「完璧を求め過ぎだ」
倒れているバルキーに目を向けながら、シジマは向かい側に立っているアキラに告げる。
何時もの様に彼がタンバジムに来るや否や、唐突にシジマの提案でポケモンバトルをすることになったのだ。
初めての師との手合わせだけでなく、ようやく体を鍛える以外にもポケモントレーナーらしい特訓が始まるかとアキラは意気込んだものだが、結果は彼の完敗で終わった。
使用ポケモンは、互いに一匹ずつ。
戦うのは普段連れているポケモンでは無く、タンバジムで家事などの手伝いを行いながら鍛錬を重ねているバルキーのみという変わった内容だった。
何故そんな条件の元で行うのか。何か意味があることは察してはいたものの、当初アキラは理解出来なかった。だが全てが終わった今では、シジマが何の目的で条件付きでポケモンバトルを始めたのか理解していた。
今自分が抱えている問題に関係しているからだ。
「俺はお前では無いから、悩み全てを理解することはできん。だが俺から言えるのは、完璧を意識し過ぎて指示が難解になっていることは確かだ」
「はい……」
シジマの言っている事は、大体当たっている。
以前から度々経験していたが、四天王との戦いを機にアキラの動体視力や観察眼などの目が関係する能力が飛躍的に向上した。
極端に言うと、初見の相手でもある程度の弱点などを把握し、動作から推測した精度の高い未来予測を同時に実現出来ていると言っても過言では無い。それ程までに目の感覚が鋭敏化しているのだ。こんな便利な力、活用しない手は無い。
しかし、それらの有益な情報全てを瞬時に理解出来るのは、トレーナーであるアキラだけで戦っているポケモンでは無いということが大きな問題だった。
ポケモントレーナーは、戦っているポケモンに指示やアドバイスを与えて導いていくだけでなく、第三の目や耳として手助けしていくことが主な役目だ。
だからこそ、一刻も早く頭の中に浮かんでいる有益な情報を戦っているポケモン達に伝えたい。ところが感覚的な形でしか理解していないから、言葉として伝えるのに手間取り、伝えられても複雑化してしまう。
今回のバトルもなるべく気を付けながらバルキーを導こうとしたが、慣れていないこともあるのか手持ち以上にバルキーはこちらの指示に対応出来なかった。
その結果が、今回の敗北と言う形で露わになった。
戦っているポケモンの理解度も関係しているが、互いに同じ条件でポケモンでバトルをしたら、勝敗に関わるのは導くトレーナーの力量だ。
ポケモントレーナーとして戦っているポケモンを導いていく点に関しては、目が鋭敏化する直前よりも劣っているだろう。
「あまり意識し過ぎない様にしているつもりですけど、どうしても…」
今のアキラがポケモンバトルで勝てているのは、連れている手持ちの能力の高さに物を言わせているだけだ。手持ちの能力頼みなのは、昔から彼が抱えている問題の一つで最近は改善傾向だったが、この様子では振り出しに戻ってしまった。
以前は突発的に今の状態になっても上手く手持ちを導くことは出来たが、それは体感する時間の流れがゆっくり感じられる感覚があったおかげだ。
目ばかりを気にしていたが、余裕を持って考える時間が得られるあの感覚こそ、今の自分の力をポケモンバトルで活かす最も大事な要素だったのだ。
反射神経などの反応系も更に研ぎ澄まされているが、この感覚ばかりはどれだけ意識してももう一度経験することが出来ないでいた。
「いっそのことサングラスを掛けて…はダメだな。見えにくくなる」
頭をフルに働かせて悩むアキラにシジマは思案する。
確かに彼の鋭敏化した目が発揮する動体視力と観察眼は、長年ポケモントレーナーとして鍛えて来たシジマを凌駕している。
しかし、それは適切にポケモンバトルに活かせていればの話。対等な条件下でポケモンを上手く導くことが出来ないポケモントレーナーに負ける程、シジマは柔では無い。
彼自身が懸念している様に、今のアキラはただ強いポケモンを連れているだけのトレーナー。本当の意味で強いポケモントレーナーとは言えない。
「アキラ、新しく手持ちに迎えるポケモンは何匹考えている?」
「えっと、ヨーギラス以外ですと…もう一匹迎えたいかなと」
ボックスを利用せずに留守番させる形で待機させることやサンドパンなどの手持ち達のサポートを考えても、そこまで増やせないとアキラは考えていた。
