煩悩日和   作:タナボルタ

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今回も艦娘がちょっと増えます。
人気も高いあの姉妹が揃いました。

……本格的に絡むのはまた後日ですがね!!


俺が守ってやるよ

 

 さて、敵である深海棲艦である空母ヲ級が横島に一目惚れするという事件からゲーム時間で1日が経過した。結局あの後鎮守府に帰港し、そのまま再出撃はせずに他の任務を進めることとなった。

 すぐさま再出撃しなかったのは「あんなことがあった後だから気まずい」という理由からである。とりあえず1日置けばお互いに落ち着いているだろう……という考えもある。

 

 進められた任務は主に開発と建造に遠征、そして編成と出撃だ。

 再出撃はしなかったと前述したが、それは『南西諸島防衛線』の話。他の海域は再攻略出来るのだ。それによって得られたドロップ艦に建造艦、そして任務報酬艦は以下の通り。

 

 まず駆逐艦の“暁”と“雷”。この2人は電と響の姉妹艦らしく、『第六駆逐隊』という部隊に所属している。正式名称は『第一艦隊第一水雷戦隊第六駆逐隊』という。

 横島は大淀にそれを聞かされ、「第一……え?」と返すことしか出来なかった。「何で“隊”が3個もついてんの?」とは横島の弁である。

 続いて“睦月”に“望月”。この2人は睦月型の一番艦と十一番艦であり、何故か白露が嬉しそうにしていた。

 睦月は吹雪と、望月は初雪と特に仲が良く、これからそれぞれセットで行動することが多くなるだろうことが予想される。

 睦月と皐月、そして望月は旧型艦で性能が低いらしく、戦闘力こそ乏しいがその分燃費が良く、遠征任務に適している……と、大淀が本人達の前で教えてくれた。

 大淀としては戦闘班と遠征班の線引きを明確にしておきたかったのだろうが、横島鎮守府には天龍という例外が存在している。天龍も睦月型と同じく旧型艦なのだが、彼女は圧倒的な戦闘力を持ち、そのデタラメっぷりは新人以外は誰もが知るところである。

 結果、本人達の意思を尊重しようというとても無難な対応となった。

 

 さて、次は軽巡洋艦だ。1人は“球磨”。球磨型の一番艦であり、頭の触角のような毛と語尾の『クマ』が特徴の女の子。横島の煩悩が反応しそうで反応しない、微妙な外見年齢の持ち主である。

 普段はクマクマ言ってあどけなさ全開の笑顔を浮かべる彼女だが、これまた意外にも戦闘面では優秀だった。ドヤ顔でふんぞり返りつつ「意外に優秀な球磨ちゃんってよく言われるクマ」と語る姿は素直に可愛らしい。横島は思わず頭を撫でてしまった。

 

 そしてもう1人の軽巡洋艦。彼女の名は“龍田”。天龍型の二番艦だ。

 天龍とは対照的に女性らしい口調と仕草に加え、妙に甘い声をしている。そして天龍と同様に抜群のプロポーションの持ち主でもある。

 天龍と龍田の2人はそのスタイルの良さから背が高く見られがちだが意外と小柄であり、横島にトランジスタグラマーの良さを教えた艦だ。

 

 新たな艦娘を迎え、横島鎮守府は心を新たに『南西諸島防衛線』に挑む。

 

「――というわけで、『南西諸島防衛線』に出撃したい人は手を挙げてー」

「はいはいはーいっ!!」

「俺を戦わせろおっ!!」

「ぽいぽーい!!」

「天龍ちゃんが行くなら、私も行こうかなぁ?」

 

 横島の言葉に真っ先に手を上げるのは叢雲・天龍・夕立・龍田の4人。他の者はその4人の勢いに圧されてか手を上げず、萎縮してしまっている。

 何人かは頭を抱えているが、それは横島の行動に対してであり、彼女達4人に頭を痛めているわけではない。

 横島は手を上げた4人を見回して、困ったように頭を掻く。

 

「他の3人はともかく、龍田は止したほうがいいと思うけどな……」

「あら~、どうしてぇ?」

 

 横島の言葉に一見笑顔で朗らかに返しているように見える龍田だが、その眼はまるで笑っていない。一体何故か、ちゃんと理由を話さねば納得はしないだろう。

 

「だってほら、龍田はこっちに来たばっかりだから練度が低いし、それで出撃したら他の皆の負担が増えるからさ」

「う~ん、それを言われると辛いなぁ~」

 

 龍田は困ったように苦笑を浮かべる。横島の言っていることは正しい。自分はただでさえ旧型の艦で戦闘力も乏しく、おまけに練度も鎮守府最底辺。攻略海域は1面とはいえ最後の海域。これでは足手まといどころでは済まないだろう。

 元々天龍にくっついていたいという理由での立候補だ。彼女の足を引っ張るくらいならば、大人しく待機しておき、帰って来た時に甘えたり何だりした方が良いか。

 龍田はそう考え、仕方がないと立候補を取り消そうとする。――が。

 

