SPECIALな冒険記   作:冴龍

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熾烈な戦い

 アキラのカイリューとワタルのカイリュー。

 両者が連れている同族にして各手持ちのリーダー格がトレーナーと共に激しく激突している間も、他の互いが連れているポケモン達はそれぞれ火花を散らしていた。

 

 バルキーはブーバーと共にプテラを相手に挑んでいたが、中々攻め切れていなかった。

 地上戦ならブーバー達の方に利がある筈だが、プテラはまるで気にせず刃の様に鋭い両翼でひふきポケモンが振るう”ふといホネ”と刃を交える。

 得物を持たない素手のバルキーは、プテラの翼に注意しながら背後に回り込んだりと師であるひふきポケモンの援護に徹する。

 

 しかし、まだ覚えている技が少なく動きがワンパターン化しつつあったのか、後ろに回り込もうと動いたタイミングにプテラが翼を振るい強風を起こした。

 風に煽られてバルキーは怯み、足を止めた隙にけんかポケモンをプテラは”つばさでうつ”で打ち飛ばす。

 

 かくとうタイプが苦手とするひこうタイプの技を受けて、バルキーの体は転げる。注意をこちらに向けようとブーバーはプテラに回し蹴りを浴びせるが、プテラは翼を広げて飛び上がる。

 あっという間にかせきポケモンは高度を上げるが、ブーバーも後を追う様に両足に力を籠めて跳び上がるとすぐに追い付く。

 

 ”あやしいひかり”で放った光で目眩ましをすると、動きが鈍ったところを手に持った”ふといホネ”でひふきポケモンはプテラを叩き落とす。

 地面に叩き付けられたプテラが落ちた先は、先程まで戦っていた砂浜ではなく他よりも高所の荒波が打ち付ける絶壁だった。だが両者は戦いの舞台が変わったことを気にせず、着地したブーバーは起き上がったプテラとそのまま戦いを再開する。

 

 彼らが戦っている間、大きなダメージを受けていたバルキーは何とか立ち直ると、早く加勢に向かわなければとブーバーを探す。

 戦いの音ですぐに見つけることは出来たが、崖の上で月を背景にして戦う烈火の化身と翼竜の攻防を見上げる形で足を止める。

 

 互いに刃と呼べるものをぶつけ合う両者の戦いぶりは、まるでこの前皆と一緒に見に行った映画での一場面を彷彿させたが、何時までも見惚れている訳にはいかなかった。

 映画みたいに一度のジャンプで彼らが戦っている場所へ到達することは出来ないが、崖をよじ登って急いでブーバーの元へと向かう。

 

 バルキーが加勢しようと急いでいたその頃、アキラの手持ち最年少であるヨーギラスは大変な目に遭っていた。

 悲鳴にも似た音を”いやなおと”として放つヨーギラスに対して、サナギラスは”いわなだれ”で攻撃する形で返事を返す。

 次々と落ちて来る岩にヨーギラスはエレブーに守られながら逃げ惑うが、その目は若干涙で潤んでいた。

 

 今まで模擬戦や他のトレーナーが連れているポケモンとの戦いを度々経験してきたが、それらは加減されているか”スポーツ”としての範疇での戦いだった。

 互いの生死を懸けたり、正真正銘の勝つ為なら何やっても良い”戦い”や本当の殺気をぶつけられることは、ヨーギラスにとってあまり経験が無かった。

 どうすれば良いのかわからず、一緒に戦っているエレブーやオコリザルの足を引っ張らない様にとにかく自分に出来る攻撃をするしか頭に浮かんでいなかった。

 

 相手が弱腰であることを見抜いていたサナギラスは背中の空洞から砂を噴射、その推進力で突進の勢いを増すと鋭い牙を剥き出した。

 ようやく攻撃が止んだと思ったタイミングでの奇襲にヨーギラスは硬直してしまうが、両者の間にエレブーが素早く割り込み、物理攻撃を弾く”リフレクター”の壁を張ることで防ぐ。

