SPECIALな冒険記   作:冴龍

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えかきポケモンの脅威

 ドーブル、自力で技を覚えることは出来ない代わりに”スケッチ”と呼ばれる特殊な技で大抵の技を覚えていく変わったポケモンだ。

 

 かなり特徴的なポケモンなのもあってそう言った基本情報はすぐに思い出せたが、それでもアキラは自分の目の前で起きたことが信じられなくて驚きを隠せなかった。

 

 何故ドーブルが、姿を偽ってミルタンクとケンタロスの群れで過ごしていたのか。

 それともミルタンクがドーブルに姿を変えたのか。

 そういえば、群れの仲間以外のポケモンとも仲良くしているミルタンクがいた様な。

 

 あまりにも訳がわからなくて彼は混乱するが、目の前に対峙しているミルタンクだったドーブルは待ってくれなかった。

 手に持った筆の様な尻尾の先端を勢いよく突き出すと、氷混じりの暴風である”ふぶき”がアキラ達目掛けて放たれたのだ。

 

「しまっ…」

 

 動く間も無く”ふぶき”は前に出ていたバルキーだけでなく、後ろにいたアキラとカイリューも巻き込む。幾ら予想外とはいえ、動揺し過ぎてドーブルの動きが疎かになっていた。

 

 しかもドーブルが仕掛けて来たのは、こおりタイプ最強の技。まともに受けてしまえば、相性が悪いカイリューどころかバルキーでも手痛いダメージを受けてしまう。

 最初から躓いてしまったと彼は悔いるが、”ふぶき”が収まってすぐにある事に気付いた。

 

「――あれ?」

 

 自分の体の違和感にアキラは気の抜けた声を漏らす。

 見た目は派手であったのと未だに”ふぶき”の影響で震える寒さを感じるが、意外にもダメージらしい苦しさを感じなかった。それは目の前に立っているバルキーだけでなく、本来なら致命的に相性が悪いカイリューさえも同じだった。

 ミルタンクと思っていたらドーブルに変わり、そのドーブルが放った大技を受けても大してダメージを受けない。

 

 一体どうなっているのか疑問は尽きなかったが、既にえかきポケモンは次の行動に移っていた。

 バルキーとは距離が離れていたにも関わらず、あっという間に距離を詰めてきたのだ。

 

「”でんこうせっか”か」

 

 ”ふぶき”の威力の低さに呆気に取られていたバルキーだったが、咄嗟にドーブルが次に仕掛けてきた攻撃として振られた足を腕でガードする。

 キックを防いだ瞬間に響いた鈍い音はかなり大きかったが、防いだバルキーよりも攻撃してきたドーブルの方が大きく弾かれた。

 

「ど、どうなっているの?」

 

 尽くドーブル側が仕掛ける攻撃に威力が無いことに、アキラは不思議に感じる。

 確かにドーブルは、何でも技を覚えられる代わりに基本的な能力は低い。

 だけど、幾ら何でもここまで威力が発揮されないとは思っていなかった。

 今の”でんこうせっか”による攻撃も、彼の目から見てもかなり力が籠められていた筈だ。

 

 弾かれたドーブルは体勢を立て直すと、唐突にその姿を粘土の様に崩す。

 すると、えかきポケモンはあっという間にアキラ達が初めて見た姿であるミルタンクに姿を変えて突進してきた。迎え撃つべく改めてバルキーは構え直すが、さっきから大したことない威力の攻撃しか仕掛けて来ないのでどこか気が抜けていた。

 

 それはアキラも同じだったが、ここでドーブルが何故ミルタンクの姿になったのかという疑問が頭に浮かんだ。

 ドーブルがミルタンクの姿に変化することが出来るのは、間違いなくメタモンのみが使える”へんしん”を”スケッチ”によって会得したからだろう。

 そしてその”へんしん”が持つ効果を思い出していた時、唐突にアキラは目の色を変えた。

 

「っ! バルキー”みきり”!」

 

 咄嗟に彼は回避に特化した技である”みきり”を命じる。

 本来の姿であるドーブルの時はハッキリと認識出来るが、ミルタンクの姿になったドーブルの細かな動きの変化は読みにくい。

 ここでようやく彼はさっきから感じていた違和感の正体が”へんしん”の影響によるものだと察するが、読みにくくてもミルタンクの姿になったドーブルに大きな力が働いているのが見えた。

 

