煩悩日和   作:タナボルタ

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ダメージ(資源)は更に加速(枯渇)した。




はい、大変お待たせいたしました。
今回2回~3回に分けた方がいいかなーとも思いましたが、結局は1話に纏めました。個人的には満足……。
その代わり読みにくかったり、何か変な感じになっている可能性が大となっております。

わりと期間が空いてしまっての投稿がこんなのですが、なにとぞご容赦ください。


追撃のグ〇ンドヴァイパー

 

「ここの司令官はどんな人なのかなー? 優しい人だといいよねー」

「女性にルーズな人で、それと同時に優しい人でもある。……とは聞いているけれど、会ってみない事には分からないわよね」

「ちょ、ちょっと怖いかも……」

 

 賑やかに執務室への廊下を進むのは新たに建造された軽巡洋艦娘の3人。それぞれが同じ制服を着ており、姉妹艦であることが分かる。

 まるで巫女装束をセーラー服にしたような外見のそれは一見奇妙にも見えるが、見慣れてくると不思議な魅力を感じさせてくれる。何がどう、とは言えないが、玄人好みの制服と言えるのではないだろうか。

 

 長良型軽巡洋艦一番艦“長良”、同二番艦“五十鈴”、同三番艦“名取”。それが彼女達の名だ。それぞれが高い攻撃能力を持っており、これからの海域攻略に欠かせない戦力になってくれるだろうことは想像に難くない。……まあ、()()()()()()()ではそれも難しいことなのだが。

 

「……」

 

 賑やかに前を進む3人の後をついて行く駆逐艦娘が1人。紫銀の髪に紺色のセーラー服。そのデザインは睦月型の物と同じであり、彼女は睦月型三番艦“弥生”である。

 きりりと上を向いた細い眉毛、強く前を見つめる眼やきゅっと結ばれた唇から、よく人から「怒ってるの?」と聞かれるらしい。本人は緊張のあまりそんな表情になっているらしいが、それが周囲にあまり伝わっていないのが不憫なところか。

 今も長良達の会話に参加することなくただ黙々と後ろをついてくるだけの弥生に、長良達は「弥生の機嫌が悪いのではないだろうか?」という疑問を抱かれている。何とも難しいものだ。

 

 そうこうしている内に辿り着いた執務室。皆を代表して長良がドアをノックし、入室の許可を取ろうとするのだが……。

 

「……返事がないね?」

 

 首を傾げる長良。もしかしたら執務室を留守にしているのかとも考えたが、ドアを挟んで微かに室内の声が聞こえてくることから留守ではないことは分かった。ではこちらに反応出来ないほど重要な話をしているのか、とも考えたのだが、生憎と長良は長時間待つ、ということが苦手だった。

 長良は臆することなくノブに手を掛け、許可を取ることも無くそのままドアを開けた。自らの姉の行動に眼を剥く五十鈴と名取だが、時既に遅し。ドアは完全に開け放たれ、長良は意気揚々と挨拶をした。

 

「失礼します! 軽巡、長良です! よろしくおねが――――」

 

 しかし、彼女の言葉は不自然に止まる。眼をぱちくりと見開き、眼前の光景が何なのかを理解しようと脳をフル回転させているのだ。五十鈴と名取は長良の様子を不審に思うも、釣られるように執務室へと視線を移す。果たして、その光景は――――。

 

 

 

 

「すんませんすんませんすんませんすんませんすんまっせーーーーーーん!!!」

「土下座すりゃ何でも許されると思ってんじゃないわよ、このクズ」

「序盤から戦艦や空母を使っていたら資源がいくらあっても足りない、と言っていたのに、どうして資源を溶かしているんです? 納得のいくお答えを聞かせてもらいたいのですが?」

 

 提督と思しき男性が、眼鏡を光らせている大淀と腕を組んで仁王立ちしている霞に対し、まるでコメツキバッタの如く土下座をしている。しかもその男性の尻を叢雲がげしげしと蹴っているという光景が広がっていた。

 提督と思しき男性の背中には初春が足を組んで座っており、優雅に扇子を扇いでいる。そんな珍妙な状態でも気品を損なわない初春は正直只者ではないだろう。

 

