煩悩日和   作:タナボルタ

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友人にヒロインは誰がいいかを聞いたら、「ろーちゃんかゴーヤかしおいかリベか朝潮か霞か瑞鳳とかがいいなー」と言ってきました。

私は「お、おう」としか返せませんでした。


叢雲と白雪

 

「まったく、信じられないわね!! こんな誰もいないときに工廠じゃなく執務室で建造の指示を出すなんて!!」

「はい、すんません……」

「吹雪も吹雪よ! あんた、秘書艦に選ばれたからって少し浮かれ過ぎなんじゃないの!?」

「うん、ごめんね叢雲ちゃん……」

 

 現在、横島と吹雪の二人は固い工廠の床で正座をし、眼前の少女の怒りを受け止めている。今の鎮守府に存在する人員は、妖精を除くと二人だけ。そんなときに誰もいない工廠で建造された少女は、それこそかなりの不安を抱えることとなった。

 何故誰もいないのか。周りからも人の気配はなく、完全な孤独状態。まさか、無人の鎮守府で何らかの誤作動で建造されたのだろうか。そんな風に考えが進んでいく少女の目は、少しだけ潤んでいた。まあ、直後に猛ダッシュで滑り込んできた姉妹艦の長女と()()()に見た司令官の姿を見たことで不安は吹き飛んだのだが。それでも怒りは収まらず、プリプリと怒りを撒き散らしていたのである。

 

「はあ……もういいわ。私は特型駆逐艦の五番艦、叢雲よ。一応は吹雪の妹ってことになるわね。……他の子達にまでこんなことするんじゃないわよ?」

「ああ、悪かったよ。……俺はここの司令官の横島忠夫。よろしくな、叢雲」

「……っ! ……よろしく。ま、精々頑張りなさい」

 

 横島は正座から立ち上がり、少女――叢雲に手を差し出し握手を求め、叢雲は怒っていた手前一瞬躊躇った後、「ふんっ」と若干照れ臭そうに鼻を鳴らし、そっぽを向きながらも応じた。

 

「これからよろしくね、叢雲ちゃ……あうっ!?」

「吹雪っ?」

 

 吹雪が立ち上がろうとするが、正座をしていたせいで足が痺れ、こけてしまったらしい。倒れた吹雪は「うう……あ、足がぁ~」と悶えており、少々めくれ上がったスカートからは僅かながら白いパンツが覗いている。

 

「おいおい、大丈夫か吹雪?」

 

 横島は吹雪のパンツに気付かないふりをしつつ彼女を助け起こそうとするが、それよりも速く叢雲が動き出した。

 

「あらあら、大丈夫?」

「ひぃっ!? ちょっ、む、叢雲ちゃああああああっ!?」

 

 叢雲がイイ笑顔を浮かべながら吹雪の足をつんつんと突く。吹雪の悶え方はより一層激しさを増し、叢雲の笑顔もより深くなる。どうやら意外と根に持つタイプだったようだ。横島は姉妹の心温まる触れあいに苦笑を浮かべ、密かに吹雪のパンツの観賞を続けるのだった。

 

「吹雪の名の通り、鮮烈なまでの白だ」

 

 横島(おまえ)は何を言っているんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「――で、やっと執務室に戻ってきたわけだ」

「誰に向かって話してるのよ」

 

 工廠で一悶着あった後、横島達はようやく執務室へと戻ってきていた。叢雲の機嫌は吹雪を弄ぶことで直ったようだが、今度は逆に吹雪の機嫌が悪くなってしまった。彼女は今も頬を膨らませ、涙目になりつつも「つーん」とそっぽを向いている。その姿は叢雲によく似ており、二人は姉妹なのだと改めて思わせられる。

 

「何を笑ってるんですかー、しれいかーん?」

「叢雲を止めなかったのは悪かったって、吹雪。……さて、いい加減チュートリアルを進めねーと」

 

 横島は膨れる吹雪の頭を撫で、端末を操りチュートリアルを進めていく。まずは『はじめての「建造」!』を達成したボーナスを得る。次にまた任務の画面を開き、『はじめての「編成」!』というチュートリアルと同じく艦娘の編成に関する任務がある事を知り、それを選択。

 

「今度はチュートリアルと噛み合ってるな。さて、編成の画面を開いてっと」

 

 横島は以前と同じく吹雪や叢雲にも端末が見えるように多少屈みながら操作する。

 

「えーっと、第一艦隊に吹雪がいるから、ここに叢雲を編成すりゃいいんだな」

 

 横島は特に問題もなくこれを達成。任務画面を開き、再びボーナスを得る。

 

