やべーぞレイテだ!!(挨拶)
こんなん絶対大規模イベントですやん……
決戦前夜ボイスとかあわわあわわわわ……!?
でもスリガオだけかな……?
さて、今日も今日とて会議室に艦娘が集う。古参の艦娘はやはりと言うべきか「また問題が発生したの?」という顔をしており、新参の艦娘達はそんな古参を見て首を傾げている。
「にゃ……。ここの会議室は広いにゃ。きっとお昼寝しててもバレないはずにゃ……」
「駄目クマ。今ここでのお昼寝は許さんクマよ」
意外と優秀な球磨の横で眠気の虜になりそうになっているのは軽巡洋艦娘の“多摩”。球磨型の二番艦であり、語尾に『にゃ』を付けるのが特徴の艦娘だ。
球磨は多摩が睡魔に負けるのを良しとせず、肩を揺すって覚醒を促す。球磨は横島に悪い印象を持たれたくない。その方が多く出撃出来るかもしれないし、その方が色々と構ってくれそうだからだ。すぐに頭を撫でてくるのは恥ずかしいので止めてほしいのだが、それでも球磨は横島のことを気に入っている。多摩も横島を気に入ってはいるのだが、あまり膝を貸してくれないのが不満なようだ。
「ふむ……未だ出来たばかりの鎮守府だ。いくつも問題が出てくるのは仕方がないところだろう。……今後のことを考えれば、まあ、悪くない」
「そうだな。早い段階で問題点を洗い出すのは重要だ。その点では良いこととも言える」
「ああ、確かに。私達にも関わってくることかもしれないからな。一概に否定することもないだろう」
真面目に今回の召集について語っているのは初春型駆逐艦の三番艦“若葉”に、睦月型駆逐艦の八番艦“長月”、同九番艦の“菊月”だ。
三人は背筋をピシっと伸ばし、キリリと引き締まった目で前を見ながら会話を続ける。もうすぐやってくるだろう横島との付き合いはまだまだ浅いと言えるが、横島の指揮能力には信を置いている。横島本人からはもっと気楽に話をしたいと思われているのだが、当の本人たちはそういったことが少し苦手な様子。
「何や三人が話してると口調が似とって誰が話しとるんか分からんようなるな」
「ホンマやねえ。もうちょい口調に特徴を付けんと読者を混乱させてまうんやないやろか」
若葉達三人にメタい話を振ったのは頼れる軽空母の龍驤と、陽炎型駆逐艦三番艦“黒潮”。この二人は仲が良い。建造した者とされた者という関係であり、今のところ二人は同じ部屋で生活をしている。横島鎮守府では同型艦や艦種などの縛りは無く、好きな者同士で共同生活を送るようだ。一応、定員は三人までである。
「何を言っているクマ。口調に頼るのなんて邪道クマよ。そうやって安直にキャラを立てようとするのは素人のすることクマ」
「その通りにゃ。口調なんて二の次。重要なのは性格によるキャラ付けにゃ」
「アンタらがそれを言うんかい」
黒潮の言葉にツッコミを入れる球磨達。そしてそれを即座に切り返す龍驤。若葉達はとんだ連中に挟まれたものだ。若葉は「悪くない」などと言って満足気だが、菊月と長月は頬が引きつってしまっている。横島鎮守府ではこういってメタな会話にも慣れなければならない。もし彼女達以上に頭の固い艦娘が建造されれば、その子はとても苦労することになるだろう。
皆が横島が来るまで思い思いに騒いでいるのを赤城や加賀、天龍や五十鈴といった年長組は静かに眺めている。駆逐艦娘の中にも静かにしている者はいるが、それは少数派だ。
「やべえ……『はい、みんなが静かになるまで○○分掛かりました』とか、超やりてえ」
「朝礼とかの定番よねぇ、それ」
「最近の学校でもやってたりするのかなあ?」
「ていうか、私達学校って行ったことないでしょうが。……まあ、そういうイメージがあるのは分かるけど」
「いつもジャージを着てる竹刀を持った体育教師とか」
「白衣を着てる理科の先生とかも」
「若くて綺麗でちょっと(とても)エッチな保健室の先生とか」
「……学校のイメージ、おかしくないかしら?」
……静かにしている者は少数派なのだ。一応、年長組は小声で話しているが。
「悪い、ちょっと遅くなった」
会議室に全艦娘が集まって約二十分、ようやく横島が明石と大淀を伴って入室してくる。
「きりーつっ、礼っ、ちゃくせーきっ」
そして吹雪の号令で一連の動作を繰り出す。こういったことも大事だ。とても大事なのだ。
「今回みんなに集まってもらったのは他でもない。もう気付いてるというか想像してたと思うが、また問題が発生した」
