SPECIALな冒険記   作:冴龍

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昨日は18時に更新する様に設定したつもりでしたが、一日ズレていた所為で時間を過ぎても更新されなかったのに焦って中途半端な時間に更新してしまいました。


新体制構想

 この日アキラは、シジマと共にタンバジムから少し離れた荒波が激しく打ち付ける岩肌にいた。

 そこは如何にも武道を嗜むシジマらしい、多種多様なトレーニング用具が並べられている場所だった。彼に連れられたアキラは、その中の一つであるベンチプレス方式のトレーニング補助器具の準備をシジマが見守っている中で進めていた。

 

「――準備できました。何時でもいけます」

「よし。あまり無理はするな」

 

 シジマの厳格な声に、彼は気を引き締める。

 どんなトレーニングでも、最も気を付けなければならないことは怪我だ。

 あまり体に負荷を過剰に与え過ぎてしまうと怪我に繋がるだけでなく、怪我によって衰えた分の状態から元に戻るのにも時間が掛かってしまう。その為、アキラだけでなく最後のチェックにもシジマ自身も念入りに安全面を確認していく。

 

 一通りの安全確認を終えて、シジマは数十キロ後半の設定でベンチプレスの両サイドに重りを取り付けて固定する。

 シジマの様にトレーニングを積んだ者ならともかく、まだそこまでトレーニングを重ねていないアキラには無理に思える重量だ。

 だがアキラは、腕に力を入れるとあっという間に重りを取り付けたプレスを真っ直ぐ持ち上げる。しかもまだ余裕があるのか、表情を特に歪めることは無くそれからゆっくりと腕を下す。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫です」

 

 体を起こして、腕の調子を確認しながらアキラは正直に答える。

 今までの様に闇雲に力を入れず、腕に違和感や痛みを感じたら止めるつもりだったが、今回は負荷が掛かってもそこまででは無かった。

 

「午前の分はここまでだ。次始める時までしっかりと休め。器具の片付けは私がしておく」

「え? あっ、はい先生」

 

 後片付けをすると思っていたので、一瞬アキラは恍けてしまったが、すぐに返事をする。

 今すぐ腕が痛む訳では無いが、ちゃんと休ませなければ午後の鍛錬に響くかもしれない。

 最近教わった少しでも痛みを和らげる処置を考えながら、アキラは言われた通り先にタンバジムへ戻っていく。

 

「……本当に変わった弟子だ」

 

 戻っていくアキラとさっき彼が持ち上げたベンチプレスの交互に目を配り、シジマは悩ましそうにぼやく。

 アキラが今までの弟子と異なっていることは、弟子入り前に聞いた彼の話からもシジマは既に承知している。確かに連れているポケモンのレベルの高さだけでなく、基本的な知識も豊富でトレーナーとしての技量も粗があるとしても高い方だ。

 

 だが、身体能力がここまで規格外なのは、シジマにとって完全に予想外だった。

 

 あそこまで容易く重く設定したプレスを持ち上げるだけでもかなりのものだが、常軌を逸した反応速度や容易に先を予測出来る動体視力さえも彼は有しているのだ。

 ただ闇雲に活用しても十分過ぎる力を発揮することが出来ると言っても良い。

 

 しかし、大き過ぎる力には相応のリスク――代償は付き物だ。

 

 一番わかりやすいのは、力を入れ過ぎてしまうと力を入れた部位を痛めてしまうことだ。

 これは普通の人間でもあり得ることだが、彼の場合は意図せず過剰なまでの力を発揮してしまうという。一番負担が無さそうな動体視力も、長時間意識していると目が疲れるだけでなく頭痛を伴う気分の悪さを感じるという話を聞く。

 その他でも、彼が人間離れした身体能力を発揮しては体を痛めている場面をシジマは見掛ける。

 

「無意識に力を発揮して体を痛める…」

 

