出来ればこのくらいの文章量で続けていきたい。
横島が鎮守府に着任し早数十分。彼は吹雪に鎮守府内を案内してもらっていた。
鎮守府の敷地内に存在する艦娘や艦娘の装備を開発する工廠、艦娘達が住む予定の寮、多くの艦娘達が集まれる講堂など、一通りの案内と簡単な『艦これ』というゲームについてのレクチャーをされた横島は色々と考え事をしていた。
――この子、どう見ても魂を持ってるよなぁ。
横島が考えていたことはそれだった。霊視によって感知した吹雪の
では、一体何故ゲームのキャラが魂を持ったのか?
――分からん。それを調べるのが依頼の内容の一つとはいえ、ちゃんと原因を突き止められるんだろーか。
横島は難しい顔で唸る。吹雪はそんな横島の様子に気付き、少し不安げな表情で横島に質問をする。
「あ、あの、司令官。どうかしましたか? 先程から難しい顔をされてますけど……」
「んあ? ああ、いや、さっき艦娘の寮に案内してもらっただろ? 何か部屋の数が百近くあったじゃんか。一部屋を二人~三人で使うらしいけど、あんなに数があったんじゃ艦娘の人数もそれ相応ってことだし、皆の顔と名前を覚えきれるかなーって思ってさ」
横島は話を誤魔化すことにした。とは言ってもそれは実際に危惧していたことでもある。横島は頭をぽりぽりと掻きながら不安を口にした。
「艦娘は多いですからね……。でも、司令官なら大丈夫ですよ! だって、みんな可愛い女の子ですから!」
吹雪はにっこりと笑ってそう言った。
実は吹雪を始めとする艦娘達は皆、
吹雪も司令官に対する好感度は比較的高いタイプの艦娘だ。ゲーム内の設定が反映されているのか、それとも吹雪が持つ魂が横島に好感を覚えているのかは未だ定かではないが、彼女の笑顔に偽りは一切無いと言えるだろう。
「みんな可愛い女の子かー。それなら何とかなるかもなー」
吹雪は横島のだらしなく緩んだ顔に苦笑を浮かべる。随分と思考が顔に出る司令官である。しかし、そんな司令官だというのにこうして二人でいても息苦しくはなく、むしろ楽しいという感覚が湧き上がってくる。
――よしっ! 司令官に良い所を見せるんだから!
吹雪は密かに気合を入れる。それもそのはず。今彼女達が向かっているのは執務室。つまりは司令官と秘書艦である自分の仕事部屋だ。ここで頼れる所を見せて、司令官に褒めてもらおう。
吹雪は頬を紅潮させ、鼻息荒く歩を進めていく。
「おーい、吹雪?」
「はいっ、何ですか司令官っ?」
後ろから呼びかけられ、吹雪は元気一杯に振り返る。
「執務室、通り過ぎちゃってるけど……」
「ぅえ゛……!?」
どうやら、吹雪はやる気が空回りすることがあるらしい。吹雪は先程とは違う意味で頬を赤く染め、横島に必死に謝った。
その際に横島にあまり気にしないようにと頭を撫でられ、更に羞恥に悶えるのだった。
そうして入った執務室。そこには横島の想像を超えた光景が広がっていた。
「……」
机もない。椅子もない。棚もそんなに置かれてない。他にはない。何もない。置いてあるのはみかん箱。
「……」
「あ、あの……司令官……?」
横島の雰囲気が変わる。そして表情も変わる。こめかみやらに血管が浮かび、井桁を浮かべたそれは憤怒の表情だ。
「うぉのれキーやんにサっちゃんめええぇぇぇーーーーーー!! 嫌がらせか!? 嫌がらせなのかこれはああぁぁぁーーーーーー!!」
「ひえぇっ!? ししし、司令官!!?」
横島は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の経営者二人を除かねばならぬと決意した。横島には最近のゲームがわからぬ。横島は、貧乏な煩悩少年である。エロ本を読み、アダルトビデオを観賞して暮らしてきた。けれども他人からの評価や扱いに対しては、人一倍に敏感であった。