「……」

 

 長良は無言で扉を閉める。まるで理解が追いつかない。というか理解出来るわけがない。着任早々あのような光景は思考が停止して当然だ。現に長良だけでなく、五十鈴や名取、弥生すらも開いた口が塞がらない様子だった。

 

「……どうしよっか?」

「……どうしましょう?」

 

 そう簡単に答えが出るはずも無く、結局、彼女達が再びドアを開いたのはそれから10分後のことだった。

 

 

 

 

 

「俺が司令官の横島忠夫だ。……すまない。せっかく建造されたというのに、こんな鎮守府で本当にすまない……」

「あ、い、いえ、そんな……」

 

 正座の体勢で腕を後ろ手に縛られている横島が長良達に深々と頭を下げる。キリリと引き締まった顔が何とも逆にお間抜けだ。ちなみに横島の腕を縛っている縄は叢雲が握っている。その様はまるで罪人をひっ捕らえて来た岡っ引きのようだ。

 五十鈴は思わず引きつった笑みを浮かべる。提督と艦娘の様子から厳格な上下関係が築かれていないというのは理解出来た。それは色々と問題もあるが、今は置いておこう。しかし、いくら何でも艦娘が提督に暴力を振るうのはどうなのだろうか? いや、まあ提督がそれを当たり前に受け入れているあたりもっと気安い関係なのかもしれないが、それでも限度があるのではないかと思ってしまう。

 

「――――とまあ、これが現在の状況だ。悪いけど、しばらくはまともな出撃は出来ないんだよ」

「はあ、そんなことが……」

 

 五十鈴が少々物思いに耽っている間に説明は滞りなく行われた。それによれば空母の使いすぎで資源が枯渇したらしい。初心者によくあることだ。五十鈴も空母の強さは知っているし、序盤から正規空母2人、軽空母1人という戦力を頼る気持ちはよく分かる。しかし、いくら強いからと言って運用しまくればこうもなるだろう。これには苦笑の1つも浮かぼうというものだ。

 

「そんなわけで君たちに対する償いなんだが……すまない。今の俺には自分の身体で償うことしか出来ない……」

「――――ッ!!?」

 

 気付けば、横島が上半身裸で自分の手を握っていた。五十鈴はそんな理解不能な状況に腰を抜かしそうになる。横島の隣にいた吹雪や初春もいつの間にか抜けられていた縄と横島とを交互に見て驚愕に慄いている。

 

「さあ、あなたも僕との贖罪という名の愛の海に溺れて互いを貪り合うよーーーにーーーっ!!」

 

 横島としては長良達3人は外見年齢的にもう少し育って欲しい。育って欲しいが、それはそれ。長良達は横島的にストライクゾーンギリギリの外見年齢だったのだ。その中でも特に横島好みだったのが五十鈴。何が、とは言わないが、五十鈴はとある部分がとても大きい。そして中々に気が強そうだ。だから横島に狙われたのだ。

 五十鈴は突然の展開について行けず、ただ驚きで身を固めるだけ。このままでは五十鈴の貞操のピンチだ。――――しかし、こんな時に邪魔が入るのはいつものこと。今回も邪魔が入るのは当然だった。

 

「はいはい、今はそんなことしてる場合じゃないでしょ? ……それにしても、いくら五十鈴の胸が大きいからって、私とほとんど外見年齢が変わらないのに欲情するのはおかしいと思うのよ」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!?」

「ふむ。気にする所はそこなのか、叢雲よ」

 

 五十鈴が横島の毒牙に掛かる前に、叢雲が横島の顔面を掴んで止めた。魔のムラクモ・クローは絶対に外せない。横島もブリッジで耐えるがそのまま片手で持ち上げられ、ワンハンドスラムで投げられてしまった。

 

「ぎゃふんっ!? ……くっ、また身体が勝手に……っ!!」

「……ああ、そういう」

 

 初春のツッコミと叢雲の弁明もBGMに、五十鈴は1人納得していた。つまり、提督を止めるにはああいうことをしないといけないのだと。

 提督と周りの艦娘達に険悪な雰囲気は微塵も無い。つまり、この鎮守府ではこういったやり取りが普通に行われており、それがスキンシップになっているのだろう。これはもう慣れるしかない。

