SPECIALな冒険記   作:冴龍

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油断大敵

 後ろから飛んでくる攻撃を避けながら、ゲンガーとヤドキングは逃げる様に瓦礫が散らばる道路を走っていく。

 力に自信はあるが、あれだけの数を相手に正面から挑んでもやられるだけだからだ。

 

 今は反撃のチャンスを窺う為にも様子を見る時だ。

 目の前に道路を遮る一際大きな崩れた建物の残骸が見えてきたが、ゲンガーは念の力でヤドキングを飛び越えさせると、自らはその跳躍力を活かして跳び越える。それから二匹は、互いに目を合わせて頷き合うと、跳び越えた瓦礫に対して意識を集中させ始めた。

 すると目の前にある巨大なコンクリートの塊は、彼らの念の力で浮き上がり始める。

 

 ある程度建物の残骸を浮かせた二匹は、それを押す様に一気に飛ばす。

 低空で飛ばしたので落ちるのは早かったが、勢いで残骸は崩れながらも転がっていき、彼らを追い掛けていた多くの敵を巻き込んでいく。この奇襲攻撃によって敵の攻撃が弱まったことで、二匹は本格的に反撃に転じた。

 そんな彼らの上空をアキラとサンドパンを抱えたカイリューが、飛行時に生じる軽い衝撃波で建物の窓を揺らしながら通り過ぎる。

 

「何とかやっているけど、大丈夫かな?」

 

 帽子の代わりにヘルメットを被ったアキラは、頭脳コンビが戦い始めたのをカイリューに抱えられる形で目にしていたが、こちらも大変だった。

 今のところカイリューの判断で上空を持ち前のスピードで飛び回っているが、追い掛けてくる敵には同じカイリューや素早いプテラもいるので、振り切ることは難しかった。

 

 救いがあるとすれば、ワタルの様に”はかいこうせん”が曲がって来ないことだが、それでも絶え間なく飛んでくる”はかいこうせん”を避け続けるのは一苦労だ。

 反撃に出たくても、攻撃するとなれば振り返るなりしなければならないので、それは難しい。

 

 どうすれば良いのか抱えられながらアキラは考えるが、同じく抱えられていたサンドパンがカイリューに何かを伝えるように声を上げる。内容は彼にはわからなかったが、カイリューが顔を歪めたのを見るとあまり良くなさそうだ。

 しかし、それでもサンドパンは譲れないものがあるのか、珍しくしつこく続ける。

 

「リュット、サンットの言う通りにしてくれないか」

 

 真面目なサンドパンは、この状況でふざけたことはしない。

 カイリューが渋っているのを見ると、サンドパン自身が不利益になる可能性が高い行動を伝えている可能性はあるが、本人が志願しているのだからやらせてみよう。アキラからの頼みもあって、結局根負けしたカイリューは一気に垂直に降下していく。

 

 コンクリートの地面にぶつかる直前にドラゴンポケモンは両足の底を地面に向けると、クレーターの様な窪みが出来る程の勢いで着地すると同時に再び地面を蹴って低空で滑空を始める。

 この行動に付いていけなかった竜軍団の多くは、地面に叩き付けられたり曲がり切れなくて建物にぶつかったりするが、それでもまだ多くは追い掛けてくる。

 

 これがサンドパンが伝えていたことなのかと疑問を抱くが、本当の行動はこの後だった。

 突然カイリューは、抱えていたサンドパンを上向きに放り投げたのだ。

 アキラは驚くが、サンドパンが体を丸めているのを見るとこれは事前に意図した行動だ。

 

「待てサン――」

 

 しかし、あっという間にサンドパンの姿は見えなくなってしまう。

 出来る限り振り返ると、宙を舞っていたサンドパンはそのまま構えて”どくばり”や”スピードスター”などのありったけの飛び技を波の様に迫る竜軍団に浴びせる。

 激しい弾幕に何匹かは怯むが殆どは倒し切るまでに至らず、ねずみポケモンは車に跳ねられる様に押し寄せる竜軍団に弾き飛ばされた。

 

「サンット!!」

 

 カイリューは振り返らずにアキラを抱えたまま、追跡を振り切ろうと加速する。

 言われた通りにやったが、やはりサンドパンの能力や覚えている技では厳しかった。

 タイミングを見計らって回収に戻ることを決めながら、今は自分達の事に専念する。

 

