狩人の証   作:グレーテル

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今回も独自解釈ありでお送りいたします。
沢山の方からの感想・評価を頂き、この度評価の欄に色が付くようになりました。それと併せてお気に入りの方も少しずつ増えている事、作者として嬉しく思います。
これからも狩人の証をどうぞよろしくお願いいたします。


第12話「水獣ロアルドロス」

 西南から北東へ、縦に長く伸びた地形を小さな川が縦断して流れている。最も深い所では人間の膝辺りまであるこの川が特徴のエリア6にロアルドロスはいた。闘争の末に傷を負い萎み、大きな凹凸をいくつも刻まれた鬣を同エリアの南西に位置する滝へ突っ込み、失われた水分を補給していた。

 透明度の高い、渓流の上質な水をたっぷりと浴びたロアルドロスは上機嫌に鬣をふるふると震わせていた。が、その上機嫌もすぐに損なわれる事になった。

 エリア6へ、アラン達が入ってきたのだ。それはロアルドロスにとって自らに傷を負わせた侵入者達との再会であり、再び数少なくなった己の領域を荒らされようとしている事を意味していた。

 

 「キュオオオォォッ!!」

 

 口から白い息を吐き、怒気を孕んだロアルドロスの鳴き声がエリア中へ響く。さらさらと流れていく小さな川のせせらぎを掻き消すその声が再びルドロスの群れを呼び寄せた。先程まで嫌という程見せられた黄色の身体を持つ小型モンスターがわらわらと湧いては、皆一様にアラン達を睨んでは警戒の意思を見せている。先程と同じ状況が繰り返されようとしているのだ。

 

 「主! 彼奴等めはセッシャにお任せあれ! ニャアーッ!」

 「リリィナ、さっきと同じように頼む」

 「にゃ。任せてにゃ」

 

 言うが早いか、抜刀した武者ネコノ太刀を手にルドロスの群れへ一目散に突撃するハンゾー。彼のフォローにリリィナを向かわせ、アランはツルギ【烏】へもう一度重撃の刃薬を蒸着させる。空の瓶をポーチへ戻した頃には、既にヒドゥンブレイカーを握るサヤカがロアルドロスへと肉薄していた。

 

 「でやあぁっ!」

 

 振り上げ、放たれる一撃。ヒドゥンブレイカーがロアルドロスの鬣に水しぶきを上げさせる。軽く頭を揺さぶられたロアルドロスに手応えを感じたサヤカが即座に離脱。直後、ぐっと体を縮めていたロアルドロスが一拍の間を置いて繰り出すタックルは虚しく空を押し出していた。

 ごろごろと転がる体が川に飛び込んだ所でアランのツルギ【烏】が尻尾を斬り付ける。エリア5での戦闘で付けていた切込みへ二回、三回と斬った時、ロアルドロスの体が大きく姿勢を崩していた。意図的に体を投げ転がしたタックルの時とは違う、想定外のダメージによるものだった。

 

 「キュオオオォォッ!?」

 

 透き通る川の水に鮮やかな赤が滲んで混ざっていく。突如襲う激痛に倒れ悶えるロアルドロスと、川に赤を混ぜている源になっているロアルドロスの一部。ロアルドロスの尻尾が切断されていたのだ。

 

 「キュウゥ、キュオオゥッ!!」

 

 切り取られた尻尾とアランを見比べ、ロアルドロスは標的を変えた。サヤカを尻目にアランへ大きく口を開き、水ブレスを放つ。真っ直ぐ迫るそれを、間一髪でツルギ【烏】の盾で阻むアラン。前方に加え、そのまま立て続けに左右へも放ち、計三方向にブレスを吐いてから再び爆走し始めた。

 

 「こ、のっ!」

 

 背後から狙うサヤカのヒドゥンブレイカーが打つよりも早く走り出したロアルドロスが周囲へ水ブレスをばら撒き、アラン達を大きく引き離す。手応えの無い空振りに終わったヒドゥンブレイカーを握り、歯痒そうに眉を歪めているサヤカを横目にアランはアイテムポーチに手を突っ込み、中身を手繰る。

 

 「またか。なら―――――」

 

 取り出すのは閃光玉。先程と同じ状況に持ち込まれたのなら、こちらも同じ手を使えばいい。その為の手札はまだ残っているのだから。

 

 「目を閉じ……何!?」

 

