今回は久しぶりにかなり短いです。
元々は短めでやっていこうとしてたんだよなぁ……。
箸休めみたいなものなのでサラッとどうぞ。
それではまたあとがきで。
初めての演習を終えて数日、横島鎮守府は日常を取り戻していた。
横島対斉天大聖やグラーフの相談事など、色々と衝撃的な事件はあったものの、それらは概ね問題なく処理が出来た。いや、グラーフの相談に関しては今後も協力を約束してるので、継続中とした方が適切か。
ともかく、横島鎮守府は今まで通り、そして今まで以上に目的に向けて邁進している。
例えばこれは那珂との訓練。
「
「……っ!!」
「上半身がぶれてる! 漫然と動くんじゃなくてもっと指先まで意識しろ!」
「はいっ、
「もう一度最初からだ!」
「はいっ!」
何故か鎮守府内に存在した壁一面が鏡張りのダンス用の部屋で、横島の叱責と那珂の返事が響く。
ここは通称“那珂ちゃんアイドル特訓室”。通称も何も那珂が勝手にそう呼んでいるだけの部屋なのであるが、誰も特に文句を言わず受け入れられていた。この部屋を使うのが横島と那珂とごく一部の艦娘だけしかいないからと思われる。
横島はかつてのジェームス伝次郎との特訓を参考にスケジュールを組んでいる。スパルタ女王美神のような無茶はさせないが、それでもその特訓は心身共に厳しいものがある。
「――――っ!!」
「歌に霊力を乗せるのも大分上手くなってきたな」
「本当ですかっ!?」
「ああ。でも根っこの意識が変わってきてるんじゃねーか? 霊波が少し攻撃的になってる。これだと歌を押し付けてるように感じるかな」
「……っ!!」
「一旦休憩しよう。あまり根を詰めすぎるのは良くねーからな」
「……はい、
那珂は肩に掛けたタオルで汗を拭き、息を整える。上気した頬や汗に濡れた髪、熱を放つ身体が普段の彼女とは違った色気を振りまき、横島の煩悩を煽る。
ついつい鼻の下が伸びてしまう横島であるが、先程まで熱血コーチ状態だったのが幸いしてか、あるいは那珂がギリギリ射程範囲外だったためか、セクハラしたりなどはしない。なお、那珂のファンを公言している横島が那珂のコーチ役を務めるのは烏滸がましくも光栄であり、いつの日か「那珂ちゃんは俺が育てた」と言うことが夢なのだそうだ。
ちなみに二人の服装はお揃いのジャージ姿だ。当初は二人ともレオタードとタイツ姿だったのだが、那珂の方はともかく横島がそのような格好をするのが一部の艦娘から強烈なクレームをもらってしまい、新しい練習着を用意することとなった。
横島の身体のラインがこれでもかと浮かび上がっていたかの姿は、不知火を始めとしたごく少数の艦娘に評判であったのだが、本当にごく一部だけだったので賛成意見は潰されてしまったのである。
どうでもいいが横島は女の子のジャージ姿も割と好きだったりする。
「那珂ちゃん、初心を忘れちゃってたかなぁ……」
「んー。演習からこっち、訓練の時間をかなり増やしてるみたいだしな。それも原因の一つじゃないか?」
「あー……」
「何つーか、気が急いてるっつーのかな。まあ……他の鎮守府にあんだけ差を見せつけられたら気持ちは分かるけど」
「むむむ……」
他の鎮守府に所属する艦娘達の力を見て、そして同じ言霊使いとして扶桑の規格外の力を知り、那珂は知らず焦りを抱えていた。
制御力という点では自分の方が上であろうが、齎す結果には雲泥の差が存在している。横島からは「
「ぶー。那珂ちゃんも提督の役に立ちたいのにー!」
「那珂ちゃんはええ子やなぁ……」
那珂の抱える羨望も嫉妬も、全ては横島の役に立ちたいが故。那珂の恋慕の情から来るその言葉を受け、横島はその感情に全く気付くことなく、単に“優しい子からの厚意”として受け取ってしまう。彼女の想いが報われる時が来るのは、まだ先のことであるようだ。
「……さて、次がボスか」
海上で天龍が呟く。現在位置は南西諸島海域は東部オリョール海。つまり2―3である。
艦隊は旗艦金剛、以下加賀、吹雪、叢雲、天龍、龍田。このオリョールの攻略は中々にスムーズであった。何度か針路がずれたり敗北して撤退することもあったが、苦戦とまではいかないレベルだ。
龍田は普段と違い、少々物静かな天龍の様子に唇を尖らせる。ピリピリとした空気を出す天龍も格好いいのだが、それもあまり長く続くとしんどいだけだ。