 カイリューと竜軍団が飛び去り、弾き飛ばされたサンドパンは建物の壁に叩き付けられていた。

 そのまま壁伝いにズルズルと力無く瓦礫が散乱している道路に滑り落ちるが、幸いにも意識はあったので何とか立ち上がろうとする。

 

 敵が一塊になっているのなら一網打尽にするチャンスだったのだが、倒し切るだけのパワーに乏しかった。以前から長年の課題であることには気付いていたし、今回の提案は無謀であることもわかっていた。

 改めて現実を突き付けられたが、休んでいる暇は無い。

 

 孤立したサンドパンを倒そうと、無数のワンリキーやシェルダー、ゴーストとゲンガーが囲い込もうとジリジリと距離を縮めて来ているのだ。

 数の上で不利なのは承知しているが、皆自分に出来ることをやっているのだ。他の仲間よりパワーが無いことを、言い訳にするつもりは無かった。決意を新たに、自慢の爪を振り上げて切り込もうとした直後だった。

 

 空気が震える程の奇声を上げながら、エレブーがサンドパンと敵集団の間に飛び降り、大暴れを始めたのだ。

 まだ”がまん”状態が維持されているらしく、電柱を引き抜くと横薙ぎに振り回して、その暴力的且つ圧倒的な力で四天王軍団を一方的に蹂躙する。そこにブーバーも”ふといホネ”を片手に走って来て、エレブーが取りこぼした敵を手にした武器や素手、技で倒していく。

 仲間達の相変わらずの暴れっぷりに、サンドパンは少し憧憬の念を抱いたが、固い殻を持つシェルダーを倒すのに少し手間取っているブーバーに加勢する。

 

 自分には他の仲間達が持つ窮地を脱することが出来る賢さは勿論、圧倒的な力も無い。もっと頭が働く様に訓練したり更なる大技も覚えてきたが、それでも彼らとは距離がある。目の前の敵を倒すのに集中しなければならないのに、サンドパンはまださっきまでの考えを引き摺っていた。

 

 何かが足りない。

 

 その時、戦っていたサンドパンとブーバーの傍に一つの巨体が降り立った。

 やって来たのは、ドラゴンポケモンに分類されるカイリューだ。

 若干目付きが悪かったので、仲間の方かと思ったがアキラの姿が無い。

 数は少ないが何匹か同種がいることを知っていたブーバーは、敵認定をすると怒涛の猛攻をカイリューに加える。テレビの影響や特撮番組の真似事であっても、誰よりも鍛錬を積み重ねてきたひふきポケモンは、種としても能力的にも格上であるドラゴンポケモンを圧倒する。

 止めに”ふといホネ”で殴り付けようとしたが、振り上げている時の溜めの時間を突かれて反撃を受けてしまう。

 

 能力にかまけているとしても、カイリューは恵まれた能力を持っているのだ。

 潰れた車の上に倒れているブーバーにカイリューは逆襲しようとするが、彼を庇う様にサンドパンは前に出る。目の前の敵を止めるには一撃で倒すしかない。ならばその一撃で倒すには、どうやれば可能なのか。

 

 自らに許された僅かな時間の間に、サンドパンは頭を回転させる。

 今まで自分が、格上を相手に一撃を与えたことがあるのは数えるほどしかない。

 そして、それらは全てアキラの的確な指示とアドバイスがあった。

 どうすれば彼無しで、この状況を打開できるのか。

 

 体の奥底から熱い何かが込み上がるのを感じながら、更に追求していく。

 アキラはどうやって、非力な自分でも勝てる様に指示を出していたのか。

 大技を使った覚えはあまり無い。

 殆どが奇跡的に相手の弱点や苦手なところに当たっただけ――

 そこまで至った時、サンドパンの脳裏につい最近アキラが、自分のことを見ながら呟いていたある言葉を思い出した。

 

『急所を狙うのは、ちょっと高望みかな』

 

 それだ、とサンドパンは遂に悟った。

 今まで派手な技と強い技に拘っていたが、そこまで固執する必要は無い。アキラは難しいと口にしてはいたが、既にどうすれば更に強くなれるかを考えていたのだ。

 

 拳を振り被ったカイリューをサンドパンは見据える。

 仲間がカイリューに進化しているが、どういう体をしているかはまだ詳しくは見ていない。体格と姿勢から見てどこを狙えば大きなダメージを与えられる急所なのか、アキラならどう攻撃する様に指示を出すかを考える。