 手に持った閃光玉をそのままに、アランは眼前の光景に目を疑った。爆走を続けるロアルドロスの進路上に、サヤカが立ち塞がっていたのだ。予め進路を予測し、回り込んでいたサヤカがヒドゥンブレイカーの柄をぐっと握って力を溜めていた。

 

 「何をする気なんだ! 危ないぞ!」

 

 サヤカと近く、アランとは遠い距離にいるロアルドロス。アランが全力で走っても追い付くことは出来ず、閃光玉を使えばロアルドロス諸共サヤカの視界も遮ってしまう。焦る気持ちが大きくなっていく中、アランは事の顛末を見守る以外の選択肢を選ばせてはくれない状況に歯軋りをするばかりだった。

 

 「…………」

 

 サヤカは目を細め、迫るロアルドロスとの間合いをじっと見極める。水ブレスを吐き散らし、足音を立てる黄色の巨体へとヒドゥンブレイカーを大きく振り上げた。

 

 「っだああぁ!!」

 

 反り返った体の勢いも利用して振り下ろされた漆黒の槌が、ロアルドロスの頭へと叩きつけられる。サヤカのハンマーに打たれた頭をぐらりと揺らめかせ、ロアルドロスの体が小さな川へと横たわった。

 

 「キュオォッ!? キュオオゥッ!!」

 

 転げた体を起き上がらせようとする手足は虚空をふらふらと彷徨わせてもがいている。度重なる頭部への殴打によって、ロアルドロスがめまいを起こしていた。体内を流れる狂走エキスの影響に

よって息切れ知らずのスタミナを持つロアルドロスの爆走を、サヤカは気絶を狙う事で強引に止めてみせたのだ。

 

 「なんて無茶を……」

 

 好転した状況をぼーっと見ている訳にはいかない。ロアルドロスがめまいを起こしたのを確認してから、アランはポーチから青色の薬液が入った瓶を取り出す。たっぷりと刃に塗り付け、盾と刀身を擦り合せる。

 小さな火花が青い炎を生み、ツルギ【烏】の刀身に緩やかな明滅を繰り返す青色の塗膜が覆う。それは剣が本来持つ鋭利な刃を潰し、まるで打撃武器にでも変異させたかのような分厚い塗膜だった。

 減気の刃薬。それがアランの使ったアイテムの名である。

 

 「はあぁっ!」

 

 アランが刃薬を塗り付けている内にロアルドロスの頭へと陣取っていたサヤカがヒドゥンブレイカーの柄をぐっと握り、一歩離れた場所から力を溜めて回転攻撃を加える。両手で柄の端を持ってぐるぐると体を回転させて振り回すヒドゥンブレイカーがロアルドロスの鬣を何度も叩いていた。

 サヤカと離れた位置にいるアランも、ロアルドロスの後ろ足を集中攻撃し、着実にダメージを稼いでいた。ツルギ【烏】から感じる感触に、アランは違和感を感じた。黒狼鳥の刃が表皮に触れる度に、まるで打撃武器でも扱っているかのような手応えを感じさせた。

 

 「離れるぞ! もうすぐ起き上がる!」

 「言われなくても!」

 

 鬣を殴り続ける回転の勢いを利用し、止めとばかりにロアルドロスの顔面へアッパースイングを見舞い、サヤカとアランは離脱した。

 

 「キュウ、キュアルルル……ッ」

 

 めまい状態から立ち直ったロアルドロスが、天地の感覚を確かめるようにゆっくりと立ち上がる。サヤカのハンマーに打たれた鬣はボロボロと欠片を飛び散らし、欠けた部分からぼたぼたと水がしたたり落ちていく。水分を含んだばかりだったスポンジ状のふくらみは見るも無残な姿へと変貌していた。

 

 「旦那さん! 細かいのは何とか退治できたにゃ」

 「残るは大将首ただ一つですニャ!」

 

 それぞれブーメランと武者ネコノ太刀を手に、リリィナとハンゾーがアラン達の下へ戻ってきた。辺りを見ればルドロス達の亡骸が横たわっており、傷付いたルドロスの中には逃走を図る者もいた。

 ロアルドロスが右へ左へ首を振って見渡せど、周りには味方がいない。アランが尻尾を切断し、サヤカがロアルドロスの鬣を部位破壊した今、ロアルドロスは満身創痍という言葉がぴったりと当て嵌まる程消耗しており、更にロアルドロスをよく観察すると頭部をぐったりとうなだれさせ、口の端から涎を垂らしていた。