「もぅ、天龍ちゃん。また“あのこと”を考えてるの~?」
「む」
横に並んだ龍田の指摘を受け、天龍は不機嫌そうに口をへの字に曲げる。図星を突かれたその様子に、龍田は溜め息を零す。
「いつまでも気にしていたってしょうがないでしょ~? 理由が理由なんだから気にしたって仕方がないじゃない」
「いや、そりゃ確かにそうだけどよぉ……」
龍田の指摘に天龍はばつが悪そうに頭を掻く。自分でも理解しているようだが、まだ感情が納得をしていないのである。そして、それは何も天龍だけではない。
「……天龍さんの気持ちも分かります」
「そうですネー。実力に差があるのは分かっていたけど……」
珍しく落ち込んだような、覇気がない調子で答える加賀と金剛。叢雲も同様に不機嫌そうにしているし、その理由を知っている吹雪ですらも苦笑を浮かべるのが精いっぱいだ。
「だってよー、長門の奴……あんだけ強かったのに
天龍の言葉に叢雲がうんうんと頷く。
猿神鎮守府の長門。現在確認されている全ての艦娘の中で最強を誇る彼女であるが、その強さは最早艦娘の枠組みを超えたところにあり、神魔級であると言ってよい。
それほどの力を手にした理由は簡単だ。長門は
長門が手にした力は
しかし、その進化と言っても差し支えない強化は
その対策として斉天大聖は長門の力を封印。現在は徐々に世界に長門の力を馴染ませ、宇宙意思の干渉から逃れようとしているのだ。
「改二……誰も到達したことがなかったはずよね?」
「うん。そのはずだよ」
叢雲の確認に吹雪が頷く。彼女達は覚えていないが、前世でも改二へと至った艦娘は存在しなかった。覚えていないはずの過去や、有していないはずの知識を知っているのは、この世界の特性と言えるかもしれない。
「改二かぁ……。私もなれるならなってみたいなぁ」
「何をどうすればなれるのかは分からないけど、憧れるわね」
「うん。そうすればもっと司令官のお役に立てるかもしれないし」
夢見がちな少女の様にキラキラとした目で空を見つめ、己が改二に至った姿を夢想する吹雪に、同じく自分の改二の姿を思い浮かべる叢雲。
外見年齢が上がり、すらっとした長身に抜群のプロポーション。そして強化されて巨大化した艤装を軽々と操り、強敵を倒す改二の自分。必ずそうなるというわけではないが、空想するならただである。希望を持つのは悪くはない。まあ、過剰な期待はしないほうが良いのは言うまでもないが。
「おいおい……あんま改二をナメるんじゃねーぞ、二人とも」
天龍の言葉に皆の視線が集まる。
「あの長門でさえ本気で死にかける程の試練を乗り越えて到達した領域なんだぞ? そうそう簡単になれるもんなら苦労はしねーって」
「それはそうだけどサー、夢を見るくらいはOKじゃないノー?」
「いえ、天龍さんが言いたいのは安易なパワーアップを期待するな、ということでは?」
そうして始まる改二への考察。練度は当然として他に何が必要か。肝心の長門は何故改二に至れたのかは理解しておらず、ほとんど無意識の状態で修行を乗り越えたのだという。つまり必要なのは無我の境地、という脊髄反射的な意見も出る。
『おーいお前ら。そろそろ敵艦隊が見えてくんじゃねーかー?』
「あっと、いけまセーン。皆さん、準備はいいですかー?」
長々と話していた金剛達に横島から注意が入る。金剛は慌てて取り繕う。帰投したら横島からお叱りを受けるだろう。それもちょっと楽しみなのは金剛の秘密である。
今は先の見えない改二よりも目の前の敵を倒すことを優先すべきである。戦いを前に、天龍は気持ちを切り替えて口角を吊り上げる。
「へっ! 今はまだまだだけどよ……俺は手に入れてやる……!! その領域……“改”の向こう側を……!!」
索敵範囲内に侵入した敵を見据え、天龍は刀を抜き放つ。気合一閃駆け出した……のだが加賀の先制爆撃にうっかり巻き込まれそうになり、向かった時の倍の速度で戻ってくる。
気合いが空回り気味であるが、自分で口にしたほど長門との差を気にしていないように見える。あとはもう少し落ち着きを取り戻してくれれば言うことなしか。
一日の仕事を終え、横島は自室へと戻る。今日は時雨が部屋の中に侵入していたり、夕立や皐月などの元気っ子が押し掛けてきたリ、不知火や深雪のように何とかしてエッチな雰囲気に持っていこうとカラ回る子達もいない、静かな夜だ。