単純にいきなり、六匹全員にそれぞれ後輩を付けさせて指導させたり統率を保つことが無理なこともあるが。
アキラの答えを聞き、シジマはあることを決める。
「――よし、お前に課題をやる」
「課題…ですか」
シジマから伝えられた内容に、アキラは思わず気を引き締める。
今まではシジマが考えたトレーニングメニューを順当にこなしてきたが、こうして面と向かって課題を与えられるのはこのジムに来てから初めてだった。
一体どんなものなのか、何時までにこなさなければならないのかなど、彼は考えを張り巡らせて備える。
「俺のジムにいるバルキーを一匹貸す。そのバルキーを上手く導いて手持ちに迎えるポケモンを捕まえて来るんだ」
「あ、新しい手持ちをですか?」
予想外の内容だったのかアキラは目を見開くが、この課題にはちゃんとした狙いがある。
一言で言えば、”初心に戻れ”だ。
細かく指導することもシジマの選択肢にあったが、長年共に過ごしてきたことで彼の手持ちはハッキリとした自分達の戦い方を持っている。それは今の彼が伝える理解しにくい複雑な指示でも彼らなりに解釈、或いは無視して戦っても結果的に勝ってしまう程だ。
だが新しく手持ちになったポケモンは、トレーナーのやり方――人間の元での戦い方に慣れていない。なので捕獲したばかりのポケモン程、指示を与える人間の状況把握や予測、指示などの技量が顕著に出やすい。今回互いにバトルさせたバルキーは、トレーナーの元での戦い方をある程度知っている個体達ではあるが、それでも本当の意味では慣れていない。
故にシジマはアキラが新しい手持ちを積極的に加えることで、初心者トレーナーだった頃に彼が行ったであろう創意工夫とやり取りを思い出して欲しいという意図があった。
シジマの目から見ても、色々扱いに難のあるポケモン達からの信頼を得た上で一定の統率が執れているところを見れば、アキラのトレーナーとしての力量は決して悪くは無い。
ならば何か切っ掛けさえあれば、事細かに指導しなくても今抱えている問題の根幹や解決法に自ら気付くことが出来る筈だ。
荒っぽいが言葉や頭でわかっていてもダメなら、直接体験した方が手っ取り早く理解出来る。
その切っ掛けとして、シジマはこの課題を彼に課すことにした。
「バルキー以外の手持ちを連れてもよろしいでしょうか?」
「構わん。だがバルキー以外の手持ちの力で捕まえることは許さんからな」
そう言い残すと、シジマは格闘場から去って行き、アキラと倒れているバルキーだけがその場に残されるのだった。
「さて、どうしようか」
一休みした後、アキラはシジマとの戦いで選んだバルキーを連れて、他の手持ちと一緒に円を描く様に座り込んでいた。
彼としては、シジマがどういう意図で今回の課題を課したのか何となく理解している。
強いポケモントレーナーは、強いポケモンを連れているから強いのではなく、どんな状況でもポケモンの力を引き出すことに長けている人間だ。
だからこそシジマは、可能な限り純粋なトレーナーとしての技量のみで戦う様に仕向けるべく、お互い慣れていないバルキーを貸したのだ。
「問題はわかっている…つもり何だけど、どうすれば上手く頭の中でわかっていることを伝えられるんだろう…」
目の感覚が鋭敏化した影響で余計なものまで見え過ぎて、優先すべきものと不要なものの優先順位が混乱して伝える内容が複雑化。それだけでも困るのだが、加えて反応速度も良くなってしまったことで、相手の動き次第では思わず先に伝えた指示の訂正を伝える時もある悪循環。これでは四天王達と戦う前の方が、戦いやアドバイスに迷いが無い分ずっとマシだ。
「俺が見えている光景と考えていることが、そのまま伝われば…」
とうとう考えることを放棄して、全てのポケモントレーナーが考えているであろう願望をアキラは口にしてしまう。そんな彼のダメダメな姿にブーバーは、体から発する熱を強めて「しっかりしろ」と言わんばかりの目付きで睨む。
「ごめんごめん。また変なことを考え始めちゃったよ」
すぐにアキラは、ブーバーを始めとした面々に冗談を口にした様な口振りで謝る。
悩み過ぎて彼がおかしくなるのは何時ものことなので、ブーバーやゲンガーなどの血の気の荒い手持ちは肩を竦めるが、カイリューだけは少々複雑そうだった。