 今回シジマは、彼が体を痛めずにどれだけ力を発揮できるのかを確かめてみたが、結果はあの通りだ。しかもこれで加減している方なのだから、上手く加減が出来なくて困っているアキラだけでなく指導する立場であるシジマも悩む。

 人間もポケモンも限界近くまで身体能力を発揮すると体を壊してしまう為、簡単に限界を発揮出来ない様に無意識に制限を掛けている。

 

 だが、アキラは違う。

 

 彼は自らの身体能力を限界まで引き出そうとすれば、容易に引き出せてしまうのだ。

 情報が少ないのと彼自身の負担もあってすぐに断定することは出来ないが、ある可能性をシジマは考えていた。

 

 彼は意識してもそう簡単に外れない筈の肉体のリミッターが機能していないのかもしれない。

 

 シジマの様な人間や戦うことを生き甲斐にしているポケモンは、日々トレーニングを積むことでその制限をある程度は意識して解除したり耐えられる様に鍛えている。だが、肉体が必要以上の力を発揮して怪我することを防ぐリミッターが機能していない状態など、少なくともシジマは聞いたことが無い。

 ポケモンと共にその身を鍛えるのがシジマの方針だが、トレーナー自身が自らの発揮する力に耐える、または制御出来る様に鍛えることになるとは思っていなかった。

 

 今のところは体が耐えられないまでの負荷が掛かると、”痛み”と言う形で危険信号が機能することで大事に至る前に彼は止まる。なので本当の意味でフルパワーは発揮してはいない。

 しかし、このまま放置しているといずれは骨折などの大きな怪我に繋がりかねない。

 

「あいつの事を詳しく知る必要があるな」

 

 例え何者であろうとシジマは指導方針を変えるつもりは無い。

 だけど彼の保護者、或いは紹介状を書いたジムリーダーに可能であれば話を聞く必要があることをシジマは考えるのだった。

 

 

 

 

 

 シジマが悩んでいた頃、タンバジム内に構えられているシジマの自宅内の縁側に接する部屋では、湯で汗を洗い流したアキラは普段着に着替えていた。

 

 彼がこの荒波に囲まれた島に住むジムリーダーに弟子入りを希望してから、一か月は過ぎた。

 鍛錬内容は毎日の様に続く受け身の練習、先程のは例外だが今の成長具合に応じた体の各部位への筋力トレーニング、そして体力作りの砂浜ランニング。シンプルなものではあったが、継続して続けていくことはかなり疲れる。

 

「今日の午後も受け身の練習かな」

 

 アドバイスやトレーナーの心構えなどを座学で教わることはあれど、ポケモンバトルなどの直接ポケモンを扱う修行はまだ行っていない。だけど自らの体を鍛えるという意味では、鍛錬の成果は確実に出ていることをアキラは実感しつつあった。

 シジマ曰く「かなり早く上達している」とのことだが、まだ物足りない。

 

 今後の事を考えるとすぐにでも体を動かしたいが、どれだけ猛特訓をしても必ず特訓した分早く鍛えられる訳では無いので焦りは禁物だ。

 休息も大事な鍛錬の一つだと自分に言い聞かせ、アキラは自身が連れているポケモン達の姿に目を向ける。

 

 手持ちの様子は、タンバジムで鍛錬をしている時だとこういう休んでいる時にしか見れないが、皆自分同様に各々好きな様に今の時間を過ごしていた。

 午後に備えて昼寝でもしようかと思ったが、サンドパンはアキラが姿を見せたことに気付くと真っ直ぐ駆け寄って来た。

 

「休んでいても良いんだぞ」

 

 穏やかに伝えるが、サンドパンは穏やかに首を横に振る。

 最近アキラは日々の鍛錬以外にもサンドパンと一緒にあることを始めたが、今見てもわかる通り本当に彼は熱心だ。強くなることに焦っているというよりは、楽しんでいると言っても良い。実際、アキラも自分が昔よりも強くなっていることを実感出来るのは楽しくてやりがいがある。