「俺にはみかん箱で充分だってか……! 許せねえ……! あの野郎……あの野郎……!! 許せねえ……っ! 許してたまるか!!」
「お、落ち着いてください司令官! 流石にこれは怒るのも分かりますけど……!」
怒り狂う横島を何とか宥めようと、吹雪が後ろから抱きつく。瞬間、横島の全神経は背中に集中。背中に当たる小振りな胸の感触で、何とか冷静さを取り戻すことが出来た。
「ふう……。いや、ごめんな吹雪。急にあんなんになって」
「いえ、気にしないでください。この部屋の状況はゲームの仕様なんですけど、やっぱり何も知らずに見たら私だって怒っちゃうと思います」
「え、ゲームの仕様だったの?」
「実はそうなんです」
吹雪が言うには、任務をこなした報酬でもらえる家具コインを集め、それでアイテム屋さんという場所で家具を購入するらしい。他にも課金することで手に入る特注家具職人というアイテムもあるそうで、それがなければ購入すら出来ない家具も存在するそうだ。
横島は課金という要素に不安を覚えるが、吹雪が言うには課金をしなくてもそこまで困ることはないとのこと。実に不安を煽る言葉である。
――いつかは課金をしなけりゃいけないのだろーか……。
そんな未来を幻視した横島のテンションはいい感じに下がり、とりあえずはもう一度部屋を観察する。
「しっかし、何度見ても見事になんもねーな。これでどうやってゲームを楽しめってんだよ」
「あ、それはこの端末をお使いください」
横島のぼやきに吹雪が懐から雑誌サイズの液晶ディスプレイを取り出す。
「ええー……」
「ほら、司令官。この画面をこんな風にタッチして、色んな指示が出せるんですよ」
「……何か急にゲームっぽくなったな。んー、どれどれ? ……何だこれ!? 本当にタッチするだけで画面が変わる! しかも画質が超キレーだし、読み込みっつーの? それも速い! うはは、何だこれ! すげえ!」
端末を色々といじり、その度に少年の様にキラキラとした瞳で驚きの声を上げる横島。そんな彼を、吹雪は微笑ましそうに見つめている。しかし、横島は嬉々として動かしていたその手を止める。
「……どうかしました?」
「ああ、何かチュートリアルってのが画面に出てきてな」
その言葉に画面を見てみれば、確かに画面にはチュートリアルの文字が浮かんでいた。
「このチュートリアルに沿っていけば、『艦これ』の遊び方が分かりますよ、司令官」
吹雪がにこやかに横島を見上げながら言う。その表情は非常に可愛らしい。体勢の関係か、制服の隙間から少しだけ下着と肌が見えている。横島は吹雪の無防備さに鼻の下を伸ばしながら、改めて内容を確認する。チュートリアルには『工廠で新しい艦娘を建造しょう!』と表示されている。横島はこれに従い、まずは画面に表示されている『工廠』にタッチする――――その時横島に霊感走る。
「……」
――違う。最初に選ぶのはこれじゃない。
横島の霊感はそう告げている。横島は流れるように指を走らせ、画面右上の『任務』と書かれた場所にタッチした。
「あれ、司令官?」
吹雪は疑問の声を上げるが、横島はそれを気にせず、ずらりと表示された任務の内容に目を向ける。すると、その任務がそこにはあった。
「吹雪、任務を達成すれば燃料とか鋼材とかが手に入るんだよな?」
「え? はい、そうですけど……」
「うん、任務の一つに『はじめての「建造」!』っていうのがあるんだよ」
「……あ、本当ですね」
「これ、チュートリアル通りにプレイしてたら損してたよな?」
「……そうですね」
「……これについても書いとこう」
