ネット関係も復活したので、これからまたよろしくお願いいたします。
今回の話、前回長くなったとか言ってたら更に長くなってしまいました。
私は何をやっているんだ……。
それではまたあとがきで。
とある日の午後。
書類仕事を終わらせた横島は明石に頼みごとをするために工廠へと訪れていた。
「んじゃ、頼むな」
「はい、お任せください!」
明石のやる気に満ちた声が響く。明石へと仕事の依頼を終えた横島は軽く伸びをしながら工廠を後にする。
「さーて、今日の分の出撃は終えたし、書類も片付いた。遠征に関しては大淀が見てくれてるし……」
青く澄み渡る空を見上げ、横島はこれからの予定を考える。
皆が遠征に出撃にと頑張ってくれているおかげで資材も回復してきた。そんな皆には申し訳ないが、今の横島は暇をしている。
天龍や扶桑、那珂の霊力の修行もそれなりに上手くいっているようで、彼女達は今も霊力のコントロールに勤しんでいるだろう。
「……たまには、みんなの訓練を見に行ってみるか」
そう言うと、横島はあくびをかみ殺しつつ訓練場へと歩き始める。
訓練場とは、その名の通り艦娘達が訓練をするための場所である。
一周が三〇〇メートルほどのグラウンド、空母達が使う弓道場、屋内鍛錬やレクリエーションにも使われる体育館など、様々な施設が密集している場である。
その様から、横島はこの場所を「学校としても使えるんじゃないか」と考えている。
「お、やってるやってる」
横島はまずグラウンドに顔を出す。
見れば、数人の艦娘が体操服に着替え、元気にグラウンドを走っていた。
見目麗しい艦娘達が、健康的に汗を流している姿は眼福だ。特に、ブルマ姿の艦娘が多いのが横島には嬉しい。
「あれ? どうしたの、司令官。ここに来るなんて珍しいですね?」
「いやー、ちょっと手が空いちゃってさ。見回りがてらみんなの訓練を見ようとな」
「もー、覗きは程ほどにしないと、叢雲ちゃんにレッグラリアートされちゃいますよー?」
「ののの覗きってわけじゃねーしっ!?」
いち早く横島に気付き、走り寄ってきたのは長良だった。彼女は走ることが好きなようで、毎日欠かさずかなりの距離を走っている。
トレードマークである鉢巻も今は外しており、全身をしっとりと濡らす汗が健康的な色気を醸し出している。
「どうしたの、提督。何か用かしら?」
「見回りだってー」
次に来たのは五十鈴だ。走り込みをするためか、いつものツインテールではなくポニーテールとなっており、普段とは違った魅力に輝いている。
体力では長良に及ばないのか、五十鈴は長良以上に汗を掻き、呼吸を乱している。頬や額に張り付いた髪がセクシーだ。
どうやら姉妹艦三人で走っていたらしく、やや遠くに名取の姿も確認できる。ただし、名取は今にも倒れてしまいそうなほどにフラフラとしているが。
「――――って、おいおい、名取は大丈夫なのか? 随分フラフラしてるけど……」
「え? ……あの子、また私達のペースについてこようと無理したわね!? 無理はするなって何度も言ってるのにあの子はもう!!」
「変なとこで頑固な部分があるよね、名取って」
「とりあえず、休ませてやってくれ。何なら俺の命令ってことにしてもいいから」
横島のありがたい言葉に頷いた2人は急ぎ名取の下へと向かう。2人で肩を支えて気付いたことだが、名取はぐるぐると目を回していた。息も絶え絶えで、まさにいっぱいいっぱいといった風情である。
「あんたって子は本当にもう……!!」
「ご、ごめんなさい~」
「ほらほら、とにかく休むよ。司令官も休んでいいって言ってくれたからさ」
「て、提督さんが……!? あう~、戦闘のときといい、また提督さんにご迷惑を~……」
名取は横島に申し訳無さそうに声を上げながら2人に抱えられて運ばれる。どうやら以前戦闘であまり活躍出来なかったことが今回のことに関係しているようだ。
努力を重ねることは立派であるが、何事もやり過ぎは良くない。長良達から説教を受けるだろうし、今回の事が教訓になってオーバーワークを控えてくれることを祈ろう。
「司令かーんっ!!」
「んー? 皐月……と、夕立と深雪?」