 早速、リュックを引っ張り出して本を広げようとしたが、微妙に熱の籠った空気が周囲に広がりつつあることを感じ取った。

 

 本から顔を上げて見ると、彼の視線の先にはさっきまで自身が抱いていた焦りの気持ちを体現しているかの如く、体を動かしているブーバーがいた。

 ひふきポケモンは、足腰に力を入れて駆け出すと同時に正拳突きを繰り出す練習を繰り返していたが、動きを観察する内にあることにアキラはある事に気付く。

 

「”ものまね”していた時よりも、腰に力を入れ過ぎだよ」

 

 問題点を指摘しつつ、立ち上がったアキラはブーバーの元へ歩み出す。

 何故こうも具体的に指摘できるのかと言うと、これも鋭敏化した目が持つ動体視力のおかげだ。

 

 集中すれば、相手の肉体的な動作をほぼ完全に見抜くことが出来る今のアキラの目は、戦い以外でも体の動きを介する技の細かな動きを分析したりすることにも役立っていた。その為、試行錯誤をしながらの手探りな鍛錬や理解し難い感覚的な助言ではなく、ある程度は根拠に基づいた具体的な指導を実現させていた。

 

 ちなみに今ブーバーがやっている技は、シジマの格闘ポケモンの多くが覚えている”いわくだき”と呼ばれる技だ。頭の中で”いわくだき”を”ものまね”していた時のブーバーの姿を浮かべながら、アキラはひふきポケモンに足腰の構えや腕の力加減、角度も含めて細かに指摘していく。

 

 目の感覚が鋭敏化してから気付いたが、”ものまね”は単純に技をコピーだけでなくある程度動きもコピーする。なので”ものまね”無しでその技を再現しようとすると、体の構え方や力の入れ具合がズレていることが多々ある。

 だがこういう部分を改善していけば、いずれ彼らはかくとうタイプのみならず、ある程度動きが鍵を握っている技を覚えてくれるだろう。

 

 指摘された通りにブーバーは体を調節すると、もう一度腕や体に力を入れて拳を突き出す。

 さっきよりは速くはなってはいたものの、それでも動いてる途中でまだ色々と不都合な問題が生じているのが、アキラの目ではわかった。ブーバー自身も”ものまね”していた時とは感覚が違うことに気付いたのか、もう一度構え直すがアキラは待ったを掛ける。

 

「バーット、疲れているからなのか動きが雑になっているよ。ちゃんと休まないと身に付くものも身に付かないぞ」

 

 シジマの格闘ポケモンと一緒に鍛錬をしたり動きを真似ているお陰なのか、ブーバーを始めとした手持ち達の動きは徐々に洗練されたものへと変化してきている。

 今の自分達の段階なら、ただ量をこなすだけの鍛錬でも強くはなれる。だけど更に強くなるには、量だけでなく頭を使いつつ効率良く質の高い鍛錬が欠かせない。その為にも、ちゃんと体を休めることは重要だ。

 一応今は休憩時間の筈なのだが、どうも最近このひふきポケモンは鍛錬し過ぎだ。

 

 最初は嫌々な態度だったが、アキラの言い分に納得したのか、ようやくブーバーは従う。

 尤も、足を組んで瞑想する様な形だったので、休んでいるのか休んでいないのかイマイチわからない休息の取り方ではあったが。

 最近のブーバーの課題を振り返りながら、次にアキラは視線をエレブーが面倒を見ているヨーギラスに向けた。

 

「――ヨーギラスにも”ものまね”を覚えさせたいな」

 

 以前から彼は、”ものまね”が持つ”どんな技でも一時的に使える”効果に目を付けて、それを手持ちポケモンの新技習得に活かしてきた。現に効果と性質が明らかになるにつれて、”ものまね”を使った練習方法は本当に理に適っているという考えが固まりつつある。

 