 突進してきたドーブルは、全身をぶつける”たいあたり”の様な攻撃を仕掛けてきたが、既に”みきり”で動きを見切っていたバルキーは難なく避ける。

 空振りで終わってしまったが、ミルタンクの姿をしたえかきポケモンは咄嗟にその辺りに転がっていた石ころを拾うと、それをバルキー目掛けて投げ付けてきた。

 ”みきり”の効果が続いていたおかげでこれもバルキーは躱すが、外れた石ころは森にある木の幹に突き刺さる様にめり込み、その威力がどれ程のものなのか彼らに物語っていた。

 

「能力はミルタンクと同じと考えても良さそうだな」

 

 手持ちが相当熱を入れていた時期があったので、”へんしん”の効果はある程度把握している。

 

 ”へんしん”はその名の通り、対象の能力と覚えている技をある程度コピーすることが出来る特殊な技だ。対象の能力があまりに強力過ぎると中途半端にしか再現出来ないなどの問題点もあるが、訓練を重ねることで能力の再現率などの完成度は大きく高まる。

 

 知り合いの暴走族にどうやってメタモンが”へんしん”するフリーザーの完成度を上げたのか尋ねたら、とにかくイメージトレーニングを重ねてフリーザーを可能な限り再現したと聞いている。

 

 こうして戦いに活用しているとなると、ドーブルにとってミルタンクが最も高い完成度でその力を奮うことが出来るのだろう。

 単純に群れに溶け込む目的で、ドーブルがミルタンクに”へんしん”していたとは考えにくいが、種が異なるのに群れにいた背景を考える事は後回しだ。

 ”へんしん”を利用して今の力を発揮しているのなら、欠点含めて対処方法は知っている。

 

「”いわくだき”!!」

 

 タイミング良く懐に飛び込んだバルキーは、ミルタンクの姿をしたドーブルの腹部に岩を砕ける力が籠められた拳を捻じ込む。

 強いポケモンの能力を高い完成度で再現されるのは脅威だが、本来の姿では無い。

 強烈な衝撃や無視出来ないダメージを与えることで、”へんしん”状態を維持出来なくすることが手っ取り早い攻略法の一つだ。

 実際、攻撃を受けて体が宙に舞ったミルタンクは、彼の読み通り元の姿であるドーブルに戻って倒れ込む。

 

「モンスターボール!」

 

 すかさずアキラは、素早く背中に背負っていたロケットランチャーの狙いを定めて空のモンスターボールを撃ち出す。

 以前なら撃ち出した後の反動に備えて、しっかりと力を入れて構えなければならなかった。けど今は目の鋭敏化と同じく身体能力も大幅に向上したおかげで、雑な姿勢で撃ち出しても反動が大して気にならなかった。

 手で投げ付けるよりも遥かに速くモンスターボールは飛んでいくが、隙だらけのドーブルの体を唐突に光り輝く壁が覆い、アキラが撃ち出したボールを弾いた。

 

「ミルタンクに”へんしん”していた時も使っていたけど、ドーブルの姿でもその技を使うことは出来るのか」

 

 一体何の技なのか考察しながら、彼はロケットランチャーにモンスターボールを再装填する。その間に倒れていたドーブルは立ち上がり、次の行動を起こした。

 両目を青く光らせると、周囲を無数の小石や木の枝が浮かび上がらせたのだ。

 

「今度は”サイコキネシス”。本当にたくさん覚えているな」

 

 手持ちがよく使うこともあって、アキラはドーブルが使っている技の目星を付ける。

 手にした尻尾を杖の様に振ると、浮き上がっていた無数の小石は一斉にバルキーへと殺到する。

 何を考えてエスパー技で小石などを浮かせているのか知らないが、さっきの”ふぶき”などを考えると、ドーブルの姿で技を放っても見た目は派手でも大した威力は発揮しない筈だ。

 しかし、避けていたバルキーの体の一部に小石が当たった瞬間、表情が歪んだのをアキラは見逃さなかった。

 

「出し惜しみをするな! ”みきり”!」

 

 すぐさまバルキーは、集中力を高めて次々と飛んでくる小石や小枝を避けていく。

 嫌な予感は当たるものだとアキラは考え直すが、それだけでなくドーブルの姿で放つ攻撃は威力が低いという考察も訂正する必要があるだろう。

 けれども、どうしてもミルタンクに”へんしん”していた時の様に違和感が拭えなかった。

 

「…どうやって確かめようか」

 

 アキラの頭には、ドーブルの技についてある仮説が浮かんでいたが、問題はそれをどうやって確かめるかだ。短絡的で乱暴な方法なので、それで今戦っているバルキーが万が一やられてしまったら、全てが台無しになってしまう。

