煩悩日和   作:タナボルタ

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お待たせいたしました。

前回で演習が終わったので今回はみんなで和気藹々。

カオス艦隊の真の実力とは……!?


演習終わって懇親会

 

「えーっと、みんなグラス持ったか?」

「持ったー!」

「んじゃ、まー簡単に――――演習、お疲れ様でした!!」

「お疲れ様でしたー!!」

 

 横島の音頭に合わせてグラスを掲げる艦娘達。ここは横島鎮守府の食堂。現在ここには横島鎮守府の全艦娘と、今回の演習のためにやって来た他鎮守府の全員が揃っている。目的は軽食を交えての懇親会だ。

 サンドイッチやおにぎり、ドリンクを片手に艦娘達は思い思いに親睦を深め合う。この軽食はヒャクメが事前に家須達に申請していたらしく、促されるがままに食堂に向かったら用意されていたのだ。ちなみに間宮や雷、白雪などは自分の仕事が減ったことに嬉しいやら物足りないやらで複雑な表情をしていた。

 

「演習の時は酷いことを言って悪かったな、扶桑。ごめん、許してほしい」

「いえ、気にしないで。おかげで自分の気持ちを再確認出来たし、あなたの言葉で気付いたこともあったから」

「そう言ってくれるとありがたいけど……」

 

 扶桑の元に訪れたのは摩耶。演習の時の発言を謝りに来たのだ。普段の言動こそ乱暴であるが、こうして謝りに来るところから摩耶も根は善良であることが窺える。彼女の表情はほっとしていながらもどこか複雑そうであり、こうもあっさりと許されるとは思っていなかったようだ。しかし、当の本人が気にしていないと言っているし、これ以上話を混ぜ返すのも扶桑の言葉を信じていないようで気乗りがしない。こうして親しくなる機会が巡って来たのだから何か話をしたいが、摩耶は特に話し上手というわけではない。何か話題はないものかと視線を揺らしながら考えていると、横から声が掛かった。

 

「あの、摩耶……さんに聞きたいことがあるんだけど……」

「ん、おお。叢雲、何が聞きたいんだ?」

 

 摩耶に声を掛けたのは叢雲であった。

 

「えっと、あの回転ドロップキック……摩耶様ドライバーだっけ? 私も艤装なしなら出来るんだけど、艤装展開状態だと上手く回転出来なくて……」

「ああ、あれな」

 

 摩耶様ドライバー。霊力を込めた回転式ドロップキックであり、着弾点には霊的な爆発を引き起こすパピリオ考案の必殺技である。隙は大きいが派手で威力も抜群というロマン溢れる技だ。

 

「重要なのはやっぱ体幹だな。艤装を展開すると重心がずれるから、それに負けない身体作りをしないといけねーし」

「なるほど」

「……あと、関係ないかもしんねーけど……実はアタシ、フィギュアスケートやってんだよな」

「えっ、スケート!?」

「まあ」

 

 少し照れながらも、摩耶は叢雲のアドバイスになるかもしれないと考えて少しだけ秘密を話すことにした。これに驚いたのは叢雲だけでなく扶桑もであり、摩耶へのイメージからくるギャップは相当なものであるようだ。

 

「似合わねーのは自覚してるけど、けっこーバカにしたもんじゃねーんだぜ? これでもちょっとした大会で入賞したこともあるし」

「凄いじゃないの!」

「どんな衣装を着たんです? 演技はどういった構成で……」

 

 思わぬところから会話が弾む三人。華やかなイメージがあるフィギュアスケートに叢雲達も憧れを持っていたらしく、続けざまに質問を浴びせる。それに照れながらも答えていく摩耶も含め、三人は親睦を深めるのだった。

 

「いやー、ワルキューレ殿の艦隊は流石でありましたな。完敗であります」

「いえ、貴女方も大変お強かったです。今回私達が勝てたのは運が良かったからでしょう」

 

