パソコンが完全に壊れ、データも何もかも全てが吹っ飛んでしまいました……今までありがとね。
そんなわけで暫くはスマホ投稿となりますので、以前より文字数が少なくなっています。
……まあ最近の煩悩日和はやたらと文字数が多かったので丁度良かったのかもしれない。
それにしてもパソコンとスマホじゃ勝手が違いすぎてとてめやりづらい……。
一応今回からようやく演習が始まるわけですが、一体どのようなことになるのでしょうか。
それはともかく、皆様のお陰で煩悩日和のUA数が20万を突破いたしました。
これからも煩悩日和をよろしくお願いいたします。
それではまたあとがきで。
実に三十人以上の艦娘を引き連れて鎮守府の演習場を目指す横島達一行。演習場は鎮守府前海域と被らない場所に存在するため、少々長い距離を歩くことになる。
その間、横島はカオス達他の提督から預かったそれぞれの艦隊資料を読み、自分と他の提督達の艦娘の練度の差に衝撃を受けた。
「うっへぇ……やっぱみんなスゲェな。殆どの艦娘の練度が60以上。老師のとこにいたっては全員練度
「まあワシらとお主ではそもそも前提が違うからのう」
「貴様は元々学生。更にはゴーストスイーパーの仕事も行っている。そんな中でこれだけ育て上げているのは称賛に値すると思うがな」
斉天大聖やワルキューレ達神魔族が艦娘達の司令官をしているのは
対して横島は高校に通い、バイトを終わらせてからこちらの世界に来ている。絶対的に使える時間が違いすぎるのだ。
それでも横島鎮守府の練度の平均値は20台であり、最も練度が高いのは天龍の30台。以下叢雲、龍驤、加賀、那珂、電と続く。
霊力の方では金剛がダントツであり、以下天龍、加賀、扶桑、龍驤、那珂と続く。
……打撃力? 電以外に誰か候補が?
ワルキューレに誉められて悪い気はしない横島は少々締まりのない笑みを浮かべる。
「ぶー。私が褒めてもそんな風にデレデレしないくせに。やっぱり生意気でちゅよー」
「うおっと、おーいパピリオ。飛び付くのは危ないから止めろっての」
「つーん」
横島の様子にヤキモチを焼いたのか、パピリオは面白くなさそうな表情を浮かべて横島の背中にのしかかる。
宥めようとする横島と機嫌が悪いふりをするパピリオがじゃれあう姿はどこか侵しがたい雰囲気があり、横島LOVEな金剛でも割って入ることが出来ない。
「むー……ベスパさんとパピリオちゃん、司令官とどんな関係なんだろう」
「確かに気になりますね」
「でもアイツは話したくないって言ってたしねぇ……」
「むむむむぅ……まだまだ好感度が足りないデスかー?」
横島のすぐ後ろで内緒話をする秘書艦三人と金剛。横島に関係を問い質すも話すことを拒絶されてしまい、少々精神的に動揺が走っている。好感度はみんな高いからそこは心配しなくてもいいが、やはりそれは上手く伝わっていない。
「んー……カオスのじーさんとこの艦娘は知らない艦種ばっかだな」
横島は吹雪達の動揺に気付けず、ちょうど読んでいたカオスの艦隊の編成資料の疑問を口にした。
カオス艦隊、旗艦は戦艦“榛名”。以下海防艦“佐渡”、“福江”、揚陸艦“あきつ丸”、補給艦“
所謂特殊艦艇と呼ばれている艦娘を多く含んだ編成である。
「これはそれぞれどういう特徴があるんだ?」
「ふむ……あまり詳しく言っても小僧には分からんじゃろうし、大雑把に説明するが……それでもよいか?」
「おう、頼む」
まずは海防艦。この艦種は対潜に特化しており、駆逐艦よりも更に対潜値と回避値が高い。
揚陸艦は分類としては航空母艦に近く、艦載機を搭載可能。更には 「三式指揮連絡機(対潜)」と「カ号観測機」という装備によって対潜の鬼と化すのだ。
補給艦は“洋上補給”を装備して艦隊に入れて出撃すると、その名の通りに洋上で燃料と弾薬を補給することが出来る。
最後に練習巡洋艦だが、この艦種を艦隊に入れて演習を行うと、経験値の獲得量が増大するという能力を持つ。
「ほぇー、みんな色々と有用な能力を持ってんだなー」
カオスの説明を聞いた横島が感心したように頷きながらちらりと背後に目をやり、カオスの艦隊を確認する。
横島の言葉は当然背後の皆にも聞こえており、一様に照れくさそうな顔をしている。
特にあきつ丸などはその大きな胸を張り、ふんすふんすと鼻息を荒くしている。どやがお丸である。(?)