 知識として知っていても、実行することは難しい。でもやらねば自分は何時までも仲間達には追い付けない。今まさにカイリューが拳を突き出そうとした刹那だった。

 

 サンドパンが鋭い爪を最大限に活かして振るった”きりさく”を受けて、カイリューの体は硬直してしまった様に止まる。それでもまだ動けると見たサンドパンは左爪を構えると、次は自身も含めて生物的に弱い箇所が多い顔を狙う。

 

 ”スピードスター”を発射するつもりだったが、体の底から湧き上がる力がそのまま爪に集まっていく熱を感じる。その熱に構わず意識して引き金を引くと、左爪からは”スピードスター”とは異なる緑色の光弾が放たれた。

 それはカイリューの顔に当たると小規模の爆発を起こし、固まっていたドラゴンポケモンはそのまま崩れる様に倒れ込んだ。

 

 カイリューが倒れるのを見届けてから、サンドパンはしばらく自らの爪を凝視する。

 その目は信じられない様な色を帯びていたが、やがてねずみポケモンは弾けた様に爪を突き立てながら建物を駆け上がっていく。

 

 遂に見出せたのだ。ようやく自らの進むべき道、極意と呼べるものをだ。

 

 屋上に辿り着いたサンドパンは、先程と同じ思考を試みながら、アキラ達を追い掛け回している竜軍団に狙いを定める。

 急所当て――それを実現する為には何をするべきか、爪の向き、攻撃を当てる部位などの必要な要素を逆算していく。

 全ての条件が満たされと感じた瞬間、一発の”どくばり”を撃ち出す。

 弾丸の様に一直線に飛んだ毒針が当たった瞬間、命中したプテラは力が抜けた様に姿勢が不安定になって仲間を巻き込んで落ちていく。

 

 それを見たサンドパンは、興奮にも喜びにも似た気持ちの高揚を感じる。

 感覚を忘れない内に先程と同じ気持ちを心掛け続けて、”どくばり”のみならず”スピードスター”、そして湧き上がる力を集めた光弾でも同様の試みをしていく。

 

 すると、目に見えてサンドパンの攻撃が当たったドラゴン達は次々と墜落していく。正確には殆どは倒し切れてはいないが、それでも継戦不能やそれに近い状態に追い込んでいた。

 ちゃんと考えるだけでなく外れない様に狙いも定めないといけないが、「当てる=ほぼ必殺」を実現していることにサンドパンは興奮気味だった。

 

 しかし、今は喜んでいる場合では無い。

 たった今掴んだコツを活かして、仲間達を手助けしていかなければならない。

 その掴んだコツに今湧き上がっている力がある程度関わっていることには気付いていなかったが、サンドパンは目を光らせて飛んでいる四天王軍団を中心にスナイパーを彷彿させる正確無比な射撃で撃ち抜いていく。

 

「何かコツを掴んだみたいだな。サンット」

 

 カイリューに抱えられながら飛んでいたアキラは、建物の屋上に陣取ったサンドパンが何やら力を発揮しているのを嬉しく感じていた。

 サンドパンのパワーを今よりも向上させることは今の自分には無理と感じていたので、ゲンガーみたいにテクニシャンタイプに育てようとしたが、どうやら自力で見出したらしい。

 

「さて、俺達もそろそろ動くか」

 

 地上で戦っている他の四匹も上手く立ち回っているのだ。

 そろそろカイリューと自分も、こうして敵に追い掛け回される以外のことをしなくては奮闘している彼らに悪い。今の彼は、さっきの戦い以来相手の動きが手に取る様に分かる感覚を何故か維持できている。瞬く間に変化していく視界の中で出来ることを探し、そして見つけた。

 

「リュット、建物の合間を縫って飛んでくれないか?」

 

 アキラの提案に、顔を向けたカイリューはさっきのサンドパンにされた提案と同様に渋る。

 下手をすれば自分達が地面か建物に正面衝突する可能性が高いのだ。

 かと言って安全の為にスピードを遅くすれば、後ろの竜軍団に追い付かれてしまう。

 

「大丈夫、俺がちゃんとお前を導くから」

 

