さて、赤城と加賀を加えた第一艦隊は現在1―3を攻略中である。これは加賀が横島に自分の実力を見せるために進言した結果だ。
メンバーは那珂を旗艦に神通・皐月・深雪・赤城・加賀。ちなみに今回は3回目の出撃であり、任務『敵艦隊を撃破せよ!』と『敵艦隊主力を撃滅せよ!』は達成済みである。
それでもまだ出撃を繰り返すのは、主に那珂の「那珂ちゃん最近活躍してないから、ここでしっかりとアピールしておかないと!」という意見と、加賀の「1度目も2度目もボスマスに着かなかった……戦艦を沈めるまで止める気はないわ」という意見が出たからだ。
横島としては2人の言葉を無視して終わらせてもいいのだが、2人は見るからにやる気満々であり、他の4人も苦笑はしつつも那珂達の意見に賛成しているのだ。皆がそう言うのなら仕方ない、と横島は諦め、それでも皆の疲労を考え、今回か、その次には終わらせるつもりである。
『そんなわけで、頼むぞー羅針盤妖精』
やや黄色がかったポニーテールの羅針盤娘が「えいえいえーいっ」と勢い良く羅針盤を回す。そうして示された針路は、加賀が望んでいたボスマスだ。
『いよっし! 加賀さーん、次はボスとの戦闘だぜ』
「ようやくですか……」
横島の言葉に、加賀は静かに答える。だが、見る者が見れば分かるだろう。彼女から濃密な闘志が溢れていることを。今まで散々お預けされていたのだ。今の加賀は
「何だか凄い気合入ってるよね、加賀さん」
「加賀さんって、ああ見えてかなりの激情家なのよねー」
「むむむ、気合なら那珂ちゃんだって負けないもーんっ!」
それぞれがボスとの戦いを前に気合を入れ、海上を進んでいく。相手は戦艦。それでも皆がある程度余裕を見せているのは、それだけ自分の練度に自信があるからか。
『みんな分かってると思うけど、相手は戦艦なんだから油断はするなよー?』
横島は一応皆に釘を刺す。彼女達がいるのは戦場。一瞬の油断が命取りとなる場所だ。横島の言葉に答えるのは赤城。油断や慢心とは一切無縁の女性だ。
「大丈夫です。私達は油断なんてしていませんよ。これは余裕というものです」
自らの力量に誇りを抱いている赤城は胸を張り、横島にそう断言する。その姿は自信に満ち溢れており、表情にも油断は微塵も見られない。流石は油断や慢心とは一切無縁の女性だ。
『なら良いんだが……さて、おしゃべりはここまでだな』
横島のその言葉を皮切りに、皆の様子が一変する。柔和な表情を湛えていた可愛らしい少女達から、凛々しくも引き締まった表情を湛えた戦士達へ。
彼女達の見据える先。そこには艦娘達の敵である深海棲艦の姿がある。
「……最後のお仕事だね」
先頭を走る那珂は一瞬だけ背後の皆を振り返ると、まるで猫のように口をにんまりと歪ませ、号令を掛ける。
「那珂ちゃんアイドル艦隊っ! 攻撃を開始しまーっす!!」
「……何とも締まらないわね」
那珂の号令に、赤城はそっと溜め息を吐いた。
「……作戦終了。那珂ちゃんアイドル艦隊、帰投します」
『あいよ、お疲れー』
横島は加賀との短いやり取りの後、通信を切って一息入れる。戦艦との戦闘だが、結果だけを言うならばあっさりと終わった。赤城と加賀の開幕爆撃。これにより戦艦ル級を含む3隻が撃沈。残りの2隻も那珂と神通、皐月と深雪にそれぞれ沈められ、“那珂ちゃんアイドル艦隊”は無傷で勝利を収めることが出来た。
……が、横島にとって1番の収穫は別にあった。
――――加賀も霊力が強い。天龍には及ばないけど、他のみんなよりはかなり強いみたいだな……。
そう。それが1番の収穫だった。赤城も加賀も龍驤の
矢を射る瞬間、2人から霊力が噴き出したのだが……特に、加賀は異様だった。
――――
加賀から噴出し、矢に集中した彼女の霊力。戦艦ル級が開幕爆撃で撃沈したのは恐らく加賀の力がほとんどだろう。それほどまでに加賀の霊力は強かった。
天龍に続き、強大な霊力を持った艦娘の出現はありがたい。ありがたいのだが、いくつも疑問が残る。
何故あれほどに霊力が強いのか。何故霊力光が2色なのか。何故天龍と加賀の2人だけなのか。この2人の共通点は。今後も同じような艦娘が現れるのか。疑問はまだまだ尽きない。
それに、ここ最近艦娘達をより注意深く見ていると、艦娘達は全員が霊力持ちであることが分かった。深海棲艦を攻撃する時、深海棲艦からの攻撃を防御する時、白雪や深雪といった霊力を感知出来ない艦娘達も無意識に霊力を扱っていたのだ。
霊力を感知出来る艦娘と、出来ない艦娘。この違いも気になる所なのだが……横島はガリガリと頭を掻くと椅子から立ち上がり、背筋を伸ばして凝り固まった身体をリラックスさせる。
「あ゛~……腹減ってるせいか、上手く考えが纏まんねーな。那珂ちゃん達が帰ってきたらメシにするか」