過去に数回だけだが、彼と一心同体とも言える感覚を共有した経験もあって、アキラの気持ちがわからなく無いのと如何に大きな力なのか理解しているからだ。
だけど、理解はしても最近の体たらくぶりは別だ。
今はそこまで気にしていないが、このまま改善の見込みが無ければバトル中にアキラが伝える指示やアドバイスが昔よりも信用出来なくなる。そんなことを考えていたら、自然とドラゴンポケモンは更に鋭い視線を彼に向ける様になっていた。
カイリューから何時になく真剣な視線を向けられていることに気付いたアキラは、気を引き締めて今回の課題はしっかりこなさければならないと意識を切り替える。
明確な期限は定められていないので、休みや暇な時間の合間に課題をこなしていくという感じだろう。課題をこなしている間に今の悩みが改善されるかはわからないが、やり遂げなければこれまで以上に苦労することになる。
ロケット団みたいな無法者や血の気の荒い野生の強豪ポケモンと遭遇した時、今のままで相手をするには危険過ぎる。
「よし。やってやるぞ」
ネガティブなことは一旦忘れ、アキラはブーバーの隣に座っているバルキーに目を向ける。
「バルキー。今お前が使える技は”たいあたり”、”いわくだき”、”みきり”の三つで間違いない?」
アキラの質問にバルキーは肯定する。
さっきバトルする時に選んだバルキーだが、タンバジムにいるバルキー達は多少の個体差は有れど、皆同じ技なので気にする事は無い。
彼としては、今回の課題で新しく手持ちに迎えるポケモンは、各メンバーの長所や方向性を受け継ぐことが出来る存在を狙いたいと考えている。
どういうポケモンを探そうかと考え始めるが、この世界に迷い込んだ当初は手持ちに加えるメンバーはかなり高望みしていたことを彼は思い出す。
最初に手に入ったのがミニリュウだったから、調子に乗ってピカチュウやらリザードン、ラプラスとか良く想像していたものだ。
だけどバルキーの実力と自身の今の調子を考えると、手強いポケモンを相手にすることは難しい。特に覚えている技の関係でゴーストタイプと遭遇しようものなら、何もできないままやられてしまう。
「難しく考えずに簡単に考えろ。無いものを強請るな。今あるものでも十分達成出来る」
また悩みそうになったが、アキラは自分に言い聞かせて開き直る。
「バルキー、短い間だが俺に力を貸してくれるか?」
アキラの問い掛けに、正座で座っていたバルキーは真剣な眼差しで頷く。
さっきのバトルで自分が不甲斐無かったばかりに、痛い思いをさせてしまったが、もうそんなことが無いようにしなければならない。
昔の――かつてニビジムで負けた後、レッドの前で自らの決意を固めた頃に戻ったつもりでやっていこう。
「皆、それぞれ軽く相手してくれるか?」
課題をこなすには、借りているとはいえバルキーの動きなどを理解しなければならない。
カイリューを始めとした面々は、声を上げたり鼻を鳴らしたりと各々自分なりの返事の仕方で応じる。ヨーギラスも元気良く応じていたが、彼はまだ正式な手持ちでは無かったこともあり、苦笑を浮かべながらアキラはやんわりと諭すのだった。
数日後、アキラは休日を利用してジョウト地方にある38番道路と呼ばれる近辺にカイリューと共に降り立った。
タンバジムで行っている鍛錬との並行や新しい手持ちを探す場所を考えていたら、今日まで行動を起こすのに少々時間が掛かってしまった。
だけどようやく準備が整い、考えていた候補の一つにやって来れたのだ。
「それじゃバルキー、気を抜かずにやっていこうか」
ボールに戻したカイリューと代わる形でアキラはバルキーを出すと、早速彼は森のすぐ傍にある道を歩きながらポケモンを探し始める。
最近はタンバジムやクチバシティにある保護者のヒラタ博士の自宅を往復する日々だったので、こういう自然の中を歩き回って探索することは久し振りだ。
この数日の間、アキラはバルキーの力を踏まえた上でどれだけ指示を上手く伝えられるかを確かめてきた。
技の威力、指示を伝えてからのバルキーの反応速度、勘の良さなどもある程度把握することは出来た。しかし、指示を伝えることに関しては、目から見える余分な情報に惑わされない様に心掛けていたものの依然として上手く行っていなかった。
