SPECIALな冒険記   作:冴龍

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この話で一時的な更新は終わりです。
次こそは十話以上は更新出来る様にしたいです。


常識外れ集団

「エレブーか」

 

 ハッサムの前に現れたでんげきポケモンの姿を見て、青年は対峙している相手の詳しい情報を思い出しながら呟く。

 相性の悪いほのおタイプでは無いだけマシではあるが、それでもあの少年が連れているポケモンとなれば油断ならない。

 ”でんこうせっか”で攻撃を加えて、手応え次第ではすぐに交代することも視野に入れるが、彼にはその時間すら与えられなかった。

 

「”でんこうせっか”!」

 

 ハッサムが動くよりも先に、エレブーの方が先制技による高速移動で先に仕掛けてきた。しかもただの”でんこうせっか”では無く、その拳には炎を纏わせており、実質的にはノーマルタイプの技よりもほのおタイプ寄りの技であった。

 スピードがある炎を纏った打撃攻撃にハッサムは怯むと、でんげきポケモンは電流が溢れる拳と炎を纏った拳で交互に殴り付けて、そのままハッサムを打ち負かすのだった。

 

「まだまだ!」

 

 ハッサムが倒れたことで青年に残された手持ちは二匹になったが、高揚した気持ちのままに彼はもうぎゅうポケモンのケンタロスを召喚する。

 

 姿を現したケンタロスは、雄叫びを上げながら二本の角を突き出して突進してくるが、ただ突進してきた訳では無かった。鋭く前に尖った二本の角に、エネルギーを螺旋状に回転させながら纏わせていたのだ。

 当たれば戦闘不能になる可能性が高い一撃必殺技の”つのドリル”である。

 それを見てエレブーは回避すべく足腰に力を入れてタイミングを見計ろうとするが、慌ててアキラは声を張り上げた。

 

「そいつは加速するぞ!!!」

 

 アキラが伝えられた情報にエレブーは目を見張るが、気付いたらあっという間にケンタロスが目の前まで迫っていた。

 実はボールから出て来てから突進してきたケンタロスは全速力では無かった。

 上手く走る際の力加減やフェイントを織り交ぜて、敵が避けるタイミングを惑わして”つのドリル”を確実に決める作戦だ。ようやく一匹目、と青年は思ったが、アキラが早めに見抜いたおかげでエレブーは何とか体を横にズラして紙一重の差でドリルの直撃は免れる。

 

 だがそれだけでは終わらなかった。

 辛うじて避けたエレブーは、通り過ぎようとしたケンタロスの体を掴むとその勢いを利用して大振りで投げ飛ばしたのだ。

 

「何!?」

「”()()()()()”…」

 

 驚愕を露わにする青年とは対照的に、アキラは得意気な笑みを浮かべながら技名を口にする。

 ”あてみなげ”とは、先に相手が攻撃を仕掛けるのを許す代わりに確実に技を決めるかくとうタイプの技だ。本来ならカイリキー系統しか覚えないはずだが、今エレブーが使ったのは多少の違いはあれど紛れもなく”あてみなげ”であった。

 エレブーの体格と技の性質を考えれば真似事だとしても使えてもおかしくはないが、それでも覚えないとされる技が使えるのは完全に予想外だ。

 

「ケンタロス戻れ!」

 

 このまま戦っては不利だと悟ったのか、青年は大きなダメージを負いながらも立ち上がったケンタロスを戻す。

 

 ここまで追い詰められたのは何時以来なのだろうか。

 

 エリートトレーナーを名乗る前の駆け出し時代にあった気がするが、今は目の前のバトルが最優先だ。あのエレブーを倒す――否、この圧倒的なまでの逆境を覆すことが出来るであろう今の手持ちにしてから不動のエースとなった存在に託した。

 

「頼むぞカビゴン!」

 

 出てきたのはでっぷりとした巨大な体格の持ち主であるカビゴンだ。

 着地時に最初に出てきたリザードン以上の地響きと揺れを引き起こし、見物人の多くは倒れそうになるが、アキラとエレブーは足と重心を移動させて耐える。

 厄介な敵であるが、カビゴンは彼らにとって良く戦う相手であるのと同時に対策も考えてきたポケモンだ。腕に力を入れて身に付いた筋肉を漲らせるだけでなく体中に紫電を走らせて、エレブーは駆け出す。

