狩人の証   作:グレーテル

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今回は本編の続きではなく、とあるキャラに焦点を当てた番外編です。
色々とあって、こんな感じのお話を書きたくなった次第です。

余談になりますが、本日を持ちまして狩人の証が1周年を迎えたようです。いつの間にか、って感じですね。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。


番外編「ワタシの大切な人」

 「リリィナ、加工屋に行こう。素材が集まったから、装備を新しくするんだ」

 「うにゃ? 旦那さん、装備を新しくするのかにゃ」

 「いいや、リリィナの装備だよ。俺からの贈り物だ」

 

 紫色の甲殻を持つ鳥竜種の素材を使った防具を着た彼が、漆黒の毛と鱗を持つ竜の素材を集めた袋を手に振り返る。

 

 「にゃ……ワタシに?」

 「いつも頑張ってくれてるからな。今より良い防具にしておけば、怪我があっても軽く済むだろう」

 

 首を傾げると、彼は頷いた。そして彼は、袋に詰めた素材といくらかの金銭を一緒にまとめてマイハウスの戸を開く。彼の後に続くように、彼女、リリィナも加工屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 始まりは、この世界のどこかにある、小さな集落での事だった。二十と幾つかの獣人族が集まって出来た集落に、彼女はいた。アメショ柄の毛に包まれた、幼いながらに賢いアイルー。名は、リリィナ。

 

 「にゃあ、今日もいっぱい獲れたにゃ。リリィナの言った通り、一人一人で釣るより、皆で大きな網を引っ張った方が大漁だったにゃ」

 「にゃう、リリィナ。次はどうしようにゃ。教えてにゃ」

 「リリィナ。昨日言ってた壁の修理、バッチリ終わらせたにゃ」

 

 集落にいる若いアイルー達は考えて動くのが苦手らしく、困った事があればすぐに彼女に相談を持ちかけていた。そうしてリリィナがリーダーシップを発揮していた時の事。集落で暮らすリリィナは、ある情報を耳にした。

 

 「人間の、ハンターと一緒に狩りをするアイルー?」

 

 それが、オトモアイルーの存在だった。体は小さく、硬い甲殻もないアイルーが、人間と共に強大なモンスターに立ち向かい、狩猟しているというのだ。

 

 「にゃ。人間と、一緒に……」

 

 長のアイルーが言うには、人間と共存関係にある社会を築いているアイルーも少なくはないらしい。料理屋を営んだり、旅館で働いたりと、その形態は多岐に渡る。そして、そのオトモアイルーも、そんな形態の一つだという。

ここにいるアイルー達と、何が違うのだろうか。まだ若く、集落の外へ出た事がないリリィナは、見た事も無い人間という種族と共に暮らすその在り方に強い興味を持ち始めていた。

 

 「ワタシ、オトモアイルーになりたいにゃ」

 

 やがて、リリィナは決心する。この集落を、生まれ育った故郷を出て、人間達と共に在る生き方を選んだのだ。

 が、その選択の末に待ち構えていた生活は、お世辞にも順風満帆とは言い難い物だった。

 

 

 

 

 

 「それじゃあ、この紙をよく読んで、当てはまる所に印をつけて下さいね」

 

 数日ほど歩き、辿り着いた場所。それがベルナ村だった。集落から最も近い場所にあり、尚且つオトモアイルーを斡旋してくれる場所のある村を長から聞き、リリィナは旅に出るのに必要な荷物と共に集落を出た。道中は狭い山道を登ったが、目的の場所に着くと、そこはこれまでの道のりの険しさを忘れる程、とてものどかな場所だった。

 

 「にゃ、これで大丈夫ですかにゃ」

 

 言われた通りに手渡された紙へ印をつけ、目の前にいる竜人族の少女に返す。彼女がオトモアイルーへの道を希望する者達を斡旋しているらしい。

 

 「これだと……うん、あなたのサポート傾向はカリスマですね。ハンターさんは勿論、一緒に戦ってくれる他のオトモさんも奮い立たせてくれるサポート傾向なんです」

 

 ハンターと共に、そして同族であるアイルーと共に戦うサポート傾向、カリスマ。故郷でリーダーシップを発揮していたリリィナにとっては、これ以上ない程ピッタリな性質を持ってるサポート傾向だった。早速、リリィナはその竜人族の少女、ネコ嬢の案内の下に自身のオトモアイルーとしての情報を登録した。あとはオトモアイルーを求めるハンターがここを訪れて、雇用されるのを待つのみだ。そうすれば、リリィナはオトモアイルーとしての第一歩を踏む事になる。故郷にいた時から、リリィナが夢見た景色を見る事が出来るのだ。

 そう、雇用されれば。

 

 

 

 

 