 

 「キュウゥ……キュウ」

 

 鬣を壊され、ハンマーの打撃を受け、片手剣に塗布された減気の刃薬の効果を受けたロアルドロス。水分を補給したのも束の間、ロアルドロスは一気に疲労状態に陥っていた。水ブレスを吐くだけの気力もなく、ただ立ち尽くしている。アランとサヤカが懸念していためまい状態からの反撃はなく、攻撃をしようとする気配も見られなかった。

 

 「でやあああぁっ!」

 

 反撃が来ないと踏んだサヤカが即座に攻撃へ転じる。ヒドゥンブレイカーを振り上げ、先程よりも低い位置にいるロアルドロスの頭部へと振り下ろす。

 鈍い音が響き、頭部に生えているトサカが砕ける。致命的なダメージを受け、二歩三歩と後ずさったロアルドロスは弱々しい呻き声を上げて地面に横たわった。

 

 「見事討ち取ったようですニャ、主」

 「大分弱ってたみたいね。ハンゾーもお疲れ様」

 

 ハンゾーが武者ネコノ太刀を背負い、サヤカがヒドゥンブレイカーを納刀する。 今回のクエストのターゲット、水獣ロアルドロスの狩猟は討伐という形で成功に終わった。

 

 

 

 

 

 日が傾き、橙色に染まった道を一台の荷車が進んでいた。御者のアイルーに手綱を握られたガーグァの力強い歩みに、繋がれている荷車ががらがらと揺れている。

 

 (早かった。思っていたよりも、ずっと……)

 

 荷車に乗っている狩人、サヤカは今回の狩りを振り返っては内心にそう呟いていた。邪魔者になると思っていた龍歴院のハンターが、思っていたよりも動きが良かったのだ。

 更にその前の出来事も、サヤカは振りかえる。あの時のクエスト、ジャギィノス掃討の時に見せた動きもそうだった。複数頭のジャギィとジャギィノスに囲まれた状況からたったの一撃で不利な状況を打開させた上で致命傷を与え、無駄のない動きで一匹残らず確実に絶命させていた。ロアルドロスの尻尾を切断できたのも、打撃武器のハンマーにはできない芸当だ。これだけ多くの素材を持ち帰る事が出来たのはいつぶりだろうか。

 

 「…………」

 

 俯かせていた視線を少しだけ上げる。前に図鑑で見た程度しか知らない黒狼鳥の甲殻で作られた紫色の防具を身に纏う片手剣使いの男。男とは言っているが、青年といった方がしっくりくる。皺はないし、肌も瑞々しさを失っていない。外見からは自分と歳はそう変わらないように見えた。

 

 「……どうした?」

 「っ、何でもないわ」

 

 視線の先にいる男、もとい青年と目が合った。サヤカは慌てて目を逸らす。向こうの意識も完全にこちらへ向いているようで、じっとこちらの様子を窺っていた。

 

 「何よ」

 「どうして、あんな無茶をしたんだ」

 「……何の話よ」

 「ロアルドロスの突進を止めた時の事だ。あんな無茶を続けてたら……」

 「貸しを作りたくないって言った筈よ」

 「閃光玉の事、なのか。あれはそんなつもりで使った訳じゃない、俺は―――――」

 

 アランが何かを言おうとした時、荷車が止まった。荷車を引いていたガーグァはぴったりと脚を止めており、御者のアイルーがこちらへ振り返っていた。

 

 「ハンターさん、村へ到着しましたニャ!」

 

 アランの話に取り合うつもりがないのか、御者の声が聞こえた時にはサヤカは荷車から降りていた。続くように、ハンゾーも降りる。それから少し遅れてアランとリリィナも降りた。帰り道では夕暮れていた空もすっかり暗くなり、各所に設けられた、紙で囲われた独特な造りをした灯りの柔らかな光が村を照らしていた。

 

 「怪我をしないか、心配だった」

 

 アランの両目が、真っ直ぐサヤカを見ていた。ぐっと握る両手は怒りに震えているものではなく、何か強い意志を秘めているかのようにしっかりと握り締めていた。サヤカを見ている彼の目も同様に、憤りや憎しみの無い、不純の無い目だった。