 

「”じしん”!」

 

 カビゴンは巨体を支える足を持ち上げて、重々しく踏み付ける。

 先程の比にならない強烈な揺れだけでなくカビゴンを中心に衝撃波も広がるが、エレブーは高々とジャンプしてそれら全てを避け、宙を舞いながら前転するとカビゴンの脳天に()()()()()()()()()()()を叩き込んだ。

 

 渾身の力で叩き込まれたのかカビゴンの体は後ろに崩れていくが、まだ倒していないと見ていたエレブーはもう一度空中で体勢を立て直す。

 そして追撃を仕掛けようと落下の勢いを利用することを考えながら拳を振り上げる。

 

「エレット離れろ!」

 

 しかし、アキラは追撃を良しとしなかった。

 それもそのはず、カビゴンが倒れた直後に耳を塞ぎたくなる様な大きな唸る様な声と衝撃波が放たれたのだ。今度は避け切れずにまともに衝撃波を受けてしまったエレブーの体は吹き飛ぶが、何とか体勢を立て直して上手く着地する。

 

「”いびき”ってことは、今は”ねむり”状態か」

 

 倒れているカビゴンの状態を見て、アキラは若干面倒そうに呟く。

 眠ってしまったカビゴンは厄介極まりない。ただでさえ耐久力が高くて倒すことが難しいのに、寝ていると他の状態異常にはならないだけでなく、ダメージを受けても常時回復し続ける。しかも寝ながらでも攻撃できる”いびき”と行動を可能にする”ねごと”、そして素早さと引き換えに攻撃と防御を上げる”のろい”が新しい技として確認されてから、更に手が付けられなくなった。

 

「流石エリートトレーナー。何もかもハイレベルだ」

 

 内容と残っている手持ちの数から見ると、このポケモンバトルはアキラが完全に圧倒しているが、一瞬たりとも気は抜けない。連れている手持ちポケモンの強力さ、そして使ってくる技や技術はエリートトレーナーを名乗るだけあって非常に高い。

 

 あの様子では、恐らく”ねごと”によって”のろい”の技を引き出して能力値の底上げを図っているに間違いない。

 彼に挑んだトレーナーの多くが、難攻不落の動ける要塞と化したカビゴンを倒すことが出来ずに敗れていったのが容易に想像出来る。今のカビゴンを攻略することは至難の業ではあるが、アキラは既に対抗策を見出していた。

 

「狙う箇所はわかっている?」

 

 アキラの問い掛けにエレブーは頷くと、再び”でんこうせっか”で接近すると同時に拳をカビゴンに叩き込んだ。しかし、元々弾力のある体に加えて”のろい”によって防御力が上がっている今のカビゴンにはダメージが薄かった。だが彼らの狙いはダメージでは無くて近付くことが目的だ。

 寝ているカビゴンは再び”いびき”を放つが、今度は地に足を付けていたエレブーは耐える。”いびき”が止むと同時にエレブーは跳び上がると、寝ているカビゴンの頭部に狙いを定めて両腕を交差させた。

 

「まさか…」

 

 エレブーの構えを見て、青年は直感的に危機感を抱いた。

 見間違えでなければ、あれは無敵の強さを発揮している今のカビゴンでも危うい天敵がよく使う技の構えだからだ。

 そして、彼の直感は当たった。

 

「”クロスチョップ”!」

 

 アキラが誇らしげに声を張り上げると、エレブーは強力なかくとうタイプの技を叩き込む。

 ノーマルタイプのカビゴンに対して相性抜群なだけでなく、相手の急所に当てやすいという性質を”クロスチョップ”は有している。急所とは、攻撃を受けたら最もダメージを受けやすい体構造上最も弱い箇所を指しており、そこだけはどれだけ能力を上げて守りを固くしても無意味だ。

 

 本来の使い手である本家格闘ポケモンが使うのに比べれば威力は劣るが、それでも強力なかくとうタイプの技であることには変わりないのか、寝ているにも関わらずカビゴンは表情を歪める。

 

「まずいぞこれは」

 

