怒りの雄叫びを上げたワタルに呼応するかの様に、カイリューの全身を包み込む様に濃い緑色のオーラが体に迸る。こんな事になるとは全く予想していなかったのもあるが、その荒々しくも強大な力の発現にイエローは勿論、アキラも驚く。
色や量などは異なっているが、ワタルのカイリューの身に起こった変化に、彼は見覚えがあったからだ。隣に立っているカイリューの姿を見て、ワタルは先程とは一転して何かを確信した様な笑みを浮かべる。
「見せてやろう。お前達に……俺達の本気を!」
「ほ、本気?」
思わずイエローは聞き返してしまったが、余裕を取り戻せたからなのかワタルは悠々と彼の疑問について答えてくれた。
「この技の名前は”げきりん”。強い力を得ても尚、更なる力を求めたドラゴンポケモンが覚えることが出来るドラゴンタイプの技だ」
「”げきりん”…」
イエローは唖然とする。
まさかワタルが、こんな切り札を隠し持っていたとは思っていなかった。
更なる力を求めた末に得られたと語られた強大な力を身に纏うカイリューは、見る者を圧倒する威圧感に迫力を放っており、全てが先程までとはケタ違いだった。
「本来”げきりん”はエネルギーを乱射するか、エネルギーを体中に漲らせて暴れるかのどちらかしか出来ない。だが俺のカイリューは修練を重ねたことで、安定して”げきりん”の力を身に纏えるまでになった」
体内にあるドラゴンのエネルギーを引き出すものではあるが、他のポケモンよりも強大なドラゴンポケモンと言えど、”げきりん”を放つ時のエネルギーを制御するのは困難を極める。普通に覚えたばかりでは、溢れ出るエネルギーをロクに制御せずにデタラメに放出するか、制御しても申し訳ない程度の量による興奮状態のどちらかだ。
だがワタルのカイリューは、鍛錬を重ねたことで後者の状態を維持しながら前者に該当するだけのエネルギーを全身に纏う事で、両方の利点を無駄なく両立することを実現した。
この状態になれば、先程までとは一線を画す強さをカイリューは発揮する事が出来る。
どれだけ嫌っていても、アキラとカイリューは嫌でも認めざるを得ない強さなのは確かだ。
だがこうして奥の手を出したからには、彼らの快進撃もここまでだ。
「ここまで俺達を追い詰めたのは褒めてやろう。だが…今度こそお前達は終わりだ!!」
それを合図に”げきりん”のオーラを纏ったワタルのカイリューは、あっという間にイエローとの距離を詰めて襲い掛かってきた。不意を突かれたこともあるが、イエローは勿論、連れているレッドのピカチュウさえも威圧感に呑まれて反応が遅れてしまったのだ。
緑色のオーラを纏った拳をカイリューが振り被った瞬間、ようやくイエローは認識する。
やられる。
「成程、アレは”げきりん”だったのか」
その言葉が聞こえた直後だった。
イエローの横に立っていたアキラのカイリューが、目前にまで迫ったワタルのカイリューの顔を横から右腕で殴り付けて、そのままスオウ島の山の岩壁まで吹き飛ばした。
刹那のあまり、イエローは何が起こったのかわからなかった。
”げきりん”とワタルが呼ぶ技を身に纏ったカイリューが、一瞬にして自分との距離を詰めてきたところまでは憶えている。そしてやられると意識した直後、何かが割り込む形で彼のカイリューを殴り飛ばしていた。
やられたワタルのカイリューも一瞬飛んだ意識をすぐに取り戻すが、何が起きたのか理解出来ていない様子だった。麦藁帽子を被った小僧を仕留めたかと思いきや、気付けば自分の方が逆にダメージを受けていたのだから。
「っ! 右腕でやるべきじゃなかった…」
まだ理解が追い付いていない彼らを余所に、アキラは咄嗟であったとはいえ、不調気味のカイリューの右腕で殴り付けるのを意識してしまった事に内心冷や汗を掻いていた。
クチバシティで持てる限りの力を籠めて強大な力を解放した影響で、未だに右腕を動かすのに違和感を感じる。
なので出来る限り使わない様にしてきたが、さっき殴り付けたことで痛覚は感じないのに物凄く気分が悪くなると言う形でハッキリした。ほぼ無傷である自分の右腕の感覚が混ざっていることもあって強引に使えない訳では無いが、もうこの戦いでは右腕で殴ったり防御することは控えるべきだろう。
しかし、それだけイエローが危うかったのだ。