首や腰をボキボキと鳴らし、軽くストレッチをする横島。吹雪はそんな横島を見つつ、彼の為に熱いお茶を淹れる。
横島は食事をする際、出来るだけ多くの艦娘達と時間を合わせる。その方が多くの艦娘達と交流出来るし、何より男が自分1人だけなのでハーレム気分を味わえるからだ。
吹雪達艦娘は訓練や出撃で集合するのが遅れてしまっても待ってくれる横島に、感謝と嬉しさを抱いている。吹雪はそんな自分を単純だと思ったりもするが、その気持ちを否定しようとは考えない。やはり、純粋に嬉しいからだ。
「はい、司令官。お茶が入りましたよ」
「お、サンキュー」
横島は吹雪からお茶を受け取り、ふーふーと冷ましながら啜る。熱がじんわりと身体に広がり、それはやがて心も落ち着かせてくれる。
「今日の晩飯はなーにかなっと」
横島は知らない。正規空母が、一体どれだけの
「………………マジかこれ」
鎮守府内の食堂、その一画。横島の眼前に広がる光景は想像の埒外だった。
赤城と加賀の補給を兼ねた夕食。彼女達は2人で1つのテーブルを占領し、しかも大盛りとかそういった次元ではないくらいに大盛りにされた様々な料理を一杯に広げている。
「……こんなに食えるのか?」
「鎧袖一触よ。心配いらないわ」
「お残し? ……いえ、知らない子ですね」
特に問題なく食い尽くせるらしい。2人とも心なしかキラキラと輝き、鼻息が荒くなっているように思える。もしかしたら戦闘の時よりも色々と気合が入っているのではと思えてしまうのはどうしてだろうか。とにかく、2人ともかなりご機嫌なのは理解出来る。
「……まあいいや。これ以上俺も我慢出来ねーし……吹雪、いつものよろしくー」
「はいっ、司令官!」
横島は赤城達から眼を逸らし、吹雪へと声を掛ける。彼等の言う“いつもの”とは、吹雪の号令による“いただきます”だ。曙や満潮からは「子供っぽい」と嫌がっているが、そのわりに彼女達は毎回とてもよく通る声でいただきますをしている。霞はそんな2人をいつも生暖かい眼で見つめているのだ。
「それでは皆さん――――いただきますっ!」
「いただきまーっす!!」
全員の声が重なり、食事が始まった。この食堂には特にルール等は存在しない。せいぜいが一般常識的に迷惑な行為をしないこと、いただきますはちゃんとすること、みんな仲良く……ぐらいなものだ。少々行儀が悪いが、会話しながらの食事も禁止されていない。
やはり艦娘と言っても年頃の女の子達だ。堅苦しいのよりはこの方が喜ばしい。
「しっかし……
「これが、正規空母の力……!!」
「ハラショー。こいつは凄まじいね」
「本当だね……」
ちゃっかりと横島の横を取った不知火と響が赤城達の食事風景に慄いている。横島の対面に座る磯波も赤城達に眼が釘付けだ……と見せかけて横島の食事風景に釘付けだったりする。横島は食べ方は豪快かつ汚いが、実はちゃんと綺麗に食べているのだ。1つの文章の前後で矛盾が発生しているように見えるが、それは気のせいである。
「み、深雪様だって負けないからなー!!」
「大食いなら任せるクマー!!」
「そこぉ! 無理に張り合おうとするんじゃねえ!!」
赤城と加賀に対抗心を燃やした一部の負けず嫌いな艦娘が大食いをしようとするが、それはたまたま近くにいた天龍が止めてくれた。無理な大食いのせいで翌日腹を壊しでもされたら堪ったものではない。
未だ完治していない天龍に負担を掛けるのは申し訳ないが、隣には龍田もいるのだ。彼女がいれば大きな問題に発展することもないだろう。
「ちなみにだけどな、あいつの周りには特殊な領域が存在してるんだよ。それは近くの料理を自分の所に引き寄せて、その場をほとんど動くことなく食事を続ける……通称“赤城ゾーン”っつー領域がな」
「……っ!!!」
「ま、マジクマ……!!?」
「それだけじゃねえ。あいつは“赤城ゾーン”に入った料理を瞬時の内に食っちまうんだ。その様はまるで料理が幻の様に消えていくことから、通称“赤城ファントム”と呼ばれていて――――」
「大真面目な顔で純粋な子達に嘘を教えないで下さいっ!!!」
ついに赤城本人から苦情が来てしまった。龍田が止めることなくそのままにしていたのは、何か赤城達の食事の仕方に思うところがあったのか、それともその方が面白そうだったのか……。
「うふふふふ~」
龍田はギャイギャイと赤城と言い争っている天龍を見て、楽しそうに頬を緩める。……どちらが正解か、あまりにも分かりやすい。
「何か恐竜を滅ぼしそうな話してんな、あいつら」
「何を言うとるん?」
「いや、こっちの話。……それにしても本当によく食うんだな、空母って」
「赤城や加賀達は大食らいで有名やからね。そのくらいは普通だよ」
「……そういう龍驤もかなりの量を食べているけどね」
「んん?」
