに四天王を誘き寄せて一気に倒す計画を練っていたのだ。最近流していたクチバシティにレッドがいると言う噂や、先のサントアンヌ号を三人の中隊長が乗っ取ったのはその下準備の為だ。
本当にレッドが駆け付けてしまうなどの予想外のトラブルもあって計画は幾分か狂ってしまったが、それでも結果的には当初の目論見通り四天王を誘き出すことには成功したので、本格的に叩くべくこうして出てきた訳である。
かつての敵の加勢宣言。
心情的にはアキラは勿論、レッド達も彼らの手は借りたくはなかったのだが、今自分達が置かれている厳しい状況を考えると戦力的には非常に助かるのは無視できなかった。
この時アキラは、将来的に彼らを含めて罪を犯した実力者が軽い処罰や御咎め無しになる理由がわかった気がした。
ただでさえ味方側の戦力が不足しているのだから、罰して減らすくらいなら可能な程度に首輪を付けて許した方がメリットが大きいのだろう。どうも釈然としないが、元の世界とは違って戦いが多い世界なのだからそうなのだろう。
「ロケット団三幹部……かつての敵同士の共闘って奴ね」
「フェフェフェ、飛んで火にいる夏の虫とはこの事じゃな」
手強い相手が増えたにも関わらず、四天王達は余裕だ。
邪魔者を一掃できる機会が出来たことを喜んでいるかは定かではないが、余程腕に自信があるのだろう。マチスのレアコイルが作った浮遊台から三人は飛び降りると、彼らはそれぞれの相手に加勢する。
ナツメはレッドとイエロー、キョウはグリーン、そしてマチスはアキラにだ。
「久し振りねレッド。大分調子は悪そうだけど」
「うるせぇ」
レッドは口では強がっていたが、彼の不調をナツメは見抜いていた。
原因は彼女の目をもってしてもわからなかったが、この戦いが終わって時間があれば聞こうかと考えていた。後、この二年の間に彼が成長しているのが少し嬉しく思えたのは内緒だ。
「フフフ、以前より腕を上げたと見える」
「そうか」
グリーンとキョウの方も、かつては敵同士として命のやり取りをしたからなのか良い雰囲気では無かった。しかしそこはプロなのか、互いに共通の敵を見据えた途端、悪い空気は完全に消えた。
「全く…何で俺だけは見知らねぇガキと一緒にやらねえといけねぇんだ」
「………」
そしてアキラの方は、マチスと一緒にちゃんと戦えるのかが心配だった。
レッドやグリーンとは違って、アキラにはマチスとは何の因縁も無いし、顔を合わせた事すら無いのだ。
特にハクリューはマチスに対して露骨なまでに敵意を見せ、エレブーもマチスが連れている同族の凶悪そうな面構えに緊張している。このままでは下手をすれば共闘どころか、三つ巴の戦いになってしまう可能性がある。
「マチスにシバさんの相手を押し付けるだけ押し付けて、互いに弱ったところを一緒に一網打尽……止めておこう」
邪な(?)考えが頭に浮かんだが、その考えをアキラは忘れた。
今倒すべき敵は、横では無く目の前なのだ。文句は言っていられない。
やるしかないと気持ちを切り替えると、四人はロケット団三幹部の助力を得て、それぞれ目の前にいる四天王達との戦いを再開する。
信用できないとはいえ、ジムリーダーにしてロケット団で幹部を三人は務めていたのだ。彼らの加勢のおかげで、有利まではいかなくても四天王を相手に互角以上の戦いが出来るまでに押し返せる様にはなった。
三人は各々の強味を前面に出してはいたが、意外にもマチス以外は勝手に先走らずに共闘相手と歩調を合わせて戦う様にしていた。
「ふん。随分と厄介だが、拙者の戦いと共通点が幾つか見受けられるな」
「それはこっちの台詞だよ」
戦い方が似通っているキョウとキクコは、内心を悟られない様に余裕の表情を保っていたが、互いに互いの戦法を潰し合っていた。
マタドガスの放つ有毒ガスをゴルバットやゴーストに吹き飛ばされるが、アーボックの”へびにらみ”がゲンガーの動きを封じる。そのタイミングにキクコのアーボックが、キョウの手持ちである同族に襲い掛かるもグリーンのストライクに阻まれた。