横島はそう言って今回何があったのかを説明する。五月雨のことには触れずに、小型ドックに問題が生じたことを話す。詳しいことは明石に説明してもらい、今後のことについては大淀と共に伝達する。
内容は以下の通り。
一、明石と妖精さんによる点検と動作確認が終了するまで建造任務は禁止。念のため開発任務も同様。
二、建造をするときは明石か妖精さん立ち会いのもとで行うこと。
三、今後第三・第四ドックが開放されても、まずは動作確認を行ってからの使用となること。
以上のことを伝えた。一に関しては一日、長くても二日で終わるので特に問題はない。二も明石や妖精さんの負担が増えることになるが、頑張ってもらうしかない。明石の言によると自分のように機械弄りが好きな艦娘も存在するとのことなので、その艦娘が建造されるまでの我慢だ。
三に関しては横島の財布との相談となるのでいつになるかは分からない。貧乏少年にとってドック開放一つにつき千円は厳しいのだ。
「とゆーわけだ。みんな、分かったかー?」
「はーいっ!」
横島の確認の言葉に駆逐艦娘を中心に大きな声で返事をする。横島は一つ頷いた後、気分を変える為に笑みを浮かべ、皆にとっておきの発表をする。
「よし! それじゃあさっきの説明でも出てきたように、みんなに新しいお友達を紹介するぞー!!」
「わーいっ!!」
一部の駆逐艦娘が諸手を挙げて喜ぶ。新たな出会いに心を躍らせ、本心からはしゃぐ姿は非常に可愛らしい。那珂も一緒になって喜んでいるのは内緒だ。神通が恥ずかしそうに那珂を諌める姿もまた、可愛らしい。
「んじゃ、入ってきてくださーい!」
横島が会議室の扉に向かって声を掛ける。数秒後、扉はゆっくりと開かれ、一人の女性が入室する。その姿、仕草から艦娘達から感嘆の息が漏れ、一部の艦娘――――吹雪などはキラキラ状態にまでなった。その時の様子を、後に叢雲は「まるで昔から憧れていた人が突然自分と同じ部隊に配属になったみたいな感じだった」と語ったという。まるでも何もそのまんまだ。
吹雪の憧れの女性――――扶桑は横島の横に並び、皆に対して一礼をする。
「扶桑型超弩級戦艦、姉の扶桑です。資材の関係でしばらくの間出撃は出来ませんが、皆さん、よろしくお願いします」
扶桑の登場に、場が喧騒に包まれる。冷静な者達は気付いたのだ。先程の説明の時にはまだ艦種についての報告はなかったのだが、小型ドックの誤作動で建造されたのが戦艦だというのなら、それはつまり集めた資材も大量に消費されたのだということに。
戦艦が来てくれたのは心強いが、何も今このタイミングで来なくても……というのが多くの感想だった。資材は枯渇し、演習も未だ調整中。赤城達空母組の視線は待機仲間を見つけた喜びと、大変な時期に来てしまったな、という憐憫が混じった複雑なものとなっていた。
皆も扶桑が来たことが不満なわけではない。ただ、あまりにもタイミングが悪かったのだ。
「……申し訳ありません、提督。こんな大変な時に私が来てしまって……」
「いやいや!! 何で扶桑さんが謝るんすか! 扶桑さんは何も悪くありませんって!!」
扶桑は横島に頭を下げる。小型ドックが誤作動を起こしたのが原因なのであり、横島からすれば扶桑が謝ることなど何もないのだが、どうも扶桑はそう思っていないらしい。
「いえ、私は昔からこうなんです。おみくじはいつも大凶ですし、商品の順番待ちでも私の前の人で完売しますし、自販機でジュースを買ったらお釣りが出てきませんし、出かけようと思ったら天気が悪くなりますし……」
「お、おう……」
扶桑からどよ~んとしたネガティブな波動が漏れ出てくる。横島も大淀から扶桑についての話は聞いていたのでどういう艦娘かは分かった気でいたのだが、少々想像の上を行っていた。しかも扶桑は姉妹艦の山城よりも前向きな艦娘であるとのことなのだが、先程自分で言っていた通り、大変な時期に来てしまったのがネガティブになっている原因なのかもしれない。
「私が来てしまったばっかりに艦娘のみんなや、提督にまでご迷惑を掛けてしまうだなんて……。
扶桑は自らのせいで皆に負担を強いてしまったことで自責の念に駆られる。泣きそうな顔で俯く姿は見る者に悲哀を感じさせる。
横島は難しい顔で扶桑を見ていた。タイプが違うとはいえ同じく不幸な女の子と仲が良い横島だが、今はそれは置いておく。こんな大勢の前で言うことではないし、何よりも