 切り札であるカビゴンが倒される可能性が出て来て、青年は焦り始める。

 エレブーがこれ程までに多くのかくとうタイプの技を覚えているのは、完全に予想外だ。

 どう対処すべきか考え始めたその時、寝ていたカビゴンが目を覚ました。

 眠りから覚めたことで常時回復状態では無くなったが、寧ろ今は好都合であった。

 

「”めざめるパワー”だ!」

 

 カビゴンの全身が先程のアキラのヤドキングの様に一際強く輝き、エレブーを吹き飛ばす。

 一旦エレブーとの距離を取らせるつもりだったが、エレブーが倒れ込んだのを見て青年はチャンスであると直感した。

 

「”おんがえし”!!!」

「”まもる”だ!」

 

 エレブーが立ち上がるのとほぼ同時に、カビゴンは自らをここまで鍛え上げてくれたトレーナーの為に力を籠めた一撃を放つ。回避は無理と判断したエレブーは、両腕を胸の前に交差させて前に突き出すと輝くエネルギーに身を包む。

 カビゴンの極限にまで攻撃力が高まった重くて巨大な拳がエレブーを包み込む守りのエネルギーの壁にぶつかると、まるで金属と金属が激しくぶつかり合う様な鈍い音が周囲に響き渡った。

 

 エレブーが発揮した”まもる”は、確かに最初に仕掛けられたカビゴンの”おんがえし”を防いだ。だが、咄嗟にもう片方の腕から仕掛けられた別の攻撃には一度攻撃を防いだ”まもる”は意味を成さなかった。

 

 鍛え抜かれたポケモンでも一発で倒しかねない破壊力を秘めた一撃を受けて、でんげきポケモンの体は紙切れの様に吹き飛んで地面を激しく転げる。今度こそ仕留めたと青年と攻撃したカビゴンは確信したが、倒れていたエレブーは流石にダメージを隠し切れてはいなかったが、ゆっくり時間を掛けながら立ち上がった。

 

「あれで倒れないのか……」

 

 想定外の打たれ強さとタフさに青年は驚くが、すぐに意識を切り替えて次の指示を告げた。

 

「”のしかかり”!」

 

 次こそ仕留める。

 彼らの考えは一致し、カビゴンは全ポケモン中最大の体重を有する巨体を跳び上がらせる。あの巨体で”のしかかり”を受ければ、力自慢のポケモンでもそう簡単に対抗できるものでは無い。すぐにアキラは構えるエレブーにアドバイスを伝えようとしたが、何故か一瞬だけ目線を腰に向けた。

 

「わかった……エレット下がって!!」

 

 一瞬だけ呆気に取られて間抜けな顔を向けるエレブーに一言謝りながら、アキラはボールに戻すと別の手持ちを繰り出した。先程までエレブーがいた場所に新たなポケモンが出るが、カビゴンはそのエレブーの代わりに出てきたポケモンを全力で潰しに掛かった。

 巨大な塊が落下した事によって生じた衝撃は、さっきカビゴンが放った”じしん”を彷彿させるほどまでに大きかった。

 

 事実、舞っていた砂埃が晴れるにつれてカビゴンが圧し掛かった場所は大きく凹み、蜘蛛の巣状にひび割れが広がっている実態が露わになった。

 どんなポケモンをエレブーの代わりに召喚したとはいえ、戦闘不能。

 或いは大きなダメージは免れられない、と見守っていた者の多くはそう考えていた。

 

 その時、うつ伏せになっていたカビゴンの体が動き始めた。

 潰しているポケモンが動かないのを確認する為に退いているのかと思われたが、少し様子が違っていた。何故なら動き始めたカビゴンの体は、横に転がるのではなく徐々に上に持ち上がる様に動いていたからだ。

 

「出るのを要求したからにはしっかり頼むぞ」

 

 呆れながらもアキラは誰かに伝えるが、その相手と言葉の節々から信頼を寄せているのが青年にはわかった。

 クレーターの中心、そこからカビゴンの巨体を持ち上げていた張本人は、ひふきポケモンのブーバーだ。ゆっくりと少しずつではあったが、不敵な笑みを浮かべながらブーバーは自らの力を誇示するかの様に真っ直ぐ立ち、腕を伸ばし切る形でカビゴンを完全に持ち上げる。

 

「嘘……」

 

