カーテンの隙間から日の光が差し込む寝室で、アランはうっすらと瞼を開けた。さっさと起きて、今日のやるべき事をしなければならない。夜に眠り、朝に目覚める現在の生活習慣ならば、それはごく当然の事だが、もう少しだけ、という気持ちが生む
そんなアランのベッドに乗った一匹のアイルーが、アランの顔を覗いた。
「旦那さん」
重みを増し、徐々に閉じていく瞼に抵抗するアランの頬を浅くつつく。頬に当たるアイルーの手の感触がくすぐったいのか、アランは顔を動かしてアイルーのつつきから逃れようとする。が、身体はベッドに横たわったままなので当然逃れる事は出来ない。つつかれるがままだった。
「旦那さん、旦那さん」
「わか、ってる……」
つつくだけでは効果が薄いと思ったのか、アイルーはアメショ柄の毛に包まれた肉球で二度、三度とアランの頬をぽこぽこと叩き、そこでようやくアランは目を覚ました。ゆっくりと上体を起こし、両手をアイルーの脇へ潜らせて持ち上げる。
「ほら、今度こそ起きただろう? リリィナ」
「まだダメにゃ。顔を洗ってこなきゃ、めっ! だにゃ」
びしっ、という音が聞こえそうな勢いで右手を突き付けてきっぱりと告げるしっかり者然としたアイルーもとい、自身のオトモに寝起きのアランはため息をつく。休みの日ぐらいはいつもよりも長めのの睡眠が欲しいというアランのささやかな願いも、彼のオトモのリリィナには通用しなかった。
「さて、と……」
眠気もすっかり吹き飛び、軽い身支度を済ませたアランがテーブルに向かい、椅子に座る。目の前にあるのはすり鉢とすり棒、それから中身の入っていない大量の空の瓶と、清潔にした匙にハチミツがたっぷりと入った瓶、他にも棚から引っ張り出してきたいくつかの小物類が所狭しとテーブルを埋めていた。
「それから、後は……」
椅子の横に置かれた二つの籠、その内の一つに手を伸ばして青々とした葉を一掴み、すり鉢に入れる。そうしてすり鉢に入れた葉、薬草をすり棒で潰す。薬草の表面が破け、裂け目から溢れる緑色の果汁がすり鉢の底に溜まっていく。次に、もう片方の籠から水色の傘を持つアオキノコを、これまた一掴み取り出してはすり鉢の中へ放って、薬草と同じように潰した。徐々に量を増していく果汁に細かくなった葉とアオキノコを混ぜるように更に潰し合わせ、頃合いを見てアランは手を止める。
何度も潰されてペースト状にされた薬草とアオキノコを、手元にあった匙を使って手頃な大きさの濾し布に包んでぐっと絞る。すると、すり鉢の底に溜まっていた果汁に、薬草とアオキノコのペーストから絞った果汁が継ぎ足された。これに簡単なろ過を済ませ、先程の空の瓶に詰め込めば、晴れて回復薬の出来上がりとなる。緑色の液体が入った瓶が五つ完成し、しっかりと栓をする。
この工程を数度繰り返し、今度は回復薬の入った瓶にハチミツを一匙加えて撹拌させていく。これで回復薬の効果をさらに高めた、回復薬グレートの完成である。つまるところ、アランは調合をしていたのだ。
傍から見れば簡単そうに見えるこれらの工程は、現地で行うと意外と失敗する事が多い。狩り場で調達する際はすり鉢を持ち歩く程の余裕はポーチには無く、仮にいくつかの道具を用意してもエリア内へ持ち歩く為に両手がふさがっては戦う事が出来ない。エリア端に一旦置いておく事も不可能ではないが、泥や生水が入れば衛生面で不安になるし、モンスターのブレスや毒液の流れ弾が当たれば悲惨な結果を辿る。手癖の悪いメラルーにくすねられでもしたらやはり悲惨な結果となる。
加えて各アイテムを確実に調合する際の手引書となる調合書の存在もあり、どちらにしてもこれらの代物はベースキャンプへ置き去りにしなければならない理由が大きく、その調合の為に一々キャンプへ戻ってはクエストを成功させるまでの時間が掛かり過ぎてしまう。
アランが安定して回復薬と回復薬グレートを量産しているのは調合書でしっかりと手順を確認しながら設備の整った環境で丁寧に工程を進めているからなのだ。
「はぁ……」