 邪魔が入ったことに”リフレクター”の壁越しにサナギラスは苛立ちの顔を見せるが、すかさずオコリザルが殴り飛ばした。

 

「一度距離が取れたからと言って気を抜くな!!」

 

 アキラではなくシジマからの叱責が飛び、少し落ち着ける時間を得られたことに安堵していたエレブーとヨーギラスはすぐに緩んだ気を引き締め、慌てて構え直す。

 今アキラはカイリューの方に掛かりっ切りである関係で、シジマが代わりに一部の手持ちを指揮していた。手持ちが独力で戦う事に慣れているのと数が多過ぎることもあるが、完全に任せっ切りなのは良くない。

 

「今度から戦わせる数を意識させるべきだな」

 

 サナギラスが飛ばしてくる”いわなだれ”をポケモン達と共にシジマは避けながら、今後アキラに指導する内容を少しだけ考えるが、すぐに目の前の戦いに集中する。

 一旦サナギラスと戦っている面々から距離を取ると、今度はサンドパンとシジマのニョロボンがハクリュー二匹から逃れる様に彼の元に後退しつつあった。

 

 最初は優勢だったが、徐々に押される様になったらしい。

 アキラが連れるポケモン達の実力をシジマは良く知っている。エレブーの様に戦い慣れていない仲間のカバーをしていることもあるが、彼らが数で攻めても互角の時点でワタルのポケモン達の実力が窺える。

 

「ニョロボン”ばくれつパンチ”! サンドパンは”きりさく”だ!」

 

 タイミングを見計らったシジマの指示に応えた二匹はハクリュー達に同時に攻撃を加える。

 それはハクリュー達にとって嫌なタイミングだった。片や強烈なパンチの衝撃で混乱し、片や一番受けたくない箇所を切り裂かれて悶える。

 追撃を仕掛けようとするが、”こんらん”状態では無いハクリューは自らの体を軸に”たつまき”を起こす。

 

「ぐっ!」

 

 規模はそこまで大きくないが、激しく吹き荒れる暴風はサンドパンとニョロボンを巻き込んで吹き飛ばすだけに留まらずシジマに迫る。

 下手に動けば竜巻に引き寄せられてしまう為、シジマはその場から退こうにも退けなかった。

 そんな時だった。大ダメージを受けてから目立った動きを控えていたゲンガーが、突然激しく唸る竜巻に何の躊躇も無く飛び込んだ。

 

 何をしているんだとシジマは思ったが、唐突に竜巻が弾ける様に消え、飛び込んだゲンガーと”たつまき”を起こしていたハクリューは力無く砂浜に倒れた。

 

「”みちづれ”を使ったのか…」

 

 見覚えのある光景に、シジマはゲンガーが何をしたのかを察した。

 ”みちづれ”は使うポケモンが戦闘不能になる時、倒した相手も一緒に戦闘不能に追い込む技だ。

 この戦いが始まった序盤にサナギラスの強烈な一撃を受けてしまったことで、自分はもう長くは戦えないとゲンガーは判断したのだろう。

 

 ハクリューの一匹が戦闘不能になっていた時、片割れのドラゴンポケモンは”ばくれつパンチ”による”こんらん”状態が解けていたが、羽交い締めにされる形でニョロボンに抑え付けられていた。

 そしてニョロボンが抑えている間に仕留めるべく、サンドパンは爪を構えて突撃する。

 その直後、彼らがいる砂浜周辺を激しい揺れが襲った。

 

「これは”じしん”か」

 

 揺れの中心に目を向けると、元凶は砂浜にある砂を巻き上げた砂嵐に紛れていた。

 サナギラスと戦っているのはオコリザルにヨーギラスとエレブーだったが、まだ戦い慣れないヨーギラスを庇い続けていたのや”すなあらし”の影響もあって中々仕留められないようだ。

 

 砂浜さえも大きく揺らす衝撃にニョロボンだけでなく、味方のハクリューも巻き込まれる。

 だが織り込み済みだったハクリューはニョロボンを振り払うと、ヨーギラスを庇い続けて傷が増えつつあるエレブー目掛けて体を滑らせる様に迫る。

 サナギラスも砂嵐の中から大砲の砲弾の様に飛び出して、鋭い牙を剥き出しにしてエレブーとオコリザルに突っ込む。

 