 「悪いね。僕が探してるのは回復のオトモなんだ。カリスマの君は雇えない」

 

 それが、ネコ嬢の下に訪れたハンターの言葉だった。断られるとは思ってもおらず、リリィナはがくりと首をうなだれさせた。それでもリリィナはめげずに、その時が訪れるのは待つ事にした。

 

 「アタシが探してるのはボマーのオトモさね。アタシと一緒に狩り場を爆発の光で包んでくれる、最ッ高に刺激的なオトモを探してるのさ。ハッキリ言わせてもらうと、アタシはアンタみたいな大人しいネコちゃんには用がないのさ。悪いけど他を当たるんだね。……ほら、マタタビでもやるから元気出しな」

 

 それから数日の事。リリィナはやはり雇われる事はなかった。気前のいい女ハンターはそう言いながら、ポーチから取り出したマタタビと、いくらかの金銭を手渡された。

 たまたま、ハンター側が求めているサポート傾向と違っていただけなのだ。ネコ嬢の必死のフォローもあり、リリィナはそう自分に言い聞かせ、再び時を待った。

 そして、時は訪れた。リリィナの心を挫く時が。

 

 

 

 

 

 結局雇用されないまま、数か月が経った。後からオトモになる事を志望して入ってきたアイルー達が次々と雇用されていく中、リリィナは変わらず残り続けていた。そして、いつものようにハンターが訪れた。恰幅の良い体格の、盾斧を背に携えた男だった。

 

 「カリスマのオトモって、何が出来るんだ?」

 

 ネコ嬢からリリィナの能力を聞いた男の言葉が、それだった。男は気の抜けたように口をぽかりと開けていた。

 

 「俺様が欲しいのは、罠をじゃんじゃん使ってくれる、ア・シ・ス・ト・の! オトモだ。それに、もう一匹オトモを雇わないと使えない(・・・・)オトモなんて、誰が雇うんだよ。もう一匹雇うなら、同じアシストでいいじゃんか。二倍罠を使ってくれるんだからな!」

 

 大口を開け、男は天に向かって豪快に笑っていた。そして男は、アシストの能力を持つオトモを二匹雇った。男は早速アイルー用の装備を買い与えようとしているらしく、雇ったアイルー達と朗らかに話しかけていた。

 

 「ま、そういうこった。そんな使い道の分からねぇ能力持ったネコなんか、俺様はいらねぇのさ。んじゃあな」

 

 男も、男に雇われたアイルーも、心底ご機嫌そうな顔で去っていく。その背中を、リリィナは心底憎々しげに、そして悔しさを隠さずに見続けていた。

 

 「にゃ、ぅ……」

 

 目を熱くさせ、両手をぶるぶると震わせていた。生まれて初めて、リリィナは挫折を味わっていた。故郷では、数多くのアイルー達が助けを求めていた。その一つ一つを自分は解決に導いてきた。それが今ではどうだろうか。他を当たれと何度も言われ、そして今、必要ないとまで言われたのだ。何も思わない訳がない。

 

 「うぅ、ううぅ……っ!!」

 

 それでも、リリィナは諦めきれなかった。何より、自分を送り出してくれた故郷のアイルー達の姿を思い浮かべると、このまま帰る事も出来ない。それを恥じる気持ちも邪魔をして、リリィナはこのベルナ村に留まり続けていた。

 回復、アシスト、コレクト、ファイト。あらゆるサポート傾向を持ったアイルー達が次々と雇われていく中、しかしリリィナだけが取り残され、いつしか彼女よりも前に訪れたアイルーがいなくなった。リリィナが一番古い、オトモ志望のアイルーとなったのだ。

 次第に、リリィナは疲弊していった。後から斡旋される為に入ってきたアイルー達が雇われて、自分は雇われていないのだ。このまま止まり続けるのか、それとも恥を忍んで故郷に戻るべきなのか。リリィナはもう、どうしていいのか分からなくなっていた。

 

 

 

 

 

 それから更に数か月後、オトモを求めるハンターの往来が少なくなってきた時の事だった。

 

 「あ、アランさんっ」

 「久しぶりかな。カティ」

 「はい。最近はクエストに行く事が多かったですから」

 「ああ。ガッシュの方が落ち着いてきたんだ。そろそろ、オトモを雇ってもいいと思ってさ」

 

 上機嫌に話す、ハンターとネコ嬢。リリィナが今まで見て来たハンターよりも若いその男は、鮮やかな緑色を持つ何かのモンスターの素材を使って揃えた防具に身を包んでいた。

 

 「オトモアイルーを雇いに来たんですね。今だったら……アシストとファイトが多めにいますね」

 「アシストと、ファイトか……ん?」

 