 穏やかな雰囲気を醸し出しながらも、自信を持ってアキラはカイリューに伝える。

 過去に何回か言われたことがある台詞ではあるが、上手くいくときもあれば全然ダメな時もあるので、普段カイリューは流す程度にしか聞いていない。だけど、今の彼の姿から信じるに値すると判断したカイリューは、彼の言う通りまだ形が残っている密集した高層建築が多い場所を選んで高速で低空飛行し始める。

 

「目に…ゴミが入る心配も無い」

 

 ヘルメットのバイザー部分で目を保護しているおかげで、アキラは目を気にすることなく、カイリューにどう曲がるのか、何秒後に曲がるべきなのかを伝えていく。

 どれも紙一重なのや体のどこかを建物や地面に掠らせる様なのばかりではあったが、アキラのアドバイスとカイリューの反応と実行出来るだけの能力で強引に実現させる。途中で本当にぶつかりそうな危うい場面では、咄嗟に手足や”つのドリル”を使って力任せに突破して、彼らは追い掛けてくるドラゴン達を振るい落とす。

 

「よし良いぞ。その調子!」

 

 ”つのドリル”でカイリューは建物を突き破っていくが、難なく竜軍団を減らしていく仲間を見ていたサンドパンは負けていられないと意気込む。

 高い場所に陣取っていたサンドパンは、見える範囲で”スピードスター”や”どくばり”、そして新たに放てる光弾での精密射撃で、効率良く四天王軍団を仕留めるか大ダメージを与えていく。

 ようやく進むべき道を見出せて気持ちが高揚しているおかげなのか、今なら何でもできる気分なのも手伝って絶好調だった。どのくらい絶好調なのかと言うと、飛んでいるアキラ達の動向を気にしながら、背後から音も無く接近してきたゴーストとゲンガーを振り返らず撃ち抜ける程だ。

 

 勿論二匹だけでなく、地上ではエレブーにブーバー、ヤドキングとゲンガーの四匹が一塊になって大立ち回りを演じていた。

 周囲がほぼ敵しかいない状況だからか、ブーバーは手にした”ふといホネ”を振るいながら、まるで踊っている様に軽快に体を動かして片付けていく。

 ゲンガーもまた、ブーバーを真似しているのか拾った鉄筋を両手で振り回しつつ、目から放つ多彩な技で翻弄していく。ヤドキングは掌に溜め込んだ念の波動を効率良く攻撃や防御に利用して、遠近共に活躍する。エレブーの方も正気に戻っていたが、寄って集ってくる敵に対して周囲に放電しながら拳を振るって蹴散らしていく。

 

 四タイプのポケモンで構成された四天王の軍勢も数の差で押し潰そうとするが、アキラの手持ち達は質と連携で見事に対抗する。戦いは正に、少数精鋭対雑兵軍団の呈を露わにしていた。

 既に数え切れない数の四天王傘下のポケモン達をアキラ達は倒していたが、それでも四天王軍団のポケモン達の数が減る様子は無い。彼らも減っていないことには気付いていたものの、仕掛けた攻撃や作戦が全て上手くので、自分達はまだまだ戦えると見ていた。

 

 

 しかし、それが過大評価であるのには、手持ち達は勿論、戦う前に気を付けていたアキラさえも気付いていなかった。

 

 

「っ!」

 

 上空を飛んでいたアキラとカイリュー目掛けて、地上からコンクリートの塊が投げ付けられた。

 地上にいたワンリキーの集団の仕業なのには気付いていたので、カイリューは彼に伝えられる前に再び”つのドリル”で粉砕する。

 

「残念だった――」

 

 皮肉の一つを言おうとした時、横にある建物を貫いて無数の光線が彼らを襲う。

 目に見える範囲内ならすぐさま対応できる自信が今のアキラにはあったが、視界外からの不意を突いた攻撃までには注意を向けていなかった。

 

 カイリューは反射的に体を捻らせたりして避けていくが、避け切れなかった攻撃が掠る。

 更に他の方向から仕掛けられた攻撃も受けて、ドラゴンポケモンは切り揉みしながら瓦礫が散らばっている道路に墜落する。

 勢いもあった為、激しく地上に叩き付けるだけでなく瓦礫や潰れた車を跳ねながら体も転がっていくが、建物に激突してようやく止まった。

 

「リュット! 大丈夫!?」

 