 挟み撃ちにされたが、咄嗟に飛び出した影が二つあった。

 一つはサンドパン、両手の爪をそれぞれ向けるとエレブー達を挟み撃ちにしようとする二匹に対して”めざめるパワー”を放つ。

 ハクリューの方は放った”めざめるパワー”のタイプとの相性のお陰で完全に止められたが、サナギラスに対しては威力不足で止めることは出来なかった。

 

 だがもう一つの影、勇気を振り絞ったかの様な声を上げながら飛び出したヨーギラスが”たいあたり”でぶつかる。

 幼いいわはだポケモンの決死の攻撃は残念なことに仕掛けた本人ごと弾かれてしまったが、突進して来るさなぎポケモンの軌道をズラすことは出来た。

 

「俺が診る! お前達は戦いに集中しろ!!!」

 

 シジマは弾かれてから砂浜に倒れたままのヨーギラスの元へ向かいながら、ヨーギラスに気が向く二匹に伝える。

 エレブーは目に見えて動揺していたが、サンドパンはまだ健在であるハクリューとサナギラスを示すと、戸惑いながらもでんげきポケモンはオコリザルと共に戦いへと戻った。

 

 砂浜に転がっているヨーギラスは気絶しているだけなのを確認すると、シジマは至る所で起きている戦いを見渡す。

 すぐ近くのサンドパン達と離れたところにいるブーバー達の戦いは互角ではあったが、彼らとは別のところでギャラドスを相手取っていたヤドキング達は優位に戦いを進めていたのが見えた。

 

 戦いの場は他と同じ砂浜の上ではあったが、ヤドキングとドーブルはそれぞれ”スケッチ”と”ものまね”で覚えた”こうそくいどう”を使う事で、通常では考えられないスピードでギャラドスの攻撃を避けるだけでなく翻弄していた。

 二匹の動きにギャラドスが戸惑っているタイミングを見計らい、ヤドキングは後頭部に”サイコキネシス”の強烈な念の波動を叩き込む。そしてドーブルが念の力で浮かべた無数の小石をギャラドスに雹の様に浴びせて追い打ちを掛ける。

 

 手持ちに加わってまだ間もないが、ドーブルは”スケッチ”によって習得した多彩な技と日々学びつつある知力を活かしてヤドキングと共に巧みに立ち回っていた。

 高いレベルの連携を駆使する彼らに苦しむギャラドスは、口にエネルギーを集め始める。だが、ドーブルは素早くミルタンクに”へんしん”。この姿ならではの腕力とコントロールを活かして、ギャラドスの顔に”どろかけ”の泥の塊と拾った石を交互に投げ付けて阻止した。

 

 顔面に泥と石の直撃を受けて怯んでいる隙に、ヤドキングは掌の上で念の力で小規模な”サイコウェーブ”を作り出したが、瞬間的に制御出来ない規模にまで一気に渦を大きくした。

 その威力にギャラドスは巨体を仰け反らせるが、突如としてギャラドスは奇声を上げながら我武者羅に暴れ始めた。

 

 ”あばれる”だ。

 

 一度発動したら力の限り無差別に暴れる厄介な技ではあるが、二匹は冷静にそれぞれ散開して避け、元の姿に戻ったドーブルは”10まんボルト”を放った。しかし、何故かその狙いはヤドキングだった。

 それでもヤドキングは慌てることなく飛んで来た”10まんボルト”を掌で受け止めると、念の力と自らの体を回転させて流す様に軌道を変えながら両手に集めていく。

 

 ドーブルの攻撃は、小石や泥の塊をぶつけるなどの間接的な攻撃はダメージを期待出来るが、直接放つ攻撃は相性が良い技でも威力は発揮出来ない。ならばその攻撃をヤドキングは、自らの念の力と組み合わせることで更なる威力を実現させようとしていた。

 