「別にいいじゃねえか、龍田が出撃しても」

 

 唐突に、そんな言葉が躍り出た。発言者に眼をやれば、それはやはりと言うべきか天龍である。

 

「そりゃ確かに練度は低いかもしれねえけどさ、それ以上に龍田は強かったろ?」

 

 天龍の言葉もまた事実である。どれほど戦えるのかを確認するために天龍・深雪・球磨・暁・雷と出撃させたところ、龍田は敵艦相手に目覚ましい活躍を見せてくれた。暁と雷のフォローをしながら敵艦を牽制、更には相手を誘導し、見事に撃破してみせた。

 龍田は特別攻撃に優れているというわけでもないが、彼女の強みは吹雪と同じく空間認識能力の高さにこそある。

 こつこつと地道に経験を積んでから前線に出てほしいのだが……尚も天龍は言葉を重ねる。

 

「ほら、提督の指揮があれば何も心配するこたねーって。すっげー楽に戦えるしさ」

「いや、そう言ってくれるのは嬉しいが……」

「む……」

 

 思わず漏れてしまう不満。龍田は天龍が横島に全幅の信頼を置いているのがどうも気に食わない。

 確かに指揮をしている時の横島は頼りになる。だが、それ以外の時は話が別だ。

 自分を見るなり「生まれる前から愛してました」と愛を口にしたかと思えば、球磨が建造された時には「……俺はどうすればいい!! あの子は女子高生なのか、女子中学生なのか……!! 可愛い……が、彼女はロリの範疇なのか!? 違うのか!? ああ、キーやんにサっちゃん、俺を答えへと導きたまえ……!!」とか悶えだして叢雲に飛び蹴りを食らい、霞と曙と満潮に叱られ罵られ罵倒され……。

 ともかく、龍田は()()()()()()()()()()()()()()()()()、すこしだけ気に食わない。

 

 しかし――。

 

「それに――俺が守ってやるからさ。それでも駄目か?」

 

 この言葉で、龍田の機嫌は一気に回復した。

 

「天龍ちゃん……!!」

 

 今の龍田は戦意高揚状態……俗に言うキラキラ状態だ。龍田にはさぞ天龍が格好良く見えていることだろう。

 まるで恋する乙女のような表情で天龍を見つめる龍田はとても可愛い。横島の煩悩もかなり激しく反応するが……彼の思考は別にあった。

 

「……んー」

 

 口元に手をやり、何事か真剣に考慮を始める。その姿は今までに無いくらいに静かであり、それだけに真剣味が伴っている。

 普段からは想像もつかない精悍な顔に、大淀を始め多くの艦娘の見る目が変わる。

 そのギャップに不覚にも胸をときめかせたのは磯波に不知火、それから響。特に磯波の視線が熱っぽく見える。不良が雨の日に捨てられた子犬を助けるといい奴に見える……という法則は艦娘にも有効のようだ。

 

「……分かった。龍田は天龍に任せる」

「そうこなくっちゃな!!」

「あらぁ……天龍ちゃんのお陰だね~」

 

 熟考の末、横島は龍田の出撃を許可する。天龍はパチンと指を鳴らして喜びを表し、龍田も両手を合わせて素直に喜ぶ。

 ――2人とも、横島の眼が細められていることに気付いていない。

 

「ふう……んじゃ、残りのメンバーは俺が決めてもいいか?」

「おう、いいぜ!」

「よろしくお願いしまーす」

 

 にこにこと上機嫌の2人に気付かれないように、横島は溜め息を吐く。()()()()()()()を出撃させるならば、残りの4人は()()()()だ。

 

「……吹雪、叢雲、白雪、電」

「……っ!」

「今名前を呼んだ4人は、天龍達と一緒に『南西諸島防衛線』の攻略に参加してくれ」

 

 横島に指名された4人が息を呑む。何故自分達が、という考えが過ぎったが、それも一瞬だ。

 

「――頼んだぞ」

「――はいっ!」

 

 横島の言葉に敬礼で返す。自分達に求められたこと。それを漠然とだが理解出来た。きっと――()()()と、状況は似ているだろう。

 

「んじゃ、ちゃっちゃと行こうぜー! 提督、俺が海域を開放してくっからなー!」

「天龍ちゃん、私達もいるんだよー?」

 

 意気揚々と退室する天龍と龍田。それに遅れて吹雪達4人も横島に礼をしてから退室する。

 横島は6人を見送った後、大きく息を吐いて椅子にその身を沈めた。精神的にも、物理的にも今までより重くなっているように錯覚する。

 

「……良いのですか?」

「……」

 

 大淀の言葉に、横島はすぐには答えられない。他に方法があったのではないか、そう言われればそれを否定することは出来ない。しかし、横島には()()以外の方法が見つけられなかった。

 言葉では難しい。自分では上手く言い表すことが出来ないだろう。ならば大淀に頼ることも出来たのだが――横島は、今回の方法を選んだ。()()()()、その方がいいような気がしたから。

 

「……やっぱ、こういう役職には向いてねーんだな、俺は……(おんな)じことを繰り返すとは……」

 

 今にも倒れてしまいそうな雰囲気を纏い、横島は沈んだ声でそう言った。机に身を伏せるその姿は、どこか泣きそうな子供を連想させる。この横島にくらっと来たのは雷に時雨、そして意外にも霞。何か彼女の琴線に触れるものでもあったのだろうか?