普通だったらポケモンのレベル差でキョウの方が少しは押されてもおかしくないのだが、グリーンが巧みに手助けしてくれるおかげで戦いを有利に進めていた。
「キョウ」
「何だ?」
「この戦いが終わったら、お前に返すものがある」
具体的に返すものまでグリーンは口にしなかったが、それだけでキョウは何なのかを理解する。
だけどそれは後回し、今は目の前の敵を倒すことが最優先だ。
「ジュゴン”れいとうビーム”、パルシェン”とげキャノン”!」
得意とする二匹が放つ合体攻撃をカンナは命ずると、二匹はそれぞれの技を放つ。
ジュゴンが放つ”れいとうビーム”に上乗せるすることで、パルシェンが撃ち出した”とげキャノン”は通常よりも威力と速度が増す。防ぐことは勿論、避けるのも困難な攻撃であり、手足の痺れで動きが鈍っていて普通の攻撃でも避けることに苦労する今のレッドには脅威の技だ。
だがナツメが加勢してくれたおかげで、彼はカンナが仕掛けてくる攻撃の回避を彼女のポケモンが使う”テレポート”の助けを借りることで問題を解消していた。
「すまないナツメ」
「気にするな。手を組むと決めたからには見捨てる訳にはいかない」
「あの…その見捨てない対象に僕は含まれないのですか?」
レッドとナツメは、頻繁にカンナのポケモン達が仕掛けてくる攻撃を”テレポート”で避けていたが、何故かイエローだけには”テレポート”は一度も働かず、さっきから自力で避けることを強いられていた。
何となく彼女に嫌われているのをイエローは察するが、一体自分の何が気に入らないのかがわからなかった。そんなやり取りをしていたら今度は”ふぶき”に襲われたが、これもナツメはエスパーポケモンの念の力で自分とレッドには及ばない様に放たれた冷気の軌道を逸らすが、またイエローだけは自らの力で避けるのを余儀なくされた。
「……力を貸してくれるのは助かるけど、イエローにも手を貸してやれないか?」
「その必要は無い」
レッドの苦言にナツメはきっぱりと断る。
私情があることは否定しないが、対象の数が増えるとそれだけ消耗してしまうので極力抑えたいのだ。それに麦藁帽子を被っている
「………」
「あれ? どうしたんだナツメ?」
「いいや何でもない」
ナツメは何事も無かったかの様に答えるが、レッドはそれが嘘なのに気付く。
さっき見せた彼女の目は、まるで何かを待っている様な目だった。恐らく他のロケット団の二人も知っているものだろう。
一体何を待っているのかレッドは知りたかったが、カンナのポケモン達が仕掛ける攻撃が激しさを増してきた為、すぐに気にしている場合では無くなった。
ジムリーダーと聞くと実力はあるけど挑戦者に何かと負けるイメージがあるが、それはジムリーダー側が相手のレベルに応じて戦っているだけだ。本気を出せば、彼らはポケモンリーグ本戦に出場する猛者とも互角以上に渡り合えるだけの実力者なのだ。
その一人であるマチスは、アキラと連携することは一切考えずに力任せにガンガン攻めていたが、彼の勢いにアキラと手持ち達は便乗していた。
「足を引っ張るんじゃねえぞ!」
「勿論です!」
吠えるマチスにアキラは返事をする。
さっきまで彼はシバのポケモンに対して、必ず二匹掛かりで挑む様にさせていたが、マチスの手持ちが加わったおかげで現在は三対一になっている。二倍の状態でようやく均衡していたのを考えると、三倍になるのは十分過ぎる加勢だ。
問題があるとすれば、マチスがアキラ達にお構いなしに戦うことだが、仕方ないと思いつつもマチスの戦い方にある程度沿う様にしている。
当然一部から不満が噴出するが、変にバラバラに戦うよりは激流に身を任せた方がずっと効率が良いし負担も少ない。
カイリキーの注意をマルマインが引き付け、その隙をアキラのエレブーとハクリューが各々攻撃していく。
