SPECIALな冒険記   作:冴龍

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やっと準備が整ったので数話だけですが、投稿を再開します。
今回からの数話は、原作にある一部の展開を絡ませた上で主人公の目的絡みの展開になります。
その為、色々な捏造設定や解釈などのオリジナル要素が多く出てきますのでご注意下さい。
それと諸事情でまた更新する時間を変更致します。

最後に、気付いたら本作の連載を始めて三年目を迎えることが出来ました。
今後も「SPECIALな冒険記」をよろしくお願いします。


始まりの濃霧

「それでレッド、()()()()の出来はどうだった?」

 

 机に立てた両肘に寄りかかり、口元を両手で隠す様な姿勢でアキラはテレビの画面越しにレッドに尋ねる。

 目が光って見えるその微妙に威圧感のある彼の姿勢に、実際に目の前にいる訳では無いのにレッドは少しだけ体を強張らせる。

 

『おっ、おう! バッチリさ!』

「……本当?」

『エリカやカスミに付きっ切りで教わったんだから自信はあるよ。どんな問題が出たのか覚えられるくらい余裕はあったし』

「難しいから悩んだとか、そういう理由で印象に残っている方が正しい気がするのは俺の気の所為かな?」

『………』

 

 気まずそうに目を逸らすレッドにアキラは肩を竦める。

 こうして彼らがテレビ電話を通して話しているのは、今日レッドのジムリーダー就任試験が行われたからだ。

 アキラの記憶では、彼の試験は次の戦い――云わばジョウト地方を舞台にした第三章が始まった時期とほぼ同時期とぼんやり記憶していた。

 

 その為、実はもうジムリーダー試験をやると聞いた時は修行に専念し過ぎて時期を見誤ったのではないかと焦り、数日前まで慌ててジョウト地方の各地はどうなっているのかアキラは色々見て回っていた。

 真相は単にポケモン協会がレッドのこれまでの実績や功績を考慮して、早めに試験を行う事を決めただけだったので、勝手に自分が慌てただけの間抜けな結果で終わったが。

 

『まっ、まぁ! 明日の実技試験で挽回出来る筈! マサキも”絶対に受かる”って言っていたし!』

「だと良いんだけどね」

 

 ある程度はアキラが知っている通りに事が進めば良いのだが、試験の時期が早まっているなど変わっている点が多くあるので、色々心配なのだ。

 最初は”自分が知っているのと違ってしまうと困る”という、仕方ない事情があったとしても身勝手な考えが理由だったが、自然とそんな考えではなくて一人の友人として心配なのだ。

 

『そ…そういえば、俺の次はセキチクシティのジムリーダーの選考を始めるってマサキが言っていたな』

「へぇそうなんだ……ていうか、それ口外していい情報?」

 

 唐突に話題を変えられたが、アキラは気にしない。

 寧ろ言ってはいけなさそうなことをマサキはレッドに教えているみたいだが、大丈夫なのだろうか。

 

『別にそのくらいで怒られはしないだろ。それに今は別の事で手一杯らしいぞ』

「別のこと? あぁ、ポケモン転送システムの不調のことか」

 

 この件はニュースで連日の様に報道されているので、アキラでも知っていた。

 カントー地方では目立った障害は起きていないが、現在ジョウト地方全域を含めたポケモン転送システムが原因不明の不調に陥って、あらゆる影響を及ぼしているのだ。

 レッドの話では、マサキはさっさと終わる仕事と思っていたらしいが、未だに改善したと言うニュースを聞かないので、長引いているのと彼の苦労がアキラでも容易に想像出来た。

 

『結構困っているみたいだよ。幾ら調べても装置に問題が無いからお手上げだって』

「現在進行形で問題が生じているのに問題が無いっておかしいだろ」

 

 元の世界で知っている通りなら、確かロケット団が装置に何かしらの細工を施していた筈だとアキラは記憶している。具体的に覚えていれば遠回しに助言したり出来るが、どんな細工だったのかなどの詳しいことはもうアキラはほぼ忘れ気味だ。

 と言っても、この世界に来た時点の状態でも、そんな細かい部分と思われるところはあんまり憶えていないので結局は力にはなれないが。

 