 流した電流を両手で挟み込む形で光球に圧縮させると、ヤドキングは荒れ狂うギャラドスの顔面に押し付ける形でぶつける。

 凝縮された電流が一気に解放されて、全身を駆け巡るエネルギーにギャラドスは苦痛の声を上げる。

 彼らの戦いぶりを見て、シジマは様子から遅かれ早かれギャラドスを倒すことを確信する。

 

 問題があるとすれば――

 

 岩が砕ける音と粉塵が舞い上がり、アキラと彼のカイリューがワタル達の攻撃が逃れる様に飛び出す。

 先程までアキラのカイリューが若干押していたのだが、今は防戦一方を強いられていた。

 万が一も考えなければならないだろう。早く彼らの加勢が出来る様に自分のポケモンだけでなく、彼のポケモン達も導かなければならない。

 

 

 

 

 

 シジマの懸念通り、アキラと彼が連れているカイリューはワタル達に苦戦していた。

 彼のカイリューが発揮した”げきりん”は酷く薄いのに対して、ワタルのカイリューは厚く激しいエネルギーを身に纏っており天と地の差だ。

 例えるならこちらは軽装なのに対して、相手は鉄で出来た鎧を身に纏っていると言っても良い程であった。

 

「手を抜くな!!!」

 

 ワタルの激昂に呼応する様に、彼のカイリューが”げきりん”のオーラを一際強く纏わせた拳を振るう。

 アキラとカイリューは飛び退く形で回避するが、その強大なパワーを見せ付けるかの様に殴り付けられた海岸沿いにある岩盤は砕け散る。

 

 不本意ではあるが、今ワタル達が抱いているであろう怒りをアキラは理解していた。

 自分達が最後にワタルと戦った時と同じ条件――カイリューと一心同体とも言える状態で戦っていないからだ。

 アキラとしては今でも可能な限り全力で戦っているが、それでもワタルの目から見たら手を抜いている様に見えていて、このまま勝つのはプライドが許さないのだろう。

 

「まだ舐めているのか? 俺達を馬鹿にするのもいい加減にしろ」

「勝手にそう思ってろ」

 

 だけど嫌っている奴に正直に答える気は無いので、アキラは雑な返事を返す。

 そしてやられっ放しでは無いのを証明するかの如く、ワタルのカイリューが放った”げきりん”のエネルギーを纏った拳を流す形で避けると、その勢いを殺さずにアキラのカイリューは背負い投げの様に投げ飛ばした。

 

 ”げきりん”の当てが外れたのは計算外だったが、だからと言って負ける気は無い。

 あの時の様にカイリューと一心同体の感覚に至らなくても勝つつもりだ。

 口頭で伝えるが故のタイムラグはあるが、アキラの目にはワタルのカイリューの動きがしっかりと見えていた。

 距離が取れていることも相俟って、彼は余裕を持ってワタルのカイリューの動きから次に取るべき行動を頭の中に浮かべる。

 

 ”げきりん”を維持されていては、纏っているエネルギーの影響で”れいとうビーム”などの特殊技の効きは悪い。

 だがエネルギーの鎧と呼べるまでに厚いオーラとはいえ、いざ触れたりしても熱くて触れられなかったり弾かれる訳では無いので物理攻撃は有効だ。

 

「体を屈めて、顎にアッパーだ!!」

 

 効果的であると予測した行動を伝えながら、アキラは右手を握り締めながらまるで自分の事の様に腕を振り上げる。

 アキラの熱が伝わったのか、飛び掛かって来たワタルのカイリューに対して、彼のカイリューは伝えられた通りに体を屈めて避けると跳び上がる様に顎を撃ち抜く形でアッパーを叩き込む。

 サンドパンと一緒にポケモンの種ごとに有している急所や弱点を的確に狙う勉強をした時、普通は狙うべきでは無い危険な狙い所があることも彼は学んでいたが今回は容赦無く狙わせて貰った。

 

「退くんだ!」

「無駄だ! ”たたきつける”!!!」

 