 周りにいるアイルー達を一しきり見渡し、そのハンターは此方へ近付いてきた。目当ては、すぐ隣にいるアイルーだろう。何せ、ハンターからの需要が高いアシストのアイルーなのだから。

 

 「君が、良さそうだな」

 「…………」

 「君だよ。ほら、俯いてないで」

 「……え、にゃっ?」

 

 今回も駄目だろう。そんな気持ちになり、すっかり落ち込んでいたリリィナの手を、そのハンターは握っていた。リリィナは、軽くパニックになっていた。

 

 「うん、君がいいな。俺の所で頑張ってみる気はないか? それとも、駄目か?」

 

 ハンターから言われた事をじっくりと確認しながら、リリィナはじっとハンターの目を見つめる。かつて見た女ハンターのような残念そうな色も、あの恰幅のいい男の侮蔑するような目もしていなかった。

 

 「……ワタシ、カリスマってサポート傾向にゃ。何が出来るのか、よく分からないらしいにゃ。役に立てるか、分からないにゃ」

 「そうか。なら一緒に見つけてみよう。ここにいてばっかじゃ、何も見つからないだろう?」

 「きっと、他のアイルーを雇った方がいいにゃ。そっちの方が、狩りもしやすくなるにゃ」

 「それは無理だな。俺はもう、君を雇うと決めたんだ。君でダメなら、今日はもう誰も雇わない」

 「っ……ワタシ、ワタシ……」

 

 ハンターの言葉の一つ一つに、気持ちが動かされていく。体の奥からこみ上げてくるもので一杯になり、上手く言葉が出てこない。

 

 「君はどうしたいんだ? 役に立つか立たないかは、考えなくていい。君がどうしたいかを聞きたいんだ」

 

 手を握ったまま、ハンターがそう訊ねてくる。落ち着かせるような、柔らかい声音で。やがてリリィナは顔を上げ、キッパリと自分の今の気持ちを告げた。急偽りのない、混じり気のない本心を。

 

 「……オトモアイルーに、なりたいにゃ」

 「それじゃあ、俺と一緒に頑張ってくれるか? 俺のオトモアイルーになってくれるか?」

 「……はい、にゃ。一生懸命、頑張りますにゃ……!」

 

 握られているハンターの手を握り返し、リリィナはしっかりと頷いた。

 

 「俺は、アラン。アラン・ベルーガ。君の名前を教えてくれ」

 「……リリィナ。リリィナ、ですにゃ」

 

 彼女らは互いの名を教え合い、彼が暮らすマイハウスへと向かった。

 

 

 

 

 

 「リリィナ、見てごらん。あれがマッカォ。常にチームで行動する厄介なモンスターだ」

 「にゃ……4匹いるにゃ」

 「ああ。だから、落ち着いて、1匹ずつ倒していくんだ。いいな?」

 「うにゃ、頑張るにゃ」

 「待て。一人でやるんじゃない。俺と一緒に、だ」

 

 早速、アランはリリィナを連れてクエストに向かっていた。場所はすっかり行き慣れた古代林。目的はこの古代林にたむろしている鳥竜種のマッカォの討伐である。リリィナのオトモアイルーとしての初陣に、アランは一つ一つ、確かめていくように手解きをしていった。

 

 「リリィナ。これが薬草、こっちは特産ゼンマイだ。二つとも、ハンターの生活に役立つアイテムなんだ」

 「にゃ! ならすぐに―――――」

 「待った。ここにある物を採れるだけ採ったら駄目なんだ。だから、ここにあるのを少し採るだけでいい」

 「にゃう……どうしてにゃ?」

 「あとで教えるよ。さあ、キャンプに戻ろう」

 

 規定数のマッカォを討伐した帰り道。アランはリリィナに、古代林に群生する植物の数々を見せながら帰っていた。道中で幾つかのアイテムを採取しながら、である。役に立つというアイテムを見つけたのに、アランは少し採るだけでいいと言ったのだ。リリィナは、こんなにたくさん生えているのだから、もっと採ってもいいんじゃないかと思った。が、主人の言う事に素直に従った。

 

 「……にゃ、そう言う事だったのかにゃ」

 「ああ。だから、たくさん採らなくてもいいんだ」

 

 アランの話を、しっかりと聞くリリィナ。確かに、あれらの植物はハンターとしての生活をする上では、持っていて損はない。しかし自らの生活の為に行き過ぎた収穫をしてしまえば、あの一帯の自然のバランスが崩れてしまうかもしれないのだ。たくさんあるからと採れるだけ採れば、あそこに生えている植物が無くなってしまう。後から理由を教わり、リリィナは納得した。

 

