煩悩日和   作:タナボルタ

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今回は前回、前々回の半分以下の文量です。

……すまない。言い訳をさせてほしい。すまない。

元々このくらいの文量でやっていきたいと言っていたんだし、きっと前回とかがおかしかったんですよ……きっとそうですよ……

ちなみに番外編を書こうとしたら今後のネタバレが大量に含まれていました。なんてこったい。


それではまたあとがきで。


それぞれの出会い

 

 川内が建造されて数日。

 第三艦隊が開放されたことにより、横島鎮守府の資材はようやく潤いを見せていた。

 今まで人数のわりに待機時間が多かった横島鎮守府だが、現在ではそれも解消されつつある。これも、今も遠征に精を出してくれている皆と、見事川内を建造してくれた扶桑のおかげだ。

 

「……」

 

 横島は穏やかな表情でとあるファイルを眺めている。叢雲がドロップしてきた時から増え続け、()()()()()()()()()()()()厚さを増していくそのファイルは、艦娘カードを収めたものだ。

 一つの鎮守府に、同じ艦娘は現れない。艦娘カードは肉体と魂を持たない艦娘達の器。“彼女達”が肉体と魂を宿すとするならば、それは同じ艦娘が沈んだ時だろう。その時まで、“彼女達”は深い深い、いつ覚めるとも分からぬ眠りの中を揺蕩い続ける。

 

 ――――そして、きっと“その時”は訪れないのだろう。

 

 横島はカードの表面を指で撫でる。それは慈愛から来るのか、それとも憐憫がそうさせるのか。

 艦娘達を沈ませはしない。それは横島の誓いだ。だからこそ、せめてとばかりに“彼女達”を大切に保管している。()()()()()()()()()()()を感じながらも、決してその存在を奪わせないために。

 

 ――――それが、間違っていると直観しながらも。

 

「……よし」

 

 横島はファイルを閉じ、本棚へとしまう。

 皆の練度も随分と上がり、ほぼ全ての艦娘が改造可能となっている。

 明石が言うには改造を行うことで性能が向上し、より一層の活躍が見込めるそうだ。ただし、逆に何らかの性能が落ちたりすることもあるらしく、よく考えて行わねばならないとのこと。

 ちなみにだが、最も短時間で改造が可能となったのは大井であり、次いで五十鈴、三番目は阿武隈だったそうだ。

 

「1―4でも安定して勝てるようになったし、そろそろ第二海域に進出かなー?」

「ようやく、ですね」

 

 イスに深く腰掛ける横島の独り言に苦笑を交えて返すのは大淀だ。

 大淀から見ても横島はかなりの慎重派だったらしく、今の今まで第二海域には一度も出撃をしていない。それもこれも艦娘達を慮ってのことであろうが、もう少し信用してくれてもいいのではないか、という意見も出ていたりする。特に叢雲から。

 

「遠征もばっちり、戦果も上々、資材も潤沢……にはまだ遠いけど、そこそこはある。練度も上がってきた。……順調だな」

「ええ。この勢いに乗って、第二海域の開放も進めていきましょう」

 

 珍しく大淀の鼻息が荒い。充分に気合が入っているようだ。

 

 今までになかった順調ぶり。艦娘達の士気も高く、心なしか皆キラキラと輝いている。

 

「……うしっ、第二海域に出撃だな」

「了解です」

 

 二人は自信満々に笑顔を浮かべ、編成を考え始める。今の皆は乗りに乗っている。多少の障害など簡単に乗り越えていくだろう。

 

 そしてその先に思い知るのだ。こういう順調な時にこそ、落とし穴が潜んでいるのだということを――――。

 

 

 

 

 

 

 

 それはどこかの海域にある、とある小さな無人島。

 緩やかに波が打ち寄せる海岸にて、幾人かの深海棲艦が集まり、何事かを行っていた。

 頭に巨大な怪物の顔を模した帽子を被り、まるで魔法使いのようなステッキを持った深海棲艦が一列に並んだ他の深海棲艦を前に、大きな声を張り上げている。

 

「アイウエヲイウエヲアウエヲアイエヲアイウヲアイウエ……!! アエイウエヲアヲ、カケキクケコカコ――――」

 

 どうやら彼女――――空母ヲ級が行っているのは発生と発音、滑舌の練習のようだ。

 そう。彼女は1―4……南西諸島防衛線にて出会った空母ヲ級だ。

 ヲ級が横島に一目惚れし、戦闘から逃げ出した後。彼女達一行はどうにも縄張りに居辛くなり、海域から出奔した。当初はヲ級のみが縄張りから抜けるはずだったのだが、ヲ級一人に辛い思いはさせないとグループを組んでいた仲間達もついてきてくれたのだ。

 発声練習を続けるヲ級を見守るのは軽母ヌ級、軽巡ヘ級、駆逐ハ級、駆逐ハ級の四人。『人』と数えていいのかは甚だ疑問だが、とにかくその四人がヲ級と共にこの無人島で暮らしている。