「……いや、でもこれもしかして……」
「ほう? 気付いたか」
横島の疑問の声にカオスはニヤリと笑う。
「あー、っつーことはやっぱり」
「うむ。戦闘には向いとらん」
カオスは横島の言葉にあっさりと頷いた。
それというのも海防艦は対潜と回避以外のステータスが低く、耐久は駆逐艦の半分。雷装/Zero。対潜戦闘以外の出撃には多大なリスクが伴うこととなる。
補給艦である速吸は基本的に低性能で燃料の消費が戦艦並みという超高燃費。更に無改造の速吸に洋上補給を複数取り付けると装甲/Zeroになってしまうのだ。
練習巡洋艦の香取もやはり戦闘能力は低い。性能は軽巡洋艦には遠く及ばず、駆逐艦と並べても正直心許ない。
揚陸艦のあきつ丸は耐久こそ軽巡洋艦並みであり、前述の通り分類としては航空母艦に近く、航空艤装も装備してあるのだが……何故か改造されるまで艦載数/Zeroという謎の仕様が存在する。
それぞれに有用な能力が存在するのは確かだ。しかし、その能力を活かすには戦闘能力という高い高い壁を乗り越えなければならないのだ。
敬愛し、信頼するカオスから自分達の戦闘能力の低さを指摘された香取、速吸、榛名は苦笑を浮かべ、佐渡と福江は柳眉を逆立てて犬のように唸る。
あきつ丸にいたっては肩をガックリと落とし、背を丸めて大きな溜め息を吐いた。しょんぼり丸である。(?)
「でも、それが分かってて演習に連れてきたってことは……」
カオスの言葉に大なり小なりショックを受けていた榛名達は横島の言葉に顔を上げ、次いでカオスの背中を見つめる。
その言葉の続き、それをカオスに言ってほしい。そんな願いを込めて。
「ふっ。━━━━そうとも。確かに特殊艦艇という括りである以上戦闘能力の低さは否めん。……だが、それでもあの子らは強い。今回の演習でそれを証明してみせようではないか」
斯くして、榛名達の願いは叶えられた。不敵な笑みを浮かべ、そう言い切ってみせたカオス。その堂々たる姿は自信に溢れ、ヨーロッパの魔王という異名に相応しい威厳に満ちている。
カオスの絶対の信頼からくる言葉に榛名は頬を染めて胸の前で手を組み、熱の籠った瞳でカオスを見つめる。カオスに対して並みならぬ想いを抱いている榛名であるが、それに加えて佐渡達の強さを認めてくれたことも嬉しかったのだ。
榛名は佐渡と福江の二人を自分の子のように可愛がっている。よく話し、よく遊び、悪いことをすればちゃんと叱ってやっている。そして、彼女達の父親役━━━━榛名の旦那役、それは言わずもがなだ。
ちなみにあきつ丸は白い肌を赤く染め、頬に手をやり、ほぅと熱い息を吐いている。ときめき丸だ。(?)