吹雪は気まずそうに視線を逸らしている。吹雪もチュートリアルの内容は知らなかったため、このような罠があるとは思いもしなかったのだ。
「……さて、気を取り直して『はじめての「建造!』を受注っと」
横島は画面を操作し、任務を受けた後で今度こそ工廠にタッチした。新たな画面が開き、そこには建造、解体、開発、廃棄という文字が表示された部分と、四つあるうち二つが稼働している
「えーっと? 建造を選んで……お、資材の量を入力ね。燃料に弾薬、鋼材にボーキサイト……最後がよく分からんな。それぞれ千ずつあって、最低値は三十ね。……最初だし、オール三十でいいや」
横島は吹雪にも操作の仕方が分かるように、逐一声に出しながら進めている。吹雪も横島の気遣いを理解しているようで、真剣に画面を観察している。吹雪はまだ気付いていないが、横島は彼女が見やすいように若干背を屈めている。シロやタマモ、ひのめと遊ぶことも多い為に、そういった気遣いが磨かれたようだ。
画面の中を小さくデフォルメされた女の子――妖精が動き回り、艦を作っていく。横島はそれを見て、「一人だけ荷物持ってうろうろしてるだけの奴がいる……」などど考えていた。
「おっしゃ、建造までに掛かる時間は二十分か。これってやっぱり短いよな?」
「はい。この時間だと建造されるのは私と同じ駆逐艦ですね」
「駆逐艦か……。となると、戦艦とかだと何時間も掛かったり?」
「はい。今は出来ませんが、大型建造では八時間掛かる艦娘も存在するんです」
「おおー、現実とは違うからまだ短いとはいえ、それでもゲームとしては破格の長さだよな。……さて、それじゃ待ってるのもなんだし、この高速建造材ってのを使うか」
横島は『高速建造』にタッチ。すると三つあった内の一つを消費し、高速建造が開始された。その様は全ての妖精が一度引っ込み、一人の妖精が建造途中の艦に火炎放射器をぶっぱする光景であった。何かが間違っている。
「いや、流石にこれはおかしい」
「司令官、ゲームですので」
ゲームならば仕方ない。横島は何か釈然としないまま一瞬の内に建造が終わるのを見届けた。画面では作業を終えた妖精が元気良くバンザイをしている。見ていてとても微笑ましいのだが、ここで横島に疑問が一つ。
「なあ吹雪」
「……? 何です、司令官?」
「これで艦娘が建造出来たんだよな?」
「ええ、そうですけど……?」
「……工廠って、外にあるよな?」
「………………あっ!!?」
二人は窓から見える工廠に視線をやる。ここから工廠まで、走っても数分は掛かる。それまで、建造された艦娘は一人ぼっちだ。
「……迎えにいくぞ! ダッシュで!!」
「……はい、行きましょう! ダッシュで!!」
こうして、二人は風を切る矢となった。
その頃の工廠内。
稼働していた人一人が収まるサイズの小型ドックの扉が開き、中学生程に見える外見年齢の少女が髪を靡かせながら歩み出てきた。
「あんたが司令か……んん?」
少女は目をぱちくりとさせる。眼前には誰もいない。右を見ても、左を見ても誰もいない。当然上や下、後ろにだって誰もいない。
少女は怒りに震え、顔を紅潮させる。
「――何でっ!! 誰もいないのよーーーーーーっ!!!」
少女は手に持った『槍』をブンブンと振り回し、怒りの咆哮で工廠を震わせた。彼女の頭の横に浮いている謎の機械は、彼女の感情を如実に表しているのか赤い光を放っていた。
第二話
『はじめての「建造」!』
~了~
お疲れ様でした。
艦娘の好感度は最初からけっこう高めです。
すまない……ご都合主義で、本当にすまない……。
ちなみに今の所明石も大淀もいません。出番はもっと先になります。
次回は最初かなり痩せぎすだったのに、改二になったらむっちむちになったあの子が本格登場しますー。