もし動きが読めるだけでなく、必要とあれば世界がスローに見えるなどの体感時間が長く感じられる感覚が無ければ間に合わなかっただろう。そしてカイリューと思考が共有出来ているおかげで、思い至ったらすぐにカイリューが実行してくれなかったら今頃どうなっていたことか。
一つでも欠けていたら、イエローはやられていた。
「……短期決戦といくか」
立ち上がっているワタルのカイリューを睨み、彼らは次の一手に備える。
今ワタルのカイリューが身に纏っている緑色のオーラ、彼が言うには”げきりん”と呼ぶものらしい。もしそうなら、色が異なるのや迸っているエネルギーの量はあちらの方が多いなどの違いは見られるが、先程の戦いで自分のカイリューが身に纏ったのも同じ”げきりん”なのだろう。
既に一度使えているのだから覚えているはずだともう一度あの力を引き出そうと試みてみるが、お互いにどう意識してもあの時感じた湧き上がる様な力は引き出せなかった。
色々気になる点はあるが、自分のカイリューが”げきりん”と思われる技や力を発揮できた機会はどれも無自覚な勢い任せだったのを考えると、ワタルの言う通りちゃんと鍛錬を積まないと上手く使いこなせないのは事実だろう。
”げきりん”を纏ったことで先程よりも手強くなったのは確かだが、さっきまで押せていた様にワタルらの動きを良く見て、それに応じた反撃と回避に徹すれば臆する必要は無い。だけど、経験したからわかるが強大な力なので、あのエネルギーを纏ったパンチ一発でも受ければ今の自分達には致命的だ。
十分に気を付けなければならない。
「マグレだ! 次はそうはいかない!」
岩壁が崩れた際の土埃が晴れない内に、”げきりん”のエネルギーを身に纏ったワタルのカイリューが弾丸の様に一直線に迫る。
本当にラッキーパンチと思っているのか、アキラの目から見ても何のフェイントの兆候も見られない突進だった。
「――
備えながら呟くと、オーラを纏ったパンチをカイリューは体の上体をズラして避けるが、拳だけでなく流れる様に尾も迫っていた。単調に殴り付けてきたかと思いきや二段構えであったが、アキラは自らがカイリューになったつもりで巧みに左腕を使って頭部に迫る尾を流す。
流したままでも良かったが、アキラのカイリューはそのまま左手だけで尾を掴むと力任せに振り回し始めた。
アキラ達の感覚からすると一連の流れは体感的に長く感じられたが、見ていたイエローとワタル達から見ると、彼らの動きは最初から全てわかって動いた様にしか見えなかった。
オーラを纏っているので、握り締めている手が焼けるのを彼らは覚悟していたが、案外そうでも無かった。多少の熱と弾く様な力、今度上手く”げきりん”を発動した時でも、何とかしてしがみ付けるかもしれないが難しいだろうと思案しながら振り回していく。
「っ!」
しかし、唐突な違和感を感じたアキラは、振り回していたカイリューを近くにいたワタル目掛けて投げ飛ばす様に意識する。
投げ飛ばされたカイリューにワタルは巻き込まれるが、それよりもアキラは自分の身に起こった異変の方が気になった。
一瞬ではあったが、眩暈に近い視界の歪みを感じたのだ。
さっきからカイリューの背にしがみ付く形で乗ったままで、彼は自身の体を動かしている訳では無いのだが、感じられないだけで確実にアキラは自分が消耗しているのを意識する。対峙している相手の動きを分析しての先読みと対応過程のイメージ、そして時として自分自身がカイリューであるかの様な感覚で体を動かしたりすることを意識的に行うのは、想像以上に負担が大きいのかもしれない。
疲労感や痛覚が麻痺しているのを自覚しながらもここまで戦ってきたが、理解し切っていないだけで、本当に体は限界が近いのかもしれない。
「あぁ、どっちにしろ一気に仕掛けるぞ」
流石にカイリューからも懸念の思考が流れて、荒くも可能な限り息を落ち着かせようと努めながらアキラも同意する。
疲労感に痛覚があまり感じられない所為で、今の自分の体がどれだけマズイのか、危険信号が無いので限界さえも全く分からない。もしかしたら負荷に耐え切れなくて、唐突に糸が切れた様に死んでしまうかもしれない。
今この場で自分がワタルを倒す倒せないにしても、可能な限りダメージを与えてイエローに託す。あわよくば倒してしまおう。
”こうそくいどう”でアキラのカイリューはワタル達に殴り掛かるが、ワタルは濃い緑のオーラを纏っているにも関わらずカイリューの背に飛び移り、ボールに倒れている手持ち達を戻すとそのまま飛び上がった。