 大型のパワー系ポケモンならわかるが、小柄で人型に近い体格の持ち主であるブーバーがカビゴンを高々と持ち上げるなど青年は聞いたことが無かった。

 一体どれだけの力が、あの小さな体に秘められているのか。

 彼はブーバーがカビゴンを持ち上げたと言う事実に目を奪われていたが、今のブーバーは体から放出される炎が通常よりも控えめなのや全体的に少し鉛色を帯びているなど、若干普通とは異なっているのには気付いていなかった。

 

「投げ飛ばせ!」

 

 ブーバーは一歩踏み出し、精一杯の力でカビゴンを投げ飛ばす。

 流石に遠くまで放り投げることは出来なかったが、持ち上げられただけでなくこうして投げ飛ばされることは初めての経験なのか、地面に叩き付けられてからカビゴンは呆気に取られていた。

 

「すぐに”ねむる”で回復するんだ!」

 

 カビゴンが完全に動揺していると見た青年は、落ち着かせる意味も込めて”ねむる”を指示する。彼はすぐさま追撃が来ると読んでいたが、幸いにもカビゴン目掛けて走り始めたブーバーの動きが予想以上に遅く、余裕を持ってカビゴンは体を横にして眠り始めた。

 これで少しは時間を稼げる筈だと青年は考えるが、彼のその希望的な願いは早々に打ち砕かれることとなった。

 

 走っていたブーバーが背中に差していた”ふといホネ”を握ると、白かったホネは瞬く間に血の様な色に染まり、光り始めたのだ。

 

「相手が相手だから、今回は()()な!」

 

 左手に右拳をぶつけて、拳包礼に似た仕草をしながらアキラはブーバーに伝える。

 一体何が特別なのか、ブーバーがガラガラの”ふといホネ”を扱うことは勿論、あのような現象が起きるのを青年は聞いたことも見たことが無かった。そしてブーバーは、深紅に輝く”ふといホネ”を片手持ちから両手持ちに変えると力任せにカビゴンを殴り付けた。

 その瞬間、ホネに籠められていたと思われるエネルギーが解き放たれ、カビゴンの巨体を呑み込む程のとてつもない爆炎が炸裂した。

 

 「っ!」

 

 まるで”だいばくはつ”を彷彿させる途轍もない爆発と炎に、青年は思わず顔を爆風から守る為に顔を逸らす。爆煙の中からは、今起こった爆発の直撃を受けたカビゴンが玉の様に転がりながら出て来て、眠るとは別の意味で意識が彼方へと飛んでいる姿を露わにした。

 

 ”ねむる”では本当の意味で完全に回復することは無理なのは理解していたが、それでもほぼ完全に回復していただけでなく防御力も含めた能力を底上げしたはずのカビゴンが一撃で倒されたことに青年は言葉を失う。

 思い付く限りの戦略、最善の手を打ってきたが、これ以上無い最強の勝ちパターンを完全に打ち負かされた。

 

 一方のブーバーは、自らが放った技とはいえ至近距離で激しく爆発したにも関わらず、両手で握った”ふといホネ”を振り切った姿勢を保っていた。

 カビゴンを倒したことを悟ったひふきポケモンは、体を佇ませて誇らしげに”ふといホネ”を肩に乗せる。

 ここから彼が連れている六匹を倒すのは難しいが、やるしかない。もう負けは決定的ではあったが、最後まで青年は自分が勝つのを信じて動く。

 

「ケンタロス! ”じわれ”!」

 

 ボールから飛び出たケンタロスは、勢いのままに前足で踏み付けると地面は左右に裂けていく。

 大技を放った直後で動きが鈍っているのか、ブーバーは余裕な振る舞いを止めて危なげなく避けるが、バランスを崩してしまって尻餅を突いてしまう。

 

「”はかいこうせん”!」

 

 せめて一匹だけでも倒したい。

 そんな想いを込めて伝えると、ケンタロスの口から渾身の”はかいこうせん”がブーバー目掛けて一直線に放たれる。

 咄嗟にブーバーは倒れ込みながらも”ふといホネ”を盾にするが、それでも最強クラスの技を受けてひふきポケモンの体は”はかいこうせん”が炸裂した際に生じた爆発に巻き込まれて吹き飛ぶ。半減できるいわタイプかはがねタイプでも大きなダメージを受ける技だ。

