煩悩日和   作:タナボルタ

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何か物凄いバタバタした一週間だったなぁ……

皆さん、熱中症にはお気をつけ下さいね。


ある意味、地獄の始まり

 ここは1―4『南西諸島防衛線』そのボスマス。そこでは艦娘達が深海棲艦と熾烈な争いを繰り広げていた。

 

「艦載機の皆、お仕事お仕事ぉ!!」

 

 龍驤は右手で持っていた巨大な巻物を広げ、左手には切り紙人形を指に挟み持つ。龍驤は巻物に描かれている滑走路にその人形(ひとがた)を走らせ、その姿を戦闘機へと変容させる。

 

 ――――航空式鬼神召喚法陣龍驤大符。巻物には滑走路と共にその文字が書かれている。龍驤はこの巻物の力と自らの霊力で人形(ひとがた)を変化させているのだ。

 

「さあ、ばんばんいてこましたれー!!」

 

 龍驤が左手の人差し指と中指を伸ばし、剣指を作る。剣指に灯るは霊力の光だ。『勅令』という文字を浮かべたそれは龍驤の意思を艦載機達に伝え、自由自在に操ることが出来る。

 龍驤から放たれた艦載機達は空を行き、敵艦達に攻撃を仕掛ける。敵空母ヲ級は必死に逃げるもそれは叶わず、爆撃に巻き込まれる。爆煙が噴き上がり、ヲ級の姿が見えなくなるが、艦載機と感覚をリンクしている龍驤は確かな手応えを感じていた。

 

「やったかっ!?」

 

 油断なく爆煙を見据える龍驤。強い風が吹き、徐々に煙を流していく。徐々に顕になる海。やがて開けた視界には、深海へと沈み行くヲ級の姿があった。

 

「やってた!!」

 

 これには龍驤もガッツポーズ。満面の笑みを浮かべて喜ぶ姿は大変可愛らしい。しかし、ここは未だ戦場である。猛烈な勢いで重巡リ級が龍驤目掛けて突進してくる。……が、しかし。

 

「敵は、ウチだけやあらへんよ?」

 

 龍驤はリ級をちらりと見やり、小さく舌を出す。瞬間、リ級は横合いから砲撃を受け、思い切り吹っ飛んだ。神通と那珂の援護射撃だ。

 

「ばっちり命中ー!!」

「あの、お、お怪我はありませんか、龍驤さん?」

「うん、へーきへーき。助かったよ」

 

 謎のポーズを取って喜ぶ那珂を放置し、神通は龍驤の安否を確認する。随分とおどおどとしているが、それだけ龍驤のことが心配だったのだ。龍驤はそんな神通に対して笑顔を浮かべ、優しく頭を撫でてやる。……身長の関係で年下の女の子が年上の女の子に対してお姉さんぶっているように見えるのが微笑ましい。

 

「ア……アアアァァ……ッ!!!」

 

 龍驤達が醸し出す和やかな雰囲気を吹き飛ばす雄叫びが上げられた。満身創痍ながらも艦娘を倒そうと、リ級が力を振り絞り立ち上がったのだ。緩慢な動きだが、それでも1歩1歩を踏み出し、龍驤達へと迫るリ級。だが、彼女は戦闘空間の変化に戸惑い、その動きを止めてしまった。

 

 空間が暗く暗く、夜の闇に染まっていく。――――夜戦の始まりだ。

 リ級が気付いた時にはもう遅く、龍驤達は既に遠くへと離れている。咄嗟に後を追おうとするが、視界の隅に映りこんだものがそれを押しとどめた。2人の艦娘、曙と満潮。そして気配で分かる。背後にももう1人の艦娘が居る。……霞だ。

 

「いっけえええぇぇ!!」

 

 曙の叫びを合図に3方から迫る砲撃と魚雷。リ級は何も出来ず、ただ身を滅ぼす業火に焼かれ、海の底へと沈んでいった。

 