エビワラーに対しては、マチスのエレブーが周囲に電気を放出しながら戦っているが、ブーバーはじめんタイプの性質を持つ”ふといホネ”を盾に、サンドパンは元来のタイプで余波を無力化して追撃する。
サワムラーの方は、戦っている二匹が頭を働かせているからなのか、ライチュウの動きに合わせて最も連携らしい連携を取っていた。
「にしても、もっとやってくるかと思ったが随分と静かだな。あのガチムチ」
既に分かり切っていることだが、今来たマチスから見ても本当にシバの様子はおかしいと見えている様だ。でも今は関係無い。
理由や真実を知るのは、ここで彼を倒してからだ。
その為にも目の前の戦いに全力を注ぐ。
「いいぞ。ガンガンいけ!」
マチスの煽りを受けて、彼の手持ちは更に攻勢を強める。
そんなマチスの様子にアキラは違和感を抱き始めていた。
確かに今勢いに乗っているので、攻めるチャンスと言えばチャンスだ。
だけど突っ込み過ぎている気がする。
「――ん?」
極限まで高まった訳では無いが、それでも視界の範囲内にいる存在の動作がかなり読めるまでになっていたアキラは、周囲に目を通してある事に気が付いた。
確かに一進一退の攻防ではあるけれど、少しずつ離れて戦っていた四天王同士の距離が、徐々に縮んでいく様に見える。レッド達の様子を見ると、戦っている彼らは追い込んでいることに気付いて無い。否、キクコを相手にしているグリーンがキョウと一緒に激しく攻めているのを見ると、彼は今アキラが気付いたことの意図を察しているのだろう。
四天王同士の距離を詰める。
それはつまり一箇所に固める事だが、一体何が目的なのか。
”一網打尽”の言葉が浮かんだが、四天王相手に果たして通用するのか。
「……やるか」
半信半疑ではあるが、闇雲に攻めるよりはずっとマシだとアキラは考えた。
今自分達には、四天王を負かす策が無いのだ。
もし彼らにその策があるのなら、癪ではあるが喜んでそれに乗ろう。
「数ではこっちが有利なんだ。休む間も与えずに攻撃しつつ、囲い込む様に攻めていくんだ」
そう伝えると、アキラの神妙な面持ちも相俟ってポケモン達は不満を押し込み、今は彼の言う通りに動き始める。頭が良い彼らなら、ある程度は狙い通りの動きを実行してくれているので、後は細かい点や改善点を伝えていけば問題は無い。
数の利を活かして、アキラ達は徐々にだが四天王達を追い立てていく。
彼らの攻勢にカンナは意図せずに少しずつ下がっていたが、徐々に距離が縮まりつつあるキクコと互いに視線を交わす。
奴らには何か策がある。
カンナが相手にしているレッドとイエローは全然気づいていないが、アキラとグリーンのポケモン達は、ロケット団の動きに合わせつつある。
表面上は互角だが、大技を放ったり不意打ちを匂わせることで少しずつ自分達が固まる様に後ろに下がるのを強要させている。
真っ先に可能性として浮かぶのは、大技による一網打尽だ。
確かに彼ら――ロケット団幹部が連れているポケモンなら十分に可能だ。
警戒すべきはマチスが連れているマルマインの”だいばくはつ”か、ナツメのエスパーポケモンの念動力による拘束からの袋叩き、キョウの毒ポケモンでのトレーナー狙い。特に動向を注意する必要がある可能性を浮かべて、それらの可能性を潰そうとした時だった。
突如下がっていた彼らの後ろから、何かが飛び出したのだ。
アキラ達、四天王達に大苦戦を強いられるもロケット団三幹部の加勢により互角まで押し返す。
原作を読むとマチス達は本気でクチバシティに四天王を誘い込んで倒すつもり満々なのが窺えるのですけど、ワタル一人ならともかく三人で四人全員を相手にするのは無理がある気がします。
ひょっとして中隊長以外のロケット団残存戦力を掻き集めて、クチバシティでロケット団vs四天王の大決戦を繰り広げるつもりだったのでしょうか。
もしそうなったら、イエロー達が向かう決戦の場はスオウ島では無くてクチバシティになっていた可能性も考えられますね。