二つの籠の中身が空になり、テーブルにずらりと並ぶ緑色の薬液が入った瓶を眺めてため息をついたアランは、役目を終えたペースト状の薬草とアオキノコの残骸を燃えないごみ用のくずかごに放る。調合し終え、薬草の色と匂いが移った両手を水で軽く流してから調合に使った小道具の類をしっかりと洗浄し、棚に戻した。
「旦那さん、お疲れ様にゃ」
調合した回復薬をアイテムボックスに収納し、再びテーブルに着いて軽く伸びをするアランの前にマグカップが置かれる。中身は質素なコーヒー。リリィナからの差し入れだった。
「リリィナ。いつも助かる」
「ワタシは旦那さんのオトモにゃ。これくらい出来て当然にゃ」
「それでもだよ」
コーヒーを一口含み、リリィナの頭を撫でる。指の背で小さな額をなぞると、リリィナは目を細めてごろごろと喉を鳴らす。次に鼻の頭から鼻先に掛けて、ゆっくりと。
「ふにゃう。旦那さん、そんなに撫でたら駄目にゃあ……」
「いいや、やめない。リリィナが信じてくれるまでやるからな」
「にゃう、にゃうぅ……」
駄目だと言いながら、その言葉とは裏腹にアランの指へ鼻先をスリスリと擦り付けるリリィナ。
続けてアランの指が顎を撫で、再び額に戻ろうとした所で我に返ったリリィナの両手がアランの手をぎゅっと掴み、主人に甘えたい気持ちを必死に振り払って待ったをかけた。
「こ、降参にゃ。旦那さんの気持ちはよく分かったにゃ。だから、撫でるのは……恥ずかしいから、やめてにゃ」
「なら、やめようかな」
アメショ柄の毛並の手触りをもう少し撫でていたかったが、本人の申し出を尊重して手を離す。気の利くしっかり者だが妙な所で素直じゃないリリィナにアランは苦笑し、コーヒーをもう一口含む。
自慢のオトモお手製のコーヒーを飲みながらのんびりと過ごす休日。数日ほど前の迅竜を狩猟した時の事が嘘のように静かで穏やかな時間。
「フェニ」
そんなアランへ、首輪代わりの赤いリボンに付いた鈴をチリチリと鳴らして近付く小さな生き物が一匹。鼻先、耳、四肢の先端を除く全身を白いふわふわとした毛で覆われたムーファの幼体。アランの家で飼育されているペットで、名をフェニーという。
「フェニ、フェニッ」
鼻先をアランの脛に擦り付けていたフェニーが、今度は両膝へ乗ってきた。小さな体とはいえ、それなりの重さはある。フェニーの体を支えている硬い蹄の感触が両膝に圧し掛かるが、アランはさして気にしている様子は無い。額から背中へ、フェニーの毛並を優しく撫でる。
「フェニ、フェニィ」
「ん、もっとか?」
「フェニーッ」
掌全体を使った撫で方から指先を使って櫛で梳くように撫でると、フェニーは体をプルプルと震わせてアランの頬に頬ずりをする。
「気に入ったみたいだな。なら、今度は―――――」
「アラン、いるか?」
突然の事だった。今度は顎を撫でてやろうとした矢先、ノックも無しに家の戸が開いてガッシュとキッカが上がり込む。非常識な行動に見えるが、二人にとってはいつもの事。始めはまた何かしらのクエストに誘うのかと思っていたが、神妙な面持ちのガッシュを見て考えを変える。隣にいるキッカも、ガッシュ自身も、いつもの賑やかさがないのだ。そんな一人と一匹の姿にただ事ではない何かをアランは感じ、リリィナやフェニーに見せていた穏やかな表情は鳴りを潜め、大型モンスターを狩猟する際のような真剣な眼差しになる。
「何か、あったのか?」
「それが、なぁ……」
彼らに、あるいは彼らを取り巻くものに対して何かあったのかと問うアランに、ガッシュはがしがしと頭を掻いて言い淀んでいる。キッカもキッカで、居心地が悪そうにしている。
それから少しの間を置いて、ようやくガッシュが話を切り出した。
「ギルドマネージャーから、俺らに話があるらしい。遠くの村から救援要請が出たそうだ」
「ユクモ村と、ココット村に、ですか……」
「そう。お前さん達二人に頼みたい。今回の件は一筋縄ではいかなさそうだからね」