 かと言ってカイリューに交代させたら、師であるシジマとの決まりを考えると今戦っている意味が無くなってしまう。

 

 そもそも、幾ら何でも戦っているポケモンにそんな方法で確かめさせること自体あまり良くない。

 もっと時間があれば良い方法が浮かんだかもしれないが、このまま妙案が思い付くまでバルキーに避け続けさせることも酷だ。

 

「仕方ない。背に腹は代えられない。リュットはここで大人しく待っていて」

 

 隣で戦いを見守っているドラゴンポケモンにそう告げると、急いでアキラは可能な限り荷物を外して体を身軽にする。

 それから彼は、何を思ったのかドーブルの攻撃を避け切ったバルキーのすぐ後ろに付く。

 

「俺のことは気遣わなくても良い。寧ろ俺にドーブルの攻撃が来る様に誘導してくれ」

 

 耳を疑う内容を口にするアキラを、バルキーは奇妙なものを見る様な目を向ける。

 普通に考えて、好き好んで相手が仕掛けてくる技をその身で受ける奴がいるものか。

 ましてや彼は人間。この距離では避け切れるとは限らないし、幾ら威力が低いとしても人がポケモンの技を受けるのは危険だ。

 しかし、これがアキラが思い付いたドーブルの攻撃の違和感を解明する第一歩なのだ。

 

 何ともバカな発想であることは彼自身も理解している。

 下手をすれば、レッドの手足の様にポケモンの技を受けたことで、何かしらの副作用が体に生じてしまうかもしれないこともわかっている。だけど、目の感覚が鋭敏化するだけでなく身体能力が飛躍的に向上した今の自分なら、上手く避けていくことが出来る筈だ。

 後、機嫌を損ねた手持ちの軽い仕返しや練習で加減を間違えた技を受けてしまう機会が度々あるので、恐らく大丈夫だろうという考えもあった。

 

 そんな彼の狙いを知らないドーブルだったが、再びミルタンクに”へんしん”すると、ミルタンクの代名詞とも言える技である”ころがる”で迫って来た。

 

「避けるんだ!」

 

 言われなくてもわかっていることだが、転がって来るミルタンクをアキラとバルキーは一緒になって避ける。

 ”へんしん”の効果は把握しているので、今のドーブルは能力から技に至るまでミルタンクを再現している状態だ。流石に強力だとわかっている攻撃を受けるつもりは無い。

 

 躱されたミルタンクは、すぐさま元の姿であるドーブルに戻ると尻尾の先端から不思議な色の光線を放ってきた。

 虹色に近いが、その色からアキラはエスパー技の”サイケこうせん”だと判断する。

 正面から飛んで来た光線をバルキーは体を伏せて避けるが、その後ろにいたアキラは一歩体を横にズラした上でわざと腕を光線に当てた。

 

「いっ!?」

 

 攻撃を受けた瞬間、当たった腕から全身――特に頭に響く様な衝撃が伝わってきた。

 だが、衝撃はその一瞬だけで収まり、光線を受けた腕も多少の痛みと痺れだけで済んだ。

 正直に言うと、エレブーの”でんきショック”よりもダメージは少ないかもしれない。

 

「気にするなバルキー! まだまだ来るぞ。”みきり”だ!」

 

 まさか本当に実行するとは思わず唖然とするバルキーだったが、ドーブルは先程の様に”サイコキネシス”を発揮して小石や枝を操って来た。

 体を張ってまで確かめなければならなくなった切っ掛けの攻撃が来るが、鋭敏化した目の動体視力と観察眼に意識を集中させてアキラはバルキーと共に避けていく。

 そして攻撃が落ち着いてきたタイミングで、彼は意図的に飛んで来た小石を肩に当てる。

 

「っ!!」

 

 肩に当たった小石の衝撃は、さっき受けた光線よりも痛くて、ダメージも大きかった。

 ぶつかった箇所を手で抑えながらアキラは堪える様に歯を食い縛るが、痛みで表情を歪ませながらも笑っていた。

 

「これでハッキリした!」

 

 判断材料としては少ないかもしれないが、アキラは確信する。

 ドーブルは本来の姿で”ふぶき”などの直接相手を攻撃しても、見た目が派手でもダメージはそれ程では無い。だが、念の力で石を飛ばすなどの間接的な攻撃だと、見た目通りの威力を発揮する。