――――なので、横島はとりあえず別の所を指摘することにした。
「……まあ、扶桑さんの言う通り、ある意味では扶桑さんにも責任があるかもな」
「ちょっ、アンタ何言って――――ッ!?」
前言を撤回するような横島の言葉に叢雲や霞といった艦娘が声を上げそうになるが、横島はそれを手と視線で制する。横島の目は真剣な光を湛えており、彼から発せられる雰囲気が扶桑を貶めることが目的なのではないことを如実に告げている。
「まず始めに言っておくと……扶桑さん。貴女は霊能力者です。しかも霊力量では一流を名乗れるくらいには」
「……えっ?」
扶桑が驚きに顔を上げる。話の前後が繋がっていないせいで、彼女の瞳はきょとんと見開かれている。その無垢な表情は扶桑を幼く見させ、思わず庇護欲を掻き立てられる。
横島は胸の高鳴りを誤魔化すように他の艦娘達に目を向ける。決して
「扶桑さんは天龍や加賀さんといったデタラメを抜かせば、艦娘の中でダントツの霊力量なんすよ。さっきも言った通り、充分一流の霊能力者を名乗れるくらいに」
「私が……霊能力者、ですか……?」
「ええ、そうです。そして、それは
扶桑や新参艦娘の胡散臭げな視線に気付かないふりをしつつ、横島は説明を続ける。何せ横島も霊能力者。胡散臭いと思われるのは慣れっこなのだ。だから彼の目の端で雫が光っているのはただの錯覚である。
「これはみんなにも関係があることだぞ? 霊能力者っていうのは、自らが持つ霊力で世界に干渉することが出来る。意識的無意識的に係わらずな。例えば有名な心霊現象で『ポルターガイスト』ってのがあるけど、あれは強い霊力を持つ子供の感情によって、無意識的に引き起こされる現象なんだ」
横島から例を出され、皆は自分にもそういったことが可能なのだろうかと想像を膨らませる。もしかしたら、自分達も天龍や加賀のようにデタラメな戦闘力を発揮することが出来るかもしれない。そう考えると何だかわくわくした気持ちになるのは何故だろうか。
「そして、一流の霊能力者ともなれば言葉に霊力を乗せて、
「……ちょっと、待ってください。まさか……?」
流石に、扶桑は横島の言わんとしていることが理解出来たようだ。
高い霊力を持ち、その霊力を垂れ流し、そして
「それじゃあ……それじゃあ、私の……!?」
愕然とする。自分のせいで、とは思っていた。だが、それはある種のポーズでもあり、本当に心の底から自分が悪いのだとは考えてはいなかった。しかし、もし横島の言ったことが本当であるならば。
そう、あの日、鎮守府を襲った異形の深海――――……。
――――記憶にノイズが走る。
「――――ッ!?」
立ちくらみがする。扶桑は一瞬前まで脳裏に浮かんでいた光景を忘れ、こめかみに手を当てる。何故だか、頭が痛かった。
「知らなかったんだから仕方がありませんし、そもそも霊力を持ってるかどうか、それが暴走してるかどうかなんて普通の人には分かりませんからね。それが不幸だと言えば不幸なんでしょうが……」
横島は扶桑の様子に気付くことはなかった。否、彼女が煩悶していることには気付いているが、先程の眩暈には気付かなかったのだ。
「――――今回は、運が良かったと言えるかもしれませんね」
「――――え?」
それは、聞き間違いではなかった。
横島は扶桑へと微笑みかけている。その笑顔は、どこか慈愛に満ちているように思えた。運が良かったとは、一体どういう意味なのだろうか。冷静さを失っている現在の扶桑ではその答えに辿り着けない。
「俺だって霊能力者ですから。俺が霊力の扱い方を教えます。……ね? 運が良いでしょう?」
「――――あ」
扶桑は直感的に確信する。横島の言う通りだ、と。こうして
しかし、同時に不安もあるのだ。もし、自分の霊力という未知の力の制御に失敗したら? 恐ろしく長い時間が掛かるのだとしたら? もしかしたら、その間に不幸がやってくるのかもしれない。それを思うと、恐ろしくなる。しかし――――。
「ま、不安になるのは仕方ないっすよ。きっとこういうことを言われたのは初めてでしょうしね。でも、幸先が良いのは確かでしょ? あの時の言葉にだって嘘はないっす!」
「……っ」
思わず扶桑の頬が赤く染まる。あの時の言葉、とは『これほど自分の幸運を実感したことはない』という言葉のことだろう。自分の存在が誰かを幸せにするなど、今まで考えたことがない。もし、本当にそうだとしたら……それは、きっととても幸福なことだろう。
