煩悩日和   作:タナボルタ

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大変お待たせいたしました。

今回はいわゆるネタバレ回。煩悩日和のラスボスが判明します。そして艦娘達が元々いた世界についてもちょっとだけ……。

それではまたあとがきで。


この光景の先に

 

「倒すべき本当の敵――――ねえ」

 

 顎に手をやり、考えを巡らせる。横島の脳裏に思い浮かぶのは彼がかつて戦った最強の敵、“魔神アシュタロス”の姿だ。どうやらこの世界にもそういった存在が立ち塞がって来るらしい。

 

「小僧、お主はこの世界がどういったものか理解はしているか?」

 

 いつの間に用意したのか、斉天大聖が煙管を吹かしながら横島にそう問うてくる。それに対する答えはもちろん是だ。

 

「ああ。以前街でちょっと調べたし、そん時に逢った深海棲艦の子達が教えてくれた。元々のこの世界は深海棲艦によって滅ぼされたんだろ? んでその世界を宇宙のタマゴを使って再現した……と、俺は思ってるわけだけど」

「その通りなのね~。というか、そっか。()()()にももう逢ってるんだ。説明が楽そうで助かるわー」

 

 横島の答えをヒャクメが肯定する。彼女の口ぶりから横島が出逢ったレ級や北方棲姫に関しても知っているようであり、そして彼女達は“倒すべき本当の敵”とやらにも関係があるのだろう。横島は無言で話の続きを促す。

 

「それじゃあ順を追って説明していくけど、とりあえず要点だけで難しい話とかはカットするけどオーケーかしら?」

「どーせ俺にゃーよく分かんねーだろうしな。出来るだけ簡単に頼む」

 

 ヒャクメは頷くと、かつてのこの世界について簡潔に説明をし始めた。

 元々この世界は横島達が住む世界と異なり、超常的な存在――――つまり神や悪魔、妖怪や幽霊といったものは存在していなかった。宗教やオカルト思想は存在していたが、世界はオカルトよりも科学と共に成長を続けていったのである。

 世界、とりわけ日本は平和であった。勿論周りを見渡せば紛争もそこかしこで繰り広げられていたが、それは対岸の火事のようなものだった。

 そこに、異物が生まれた。海で目撃された、異形の生物。――――後に、深海棲艦と呼ばれるようになる存在だ。“それ”は当初日本でだけ目撃されていたが、やがて世界中の海で散見されるようになる。知らずの内に、爆発的に数を増やしていったのである。

 彼女達深海棲艦は何の前触れも見せることなく世界に侵攻を開始した。突然の攻撃により、何隻もの船が沈んでいった。そして、沈んだ船はその姿を異形に変えて、深海より蘇り、己を沈めた者と轡を並べて侵略を行うようになる。

 当然されるがままではない。人類も必死に抵抗を試みた。だが、その全ては徒労に終わってしまう。深海棲艦には、人間側の兵器が一切通用しなかったのだ。それは“核兵器”も例外ではない。

 侵攻の手は緩やかであったが、世界は確実に追いつめられていた。シーレーンは奪われ、世界各国は連携を取ることが出来ない鎖国状態と化し、既にいくつかの国が滅ぼされてしまっていた。

 滅びへと向かっていく世界、そんな地獄の中に、一つの希望が生まれる。深海棲艦を撃退する、()()()()()()が噂されるようになる。

 まず日本。次いでドイツ、イタリア、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、スウェーデン、オーストラリア、オランダ……世界各国に深海棲艦を打ち倒す女性(あるいは少女)達が現れたのである。

 かつて存在した艦の装備を身に纏ったその姿から、彼女達は“艦娘”と呼ばれるようになる。

 

 ようやく深海棲艦に対抗できる存在が出現したことによって戦線を盛り返すことに成功。そうして長い時間を掛け、世界は少しずつではあるが深海棲艦を押し返していく。しかし、世界が一丸となって協力することは出来なかった。

 世界は――――人類は追い詰められすぎていた。自らの国の為に隣の国を亡ぼす。時には深海棲艦を利用し、他の国を窮地に陥れる。艦娘と共に現れた小人達、通称“妖精”達の力を用いて艦娘を何人も『建造』してはすぐさま戦場に向かわせる。……誰もが正常な判断が出来なくなってしまう、それ程までに人類は追い詰められていた。