横島は榛名達の様子に目敏く気付き、カオスのことを物凄い目で睨み付ける。その目を見たヒャクメ艦隊の秋雲さんは「う○みちゃん……」と呟いていた。
「ん……っと、ようやく到着だな。わりい、待たせたな」
横島が声を掛けるその先、そこには整列した横島鎮守府の艦娘達が待っていた。
「ほう……?」
斉天大聖とワルキューレの口が弧を描く。横島の艦娘達から滲み出す霊波、それに練度以上の強さを感じ取ったからだ。
霊波の強さとはすなわち意思や感情の強さ、魂の強さとも言い換えることが出来る。彼女達は横島以外の司令官達に強い視線を送っており、その士気の高さもかなりのものだ。
……まあ、カオスやパピリオから視線が動くと皆の目が驚愕に彩られ、ざわつきが支配してしまったのだが。
見た目が完全に年老いた猿、何かよく分からない格好をしたベレー帽を被って背中から黒い翼を生やした軍人っぽい女性、全身のいたるところに目がいっぱいあるおかしな髪型をした女性がいればそうもなるだろう。
“お猿”、“大尉”、“お目々”……これらのあだ名は彼らの特徴を実によく捉えていたと言える。
「んじゃあ軽く説明すっけど━━━━」
そうして横島は吹雪達にしたのと同じ説明を皆にも話す。一番皆に驚かれたのはキセルを吹かせながら横島の隣に立っている猿爺が
次いでカオスが千年の時を生きる錬金術師であること。ついでに目がいっぱいある女性が覗き魔だと知れた時には皆から白い視線を頂戴していた。……不知火はどことなく何かを企んだような目でヒャクメを見ていたが。
「まあそんな感じだな。演習のまず一発目は俺とカオスのじーさんのとこだ」
それぞれの鎮守府ごとに移動しながら、横島はまず最初の予定を説明する。横島の言葉に皆はカオス達に目をやり、対戦する艦娘達の姿を確認する。対するカオス達もその視線に気付き、口元に笑みを浮かべ真っ向から見つめ返す。互いにやる気は充分だ。
「はっきりと言っちまえば俺達が最弱だ。今日戦うことになる他の艦隊の練度は俺達の倍以上。霊力の扱いについても向こうが上だろうな」
「……」
艦娘達にとって衝撃的な言葉をさらりと口にする横島に、皆は声も出ない。自分達の鎮守府が一番遅く運営を開始したのは聞いていたが、まさかそれほどまでの差があるとは思ってもいなかったのだ。
天龍や叢雲などは好戦的に笑っているが、そんな心構えが出来ているのはごく少数であり、殆どの艦娘は硬い表情を浮かべている。
「ほれほれ、そんな暗い顔してんなって。別に負けたところでどーこーなるわけじゃねーんだしさ。むしろぶっ倒す勢いでいかねーと」
横島が言葉を重ねるが、それでも彼女達の表情は硬いままだ。横島はまず最初に彼我の実力差を認識させておきたかった。それによって艦娘達のモチベーションが下がるかもしれないという危惧はあったが、それでも嘗めてかかるよりは余程いいと割り切っている。
……とは言え、このまま身体も気力も萎縮したままでは実力の半分も発揮出来ないだろう。そこで横島はとある人物にアイコンタクトを試みる。その人は横島の視線に気付くと薄く微笑み、小さく頷いた。
「━━━━提督の言う通りよ、みんな」
艦娘達の列から抜け、横島の隣に歩み出るのは戦艦“扶桑”。彼女は整列している皆をゆっくりと見回し、にっこりと笑みを深める。
「せっかく私達よりも格上の人達が相手をしてくれるんだから、全力を出せないと勝負にもならないわ」
そうやって語る扶桑の笑みは、まるで悪戯っ子のように変化する。
「それに、私達が弱いのだって考え方によっては有利に働くわ。相手が油断してくれれば儲けもの。その隙に顔面にパンチを叩き込んでやりましょう」
ぽすぽすと横島の胸に扶桑の拳が当たる。その様はわざとらしく、滑稽ですらあった。しかし、そのわざとらしさがみなには上手く働いた。