『――――お疲れさーん。いやー、快勝だったな!』

「那珂ちゃん大活躍ー!!」

「イヤイヤ、君はほとんど何もやっとらんかったやろ? 活躍したんはウチやから」

 

 戦闘が終わり、横島から労いの言葉が掛けられる。途端に始まる自分が1番活躍したというアピールタイム。神通はついて行けずに慌て、霞や曙達は呆れ顔だ。

 

『それにしても、大分安定して勝てるようになってきたな。龍驤の開幕爆撃は強いし、神通や那珂ちゃんの安定感は頼もしいし、霞達も最近は3人での運用が多かったからかチームワークも抜群だしな』

 

 横島は上機嫌に皆を褒める。天龍が戦線から一時離脱してゲーム内時間で早5日。当初は全員が大破や中破をしての敗北、決定打を与えられずに戦術的敗北などが多かったのだが、今では皆の練度も上がり、何とか勝利の数を増やしてきている。

 天龍が抜けた中、最も頼りになっているのは軽空母の龍驤だ。天龍の様な何だかよく分からないデタラメな強さというわけではないが、空母の制圧力はまた違った頼もしさがある。

 横島は龍驤を頼り、龍驤は横島に優遇される。Win-Winの関係だ。(違)

 

「それはいいけど、ちょっと龍驤さんに甘え過ぎよ? 確かに軽空母である龍驤さんは強力だけど、それに頼り過ぎてたら他の戦術を練ることが出来なくなるわ」

『う……』

「それに、龍驤さんをちゃんと休ませてるの? ここ最近ずっと出撃してるけど、疲れが溜まったら当然ベストなパフォーマンスを発揮出来ないのよ? 龍驤さんを頼りにするのはいいけど、だからといってそれに拘泥するのは馬鹿のすることよ」

『うう……すんませーん』

「私に謝ったところでしょうがないでしょうが。ちゃんと龍驤さんに対して頭を下げて――――……」

 

 今頃執務室では横島が液晶(スクリーン)に向かってペコペコと頭を下げているのだろう。……もしかしたら土下座かもしれない。曙と満潮は2人の姿に教育ママとその息子を幻視した。

 

「それにしても疲れたわね……。はーぁ、近代化改修でもしてくれればもっと楽になるんでしょうに……」

「あのクズ、一向にしてくれないものね……まあ、それに関しては分からないでもないけど」

 

 そのまま曙と満潮は横島への愚痴を述べ始める。指揮に関しては今は特に無いようだが、それ以外の鬱憤が溜まっているらしい。その後も盛り上がる愚痴大会だったが、横島から帰還命令が出されたことで一旦中止となった。続きは帰ってから、一杯引っ掛けながらやることになるだろう。……傍目から見ればとても荒んだ光景である。

 

 

 

 

 通信を切り、液晶の電源も落とした横島は背中を伸ばし、深い息を吐く。戦闘の後はいつもこうだ。緊張と恐怖に凝り固まった身体を解し、吹雪が淹れてくれたお茶を飲んで一息入れる。熱めのお茶が身体に浸透し、心身をリラックスさせてくれる。

 

「はぁー、今日も無事にみんなが帰ってこれる……。どれだけ経っても心配なものは心配だよなー……」

 

 横島はまったりとしながらも腹をゆっくりとさする。未だ幼いと言える女の子達を戦いに行かせるのは、やはり胃にくるものがあるのだ。

 

「心配してくれるのは嬉しいんですけど、もう少し信用してくださいよ」

「アンタもいい加減慣れなさいよね」

 

 横島の様子に苦笑を浮かべるのは吹雪、呆れるのは叢雲だ。毎度のことにすっかりと慣れてしまった2人だが、始めの頃はけっこう嬉しがっていたことは公然の秘密である。

 

「ほら、提督。任務を達成したんですからちゃんと報酬を受け取ってください」

 

 大淀が吹雪達と談笑していた横島に端末を渡す。画面を覗いてみれば、確かに『敵空母を撃沈せよ!』の横に“達成!”の文字があった。

 