 

 ――――自ら破滅へとひた走っていく人類。艦娘や妖精達はそんな彼らに憐れみと、そして諦観を抱く。

 

 

 

「――――自分達は、遅すぎたのだ」

 

 

 

 そして、遂に絶望が訪れる。“それ”が最初は何だったのかは誰にも分からない。深海棲艦だったのか、あるいは艦娘だったのか。とにかく、“それ”は周囲の深海棲艦、そして艦娘を取り込んでいった。あらゆる深海棲艦を喰らってその身を肥大化させ、あらゆる艦娘を喰らってはその力を増大させていく。

 “それ”には当然人類の兵器などまるで効果はなく、それどころか艦娘の攻撃も効かず、あまつさえ深海棲艦ですら“それ”を打ち倒すことは叶わなかった。

 やがて“それ”は全ての深海棲艦と艦娘を喰らい、そしてその惑星の総ての生命を終わらせた。

 

 

 

 ――――こうして、世界は滅んだのである。

 

 

 

「……というわけなのね~」

「このお話は『煩悩日和』だぞ……!? 何でそんなドシリアスな設定なんだよ……!!!」

「設定言うな」

 

 かつての世界について語り終えた横島が「作品間違えてない?」と懊悩するが、ちょっと危険な発言であったためワルキューレにツッコミを入れられてしまう。

 

「……あー。しかし、そうか。そいつが“倒すべき本当の敵”、いわゆるラスボスってわけか」

「そうだ」

 

 横島の確認に、ワルキューレは頷く。

 

「奴は多くの深海棲艦と艦娘の集合体だ。単一の生物ではなく、群れとしての性質が強い」

「……そうなのか?」

「ああ。その性質故に、我らは奴にこう名を付けた。――――『()()()()()()』……とな」

「深海……“霊団”……棲姫」

 

 その名を聞き、横島は顔を歪ませる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「霊団……?」

 

 深海提督から倒すべき敵の名を聞くも、特徴を表す部分の意味が分からず、ヲ級は首を傾げる。

 

「マア、知ラナクテモ仕方ガナイ。……霊団トハ、本来悪霊ガ集マッテ形成サレタ特殊ナ群レヲ指ス言葉ダ」

 

 深海提督は知らぬことであるが、かつて横島は霊団に苦しめられたことがある。少々の数を祓ったところで他の霊が補うし、霊団に惹かれて取り込まれ、更に数と力を増していく。急所というものも存在せず、全ての霊を一気に祓わなくてはならないという厄介な存在なのだ。

 

「……ソンナノ、ドウヤッテヤッツケルノ? 深海棲艦モ艦娘モ、攻撃ハ効カナカッタンデショ?」

 

 ヲ級は霊団棲姫に関する説明を受け、疑問に感じた部分を問う。リ級に「分カル?」と聞くも「分カルワケナイデショ」と無下に返された。その様は港湾棲姫には微笑ましく映ったのか、彼女は珍しく柔らかな笑みを浮かべている。

 

「……ウン。何事モ、例外……トイウ、モノガアル。普通ノ深海棲艦ヤ艦娘デハ、太刀打チ出来ナイガ……特別、ナ者ナラバ、奴ヲ討チ祓ウコトガ出来ル……」

「特別……モシカシテ、私達ガココニ連レテ来ラレタノモ……?」

「……ソウ、ダ。オ前達ニハ、ソノ素養ガアル……」

 

 自分達が連れてこられた意味。その一端に触れ、ヲ級達はごくりと生唾を飲み干す。ちらり、と港湾棲姫に目をやる。恐らくだが、彼女もその“特別”な深海棲艦の一人なのだろう。ヲ級は何となくではあるが、自分と彼女は同じ存在なのだという勘が働いている。

 

「我等ノ目的ヲ知ッタワケダガ、ドウダ? ボク達トシテハ戦力ハイクラアッテモ困ルコトハナイ。断ッテクレテモボク達ハオ前ニ何モシナイコトヲ誓ウガ……出来ルナラバ、共ニ戦ッテホシイ」

 

 口調はともかく、深海提督の言葉には真摯な想いがこもっていた。断っても何もしないというのは事実だろう。目を閉じて考える。浮かぶのは自分のせいで深海棲艦という枠から外れてしまったリ級達。彼女達は自分を支え、今も傍にいてくれる。彼女達の安全を確保するには、大人しく深海提督の傘下に入るのが賢明だ。そして何よりも――――。