 これで一矢報いることが出来たはず――

 

「何…だと…」

 

 ところが”はかいこうせん”の直撃を受けたブーバーは、かなり大きなダメージを受けたのを窺わせながらも、さっきのエレブーと同じ様に少しずつゆっくりではあったが体を起き上がらせた。

 急いで追撃を仕掛けたかったが、全力を込めた”はかいこうせん”を放った反動でケンタロスの動きは鈍っており、追撃の為に行動を起こすどころでは無かった。ケンタロスが反動で行動不能になっている間に、アキラは何とか立ち上がったブーバーをボールに戻す。

 

「最後は…お前に任せる」

 

 このバトルが終わりに近付いていることを察していたアキラは、終止符を打つ意味で自らが最も信頼する相棒が入っているボールを投げる。彼が所持するモンスターボールの中で最も傷だらけであるボールが開き、中からドラゴンポケモンのカイリューがその逞しい姿を見せた。

 今まで戦った中で間違いなく最も手強い強敵の登場に、青年は敗北を直感するが、それでも最後まで望みを捨てずに声を張り上げた。

 

 「”ふぶき”だケンタロス!!」

 

 ドラゴンタイプが最も苦手としているこおりタイプ最強の技をケンタロスは放とうとするが、次の瞬間、離れた場所にいたはずのカイリューがケンタロスを勢い良く殴り付けていた。

 カイリューの素早さはそこまで高くない筈だが、まるで瞬間移動をしたのではないかと錯覚してしまう程のスピードだった。先程のブーバーを始め、本当に目の前の少年――アキラが率いているポケモン達は皆、強さも含めて何もか常識外れだ。

 

「止めの”アイアンテール”!!!」

 

 カイリューは太くて巨大な尾を瞬時に鉛色に硬化させて、光沢を軽く放っている尾を怯んでいるケンタロスに叩き込む。強烈を通り越して破壊的な一撃を受けたもうぎゅうポケモンは、硬化した尾をぶつけられた瞬間に体だけでなく意識も一緒に吹き飛ぶ。打ち上げられたケンタロスの体はしばらく宙を舞っていたが、青年の目の前に落ちると誰がどう見ても力尽きていた。

 

 その瞬間、青年は思わず天を仰いだ。

 

 

 負けた

 

 

 手も足も出なかった訳では無かったが、ほぼ完膚なきまでにやられたに等しい。

 ここまでやられたのは何時以来だろうか。

 少なくとも実力が付いたのを自覚してエリートトレーナーを名乗り始めてから、ここまでやられたことは一度も無いのは確かだ。

 

「ここまでやられたのは…久し振りだよ」

 

 ケンタロスをボールに戻しながら、青年は吹っ切れた様に語る。

 勝負を持ち掛けた際に出ていたアキラの手持ちを一目見た時に手強いとは思っていたが、これ程までに強いとは思っていなかった。駆け出しの頃よりもポケモンの知識を身に付け、今のメンバーに至るまで様々なポケモン達を鍛え上げてきたが、まだまだこの世界には常識を外れの強さを持つ者がいる。

 改めて世界の広さを青年は実感していた。

 

 この戦いを制したアキラの方も、カイリューと軽く拳をぶつけ合いながら色々なことが頭を過ぎっていた。

 ジュース欲しさに普段以上に手持ち達がやる気になっていたこともあるが、あれだけ強力なポケモン達を相手に、ここまで圧倒出来るとは思っていなかった。しかし、だからと言って課題や後悔が無かった訳では無い。

 

 今回は幸い誰も倒れなかったが、下手をすればやられていたかもしれないシチュエーションが幾つかあったのだ。仕方ない部分や如何にもならなかった点もあったにはあったが、そこを改善していけば自分達はまだまだ強くなれる。

 更なる高みを目指すのなら、常に向上心を持ち続けなければならない。

 

「ここまで一方的にやられたのに言う台詞じゃないと思うけど、バトルを引き受けてくれてありがとう。俺達は少し有頂天になっていたみたいだ」

「こちらの方こそ、今回のバトルありがとうございます」

 