 まだ本当の意味でヨーギラスはアキラの手持ちでは無いが、正式に手持ちに加わるのなら単なる戦闘補助以外にも、新しい技を覚える補助として是非とも”ものまね”を覚えて欲しいのだ。今は覚えるのに必要なわざマシンは入手していないが、攻撃技に比べれば手に入れやすいから探せば見つかるだろう。

 

 自分なりに色々教えているエレブーと真剣且つ健気に聞いているヨーギラスの姿を見守りながら、アキラはサンドパンと一緒に縁側に座り込む。

 今のところヨーギラスは仮加入扱いなので、ニックネームは付けていない。

 

 けど、彼のメンバー入りがほぼ決まってきていることやシジマの元での鍛錬の関係もあって、最近彼が連れている手持ちの数は一般的に連れ歩ける上限である六匹を超えて七匹だ。

 ポケモンを七匹以上連れ歩くのは、六匹までしか連れてはいけないポケモントレーナーの暗黙の了解に反するが、意外にもシジマは問題視したり指摘する事はしなかった。寧ろヨーギラスを連れて来る様になったのを機に、複数のポケモンを育てる事のメリットやデメリットについて軽く講義して貰った程だ。

 更にその教わった中で、アキラとしてはかなり気になるものがあった。

 

 主力不在の穴を埋める。

 

 シジマから教わった六匹以上のポケモンを連れるデメリットは彼が考えていた通り、均一に面倒を見れるかや育成する手間が掛かるという内容だった。

 だが、メリットとして説明された何らかの理由で主力が外れても、すぐにその穴を埋めることが出来るというのは目から鱗だった。

 

 ヨーギラスを預かる前のアキラは、連れて行く行かない関係無く六匹以上のポケモンを率いるつもりは無かった。

 それは連れている手持ちの性格面や自身のトレーナーとしての力量など、あらゆる面を考慮した上での彼なりの判断だ。

 

 実際、この二年間は手持ちに連れている六匹だけで、彼は道中のバトルや重大な戦いを乗り越えることは出来た。しかし今後、怪我などの何かしらの事情で手持ちが戦線離脱しない保証が無いのもまた事実でもあった。

 

 もう記憶はおぼろげではあるが、元の世界で見ていたプロのスポーツ選手の怪我に関する報道内容をアキラはぼんやりと思い出す。ポケモンセンターが存在するので忘れがちだが、あまりにも怪我や容体が酷過ぎると、すぐには回復出来なくて入院などの処置が取られる時がある。

 

 一匹でも戦線離脱すると影響が大きいのは、カイリューがハクリューに進化して間もない頃に経験している。道中のバトルで目に見えて苦戦が増えた訳では無かったが、療養させているハクリューが戦えれば楽に対処できた場面が幾つかあった。

 アキラ自身、ブーバーは”切り込み隊長”、エレブーは”守りなどの相手の攻撃阻止”と言った感じで各手持ちの役目を考えた上で戦っているのは自覚している。

 役目に応じた誰かが欠けてしまうと適切に対処することが難しくなったり、歯車が大きく噛み合わなくなってしまうのは、ある意味当然のことだ。

 

 もし今カイリューが戦えない状態になってしまうと、唯一の飛行戦力を失うどころの影響では済まされない。それだけカイリューの存在と力は大きなものになっているが、手持ちが動けない場合の影響はカイリューだけでなく、他の手持ちでも同じだ。

 

 皆、単純に高い能力や強い技を覚えているだけじゃなくて、好みに応じた戦いをする。

 

 陸海空あらゆる状況でも高い能力を遺憾なく発揮できるカイリュー

 悪知恵を駆使することで培ってきた多彩な技を巧みに扱うゲンガー

 手持ちの誰もが簡単に真似できない技術を身に付け始めたサンドパン

 持ち前のタフさで守りの要として磨きが掛かっているエレブー

 力強さと器用に武器を活かすことで接近戦の鬼と化してきたブーバー

 高い知能を活かした冷静な立ち回りを形にしつつあるヤドキング

 