 

「……艦娘達」

「ン?」

 

 深海提督の眼を真っ直ぐに見つめ、ヲ級は問い掛ける。

 

「霊団棲姫ヲ倒シテ世界ヲ救ウニハ、艦娘達ノ協力モ必要ダッテ聞イタ」

「アア、ソノ通リダヨ。ボク達ダケジャ手二負エナイカラネ」

 

 深海提督が手を振りかざすと、空中に枠が現れ、そこにとある映像が映し出される。

 

「最初ハ神魔族ガ管理スル鎮守府ダケト協力スルハズダッタンダケド、ドウヤラ向コウモ色々ト事情ガ変ワッタミタイデネ。人間ガ管理スル鎮守府トモ協力スルコトニナッタミタイダ」

「……!!」

 

 映し出されたのは六人の司令官の姿。斉天大聖孫悟空、ワルキューレ、パピリオ、ヒャクメ、ドクター・カオス――――そして横島。

 

「コレガ、ボク達ノ協力者ダヨ。……()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あの日から、その顔を忘れたことはなかった。この世界に発生してから、初めて心を揺さぶられたその存在。子供のような笑顔を浮かべる、一人の男性の姿。

 横島の姿を見て、ヲ級から迷いは消えた。後ろを振り返り、リ級と眼を合わせる。それだけで、ヲ級の心はリ級に伝わった。彼女は大きく頷き、ヲ級の後ろにつく。いや、リ級だけではない。軽母ヌ級、軽巡ヘ級、そして二体の駆逐ハ級。彼女達も、覚悟を決めたのだ。自分は、生涯をヲ級と共に。その覚悟を。

 

「私達モ、協力サセテクダサイ」

「……イインダナ?」

「ハイ」

 

 最後の確認。深海提督はヲ級達の眼を見つめ、問うた。それでもヲ級達の眼は揺らがず、決心は固い。覚悟も本物だ。新たな仲間の誕生に深海提督は笑みを浮かべる。……もっとも、それに気付ける者は()()()()()()()のだが。

 

「デハ、オ前達ニ講師ヲツケヨウ。当然ダケド、ソイツモ霊団棲姫ト戦ウ力ヲ持ッテルカラネ」

「……アンマリ……力ヲ使イタガラナイ……ケド、ネ」

 

 ぽつりと呟いた港湾棲姫にヲ級は首を傾げる。強力無比な霊団棲姫と戦えるだけの力を持つのに、それを使いたがらないとはどういうことなのか。

 

「ン。……制御、ガ、難シイ……ト、イウノモアル……。ケレド、問題ハ、力ノ性質ナンダ……」

「ソノ性質ハ、霊団棲姫ノ力ト同質ノモノ……。ツマリハ自分ガ生マレ落チタ世界ヲ滅ボシタ力ダ。ダカラ()()()()()()()使()()()()()()()

「レ級……?」

 

 ヲ級の脳裏にレ級の姿が浮かぶ。レ級と言えば姫級に近い力を持つという最強クラスの深海棲艦だ。そして、横島が街で知り合った深海棲艦でもある。

 

「マ、コレヲ機ニ考エガ変ワッテクレルノヲ祈ルシカナイネ。()()()()()()()()()()()()()、滅ボスダケジャナク守ルコトモ出来ルッテ」

 

 

「折角――――()()()()ヲ持ッテルコトダシネ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そういうことか。だから、俺達にも霊団棲姫と……」

「うむ」

 

 いくつものピースが繋がって一つの絵を完成させた時、横島は大きく溜め息を吐いた。がりがりと頭を掻き、自分の仮説が間違っていなかったことに気が滅入っていく。

 

「……一部の艦娘が持つ、二色の霊波。ウチで言えば、天龍とかだが……。二色の意味は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わけだ」

「そして、猿神艦隊の長門が最後に見せた、規格外の力……。あれは、二つの霊波の同期合体というわけじゃな」

「何だ、気付いていたのか?」

 

 二人の言葉にワルキューレは驚いたように声を上げる。普段の二人の様子からその答えに行きついていたことが意外だったようだ。

 