『アキラは原因は何だと思う?』

「その話、素人の俺に振る? 機械の知識は殆ど無い上にマサキさんが作ったボックスシステムはロクに利用したことが無いんだぞ」

『俺もマサキに意見を求められたからだよ。こういう時は…あれだ。知恵は多い方が良いだろ』

「それは言えなくも無いけど……」

 

 三人寄れば文殊の知恵と言う奴だろうか。

 マサキはこの先、ジョウト地方で起こる戦いの最中に改善することに成功するのは憶えているが、何が決め手だったのかは憶えていない。

 故に忘れ気味な記憶頼りでは無くて、現時点での情報を総合してアキラは頭を働かせる。

 

「……レッドは何だと考えている?」

『どっかでポケモンが詰まっているんじゃない?』

 

 レッドの予想斜め過ぎる予想に、思わずアキラは顔を支えている腕のバランスを崩して顔を机に伏せる。

 ポケモン転送システムは、その名の通り転送装置なのだから水道みたいに詰まる事は無い筈だ。

 そもそも詰まっているのなら、そこが問題箇所として気付いて対処されるだろう。

 ポケモンバトルではこれ以上無い攻め方や攻略法を思い付くことが出来るのに、何故彼はこういう時はこんな発想になるのか気になったが、改めてアキラは話を頭の中で整理する。

 

 装置に故障などは全く見受けられないのに動けない。

 そこまで考えたアキラの頭で真っ先に浮かんできた可能性は――

 

「そもそもちゃんと動いている?」

『動くって?』

「装置なんだから動力が要るだろ。そのエネルギーがちゃんと送り先の装置とか全体に行き渡っているかとか。こういう時は難しいことばかりじゃなくて初歩的な部分に目を向けることも大事じゃない?」

『成程な……でもマサキがそんな簡単なことを見落とすと思うか?』

「――だよね」

 

 彼は世間ではポケモン転送システムを作り上げた天才なのだ。

 その天才の彼と比べたら、自分達は彼の頭脳には遠く及ばない。

 こうして今思い付く程度のことは全部試していることだろう。

 

「まあ、困っている人には悪いけど、ポケモン転送システムを俺は利用することは無いから良いや」

『俺は困るんだけど』

「あっごめん」

 

 現在アキラが所持している手持ちポケモンは合計九匹だが、全員連れ歩くか、今居候させて貰っているヒラタ博士の家に三匹を留守番させる形で待機させるなどの方法で数を調節している。

 レッドもイーブイのブイを始めとした他の手持ちポケモンがいるが、チャンピオンとしての世間体を考えると自分みたいに六匹以上連れ歩くのはあまり良くない。

 そんなことを考えていたら、ある記憶と懸念が頭を過ぎった。

 

「話を切るけどレッド、手足の状態は大丈夫なのか? 合格したけど手足が不調で辞退して誰かにバトンタッチみたいなことにはならないでよ」

『心配の内容がヤケに具体的だな』

 

 アキラの問い掛けにレッドは苦笑いを浮かべる。

 この様子だとどこまで考えていたかは知らないが、不調による影響を考えていなかった訳では無さそうだ。

 もしかしたら手足の痺れを理由にレッドはジムリーダー就任を断って、その場の流れや出来事も相俟ってトキワジム・ジムリーダーにグリーンが就く。

 アキラが知っているのと同じ流れになるかもしれないが、レッドの頑張りを知っている彼としてはそんなことは無く無事に就任して欲しいのだ。

 結局シロガネ山の秘湯で湯治することになるのは変わらないとしてもだ。

 

「まっ、レッドのことだからどんな条件だとしても何だかんだ言って合格だろ」

『信じてる、とかじゃないんだ』

「信じてる通り越して、既定路線的な気がするからね。レッドの実力的に。明日の実技試験、見に行くつもりだからどう捌くのか楽しみにしているよ」

 

 アキラが口にしたその言葉を機に、レッドは表情を引き締める。

 

『あぁ、明日は絶対に合格してみせるさ』

 