まず一人が小さく笑いを吹き出し、それが二人に、二人が四人にと拡散していき……やがて全員が笑い声を上げた。
━━━━緊張はこれで解れただろう。扶桑は横島の、意図に気付き、見事その役割をこなしてみせた。
これは扶桑にしか、扶桑だからこその理由がある。
扶桑という艦娘は不幸艦と呼ばれており、彼女はその不幸を当然のものと考えている節がある。妹に比べれば前向きな性格であると言えるが、それでも扶桑は前向きを装っているだけなのである。
扶桑のポジティブな言葉には“期待”というものがない。「どうせ希望通りにはならない」……そんな諦めが扶桑の心に蔓延っているからだ。
どこまでも前向きに、真っ直ぐと。━━━━ならば、自分達も前を向こう。あの扶桑がそうなのだ。負けてなどいられない。
「……」
皆の目が力を取り戻したのを確認した横島は、扶桑に目で謝罪する。扶桑の性質を利用したことへの謝罪だ。しかし扶桑はそれを笑って流し、自分の唇に指を当てる。それ以上謝らなくてもいい……そういった意味を込めて。
扶桑には改めて感謝の念を抱く。本当に自分のことを理解してくれていることに、横島の胸に温かな熱が宿る。
「━━━━そう、なのです。あれだけ特訓して新技も身に付けたことだし、本気でやらないと意味がないのです。相手の顔面にホームランを叩き込む勢いでいくのです……!!」
━━━━その熱も、電のこの言葉で一瞬で氷点下にまで下がってしまったのだが。そして
「………………っ!!!!?」
横島鎮守府以外の全艦娘の背筋に、異様なまでの冷たい予感が走った。斉天大聖艦隊の旗艦長門もその異常な感覚に全身を冷や汗で濡らす。
「……それじゃ、一戦目のメンバーを発表するぞー?」
とりあえず横島はそれに気付かないふりをし、話題を変える。現実逃避と言うのは簡単だ。しかし、誰にだってどうしようもないことは存在する。してしまうのだ。
「旗艦は加賀さん。以下天龍、叢雲、電、時雨、夕立の六人だ」
カオス艦隊に対抗するべく横島が選択したのは空母機動部隊。それも加賀と天龍という横島鎮守府最強戦力の投入だ。
脇を固めるのは叢雲に電という鎮守府古参メンバーの古強者。時雨や夕立の戦闘センスも侮れない。
更にカオス艦隊は榛名以外の全員の速力が低速であり、横島艦隊の六人は全員高速だ。これにより速さで相手を翻弄することも出来る。名実ともに、横島鎮守府最強の空母機動部隊の誕生である。
「よしっ! 腕がなるわ!!」
見事メンバーに選ばれた叢雲は左の掌に右拳を打ち付け、逸る気持ちを抑えられない様子を見せる。それは一見普段通りの姿のようであるが、横島には少し違って見えた。
「んー? 叢雲のやつどうしたんだ? 何かいつもより気合いが入ってるっつーか気負いすぎっつーか」
「ふふふ、流石ですね司令官」
「白雪?」
叢雲の様子をいぶかしがる横島に白雪が歩み寄る。どうやら叢雲がいつもとは違う理由を知っているらしい。
「実は叢雲ちゃん、最近お肉が付いてきたみたいで。今日の演習で色々と発散して以前のような━━━━」
「白雪ィッ!! それは秘密だっつったでしょうがァッ!!」
「きゃー」
乙女の秘密をバラされた叢雲が酸素魚雷を振り回し、酷く棒読みの悲鳴を上げて逃げる白雪を追う。頬は羞恥と怒りによって真っ赤に染まっており、若干ではあるが涙目にもなっている。
「あー……やっぱそういうのって気にするんだなー」
追いかけっこをする二人を呆れるように眺めながら、横島は溜め息混じりにそう言った。演習を前にガチガチに緊張するよりはまだマシなのかもしれないが、これでは気が抜けすぎである。
「あによ!? アンタだってデブよりは痩せてる方がいいでしょうが!?」
横島の言葉が聞こえたのか、叢雲は視線だけで人を殺せそうな目で横島を睨む。気のせいか叢雲の背後に般若の面が見えるようだ。どうやら本当に余裕がない様子。