 包み込む様に抱えられていたアキラは、すぐにカイリューに声を掛ける。

 彼はカイリューがしっかりと抱えてくれたおかげで、墜落時と転がった時の衝撃が体に響いた以外は目立った傷は負わなかった。幸いダメージはそこまで大きくないのか、ドラゴンポケモンは頷きながら体に付いた土や小石を振り落として立ち上がる。

 だけど、安心している時間は無い。

 

 さっきまでは空を飛んでいたので竜軍団だけにしか追い掛けられなかったが、地上に落ちた今はチャンスとばかりに四方八方からあらゆる四天王の軍勢が一斉に襲ってきた。

 カイリューは口から青緑色の炎である”りゅうのいかり”を放って一掃するだけでなく、巨体とパワーを活かして暴れ回ることで自らに近付く敵を跳ね退けていく。しかし、カイリューは自らの身を守れてもアキラの方は少々面倒なことになっていた。

 

「人間相手でも手加減無しか」

 

 殴り掛かって来るワンリキーに殻で挟もうとするシェルダーを避けながら、アキラはどうするべきか迷っていた。ポケモン同士なら問題は無いが、人間が自衛のためとはいえ、ポケモンに攻撃を加えることにはどうしても抵抗がある。手持ちにツッコミの意図で軽い手刀を落とすのとは訳が違うのだ。

 

 今のところは視界内にいる敵の動きは、手に取る様にわかるのや死角に回り込まれても鋭敏化した感覚と反応のおかげで避けていられるが、何時まで持つか。

 色々あれこれと考えながら戸惑っていたが、カイリューが彼を追い回していたポケモン達を片付けると、すぐにアキラを抱えてその場から飛び去る。

 

「これだけ暴れても減る様子無しか」

 

 追い掛けてくる敵と地上を暴れている四天王軍団の動向を確認するが、既にカイリューだけでも下手をすれば百匹以上は倒しているはずなのに、敵の数が戦い始めた時とあまり変わっていない。最初は気分良く無双出来ても、延々と戦い続けていれば消耗してしまうものだ。

 カイリューの様子を見るとまだ余力はあると見て良いが、疲れ切るまで戦っても状況が変わる保証は無い。

 

「――そろそろ引き上げるべきかもしれないな」

 

 頭が冷えて冷静になったアキラは、思わずそう呟く。

 力が及ばなかったのは悔しいが、とにかく仲間達と合流した方が良い。

 そして、彼の懸念は当たっていた。

 

 屋上から様々な方向へ技を放っていたサンドパンだったが、唐突に技が出せなくなった。

 最初は混乱するが、湧き上がる力が消えているのを感じたのと過去の経験から技を出すPPが切れてしまったことを悟った。これでは上手く戦えないと、戸惑っている間にプテラが鋭い刃そのものである翼で襲ってくる。

 最初に仕掛けられた攻撃を何とか避けると、サンドパンはさっきまでやっていた急所狙いの逆算を瞬時に行う。そしてプテラに対してまだ出せる技である”きりさく”を仕掛けるが、焦っていたこともあるのか、ダメージを与えられても肝心の急所と見た箇所からは僅かに狙いが逸れてしまう。

 

 咄嗟にサンドパンは、これ以上ここに留まるのは不利と判断を下すと、噛み付いてくるプテラから逃れるべく建物から飛び降りる。

 当然そのまま着地するつもりは無いので建物に爪を突き立てて減速していくが、四方から飛んでくる光線などの猛攻に耐え兼ねたのか、地上に降りると同時に”あなをほる”の要領で建物の壁を突き破って中に逃げ込む。

 

 仲間達と円を描く様に戦っていたヤドキングも、次第に上手く念の力が籠められなくなるのを感じる様になっていた。

 その違和感が無視できないものになって気を取られた瞬間、飛んできた攻撃を受けてしまい、吹き飛ばされた体は潰れている車に叩き付けられてしまう。

 

 追い打ちを掛ける様にワンリキー達が投げ飛ばしてきた無数の瓦礫を、跳び上がったエレブーはヤドキングを守るべく砕いていくが、着地したタイミングにあらゆる軍団から”はかいこうせん”を始めとした様々な技を雨あられの如き激しさで浴びせられた。もう一度”がまん”を発動するべく、でんげきポケモンは”リフレクター”や”ひかりのかべ”を張って、片膝を付きながらも必死に耐えようと粘るが、自信を持って耐え切れるだけの余力はこの時既に無かった。

 