 

 「タマミツネは、まだあの渓流にいる。余計な傷を増やしたくなかったんだ。貸し借りなんかじゃない」

 「……そう」

 

 アランの言葉に短く返し、サヤカは村へと歩を進めていく。アランは彼女の後ろ姿、歩く度に揺れる彼女の黒い髪を見る。まだ、彼女には届かない。今日も、届かない。

 

 「宿に戻ろう。リリィナ」

 

 サヤカについて行きながらも時折こちらへ振り返っては手を振るハンゾーに、アランは小さく手を上げて返した。

 

 

 

 

 

 「リリィナ」

 

 宿に戻ったアランはガルルガ装備を脱ぎ、ナルガネコ装備を着たままのリリィナを呼んだ。

 

 「どうしたのにゃ。旦那さ、ん……」

 

 呼ばれるが早いか、とてとてと足音を立ててリリィナがベッドに座っているアランの下へ向かい、体を強張らせた。正確にはアラン本人ではなく、アランの手に持っている物を見て、である。

 

 「あの、旦那さん。それは……」

 「ブラシ、しようと思ってな。久々だから鈍ってないか心配だ」

 

 震える指先が、ある物を指差す。アランの手にはブラシが握られており、アランはリリィナの毛の手入れをしようと考えていたのだ。

 

 「わ、ワタシは平気にゃ。毛繕いなら自分でも―――――」

 「そうじゃなくて、俺がリリィナにしてあげたいんだ。ほら」

 

 空いた手で膝を叩き、アランが招いている。ここに座れと言っていた。こうなってしまっては降参するしかない。主人が座れと言うなら、リリィナには逆らう事は出来ない。

 

 「にゃうぅ、こうなったら腹をくくるしかないにゃ……」

 

 ナルガネコヘルムとナルガネコメイルを脱いでベッドの端に丁寧に折り畳んで乗せておき、リリィナはアランの膝へ乗る。

 

 「そんなに身構えなくても、乱暴にはしないぞ?」

 「だからなのにゃ……。旦那さんがとっても優しいのはワタシも良く知ってるにゃ」

 「それじゃあ、やるぞ」

 

 両手の指をもじもじと弄るリリィナ。背中に感じるブラシの感触。上から下へ、アメショ柄の毛をブラシが丁寧に梳いていく。何度も、何度も。毛の上をブラシが通っていく度に耳がぴくぴくと動き、尻尾がびくりと反応する。

 

 「にゃう……」

 

 主人であるアランもとうの昔から知っているが、リリィナは撫でられるのが苦手である。それは触られるのが嫌いなのではなく、恥ずかしくて照れてしまうからという理由からくるものであり、実は撫でてもらう事自体は嫌いではない。むしろ嬉しいと思う位である。アラン限定で、という注釈が入るが。

 

 「んにゃあぁ……」

 

 そんな複雑な事情を持っているリリィナがなぜ今まで頑なに撫でられるのを拒否し続けているのは、何故か。

 

 「はにゃう、ふにゃあぅ」

 

 そう、ひとたび甘えるモードへのスイッチが入ってしまうともう歯止めが効かなくなってしまうのだ。

 故にリリィナは己を律し、一歩離れた所からしっかり者のオトモとして主人に尽くす。主人の、ハンターの生活の手助けとなるオトモアイルーが主人に甘えようとするのは間違いで、それでは主人の枷になってしまうと思っているから。

 

 「だんなさん、だんなさん」

 

 とはいえ、主人の言葉に逆らえず、どこにも逃げ場のない状況で主人に撫でられ続ければあっという間にこの通りである。ふりふりと尻尾を揺らし、弛緩しきった両目がじっとアランを見つめ、鼻を近付けてはアランの頬に擦り付ける。

 

 「リリィナ、ほら」

 「にゃあん。もっと撫でてにゃあ……」

 

 額に置かれた主人の手にぐりぐりと頭を擦り付け、喉をごろごろと鳴らすリリィナ。そんなリリィナの毛並の感触を、アランも存分に堪能する。額を撫で、頬を撫で、顎を撫でる。鼻の頭へ指を滑らせ、再び額へ戻す。

 そうしてアランに撫でられ続けて、しばらくの時間が経った。

 

 「にゃ……だんな、さん……」

 「リリィナ、眠たいのか?」

 「みゃう」

 