「まあ、俺は深海棲艦の子と会ったことがあるからな。霊波の質が分かれば流石に気付くって」

「ヨコシマをペットにした私の眼に狂いはなかったようでちゅね」

 

 何故か誇らしげに胸を張るパピリオ。褒められてはいるのだが、内容が内容だけにあまり嬉しくない横島。とりあえず彼はパピリオの頭を撫で、改めて斉天大聖達に向き直る。

 

「で、さっきアンタらだけで対応するはずだったとかそんなこと言ってたが、何で俺らも巻き込まれたんだ? そもそも霊団棲姫を倒すのが目的なら、何で直接叩きに行かねーんだよ?」

 

 それはずっと疑問に思っていたことだ。とにかく今回の依頼は不明なことが多い。何故自分達に依頼したのか。何故滅びた世界を宇宙のタマゴを使って再現したのか。何故直接霊団棲姫を倒さないのか。他にも疑問は尽きない。

 

「じゃ、さっきと同じく簡単に説明していくわね?」

「おー」

 

 まず、この世界について。この世界は滅びた世界を再現したものではあるが、そっくりそのままというわけではない。造りが異なっているのだ。

 

「造りが違う?」

「そう。この世界は半物質・半電脳で形作られているんだ」

 

 ある部分は現実の通りに、ある部分はまるでゲームの様に。それがこの世界の法則であり、真実である。では、何故そのような世界にしたか。これは宇宙意思に介入をさせない為である。

 

「宇宙意思に?」

「うむ。元々この世界はワシらの世界に近くての。霊団棲姫はやがて星を超え宇宙を超え、世界……宇宙意思すら超える可能性を内包しておる。そういった存在の対処も遥か昔からの神魔族の仕事の一つなんじゃ」

「……じゃあ、さっきと同じ質問だけど、直接倒しに行かないのは何でだよ? ぶっちゃけ老師が行きゃーそれで解決なんじゃないのか?」

 

 斉天大聖は超上級神魔族。その力は世界を一つ滅ぼすなど容易い領域にある。話を聞く限り、霊団棲姫も斉天大聖ならば倒せるはずだ。

 

「まあ、可能じゃな。しかしそれが出来ん理由がある」

「理由……?」

「ふむ。それが宇宙意思じゃな?」

 

 斉天大聖の言葉に即座に答えを出したカオスが不敵に笑う。ベスパはそれに頷き、続きを話す。

 

「私達こっちの世界の存在が直接他の世界にちょっかいを掛けるのは禁止されてるんだ。理由はじーさんが言った通り、宇宙意思が介入してくるから。こちらの宇宙意思も、他の宇宙意思も直接的な干渉を嫌ってるみたいだからね。だから誤魔化す必要がある」

「向こうの世界の存在……艦娘を鍛えて、その艦娘に霊団棲姫を倒させる。こうすれば宇宙意思も見逃してくれるのね~」

「……何かけっこういい加減だな、宇宙意思って。……じゃあ、ゲームっぽい世界にした理由は?」

「それが効率的だからでちゅ」

「効率的ぃ?」

 

 あまりの嘘くささに思わずオウム返しをしてしまう横島。しかし、はたと何かに気付いて唸りだす。

 

「あー……考えてみりゃ、ゲームのキャラってとんでもねースピードで強くなるよな……。効率的ってのはそういうことか?」

 

 例えばロールプレイングゲームのキャラクターは、何匹かのモンスターを倒し、経験値を得てレベルを上げることによって強くなる。一時間~二時間もプレイしていれば、最序盤の強敵も一撃で倒せるようになっているだろう。しかし、それは現実ではありえないことである。

 

「ワシらが司令官なのは彼女らを教え、導き、勝てるようにするため。艦娘達の世界を滅ぼした元凶は、艦娘達に倒させる。ワシらはその後押しをするのみ。()()()()()()()()()()()()()()なんじゃ」

「……なるほどな」

 

 少々引っかかる部分もあるが、横島は一応の納得を示す。

 

「それで、ウチに依頼してきたのは何でだ?」

「ああ。先ほど言った通り、元々この任務は我々神魔族だけで対応することになっていた。お前達に依頼したのは、それがアシュタロスとの一連の戦いの報酬……いや、ご褒美と言った方がいいか」

「……?」

「美神には一週間に一度一千万円を振り込む。お前には多くの美女美少女とイチャつくことが出来る世界の提供。……ご褒美だろう?」

「ご褒美でございます」

 