 顎に強烈な打撃攻撃を受ければ、その衝撃が脳に直接伝わって抗えない怯みをもたらす。

 風が吹けば飛んでしまいそうな程に弱々しいオーラだが、それでも”げきりん”のお陰である程度カイリューの膂力は向上している。

 更に”げきりん”のエネルギーを纏っていることで、”たたきつける”もドラゴンタイプとしての性質を有しているのだ。強烈な一撃を受けてワタルのカイリューは吹き飛ぶ。

 

「これで手を抜いている何て良く言えたな」

 

 負けじとアキラも挑発的な言葉でワタル達を煽る。

 手数は少ないがダメージが大きい攻撃を仕掛けているからなのか、アキラのカイリューは息を荒くしているだけなのに対して、ワタルのカイリューは立ち上がりはしたがまだ頭に影響が残っているのか足元が安定していなかった。

 互いに形は違えど消耗していたが、それでも二匹のカイリューは嫌悪感を隠さずに睨み合う。

 

「リュット、構え直すぞ」

 

 一度自分の傍にまで下がったカイリューにそう告げると、アキラは深く息を吐くと体中に力を入れて改めて自らの心を重視して心身を研ぎ澄ませてカイリューと共に構える。

 

 彼がシジマの元に弟子入りをしたのは、自らの体を鍛えるのと目の感覚を完全に使いこなすなど様々ではあるが、最終的にはワタル達を圧倒した一心同体に至れる方法を見出すことだ。

 その中でアキラはシジマの指導方針である「トレーナーもその身を鍛える」にヒントがあると考えた。

 さらに突き詰めれば、「トレーナーも身をもって体を鍛えることでポケモンと心を通わせる」という彼の教えが、それに限り無く近い。

 

 シジマからも自分のと同じものかは知らないが、近い経験を何回かしているという話は聞いている。そして経験豊富で一流のトレーナー程、自覚するしていない関係無く経験する傾向があるらしい。

 ある種の極限の集中状態だ。故にそう簡単に引き出すことは難しいことは既にわかっている。

 

 何故なら過去に一心同体の経験をしたのは二回、そしてどちらも偶然なのと嬉しくない危機的状況だった。

 毎回追い込まれなければ引き出せないのはごめんだ。第一歩として「戦っている時のポケモンの気持ちを考える」ことなどが重要であることは、不完全ではあったが最近のフスベシティでの戦いでわかって来たが、中々上手く行かないものだ。

 

 呼吸を整えて、戦いを再開するべく足に力を入れた瞬間だった。

 互いのカイリューが身に纏っていた”げきりん”が、ほぼ同時に消えたのだ。すぐにアキラは、”げきりん”を維持出来る時間切れであることを悟る。

 反動で彼のカイリューは意識が安定しないのか足元がおぼつかなくなったが、ワタルのカイリューは立ち眩みの様に一瞬フラついたもののすぐに持ち直す。

 ”げきりん”を使いこなす経験の差が顕著に出た結果だった。

 

「リュット気をしっかり――」

「”アイアンテール”!!!」

 

 先程の意趣返しと言わんばかりにワタルのカイリューは硬質化した尾を無防備な姿を晒しているアキラのカイリューにぶつける。

 鈍い音と共にアキラのカイリューは地上スレスレで滑空するが、衝撃で正気を取り戻したのか、可能な限り受け身を取る。

 

 ところがこの戦いが始まってから受けた攻撃の中で一番重い攻撃だったのか、起き上がってもぶつけられた腹部を片手で抑えたままだ。

 このまま戦えば、恐らく自分は勝てるだろうとワタルは見ていたが、満足に感じるどころか不満だった。

 

 彼らの様子を見ても明らかだが、まだアキラ達は本気――かつて自分を追い詰めた力を出していないのだ。

 このまま勝てたとしても、完全な勝利にならない。

 まだ本当の勝負すら始まっていないと言っても過言では無い。必ず奴らの本気を引き出した上で勝つ。

 

 半年前に味わった屈辱、そのリベンジの為に決意を新たにしたその時だった。

 派手な音を立てながら、ギャラドスはその身を崩したのだ。

 倒れた青い龍をヤドキングとドーブルの二匹が背を向けて後にしているのを見たところ、彼らがギャラドスを下したのは明らかだった。

 そして、それを機に他の戦いも一変する。

 