名取達を見送った横島に、またも声が掛かる。遠くから全力で駆けてくるのは先の3人と同じく訓練中だった皐月と夕立、深雪の3人だ。皐月と夕立も五十鈴と同じくその長い髪をポニーテールにしている。
皐月は横島を呼びながら大きく手を振り、そのまま近付いて――――思い切り、横島へと抱きついた。
「司令官、どうしたのっ? ボク達に何か用事っ!?」
「皐月だけずるいっぽい! 私も提督さんにくっつくっぽいー!!」
「だー!? こらお前ら、汗だくでくっつくのはやめろー!!」
皐月は前から、夕立は後ろから横島へと抱きつく……というよりは飛びつく。
2人は半袖の体操服とブルマを着用している。それは露出が多く、横島としては眼福な衣装なのであるが、露出が多いということは服が汗を吸う面積も少ないわけで。結果、2人の服が吸い切れていない汗を横島の服が吸収することになってしまった。
「へっへっへ、別にいーじゃんかよー、司令官。美少女3人の汗の匂いとか汗だくの身体の感触とか味わえてるんだぜー? 何かこう、燃えるものがあるんじゃねーのー?」
「俺はそーゆー性癖は持ってねーのっ!!」
いやらしい笑みを浮かべながら、深雪は横島の腕を強く抱きこんだ。まだまだ未発達の深雪の胸が、彼の腕に押し付けられる。前後と側面からの女の子の身体の感触に横島は顔を赤くするが、残念ながらそれは彼の煩悩が強く刺激されたからではなかった。
意外なことであるが、横島の性癖は偏っておらず、彼の好みは青少年的に極めてノーマルなものである。故に汗の匂いなどに反応するといった、いわゆる“匂いフェチ”ではないのだ。
運動することによって高まった体温や、汗を掻いて衣服が濡れた姿は色っぽく感じたりもするが、それは別に汗だくなのが好きなのではないのだし、“汗だく”という状態に劣情を催しているわけでもない。
要するに、煩悩がどうこうではなく、純粋に照れているのである。意外と育っている夕立の胸には驚いたようではあるが、まだまだ外見年齢の幼い彼女達では彼の煩悩を本格的に刺激することは出来ない。
せめて、
「あ、でも、提督さんの汗の匂いとか、汗に濡れた身体の感触とか、何か癖になりそうっぽい……」
「それ俺の汗じゃなくてお前らの汗だからなっ!? あと変な性癖に目覚めずに、純粋なままでいてください!!」
横島の首筋に顔を埋める夕立から、何やら危ない台詞が囁かれる。顔や声もどこかとろんととろけており、何やら特殊な扉を開きそうになっているようだ。
――――そういや、最近シロタマも俺の匂いがどーのこーのっつってくっついてくるようになってたな。何か「癖になりそうな匂いでござる」とか何とか。……え、なに? 俺って珍味みたいな匂いしてんの? それって
最近の周囲の様相から、横島は1つの事実に辿り着き、少々ショックを受ける。本人としてはデオドラントには気を付けていたつもりであったが、それはまだまだ充分ではなかったらしい。
まあ、それは杞憂なのであるが。きっと人外キラー的なフェロモンでも発しているのだろう。
「こら、あんたらっ!! 遊ぶのは訓練が終わってからにしなさいよっ!!」
「ひえっ!?」
と、きゃいきゃいとじゃれている横島達に大きな怒声が叩きつけられる。声の発信源を見れば、そこには柳眉を逆立てた曙の姿があった。
「クソ提督も! 訓練の邪魔するならとっととどっか行きなさいよっ!」
曙は今にも「がるる」と唸りそうな様相で横島を睨み付けている。確かにこれ以上この場にいることは訓練の妨げになるだろう。
横島は自分にくっついている皐月達を優しく引き剥がし、一通り頭を撫でた後、曙に向かって手を上げ、一言「悪かったな」と残してグラウンドを去った。皐月達の汗でぐっしょりと濡れてしまった上着は脱ぎ、Tシャツ姿となっている。
残された皐月達は不満気に唇を尖らせ、渋々訓練へと戻っていく。曙はそんな彼女達の様子に苛立たしげに息を吐くと、自身もまた訓練へと戻る。
「……あんな言い方はしなくてもよかったんじゃないの?」
「……」
一人黙々と走る曙と併走するように、一人の艦娘が横並びになって話しかけてきた。