 それを最後にレッドの姿はパソコンの画面から消える。

 完全に彼との通信が途切れたことを確認して、椅子に座ったままアキラは体を伸ばしながら欠伸をする。

 眠気も強くなってきたし、明日の試験観戦に備えてもう寝ようと考えながら彼は席を立つ。

 

 その時だった。さっきまでアキラがレッドと話していたパソコンのテレビ電話機能が誰かからの連絡を受信したことを表示し始めた。

 

「ヒラタ博士~、大学から連絡が来ました」

 

 送信者の名前は、彼でも見たことがあるタマムシ大学の関係者だった。

 勝手に出る訳にはいかないので、部屋の外に出たアキラはリビングにいるこの世界での保護者にしてタマムシ大学で教鞭を執っているヒラタ博士に連絡が来たことを伝えると入れ替わる様に博士は部屋へ入って行った。

 

 そしてアキラがリビングに入ると、もう夜遅いことも関係しているのかサンドパンなどの自分の手持ちがのんびりと過ごしているのが彼の目に入った。

 エレブーとヨーギラスは長閑に過ごしているのに対して、ヤドキングとゲンガーはドーブルを交えて各々のやり方で人の文字を覚えるのに励んでいる。

 そして外では、ブーバーがバルキーと共に腕立て伏せを行っており、少し離れたところでカイリューが体を丸めて横になっていた。

 

 そんな何時もの日常な光景を眺めながら、ソファーに座ったアキラは何気無くカレンダーに目を向ける。

 明日は休養日なのでシジマの元へ行く必要は無いが、彼の元でポケモントレーナーとしての修業を始めてから、ほぼ一年もの月日が経ったことを何気なく意識する。

 

 強さを追い求めるのは、純粋にポケモントレーナーとして更なる高みを目指すことは勿論、今後起こるであろう戦いや予期せぬ事態に対応出来るだけの力を身に付ける為だ。

 そしてシジマの元での修行は、一部を除いてそういう弟子入りを決心した時に抱えていた目標や課題点を解消することに繋がってくれた。

 だけどカレンダーを眺めている内に、わかることがもう一つあった。

 

 それはアキラがこの世界にやって来てから三年経ったことだ。

 この世界に迷い込んだ頃は十歳くらいだったが、今では十三歳だ。年齢的に元の世界で言えば、小学生から中学生に変わっても良い歳でもある。

 

 この世界に来てから、元の世界では義務感だったり何となくやっていた勉強をアキラは自主的にしているが、それでも多くは強くなる為に必要なポケモンに関連したものばかりだ。

 仮に元の世界に戻れたとしても、本来学ぶ筈だったものを学び直したり遅れを取り戻す為にも、勉強関係でかなり苦労するのが目に見える。

 

 時間が経てば経つ程、元の場所に戻りにくくなる。

 

 以前レッドにブルーの懸念について話したことが、自分にも当て嵌まりつつあった。

 昔は両方の世界を行き来出来る様になれたら良いかもなどと考えていたが、今考えると色々面倒なことになりそうだ。

 もういっそのこと、このままこの世界に留まった方が楽なのでは無いかと思う時はあるが、それでもだ。

 

「――”突然”ってのが嫌なんだよ」

 

 苛立ちを込めて、アキラは思わずぼやく。

 突然消える様にこの世界に来てしまったから、元の世界での心残りや気になることが山の様にあるのだ。少しは選択の余地などの何かしらの猶予があれば、ここまで悩んだり考えることは無かっただろう。

 と、ここまで考えていたら、あまり考えない様にしていたある考えが頭に浮かんできた。

 

 それは今率いている手持ちのことだ。

 

 連れているポケモン達と別れる可能性を考えたことが無いと言えば嘘になる。

 だけど意外と彼らは、自分がいなくなったとしても多少は残念がるかもしれないが、「よし、独立するか」的なノリで、すぐに気持ちを切り替えて変わらず今のメンバーでチームならぬ徒党を組んでいそうだ。

 

 変に引き摺らずにアッサリと気持ちを切り替えて貰えるとしたら、寂しい気はするがある意味では有り難い。だが、力と知恵を身に付けた彼らが徒党を組んだ野良集団になったら、何かヤバそうな気がしなくもない。