まだまだ準備不足な面もあるので、今回この道路にやって来たのはどういう野生ポケモンが棲んでいるのかの様子見みたいなものだ。本当はタンバジムがある島でも良かったが、少しでもポケモンの種類が豊富な場所をアキラは優先的に選んだ。
理想は今日も含めて短期間の内に新しく手持ちに加えるポケモンを見つけて迎え入れることだが、場合によっては長期戦も視野に入れている。
「さて、どんなポケモンがいるのか」
レッドの絶縁グローブの様にマチスから手に入れたモンスターボールを撃ち出せるロケットランチャーを背中で揺らしながら、アキラは今後についてぼやきながら足を動かす。
この地方のポケモンに関する本を読むなど事前に行った情報収集では、この近辺には特に希少性の高いポケモンはいない。強いて言うならば、棲んでいるポケモンはカントー地方では見ることが無いジョウト地方のポケモンが中心なことくらいだ。
今回彼が考えているのは、ブーバーかサンドパン、どちらかを連想させる長所や特徴が感じられるポケモンだ。
ブーバーは一般的にほのおタイプとしてのイメージが強いが、連れているブーバーの傾向を考えると格闘戦に適したポケモンが好ましい。
そしてサンドパンは、高い能力や強力な技よりも技術面を重視した戦い方を考慮すると、どんなポケモンであっても強くなる可能性は非常に高い。
逆に今回はカイリュー、ゲンガー、ヤドキングの三匹が培ってきた力や経験を受け継いだり、穴を埋められるポケモンは考えていない。
前者は、単純に求めているハードルが高過ぎるのとイメージ不足。
後者の二匹は、そう簡単に頭が良いポケモンに遭遇するとは考えていないからだ。
仮にどちらかの候補になれる可能性を秘めたポケモンを見つけることが出来ても、バルキーどころか普段連れている手持ちでも対処が難しいことは間違いない。
自衛の為ならカイリュー達で応戦しても良いが、手持ちに迎える野生のポケモンはバルキーで戦わなければならない条件をシジマから課せられている。その為、今のバルキーのレベルを考慮して戦う相手も考えなければならないことが、今回の課題での大きな制限だ。
だけどアキラは、この制限で選択肢が狭まるとは認識していない。
今の自分みたいに強いポケモンを連れているから強いポケモントレーナーなのでは無い。
どんなポケモンでもその力を引き出し、そして巧みに導くことができるのが強いポケモントレーナーなのだから。
それに相手の力量を把握する目を養う良い機会でもあると前向きに受け取っていた。
ちなみに今回もアキラは、手持ち全員に加えてシジマからお目付け役としてオコリザルも連れているので、トレーナーが基本的に連れ歩いても良い手持ちの数を軽くオーバーしている。
だけど、彼らの今後に関わる重要なことなので全員連れてこないと気が済まなかったのだ。
そして何故オコリザルがお目付け役に選ばれたのかに関しては、過去の経験で地味に苦手意識があることを何時の間に見抜かれたのか、それとも偶然なのかは定かではない。
「”森に棲んでいる野生のポケモンは他よりも警戒心が強く、ちょっとした刺激で興奮する恐れがあります。森の中でポケモンを探す場合は、周囲に気を配る事を忘れないで下さい”、だったな」
久し振りにポケモンの探し方や捕まえ方を勉強し直したので、歩きながら内容を思い出していたら、何かが森の中から羽ばたく羽音を耳にした。
見上げてみると、数匹のピジョンとポッポが空へ向けて飛び立っているのが彼の目に映る。
飛び立つ際の様子から森の中で何かあったと見たアキラは、早速バルキーと共に道を外れて森の中へと静かに足を踏み入れた。
「――当たり」
それ程森の奥深くに進むことなく、アキラは自身の推測が正しかったことを知る。
森の中の陽が差し込む少し拓けた場所で、枝分かれをしたツノを持つオドシシと、そのオドシシ以上に長くて巨大な立派な一本ヅノの持ち主であるヘラクロスが対峙していたのだ。
すぐに彼はバルキーと一緒に身を隠しながら、背負っているモンスターボールを撃ち出す為のロケットランチャーを手にヘラクロスに注目する。
ポケモンにタイプ相性や戦い方に得意不得意がある様に、トレーナーにも育成しやすいポケモンの傾向がある。
ジムリーダーの様な特定タイプのプロフェッショナルが代表的な例だが、アキラの場合だとタイプ問わずに二足歩行で手先が器用か自由に腕として動かせるポケモンが育てやすい。