 こちらはカオス艦隊のあきつ丸と、ワルキューレ艦隊の鳥海。二人は熱い緑茶を飲みながら言葉を交わしていた。横島鎮守府の最後の演習が終わった後、カオス艦隊とワルキューレ艦隊で特別演習を行ったのだ。両艦隊の実力は近しいものであったが、勝敗を分けたのはやはり軍隊としての練度、と言ったところか。鳥海は謙遜しているが、やはりそこに明確な差というものは存在している。だからこそあきつ丸は“完敗”という言葉を使ったのだ。

 

「お、ここにおったんか。探したでー、あきつ丸」

「む? 龍驤殿ではありませんか。自分に何か御用でありますか?」

 

 話に一区切りがついたタイミングで龍驤があきつ丸に話しかける。その手にはラムネ(たこ焼き味)が握られており、あきつ丸はまさかそれを飲ませる気なのでは、と警戒心を抱く。しかし龍驤はその手に持った劇物をくぴくぴと涼し気に飲んでおり、その線はなさそうであり、あきつ丸はほっと胸をなでおろした。

 

「いやー、実はな。あきつ丸の艦載機の発艦方法がかっこよくてなー。出来ればもっかい見たいんよ」

「……大変光栄なことでありますが、流石にここでは……」

「そうですね……食堂内での発艦は流石に……」

 

 特別演習内で見せたあきつ丸の艦載機“烈風”の発艦方法。それはあきつ丸の周囲に影絵で出来た烈風を掴み、それを掬い上げるように投擲するという非常に中二カッコいいものであった。カオス鎮守府ではこの発艦農法を“烈風拳”と呼称するらしく、更には紫電を用いた“紫電掌”という発艦法もあるとかないとか。

 

「……あ、速吸さんの発艦法も凄かったですよね」

「おおー、確かになー!」

「思い出しますなぁ、速吸殿との特訓の日々……」

 

 眼を閉じて修行時代を思い浮かべるあきつ丸。彼女の脳裏には速吸がドラゴンリストという名の重りを手首に巻き、パンチスピードを上げる特訓をしていた姿が蘇る。拳に流星を乗せ、音速に迫ろうかという速度でパンチを繰り出し、発艦させる。その名を“流星拳”とか何とか。後にドラゴンアンクルという重りを足首に巻き、足腰を鍛えることで安定性を増す特訓も行われた。

 あきつ丸も速吸も、カオス鎮守府最強の空母じゃない空母として存在している。彼女達の技を身に着けようと、今もカオス鎮守府では本家空母達が切磋琢磨しているのだ。

 

「……うん、作者は同じ人だけどね」

 

 龍驤の小さなツッコミを聞いた者はその場にはいなかった。

 

「金剛お姉様、こちらの紅茶、とっても美味しいですよ」

「んー、本当デスネー! 香りもいいし、これは良いものデース!」

「サンドイッチとも良く合いますねー。あ、霧島、そっちのサンド取って」

「えっと、ハムサンドですか? それともたまご?」

「ハムー」

「ふふ、どうぞ」

 

 紅茶とサンドイッチを楽しむのは金剛達四姉妹。奇しくも四つの鎮守府が被ることなく、それぞれの姉妹を選出した。こんな偶然は中々ないだろうと、四人の会話も盛り上がる。話の内容は移ろっていき、演習の内容……特に霧島を除く三人が二色の霊力光を持っていることにも触れられた。

 

「私だけ二色持ちではないんですよね。少し、寂しさを感じてしまいます」

「気にすることないと思うけどなー」

「その通りネー。私なんかそのせいで提督や他のみんなに迷惑かけちゃったんだヨー?」

「……ワルキューレさんの鎮守府の私達も二色持ちなの?」

 

 霧島の言葉に比叡と金剛が慰めの言葉をかけ、榛名は霧島が所属する鎮守府に在籍している姉妹について聞いてみることにした。

 

「いえ、うちの鎮守府で二色持ちなのは高雄さんと那智さんですね。お二人とも我が鎮守府の最高戦力なのですが……」

「眼鏡を掛けていないものね……」

「……はい」

 

 初めての演習。ベストメンバーで臨むと思っていた高雄と那智の二人。当然自分達も出撃するものと思っていたのだが――――眼鏡を掛けてないから二人はお留守番ね……そう言われた二人は一体何を思っただろうか。きっと今頃二人で酒を呑んでいるのだろう。今回の選出理由について管を巻く姿が目に映るようではないか。