 詳しい理由はわからないが、それらがわかれば十分だった。

 

 後は、”みきり”を使ってでも避けるべき攻撃と、使うことはせず可能な限り回避する技に分けて戦えば良い。

 すぐに新しい対策を頭の中に浮かべるが、ドーブルは再び”いわくだき”を叩き込もうとするバルキーを”サイコキネシス”で吹き飛ばす。

 

 相性が悪い技を受けてしまったが、彼の推測通りドーブルの姿で直接放たれた攻撃を受けても、大してダメージを負わなかったのかバルキーはすぐに立ち直る。しかし、その間にドーブルは”へんしん”を使ってまたミルタンクの姿になる。

 

「バルキー、わかっていると思うがあの姿になったあいつの攻撃には気を付けろ」

 

 ミルタンクの姿に”へんしん”すると、ドーブルが放つ直接攻撃は全てミルタンクの能力基準になるので、アキラはバルキーに用心する様に伝える。

 だが、次にちちうしポケモンに姿を変えたドーブルが取った行動に目を疑った。

 どこから見つけてきたのか、サッカーボールサイズの石を両手で高々と持ち上げて投げ付けてきたのだ。しかもその軌道はバルキーを狙ってはいるが、トレーナーである自分も巻き込む気満々だった。

 

「随分と恐ろしい事を考えるな!」

 

 普通のポケモンならそんな発想はしないが、ブーバーやゲンガーなどの自身が連れているポケモン達ならやりかねない行動だ。まともに受けたら冗談抜きで洒落にならない投擲攻撃を回避しつつ、ドーブルの発想にアキラは文句を言いながらも感心していた。

 

「バルキー! 追撃が来るぞ! 飛んでくる石を避けた後に”みきり”だ!!」

 

 岩を投げ付けてすぐにドーブルが次の攻撃の準備をしていることを見て、アキラは大きな声で伝える。間を置かずに伝えられる内容に、一瞬だけバルキーは理解と整理に頭を働かせたが、飛んで来た岩は本能的に避けた。

 その後も伝えられた通り、初めて遭遇した時の様にミルタンクの姿で泥の塊を投げ付けて来るドーブルの攻撃を”みきり”を使って躱していく。

 

 だが、”みきり”は間を空けずに連続で使い続けると効力が弱まっていく欠点がある。

 その為、ミルタンクの姿をしたえかきポケモンの攻撃が続く内、危うい場面が増えていく。

 折角体を張って有利な情報を得られたとしても、このままでは負けてしまう。

 

「――仕方ない」

 

 戦況が悪いと判断したアキラは、別の手を使う事を決める。

 バルキーが使える技が少ないこともあるが、それを言い訳にするつもりは無い。

 ドーブルが流れを握っているこの状況を打開するには強硬策を取らざるを得ない。

 

「バルキー! 俺が伝える内容をよく聞いてくれ! 今から三秒後に飛んで来た攻撃を避けたらドーブルとの距離を詰めるんだ!」

 

 ここでアキラは、このバトルが始まってから避けていた自身の目を通じて得た詳細な内容を伝えていくことを解禁する。

 攻撃指示を伝える時は効率の良い狙い方や相手の動作予測などで無駄に細かくなってしまうが、接近するだけならドーブルの攻撃にだけ集中すれば済むと考えたのだ。

 だが、アキラが伝えて来た内容に、バルキーは怪訝な表情を浮かべる。

 

 バルキーもこの数日の間、彼の元で過ごしてきたことで少しは慣れてはきたが、彼が具体的に伝えるとまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 しかし、自力でピンチを切り抜ける方法が浮かばないのと正確無比なのもまた事実だ。

 彼が伝えてきた通り、ほぼ三秒後に泥の塊が飛んでくる。

 それを避けたバルキーは、彼が伝えてくる内容を可能な限り自分なりに解釈して実行に移すべく、頭を働かせながらドーブル目掛けて駆け出した。




アキラとバルキー、ドーブルの不思議な戦い方と読みにくさに苦戦を強いられる。

”スケッチ”のおかげで、色々な技の組み合わせを実現することが出来るドーブル。
敵として対峙したら微妙に嫌ですけど、味方として起用しても何か扱いにくかったりと難しいポケモンです。
今作中内に出ているドーブルは、強いのか弱いのかと聞かれますと少々判断が難しい立ち位置ですね。
後、高い身体能力に物を言わせたアキラの無茶な行動は今後もありそう。でも今回みたいに必要と迫られない限りなるべく痛いことは避けていく筈。

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