 「旦那さんは、凄いにゃ。ワタシにいろんな事をいっぱい教えてくれるにゃ」

 「そうか。でも、オトモアイルーの事については、何も知らないんだ」

 「にゃ……意外にゃ。旦那さんにも分からない事があるなんて」

 「ああ。だから、一緒に覚えていこう。リリィナはオトモとして、俺はリリィナの旦那として。一緒に分かっていこう」

 

 一面を覆う夜空。その真っ暗なカーテンの中で大小様々に輝く星々を眺めながら、アランはベルダーネコ装備に身を包んだリリィナの小さな額を指でなぞった。続けて頬から顎へ向かい、鼻の頭へと指を動かしていく。

 

「なるほど、ここがいいのか」

 「にゃ……にゃうぁ、にゃあぁ……っ、にゃ!?」

 

 アメショ柄の毛に触れるアランの指に、リリィナは筆舌に尽くし難い感覚に目を細める。初めてオトモアイルーとして雇用され、初めて人肌の温もりを知ったリリィナは、そのままアランの手の中で、何もかもをアランに委ねようとしていた。この心地よさの中に、いつまでも、いつまでもいたいと思い始めた所で、リリィナは我に返った。

 

 「だ、駄目にゃ旦那さん。それ以上はダメにゃ!」

 「ん、そうか。残念だな」

 

 アランの手を薄桃色の肉球で押し返し、ぶるぶると顔を振り回しているリリィナ。甘えては駄目だ。自分は主人であるハンターのサポートをするオトモアイルーなのだ。これではいけない、もっとしっかりしなければならないのだと、リリィナは思い至っていた。

 

 「こんな事じゃ、ダメにゃ。もっと、頑張らなきゃ……にゃ!」

 

 それから、リリィナの戦いが始まった。オトモとして狩りに出向くのは勿論、アランが好む食事を用意しようとキッチンに立ち、回復薬というアイテムを作るために様々な書を読み漁り、活力壺やブーメランなどの狩りに役立つアイテムの製作法を模索した。

 

 「にゃ……また焦げちゃったにゃ。ダメダメにゃ。でも諦めないにゃ。頑張るにゃ」

 

 失敗した物は、全部自分で片付けた。成功した物は、いち早くアランの下へと運び込んでいた。温かい内に出すのが良いと、聞いた事があったから。

 

 「うにゃ、今回のは良さそうにゃ。自信あり、にゃ!」

 

何より、アランの喜ぶ顔を見たかったから。自分を雇ってくれた大切な人に、一つでも多く、どんな事でもいいから自分に出来る事をしてあげたかった。

 

 

 

 

 

 そうして、数年の歳月が過ぎた。リリィナは今日も、とても幸せな日々を過ごしている。

 大切な人と、大切な人がコンビを組んでいる騒がしいハンターと、そのハンターのオトモと。後者二つに関しては時々煩わしく思う時もあるが、暇な時など何処にもない。それでも、リリィナはアランの為に何かをできるこの日々に、とても充足感を感じていた。

 

 「リリィナ、新しい防具の調子はどうだ?」

 「少しぎこちないけど、飛行船に乗ってる間に慣れると思うにゃ」

 「なら、向こうでクエストに行く時には大丈夫だな」

 「にゃ。任せてにゃ」

 

 そして、今日もそんな一日が始まる。アランの為に全力を尽くす一日が。

 今日からしばらくの間、彼の故郷であるベルナ村を離れる事になる。飛行船に乗り、別の村へと向かうというのだ。とても危険なモンスターが現れて、村に住む人々を悩ませているらしい。その解決の為にと主人であるアランが選抜されたのは、リリィナにとってとても誇らしく思える事だった。

 そして、自分はそんな誇らしく思える人のオトモなのだ。その事実が、リリィナを奮い立たせてくれる。

 

 (ワタシに、任せてにゃ!)

 

 アランからの大切な贈り物。新たに新調したナルガネコ装備のヘルムの奥で、リリィナの瞳がきらりと光っていた。

 




という訳で、アランのオトモのリリィナに焦点を当てたお話でした。実際カリスマのオトモって使い道を探すの難しそうですよね。
こちらの方では、お転婆なキッカや突撃癖のあるハンゾーをしっかりと引っ張っていったりと、その能力を発揮できてましたが、それもアランとの出会いと成長があっての事なのかなと思ったりする今日この頃です。

そして、『モンハン飯』の作者、しばりんぐさんがイラストを描いて下さり、並びに掲載許可も頂いたので、この場をお借りして紹介させて頂きます。


【挿絵表示】


こちらの愛らしいイラストを見て、今回のお話を書こうと思った次第です。これはもう、掘り下げるしかないなと。
素敵なイラストをありがとうございます。『モンハン飯』、皆さんも是非読んでみて下さい。
読んでみて下さい。
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