 種ごとに秀でた能力に応じたセオリー通りの戦い方をするものもいれば、全く異なる戦い方をするものもいる。だが、一つだけわかっていることがあるとすれば、それが彼らの力を最大限に引き出すことが出来る事だ。

 

「そういえばヨーギラスは、進化するとバンギラスになるんだよな」

 

 隣にいるサンドパンに唐突にアキラは話を振ると、ねずみポケモンは反応に困りながらも何度も頷く。

 タイプや細かな能力は異なるが、バンギラスはカイリューとほぼ互角と言っても過言では無い力を秘めている。バンギラスの特徴や能力の詳細を思い出しながら、アキラは今連れている手持ちの長所や得意分野などを大雑把に例えながら更に考える。

 

 エレブーが防御なら、ブーバーは攻撃、サンドパンは技術、ゲンガーとヤドキングは狡猾だとか理知的など微妙に異なるが、根本を捉えると知恵的なものが長所だ。

 

 そうして考える内に、徐々にシジマから教わって以来あやふやに浮かんでいたイメージがアキラの中で形になっていく。

 能力やタイプに覚えている技も大事だが、万が一のことを考えると彼らの長所や磨き上げた経験、技術を受け継ぐ後継者みたいなのが必要だろう。云わば、完全で無くても良いから何かしらのトラブルで今のメンバーが不在時でもその穴を埋められる存在だ。

 

 そう考えると、ヨーギラスがエレブーに弟子扱いで加入したことは良い切っ掛けと言える。

 エレブーの種に反したタフさと打たれ強さは、恐らく生まれ付きのもので後天的に得ることは難しい。けどヨーギラスが無事にバンギラスに成長すれば、エレブーとは別の意味で強固な守りとタフさを身に付けてくれるかもしれない。

 何故なら、バンギラスの別名は”よろいポケモン”だからだ。

 流石に一気に数を増やすつもりは無いが、今後新しい手持ちを加えていくのなら、主力の傾向を考慮する必要があるだろう。

 

「リュットなら……何だろうな」

 

 他の五匹はすぐにイメージしやすい単語は浮かんだが、実質最高戦力であるカイリューはどう簡単に例えれば良いのか浮かばなかった。

 

 理由は至極単純。ほぼ全部兼ね揃えていると言っても良いからだ。

 

 陸海空など戦う場所を選ばず自由に活動できる適応力を始め、ブーバーよりも力強くて、エレブーに負けず劣らずタフ、ゲンガーやヤドキングの様に頭が良く鋭い一面もある。

 唯一、サンドパンが高めつつある技術や俊敏な動きが体格故に身に付いていないが、今後の鍛錬と覚える技次第では同等の能力を身に付けられるかもしれない。

 要は求めているレベルが高過ぎるのだ。

 

「いやいや、高望みし過ぎだろ」

 

 頭を振って、アキラはやたらと要求度の高い条件を忘れる。

 この世界にやって来た頃もそうだが、どうも自分は手持ちに加えるポケモンを考えると高望みしがちだ。ラプラスとかピカチュウとかリザードンとか、考えればキリがない。

 

 確かにカイリューの持つ力や能力をある程度でも受け継いだ存在がいると心強いのは事実だ。

 だけど、ここまで全ての能力が高いレベルで纏まっているのは、「カイリュー」と言う種族だからこそ実現出来ている点も忘れてはいけない。特に地上や水中、果ては空中のどこでも戦えるのは、伝説などを除けばあのドラゴンポケモンくらいしかアキラの中では浮かばない。

 忘れているだけかもしれないが、もしいるのなら逆に知りたいくらいだ。

 

 そして失礼なのは百も承知だが、あの気まぐれで気難しいドラゴンが誰かに何かを教えている姿が全くイメージ出来ない。本人に知られたら機嫌を損ねてぶっ飛ばされそうなので秘密だが。