龍歴院の集会所に向かったアラン達へ竜人族の老婆が手に持つ虫眼鏡をきらりと光らせた。彼女はこの龍歴院の院長とギルドマネージャーを兼任しており、今回の救援要請にアラン達を向ける旨の決定を下した人物でもある。
「やっとこっちに戻ってきたと思ったらまたですか? 今度はアランも。よっぽどヤバい奴でも暴れているんですかね?」
そんなギルドマネージャーへの不満を隠そうとせずに、ガッシュが物申す。ガルルガ装備に着替えたアランはギルドマネージャーの話の内容を聞いて得心がいった。長い間、それこそ年単位でアランとガッシュはコンビを組んで狩りをしていた。それが数週間にわたりガッシュのみがポッケ村へ派遣されたのちに龍歴院へ戻り、再びアランとコンビでクエストに向かえると思っていた矢先にこれである。ガッシュの様子がいつもと違う理由はギルドマネージャーが下したこの決定にあったのだ。
ガッシュの存在の大きさは、彼が不在の間に単独で黒狼鳥を狩猟した際に嫌という程思い知っている。アランとしても今回の話には抵抗があった。
「ココット村に電竜、ユクモ村に泡狐竜が現れたのさ。危険度でいえばそこいらのモンスターなんか目じゃあない。跳狗竜や大怪鳥を狩ったばかりの若いのには、とてもねぇ」
「……龍歴院にいる他のハンターには任せられず、現地のハンターだけでは対処が難しい」
「御名答だよ。お前さん達二人には現地のハンターと共同して、これらモンスターの狩猟をお願いしたいのさ。幸い、古代林における脅威だった迅竜を狩猟してくれたおかげでしばらくの間は安全に調査が進みそうだからね」
小さく呟いたアランに、ギルドマネージャーが頷く。電竜と泡狐竜。どちらも古代林に現れるようなモンスターではなく、アラン達もモンスター図鑑で見ている程度にしか情報がない。加えてこれらモンスターと大なり小なり交戦経験があろう現地のハンターでさえこちらに救援要請をするとなれば生半可な実力のハンターでは返り討ちに会って終わりである。ココット村、ユクモ村双方としてもこれ以上の被害の拡大を許す訳にはいかず、龍歴院としても余計な損失はなんとしても避けたいのだ。
だからこそギルドマネージャーはアランとガッシュを向かわせる事にした。幾多のクエストに挑みながら必ず生還し、常にコンビで狩猟をしている関係上パーティ戦における立ち回りも心得ている。決して小さくない戦果である先述の迅竜ナルガクルガを始め、フルフルや黒狼鳥イャンガルルガを下した二人ならば確実に良い結果をもたらしてくれると信じていた。仮にこれ以上の人材を寄越せと言われたらギルドマネージャーは首を横に振っているだろう。
「頼れるのが他にいないのさ。分かっておくれ」
深い皺の目立つ両目がアランとガッシュをじっと見つめる。ギルドマネージャーとて、アランとガッシュが積み上げてきた物を、ガッシュが戻って来てからのここ最近の生き生きとした二人の姿を知っている。それでも大型モンスターの脅威が各地域に迫っているのなら、その脅威にさらされている者がいるのなら、見過ごす訳にはいかない。
かつて龍歴院が助け合いの末に成り立ったように、人々は互いに力を合わせねば存続する事はできない。ギルドマネージャーとしても、これが最良の決断だった。
「っだああぁぁ……。こんなのアリかよぉ、無いだろぉ……なあアラン、無いだろぉ!?」
「事情ならガッシュも分かっただろう。放っておく訳にはいかない」
夕方。再び自宅へ戻ったアランはすっかり意気消沈したガッシュ、キッカとテーブルを囲んでいた。始めはガッシュと同じように抵抗を見せていたアランも諸々の事情を聞いてからはギルドマネージャーの決定に肯定的だった。慢性的な人材不足を抱え、常に命の危険が伴うハンターの役割は誰にでもできる事ではない。そして、ギルドマネージャーから自分達にしか頼める者がいないと言われたのだ。アランとしても間髪置かずにガッシュと離れるのには思う所があるが、だからといってココット村やユクモ村の者達を見捨てて良い理由にはならない。
「俺らが二人で行って、一つ一つ解決していきゃあいいじゃんかよぉ!」
「片方を解決させてる内にもう片方が手遅れになっていたら?」