 

「それで、あのー……お姉様、話は変わるのですが……」

「ウン? 霧島、どうかした?」

 

 何とも形容しがたいものに変わった空気を払拭しようと、霧島はおずおずと金剛に声を掛ける。霧島は視線を泳がせつつ、言いよどんでいたのだが、やがて心が決まったのか真っ直ぐに金剛へと向き直り、その問いを口に出した。

 

「……お姉様は横島提督とどのくらい進んでらっしゃるんです?」

「あ、私も聞きたいです! 榛名……気になります!」

「……ぐぬぅ――――!?」(重低音)

 

 霧島の聞きたいこととは、横島との関係についてであった。単純に興味があるのもそうだが、自分も提督に恋する身の榛名としては他の誰かの恋愛話などは参考にもなるだろう。身を乗り出すような勢いで話に食いつく。そんな榛名に反し、比叡は女の子が出してはいけないような声で痛みを堪えるように唸った。他鎮守府の金剛と言えど、敬愛するお姉様であることには違いない。その辺のややこしく複雑な感情からくる妬心は、比叡にとって拭いきれるものではなかったようだ。

 

「ふふーん……? 気になるー? 気になるよネー? それじゃあ語っちゃいまショウ! 私と提督の馴れ初め……!! 愛の記憶……!! ラブ・メモリーを……!!」

 

 まず語り始めるのは己が世に仇なす深海棲艦の一人“戦艦タ級”であったことから。金剛の語りは嘘……いや、脚色……でもなく、少し大げさな表現が多かったが、それでも余人を引き付ける何かがあったらしく、話を聞く三人とそれとなく耳を大きくして聞いていた周囲の艦娘達の乙女心を昂らせ、熱中させていった。

 

「そうか、さっきの提督の言葉が伏線になっていて……!!」

「更にそこからの大どんでん返し……!!」

「でも、二人には過酷な運命が待ち構えていたのね……!!」

 

 明らかに話の規模がとんでもなく大きくなっている。横島も己の活躍を大げさに語ってみせたりするが、金剛も妙な部分が似てしまったものである。この提督にしてこの艦娘あり、と言ったところか。

 

「へうう……! 司令官と金剛さんにそんな悲しい出来事があったなんて……!!」

「あの、吹雪姉さん……? さっき吹雪姉さんはすぐ近くにいたって言ってなかった……?」

「吹雪だししょーがねーんじゃねーの?」

「深雪ちゃん、それはちょっと酷いよ……?」

 

 そして、当事者の一人である吹雪は自分達が経験した修羅場に隠された真実(大嘘)があったことを知り、ハンカチがぐっしょりと濡れてしまう程に大泣きしている。浦波はそんな吹雪を不思議そうに眺めながらも背中を擦ってやっているが、効果はあまりなさそうだ。ちなみにヒャクメ鎮守府に吹雪型はほとんど着任出来ていない。そんな寂しさを癒してもらおうと横島鎮守府の吹雪達に声を掛けたのだが、まさか自分が慰める側になるとは思わなかっただろう。だが、それでも他鎮守府とはいえ、姉妹艦と触れ合えた浦波は幸せそうに笑っていた。

 

「……何というか、金剛は絶好調ね」

 

 溜め息と共にそう言葉を零したのはテーブルに頬杖を突き、呆れたような視線で金剛を見やる叢雲だ。叢雲はつい先ほどまで他鎮守府の強者達に色々と話を聞き、自分に足りないものを見つけようとしていた。そしてそれは思いの外簡単に知ることが出来た。

 現在の叢雲は食堂の端、金剛の話に夢中になっている皆から離れた場所の席に着いている。よくもまあそこまで舌が回るなぁなどと思いながら、金剛と、その話に聞き入る皆を呆けたような顔で眺める。そうして一人静かに時間を過ごしていると、不意に目の前にティーカップが置かれた。琥珀色の液体から湯気と共に立ち昇る甘い香り――――温かい紅茶が注がれる。カップの脇にはミルクと砂糖も置かれた。一体誰が、と視線を上にやれば、そこにいたのは司令官の横島だった。

 