 横島は神魔族に深く感謝した。内容から見て、どうやら色々と見透かされていたらしい。

 

「話を戻して……。俺……というか、ウチらの鎮守府か? ……が、霊団棲姫と戦うことになった理由は? 元々アンタらの鎮守府だけで戦うはずだったんだろ?」

「うむ。それは、本来ならば生まれるはずがなかった二色持ちの艦娘が、複数出現したからじゃ」

「……何だと?」

 

 元々この世界は横島に宛がわれた、彼に都合の良いと言える世界である。危険はあれど、(一部の社員(てんし)の暴走以外)問題はなかった。しかし、問題が起こった。出現しないようにされていた二色持ちが、出現してしまったのである。原因は不明。とある社員(てんし)が疑われたりもしたが、残念なことに無実が証明されてしまった。

 

「霊団棲姫を完全に倒せるのは二色持ちのみ。故にお主らも巻き込むことになってしもうたんじゃ」

「二色の力は霊団棲姫と同質の力なのね~。霊団棲姫は艦娘と深海棲艦、両方の性質を有しているの。だから艦娘の力だけじゃ倒せないし、深海棲艦だけでも同様。だから二つの勢力の協力が必要だったんだけど……」

「それが出来なくて前の世界は滅んだ、と」

「そうだ。二つの力を同期させれば力は格段に上昇するし、加えて言えば完全に混沌と化してしまっている霊団棲姫の“核”とも言える部分を破壊するには、この二色の同期した霊波が必要不可欠。故に二色持ちは色々な意味で切り札と呼べる存在なのだ」

 

 横島の表情が険しくなる。思い浮かぶのは二色持ちの天龍、加賀、金剛。そして吹雪や叢雲、扶桑、横島鎮守府に所属する全ての艦娘達。彼女達を、かつて世界を滅ぼした霊団棲姫と戦わせる……。そんなことは、絶対にさせたくはない。

 しかし、それでも分かってしまう。彼女達が霊団棲姫の存在を知れば、どのような答えを出すのか。

 ――――横島忠夫は、彼女達の司令官だから。

 

「……どう話したもんかな」

 

 それは諦めと決意がこもった呟き。話すと決めた。ではいつ話すのか。……場合によっては自分の過去も話してもいいだろう。今はそのように思える。心の準備が必要とはいえ、艦娘の皆に話すこと自体に忌避感はない。彼女達の中にも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……俺が出逢った、理性を持ってて人間味のある深海棲艦達は何者なんだ? 俺達の味方って言ってたし、何かキーやん達に仕事を依頼されてたみたいだけど」

「あの深海棲艦の子達は、滅びた世界の生き残りなの。世界が完全に滅ぶ前に最高指導者様方が保護して、世界を救うために協力を約束し、その為に戦力の確保と霊団棲姫の影響で街を襲うはぐれ深海棲艦の退治を任せているのよ」

「そうだったのか……」

 

 朗らかに笑っていたレ級や北方棲姫の姿を思い出し、横島の胸に少し痛みが走る。凄惨な過去を持っているのにそれを感じさせない彼女達のいじらしさに心を打たれたのだ。ちなみに北方棲姫はこちらに移住してから生まれてきたので普通に健やかに育てられてきました。

 

「そういやほっぽちゃん……北方棲姫が“イベントで会おう”って言ってたんだが、イベントってのは?」

「そのまんま催し物(イベント)のことじゃ。ワシら艦娘側とあ奴ら深海棲艦側で勝敗を競う……今はまだ企画段階じゃがな」

「マジのイベントだったのか。……また会えんのかね?」

 

 あの日手を振って別れたレ級と北方棲姫。それだけではなく、自分に一目ぼれしたらしいヲ級の姿も思い浮かぶ。出来れば彼女ともまた会いたいものである。

 

「んで、その深海棲艦達を纏める司令官は何者なんだ?」

「横島さんも知ってる相手なのね~」

「俺が?」

 

 横島の中で群を深海棲艦という軍隊を率いることが出来る人物は三人ほどしか思い浮かばない。ワルキューレの弟であるジーク。横島自身も指揮下に入ったことがある美神美智恵。そしてその部下の西条輝彦だ。

 