「逃がすか!」
殴り付けた左腕を地面から引き抜き、アキラが乗ったカイリューも翼を広げて後を追う。飛び立った両ドラゴンは一直線に、スオウ島に一つしかない山の頂上へと飛んでいく。
先程まで想像を超えた戦いを繰り広げている彼らの攻防を見ていたイエローは、追い掛けるべきなのか迷ってしまうが、突然ブーバーに背中を足裏で伸される様に蹴られた。
唐突過ぎて訳が分からなかったが、ブーバーの何時になく不機嫌そうな目付きを見て、自分に何を伝えようとしているのかは理解出来た。
「そうだね。僕も行くべきだ」
今アキラはワタルを圧倒しているが、このまま彼を待っていてはここまで来た意味が無い。
スオウ島に来る前に抱いた決意を思い出し、イエローは彼を追い掛ける為にも目の前の山を登っていく決心を固める。
「イエロー…君」
体をフラつかせながら唐突にカツラはイエローに歩み寄ると、彼はミュウツーが入ったマスターボールを手渡してきた。
「カツラさん…」
「ボールから出すことは出来ないから君の力になる事は出来ない。荷物になる事はわかっているが、この戦いの行く末を見届けさせてくれ」
ボールの中を窺うと、ミュウツーが強い意志の籠った眼差しをイエローに向けていた。
もし時間制限が無かったら今にもボールから出そうだが、時間制限があるのでそれは叶わない。
最後まで戦う事は出来なかったが、この戦いの結末を自らの目で見届けたい気持ちがイエローには強く伝わった。本当にやれるかどうかはわからないが、それでもここに来たからにやり抜くつもりだ。
「君達はここでカツラさんを頼めるかな?」
イエローの頼みに、サンドパンやエレブーなどは真っ先に頷き、ブーバーとゲンガーは不服そうではあったが渋々了承する。彼らも戦いに出向きたいが、もう無視できないまでに疲労が大きいので満足に動くことが出来ないのは自覚している。今はここで体力の回復に専念して、後で加勢に行くつもりだ。
そしてイエローは、既に外に出ている自分が連れている手持ち達と向き合う。
彼らも自分同様に力不足なのを自覚しているが、それでも最後まで戦い抜く意思を秘めていた。
「よし。行こう皆!」
彼らが飛んで行った先である山の頂上を目指して、イエローはドードーに乗って駆け出す。
スオウ島に唯一ある山の頂上付近上空では、アキラとワタル、そして両者が連れているカイリューが文字通り死闘を繰り広げていた。
切り札である”げきりん”を発揮したことによって、ワタルのカイリューは確かに攻撃力と防御力の面では大幅なパワーアップを遂げていた。
しかし、結果は予想に反してアキラ達を圧倒するどころか、攻撃を尽く避けられては逆に反撃を受ける先程までの展開と何一つ変わっていなかった。
「だあァァァァァ!!!」
「うおっ!!」
共に雄叫びを上げながら、アキラが背に乗っているカイリューはワタルのカイリューに尾から放たれる”たたきつける”を打ち込む。その強烈なパワーに抗い切れず、彼らはスオウ島にある山の火口へと一直線に落ちていく。
今彼らが戦っている山は、ワタルのドラゴンポケモン達が予め地殻を刺激したことで火山活動が活発化している。今すぐにでも噴火するという事は無いが、万が一火口に落とされればカイリューは無事でも乗っているトレーナーは無事では済まない。
吹き飛びながらカイリューは、体を動かすなどして落下軌道を変えたことで、ワタル達は火口では無く火口付近の頂上に墜落する。
「くそ!」
カイリューが庇ってくれたおかげで目立った怪我は無かったが、落下時の衝撃で体中に感じる痛みを抑えながらワタルは悪態をつく。
”げきりん”を纏ったことで、普段以上にパワーが増した今のカイリューが繰り出す拳などの打撃系の攻撃一つ一つは必殺級だ。
一発でも当てればこちらのもの。
当初はそう思っていたが、現実はその一発を当てる事すら出来ないでいた。
何を仕掛けようと、まるで知っていたかの様にこちらの攻撃は巧みに避けられたり流されたりして、その度に生まれた隙を突かれて反撃を受ける。不意を突いたとしても、常軌を逸した反応速度ですぐさま回避などの対応してくる隙の無さ。しかもアキラ達の方も「一撃でも受ければおしまい」と認識しているのか、チャンスを見出したら攻めるが避けるべきなら回避に徹するなど徹底していた。