 握手を求められ、応じたアキラはエリートトレーナーの青年と握手を交わす。

 今回彼が主力として連れていたケンタロスを始めとした強力なノーマルタイプには、今までアキラは何かと苦戦を強いられていたが、ようやく苦手意識が払拭出来そうだ。

 

 二年近く前に決めた()()が、今に繋がっているのを考えると、本当に英断だったとアキラは振り返るのだった。




アキラと手持ち達、危うい場面が幾つかあったものの圧勝でバトルを制する。
ある程度明らかにするつもりでしたが、気が付いたらまた幾つかハッキリしない描写がチラホラ。
現代の彼らの全てが明らかになるのは、本当に何時になるのだろうかと作者でありながら思ってしまいます。

かなり短いですが、今回の更新はこれで終わりです。
本当はもう数話上げたかったのですが、申し訳ございません。
2.5章は下書きや流れを見るとそれなりの長さになりそうですが、次の更新時に一気に三章突入まで書いて行きたいです。
また長くなりそうでしたら、キリが良いと思える数話まで連続で更新します。
その時また読んで頂けたら何よりです。

下に初期段階も含めた今の彼らに至るまでの軽い経緯がありますが、飛ばしても構いません。

主要メンバーの軽い裏話2

エレット/エレブー
 アキラが連れている外見に似合わず気が弱い臆病なポケモン。
 エレブーも初期段階ではよく出てくるピカチュウ系統、最終的にはライチュウでしたが、サンドパンと同様の理由でピカチュウ系統のライバルであるエレブーに変わった経緯があります。
 しかも何故か、変わった時から良く描かれる凶悪なイメージとは真逆のおっちょこちょいで臆病な性格がイメージに浮かんでいました。
 ”がまん”を覚えているのもその頃からありましたが、種に反して頑丈で打たれ強いイメージが付いたのはもう少し先でした。
 でもその頑丈なイメージが明確になったことで、エレブーのアキラの手持ち内での役目と今後が定まったりしたので、変わったものでも個性があればどんどんイメージが出来るんだなと感じたことがあります。
 2.5章からは、サンドパンと同じくらいちょっと大事な役目を担って貰うつもりです。

バーット/ブーバー
 アキラが連れている好戦的で荒っぽいポケモン。
 ブーバーは初期段階ではウインディでしたが、手持ちが被るのと良い戦い方が浮かばなかったので自然と図鑑所有者の中では唯一誰も連れていないブーバーが選ばれた経緯があります。
 だけどブーバーになっても戦い方が全く浮かばなくて、エレブーみたいな設定を組み込むのは気が進まなかったので堅実な路線にしようかと考えていた時、たまたま見掛けたとある作品の解説項目を見て「ブーバーに道具、即ち武器を持たせる」→「それを活かした戦いもする」というイメージが流れる様に浮かび上がって明確なブーバーの個性と戦い方が定まりました。
 更にこの影響はブーバーのみならず明確にアキラ達のポケモンが、どの様に強くなっていくのかや戦い方をするかを決めさせたりと、ブーバーは現在の彼らを形作る切っ掛けとなった存在でもあります。
 2.5章からは使える技の範囲が大きく広がり始めることで、本格的にあらゆる面で強くなるどころか何でもやらかしたり、お茶目な部分が強調される…予定です。

リュット/カイリュー
 アキラが連れているきまぐれながらも最初のポケモンにして相棒。
 初期段階から手持ちに加える最初のポケモンにしてエース格と考えていました。
 選んだのには作中のアキラと同じく単純に強いのもありますが、それ以上に「陸海空を自在に動ける」「二本足で立ち、両手が使える」「状況次第では怪獣みたいな戦いやヒーローみたいな戦いが出来る」などの求めていた条件をこれ以上無く満たしていたのが大きいです。
 時が経つにつれて、技の応用方法を含めた色々な設定が追加されていきましたが、基本的な部分はアキラ同様にあまり変わっていません。強いて変わった点を挙げますと、もう少し素直になるはずでした。
 度々「目付きが悪い」と表現していますが、既に感想に上がっている様に具体的な目付きの悪さはポケモンカードにある悪タイプ版「わるいカイリュー」に近いです。
 2.5章からは更に強くなるのは決まっていますが、アキラ同様に色々と悩んだり苦労を重ねる予定です。

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