 自分達に有利だった流れが徐々に変わりつつある。

 それを感じ取ったゲンガーとブーバーの二匹は、目線を交わすとすぐさま頭を切り替える。

 エレブーが敵の攻撃を引き受けている間に、ひふきポケモンは”ふといホネ”を投擲して、ゲンガーは念の力でホネの軌道とスピードを操作して自分達やヤドキングに迫っていた敵を薙ぎ倒していく。

 一時的に場を大人しくさせて時間を確保すると、その間にゲンガーは起き上がるのに苦労していたヤドキングに手を貸して起き上がらせた。

 

 これはマズイパターンだ。

 

 過去に近い経験をしたことがあるゲンガーは、一度分かれて戦っている仲間達全員が集まる必要があるのを考え始める。

 その時、近くの建物の壁を貫いてサンドパンが飛び出し、空からはアキラを抱えたカイリューがやって来た。

 飛んで来たカイリューは、エレブーに攻撃していた四天王軍団に対して”れいとうビーム”を薙ぎ払う様に放つ。一掃出来るだけの威力は無かったが、それでも竜軍団が苦手とする氷技の効果は絶大であり、地上の軍勢も体の一部が凍り付いたりと行動不能になる。

 乱入する形で攻撃を中断させると、彼らはボロ雑巾の様に倒れていたエレブーを素早く回収して、集まっている四匹の元に降り立った。

 

「皆無事か?」

 

 カイリューの手元から離れて、地に足を付けたアキラは問い掛ける。

 一部はどう見ても無事では無いのはいるが、大体は大丈夫ではあった。自分達が暴れ回ったことでどれだけ敵の動きに影響を与えることが出来たかを知る術は無いが、もうこれ以上戦っても勝つどころか無事である保証は無い。

 

 引き際だ。

 

「バーット、”テレポート”の――」

 

 何時も利用している緊急逃走手段を頼もうとした時、アキラは空気が変わるのを感じた。

 火災と半壊した建物などの瓦礫の山に紛れて、四天王の各タイプの軍団が自分達を取り囲んでいたが、それだけでは無かった。

 戦っている時は見掛けなかったワンリキーとシェルダー、それぞれの最終進化形態であるカイリキーにパルシェン、そして他にいる同種とは別格な雰囲気を漂わせるゲンガーとカイリューがこちらを睨んでいたのだ。

 

 前者の二匹はわかりやすいが、後者の二匹も含めて恐らく各四天王軍団を率いている親玉的な存在だろう。アキラは近くにあった丁度良い長さの折れた鉄筋を手にして、意識を取り戻したエレブーを含めた手持ちと一緒に円を描く様に対峙する。

 

 正直言ってこれ以上戦うつもりは無いし、ブーバーの”テレポート”で離脱することはもう決定事項だ。構えているのも、まだ戦う意思がある様に見せ付けて牽制する為だ。

 しかし、アキラは自らの選択に不満を抱くことは勿論、自問自答を繰り返していた。

 

 こうして戦いに首を突っ込んでいるのは、友人であるレッドの手助けをしたいのは勿論、単純に言って手持ちがそれを実現出来るだけの力を持っているからだ。

 今回は自分達にやれることを尽くした。

 それでもダメなら自分達の力不足と受け入れつつも、次のリベンジを誓って引き上げるべきだ。レッドからも危うくなったら逃げる様に言われているし、今の彼らの様にここでの戦いが絶対に負けられない戦いと言う訳では無い。

 

 ここで玉砕覚悟で挑んでも、もう意味は無い。

 自分達が奮闘したおかげで、街の人達が避難する時間を稼いだり、向けられるはずだった攻撃を引き付けられたと考えれば勝ったと言えるだろう。

 

 何時か必ず、こんな不満を抱かないだけ強くなってやる。

 

 心の中でそう誓い、アキラは湧き上がる悔しさを抑えてブーバーに”テレポート”を命じようとした時だった。

 突如地面が突き上がる様に激しく揺れて、地面が大きく裂けたのだ。

 急激に広がる裂け目をカイリキーなどは避けるが、避け切れなかった多くの四天王軍団のポケモン達は巻き込まれる。

 

「”じわれ”って…え?」

 

 規模は大きいが、”じわれ”によく似ている技にアキラはサンドパンに目を向けるが、ねずみポケモンは首を横に振って自分では無いことを伝える。

 その時、瓦礫を突き上げる形で大地を砕き、一際巨大な何かがアキラを取り囲んでいる軍勢の一角に現れた。

 