「ルーチンワークの如く任務画面を確認せずにいたから全然気付かなかったんだよなー」

「霞ちゃんに知られたら怒られますよ?」

 

 横島の発言に大淀は苦笑を浮かべながらもそう返す。まるでその光景が目に見えるようだ。それはともかく横島は端末を操作し、報酬を獲得する。海域の攻略はまだまだ序盤。僅かとしか思えないようなものでも、横島鎮守府にとっては貴重な資材だ。

 

「……ん?」

 

 何やら横島の視界の上方、光る球体が見える。そう、久々の任務報酬艦のお出ましだ。

 

「おっ? 久しぶりだな。今回は軽巡か重巡か、それとも戦艦か?」

「いや、流石に任務報酬で戦艦はないでしょ」

 

 叢雲のツッコミなぞなんのその。横島はウキウキ気分で光が艦娘になるのを待つ。――――そして、光が人の形を取る。

 

「……これは……!!」

 

 光の中から浮かぶシルエット。横島よりは低いが、それでも成人女性として平均ほどであろう身長。右肩に装着されている板状の何か。徐々に顕になってきたことから判別出来たのだが、胸当てによって押さえられた――それでも充分に大きいと言える胸。ミニスカート状の袴によって惜しげもなく晒された白い太腿。

 

 ――――美女だ。横島よりも外見年齢が上の、美女艦娘だ。

 

「航空母艦、赤城です。空母機動部隊を編成するなら――――」

「何で俺はもっと早くにこの任務に気付かなかったんだあああぁぁぁーーーーーっ!!!」

「ひえぇっ!?」

 

 自分の台詞が遮られ、両の目から血の涙を流して慟哭する横島の姿を見た赤城は面白いくらいに驚き、身をビクンと跳ねさせる。誰だってそうだろう。自分を見て血涙を流されたら堪ったものではない。“艦これ”はホラーゲームではないのだ。スプラッターなのは勘弁していただきたい。

 

「え、ええっ!? 一体どうして……!? あの、衛生兵!? 救急車!?」

「慌てない慌てない。わりといつものことだから」

 

 慌てふためく赤城に、叢雲はお茶を啜りながら落ち着くように促す。ちなみにだが叢雲が飲んでいるお茶はさっきまで横島が飲んでいたお茶だ。

 

「い、いつものことって……まさか、何か重い病気……!?」

「ああ、うん。まあ、病気と言えば病気かしらね……?」

 

 思春期の少年ならば、誰もが抱える苦しみだ。横島の場合、きっと不治の病なのだろう。

 

「あ、あの、大丈夫で――――」

「ああ、何て優しいんだ貴女は!! 苦しみ悶える僕をこんなに心配してくれて!!」

「――――って何事!!?」

 

 気付いた時には先程まで血涙を流して慟哭していた少年に手を握られ、何かとても良い声で口説かれ始める。横島の顔は血涙を流した事実など無かったかのように平常通りであり、彼の瞳はキラキラと無駄に輝いている。

 

「あ、あの……だ、大丈夫なんですか……? さっき、血の涙を流してましたけど……」

「ははは、あんなものは慣れっこです。ボクの友人みたいなものですよ! いや、もしかしたら貴女が心配してくれたことによって苦しみから解放されたのかもしれない。……流石はボクの愛した人だ!!」

「ええぇっ!? いや、あの、私達は初対面じゃ……!?」

「愛は時空も空間も越えるんです!! 人間と艦娘の種族を超えた愛にぼかーもー!!!」

 

 横島は戸惑う赤城をそのままに強引に話を進め、混乱している隙に乗じて唇を突き出し迫る。それは見事赤城の薄桃色の唇と接触を果たそうとしていたが、やはりそうは問屋が卸さない。

 

「あ、どっこいしょーーーーーーっ!!!」

「――――――ッッッ!!?」

 