「こんなとこでどうしたんだ、叢雲? もうすぐ金剛の話が『第三章~輪廻転生、久遠に至る愛~』に突入するみたいだけど……」

「……いや、正直冷めた目で見ちゃって……。あと金剛の話はアンタの話でもあるんだけど恥ずかしくないの?」

「……」

「沈黙は肯定と見なすわよ」

 

 何も語らず視線を逸らす横島に、叢雲はにやにやとした笑みを浮かべて楽しそうに言う。むぅ、などと唸り、悔しそうに叢雲に視線を戻す横島だが、溜め息を一つ吐くと叢雲の隣の席に着いた。

 

「また落ち込んでるのかと思えば、どーやらそういうわけでもなかったみたいだな」

「まーね。心配してくれるのはありがたいけれど、別に気落ちしているわけではないのよ」

 

 注がれた紅茶に砂糖とミルクを入れ、ティースプーンでかき混ぜる。そして一口紅茶を含み、飲み込んで――――ぽつりと、呟く。

 

「……ほんとは、ちょっと落ち込んでた」

 

 紅茶と共にその言葉も飲み込むつもりだったのか、叢雲は眉を顰め、頬も赤く染まる。弱音を吐くつもりは一切なかったらしい。しかし、一度口を衝いて出てしまった言葉は、次々と叢雲の口から零れ落ちた。

 

「摩耶さん、長門さん、榛名さん、武蔵さん、衣笠さん……他にも各鎮守府の人達に色々と話を聞いてきたの。……まず、根本的に私には力が足りない。練度も霊力も戦術も、“力”が全然足りてない」

「いや、お前は」

「分かってる。今の私の練度を鑑みれば寧ろ私は二色持ちでもないのに強すぎるくらいだわ。まさに天才と言ってもいい。それはどうあっても覆しようがない純然たる事実よ」

「お、おう……せやな」

 

 カップを両手で握りしめ、俯いた叢雲の口から出たのは自画自賛の言葉。間違ってはいないだけに横島も否定は出来ないのだが、それでも「こいつ本当に落ち込んでんのか?」といた疑問は出てきてしまう。

 

「上には上がいるっていうのは分かってるつもりだったんだけどねー……。やっぱり悔しいものは悔しい」

「なるほどな」

 

 プライドの高い叢雲らしい理由と言えるだろう。自分は強い。だが他の鎮守府の艦娘はもっと強い。横島のプレイ時間を鑑みても横島鎮守府の艦娘は全員が強すぎると言っても過言ではなく、その中でも総合的に見て十指に入る実力の持ち主の叢雲であるが、それでもまだまだ弱いのだ。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……まあ、でも。一番悔しいのは――――アンタの期待に応えられなかったことかしら」

「ん……?」

 

 その言葉は横島にとって予想外の言葉であった。

 

「アンタに旗艦として選んでもらったのに、私に出来たことは精々が時間を稼ぐ程度だった。もうちょっと上手くやってれば誰か一人でも中破に追いやれたのかも知れない。せめて一矢報いたくてみんなに協力してもらったけど、何かよく分からない方法で躱されちゃったし……」

「……」

「何より、私達が負けて()()()()全敗が決まっちゃったし……」

 

 勝てるとは思っていなかった。それでも勝ちを拾いたかった。それは自分の心を満たすためではなく、偏に横島のためであったのだ。何だかんだ文句を言いつつ、叢雲は横島のことを心の底から信頼している。だからこそ横島の言葉に報いたかったし、横島に勝利を捧げたかった。

 叢雲の心を知った横島は胸に痛みが走る。それは罪悪感からくる痛みだ。一度目を伏せ、次に顔を上げた横島は叢雲の頭に己の手を乗せ、ゆっくりと撫でる。いきなりの行為に叢雲は驚きからかきょとんとした表情を見せていたが、次第に眼は細められ、じっとりとした視線を横島に寄越す。

 

「……あによ?」

「いや、やっぱ叢雲はすげーって思ってな」

「……どういうことよ?」

 

 横島の言葉に叢雲は首を傾げる。そんな叢雲を見て、横島は苦笑を浮かべる。否、正しくは自嘲の笑みか。

 