綾波型駆逐艦七番艦“朧”だ。枯草色のショートボブに、頬に貼られた絆創膏、そして艤装内に存在している蟹が特徴の艦娘だ。ちなみにだが現在は体操服姿であり、いつも一緒にいる蟹は彼女の頭の上で鎮座している。身体に巻かれた鉢巻(?)が可愛らしい。
「提督、いい人だと思うよー? そりゃあ確かにたまに失敗することもあるし、女の人にだらしないところもあるし、かなりエッチな性格ではあるみたいだけど……」
「後者の二つが致命的すぎるでしょうが……」
「いや……そうだけど。そうだけど、そうじゃないというか……。とにかく、私達のこともよく考えてくれてるみたいだし、特にあんな前向きな扶桑さんとか見たことないよ?」
朧は横島に好意的らしく、しどろもどろになりながらも曙に「彼はいい人だ」とアピールする。しかし、そんなことは知っている。最近建造された朧よりも、初期に建造された曙の方が付き合いが長いのだから当然だ。
曙は、横島が『いい人』であるのは分かりきっている。はっきりと言えば、曙をしてその部分は好意に値すると言ってもいいだろう。だが……。
「……どこがいいのよ、あんな奴」
それは、とても小さな声で呟かれた言葉。隣を走る朧にも聞こえなかったそれは、誰に聞かれるでもなく、グラウンドの空気に溶けて消える。
どうやら、曙には他の艦娘にはない――――あるいは表面化していない不満が横島にあるようだった。
「ほら、提督ってああ見えてけっこう鍛えてるし!」
「……この筋肉フェチめ。いや、あのクソ提督もそこは評価出来るけどね」
二人は意外と筋肉好きらしい。
「さて、昼飯は何にするかな、っと」
所変わって食堂。横島は本日のメニューを見て昼食を何にするか迷っていた。
現在、艦娘の数が増えてきたことにより、以前のように皆で集まって一緒に食べるということは難しくなってきている。出撃に遠征、訓練、非番に休日と、艦娘によってシフトは様々だ。今では数日に一回皆が集まれればよい方である。余談ではあるが、そのことで一番残念そうにしていたのは満潮であった。
「んー……よし、ここは験担ぎにトンカツ定食にしよう」
横島は間宮にトンカツ定食を注文し、出来上がりを待つまでちょっとした世間話をする。
食堂には間宮以外にも料理好きな艦娘や妖精さんがお手伝いとして厨房に入っている。特に白雪と雷がその辣腕を振るっており、今ではいくつかのメニューを任されるほどだ。
「最初雷がここのお手伝いに入るって聞いた時は心配したもんだけど、随分立派に仕事をこなしてるんだなー」
「はい。雷ちゃんにはいつも助けられてます。本当に頼りになる子ですね。それにしても――――」
せっせと調理をこなす雷の姿を見やり、横島は感慨深げに言葉をこぼす。それはまるで父親か兄の様な姿に映り、間宮は思わず笑みを浮かべる。
「……ん? どうかした?」
「いえ、何でもありませんよ」
不思議そうに視線を寄越す横島に、間宮は首を振る。横島の事だから気分を害することはないだろうが、十七歳の少年に父親みたいだ、と言うのも失礼な話であろう。
ちなみに横島が外見年齢が上の間宮に敬語を使っていないのは、間宮に「敬語を使わないように」と要請されたからだ。
横島はこの鎮守府のトップ。そんな彼が一職員に敬語を使うのはおかしい、とのことである。もっともらしい理由だが、他の外見年齢が上の赤城や加賀には敬語を使っているし、叢雲を始めとする何人かの駆逐艦娘にタメ口をきかれているのであまり意味がない。
一説によれば、年下の少年に強く命令される感覚にハマって(以下略)。
「午後からは建造ですからね。しっかりと食べて、元気を付けてください」
「おう! ……つっても、俺が何かやるわけじゃねーんだけどな」
間宮は出来立てのトンカツ定食を横島に手渡す。妖精さんお手製のトンカツは芳しい香りを放ち、暴力的なまでに食欲を刺激する。ついついよだれを垂らしてしまいそうだ。
「んん~、今日も美味そうだ。そんじゃ、また」
「はい、ごゆっくりどうぞ」
横島は席に着き、いただきますをしてからもりもりと食べ始める。今日はいつもと気合の入り方が違う。そう、今日こそ川内を建造して、第三艦隊を開放するのだ!!