 本当ならばあともう一人重巡リ級がいるのだが、彼女は皆の食料を獲るために海へと潜っている。彼女は重巡なのに潜水が得意なのだ。

 

「ラレリルレロラロ、ワヱヰウヱヲワヲ――――ムフー……!!」

「――――!!!」

 

 発声練習を終えたのか、ヲ級は満足気な表情で深く息を吐く。それを合図に彼女を見守っていたヌ級達が声無き歓声を上げる。やんややんやと褒め称えられ、ヲ級は照れ臭そうに頭を掻く。声はなくとも、思いはしっかりと伝わっているようだ。

 そもそも彼女がこうした訓練を行っているのは、次に横島と会えた時に楽しくお喋りをするためだ。海岸に偶然流れ着いた『深海棲艦でも出来る日本語マスター術!!』という謎のハウトゥー本を発見したことを皮切りに、彼女の努力の日々が始まった。

 リ級もヲ級に協力し、今では二人は立派に言葉を離せるようになっている。やや発音が異なっているのは、ご愛嬌といったところ。

 ヲ級は擦り寄ってくるハ級達の頭を撫で、自らの胸に抱き寄せて頬擦りをする。ハ級達はくすぐったそうにしながらもそれを拒まず、むしろより積極的に身体を擦り付ける。

 

「ヲッ、少シ痛イヨ、ハ級」

「……ッ」

 

 ぐりぐりとハ級の頭を撫でるヲ級。それが嬉しかったのか、より強く頭を擦り付けるハ級を、ヲ級はやんわりと止める。ハ級はそれに申し訳無さそうに唸った後、今度は優しく頭を擦り付ける。ヲ級はそれを笑って受け入れた。ヌ級とヘ級の見守る視線がとても温かい。

 そうやって楽しそうにはしゃぐ彼女達の姿は、どこか以前と違っていた。

 例えば駆逐ハ級は身体に丸みを帯び、大きかった口はやや小さくなり、特徴的だった一つ目もどこか優しい印象に変わっている。

 空母ヲ級は病的なまでに白かった肌が色を宿し、虚無的であった瞳も活力に満ちている。まるで生気を失っていたかのような以前の姿からは想像も出来ないほどに、今の彼女は人間らしい。――――いや、もしかすれば()()()()()()()()()、と言った方が正しいのかもしれない。

 

「オーイ、ミンナー!」

「ヲ?」

 

 声がした方に目を向ければ、一人の深海棲艦が網を片手に海から海岸へと上がってきていた。重巡リ級だ。すぐさま皆はリ級の元に集まり、今日の成果を確認する。

 苦笑いを浮かべるリ級がヲ級に持っていた網を手渡すが、その中身はないに等しい。ヘ級がとてもショックを受けたような顔をした。

 

「イヤー、今日ハ全然ダッタヨー。ナンカ魚ガイナクッテサー」

 

 申し訳無さそうに話すリ級。以前と変わったと言えば、彼女が一番変わったと言える。

 ヲ級同様白かった肌が色を取り戻し、健康的な色気を発するようになった。それはヲ級も同様だ。しかし、彼女は顔立ちすら変わっている。

 以前のどこか鉱物染みていた髪は柔らかさを取り戻し、人形のようだった顔も今ではすっかりと人間味を取り戻している。目尻が垂れ下がり、「タハハー」と笑う姿はまるで別人のようだ。

 

「珍シイネ、魚ガ獲レナイナンテ。近クデ戦闘モナカッタハズダシ……」

 

 ヲ級は首を傾げつつリ級の網を持ち上げる。その中には獲物がほとんどおらず、海草やわずかばかりの小さな貝が入っている程度。これでは皆のお腹を満たすことは出来ない。

 

「ウーン、モシカシタラ嵐デモ来ルノカナー? ソレデミンナ逃ゲ出シタトカ……」

「嵐……?」

 

 リ級の言葉を反芻するように呟き、ヲ級は空を見上げる。雲一つもない晴れ、快晴だ。憎たらしいほどに太陽が燦々と照りつけている。

 

「嵐……?」

「ソンナ目デ見ナイデヨゥ……」

 

 少し残念な人を見るかのような視線をリ級に向けるヲ級。これにはリ級も涙目だ。しかしながら、実はリ級の予想もあながち間違いとは言い切れない。

 

「……ッ!!?」

 

 初めに気付いたのはハ級達。次いでヌ級、ヘ級が海岸、その先の海へと向き直る。それは鬼気迫る勢いであり、彼女達の全身をじっとりと濡らす冷や汗からも何かとんでもない脅威が近付いていることが窺える。

 

「ミンナ、ドウシ――――ッ!!?」

 

 ここで、ようやくヲ級達も気が付いた。皆が睨みつける海の向こう。そこからやってくる、自然災害にも匹敵するだろう脅威の存在に。

 