「俺はお前に……それからみんなに謝らないといけねーな。俺は()()()()()()()()()()。勝てるわけがねーってな。でも、みんなは勝つことを考えてくれてたんだ。……そんなことにも気付けなかった」

「それは……仕方ないんじゃないの? アンタ、というかうちの鎮守府は他と色々と勝手が違うらしいし、アンタは他鎮守府の艦娘の強さが私達よりもはっきりと分かるみたいだし」

「それでもな」

 

 叢雲から手を離し、今度は横島が落ち込んだように顔を伏せて頬杖をつく。

 

「俺も司令官としては全然だな。少しはマシになったと思ってたんだがなー……」

 

 はぁー、と重い溜め息を吐く横島に、叢雲は何故だか微笑ましい気持ちになってくる。見れば先程自分の頭を撫でていた手はテーブルの上に投げ出されている。そこではたと気付く。今、周りの艦娘達は皆金剛の話に夢中だ。自分達を気にしている者など一人としていない。そう思い至った瞬間、演習前に掛けられたある言葉を思い出した。

 

 

 

 ――――それで、どうしマスかー? このままここに残りマスかー? ま、そうだったら私や天龍、その他諸々が美味しいところをかっさらっていくだけデスがー?

 

 

 

 思い出した瞬間、頭に血が上っていく感覚がした。湧き上がった感情が怒りなのかそうでないのか、今の叢雲には分からなかったが、とにかく何だか「気に食わない」ということだけは理解出来た。

 

 

 

 ――――あなたの気持ちは知ってマース。バーニングラブ、なんでしょ?

 

 

 

「……別に、そんなんじゃないけど」

 

 声に出さずに呟いたその言葉は、何に対する言い訳なのか。叢雲は投げ出されたままの横島の手を見やり、頬を紅潮させて少々躊躇いながらも横島の手に自分の手を重ねる。何故か、心が軽くなった気がした。

 

「いいじゃないの、別に」

「む、叢雲……?」

 

 今度は横島が叢雲の行動に驚く。しかし叢雲はそれに構わず、重ねた手を開き、指を絡ませる。細くしなやかで、少し熱っぽい指が己の手を撫でる感覚に、横島の背にぞくりとしたものが走る。むず痒いような感覚のそれを悟らせないように叢雲を見やれば、彼女はどこか今までに見たことのない表情を浮かべていた。

 

「いいじゃないの。未熟な司令官と未熟な艦娘。ある意味お似合いじゃない? お互い成長の余地があるんだし、これから高め合っていけばいいのよ」

「お、おう……?」

 

 いつもとはどこか様子の違う叢雲の雰囲気に圧倒され、横島は上手く口を動かすことが出来なくなる。そして見つめ合うことに照れが生じ、目を逸らそうにも今度はそれも出来なくなる。次第に胸の鼓動が高鳴り、目を逸らす気も失せた。叢雲も横島と同様なのか、じっと見つめて離さない。

 

「……ねぇ、司令か――――」

「ヨコシマはムラクモちゃんと仲が良いんでちゅね。ミカミみたいに気が強いからでちゅか?」

「のひょおっ!?」

 

 何かを話しかけた叢雲だが、その言葉は最後まで続かなかった。パピリオが空気を全く読まず割り込んできたからである。いや、空気を読まなかったというか、単純に嫉妬から二人の邪魔をしたのかもしれない。何せパピリオは久しぶりに横島と会ったのだ。艦娘よりも自分を優先してほしいと考えるのは当然かもしれない。そして何よりも、今回はちゃんとした事情が存在した。

 

「ムラクモちゃん、ごめんなさい。ちょっとヨコシマを借りていくでちゅ。とっても大事なお話があるんでちゅよ」

「え、あ、ええ。かまわないわよ」

 

 動揺から上手く喋ることが出来ない叢雲であるが、それでも何とか返事をすることは出来た。ちらりとパピリオが来たであろう方向……食堂の出入り口付近には自分達を興味深そうに眺めている他の司令官達がいる。唯一ベスパだけが申し訳なさそうな顔で頭を押さえていたのが印象的だ。

 

「ほらヨコシマ、行くでちゅよ」

「お、おう。叢雲、みんなに何か聞かれたら適当に言っといてくれ」

「あー、うん。了解」

 

