何というか、90年代後半~2000年代初頭ぐらいのGS二次創作って、何か凄いテンション高かったですよね。
あとナデシコも。エヴァも。kanonも。
「……ん、んん」
ゲーム時間で数日ぶり、現実時間で数時間ぶりに目を覚ました。布団から身を起こしてヘッドギアを外し、軽く体をほぐして立ち上がる。数時間寝返りをうつことなくそのままの体勢でいたせいか、体の節々が固まり、動く度に骨がパキパキと小気味良い音を立てる。
「んあ゛~~~~~~……」
これは背中を伸ばしている際の声なのだが、どうやら思った以上に凝っていたようだ。その後も横島はストレッチをして体をほぐし、数分後にはすっかりと元の体に戻っていた。
横島は冷蔵庫を開けてキンキンに冷えたペットボトルの麦茶を取り出し、一気に呷る。当たり前だがゲーム中は水分を取れない為に、喉が乾いていた。
「――っぷあー、五臓六腑に染み渡るぅ……!」
中々に大げさに、かつ親父臭い表現をする男である。横島はその後も麦茶をちびちびと飲みながら、ゲーム内で吹雪に言われた通りに日付け感覚やらがおかしくなっていないかを目を瞑って確認する。
「今日は○○月○○日○曜日、確か明日は数学の宿題の提出日で艦これやる前に必死こいて終わらせたんだよなー……。うん、全然おかしくなってねーわ。すげーな、さすが三界一の技術力だわ」
横島は自らの感覚が何らおかしくなっていないことに感心し、改めて家須と佐多の会社が持つ技術に感動する。ほぼ眠っていたに等しいはずだというのに眠気などは微塵も存在せず、頭の回転は普段通り。さすがに体の凝りなどはどうしようもなかったようだが、ここまでくると何故これほどの技術をゲームに使っているのか理解出来ない。
「ま、俺が考えることでもねーけど。……今は夜の九時か。メシ食ったらレポート作って、提出は……メールだし、明日でいいか」
独り言を呟きつつ、横島はいそいそと袋麺を調理する。この独り言の中で聞き逃せない部分があったのだが、何と横島、家須達からノートパソコンを贈られたのだ。しかもプロパイダー料金やら何やら、費用は全て家須達の会社デーエムエム持ちである。これには横島も喜んだ。これでレンタルしなくてもエロビデオが見れる……!! と涙を流して。
しかし、家須はそんなことを許しはしなかった。彼等はパソコンにプロテクトを掛けたのだ。それも二重三重などではない。――百重千重というプロテクトだ。しかも何故か文珠でも解けない。
これには横島も悲嘆するしかない。神は我を見放した!! と血の涙を流して。実は神に気に入られているというのに、神をも恐れぬ発言をしたものである。
こうしてパソコンは仕事用として使われることとなり、それなりに活躍をしていることを記しておく。ちなみに横島のパソコン講師はおキヌだ。かつて美神と共に銀行強盗(銀行から依頼された仕事である)をする為に教わった知識を活かし、それはもう嬉しそうに教え込んでいる。
――翌日の午後四時頃。デーエムエム社長室にて、家須は佐多と共に艦これのテストプレイヤー達について話していた。
「やはりあの二人……特に彼はとんでもないスピードで海域を攻略していますね。司令部レベルも七十越え……流石の貫禄です」
「おおー、あの嬢ちゃんですら司令部レベル三十ちょいやのに、もうそんな差がついたんか。引きこもってゲームばっかしてるだけのことはあるのう」
今話題に上がっているのは二人の男女。特に男性の方は普段から引きこもってゲーム三昧らしく、攻略スピードではダントツなようだ。
「逆に一番攻略が進んでいないのが横っちですね。司令部レベルも未だ十未満。海域もようやく一つ目のラストに突入です」
「……いや、それが普通なんやないか? ただでさえ学生なうえにゴーストスイーパーのバイトしてるんやし、むしろ良くやってくれてる方やろ。他が異様に速過ぎるだけで……」
「……そういえば横っちが艦これを始めたのは昨日でしたね」
どうやら感覚が狂っていたらしい。家須は舌を出して“てへぺろ”をした。結果、佐多からドギツイ突っ込みをいただくことになってしまったが。
と、ここで家須のパソコンから“ピロリン”と音が鳴る。どうやらメールが来たようだ。
「おっと……? おや、噂をすれば、横っちからメールが届きましたよ」
「そうなん? 一発目のレポートやろか?」
「そうですね、色々と書かれています」
家須は横島から届いたメールを読んでいき、その内容に苦笑を浮かべる。ある意味予想通りの内容だからだ。
「やはり演出面で不満があるようですね。特に艦娘ドロップで」
「えー、ワシあの演出好きやのにー」
「テストプレイヤー全員にダメ出しされれば変更は止む無しですね。……私も好きだったんですが」
二人はそろって溜め息を吐く。派手好きな二人からすれば、あの演出を変更しなければならないのは残念なようだ。
その後もするすると読み進めていると、気になる部分が出てきた。
「これは……」
「ん? どないしたん?」
家須が真剣な顔で該当部分を読み込む。その様子に佐多も何かあったのかと真剣味を帯びる。
「……どうやら横っちの鎮守府には明石や大淀、間宮がいないようです」
「はあ? 何であの三人がおらんのや。それぞれ艦娘以外にもアイテム屋娘、任務娘、ご飯係として配属されとるはずやぞ」