 再びプテラに挑んでいたバルキーは、かせきポケモンの攻撃の煽りを受けて足を滑らせてしまい、危うく荒波が打ち付けている側の絶壁から落ち掛けた。

 勝負を焦ったブーバーは大振りで”ふといホネ”を振り下ろしたが、プテラは翼を交差させる形で防ぐと口から”ちょうおんぱ”を放ちながら、ひふきポケモンを弾き飛ばした。

 

 プテラの攻撃で吹き飛ばされたブーバーは倒れ込むだけでなく、握っていた”ふといホネ”も手放してしまう。

 止めを刺そうとプテラは翼を振り上げるが、足を滑らせてから絶壁にぶら下がっていたバルキーは最後の力を振り絞って跳び上がる様に体を持ち上げた。そして彼は近くに転がっていた”ふといホネ”を拾い、気付かれる前に電光石火の早業で背後からプテラの頭を殴り付けたのだ。

 

 思わぬ奇襲にプテラはフラつく。その間に立ち上がったブーバーは全身から炎を溢れさせて、激しい炎を纏った渾身の”ほのおのパンチ”を両腕で押し込む様に打ち込んだ。

 それだけに留まらず、大きく息を吸って胸と両頬を大きく膨らませると”かえんほうしゃ”を火の壁の如き勢いで放つ。

 相性ではプテラに炎技の効き目は薄いが、凄まじい規模の”かえんほうしゃ”を受けて火達磨状態になったプテラは足を踏み外して、戦っていた絶壁から砂浜に叩き付けられた。

 

 そしてハクリューとサナギラスの方も、数の差とシジマの指揮で追い詰めつつあった。

 

「追い詰められてきているな」

「…あぁ、そうだな」

 

 何気無い会話を交わすが、直後に”こうそくいどう”で加速したアキラのカイリューがワタルのカイリューを殴り付ける。

 しかし両腕を”アイアンテール”を仕掛ける際の尾と同じ鉛色に硬化されて防がれてしまう。

 

「面倒な技術を身に付けやがって」

「面倒か。フフ、嫌がってくれて何よりだ」

 

 アキラとワタルは互いに舌戦を繰り広げるが、双方のカイリューは距離を取りながらも互いに鋭い視線をぶつけ合う。

 一瞬の隙も見せたくないのか、視線を一切外さずに隙を窺い続ける。

 だが時間が経てば経つ程、ここでの戦いの結果はともかく、ワタルは追い詰められていく。

 少し癪なのとカイリューは絶対に納得しないかもしれないが、勝利を確実にする為にも他の手持ちが加勢に来るまでの時間を稼ぐべきかもしれない。

 

 そんな考えが頭に浮かんだその時だった。

 

 まるで獰猛な獣が吠えた様な雄叫びが轟くのを耳にした時、強い光が砂浜や海岸を照らした。

 何事かとアキラは思わず光を放っている元に目を向けてしまったが、光の発生源はカイリュー以外の彼の手持ちやシジマ達が戦っていた砂浜だ。

 しかも光を放っている発生源を中心に、砂浜はまるで竜巻の様な激しい砂嵐が起きていた。

 

「まさか…」

 

 見覚えのある光にアキラの脳裏にある可能性が過ぎる。

 確かに条件に合うのはいたが、まさかこのタイミングでこの現象が起きるとは全く予想していなかった。

 そして彼の予想を証明するかの様に、激しい砂嵐の中心で光を放っていた存在――サナギラスから進化したバンギラスが対峙する全ての敵に対して威嚇するかの様に雄叫びを上げていた。




アキラ、全体的に戦いを有利に進めるもまだまだ予断を許さない状況。

まだまだ微妙に劣っている部分はあれど、アキラは平時の状態でもワタルを相手に互角の戦いを繰り広げられるくらいレベルが上がっています。
そろそろ、アキラのポケモン達に第二世代の技をもっと多用させたい。

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