 

「……いや、やっぱりおかしいでしょ」

 

 慣れるしかないのだ。(諦観)

 

「……司令官、けっこうイイ身体してますね!!」

「あ、あの……そういうことはもっと、ちゃんとお付き合いしてからでないと……」

「ええー……」

 

 長良と名取は混乱で眼をぐるぐると回しながらそう言った。早くもこの横島鎮守府の怪しげな空気(通称GS(ゴーストスイーパー)粒子)に侵されて来ているらしい。順応性が高いのは良い事だ。……良い事なのだ。

 まさかの姉妹の裏切り(?)に愕然とする中、ついに五十鈴にとっての最後の良心たる弥生が動く。弥生は柳眉を逆立て、横島の前に立つ。横島は咄嗟に気付けなかったが、弥生の丈の短い制服からチラリとお腹が見えたことで気付いた。

 

「……司令官」

「や、弥生……」

 

 弥生を見上げる横島と、横島を見下ろす弥生。どちらの立場が上か、何とも分かりやすい図だと言えよう。

 五十鈴は内心「いったれいったれ!」と願わずにいられない。この鎮守府でまともなのは自分達だけなのだ。何とか出来るのならば何とかしなければ……!! よく分からない使命感が五十鈴のとても大きな胸に宿る。

 

「……司令官」

「弥生……」

「……」

「……」

 

 2人の間に沈黙が漂う。目と目を合わせ、視線を逸らさずに見詰め合う姿に五十鈴は緊張を覚える。……そして。

 

「……」

「……弥生。こんな俺を――――心配してくれているのか」

「ゑ」

 

 五十鈴の期待は――――裏切られた。

 

「背中……大丈夫、ですか? 強く、打ち付けられたみたい、ですけど」

「ああ、大丈夫だよ。叢雲もちゃんと手加減してくれてるし、何よりこういうのは慣れっこだからな! ……でもありがとな、弥生。ほーれ、頭をなでなでしてやろう」

「ん……止めて、ください」

 

 止めてくれ、とは言っているが、弥生は自分の頭を横島の手に擦り付けるようにしている。弥生は怒っていたのではなかった。そう、弥生はとても心優しい少女なのだ。ならば彼女が横島を害することなど有り得ないと、五十鈴は気付くべきだったのだ。

 

 ――――弥生……あなたって子は……。

 

 五十鈴は弥生の姿を見て、先程までの自分を恥じる。そうだ。何事も否定から入るべきではない。まずは相手を理解するところから始めるべきなのだ。

 横島は弥生を見て何と言ったか。「心配してくれているのか」と言ったのだ。その表情からいつも怒っていると勘違いされる弥生の思いを読み取り、理解してみせたのだ。横島は()()を実行している。ならば、自分もそれを実行してみせねばならないだろう。

 五十鈴はぐるぐるとよく回る眼と頭でそう考えた。……もはや手遅れである。

 

 『社会的な価値観』がある。そして『艦娘の価値観』がある。昔は一致していたが、その『2つ』は横島鎮守府(このばしょ)では必ずしも一致はしていない。この鎮守府で過ごし、それを見届けろ。皆はそれを祈っているぞ。

 

 ――――そして感謝する。ようこそ……『GS(ギャグ漫画)の世界』へ……。

 

 

 

 

 

 

「――――はい、そんじゃみんなでこれからの事について考えよう」

 

 横島は先程までのことを無かったかのように会議を進める。場所は全艦娘が集まれる無駄に広い会議室。議長は当然横島であり、そのサポートに就くのは吹雪だ。大淀はホワイトボードに板書する書記係だ。

 とりあえずとして横島が出した方針は以下の通り。

 

 1,燃費の良い睦月型、及び練度の低い軽巡洋艦で1―1を回す。『敵艦隊を撃破せよ!』『敵艦隊主力を撃滅せよ!』『敵艦隊を10回邀撃せよ!』の任務を受注しておき、資材を確保する。これは新人である長良型や弥生の練度上げも兼ねている。

 