「あ、司令官! ご一緒してもいいですか?」
「僕もいいかな、提督?」
「では、不肖この不知火が司令の隣に――――」
「ハラショー。隣は既にいただいているよ」
「ふむ。相変わらず出し抜かれることが多いようじゃの。反対側はわらわがいただいた」
「こ、この不知火が……っ!?」
途端、賑やかになる横島の周り。今回集まったのは吹雪に時雨、不知火と初春に響だ。思い思いの席に着き、会話を楽しみつつ昼食に舌鼓を打つ。
何だか今日はいけそうな気がする。(根拠なし)
「――――というわけで工廠にやってきましたぁっ!!」
昼食を終え、工廠へとやってきた横島は唐突に叫ぶ。こういった奇行はいつものことなので明石も妖精さんも特に驚いたりもせず、普通に作業をしている。横島に同伴してきた艦娘達も同様だ。
今回横島と共に建造に挑戦しに来た艦娘は初雪・望月・陽炎・五月雨・神通・那珂、そして扶桑の七人だ。他にも来たがっている艦娘はいたが、資材と訓練に遠征の関係で数が絞られたのだ。
初雪と望月はかなり面倒そうだが、普通の任務と比べて今回の任務はまだまだ楽な方である。加えてゲーム関係も好きな二人は、こういった任務の方が真面目にやってくれるだろうという横島の考えもある。
「そんじゃいつも通り一人一回ずつ建造をやってくぞ。そろそろ本当に川内を迎えよう」
「お姉さんに任せて! すぐに川内さんを建造させてみせるわ!」
気合を込めて握り拳を作るのは陽炎。一番手に名乗り出る。
「今回のレシピはこれよ!」
燃料:250/弾薬:30/鋼材:200/ボーキ:30
「レアな艦娘が出やすいこれなら川内さんも来てくれるはず!」
「へー、これがレア艦レシピなのか……。駆逐と軽巡狙いのやつ?」
「潜水艦や重巡洋艦も出るわよ。それでは期待を込めて、建造開始!!」
陽炎は意気揚々と妖精さんに指示を出す。はたして、その結果はどうなるのか。
建造時間『01:00:00』
「おおっ、これは……!?」
「来たんじゃないの来たんじゃないの!?」
いきなりの軽巡洋艦確定である。これには周りも陽炎を囃し立て、期待が高まっていく。横島はすぐさま妖精さんに高速建造材を使用することを伝え、皆と共に祈りを込めて火炎放射器が静まるのを待つ。……相変わらず不思議な光景である。
やがて炎が収まり、小型ドックが開く。そこにいた人物とは――――。
「こんにちは。軽巡洋艦、“大井”です。どうぞよろしくお願いいたしますね」
「~~~~~~っ!? しかしこれはこれでっ!!」
「あー」
顕れたのは、残念ながら川内ではなかった。しかし、艦娘とは皆が見目麗しい少女の外見をしている。目的の人物ではなかったとはいえ、新たに美少女が増えるのは横島としては大歓迎である。
「俺は司令官の横島。これからよろしく!」
「はい、よろしくお願いします。……それにしても、随分と大所帯みたいですけど、どうかされたんですか? あ、皆さんもよろしくお願いしますね」
皆にも礼儀正しく頭を下げる大井に、横島は現状の説明をする。大井は「あー」と納得の様子を見せ、困ったように笑みを浮かべる。よくあることとはいえ、これからの生活に不安が過ぎったのも確かだ。更に
そして、それはそれとして。
「あの、ところで……“北上”さんはこちらにいますか?」
「北上? いや、その子はまだうちにはいないけど……姉妹艦か?」
「はい。そうですか、まだ建造されていませんでしたか……」
北上がいないと分かり、目に見えて落ち込む大井。彼女の北上に対する執着は有名だ。陽炎は落ち込む大井に対し、笑顔で語りかける。
「大丈夫ですって、大井さん。今丁度軽巡である川内さんを建造しようとしてるんですから、北上さんもすぐに建造されますよ」
「……そうね、そうだといいけど……。でも、第三艦隊が開放される前に艦娘だけ増えていっても……」