ちなみに叢雲が太ってしまった原因だが、最近メキメキと料理の腕が上がっている雷に対抗心を燃やした白雪が叢雲に料理の味見を依頼したのが発端である。
自分の料理を美味しそうに食べてくれる叢雲の姿が余程嬉しかったのか、調子に乗って毎回作りすぎるのが問題だった。まあ叢雲がちゃんと完食していたのだが。
叢雲の自制心が足りなかったのも事実だが、白雪にも責任の一端があることを忘れてはならない。
「叢雲……」
「な、何よ……?」
横島は薄く、それでいて柔らかな笑みを浮かべると叢雲の肩に手をやる。突然そんなことをされた叢雲は横島の笑みにドギマギしてしまい、ついついどもってしまう。
横島の手は肩から二の腕を滑り、やがて己よりもずっと小さな手へとたどり着き、それを包んでやる。
叢雲は腕から走り、背筋を駆け抜ける妙な感覚に少々身悶えしてしまうが、気丈にも横島の顔を睨み付ける。
そのまま数秒間見つめ合い、横島は目を伏せて微笑みを深くすると、今度は叢雲の目を真っ直ぐに見据えながら言葉を紡ぐ。
「叢雲━━━━ちょっとデブったくらい気にすんなって。確かに二の腕とか多少プニプニしてたけど、男ってのはむしろ少し余ってるくらいの肉付きが好きだから━━━━」
「くぉのデリカシー/Zero野郎がああああぁぁっ!!!
「ぅおあああああぁぁっ!!? な、何でじゃーーーーっ!!? 慰めようとしたのにーーーーーーっ!!?」
「どこがだっ!? アンタの脳みそ腐ってんのかっ!?」
叢雲は横島の右腕を左足でフックし、更に左腕を両腕で手前に締め上げる。叢雲には珍しい立ち関節技だが、その威力は他の
熟達した者がこの技をかければ、相手の身体を真っ二つにすることも出来るというのだから驚きだ。
さて、そんな凶悪な技をかけられている横島といえば、存外余裕そうであった。いや、苦痛に顔を歪めてはいるのだが、それと同じくらいに煩悩で顔が歪んでいるのだ。
叢雲の身体は確かにふっくらしてしまった。しかし、それはとあるメリットを生み出していた。
━━━━叢雲はチチが大きくなっていた。シリは弾力を増し、フトモモはむっちりとした存在感を増している。
それら全てが横島の煩悩を掻き立てるのだ。おかげで横島は地獄と天国を一度に味わうはめになった。……最近はずっとこんな感じである。そもそも横島が叢雲の身体の変遷に気付かないわけがない。
そう、横島は叢雲が太ったのを知っていた。そしてそれを良しと感じているのである。
そもそもが叢雲を痩せぎすと考えていた横島だ。今の体型の方が余程魅力的だと思っている。
「……司令官相手に暴行とは。何と言うか奴の鎮守府らしいと言えばらしいが」
「まあ、仲は良いみたいですから。これもスキンシップの一環なのではないでしょうか?」
「ふむ……そう言えば美神令子もあんな感じだったな。それを考えれば別段おかしくは……いややはりおかしい」
ワルキューレとベスパが過激な漫才を披露している横島達について呆れたように、しかし面白そうに語り合う。
二人の様子を鑑みるに、普段からああいったドツキ漫才が行われているのだろう。横島鎮守府の艦娘達も「またやってる」と微笑ましそうに見守っているのだ。ある種異様な光景だが、美神徐霊事務所はいつもこんな感じであった。つまりはそれは横島が絡んでいるのなら自然な光景であり、普通に考えればやはりおかしな光景である。
「ふんっ! 今回はこれで勘弁してあげるわ!」
「おおあああ……!! 俺は今の叢雲の方がいいのに……!!」
それを聞きながらもぷりぷりと怒りを見せながら離れていく叢雲……なのだが、彼女は「今の叢雲の方がいい」という言葉で一気に機嫌を回復させていた。
あまりにもチョロ過ぎるがそれでいいのか叢雲。
「ねえねえ提督さん」
「んぉ? ああ、夕立か。どうした?」