 手持ち同士での徒党を組まずに野生に戻る可能性も考えられるが、そうなったらそうなったで各々が野生の世界で群れを統べるなどの形で独自の勢力を築きそうだ。

 

 誰か彼らの面倒や動向を気にしてくれるのが一番安心出来るが、あんな自由奔放で癖が強い面々を手持ちに加えたがるトレーナーが果たしているのか。

 一部は温厚で素直だが、そう簡単にいかないのは目に見えている。

 

 理由として、彼らがトレーナーに求める要求が高過ぎることも一因ではある。

 だけど一番の理由は、揶揄抜きでポケモンである彼らの方からトレーナーに付いて行くか付いて行かないかをハッキリ決めるからだ。

 

 よくあるトレーナーの実力不足でポケモンが従わない問題に見えなくも無いが、どれだけ実力があっても方針や性格と言った人間性などが彼らの御眼鏡に適わなければ、彼らは従おうとしない。

 代わりに面倒を見るとは考えにくいが、例を挙げればグリーンがこれに該当する。

 トレーナーとしての実力は文句無しだが、あらゆる面で徹底的に手持ちポケモンを管理する方針は、問題を起こさない限りある程度自由に過ごすアキラの手持ちにとって受け入れ難い。

 

 逆に人間性が良くても、トレーナーとしての実力が無ければ彼らはちゃんと動いてくれない。この点はアキラの知る限りでは、トレーナーではないがヒラタ博士の孫が該当している。

 酷ではあるがプライベートで親しくても、実力が未熟で戦いの役に立たないトレーナーに大人しく付いて行く程彼らはお人好しじゃない。

 

 実際戯れ程度のポケモンバトルに付き合うことはあるが、程々に手を抜いていたりするので本格的なバトルを頼まれたら彼らは断るだろう。

 だけど、アキラが率いるポケモン達はトレーナーの良し悪しを実力よりも人格面で判断している節が有るので、頑張れば前者よりは可能性はある。

 

 最も実力と人格のバランスが取れているのは、アキラの中ではレッドが一番真っ先に浮かぶが、ここまで考えておきながら彼は自分のポケモン達が自分以外のトレーナーの元で過ごすのがあまり想像出来なかった。

 とにかく十分な時間と準備があってこそ、心残りや未練を最小限にすることが出来る。幾ら元の世界に戻るとしても、また突然消えるみたいな形で戻るのは御免だ。

 なので完全に戻ることになるとしても、今度は十分な準備を可能な限り整えて――

 

「アキラ君!」

 

 慌てた声を上げながら突然飛び込んできたヒラタ博士に、アキラとポケモン達は驚き、一部の面々は鬱陶しそうな眼差しを向ける。

 しかし、この世界でのアキラの保護者である博士はそんなことは気にしなかった。

 

「すぐに大学に向かう準備をする。夜遅いがアキラ君も向かう準備をしてくれ」

「わっ、わかりましたが、どうしたのですか?」

 

 ヒラタ博士の勢いでアキラは押されっ放しであったが、博士はすぐに答えてくれた。

 

「反応があったのだ。一年以上前のサイドンから確認されたのと同じエネルギーの反応が確認されたんじゃ!」

「!」

 

 博士の言葉に、アキラはすぐに意識を切り替えた。

 アキラが今居るヒラタ博士の家に居候している最大の理由。

 それは彼が、アキラがこの世界に来てしまった原因と思われる現象に関する研究を行っているからだ。

 彼の脳裏に三年近く前に見た紫色の濃霧の記憶、そして四天王と戦う半年前の出来事が甦る。

 

 研究を進める過程で、一年以上前に現れたサイドンは彼らが追い掛けている現象の影響によるものなのか、タイプが変化するだけでなく通常の数倍の巨体と凶暴性を有しており、齎した被害は大きいものだった。

 

 あの出来事を機にヒラタ博士の研究は、エリカの支援を中心に様々な人員や組織が関わる本格的なものになった。

 最近は今まで背中に背負ったりしていた特有のエネルギーを探知する装置が、より大型化した広範囲レーダーとも呼べるものが作られたことで、探索範囲は比にならないレベルで発達した。