「イワーク…」

 

 現れたのはいわへびポケモンのイワークだ。

 しかも姿を見せたのはイワークだけでは無い。

 すぐ近くの地面からは、ツノを回転させたサイドンが敵を巻き込みながら地中から飛び出し、口からを火炎を放って周囲を牽制する。

 

「助けに来たぞ。アキラ」

 

 二匹がそれぞれ姿を見せた穴から、彼らを率いるトレーナーにしてニビジムのジムリーダーであるタケシが、彼が連れて来たであろうトレーナー達と一緒に出てきたのだ。助けの手は無いと考えていただけに、予想外の加勢にアキラ達は驚きを隠せなかった。

 突然の敵襲に四天王の軍勢は警戒するが、タケシ達が立っている位置とは真逆の場所からは噴水の様に水が溢れ出した。

 

「無茶をするわね。誰の影響かしら?」

 

 溢れ出た大量の水で敵を流しながら、スターミーに乗ったカスミも姿を見せた。

 今この地方に残っているジムリーダーの二人が、このクチバシティにやって来ている。

 それならと考えた時、アキラ達の周囲を花弁や色彩様々な粉塵が舞い始めた。花弁は敵に纏わりついて体力を奪い、色とりどりの粉塵を浴びたポケモンは戦意を失っていく。

 

「よく敵の注意を引き付けて時間を稼いでくれました。アキラ」

 

 予想が当たり、アキラの表情は自然と明るくなった。

 タマムシシティのジムリーダーであるエリカが、大勢のタマムシ自警団に属するトレーナー達を率いてこの場にやって来たのだ。

 三人のジムリーダー達に、彼らに率いられた多くのトレーナー達。

 数で苦戦を強いられていたことを考えると、これ以上無く心強い。

 

「ふふ、助けに来たのは私達だけではありませんよ」

「?」

 

 どういう意味なのか聞き返そうとした時、どこからか綺麗な氷の粒が雪の様に降り始めた。

 空を見上げると、炎に照らされる形で青白い光を放っている伝説の鳥ポケモンと謳われるフリーザーが飛んでいたのだ。伝説のポケモンの一角の登場に、駆け付けたトレーナーの多くは目を奪われるが、美しいはずなのに何かが違う様に感じられる氷の鳥にアキラは見覚えがあった。

 まさか――

 

「ここか! 祭りの会場は!」

 

 派手に排気音を鳴らしながら、バイクに乗ったどう見てもカタギでは無さそうな集団、アキラの知り合いにしてサイクリングロードを根城にしている暴走族集団であるムッシュタカブリッジ連合をタカが先頭に立って率いていた。

 何で彼らがこんな所にいるのかやどうやってこの危機を知ったのか、アキラの中では疑問しか浮かばなかったが、あの様子ではエリカ達と一緒に来たという事だろう。

 

「――タカさん…もう暴走族止めた方が良いんじゃないですか…」

 

 エリカが率いる自警団の実力は知っているが、タカを始めとした暴走族である彼らの実力も良いものであると言い切れないが、そう悪いものでは無い。これ以上無い、カントー地方に残った戦力の集結に思わず笑みが零れてしまう。

 戦いがまだ続くとしても、もう一人では無い。

 その事実だけでもアキラには十分に有り難かった。

 

「いくぞ皆!」

「アキラが散々暴れたのだからやってやるわ!」

「無理はせず、やりましょう」

 

 三人のジムリーダーの呼び掛けに、この場に集結したトレーナーとそのポケモン達は雄叫びを上げて応えると、四天王軍団のポケモン達と激しく激突した。




アキラとその手持ち達、持てる力全てを出して挑んでも追い詰められるが、カントー中から応援が駆け付けてくれる。

今回ジムリーダー以外に駆け付けたトレーナーは、ジムリーダー達が呼び掛けて集めたのだけでなく、前話でさり気なく描いた報道関係者の生中継からアキラ以外にも警察と一緒に奮闘するトレーナー達の姿見て、力になろうとした有志も含まれていると言う扱いです(暴走族達は後者)

原作ではジムリーダー達しか戦っていない様にしか描かれていませんが、描いていないだけで実際は他のトレーナーも戦っていたと個人的には考えています。
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