「うがああぁぁーっ!!」
たった今思いついた勢い任せの提案もあっさりと論破され、ガッシュはがしがしと頭を掻く。やけくそ、という言葉を全身で表していた。
「はぁ……本当にさ、お前は人助けが好きだよな。お人好しだぜ、まったく」
「そうか。ガッシュが言うならそうなんだろうな」
ここまで嫌がっていたガッシュがとうとう観念したのか、小さくため息をついてアランをお人好しだと評する。昔からアランはお人好しだったとガッシュは思い返し、言われたアランも自覚があるのか全く反論をしない。村人が困っている、というワードで気持ちが切り替わる辺り相当なものだろう。
「うっ、うぅ、あらん……」
「あぁ、まーた始まったぞアラン」
頬杖をついて半目になったガッシュの隣で、涙ぐんでいるキッカがひくひくとヒゲを動かしてアランをじっと見つめている。そんなキッカの表情にアランは既視感を覚えた。いつかの日に、こんな光景を見た事がある、と。
「にゃああぁぁーっ! あらんと離れ離れになるなんてやにゃあーっ!!」
椅子から飛び降りたキッカがてこてこと慌ただしい足音を立ててアランへ近付き、膝に飛び乗った。両手でしがみつき、泣きべそをかきながら狭い額をアランの頬へぐりぐりと擦り付けるキッカの姿は完全に駄々をこねている幼子のそれだった。
「あらんも一緒がいいにゃ、旦那さんと一緒にいてにゃあ……にゃううーっ!」
その時の感情が顔に良く出るのは主人と一緒のようで、キッカは一向に泣き止まない。どうしたものかとガッシュに視線を送るが、帰ってきたのは退屈だと言わんばかりの大欠伸。キッカを止めるつもりはないようだ。
「そんなに泣くなキッカ。ほら」
「にゃう……にゃ?」
アランの手が、キッカの額に乗せられる。そのまま首から背中へ、ゆっくりと数回程撫でる。なだめるように優しく、丁寧な手つきで。
「俺もガッシュも必ず帰ってくる。そうすればまた一緒に狩りに行ける。そうだろう?」
「にゃう、でも……」
そのまま撫で続けているとキッカの涙も止まり、落ち着き始めた。すんすんと鼻をすすっているキッカの額をさらに撫でる。
「それとも、もうずっと返ってこないと思ってるのか? 俺もガッシュも、一度だって帰ってこれなかった事があったか?」
「……ない、にゃ」
「なら、今度も大丈夫だ。な?」
親指の腹でキッカの目に溜まった涙を丁寧に拭い、アランは柔らかく微笑む。が、キッカはもう一度アランの首に両手を回して抱き着いた。まだ名残惜しさがあるのだろう。ガッシュとキッカがポッケ村に滞在していた三週間という期間も決して短くはなかったのだから。
「フェニ、フェニ」
「フェニー、乗るか? ……ん?」
いつの間にか、ベッドで丸くなっていたフェニーがアランの脚を鼻先でつついていた。アランに撫でて貰っていたキッカを見て、羨ましくなったのかもしれない。一旦キッカを下ろしてからフェニーを抱っこしようとしたアランだったが、フェニーが次に鼻先でつついたのはキッカの方だった。
「にゃうっ……な、何にゃ? どうしたのにゃ?」
「フェニ、フェニッ」
キッカの鼻と鼻同士を合わせたり、頬ずりをするフェニー。ふわふわとした体毛がヒゲに当たり、そのこそばゆさに身震いするキッカ。
「や、やめてにゃ。くすぐったいにゃああ~っ!」
「フェニッ、フェニィ」
「にゃ、にゃうぅ~」
されるがまま、フェニーの頬ずりを受けていたキッカをガッシュが抱えて椅子に座らせる。すると役目は終えたとばかりにフェニーはベッドに戻って丸まった。耳を澄ませば寝息が聞こえる。元々眠っていた所にキッカの鳴き声で起きたのだから寝付くのが早いのも無理はないかもしれない。大きめのクッションのように見えるフェニーの後ろ姿に、今度良い所の餌をあげようとアランは考えた。
「ほれ。まあ、フェニーなりの気遣いってやつかもな」
「だろうな」
一連のやりとりを見ていたガッシュがもう一つ大きな欠伸をし、アランが苦笑する。しばらくすると、四つのマグカップを乗せたトレーを持ったリリィナがキッチンから戻ってきた。