倒れ伏す横島に、夕立がしゃがみこんで話しかける。ちょうど横島が顔を上げればパンツが丸見えになる位置であるが、夕立は特に気にしていないようだ。
「この演習で活躍出来たら、何かご褒美が欲しいっぽい!」
「ご褒美ぃ?」
満面の笑みで提案してくる夕立に、横島は胡乱げな目を向ける。が、互いの練度差を考えればそれもいいかと思える。
「んー……分かった。俺に出来る範囲でなら構わないけど」
「やったっぽい!」
横島の答えに全身で喜びを表現する夕立。見た目はそれなりに育ってきているのだが、まだまだ中身はお子様らしい。
なんとなく微笑ましい気分になった横島は苦笑を浮かべ、よっこらせと立ち上がり━━━━ご褒美を約束したことを後悔する。
「頑張って活躍してちゅーしてもらうっぽい!」
「!?」
「!?」
「!?」
空気が凍り、軋みをあげる。夕立の周りに出撃メンバーが集まり、何事か話し合っている。
嫌な予感が横島を襲う。やがて密談が終了したのか、皆は一度横島を振り返り、ふ、と柔らかく微笑んだ。それは横島に「とっても嬉しいんだけど、とっても困ってしまうことになる未来」を想像させ、全身を冷や汗で濡らすはめになった。
「さあ━━━━往こうぜ、お前ら」
「ええ、往きましょう。……流石に気分が高揚します」
「最高に素敵なパーティー……」
「僕達で始めよう……」
何やらやる気満々な四人。電と叢雲はと言うと、こちらもやる気ではあるのだが……。
「はわわ……はわわわわ……!?」
「……」
チラチラと横島を見てははわはわ声を漏らす電と、頬を染めてじっと見てきたかと思えば視線を外し、またじっと見つめてくる叢雲。
二人はこのままではいけないと頭を振り、気合いを入れるために頬を両手で張る。
「よし━━━━海の底に沈めてやるわ」
「なのです━━━━全力で叩き潰すのです」
結局横島艦隊出撃メンバーは一足先に演習海上へと移動していった。
当然皆の視線は横島に集中するのだが……。
「んじゃ俺らもあっちの……管制室だっけ? そこに移動しようぜ。今まで演習が出来ない状況だったから中に入ったことないんだよな」
横島、これを華麗にスルー。しかし相変わらず冷や汗は流しており、動揺が隠しきれていない。数多の美女美少女に見つめられているにも拘わらず、横島の胸中に喜びが湧いてこない。湧き上がるのは冷や汗ばかりだ。
色々な意味で追い詰められていく横島の心を覗いたヒャクメは面白そうに笑うが、これ以上放置しておくのも問題だろう。そう考えたヒャクメは横島の艦娘達との関係には言及せず、自分の艦隊を誘導し、そのまま後に続くことにした。
「えーっと、照明はこれか?」
ちょっとした混乱はあったものの、横島を先頭に各陣営が管制室の中へと入る。照明のスイッチは入り口付近にあり、見送りのために最後に入ってきたカオスがそれを見つけ、明かりをつける。
明かりに照らされて皆の眼前に姿を表したのは、多数の座席とその前面の壁に設置されている大きなスクリーン。
その内装、その雰囲気、これは絶対に管制室ではない。そう、これは━━━━。
「映画館じゃねーか!?」
どこからどう見ても映画館であった。
「あ、ここにポップコーンとジュースの機械があるのねー」
「映画館じゃねーか!?」
やはり映画館であった。
「まあ、問題なく使えるのなら構わないが……まさか私達の鎮守府の管制室もこんな……?」
ワルキューレはまさかという思いを口に出すが、何せこの世界を構築しているのは
「私はキャラメルかな?」
「ポップコーンはやっぱうす塩だろー」
「ん、ハーフ&ハーフ……」
「待ちなさいアンタ達! まずは食材の賞味期限のチェックをしなきゃいけないでしょーが!!」
白雪、深雪、初雪の三人が早速ポップコーンを作ろうと機械を弄る。それに待ったをかけたのは霞なのだが、理由が少々おかしかった。いや、おかしくはないがキャラ的にはおかしかった。