ジレンマである。北上には来てほしいが、現状では仕事が出来ない。それでは宝の持ち腐れだ。
「とにかく、今は川内さんを建造してもらって、北上さんに関してはその後ですね。個人的には早く来てほしいですけど……今は鎮守府のことを優先しないと」
「おお、大井はええ子なんやな……! 川内と一緒に北上も来るように祈っておくぜ……!!」
自らの気持ちより鎮守府を優先する大井に、横島は感動を禁じえない。しかし、それも他の艦娘からすれば異常な光景に見えていたりもする。
あの大井が、
鎮守府の危機にわがままを言ってもしょうがない。大井にだって分別はあるし、常識も持っている。皆からの評価は、ある意味風評被害に近いものがあるのだった。
「じゃあ、どんどんといきましょうか。次は私、初雪と……」
「望月の二人でいくよー」
次に名乗り出たのはこの二人。大井の言動に対するショックも少なく、冷静でいられた二人だ。
「私達は最低値でいこうか」
「あー、そだねー。あんまり資材を使うのも止めといた方がいいだろうし」
そうして妖精さんに指示を出し、最低値で建造を試みる二人。結果は二人とも『00:20:00』……駆逐艦である。
「モッチー……何だか嫌な予感が……」
「……初雪も?」
二人は横島にお伺いを立て、高速建造材を使用する。炎が収まり小型ドックが開けば、そこには艦娘カードが落ちていた。
横島鎮守府
「本当に叢雲はよく来るなぁ……」
「よっぽど愛されてるんですねぇ」
叢雲のカードを拾いつつの横島の言葉に、大井は笑顔で答える。愛する者の所に何人にもなって会いに来る……大井はその気持ちが分かるようだった。――――もちろん真相はただの偶然である。
横島は叢雲のカードを胸ポケットにしまい、今度は自ら建造することにする。
「妖精さん、最低値で建造よろしくー」
「はーいっ」
横島の声に元気良く応え、妖精さん達は今まで同様、張り切って建造を開始する。しかしその姿は他の艦娘達に頼まれた時よりもイキイキとしているようにも見える。これも人外キラースキルの賜物なのだろうか?
気になる建造時間は『00:18:00』……またも駆逐艦である。おなじみ高速建造材を使用し、小型ドックが開けば、そこには駆逐艦娘の中でも、とりわけ幼い容姿の女の子が佇んでいた。
「あたし、文月っていうの。よろしく~」
膝までありそうな長い髪をポニーテールにし、その髪を揺らしながら文月は横島の前までゆっくりと進む。
「おう、俺は司令官の横島だ。よろしくなー」
「えへへ~、よろしくね~」
そのどこかぽやっとした雰囲気にあてられたのか、横島も笑顔を浮かべて文月の頭を撫でる。それに対する文月はとても蕩けた顔をしている。撫でられるのが好きなようだ。
「おー、文月じゃんか。文月もこっちに来たんだね」
「あ、望月ちゃんだぁ! 面倒臭がりなのに、もう来てたんだね~」
「相変わらず無邪気に毒を吐いて……」
文月はてててーっと横島から離れ、望月の元へと走る。しかしその速度はお世辞にも速いとは言えず、性格通り、緩やかなスピードであった。
残りは四人。満を持して登場するのは神通と那珂。二人の力で川内を迎えようと燃えている。
「提督、那珂ちゃんが川内ちゃんを建造してみせますからねっ!!」
「おう、頼りにしてるぞ!」
横島の応援に、那珂はますます気合が入る。神通はそんな那珂を見て、「頑張ってね、那珂ちゃん!!」と内心でエールを送る。神通は那珂の気持ちに既に気付いているのだ。まあ、那珂はわりと分かりやすい艦娘というのもあるが。
「というわけでっ!! 妖精さん、レア艦レシピでよっろしくー!!」
「あ、私は最低値でお願いします」
はたして二人の思いは川内に届くのか? それぞれの建造時間は『01:15:00』と『01:00:00』だ。どちらも軽巡洋艦である。