横島は真っ直ぐに扶桑を見つめている。その視線が、少し面映ゆい。そっと視線を外す扶桑だが、横島はその意味を勘違いする。
「信じられないっすか!? く……っ、確かに初対面でこういうことを信じろというのは難しい!! しかしそこで諦めるのか? いいや、それでは駄目だ!! 言葉で駄目なら行動で示すべし!! 戦う男にこそ栄光は齎される……!!」
「あ、あの……提督……?」
何だか思いもよらない部分で横島が暴走を始め、扶桑は置いてきぼりにされる。古参の艦娘達は「いつものが始まった」と最早微笑ましく見守ることが出来るくらいには慣れ親しんでいる。……まあ、そんな領域にいるのは龍田に響、不知火といった耐性値の高い艦娘だけなのだが。
「そんなわけで扶桑さんっ!!」
「は、はいっ!? どんなわけでしょう!?」
横島はキリッとした表情で扶桑に向き直り、その両手を握り締める。扶桑は女性としては背が高い方だが、それでも横島よりは低い。年下の少年に至近距離から見下ろされるという特殊なシチュエーションが、扶桑の胸を高鳴らせる。
「扶桑さん……貴女が自分の幸運を信じられないと言うならば――――俺が、貴女を幸せにします」
「………………え。――――はっ!? えっ、ええ!!?」
扶桑の顔が真っ赤に染まる――――!!
大変な事態に会議室が混乱に包まれる。台詞だけを抜き出してみれば、完全なるプロポーズだ。横島の意図がどんなものであったにせよ、傍から見ればプロポーズである。たとえ、横島の目が怪しげに輝いていたとしても。
「そんなわけでまずは身体的に幸せになってみましょう!! この横島にお任せください!! きっと極上の快楽に身を堕とし、退廃的なる愛欲の日々を共に――――!!」
「やっぱりそういうオチかーーーーーーい!!!」
「もんじゃらげーーーーーーっ!!?」
横島がその煩悩を開放する瞬間、叢雲が自らの槍と龍田から借りた薙刀を持って高速回転しながら突っ込み、横島を切りつけた。煩悩に目が眩んでいた横島は反応することすら出来ず、珍妙な悲鳴を上げて壁へとめり込んだ。拍手喝采が巻き起こる。ああ、そうそう。安心してください、峰打ちですよ。
「まっっったくもう。いい加減何とかならないのかしらね、こいつ……!!」
「あ、あの……叢雲……? 今のは……」
「ん? ああ、今のは“地獄の
「そうじゃなくて!! 今のはやりすぎって言いたかったの!!」
実はいつも通りの光景なのだが、新しく入ってきた艦娘は非常に驚く。まあ当然なのだが。
その後普通に復活してきた横島に扶桑は目を剥いて驚くが、こんな光景を見せられては横島の言葉も信じるほかない。
霊能力がこれほどの力を有しているのなら、本当に自分の不幸体質を何とかしてくれるかもしれない。それに、何よりも――――。
“――――俺が、貴女を幸せにします”
期待しているわけではない。期待しているわけではないのだが……。
「……」
扶桑は霞・満潮・叢雲・曙・加賀・龍田・大淀に叱られている横島を見やる。鎮守府の司令官として非常に情けない姿なのだが、それでも扶桑は不快ではなかった。
頭にチラつくのは、先程の言葉と、真剣な表情。思い出す度に、体温が上昇しているのではないかと錯覚してしまう。
「いやだわ……私ったら」
熱い頬を押さえ、扶桑は密やかに独り言つ。吐く息すらも熱っぽくなったそれは、扶桑に一つの感情の萌芽を自覚させるのには充分だった。
「……そうね。期待しても、いいのよね」
自分がこんなにも簡単な女だとは思わなかったが、扶桑はそれでも悪い気はしていない。彼女は横島が先程宣言した通り、幸せにしてくれる未来を夢に描く。否、待つだけではなく。
「……どうか、末永く、よろしくお願いしますね。――――提督」
その言葉は、力に満ちて。
扶桑は、幸せへの第一歩を踏み出したのだ。
第二十五話
『言霊』
~了~
お疲れ様です。
扶桑が堕ちました。……堕ちる……? 堕……ち……? ……お、堕ちました。堕ちたんです。堕ちたんですよ!
色々と不穏なフラグもばら撒きました。上手く纏められるかは……ちょっとまだ分からないですかね。
……あと、扶桑って不幸不幸言わないんですよね。それは山城の仕事です。
煩悩日和の横島は霊能の指導が出来る設定です。彼も頑張ったんです。
それではまた次回。