そうして何やかんやあり全員にポップコーンとジュースが行き渡った頃、横島艦隊の加賀から通信が入る。
『提督。第一艦隊、持ち場に着きました』
「おう。そのままもう少し待機してくれ。……じーさん、そっちはどうだ?」
「うむ。こちらも問題ないぞ」
「あいよ……聞いての通りだ。すぐに始まることになるから、気ぃ抜くなよ?」
『大丈夫よ、問題ないわ……ご褒美、楽しみにしています』
「……活躍したらな」
加賀からの通信が終了し、沈黙が降りる。すると照明が暗くなり、ブザー音が鳴り響く。映写機からスクリーンに映像が投影され、加賀達横島艦隊か映し出された。
「もうほんとにただの映画鑑賞みたいになってきたな……」
呆れながらもポップコーンを摘まむ横島。演習だからと気合いを入れていたのに、何だかもうやる気を殺がれることばかりが起こっている。これも自分達らしいと言えばらしいのだが……。
「そう腐らんでもいいじゃろう。若いんじゃから流されるままに生きてみい」
「あの、提督。普通は逆だと思うのですが……」
カオスが不貞腐れる横島に適当な言葉を掛けると、隣に座っている榛名が苦笑しつつツッコミを入れる。
「……」
「……」
「……榛名!? 榛名ナンデ!? 演習海上に行ったはずじゃ……!!? 」
そう、カオスの隣には榛名が座っていた。それだけでなく、榛名の隣には佐渡と福江が、あきつ丸と速吸、香取がいた。
「お、おいおいどーいうこったよ? もう演習が始まるっつーのにアンタらがいたら……」
「まあまあ、落ち着け小僧」
混乱から復帰し、何故かこの場にいる榛名達カオス艦隊に疑問をぶつける横島を、カオスが諌める。
カオスはこれがさも当たり前のように振る舞っており、横島はそれに反感を覚える。
「おい、じーさ━━━━」
「だから落ち着けぃ。ほれ、ワシらを見てどこかおかしいとは思わんか?」
「いや、どこも何も全部がおかし━━━━?」
カオスに指摘され、横島ははたと気付く。おかしい。本来この場にいないはずの者達がいる一方で、
「まさか……」
それに気付いた横島は端末を操作し、演習の情報を取得する。
『敵艦隊見ゆ。……って、ちょっと待って。あれは……!?』
「まさか━━━━!?」
スクリーンに映る威容。背部に接続された巨大な艤装。大口径の砲身はその威力をまざまざと予感させ、重厚な装甲はその堅牢さをありありと想像させる。
そこにいたのはただ一人。人でなく、艦娘でもなく、
「マ━━━━マリア……!!?」
製造番号:試作M―666━━━━人造人間“マリア”。
機械の身体に人造の霊魂を宿した、カオスの最高傑作。
マリアは横島艦隊のおよそ百メートル前に立ち、カオスの指示が来るのを静かに待つ。
「この日の為に色々と調整してたんじゃ」
「あ……っ! 準備に手間取ったってのは……!!」
「そう! マリアの新装備の開発をしとったんじゃ!!」
カオスは興奮した様子で立ち上がり、高らかに宣言する。
「行けマリア!! 天才の頭脳が燃えないゴミと
『イエス・ドクター・カオス━━━━!!』
カオスの言葉にマリアは頷き、臨戦態勢に入る。横島は狼狽しながらも自らの艦隊を勝たせる為に警戒を促した。
「来るぞみんな……気を付けろっ!!」
“超弩級重雷装航空巡洋潜水戦艦”マリア━━━━
最初から絶望の戦いである━━━━!!
第三十七話
『演習開始』
~了~
お疲れ様でした。
今回はカオス艦隊の紹介。しかしカオス艦隊が戦うのはもうちょっと後で。
最後のマリアのモチーフとなったのはもちろんあの深海棲艦です。早く再登場させたいな。
海防艦……択捉型だけやたらとむちむちしてません?特にフトモモとか。
次回、横島艦隊対マリア。
はたして電の新技はマリアに通用するのか……!?
それではまた次回。