 こうして横島はパピリオ達に連れていかれ、叢雲はぽつんと席に取り残される。そして先程までの自分の行動を思い返し、両手で顔を覆うと床に転げ落ち。

 

 

 ――――ワタシハ ナニヲ ヤッテイルノカ。

 

 

「~~~~~~~~~~~~っっっ!!!???」

 

 と、悶えるのであった。

 

「叢雲の奴、何であんなに悶えてんだ?」

「ふむ……金剛の話が刺激的だったのではないか? あれは私も中々に来るものがあったからな」

 

 天龍と長門はコーヒーを飲みながらそう結論付けた。その後ろでばっちりと叢雲達の様子を観察していた青葉と秋雲は人にお見せ出来ないような顔でほくそ笑んでいたのであった。

 

 

 

 

「……で、何でこんなとこまで俺を連れてきたんだよ?」

 

 パピリオと手を繋ぎ、斉天大聖達の後についてきた横島はようやくその疑問を口にする。横島が連れてこられたのは鎮守府の港。一体何の話をするのか、何も分からない。

 

「うむ。本当はワシら神魔族だけで解決するはずだったんじゃがな。色々と事情が変わってきての。それでカオスや小僧に情報を開示することになったんじゃ」

「……?」

 

 連れ出されたのは自分だけでなくカオスもそうなのだと知った横島。カオスの様子を見ても彼は目をつむって腕を組み、話の続きを待つ姿勢でいる。その隣のマリアは横島を見つめているが、どことなくその視線が怖く感じるのは先程の叢雲との一件を後ろめたく思っているためか。

 

「ワシらがお主らに明かす情報――――それは、()()()()()()()()についてじゃ」

 

 

 

 

 

 

「倒スベキ、本当ノ敵……?」

「ソウダ」

 

 オウム返しに聞き返すヲ級に、ゲームの悪霊――――深海提督は頷きを返す。ヲ級には本当の敵と言われてもいまいちピンと来ない。話の流れから察するに()()()()のことではないようだが、それでは一体何者が敵だというのだろうか。ヲ級には、そして彼女についてきたリ級達にもとんと見当がつかない。

 

「マア、分カラナイ、ダロウナ……。私モ、最近マデ()()()()()()()()()()……」

 

 首を傾げるヲ級に、港湾棲姫は納得を示す。深海棲艦……そして艦娘、彼女達から失われている記憶。その中に答えは存在する。

 

「デハ教エヨウ。我々ノ目的……世界ヲ救ウタメニ倒スベキ本当ノ敵――――カツテ世界ヲ滅ボシタ、()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

第四十三話

『演習終わって懇親会』

~了~

 

 

 

 

 

叢雲「フィギュアスケートかぁ……ちょっと憧れるわね」

叢雲「やっぱり身体が柔らかくないとダメなのかしら……? どこまで足上がるかな……?」

叢雲「ん……っ! け、けっこう柔らかいんじゃないかしら、これ……?」Y字バランス

叢雲「これなら私もそこそこ出来るんじゃ――――」

 

横島「お前……タイツ越しとはいえ、そんなにパンツを見せつけられるのはその、何だ……困る」ガン見

 

叢雲「ふぁえあっ!!?」

横島「うん、そのー色々と言いたいがこの一言で済ませよう。――――ありがとうございます!!」

叢雲「記憶を失ええええええええぇぇぇっ!!!」

横島「ぷげろも゜おおぉっ!!?」

 

 

 

 




お疲れ様でした。

カオス艦隊はね……うん。はい。

前半部分はもう何か凄い書きにくかったんですが、叢雲中心になったらすらすらでした。おお、何というエコヒイキ……。



次回はネタバレ回です。煩悩日和のラスボスも判明します。その後はまた日常に戻る感じですね。
皆様にご協力いただいたアンケートの話も入れないとですね。……それにしても個人的にはマリアが一番になるだろうなーと思ってたら、まさかの川内一位で噴きました。やっぱみんなエロ好きなんすねぇ。
18禁ではないですけどエロいのにしなきゃ……。(使命感)

それではまた次回。

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