 腕を組み眉間に皺を寄せてアキラは更に深く考えるが、結局上手い発想は浮かばず、唸り声を挙げ始める始末だった。

 

「あらあら、折角の休憩なのにそんな難しい顔をしたら疲れるわ」

「あっ、おばさん」

 

 そんなこんなでカイリューや手持ちの今後に関して考えていたら、奥からコップを乗せた盆を持ったシジマの家内とバルキーがアキラが座っている縁側にやって来た。

 弟子入りしてまだそこまで日は経っていないが、自分のことを単に弟子としてでは無く実の子どもの様に気に掛けてくれるので、アキラは凄く感謝している。

 

「タンバの名産品の一つのきのみジュースを持ってきたよ。飲めば元気になるわよ」

 

 ジュースと聞いて、アキラは表情を明るくする。

 体は疲れると自然と甘いものを欲することもあるが、甘くて喉を潤してくれるジュースという単語に自然と惹かれる。

 

「お~いお前ら、美味いジュースが飲めるぞ~」

 

 コップの数から見て、手持ちの分もあると見たアキラは手持ち達に集合する様に呼び掛ける。すると各々自由に過ごしていたアキラのポケモン達は、シジマのポケモン達と一緒にワイワイと縁側に集まって来た。

 

 ポケモンも水以外の飲み物――人間が飲むジュースなども普通に飲んだりすることは出来る。

 だが、アキラのポケモン達はそういう飲み物を口にする機会はあまり無かったので、警戒心の強いカイリューやブーバーは興味を示してはいたが中々口を付けようとしなかった。

 

「変なものが入っているどころか美味しいと思うぞ」

「そうよ。このきのみジュースはツボツボってポケモンが体内できのみを自然発酵させて作る天然の飲み物よ」

 

 詳しい詳細をシジマの家内に聞くと、人間が作った物では無くてポケモンが作った飲み物なら問題無く飲める筈だ。それも名産品となれば味も保証されている。

 シジマのポケモン達が次々と手に取って飲んでいくのを見て、迷っていた彼らも続けて飲む。すると、普段は目付きが悪いカイリューやブーバーさえも、目に見えてわかるまでにのほほんとした幸せオーラを発する様になった。

 

「美味かったのか。良かった良かった」

 

 手持ちが気に入ったのを嬉しく思いながら、アキラもきのみジュースを口にしてその味を楽しみつつ午後の鍛錬に向けて英気を養う。

 

 この時飲んだタンバシティ名産のきのみジュースは、確かに美味かった。

 しかし、これを機に連れているポケモン達全員がきのみジュースの虜になるとは、アキラは全く予想していなかったのだった。




アキラ、ヨーギラスの加入とシジマの指導を切っ掛けに今後の手持ちに関する新しい仕組みと方針を考えるようになる。

今まで漠然とした形で、ポケモン達には各々の長所や役目、持ち味を描いていたつもりですが、今回の話でようやくハッキリさせるまでに至れました。(性格は第三世代からですけど)
アキラが考えている構想は、この2.5章の間にある程度形にしていくつもりです。

中でもポケモン達の長所や得意分野を大雑把に考える件は、ハリーポッターに出て来る四寮の組み分けを思い起こして楽しかったです。
書きながら「もし主人公が組み分けされたら多分あの寮だろうな」とか「あの手持ちは、気質を考えるとあの寮寄りだな」とか考えたりしていました。
他にもアキラの身に起きた変化に関することやポケモン達がジュースを好む様になる切っ掛け、カイリューの手持ち全員の良いとこ取りみたいな表現などもノリノリでした。

はい、書いている方は楽しいけど、物語の方は中々進まなくてすみません。
省いたら唐突過ぎる要素や流れがある為、どうしてもゆっくりになってしまうので、どうかご容赦下さい。

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