このままどれだけ仕掛けても、避けられてばかりの一方的な状況が続いてしまえば、認めたくはないが自分はまた負けてしまう。だがその状況下でもワタルは、光明を見出していた。
一見すると彼らの動きは完全無欠とも言える程に隙は無かったが、時間が経つにつれて動きにキレが無くなってきている。ここに来た時から疲労していたのだ。接近を許さずに上手く距離を保ちつつ
「……時間を稼ぐ?」
ここまで考えて、ワタルは自分が至った思考が信じられなかった。
今の自分の発想は、まるで格下が正面から挑んでも勝てない格上を倒す為に相手が弱るのを待つ様では無いか。強いのは認める。だが絶対に奴が同格、ましてや格上であるなどワタルは認めたくない以前にプライドが許さなかった。
「
しかし、怒りに震えている間もなくアキラの声と別の声が混ざった様な不気味な声がワタルの耳に入る。
アキラのカイリューが再びハンマーの様に尾を振り下ろしてきたが、ワタルのカイリューは両腕を盾にして全力で耐える。その圧力にワタルが乗るカイリューの足元の岩肌は窪むが、押し切るのは不可能と判断したのか、力を込めていたにも関わらずアキラが乗ったカイリューは素早く下がって距離を取ると出方を窺い始める。
「どうした! さっきからトレーナーは指示を出さずにポケモン任せになっているじゃないか!」
先程までの弱気な考えを忘れて、ワタルは構える彼らを挑発する。
自分達が追い詰められているのにトレーナーの力量は関係無い。
全てはあのカイリューが異常なまでに強いだけだ。
今のアキラは、ただ背中に乗っているだけで、何一つ指示を出していない荷物に過ぎない。
そんな意図が籠った言葉だった。
「そのお荷物を捨てたらどうだ?」
露骨なまでの挑発だが、憤慨した形相でカイリューは真っ直ぐワタルに迫る。
その姿に掛かったと、彼はほくそ笑む。
疲労で動きが鈍っている以外にも、ワタルはアキラのカイリューに幾つか弱点まではいかなくても気になる点を見出せていた。
まず右腕は不調なのか、垂れ下がったままで防御どころか攻撃にも利用していない。
つまり実質片腕だ。にも関わらず、彼らは積極的に近接戦闘を仕掛けてくるだけでなく、さっきから攻撃も全て直接打撃系だ。他の技が使えないと言うよりは、これはその条件下でなら今自分達を圧倒出来るだけの絶大な力を発揮できるからなのだろう。
そしてさっき挑発にも挙げた背に乗っているトレーナーの存在。
片腕しか使えないドラゴンに近接戦闘で追い詰められているというのは何とも情けないが、ワタルが最も重要と見ているのはアキラの存在だ。実はこの時点で彼は、さっきのカツラとミュウツーに見られた繋がりにも似たものが彼らにもあることに気付いていた。
それが一体どんなものかわからないが、繋がりがあるという事はトレーナーはそれを何らかの形で維持する為に離れることは出来なく、常に最前線にいなければならない。
事実、背に乗っている彼を狙う度に彼のカイリューは守る様に動いているので、見出した中で最も弱点と言えるだろう。アキラが未来予知か何かの超能力が使えると言う話は聞いていないが、カイリューの強さの理由に一見すると何もしていない様に見える彼が関わっているのならば、奴を排除すれば勝てる。
迫るアキラのカイリューをワタル達は迎え撃とうとするが、予想に反して彼らは直前に尾を地面に叩き付けて跳び上がった。
そしてそのまま、大きく太い足でワタルのカイリューの顔を勢い良く蹴り付ける。
その威力に彼のカイリューは思わず何歩か下がり、またしても不意を突かれたことにワタルは舌打ちするが、すぐに頭を切り替える。
「カイリュー!」
蹴った後に跳び越える形で後ろに着地したアキラ達に、ワタルのカイリューは”げきりん”を纏ったパンチを放つ。
相手は体が少し横を向いてはいるが、ほぼ死角。そして仕掛けたタイミングも着地した瞬間だ。だが、アキラが乗ったカイリューは体を屈めて避けると、すかさず無防備になったワタルのカイリューの腹部に自らの巨体をぶつける。
しかもご丁寧左肘から放たれるブローも忘れずに打ち込んでおり、ダメージはかなり大きい。
もう何回繰り返されたのだろうか。
ここまで何を仕掛けてもこちらの攻撃や目論見は尽く上手くいかず、逆に反撃されてばかりなど初めての経験だ。