 その大型装置が、アキラ達が探し求めているエネルギー反応を検知したのだ。

 

「場所はどこですか?」

「反応が見られた地点はタマムシシティからより西の山沿いじゃ。エリカの方にも連絡されておるから、恐らく彼女や自警団も動くじゃろう」

 

 そこまで聞いてアキラは考える。

 タマムシシティが近いとなると、今話に出た様にエリカ達もかなり警戒しそうだ。

 一年前に現れたタイプが変化した巨大サイドンの被害は、それ程大きかったのだ。

 就任試験を見に行く約束をしたレッドには悪いが、今回は自分の事情を優先させて貰う。

 

「わかりました。すぐに支度をします」

「うむ。儂もすぐに済ませる」

 

 そう言い残すとヒラタ博士は慌しくリビングから出て行き、アキラはポケモン達に振り返った。

 

「夜遅いが動く時だ。全員気を引き締めろ」

 

 ダラけた様子から一変したアキラの雰囲気の変化を感じ取ったポケモン達は、軍隊みたいにテキパキと準備などの行動を始める。

 家の外で寝転がっていたカイリューも、彼の声が聞こえていたのか、飛行に備えて体を動かすなど体操を始めていた。

 だがドーブルとバルキーはヤドキング達の変化に付いて行けたが、ヨーギラスは何をどうすれば良いのかわからず戸惑っていたので、まずアキラはエレブーと一緒に彼に事の詳細を伝えることから始めるのだった。

 

 

 

 

 

 数時間後、飛行用のヘルメットとゴーグルを装備したアキラは、カイリューの背に乗せて貰う形で夜の空を飛んでいた。 彼の周りには、何人かの人を乗せて飛べるポケモンを連れたエリカが組織した自警団の面々も一緒で、共に反応が確認されたとされる地点に先行する形で向かっていた。

 

 今の彼は、ヘルメット以外にも膝や肘などに以前から考えていたプロテクターを身に着けているなど、完全武装とも言える状態だった。

 それだけアキラは、この現象に対して本気で戦いを挑むつもりで臨んでいた。

 現に今の彼の心中はそう穏やかでは無く、期待感よりも数年間積もりに積もった不安や謎が解けないが故のある種の苛立ちの方が占めていた。

 

 何故、そう簡単に謎を解き明かさせてくれないのか。

 無茶苦茶ではあるが、そう思わずにはいられなかった。

 

「…何か見えて来たぞ」

「!」

 

 カイリューを始めとしたポケモン達の飛行速度の関係で、かなりのスピードで景色は目まぐるしく変わっていたが、自警団の一人が気付いた視線の先に暗い夜にも関わらず輝いている様に見える場所が見えて来たのだ。

 何かあると見た彼らはすぐにそこへと向かうと、何故そこだけ明るく見えるのかがわかった。

 毒々しいとしか言い様が無いまでに紫色を帯びた濃霧が、荒野と森の一部を包み込む形で広がっていたのだ。

 

 遂に見つけた。

 

 ハッキリとそう意識した直後、アキラは悪寒を感じるだけでなく、三年近く前の忌々しい記憶が走馬灯の様に駆け巡った。

 この世界に来て三年。目撃情報は度々耳にしているが、こうして目にするのは実に三年振りだ。

 浮遊する形で上空から紫色の濃霧が広がる森を見渡していたが、長年目の敵にしている宿敵を目の前にしたかの様にアキラの感情は高ぶり始めた。

 呼吸さえも歯の隙間から出す様に荒々しいものに変わっていくなど、次第に彼は冷静さを失いつつあった。

 

 今すぐにでもあの霧の中に飛び込んで確かめたい。

 そんな衝動的な気持ちが湧いてくる。

 

 その時だった。

 突然カイリューの腕が背中に伸び、無造作にアキラは頭を鷲掴みにされて、そのままドラゴンポケモンの目の前へと運ばれた。

 その目付きは、何時になく焦っている彼を咎める様な目付きだった。

 

「…ごめんリュット。ちょっと焦っちゃった」

 