「ええ、他の鎮守府ではその通りです。しかし、横っちの鎮守府には最初に初期艦として選んだ吹雪しかいなかったようです。他にもいくら建造をしても重巡はおろか軽巡も出ず、駆逐しか建造されないなどの問題が発生しているようですね」
その報告に佐多も難しい顔で黙り込んでしまった。バグなのだろうが、しかし他の鎮守府ではそのような問題は起こっていない。もはやここでこうして考え込んでいても仕方がないだろう。
「……ちょいと調べに行きますか」
「そうですね。行きましょう」
二人は立ち上がり、社長室から出る。目指すはデーエムエムの地下六階。
このデーエムエム本社には、公式な資料に於いて地下二階までしかないと記されている。しかし、実はその更に下、地下六階までが存在したのだ。
それはそのフロアにある物を隠すためであり、同時にそれを管理している場所でもある。
家須と佐多が乗ったエレベーターが地下六階に到達し、扉を開く。目の前に広がる光景は不可思議なものだ。正面には何か球形の物が入った水槽の様な物がいくつか存在し、それには周囲で何らかの作業をしていると思われる社員達のパソコンへとコードが繋がれている。
フロアの両端には同様に球体が入った水槽がびっしりと置かれており、どこか神秘的な雰囲気を漂わせている。
「最高……じゃない。社長、何かありましたか?」
「ええ、少し気になることがありまして。……皆さんは気にせず、そのまま作業を続けてください」
家須達が来たことに気づいた社員が声を掛ける。家須はそれに柔らかく答えると、社員達に余計な混乱を与える前にさっさと行動を開始する。
「確か、横っちの鎮守府がある“宇宙のタマゴ”は……」
「キーやん、こっちやこっち」
佐多が家須を先導し、ある水槽の前で止まる。その水槽の中身は、青い輝きを放つ地球。
「これの担当者は誰ですか?」
「えーっと……キーやんのとこの阿部やな」
「彼ですか……ああ、すいません。阿部さんは今どちらにいます?」
家須は佐多の説明を受け、通りすがった社員に阿部という人物の居場所を聞く。するとどうやら今は地下五階の仮眠室にいるらしい。さっそく二人は阿部に話を聞きに行く。
「……ああ、いましたいました。思い切り寝ていますが」
家須の視線の先、そこにはベッドで寝ている黒い長髪の絶世の美青年が存在している。何とも気持ちよさそうに熟睡しているを見ると申し訳なく思ってしまうが、これも仕事だと諦めてもらおう。
「阿部さん、起きてください」
「う、うーん……ん?」
家須の呼びかけに意外なほどあっさりと目を覚ます阿部。彼は眠たそうに目を擦ると、自らの傍らに立っている家須達に気が付いた。
「……おお、これは最高指ど……ではなく、社長。何かありましたか?」
「ええ、少し問題が発生していまして」
完全に目を覚ました阿部に、家須は何があったのかを説明していく。その間阿部は何の反応も示さず、黙って家須の話を聞いていた。それにより、家須の心の内で確信が強まっていく。
「――というわけです。さて……あなた、原因について何か知っているのではないですか」
それは疑問というより断定に近い問いかけ。阿部はそれに僅かに片眉を上げ、反応を示す。どうやら、図星のようだ。家須から発せられる雰囲気に、ほんの僅か剣呑なものが含まれる。
「……まさか、もうバレてしまうとは思いませんでしたよ」
「……それはつまり、あなたが仕組んだこと……ということですか?」
「ええ、その通りです。私がやりました」
阿部は素直に自らの行いを認める。家須達はやはり、と思ったのだが、それにしても分からない。一体何故この男は宇宙のタマゴをいじったりしたのか。
阿部はどこか遠くを見つめながら、静かに語り始める。
「――彼なら、分かってくれると思ったんですよ」
「……何をですか?」
「……そんなもの、決まっていますよ」
阿部は懐から何枚かの写真を取り出した。それに写っているのは艦これの登場キャラクター達だ。
「――駆逐艦娘の、素晴らしさです」
「――――……?」
家須が首を傾げる。阿部が持っている写真。そこに写っているのはそのほとんどが駆逐艦娘。中には軽空母や潜水艦も混じっているが、彼女達に共通している部分がある。それは、見た目が幼いこと――。
「彼女達は素晴らしいのですよ。あどけない顔立ちに細く華奢な体。薄い胸とまっすぐ、かつやや膨らんだ下腹に小ぶりなお尻。細く閉じても容易に向こう側が覗ける太腿。そんな小さく幼い体に、大きく無骨で油臭い装備を背負う健気な姿……ああ、お
静かに、だが熱く。心からの言葉を家須に聞かせる阿部。その姿は絶世の美青年であることを除けば、実に変態的であり、実際に変態であった。
「……つまり、横島さんの鎮守府に駆逐艦娘しか出ないようにさせたのは、横島さんをロリコンにするため――」
「違いますっ!! 断じてロリコンなどではありませんっ!!!」
「っ!!?」
突然の阿部の咆哮。それは彼の魂の叫びだ。彼はそれを否定する。これは、もっと気高いものなのだと。
「そもそも薄汚れた大人よりも幼い子供達の方が魂も汚れておらず、純粋なのです。ならば、同じく純粋である我々天しぇっふんえっふん!! ――心清らかなる者が、彼女達の甘く清らかな魂を愛するのは当然の摂理、運命の必然ではありませんかっ!!