「おぉ? これは……任務報酬の一つに、艦娘?」

「え、本当ですか?」

「あら、本当」

 

 どうやらこれは吹雪達も知らなかったようだ。艦娘も艦これというゲームに対する知識にはバラつきがあるらしい。

 さて、任務報酬を受け取った横島だが、その任務報酬艦はどこに現れるのかが分からない。どこからか鎮守府にやってくるのか、それとも叢雲のように工廠に現れるのか。

 

「二人は何か心当たりとかねーか?」

「いえ……すいません」

「うーん……現実的に考えるなら、工廠かしら」

 

 叢雲の言葉に二人は頷く。今の二人には艦娘といえば工廠という図式が出来上がっている。まあ、それは叢雲もなのだが……だからこそ、皆は失念していた。この世界は、()()()()()()なのである。

 

「……何だ?」

 

 突如、横島の眼前に小さな光の球が出現する。それはどんどんと膨張していき、やがて吹雪達と同じくらいの大きさへと変貌する。

 

「おいおいおいっ!? 何だこりゃ!!?」

 

 横島は腰が引けながらも吹雪と叢雲を背に庇う。それは女の子達の前で良い格好をしたいという彼の中に染み付いた願望・欲求の顕れ。だが、どんなに情けない理由と言えど、その姿はまさに男の姿である。これを切っ掛けに叢雲の彼を見る目が少々変わる。

 横島は何が起こっても対応出来るように、掌の中に文珠を精製する。家須達の言うとおりに霊能の行使に問題は無いようだ。

 視界を焼く光が徐々に収まり、光の中心に形作られたシルエットを浮き彫りにしていく。それは人型……それも女性、いや、少女の形をしていた。

 

「……まさか、こんな派手な登場なのか……?」

 

 横島がぼそりと呟く。彼のこめかみには汗が伝い、頬は引きつり、歪な笑みを作り出した。もっとも、それはそんな風に見えているだけなのだが。それはともかく、光も完全に収まり、残ったのは光があった場所に目を閉じて佇む一人の少女。彼女の容貌は、吹雪によく似ている。

 謎の少女がゆっくりと目を開き、目の前の横島に穏やかに口を開く。

 

「特型駆逐艦、二番艦白雪(しらゆき)です。よろしくお願いします」

「――――無駄な演出に凝りすぎだろ」

 

 横島は少女――白雪の挨拶に対し、聞こえない程度の声量でそう言った。

 

「白雪ちゃん!!」

「白雪、あんたが任務報酬艦だったの!?」

 

 吹雪と叢雲が驚いたように声を上げる。白雪とは吹雪型(特型駆逐艦)の二番艦。つまりは吹雪の妹であり、叢雲の姉だ。こうして最初に集まった艦娘が同型艦というのは珍しいと言えるだろう。三人は手を取り合い、再会を喜んでいる。

 

「やっぱり吹雪の姉妹艦だったのか」

「はい。吹雪ちゃんも叢雲ちゃんもお世話になっています。私も、これからよろしくお願いしますね」

 

 白雪は横島に深々と頭を下げる。その態度に少々面食らった横島だったが、この子はそういう子なのだろうと理解し、鷹揚に頷いた。白雪の雰囲気に当てられたのかも知れない。

 

 白雪は吹雪と同じセーラー服に身を包み、セミロングの髪を二つのおさげにしている。彼女の纏う雰囲気は礼儀正しいピシっとしたものなのだが、どこかぽややんとした部分もある。天然気質、と言えるだろうか。

 容姿は吹雪によく似ており、やはり地味な印象は受けるが間違いなく美少女だ。白雪を簡単に言い表すならば、失礼な言い方になるが『女の子らしさが増した吹雪』といった感じか。勿論吹雪が女の子らしくないというわけではないが、どちらがより女性らしいか、と問われれば白雪が勝るだろう。

 

「……」

 

 横島は仲睦まじくはしゃぐ姉妹を優しげに微笑みながら眺めている。しかし、そのなかでどうにも気になることがあった。叢雲のことだ。

 

 ――姉妹ってわりには、どうにも浮いてるよな。似てないってわけじゃないんだが……。

 

 横島が疑問に思ったのは、叢雲が吹雪達に似ていないということ。確かに仕草や言動、声質など似通っているものもあるので姉妹であるということに疑問はないのだが、何故一人だけ容姿が似ていないのだろうか。これに対し、横島の灰色の脳細胞は瞬時に結論を導き出した。

 

「……イラストレーターが違うのか……!!」

 

 ……まあ、正解ではある。実際の理由は定かではないが、元々別の駆逐隊にいたから、という説が有力。他には『叢雲』の名を持つ艦船としては二隻目だからなど。

 