「今度こそキターっ!?」
那珂のテンションが上がる。その勢いのまま高速建造材を放射。こんがりと焼けた小型ドックが開き、二人の歩み出てくる。
「長良型軽巡四番艦の“由良”です。どうぞ、よろしくお願いいたします」
「こ、こんにちは。軽巡、阿武隈です」
建造されたのは共に長良型の軽巡洋艦娘。二人とも、両腕に単装砲をつけているのが特徴的だ。
容姿では由良は薄い桃色の髪をポニーテールにし、それを黒のリボンでぐるぐる巻きにしている。外見年齢は高校生辺りと言ったところか。姉である長良や名取よりも年上に見える。
阿武隈の方は明るい茶髪を何やら一言では言い表せられない複雑な髪型にしている。とてもセットに時間が掛かりそうな髪型だ。彼女の外見年齢は中学生程度といったところか。しかし、もう少し成長すれば、横島のストライクゾーンに入ることが出来る。……入りたいかどうかは置いておいて。
「僕司令官の横島っ!! よろしくー!!」
「わっ!? は、はい、よろしくお願いしますね……?」
「ひえぇっ!?」
どうやら由良は横島のストライクゾーンに入っていたらしく、高速で手を握り、笑顔を振り撒く。由良も阿武隈も横島の勢いに圧され、タジタジだ。このままでは由良が横島に圧されに圧されて流されてしまうかもしれない。だが、そんな彼女を救う者は存在しているのだ。
「てーいとくー? 由良ちゃんが可愛いのは分かるけどさー? もっと夢中になるべき艦娘がここにいるじゃんかー」
「な、那珂ちゃんっ!?」
横島の肩に手を置き、那珂がぴったりとその身を張り付けてきた。
不満気に唇を尖らせ、耳元で不満を口にする姿は拗ねているのが丸分かりだ。
那珂は
「由良ちゃんも阿武隈ちゃんも、長良ちゃん達が先にこっちに来てるから、後で呼んできたげるね」
「あ、ありがとうございます……」
横島にくっつきながらの那珂に、由良達は曖昧な笑顔を浮かべる。あわあわと照れている横島の様子からして二人は付き合っているとかそういう関係ではなさそうであるが、何やら那珂の方は好意を抱いている様子。これは、邪魔をしない方がよいだろう。
「それじゃあ私達は脇に控えてますので……」
「し、失礼しますね……!」
「ああっ!? 僕まだ何もしてないのにっ!?」
「てーとくー?」
背後から頬を引っ張られている横島は放置し、次は五月雨の番だ。「絶対にドジなんてしませんっ!!」と、彼女も張り切っている。
「頑張ってね、五月雨!」
「はいっ。頑張ります、陽炎さんっ!」
建造を頑張るのは妖精さんであるのだが……幸い、この場にそれを突っ込む者はいなかった。由良や大井などは微笑ましそうに笑っている。ちなみに望月の腕の中の文月はおねむである。中々にフリーダムな娘さんだ。
「妖精さんっ、最低値でお願いします!」
今度の建造時間は『00:22:00』……残念ながら駆逐艦だ。
残念な気持ちを焼き尽くせ! とばかりに高速建造材が唸る。そろそろ小型ドックの耐久力が心配だ。
「ちわ! “涼風”だよっ! 私が艦隊に加われば、百人力さぁ!!」
そうして建造されたのは五月雨によく似た容姿の艦娘、白露型十番艦“涼風”。江戸っ子のような口調で威勢の良い艦娘だ。
「おおー!? 何でぇ何でぇ、五月雨も来てたのかい!? あたいがこっちに来るまでにドジやってねーだろーなぁ?」
「も、もー! 第一声がそれなの!? ドジなんて少ししかしてないもんっ!」
「やっぱドジってんじゃねーか! まったく、五月雨はあたいがいないと駄目なんだよなぁっ」
何とも元気一杯の艦娘だ。屈託のない笑顔を浮かべ、五月雨と話す姿は双子のようなのにまるで対照的だ。言っている内容は中々に辛辣だが、彼女の言葉には五月雨に対する親愛で満ちている。五月雨もそれを理解しているのか、プンスカと怒りながらもどこか嬉しそうである。