いつもそうであるが、本日も中々に忙しい一日だった。司令官としての仕事に加え、那珂とのアイドル特訓や他の艦娘も交えた霊力の鍛錬、駆逐艦達の勉強を見たりなど、ハードな日々を過ごしている。最近はこの忙しさが癖になって来たのか、自分から率先して動き回っていたりする。
とはいえもう日付も変わるだろう時間帯。ゆっくりと睡眠を取り、明日に備えるべきだ。
「誰もいねーと思うけど、おやすみー」
横島は部屋の電気を消し、布団をかぶってそう口にした。その瞬間自分のベッドの横に誰か――白露型二番艦――の気配が生じ、耳元で「ボクも部屋に戻るよ。おやすみ、提督」と囁かれ、そのままその誰かが部屋を出ていったような気がするがそれは気のせいなのだ。気のせいに違いない。気のせいであってほしい。むしろ「それじゃあボクも寝ようかな」といつの間にか同衾されていたよりは遥かにマシであろう。
安心から全身の力が抜ける。意識が薄れ、まどろみの中に落ちようとした時――――。
「夜だーーーーーー!! 夜戦の時間だーーーーーー!!」
――――と、遠くからそんな大声が聞こえてきた。川内の声である。
薄い意識の中で横島は「またか」と思う。演習が終わってから、川内は意識が変わったのかやたらと訓練に力を入れ始めた。主に夜戦について。以前から川内は夜戦好きであったのだが、強者達の力を見て、自分もその領域に踏み込もうと得意分野を伸ばすことを考えたのだ。
その結果がこの夜戦訓練である。川内も非常識な時間帯であると弁えており、寮から最も離れた場所で特訓をしているのだが、テンションの上がった彼女の声は存外に大きく、横島の部屋にまで聞こえてくるのである。
横島としては特に気になるわけでもなく、我慢が必要になるわけでもないのでそのまま気にせず眠りに落ちた。横島の睡眠を邪魔したいのであれば、横島のすぐ近くで特訓をするくらいでなければならない。それでもうるさいことには変わりはない。また明日にでも注意をしよう、それがその日最後の思考であった。
そうして次の日の朝。横島は川内を呼び出してこう告げた。
「川内――――今日から一週間、夜戦禁止な」
呼び出された川内はその言葉を受け、たっぷり一分間ほどの時間を理解に費やし、そして。
「なじぇーーーーーー!!?」
と、涙をぶしゃーっと噴き出して横島に詰め寄った。
その理由は、横島の背後にいる錨を握り締めた電が知っているだろう。
第四十五話
『目指す目標』
~了~
横島「そういやお前らって初期艦は誰にしたんだ?」
カオス「ワシは電じゃな。何かあの子の雰囲気が落ち着いてのー。時々二人でゆっくりと茶を飲んだりするんじゃ」
横島「爺さんと孫みたいな感じだろーか……」
斉天大聖「ワシは漣を選んだ。最高指導者のお二人から為人は聞いておったからの。時々ゲームの相手をしてもらっておる」
横島「やっぱゲームが選定基準なのか……」
ワルキューレ「私が選択したのは叢雲だ」
横島「あー、何かそんな気はしてた。似合うっつーか何つーか」
ワルキューレ「ふっ、そうか? 奴も初めは口だけだったが、今では相応の力を身に着けている。中々に頼もしい部下だよ」
横島「分かる分かる」
パピリオ「うちもサザナミちゃんでちゅ。初めの頃は二人で色々とヤンチャしてまちたね……」
ベスパ「そしてその度に私やジークが叱る……と」
横島「その光景が目に浮かぶよーだ……」
ヒャクメ「私は五月雨を選んだのねー」
横島「何か意外だな。何となく漣を選んだのかと思ってたけど」
ヒャクメ「……私より……」
横島「?」
ヒャクメ「私より――――ドジな子に来て欲しかったのね……!!」
横島「お前……」
※ヒャクメ鎮守府の五月雨はドジっ子ではありませんでした※
お疲れ様でした。
長門、実は改二だった。
グラーフの相談はまたいずれ。横島対斉天大聖は……必要ですかね?
今回、本当なら一話丸々特攻の拓ネタでやろうとしてたんですが、流石にやめておきました。
しかし天龍にそこはかとなく“!?”の匂いが残っていますね……。
実は戦闘シーンを入れて、天龍に「ひき肉にしてくれんゾ? テメーら……」だの「明日の“鎮守府日報”載ったぞ、オメー!!」だの「
サブタイトルも『
もちろん天龍の刀の名前は「
次回はアンケート一位の川内メイン回。エロくしないと……(使命感)
長々と失礼しました。それではまた次回。