これは彼の手持ちが揃いも揃って人型だったり、両手が自由に使える二足歩行タイプなのが関係しているが、使える技が異なっていても体格が似ていれば動き方を真似たりすることが出来るなどの利点が彼としてはやりやすいのだ。
最近だとカイリューも進化したおかげで、以前よりも行動の自由度が上がっただけでなく、戦う時のイメージが浮かべやすくなった。
手持ちに加えるポケモンに条件を付けたら視野を狭めてしまうことは承知している。
二足歩行で両手が使えるだけでなく、ある程度肉弾戦も出来るポケモンを求めるのは指標程度の扱いだ。この戦いを通じて、あのヘラクロスにはどんな特徴があるかを確かめるつもりだ。
ところが彼が観察を始めてすぐに、両者は何故か戦いを止めてしまい、互いに何かを探す様に忙しなく首を動かす。
「どうしたんだ?」
彼らの行動にアキラは疑問を抱くが、直後に彼らはそそくさに逃げる様に移動を始める。
「えっ!? ちょっと待って!」
予想外の展開にアキラは飛び出すが、彼が飛び出すと同時に二匹は慌ててその場を後にする。
急いでアキラはロケットランチャーを構えてヘラクロスを狙うが、腰に付けたオコリザルが忠告する様にボールを揺らしてくるのでトリガーを引くことは無かった。
「何だよ急に」
逃げて行ったヘラクロス達の不満を口にするが、隣に控えていたバルキーはアキラに呆れた様な眼差しを向けていた。どことなく手持ちのポケモンが自分がバカなことをした時に向けられる目付きそのものだったので、自分が何かやらかしてしまったのだろう。
一体何をやらかしてしまったのか彼は考えていくが、心当たりが全く浮かばなかった。
理由がわからなくて首を傾げるアキラに、バルキーは目付きを鋭くして体中に力を漲らせる。
傍から見ると怒っている様に見えるが、バルキーの細かな動きが見えているアキラにはただ力んでいるだけにしか見えなかった。
「もしかして…気配が駄々漏れ?」
何となく頭に浮かんだことをアキラが尋ねると、バルキーは体から力を抜いて頷く。
自覚していなかったが、どうやら気配が駄々漏れだったらしい。
息を潜めて隠れるなどはしたのだが、何か余計な気配を発してヘラクロス達を刺激させてしまったのかもしれない。
「野生で生きるポケモンは、やっぱり気配に敏感か」
どうすれば隠せるのか、もっと距離を取って観察すべきかアキラは思案し始めるが、半分当たって半分間違えている彼の考えにバルキーは肩を竦める。
ただ何かが存在している意味での気配なら野生のポケモンは警戒はしても無視するが、アキラは自らが発する気配の大きさと質をあまり自覚していない。
強者は強くて独特な気配を放つ。
自分に向けられる気配にはすぐに気付けるのに、自らが発する気配に無頓着なのには呆れを隠せない。ヘラクロスとオドシシは、単純に狙われていることに気付いたから逃げた訳では無い。
狙っている相手が自分よりも格上であることを察したから逃げ出したのだ。
普段の振る舞いや仲間として一緒にいるポケモン達からの雑な扱われ方を見ても、アキラは強者に見られる気配や風格があまり感じられないことは確かだ。だが、一度でも気を引き締めて真剣になれば、あの我が強い面々を率いる者に相応しいものに変わる。
野生のポケモン達を観察していた時も、自分や手持ちの未来を考えていたからこそ、真剣な眼差しになっていた。
「ん? どうしたバルキー?」
さっきからバルキーが自分に目線を向けていることにアキラは気付くが、バルキーが今何を考えているのかあまり察していない様子であった。
力は確かにあるが、強いことは自覚しても自分自身がそこまでとは思っていない所為で気配を上手く隠せていない彼をバルキーは心配するのだった。
アキラ、自身が抱えている問題解消も兼ねたシジマからの課題をこなすべく動き始める。
作中内では目の良さや鋭さなどが頻繁に強調されていますが、今のアキラの反射神経を含めた身体能力は、もし彼がスポーツ系の作品に出たら反則レベルの強さであるイメージです。
ただ、本作はポケスペの二次なので、ポケモンバトルに役立つ観察眼や反応の速さ以外の身体能力を彼が思う存分発揮する機会はあまり無い・・・筈。
頭の中のイメージを言葉にして伝えるということは難しいものですが、アキラの悩みの原因は結構基本的なものだったりします。