 2,睦月型以外の駆逐艦と軽巡洋艦はローテーションで遠征を回す。『警備任務』『防空射撃演習』を優先して回し、余裕があれば『海上護衛任務』も回す。

 

 3,軽空母、空母は全面的に出撃禁止。現実は非常である。

 

「とまあ、こんな感じだな。空母の3人は色々と言いたいこともあるだろうけど、それは飲み込んでくれると嬉しい」

「仕方ありません。これは調子に乗って出撃し続けた私達の責任でもあります。……私に異存はないわ」

「加賀さんの言う通りですね。私もついつい羽目を外してしまって……恥じ入るばかりです」

「提督は気にせんでもええよ。出撃出来ひんのは残念だけど……そこは、駆逐艦達の訓練でも見ることにするよ」

 

 どうやら加賀達も納得しているようだ。他の艦娘達も特に異存は無く、これからの方針は恙無く決定した。次は、現在の資材についてだ。

 

「現在、全ての資材が150以下であり、これを以前のレベルにまで戻すのには少々時間がかかるでしょう。運営からの補充……という名の自然回復もありますが、それは微々たるものです。開発や建造の消費に耐えられるものではありません」

 

 大淀は資材について解説しながらホワイトボードに板書していく。要点を押さえたそれは分かりやすく纏められている。

 

「そこで、だ」

 

 横島が大淀の説明が止まったのを見計らい、ピッと指を立てて対策を話す。

 

「工廠には今までの開発任務で溜まりに溜まった使わない主砲や機銃、魚雷なんかが保管されている。これを廃棄すれば、少なくとも鋼材と弾薬は微量ながら確保出来るはずだ。……何とも貧乏臭いけど、やらないよりはマシだろう」

 

 横島の言葉に艦娘達は首肯を返す。事実、使わない装備は本当に使わない。ならば、資材に変わってもらった方が装備達も喜んでくれるだろう。

 横島は明石を見やり、現在どの程度の装備が眠っているのかの報告を促す。

 

「明石、廃棄に回せる装備はどのくらいだ?」

「………………」

「……? 明石、どうしたー?」

 

 明石は横島の問いに答えることなく、冷や汗をダラダラと流しながら顔ごと視線を逸らしている。その反応からして、彼女が何やら疚しいことを隠していることがバレバレとなっている。鎌首を擡げてくる嫌な予感に、横島の口元が引きつった。

 

「……あの、まさか……」

「はい、あの……ゼロ、です……」

「ゼロォッ!?」

 

 当たってほしくない予感が的中してしまう。何故そんなことになってしまったのか? 話を纏めるとこういうことらしい。

 明石はある程度なら資材を使っていい事を認められていたのだが、この資材には使われていない装備も含まれている。明石は趣味の開発研究に少しずつ装備を廃棄して資材を確保していたのだが、あともう少し資材があれば完成するかもしれない。今回は駄目だったが、あと少し資材があれば成功していたかもしれない。

 あと少し……あと少し……その積み重ねが余剰装備ゼロである。とりあえず明石にパチンコをさせてはいけないことは理解出来た。

 

「あ゛ー……まあ、これは俺の責任でもあるのか。それで、何を開発してたんだ? 10や20で利かない数の装備があったんだ。それなりの物を作ろうとしてたんだろ?」

「あ……はい」

 

 明石は変わらず視線を逸らしたまま曖昧に返事をする。もう結末が読めてしまっているのが辛い。

 

「で、何を造ってたんだ?」

「……装砲……です」

「ん?」

「……46cm三連装砲です……」

「っ!!?」

 

 最初は罪の意識からかぼそぼそと聞き取れない声量で答えたのだが、大淀の笑顔の圧力に負けてちゃんと聞き取れる声を出した。そうして返ってきた内容に大淀は柄にも無く噴き出してしまう。

 

「よ、46cm砲って……!! 戦艦の装備じゃないのっ!! 何でそんな物を……!?」

「だって! 私のような技術者はロマンを求める生き物なのよーっ!! 世界最大最強の装備を造ろうとしてもおかしくないじゃない!!」

 