「ん? 何か言った?」

「ああ、いや。そろそろチュートリアル通りに出撃しようと思ってな」

 

 横島の咄嗟のごまかしの言葉に三人は頷く。いつまでも自分達のせいで仕事を遅らせるわけにもいかない。時間はたっぷりあるのだから、ゆっくりと語り合うのは後でも出来る。三人は頷き合うと、横島の言葉を待つ。

 

「ん。じゃあ白雪も第一艦隊に編成して、出撃を選べばいいんだな。……ところで、みんなが戦闘中の時って俺は何をしたらいいんだ?」

「あ、そういえば説明してませんでしたね。戦闘中の指揮はその端末から出来ますよ。戦闘の映像も映りますし、他にも色々と機能があります」

 

 横島の言葉を受け、吹雪は端末の説明を開始する。それを後ろから見ていた叢雲は、頭に浮かんだ案を横島に提案してみることにする。

 

「司令官、とりあえず私と白雪の二人で出撃するから、司令官はここで吹雪に端末の説明を受けながら指揮を執ってみたらどうかしら? これなら何か分からないことがあっても吹雪に聞くことが出来るし、練習に丁度いいんじゃない?」

「んー? でもそれだと危なくないか? 確かにその方が助かるっちゃ助かるけど……」

「大丈夫よ。出撃するっていったって、鎮守府正面海域の一面……つまりは一番簡単なところよ。私達の練度(レベル)は一だけど、だからってクリア出来ないってことはないわ。……むしろ簡単にクリアしてやろうじゃないの!」

 

 叢雲は自信満々にそう言いきった。その根拠のない自信はどこから沸いてくるのか問いたかったが、横島にはそういえば、と思い当たることがあった。

 

 ――『自分の実力にプライドを持つ』……なるほど、プロフィール通りか。

 

 横島は白い空間で読んだ叢雲のプロフィールを思い出し、溜め息と共に納得をした。諦めたとも言う。横島は叢雲の性格がだんだんと分かってきた。叢雲は少々意地っ張りなところがあるようで、強気な発言はそれに起因するのだろう。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。横島は直感でそう捉えていた。

 

「……どうします、司令官?」

 

 吹雪が不安げな顔で横島に問う。吹雪としては反対なのだろう。ちらちらと叢雲の顔を見てはおろおろとしている。白雪も不安そうだが、こちらは同時に苦笑を浮かべてもいた。何となくだが、叢雲のこういったところには慣れていそうな雰囲気だ。

 

「……分かった。叢雲の言う通りにしよう」

「そうこなくっちゃね!」

 

 叢雲は嬉しそうに指を鳴らす。それを眺める白雪は苦笑を深めるばかりだ。吹雪も諦めたのか、大きく溜め息を吐き、片手で頭を押さえている。

 

「……二人で出撃するのは分かったけど、気を付けてよ? いくら叢雲ちゃんが強いって言っても今の練度は一なんだから」

「分かってるわよ。安心しなさいな、危なくなったらすぐに撤退するから。……それじゃ出撃するわ。白雪、ついてらっしゃい」

「うん、叢雲ちゃん。……司令官、行ってきますね」

「気を付けろよー、二人とも」

 

 横島は二人を見送った後、吹雪と同じく大きな溜め息を吐く。

 

「叢雲ちゃん、大丈夫でしょうか……」

「大丈夫……と言いたいとこだけど、やっぱり不安だよなぁ……」

 

 なまじ現実感がありすぎるというのも考え物だ。ゲームだからと割り切れれば話は簡単なのだが、ここまでリアルな世界だとそうも言っていられない。何より()()()()()()()()()宿()()()()()()()。これで横島に心配するなと言うのは無茶である。

 

「……二人を無事に帰すためにも、指揮を頑張らねーと。吹雪、サポート、よろしくな」

「……はいっ! 私も精一杯頑張ります、司令官!」

 

 はじめての出撃を前に、二人は気合を入れなおす。

 

 

 

 

 

 意気揚々と海に向かう叢雲。誰も彼女の心の内を察した者はいなかった。彼女が吹雪を置いて出撃をした理由が、『司令官に格好いいところを見せて信頼を勝ち取り、ゆくゆくは艦隊の主力として扱ってもらうため』だったということに……!!

 

 ――あと、ついでに筆頭秘書艦の座も狙っていたりする。あくまでもついでに。

 

 

 

 

第三話

『叢雲と白雪』

~了~

 

 




お疲れ様でした。

このあと別の任務報酬でまた吹雪型が増えるんですよね。

白雪の容姿に関するアレコレは私の主観ですので、異論反論あるとは思いますがご容赦ください。

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