磯波の隣に座る龍驤。彼女の前には赤城達には到底及ばないものの、それでもかなり大量に料理が置かれている。彼女は軽空母。如何に正規空母である赤城達より燃費が良いとは言え、それでも駆逐艦達よりも多くの
「い、いやだってウチは軽空母だし……ああ、でも。司令官は、こういう大食らいの女の子って嫌いなんかな?」
「俺はちゃんとしっかり食べる子の方が好きだな」
「即答!? いやでも……そうなんか。ふふふ、なるほど……やっぱ見る目あるで、君ィ」
横島は現実では貧乏少年である。食事の大切さは何より理解しているのだ。……そのわりに煩悩の前に食欲が消えたりもしているが、横島は食べられることの大切さをよく理解している。だからこそしっかりとした食事を取る女の子の方が好みなのだ。
龍驤はその外見から想像が出来ないくらいによく食べる。それがちょっとしたコンプレックスになっていたりもするのだが、この分ではそれも近い内に解決するだろう。横島は知らずの内に龍驤のメンタルケアを行っていたのだ。
「……何やら急におかわりをしたくなりました。明日の為にも、ここはしっかりと食べておきましょう」
「そうだね。明日の為にもしっかりと食べなければいけないね」
「あ、あの、私もおかわりを……」
横島と龍驤の話を間近で聞いていた不知火達は小食のくせにおかわりをしに行く。既にお腹は一杯気味なのだが……負けられない、という思いが彼女達を突き動かした。なおこの3人は後で腹を壊し、翌日の出撃は出来なくなった模様。当然横島に“めっ”と注意されるのであった。
そんな風にその日は過ぎていき、翌日も、その翌日も同じように時が過ぎていく。
まずは練度上げの為に簡単な海域を繰り返し攻略し、遠征を回す。出撃や訓練で空いたお腹を間宮の料理で満たしていく。赤城達が来てから間宮の仕事量は激増したが、彼女は「私、今とても輝いています……!!」と、とても満足気だ。大淀から聞いた所、大本営からの連絡でそろそろもう1人サポートを付けるという話も出ているそうだ。
そうやって日は過ぎ行き、皆との絆が深まっていく。新たな仲間。軽巡洋艦と駆逐艦。
だが、新たに得るものがあるということは、それとは逆に失われていくものがあるということだ。
横島は加賀の強さに関する情報を得るため、空母の中では1番多く出撃させた。しかし、分かることは少なく、ほとんどの疑問に回答は得られなかった。分かったことと言えば加賀はチチが大きく、シリもフトモモも横島好みであるということ。意外と激情家であるということ。そして可愛いということ。
そんなだから気付かなかったのだ。加賀という自分好みの美女を多く出撃させるということ。吹雪や大淀から正規空母について説明を受けていたのに、鼻の下を伸ばしてすっかりと忘れ去っていたこと。煩悩が、彼の危機管理能力を超えていたことを。
そんなだから、
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
端末のとある部分を見つめる横島・吹雪・大淀・霞の4人。何度
「……で、どうするのよこのクズ」
「………………」
霞の罵倒に横島は反応出来ない。彼はまるで空母を運用しすぎて資材を全部溶かしてしまったかのような顔をしている。――実際そうだった。
資材? ああ、鎮守府の資材か。
『燃料:8 鋼材:21 弾薬:218 ボーキ:115』<ドンッ!!☆
横島が溶かした。
「ぐえー!」
「司令かーーーーーーん!?」
横島は自分に何が起こったのかまるで理解出来ていないかの様な呆然とした表情でビターンと仰向けに倒れこんだ。ご臨終だ。
やはり加賀と赤城、時々龍驤の連続出撃は遠征や任務で得られる資材よりも消費が激しく、一気に資材が溶けていったのだ。
この事態に早くから大淀と霞は気付いていたのだが……2人はあえてスルーを選ぶ。勿論その身を以って資材の大切さを理解させるためだ。丁度他の艦娘達も加賀達の強さに頼りきりになってきていたので、タイミング的にも丁度良かったと言える。
このままではまともな鎮守府運営など出来はしない。現状を打破する為、これから横島達が取るべき手段。
それは第3艦隊、そして第4艦隊の開放である。
横島は大淀から第3艦隊開放の条件を聞いている。まず目指すは、那珂と神通の姉である軽巡洋艦
はたして、横島鎮守府はこの危機を乗り越えることが出来るのだろうか――――。
第二十二話
『溶けて消えて』
~了~
「煩悩少年も、ベッドの上では純情だな……」
という台詞を艦娘の誰かに言わせたい。(挨拶)
現在の横島鎮守府の司令部レベルは20くらいかな……?
それで戦艦と重巡がおらず、駆逐と空母が主戦力なら多分あんな感じの消費になると思いますけど……ちょっと自信ないですね。
最近は枯渇とか言う前に全然掘りませんし……。
それではまた次回。