 こくり、こくりと、リリィナが舟を漕いでいた。心地よさのあまり、眠気も来てしまったのだろう。目も半開きの状態で、今にも閉じようとしている。

 

 「分かった。今日は一緒に寝ようか」

 「にゃあ。だんなさん……」

 

 部屋の明かりを消し、リリィナを抱えてベッドへ横になる。枕へそっと頭を乗せて、起こさないように優しく頭を撫でて寝かしつける。隣からすやすやと静かな寝息が聞こえる中、アランは部屋の天井を見つめて思案に耽っていた。サヤカ・ミカヅキの事についてである。

 記憶の中を探り、ジャギィノス掃討とロアルドロスの狩猟で見せたあのハンマー捌きを思い出す。ガッシュとの狩りのように自分がモンスターの頭へ張り付く事はなかったが、それで正解だったのかもしれない。減気の刃薬があるとはいえ、サヤカと共に頭に張り付けばその分だけ同士討ちの危険が高くなってしまう。元々ハンマーがめまいを誘発できる打撃武器である特性上、このまま裏方に徹した方が彼女の能力を存分に発揮できるのかもしれない。

 無論、彼女との信頼関係を築ければの話だが。

 

 (リリィナ……)

 

 少し首を傾ければ、すぐそこには安らかな寝息を立てているオトモの姿があった。このユクモ村に来て、彼女、サヤカと出会ってから随分と我慢をさせ続けている。リリィナの憤りを我慢しろと抑え続けるのはもう終わりにしなければならない。

 アランも明日に備えて目を閉じる。沈んだ日が昇るまでの間、閉じた瞳の向こうに見えた光景には、隣り合って並んだ二人と二匹がユクモ村を歩いていた。

 

 

 

 

 

 満天の星空の中で、満月が輝いていた。一面真っ黒の水面に、黄金色の真円が映し描かれていた。

 エリアの総面積の割合を表すと、ここは陸よりも水辺の方がおおよそを占めており、その水辺に群生する小柄な人間ほどの高さの草が印象に残るここは、渓流のエリア7と呼ばれている場所だった。そしてこのエリアで、一頭の竜が静かに佇んでいた。

 

 「…………」

 

 ふわりと開いた蓮の花弁を思わせる頭部と背のヒレ、胸から尻尾の先端へかけてブラシのように生え並んだ濃い紫の体毛、前足から伸びる長い爪。薄桃色のグラデーションがかかった白色の鱗に覆われた体を丸めてリラックスしていた竜は、首を上げて辺りを身渡す。縄張りを荒らす者はおらず、縄張りを賭けて争おうとする者もここにはいない。穏やかで静かなひとときだった。

 

 「クォオォ……」

 

 竜は眠たげに一つ大きな欠伸をして、尻尾を水浸しの地面に擦り付ける。二度、三度と往復させると、地面に泡が立っていく。戯れに生み出した細かい気泡が小さな泡となり、小さな泡はやがて大きな球となって宙を漂っていく。一つ、二つ、三つと、漂った泡の球が弾けては消えていき、また新たな球が宙を漂う。その一つ一つを目で追って、竜はまた欠伸をしていた。

 

 「クオゥ」

 

 空と地上と水面に、無数に映る月に囲まれて竜は眠りにつく。闘争と喧騒の末に訪れた静けさに身を委ねて、うたかたの夢を見るために。




今回の独自解釈が、減気の刃薬でした。厚ぼったい塗膜で刃を覆う事で武器を一時的に切断から打撃属性に変化させる、というものです。なので本作品に限った話ですが、減気の刃薬を使った状態では尻尾切断が不可能になっている、と解釈させて下さい。
刃物で頭を斬ってるのに気絶を誘発できる仕組みがどんなものかと私なりに考えた結果、こうなりました。もし小説内でも減気の刃薬が気絶もできて尻尾も切断出来る代物だったらいよいよもって重撃の立場が分からなくなってしまうのです。
なので、気絶と疲労の誘発なら減気の刃薬を、ひるみの頻発と尻尾の切断を含めた部位破壊の容易化なら重撃の刃薬に任せればいいという結論に至り、様々なアイテムを駆使して立ち向かう片手剣らしくなるように差分化を図ったのです。
尚、元々打撃武器のような見た目をしてる片手剣もあるってツッコミはナシの方向でお願いします。ご了承ください。
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