 わあっと涙ながらに叫ぶ明石に、横島は苦笑と共に何とも言えない溜め息を吐く。横島は現実世界でこういった光景を何度も見てきた。上司の美神しかり、その友人の冥子しかり。何なら自分もそうだ。不謹慎ではあるが、横島は明石に親近感さえ覚える。

 

「それで、その46cm砲ってのはちゃんと開発出来たのか?」

「……」

「……」

「……」

「……おい」

 

 痛い沈黙が過ぎ去り、明石は意を決して行動を開始する。自らの頭をコツンと叩き、ウインクにペロリと舌を出す。

 

「失敗しちゃいました☆」

 

 明石渾身の、媚びっ媚びのてへぺろだ――――っ!!

 横島は美少女に弱く、明石は当然ながら美少女だ。明石としても決してふざけてこんな真似をしたのではない。ただ、場の空気を和ませようとちょっとした茶目っ気を出しただけなのだ。(矛盾)

 

 

 だがそれが逆に横島の逆鱗に触れた!

 

 

「――――龍田、時雨、不知火」

「――――了解」

「ひいぃっ!!?」

 

 横島が指をパチンと鳴らし、()()()()()の名前を呼ぶ。すると、ほんの一瞬の間に名を呼ばれた艦娘が明石を逃がさないよう取り囲んでいたのだ。語らずとも意図を察する艦娘達……これも横島に馴染んだ証拠と言えるだろう。

 

「い、嫌だー! 死にたくないっ! 死にたくなーい!!」

「安心してください。殺しはしません。ただし、この不知火があなたに罰を与えましょう。12時間耐久ロデオマシンの刑か、不知火の手による12時間耐久オイルローションマッサージの刑か……好きな方を選びなさい」

「い、いやあああぁぁぁっ!!?」

 

 明石は悲痛な叫びを木霊させ、会議室から退場した。横島は席から立ち上がり咳払いをして――――

 

「さて、明石のお仕置きの録画――――じゃなくて、資材の備蓄を始めようか」

「……はーい」

 

 横島の宣言に、誰も異を唱えることはなかった。ただ、何かもう色々と気の毒そうに横島と明石が退場した扉を眺めるだけである。

 

 

 

 

 そうして始まった資材備蓄大作戦。皆は文句を言うことなく、出撃に遠征にと張り切ってくれている。曙や満潮はことあるごとに意見を言ってくるが、それは資材の確認をちゃんとしているのか、皆の疲労の溜まり具合はどうかといった、非常に助かるものばかりだ。単なる罵倒ではなく、こういった風に言葉を掛けてくるようになったのは仲が徐々に深まっている証拠であろう。

 

 忘れてはならないのが開発と建造。これらはただでさえ少ない資材を消費するのだが、任務を受注していれば報酬で得られる資材は()()()()()()()()()()プラスとなる。微々たるものだが、こういった積み重ねがいずれ山となるのだ。

 現在の備蓄量は燃料が700、弾薬と鋼材が800、ボーキが500といったところ。順調に溜まってきている。

 

 そして、ここで嬉しいことが起こる。

 1度目の建造によって新しい艦娘が着任したのだ。それは初期艦候補の1人、横島が“綺麗な髪”と褒めた、駆逐艦の女の子。

 

「“五月雨”っていいます。護衛任務はお任せください!」

 

 ドックから歩み出てきたのは白露型6番艦の五月雨。彼女は横島の姿を認めると、その顔に笑顔を咲かせて駆け寄った。

 

「えへへ、ようやくこっちに来ることが出来ました! 提督、これからよろしくお願いします!」

「おう、よろしくな! こっちには他の初期艦のみんなもいるからさ。分からないことがあったらまずはその子らに聞いてみてくれ。……まあ、漣はまだいないんだけどな」

 

 五月雨と談笑をしつつ、横島はまず工廠内を案内する。工廠とは艦娘達が生まれ来る場所。そこが気になるというのは当然のことだろう。

 

「――――ふぇっ?」

 

 五月雨が驚きに声を上げる。ずるりと足が前方に滑ったのだ。五月雨は気付かなかったのだが、彼女が足を踏み出した場所に、()()()()ビー玉の様な物が転がっていて、それを踏んでしまったのだ。