「おっと、アンタがあたいの提督だね? さっきも言ったけど、あたいは涼風さ! 戦闘に遠征に、このあたいを頼ってくれよっ!」
「おう! よろしくな、涼風。俺は横島だ」
横島の存在に気付いた涼風が不敵に笑い、名を告げる。はきはきとした物言いはどこか男らしく、頼もしさに溢れている。彼女は横島とがっしりと握手を交わし、笑い合う。第一印象はかなり好感触なようだ。
「それにしても、川内さん来ないねー」
「あん? どういうことだい、陽炎?」
ぽつりと呟いた陽炎の言葉を、涼風が耳聡く拾う。そうして陽炎から今の鎮守府の状態を聞かされる涼風と新たに建造された艦娘達。皆が出撃に遠征にと頑張ってくれているのだが、やはり艦隊が解放されなければ手が足りないのは確かだ。
「それで、最後に建造する人が――――」
「はい……私、です」
「あー……なるほどな」
おずおずと前に出たのは扶桑。不幸艦という不名誉なあだ名を付けられている彼女が最後の建造を担当すると知り、艦娘達は諦めモードに入っていた。何とも酷い話ではあるが、扶桑もそれを当たり前のように受け止めている。――――多少前向きになったようではあるが、やはり染み付いた認識というのはそう簡単には払拭出来ないようである。
「それで、あの……私も、建造してもいいのかしら?」
「ええ、お願いします扶桑さん!」
だが、横島は「そんなことは知らん」とばかりにいつも通りだ。何も始めから諦めているからとか、そういうことではない。ただ単純に、扶桑に期待しているのだ。
それは今までの建造でも、全ての艦娘に込められたもの。確かに扶桑は不幸艦と呼ばれているが、それが彼女に期待を込めない理由にはならない。
その横島にとっての普通が、扶桑にとっては特別だった。
「――――お任せください、提督」
扶桑は妖精さんに指示を出す。資材は最低値で、高速建造材を最初から使うように要請。扶桑は横島に振り向き、笑顔を見せる。
「私は、必ず提督の期待に応えてみせます」
――――それは、とても前向きで、自信に満ちた言葉。
扶桑を知る者からすれば、それは信じられないような姿。だが、この横島鎮守府の扶桑は、ある人物の影響を受け、前を向いている。
他者からの認識も、自身の認識も未だ変わりはないが、それでも彼女は彼のために進んでいく。
妖精さんは「命を燃やすときがきた! 行くぞ!」とばかりに火炎放射器をぶっ放す。先に燃えるのは小型ドックほうだと思うのだが、妖精さんも幾度ものぶっぱで疲れているのだろう。
そして建造が終了し、ドックが開く。最初から高速建造材を使ったのでどの艦種が建造されたのかはまだ分からない。建造された艦娘は――――。
「川内参上! 夜戦なら任せておいて!」
はたして、建造されたのは川内だった。
驚き、両手で口を覆う扶桑。期待に応えることが出来た――――。それを認識するのに数秒の時間が掛かる。
「ん? ……あれ、どうしたの? あ、神通に那珂もいるじゃん! もー、いるなら早く返事を、して……おーい、もしもーし?」
誰も動かない。姉妹艦の存在に気付いた川内が那珂達に声を掛けるが、二人とも何の反応も示さない。一体どうしたというのか。急に不安が川内の胸に押し寄せる。
「ちょ、ちょっとー? 何か反応を返してほしいんだけどー……? あの、ねえ……」
「……ぃ」
「っ!! うん、何々ーっ? どうしたの!?」
不安からちょっと涙目になった川内の耳に、提督と思しき少年の呟きが聞こえてくる。よく見れば、周囲の皆も動き始めており、何故だか扶桑と川内を取り囲んでいた。
「……え? あの、ちょ――――」
「川内ちゃんっ!!!」
「え――――へぶぅっ!!?」
那珂の強烈なタックルが川内の腹に突き刺さる!! そして、それを皮切りに周囲の艦娘達が扶桑と川内に殺到した!!