「西条だったらぶっ殺すんだけどな……」

「そんな物騒なこと言わないで……。深海棲艦達の司令官は、キャラバンクエストっていうゲームに取り付いた元悪霊なのね~」

「………………あいつが!?」

 

 とうの昔に退治したはずの悪霊が復活し、深海棲艦達の司令官として活動している。しかしそいつは神魔族の下で働いており、属性も変化しているらしいことが分かった。どうしてそんなことになったのか気にならないと言えば嘘になるが……他の男の話を聞いたところで面白くも何ともないので横島は聞かなかった。話したそうにしていたヒャクメはしょんぼりと背を丸める。

 

 横島は考える。霊団棲姫というある種ラスボスの存在と、その扱う力について。まさかまたもや世界を滅ぼしかねないような奴と戦うことになるとは思ってもみなかった。

 

「ま、何にせよ覚悟を決めるしかねーわけだし。霊団棲姫とはいつ戦うんだ?」

「うむ。諸々の準備も必要なのでな。正直な話しまだまだ時間は掛かる……霊団棲姫は宇宙のタマゴの中にいるのではなく、滅んだ世界に佇んでいるのでな」

 

 どうやら今回は情報の開示だけがされるようだ。また、霊団棲姫との戦いは猿神鎮守府の艦娘を中心として連合艦隊を組むらしく、横島達他の鎮守府はどちらかと言えばサポートの役割を担うことになりそうである。

 あの長門を筆頭とした、真の猿神鎮守府最強艦隊……もうそいつらだけで勝てるのでは? という疑問がないではないが、口には出さずにおく横島であった。

 

「……」

 

 横島は海に目を向ける。これから先、新しい仲間と出会い、絆を育んでいくことになる、全ての始まりの海。霊団棲姫を倒さねば、この海も滅びの海と化してしまうのだろう。それは横島も看過出来ない。

 

「どこまでやれるかは分かんねーけど、頑張らなくちゃな……俺は、あいつらの司令官なんだし」

 

 そう呟いて振り返り、ある場所を見やれば、そこには物陰から横島達を覗き込んでいる吹雪達横島鎮守府の艦娘数人がいた。帰ってこない横島を心配してのことだろう。その慕われている様子にヒャクメ達も笑みを浮かべる。

 

「さて、細かい疑問はまだまだあるじゃろうが、今回はここでお開きじゃな」

「そうなのね~。横島さんはあの子達を安心させてあげないと」

「……そーだな」

 

 斉天大聖達に促され、横島は小走りで吹雪達の下へと向かう。駆逐艦娘を中心とした一団だったのか、横島は一瞬でもみくちゃにされてお団子状態となった。見た目的に親犬にまとわりつく子犬達のようである。圧し潰された横島はヒキガエルのような声を上げている。

 失わせたくない光景だ。特にベスパとパピリオ、そしてマリアに決意が宿る。あの時のような思いはしたくないし、させたくない。

 覚悟を決めたのは横島だけでなく、この場の全員だ。

 今を生きる彼女達が仲睦まじく過ごせる世界、人と艦娘、そして深海棲艦。この光景の先に、そんな世界があることを夢見て――――これからを、戦っていくのだ。

 

 

 

 

 

第四十四話

『この光景の先に』

~了~

 

 

 

 




お疲れ様でした。

はい、そんなわけで煩悩日和のラスボスは『深海霊団棲姫』というオリジナル深海棲艦です。
既に一つの惑星を滅ぼしており、このまま成長すれば永い時を掛けて宇宙も取り込んで他の世界にまで干渉しだす可能性があるというトンデモ設定持ち。ただし戦闘能力については微妙であり、どちらかというと防御や生存能力に優れる。

それに対抗するのが異世界にて転生を果たした艦娘達。

そう、煩悩日和とは実は異世界転生もの。
そして煩悩日和の『主人公』は実は横島ではなく艦娘達だったのです。
そんでもって主人公である艦娘達は全員が“異世界転生成長チート主人公”という特性を持っています。(ただし作者によるエコヒイキが発生する)

深海提督や長門のお話はまたいずれ。
ちなみに半物質・半電脳世界の元ネタはマトリックスとか奪還屋とか。

次は“改二”についてか、川内とのデート(デートではない)話かな……。

それではまた次回。









レ級が弱かった理由をようやく思いついたぞ(ボソッ)
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