 素直にアキラは謝ると、カイリューは彼を再び自分の背中に乗せる。

 やっと見つけたチャンスではあるが、自分のことで我儘になってはいけない。

 まだ子どもではあっても、この場ではカイリュー達を率いるのに相応しいトレーナーとして構えなければならない。

 改めて気持ちを落ち着けたアキラは、ヒラタ博士が作った手持ち可能な小型のエネルギー探知装置を起動させる。

 

 紫色の濃霧が発生したとされる付近は、隕石にしか含まれていないエネルギーと進化の石に類似したエネルギーが確認されると言う研究結果が得られている。

 既に分かり切っていることだが、この場でもう一度確認する意図で求めているエネルギーかを知らせる探知機を起動させたが、その結果は一目瞭然。

 少し離れた上空であるにも関わらず針が振り切るだけでなく、検知したことを示す音も耳が痛くなるくらい大きな音で鳴り響く。

 あまりの煩さにアキラは電源を落とす。

 

「アキラ君、どうする?」

「上空から可能な限り、この不気味な霧を観察するべきかと思います」

「それだとポケモン達が疲れると思うから、あそこに丁度見渡せるだけの高さの丘があるから、そこで観察しながら博士達との合流を待とう」

「…わかりました」

 

 一緒に来たタマムシ自警団の人の意見にアキラは同意すると、丘を目指しながら真下に広がっている紫色の濃霧を観察する。

 ポケモンの凶暴化や発生時に付近にいた人間が行方不明になる事例が幾つかあるが、不用意に近付かないのと互いに連絡を取り合ったりすることを守れば、その様なことは防げる。

 だけど大人しくしているつもりは無かったので、アキラはは機械的な手段以外でも何か得られる情報は無いか、研ぎ澄まされた五感に神経を集中させる。

 

「? ちょっと待って下さい」

 

 目を凝らして見渡していたら、アキラは紫色の濃霧に紛れて何か別の色で光るものがあることに気付き、一緒に飛んでいる面々に待ったを掛けた。

 霧が濃過ぎて何が光っているのかはわからないが、それは紫色の霧の中で光を反射するだけでなく電灯の様に光っている様に見えなくもなかった。

 

「……何だろあれ?」

 

 一体何なのか気になるが、下手に先走って面倒なことになるのは避けたい。

 逸る心を抑えながら、アキラは待たせていた面々と共に移動を再開しながら、眼下に広がっている紫色の濃霧について更に考えを張り巡らす。

 

 紫色の霧はどこかに繋がっている。

 

 アキラ自身の経験、そして一年以上前のサイドンが本来の住処では無い海から現れたことなどを考えると、この場所以外にも紫色の霧が発生して、ある種のワープする為のゲート的な役割を果たしている可能性が考えられる。

 それが別世界と言いたいところだが、そうでは無いかもしれないのが悩みだ。

 

 別世界――それこそ元の世界と繋がっているのなら、元の世界でもっと目撃されても良い筈だからだ。

 

 この世界にはまだ公式のポケモン図鑑にリストアップされていないが、別世界や空間に関わるポケモンが存在しているのだ。

 仮に別世界に繋がるとしても、それはこの世界で説明が出来る範疇内だろう。

 

「さっさと謎を明らかにしてスッキリしたいぜ」

 

 全てまではいかなくても、納得出来るところまでは理解したい。

 元の世界に戻れるのか戻れないのか、戻れるとしたらどういう条件が必要なのか。

 そして、タイプが変化した巨大サイドンみたいな危険な存在がいるのか。

 様々なことを考えながら、アキラはカイリューらと共に一旦紫色の濃霧から離れた丘の上を目指すのだった。




アキラ、遂に全ての始まりである原因と遭遇する。

今のままアキラがいなくなったら、残された手持ちは解散後ロジャー海賊団みたいな感じになりそうな予感がしなくもないです。

これまでの2.5章は、アキラの修行とリベンジ戦が中心でしたが、最後は1.5章と同じくアキラの目的に関わる出来事で締めます。
今回は原作の展開の一部を絡めていますが、基本的にオリジナルなので何かの勘違いで展開や自分で出した設定に間違いなどが生じない様に気を付けます。
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