何とか意識を保ち、ワタルが連れるドラゴンポケモンはさっきとは逆の腕でパンチを放つが、これも避けられると同時に頭突きが顔面に炸裂する。大小様々な攻撃を一方的に受けているのにまだ戦えるワタルのカイリューもかなりタフだが、もうどれだけ持ち堪えられるのかわからない。
「”こうそくいどう”で回り込め!!」
対抗策を練りながらワタルが指示を出すと、カイリューは一瞬にして背後に回る。
当然アキラ達は反応して反撃しようとするが、振り返ろうと動いた時点でワタルのカイリューは再び彼らの背後に立つ。さっきから避けられたりするのは、常軌を逸した反応速度のおかげであると言う読みが当たり、ワタルは声を上げた。
「背中に乗っている荷物を狙え!!」
彼のカイリューが異常な強さを発揮している要因と思われるアキラ目掛けて、ワタルのカイリューは緑色のオーラを纏った拳を突き出した。これで流れが変わるという考えが脳裏に過ぎったが、ワタルの目論見はまたしても挫かれた。
何とカイリューが片足で体を支えながら、残った足を後方へと振り上げて放ったパンチを弾く様に逸らしたのだ。
「なにっ!?」
二足歩行が出来る様になったカイリューの体を考えれば不可能ではないが、格闘ポケモンならまだしも、カイリューの体格では反射などで咄嗟にやれる様な動きでは無い。
動揺するワタル達を余所に、アキラのカイリューは元の姿勢に戻って振り返るや否や、また左拳を同族の顔面に叩き込んだ。反撃を受けてフラつくカイリューを見て、急いでワタルは距離を取らせながら、もう一度根本から作戦を考え直し始める。
必ず倒す方法があるはずだと、失敗した試みを振り返りながらどうすれば良いのかに考えを巡らせる。
正面から挑んでもダメ――
弱点を狙ってもダメ――
不意を突いてもダメ――
工夫して惑わしてもダメ――
そうなると――
「……どうすれば良いんだ…」
思いがけずワタルは小声で漏らしてしまう。
何をやっても避けられたり流されてしまう。
攻撃が全く効かない事は無い筈だが、そもそも一発も当てられないのでは確かめようが無い。
彼らが疲労し切るまで逃げに徹するという攻略手段はあるが、それを選べば明確に自分達はアキラよりも格下であるのを認める様なものだ。
ドラゴンポケモンの扱いなら、右に出る者はいないのをワタルは自負している。
しかし、それでも彼は今のアキラ達の強さが、繋がりも含めてどの様な理屈で実現しているのか全くわからなかった。
その直後、ワタルのカイリューの体から”げきりん”のエネルギーが弾ける様に消え去った。
これが意味することはただ一つ、維持できる時間を過ぎてしまったのだ。
そして”げきりん”は発動した後、絶大な力からもたらされる高揚感故に一時的に正気を失う。
彼のカイリューは鍛錬を積んだことで、その意識の空白はかなり短くなってはいるが、それでもその一瞬を見逃す程今のアキラ達は甘くは無かった。
「”たたきつける”!!!」
一瞬の溜めが入った凄まじい力と勢いが込められた破格の一撃を腹部に受けて、ワタルのカイリューは体をくの字に曲げながら吹き飛ぶ。
そのまま頂上から荒い岩肌が目立つ急斜面を転がり落ちてしまうかと思われたが、危なげなくギリギリで留まる。
何とか転がり落ちることは免れたドラゴンポケモンは足元をフラつかせながら立ち上がるが、本当に立っているのがやっとの状態だった。
奥の手を出しておきながら追い詰められている事実に、ワタルは悔しさを噛み締めるが、何時まで経ってもアキラとカイリューは何も仕掛けて来なかった。
余裕のつもりかと怒りを抱きながら顔を上げると、それは違っていた。
アキラが倒れていたのだ。
アキラとカイリュー、”げきりん”を発揮して本気を出したワタル達が相手でも変わらず有利に戦うもアキラが倒れてしまう。
やり過ぎ感はあるかもしれませんが、今のアキラ達は相手の動きを先読みしたり、不測の事態でも即座に対応出来るだけの反応速度を有しているので、接近戦においてデタラメな強さを発揮することが出来る状態になっています。
奥の手を出したにも関わらずワタル達の形勢が良くならないのは、その接近戦という完全に彼らの土俵で戦ってしまっているのが最大の理由です。
かなり強いのですけど、能力値上昇的な意味で火力は上がっていないのや一応の対処手段が存在しているのと、これでも勝てるのか疑わしい相手が存在しているのがポケモン世界の面白くも恐ろしい所です。