 海面を悠然と進み来るその威容。それは、深海棲艦だ。それも上位種である人型。

 身長はおよそ二メートル近くだろうか、女性としてはあまりにも大きいその身体に、それに負けない存在感を放つとても大きな胸部。

 彼女の腕は凶器と化しており、その爪はあらゆる物を引き裂くだろう。

 風に棚引く長い髪は白く、幽鬼を連想させる。しかし、それでいて肌は温かみのある色をしており、亡者染みていながらも生者であることを理解させる。

 彼女は普段からどこか自虐的な、陰鬱とした目をヲ級達へと向け、薄く笑顔を浮かべる。

 

「ヨウヤク……見ツケタ……」

 

 彼女が口を開く。それだけでヲ級達に降りかかるプレッシャーは倍増した。明らかに自分達とは存在の格が違う相手。それもそのはずだ。何故ならば、彼女は――――。

 

「オ前達ニハ……“資格”ガアル……」

 

 彼女を構成する要素の中で、最も特徴的と言えるのが、額から突き出た黒い“角”だ。

 それは数ある深海棲艦の中でも、()()()()()()()()彼女。大きな身体、黒い角、凶器の爪。

 彼女こそは深海棲艦の最上位、“姫級”が一人――――。

 

「ドウカ、()()()()()()()デ……共ニ戦ッテホシイ……」

「港湾……棲姫……!!?」

 

 突如として現れた“港湾棲姫”が、ヲ級達へと笑いかけ、手を差し伸べる。

 自分達を探していた港湾棲姫、自分達が持つという資格、そして“私達の提督”という言葉。

 ヲ級達はそのどれもが分からない。言葉の意味を理解出来ず、また港湾棲姫の存在感に呑まれているヲ級達は身動き一つ取る事が出来ず、知らずの内に港湾棲姫を涙目に追いやっていた――――。

 

 

 

 

 

 

 

『みんな、撤退だ!! 撤退しろ!!』

 

 横島からの通信が艦娘達の耳朶を震わせる。言われるまでもない、とばかりに彼女達は敵艦を牽制し、逃げの一手を打つ。

 順調だった。全ては上手くいっているはずだった。

 川内が着任し、第三艦隊が開放され、資材もそれなりに潤い、皆の練度が上がり改造が可能になった。今までに無いほどの順調ぶりで士気も高く、勢い込んで第二海域の攻略を開始し、見事2―1を突破した。

 苦戦らしい苦戦もなく、まさに鎧袖一触といった風情の戦闘であり、それが皆を更に勢いづける要因となる。しかし、だからといって慢心はしない。

 今までにないほどに順調だったのだ。今更くだらない油断などで出鼻をくじかれるわけにはいかない。勝って兜の緒を締めよ。皆に、油断や慢心などは一切なかったのだ。

 

 ――――しかし。

 

「……っ」

 

 出撃メンバーだった曙は、大破したその身を引き摺るようにして帰路に着く。もう敵艦の姿はなく、周りにいるのは自分と同じく大破・中破した味方のみ。

 完敗だった。彼女達は運悪くボスルートに進めず、進んだ先で出くわした運送船団に完膚なきまでに叩きのめされたのだ。こちらの攻撃などものともせず、まるで意に介さないかのように、ただただ無感動に。

 

「……くそっ」

 

 輸送ワ級は問題ではなかった。駆逐ニ級だってそうだ。自分達は戦艦ル級だって倒せたのだ。だというのに……!!

 

「――――くそぉ……っ!!」

 

 曙達は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。単なる随伴艦だと思っていた。ル級をサポートするための艦だと。

 しかし、()()()()()()()()()()。その深海棲艦こそが、()()()()()()()()()()()()()

 

 その深海棲艦の名は“軽巡ト級”。

 ト級は天龍や加賀のように、その身に強力な霊波を纏っていたのだ――――。

 

 

 

 

第二十八話

『それぞれの出会い』

~了~

 

 

 

 

 

 

港湾棲姫「共ニ戦オウ……」ぶるん

 

空母ヲ級「……!!」

 

港湾棲姫「私達ノ提督ノ下デ……」ばるるん

 

重巡リ級「……!!」

 

港湾棲姫「アノ……話、聞イテル……?」(涙目)どたぷーん

 

ヲ級・リ級「ナンテ存在感ダ……!!!」(自分の胸を触りながら)

 

 







とりあえず謎をばらまいていくスタイル。
一応第二章であらかたの謎は明かされるはずです。三章・四章は……うふふ。

次回は曙が主役(予定通りに進めば)

……なんかまたやたらと長くなってしまいそうだ。


それはそうと、今回リ級が出てくるので改めてリ級のビジュアルを確認したのですが
「あれ……? リ級ってこんなに可愛かったっけ……?」
と愕然としました。

私の抱いていたリ級の印象ってもっと怪物っぽかったのですが……おお、なんてことだ。


それではまた次回。
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