 

「はあ……ん?」

 

 更に大きく息を吐く横島の髪を、大淀が撫でる。

 

「……私は、()()()()が提督に向いていないとは思いませんよ」

 

 大淀に名前を呼ばれ、横島はしばし呼吸を忘れる。横島が机に伏せたまま大淀を見上げてみれば、彼女は横島に微笑みかけていた。

 

「今回の出撃に関してですが、私は横島さんの判断を支持します。彼女達には言って聞かせるよりも、その身で体験させたほうが良いタイプですからね」

「……」

 

 どうやら、大淀は横島の葛藤を完全に理解してくれていたようだ。思わず眼を見開かせる横島だが、それを見た大淀はより笑みを深くする。どこか気恥ずかしい。

 

「……天龍はともかく、龍田も?」

「ええ。ああ見えて龍田さんは天龍さん以上の激情家ですから」

「あー……」

 

 何とはなしに口に出た照れ隠しの言葉に、大淀はさらりと答えを返す。一応は本当に気になっていたことでもあるので答えを知れたのは良いのだが、それで会話が止まってしまうのが何とも気まずい。その気まずさを味わっているのが自分だけというのも横島には居心地が悪かった。

 

「大丈夫よ、司令官! 何だかよく分からないけれど、不安に思うことなんかないわ!! だって、私がいるじゃない!!」

「んおっ!?」

 

 ここで我慢が出来なくなったのか、雷が話しに割り込んできた。ドーンと身体ごとぶつかってきた雷を何とか受け止めることに成功した横島だが、危なく椅子から転げ落ちるところである。

 

「あまり乱暴な真似は駄目だよ、雷。こういう時の男性にはただ静かに寄り添えばいいのさ」

「いつの間に俺の膝の上に……!?」

 

 気がついた時には響が横島の膝の上に座っていた。この時不知火が人知れず「く……っ、この不知火が出遅れたっ」と呟いていたりするが、それは誰にも気付かれていない。

 

「駄目よ2人とも!! そんなに男の人にくっついて、そんなのレディのすることじゃないわ!!」

「おや、暁。レディならば、悩み苦しんでいる男性を癒すべきだと思うんだが」

「つまり雷の役目ね!! 任せなさい!! ――だから早く司令官の膝の上からどきなさい!!」

「ここは譲れません」

 

 横島と大淀が放つ雰囲気が消え去り、一気に賑やかになった。周りの皆も急に変化した雰囲気に対応出来ず、少々呆けた顔を晒している。

 だが、その弛緩した空気が横島にはありがたかった。やはり、自分には深刻な空気よりもこういった空気の方が性に合っている。

 

「ま、この方がらしいっちゃらしいけど」

「……辛気臭い顔されるよりはマシかな」

「どっちにしろ提督はまだまだクソだけどね」

 

 霞と満潮、曙は弛緩した空気に呆れつつもそれを良しとした。先程までの空気は横島らしくない。彼が有能な時は、決まってこういった空気の時だ。

 横島と大淀が何を深刻に考えていたのかはまだ分からないが、きっと何とかなるのではないかと、そう思ってしまう。

 この3人も、そう考えるくらいには横島に信を置き始めたのかもしれない。

 

『――こちら天龍。出撃準備、整ったぜ』

 

 端末から響く声。自然と皆が口を噤み、通信の邪魔をしないようにする。

 

「おう、それじゃあ『南西諸島防衛線』の攻略開始だな。――くれぐれも、油断すんなよ?」

『へっ! 分ーかってるって!! そんじゃ、行くぜお前ら!! 抜錨だ!!』

 

 勇ましい声を上げ、天龍率いる第一艦隊が出撃する。目指すは南西諸島。倒すべきは深海棲艦。

 しかし、彼女達が戦うのは深海棲艦だけではない。彼女達の敵、本当に恐ろしいのは――自分の内に潜む、慢心だ。

 

 

 

 

 

 

 

第十六話

『俺が守ってやるよ』

~了~

 

 

 

 

 

 

 

那珂「ねえ、私の台詞は?」

那珂「那珂ちゃんの出番は?」

那珂「那珂ちゃんはアイドルなのにぃ……」

那珂「うわーーーーーーん!!」




磯波はチョロそう。(挨拶)

さて、龍田さんが登場しましたが、煩悩日和の龍田さんはちょっとイメージが違うかもしれませんね。

姉妹の力関係は天龍ちゃんの方が上であり、基本的に龍田さんは天龍ちゃんに甘えたがります。

……何か私の中ではそんなイメージなんです。

それではまた次回。

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