 叢雲があと少しのところで止めたのだ。具体的には横島の肝臓に、持っていた槍の石突部分を叩き込んで。当然衝撃は内臓を突き抜け、哀れ横島は声を出すことすら出来ずに床に沈んで悶える。

 

「ちょ……!? む、叢雲、貴女ちょっとやりすぎよ!!?」

「大丈夫。これもいつものことだから」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」

 

 赤城の指摘に涼しい顔で返す叢雲。当然槍の下には横島の頭があり、石突でぐりぐりと痛みを与えるのも忘れない。どうでもいいことだが、横島の視界には叢雲のパンツが映っている。位置的に丁度見上げる形だ。……横島の煩悩が反応し、一瞬で痛みが消えてなくなる。

 

「それはともかく、ようこそ赤城。この司令官に代わって歓迎するわ」

「え、ええ。ありがとう叢雲……って、司令官っ!? あ、あなた、司令官に何てことをっ!!?」

「ああ、本当にいつものことだから気にしなくていいぜ。俺がこの鎮守府の司令官、横島忠夫だ。風呂やベッドの中までよろしくな!」

「あ、はい。よろしくお願――――もう復活してるっ!?」

「アンタいつの間に抜け出したのっ!?」

 

 叢雲のパンツのおかげで横島はすぐさま復活出来た。その様はどう考えても普通の人間ではない。彼は本当に人間なのだろうか。

 

「いやー、赤城さんみたいな美人が来てくれたらなーっていつも思ってたんすよ!」

「は、はぁ。どうも……」

「相っ変わらずこいつは本当にもう……!!」

「まあまあ叢雲ちゃん、落ち着いて」

 

 早速鼻の下を伸ばして赤城を口説き始める横島に、叢雲の苛立ちが募る。それを宥める吹雪だが、彼女もやはり面白くはない。先程横島が叢雲のパンツで復活したことを教えてやろうかという考えが吹雪の頭を過ぎったが、それは外から響いてくるパタパタという足音によって放り出された。

 

「……誰かしら?」

「この足音は明石だな。他にも1人居るようだけど……?」

「アンタ……流石にちょっとドン引きなんだけど……」

 

 足音で誰かを特定するのは素晴らしい技能なのだが、それを扱っているのが横島なので叢雲はちょっとした恐怖を感じてしまう。実際恐ろしい。

 やがて明石のものと思われる足音が執務室の前で止まり、ノックもそこそこにやや荒々しくドアが開け放たれた。

 

「やりましたよ提督!! 新たに提督好みの艦娘を建造出来ました!!」

「何だって!? それは本当かいっ!?」

「何キャラなのよ、その反応は……」

 

 明石は意気揚々と横島に報告する。実はこの明石、横島に建造と開発を一任されたせいか横島に対する好感度がかなり上昇したのである。しかも()()()()()()()資材を趣味に使ってもよいという好待遇だ。勿論、度が過ぎれば怖いお仕置きが待っている。

 

「ええ、本当ですよ! ……ほら、入ってきてください!!」

 

 明石は背後に控える1人の艦娘に声を掛ける。明石が道を空け、執務室に入ってきたその艦娘は、冷たく、静かな、それでいてどこか温かみのある目で横島を見つめ、自らの名を告げる。

 

「――――航空母艦、“加賀”です。あなたが私の提督なの? ……それなりに、期待はしているわ」

 

 横島を真っ直ぐに見つめ、加賀はそう言った。赤城に続き、2人目の正規空母の登場である。これにより、横島鎮守府はよりカオスを深めていくことだろう。

 とりわけ、これから暫くの間は鎮守府が地獄の様相を呈するのだ。龍驤、赤城、加賀という空母が食い散らかす、大量の資材によって――――。

 

 

 

 

 

『ある意味、地獄の始まり』

~了~

 




序盤の序盤で赤城と加賀が同時に来る喜び――――を遥かに上回る苦しみ……!!

遠征を回せないから資材が……!!
駄目だ!! 被弾するな!! 中破するn大破しやがったああああああああ!! ▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂うわあああああああ

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