「旦那さん達ー、あったかいのが入ったにゃー」
アランとガッシュ、キッカと空いている椅子の前にマグカップが置かれる。白い湯気がゆらゆらと上っていくリリィナお手製のコーヒーをアランが一口含み、反対にガッシュはそのコーヒーをじっと見つめていた。
「……ガッシュ?」
「いや、なんでもねぇ」
一拍置いて、ガッシュもコーヒーを含む。静かだった。いつものガッシュと違うのは、今回の事がまだ響いているからなのだろう。リリィナも、ガッシュを心配そうに見ている。
なんでもねぇったら。リリィナの視線に気づいたガッシュが肩をすくめてもう一度マグカップを傾ける。
「なんていうか、リリィナのコーヒーが懐かしく感じてな。それもお預けになるっつうのがよ。……結構クるもんだぜ。知らねぇ場所に行くのは」
「……ガッシュ」
小さな呟きを、アランは聞き逃さなかった。
「んぁ?」
「この後、レストランにでも行くか? それ一杯じゃ足りないだろ?」
「……その言葉を、俺は待ってたんだよ。アラン」
アランの言葉に、にやりと笑うガッシュ。日が沈みかけた時間帯、込んでいる所もあるだろうが関係ない。もう一度会えるとは言ったが、だからといって何もしないというのは真っ平御免だ。盛大に食って飲んで酔ってやろう。アランの中で、この後の予定はもうそうなるのだと決めていた。ガッシュも断らない。大賛成だった。
「どこかの誰かさんに倣って、たまにはファンゴの肉でも頼んでみるか」
「ああ、やっぱ俺パス。明日は嵐になりそうだからな」
「何だと?」
「何だ?」
「…………」
「…………」
アランの言葉にガッシュが即答し、両者の睨み合いが続く。リリィナが二人の顔を交互に見つめ、キッカはマグカップに息を吹きかけて冷ますのに必死になっている。
「……っふ」
「……くく」
「ふっふっふっふ……っ」
「っはっはっはっはぁ!」
何が可笑しいのか、アランとガッシュは二人して爆笑していた。アランとガッシュ自身もよく分かっていないが、とにかく可笑しかった。
「ふぃ、そうと決まれば……と言いたいが、もう少しぐらいゆったりしてても罰は当たらねぇなぁ?」
「そうだな。当たらないな」
痛くなった腹を擦り、目尻に溜まった涙を拭ってから二人はマグカップを再び傾けている。
「で、だ。なんとなくだが、そろそろ上位ランクに上がれるんじゃないかって俺は思ってるんだよ」
「考え過ぎじゃないか?」
「そうでもないだろ。今回の話だって他には任せられないって事はだ、俺らにもっと上を目指せって意味があるんだよ。きっとそうに違いないぜ」
「ふむ……」
飛竜種と海竜種、どちらも大物に違いない。今まで通りの成果を出せば、もしかしたら、もしかするかもしれない。ガッシュはそう踏んでいた。
アランとしては、そこまで期待するほどの事だろうかと考えていた。もし上がったとしても、それはそれで今までよりもさらに危険な役目に就く事になる。ランクの昇格が必ずしも良い事ばかりではないのだ。
ただし、ランクの昇格によって得られる報酬が多くなり、リリィナへの褒美やフェニーにあげる餌も良い物になるのなら、それはそれで悪くはないとアランは思っていた。
「どういう……事にゃ?」
「フッ、リリィナちゃんにも分かる日がきっとくるにゃよ」
アラン達の様子に首を傾けるリリィナを横目にキザったらしく鼻で笑ったキッカがマグカップを煽り、アラン達の物とは別にリリィナが淹れたホットミルクを一口味わう。一番最初に舌が触れ、じりじりと焼くような感覚にキッカはマグカップを置いた。
「あっつにゃああーっ!!」
キッカは猫舌だった。
ここにきてようやく触れましたが、アラン達はまだ下位ハンターです。
龍歴院にいる上位ハンターは数が少ない感じですね。力の強い個体を相手にする関係上、下位からやっと上り詰めたハンターも狩人としての生命を絶たれてしまう事が多々ある形です。全員が全員、死んでいる訳じゃあないですよ。怪我とかがほとんどです。
G級は……また今度のお話にします。