「扶桑さああぁんっ!!」
「川内さんっ!!」
「扶桑さん……扶桑さぁんっ!!」
「せんだ……この、川内さんっ!!」
「ひえええぇぇぇっ!!?」
やがて二人はもみくちゃにされ、浮遊感が全身を支配する。
「せーんーだいっ!! せーんーだいっ!!」
「ふーそーおっ!! ふーそーおっ!!」
「うわあああぁぁっ!!?」
何度も何度も皆に身体を宙に放り上げられる。それは胴上げだ。
やがて川内が目を回し始めたころ、ようやく地面に下ろされる。すでに川内はヘロヘロ、扶桑も少し気分が悪そうだった。
「何で今私達胴上げされたのっ!?」
そんな川内の疑問もどこ吹く風。横島達は満足気に「イエーイ!」とハイタッチをしていた。
「あのー、そろそろ私も泣いちゃうぞー……?」
そのあまりの無視っぷりに流石の川内も泣きそうになる。何だか涙腺が緩い子だ。
「いや、悪い悪い。あまりの嬉しさにちょっとな!」
「え、う、嬉しい……?」
横島の言葉に川内は胸が高鳴る。自分の着任をここまで喜んでくれるとは、夢にも思わなかった。
「ああ、ありがとう。うちに来てくれて……!! 俺は司令官の横島。川内……君の着任を歓迎する」
「ひゃ、ひゃいぃ……」
川内が来てくれたことによって、テンションが吹っ切れた横島。ストライクゾーンに入っている川内を前に、いつもの煩悩に塗れた行動を起こさない。精々が彼女の両手を握っているぐらいである。
川内は真剣な表情で見つめてくる横島にくらっと来ている。騙されてはいけない。その男は自分の好みの女の子にセクハラを仕掛けてくる男だ。
「そして、扶桑さん……!!」
「ああ、提督……!!」
やがて顔を真っ赤にしてふらふらとしだした川内は那珂と神通に支えられ、端へと寄せられる。川内を運ぶ二人の目尻に雫が光ったのは気のせいではないだろう。
そして、横島は扶桑へと歩み寄り、その両手を握る。扶桑も先程までの気分の悪さをどこかに放り出してそれを受け入れ、二人は見つめあう。
「やりましたね、扶桑さんっ」
「はい……!! これで、第三艦隊開放です……!!」
扶桑の目には涙があった。横島の期待に応えることが出来たのが、役に立つことが出来たのが嬉しくてたまらない。不幸艦と呼ばれた己が、それを跳ね除け、望む成果を引き出せた。
「これも私なんかを信じ、期待してくれた提督のお陰です……」
「ん? いやいや、それは違いますって」
横島は扶桑の言葉を否定する。扶桑はそれに戸惑うが、話は簡単だ。
「これは扶桑さんの頑張りが生んだ結果っすよ。他の誰でもない、扶桑さんのお手柄じゃないっすか。これもきっと、扶桑さんの日頃の行いの賜物ですって!」
それは、扶桑のことを心から信頼しているから出る言葉だった。
横島からすれば、美人で優しい扶桑を信じるということは何でもないこと。普通の、当たり前のことだ。――――それが、たまらなく嬉しい。
「それなら、那珂ちゃんの日頃の行いが悪いって言うのー?」
「うぇっ!?」
見詰め合う二人に嫉妬したのか、川内を妖精さんが用意したイスに座らせて那珂が先程同様に横島の背中に張り付く。
「ん……私も、頑張ってる……」
「まー私らなりにだけどねー」
「お、お前らっ!?」
しかも今度は那珂だけではなく、初雪と望月が左右から腕を引っ張り始める。
「わ、私だってドジっ子しないようにがんばってますよっ!」
「私も訓練に教導に頑張ってます」
「私もお姉さんらしくがんばってるんだけどー?」
「え、いや、ちょ……!?」
横島を囲み始める艦娘達。今日建造された艦娘達が横島の慕われっぷりに少々驚きを見せる。何せあの普段は押しの弱い神通や、初雪や望月も横島にくっついているのだ。この日だけでどれだけ驚けばいいのか。
「――――ふふふっ」
那珂達に囲まれ、しどろもどろになっている横島を見て、扶桑は思わず笑みをこぼす。この分では、彼を独占することなどは出来ないだろう。だが、それもいいのかもしれないと扶桑は考え始める。
艦娘は人間ではない。彼女達は艦娘という存在であり、人間とは別の種族だ。故に、人間の法律や倫理に囚われる必要はない。
「提督は無意識でしょうけど……あの時の言葉、あなたはずっと示されてますよ」
扶桑の心の中に、燦然と輝くあの光景。“――――俺が、貴女を幸せにします”。
横島の姿を見るだけで。
横島の声を聞くだけで。
横島と話をするだけで。
横島と触れ合うだけで。
扶桑の心は、幸せに満ちていく。
そう。横島がいる限り、扶桑は幸せなのだ。
「……提督」
横島の傍にある限り、扶桑は“不幸艦”などではない。
横島の傍にある限り――――扶桑は、世界で一番の“幸運艦”なのだ。
第二十七話
『“不幸艦”扶桑』
~了~
お疲れ様でした。
おかしいなあ。
扶桑の横島への好感度が高過ぎる。ここまで急速に惚れさせるつもりはなかったんですけどね……?
川内もそうですが……まあ、楽しいからいっか!(白目)
次回はヲ級ちゃんの出番でしょうか。
響とのラブいの書いてよと友人に言われてるので番外編になるかもしれませんが……。
それではまた次回。