 五月雨は何とかバランスを取ろうと両腕をわたわたと振るが、それは何の役にも立たず、遂には完全にバランスを崩して妖精さん達が作業をしている機械に突っ込みそうになる。

 

「ひゃああああっ!?」

 

 自分に訪れる未来に眼を瞑り、来るであろう痛みを覚悟する。着任早々ドジを踏んだ自分の間抜けさ加減に涙が出そうになるが、今はとにかく痛みが小さいことを祈るばかりだ。

 そうして数秒、十数秒……。いつまで経っても痛みは襲ってこない。代わりに伝わってくるのは、何か優しい暖かさ。

 

「……五月雨、大丈夫か?」

「……え? ……ええぇっ!?」

 

 恐る恐る目を開けた五月雨は驚くことになる。目を開けて、近くにあるのは誰かの胸。見上げてみれば横島の顔。五月雨は一瞬にしてパニックになり、目がぐるぐると回ってしまう。よくよく今の体勢を見てみれば、横島が自分と機械の間に入って激突するのを防いでくれたらしいことが分かる。

 

「す、すみません!! お、おおおお怪我はありませんかっ!!?」

 

 五月雨は横島の腕の中から抜け出し、必死に頭を下げる。ドジを踏んだ上、その結果が提督に怪我を負わせてしまった、など許せるものではない。横島などは笑って許すだろうが、何より自分自身が許せないのだ。

 

「ああ。俺は怪我してない。五月雨はどうだ? 大丈夫だったか?」

「は、はいっ! 私も大丈夫です!!」

 

 なら良かった、と横島は笑う。妖精さん達の安否も確認し、驚かせてごめんと謝る横島の姿は五月雨には眩しく映る。やはり、この提督はとても良い人なのだと再認識した。

 確かに横島は美女美少女と美形の男が絡まない限りは良い人だと言えるだろう。だが、艦娘は美女美少女揃い。今は外見が幼い艦娘がほとんどを占めているが、これから先、外見が横島と同年代、或いは年上の艦娘が何人も着任した場合……五月雨は、その認識を持ち続けることが出来るだろうか?

 

 

 

 ――――……何だかんだ、大丈夫そうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十三話

「追撃のグ○ンドヴァイパー」

~了~

 

 

 

 

 

 

 

 横島達が工廠を去った後、妖精さん達が焦った様子で機械をいじくっている。それは、先程五月雨を庇った横島がぶつかった機械である。

 どうやら横島がぶつかったことによって誤作動を起こしてしまい、妖精さん達はそれを何とかしようと必死になっているようだ。

 

 ――――しかし、それは叶わない。

 動き出した機械は止まることなく、ここに()()()()()()()()()()()()()()()

 ……そう、誤作動を起こしたのは()()()()()()()()()。1度動き出したそれは、建造を終えるまで止まることは無いのだ。

 

 不幸にも五月雨がビー玉を踏みつけ、それを横島が庇って機械に衝突、不幸にも機械が誤作動を起こし、最早止める術はない。

 

 妖精さんが投入された資材を確認する。燃料と鋼材はほとんど残っていないが、弾薬とボーキはそれほどの被害を受けずに済んだようだ。

 建造終了時間を確認し、妖精さんは溜め息を1つ。泣きそうな顔になりながらも内線を手に取り、執務室に居るだろう大淀に連絡を取る。

 

 機械が示す建造終了時間は『04:20:00』。

 

 どうも、今の横島鎮守府は()()()()()()()()()()()()――――。

 

 

 




い、一体……誰が建造されるんだ……?(白目)

明石さんはあの後ロデオマシンを選び、シェイプアップに勤しんだようです。(目逸らし)
ちゃんと許可さえ取っていれば……。てへぺろさえしなければ……。

五十鈴達の活躍はまた今度ですね。長良型は名取までが絵柄のせいか叢雲と同じくらいの外見年齢に見えます。……とある部分は圧倒的に五十鈴や名取が大人っぽいですが。

そうそう、名取ってコモン艦なのに超強いですよね。改造したら火力と雷装は球磨改と長良改に並びますし。


……何か雑然としちゃったなあ。
それではまた次回。

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