――これは愛です。神の愛なのですっ!! それをロリコンなどと下卑た言葉で表現してもらいたくはありませんっ!!」
阿部がぶち上げた魂からの主張。吼える彼の姿は神々しく、背中には何故か三対六枚の白い翼が生えているような錯覚を受ける。
しかし、いくら姿が神々しくても彼の発言は問題しか存在していないことに、阿部はまだ気付いていない。
「……ほう、
阿部の背筋に怖気が走る。ここで阿部はようやく気付いた。目の前の家須から発せられる怒りのこもった神気のせいで、仮眠室が半ば異界化していることに――!!
「
「……やべぇ」
家須の左腕から強大な力の奔流が阿部に叩きつけられる。それはまるで何らかの力場を発生させているかのようだった。
「最高指導者パワー
「最高指導者パワー
……どうやら実際に力場を発生させていたらしい。家須の左腕から放出されたエネルギーは阿部を貫通し、そのまま佐多の左腕と繋がる。何らかのエネルギーに縫いとめられた阿部はたまったものではなく、苦しげに身を捩らせる。
「ぐうぅ……佐多、貴様ァッ!! 貴様等はいつもいつも邪魔を……」
「じゃかぁしぁこんボケがぁっ!!」
「ッ!?」
阿部の言葉をぶった切り、佐多が阿部を一喝する。
「お前の勝手な考えのせいで、横島の坊主とその艦娘達にどんだけ苦労掛けてると思とんねん、あ゛ぁ゛!? 大人しくこれ食ろて反省せぇやダボハゼがぁっ!!!」
「……想像以上にぶちギレてらっしゃる……!!?」
家須に負けず劣らず圧倒的な魔力を噴出させる佐多。現在仮眠室は家須の神気と佐多の魔力のせいで完全に混沌の異界と化し、新たな宇宙が生まれそうなほどのエネルギーで満ちている。
「
「
二人がまるで磁力で引かれるように、爆発的な速度で阿部に迫る。狙うは首、その場所に断罪の一撃が叩き込まれた。
「クロス・ボンバー!!!!!」
「うっぎゃあああああああああああああああ!?!?!?」
哀れ阿部はその一撃をもろに食らい、深い眠りへとついた。それにしても喉に攻撃をされたというのに叫ぶことが出来るとは、何とも頑丈なことだ。
ちなみにその後の彼は三ヶ月の給料六割カット、ボーナス無し、休日返上という内容で仕事に没頭する姿が見られた。仕事に復帰する前の数日間どこかに行かされていたようで、うわごとの様に「二丁目は嫌だ……二丁目は嫌だ……」としきりに呟いていたという。
何やかんやあって数日後の横島にメールが届く。
社員が設定を誤ってしまったために色々と不具合が出てしまった。調整が終わり次第任務娘の大淀、アイテム屋娘の明石、給糧艦娘兼鎮守府の食事を担当する間宮を配属させる。更にお詫びとして今まで建造に使った資材と建造材、バケツを補填し、家具コインを進呈する。といった内容だった。
横島としては不具合が解消されるのならば何の問題もなく、更に色々ともらえるのだからラッキーだと言えるだろう。
「明石に大淀に間宮……楽しみだなー、でへへへへ……」
「……司令官、涎出てますよ」
執務室にて妄想に耽って涎を垂らす横島の口元を、吹雪がハンカチで拭う。その際にちょっと強めにごしごしと力を入れたのは、如何なる感情が働いたのだろうか。
ともかく、ようやく横島の鎮守府が正常に動き始める。
第十話
『神の愛』
~了~
今回登場した阿部さんの元ネタが分かる人いるかな……?
次回は連載するか迷ったネタでも番外編(?)として出してみようかな。
普通に続きを出すかな。
最近吹雪がパンツ見せてないなぁ……。