何というかメンタルが死んでました。今年こそは幸運が訪れてほしい……。
今回は何かかなり長いです。そして勢いしかないですね。
誰が改造されて、誰が建造されるのでしょうか……?
「はい、というわけでね。明日から2―4の攻略を始めようと思います。とある筋からの情報によると、正規空母を編成すると必ず渦潮マスに止まるらしくてね、その対策のために電探が必要なんですけれども――――」
「……何でそんな漫才でも始まりそうな口調なんです? しかも何か古臭い感じの」
「ふるくさ……っ!?」
ちょっとしたお茶目でウケを狙ってみた横島であったが、大淀の心無いツッコミによってショックを受ける。
「くっ……これがジェネレーションギャップってやつか!? これだから最近の若い奴は……いや待てよ? 艦娘は元々軍艦だったんだから、むしろ大淀の方がずっとおばあ……」
「て い と く ?」
「すんませんっした」
大淀から放たれる圧倒的・暴力的オーラにあっさりと屈し、横島はいつも通りに土下座を披露する。立ち上がる時にうっかり大淀の下着を覗いてしまったが、それは全くの偶然であり事故である。だから自分は悪くないのだと、赤く腫れた頬をさすりながら横島は思った。
「まったくもう……それより、早く持って帰りましょう」
「うーい」
ここは鎮守府内の倉庫。今まで開発した主砲、魚雷、ドラム缶といった装備を保管している場所である。電探もこの倉庫内に保管されており、二人はそれを持ち出すためにここを訪れたのだ。
電探の数は他の装備に比べて数が少ない。まずは単純な火力を高めようと主砲や魚雷、艦載機の開発を進めていたからだ。
横島は掌に収まるサイズの電探がいくつか入った段ボール箱を見つけると、箱を開き、大淀に確認を取る。大淀は一つ頷くと持ち出し確認のバインダーにサインし、箱を持った横島を先導して倉庫を後にする。
「しっかし、使いまわすにしても数が少ないな、こりゃ」
「そうですね。これからも開発していかなければいけませんが、中には改造すると電探を持ってきたりする艦娘もいるんですよ?」
「マジで? ……ちなみに誰が?」
横島が持つ箱の中にある電探は全部で四つ。使いまわすにしても整備もしなければならないし、故障して破棄せざるを得なくなることもあるだろう。
大淀から告げられた情報に食いつく横島だが、何となく嫌な予感がする。
「島風ちゃんと雪風ちゃんです」
「あー……まだウチにいない艦娘か。しかも二人ともレア艦じゃなかったっけ?」
「レア艦ですよ」
「やっぱりかー……そうそう上手くはいかないってことか」
がっくりと項垂れる横島の姿に、大淀は悪戯が成功したかのような、にんまりとした笑みを浮かべる。実は横島鎮守府には、改造することで電探を持ってきてくれる艦娘がいるのだ。
「ふふ、大丈夫ですよ。ウチにも一人、持ってきてくれる人がいます」
「それは……?」
横島はごくりと唾を飲みこむ。
「五十鈴さんです」
「というわけで、改造の時間です」
「何が!? 突然呼び出していきなり何なの!?」
執務室に呼び出され、入室した途端に訳の分からないことを言われた五十鈴はついつい声を荒げてしまう。ここで大淀が間に入り、五十鈴を落ち着かせ、理由を説明。現状を理解してもらうことに成功した。
「……なるほど。それで改造するってわけね」
「そーゆーこと。五十鈴も充分に改造できる練度みたいだし、戦力アップにも繋がるからな。他にも改造できる子は資材の許す限り改造していく予定だ」
横島鎮守府はこれまで改造を行ってこなかった。横島は「練度向上と近代化改修で十分な戦闘力を得られるから」と言い訳しているが、実際は調子に乗って改造をし過ぎて資源を枯渇させてしまうのが怖い(トラウマ)のと、「何か難しそう」というどうしようもない考えが本当の理由だったりする。
しかし今回他の鎮守府から齎された情報によってそんなことを言っている場合ではないとようやく気付き、皆に改造を施すことを決めたのだ。
「ふーん……。でもそれって電探ありきなんでしょ? 私の電探だけが目的なのね」
今まで全然改造を施さなかったのに、急に改造をすると言われ、しかも理由がこれだ。五十鈴が不機嫌になるのも仕方がないだろう。大淀も何も言い返せない。しかし、横島は違った。
「何言ってんだ五十鈴。確かに電探は必要だ。それが欲しいからお前を改造するって言うのも……間違いじゃない」
「……」
「でも、だからってそれでお前を放っておくわけじゃない。改造した後も――――戦闘に遠征に、これまで通りにこき使っていく」
「――――それなら、まあ……いっか!」
「うんうん」
艦娘は人間の性質と同時に軍艦の性質も持ち合わせている。故に「お前をこき使うよ」という言葉は、艦娘にとって嬉しい言葉だったりするのだ。(もちろん個人差は存在します)
「いやー、それにしても改造かぁ。どんなふうにパワーアップするんだろーね?」
「ん。それはきっと、髪の毛が金色になって逆立つ」
「私はサ〇ヤ人じゃないの」
改造について妄想を働かせるのはわざわざ執務室にまでだらけに来た望月と初雪。彼女達が想像する五十鈴・改の姿は少々特殊なもののようだ。
横島は三人の話を聞き流し、端末を操作して改造の準備を整える。ドックを使用するのかと思っていたが、端末をポチポチするだけで改造が出来るのは横島には少々残念だった。やはり彼も男の子、ロマンを捨てることは出来ない。
「そんじゃあ改造始めるぞー?」
「あ、うん。お願いします」
画面の“改造”をタッチし、資材が投入される。そして五十鈴は光に包まれた。
「おお!?」
「うわっ、まぶしっ」
五十鈴の身体を包む光は徐々に収まり、やがて消える。五十鈴は静かに佇んでおり、自らの変化を確かめるように艤装や制服を見やるが、特に変化らしい変化は見られなかった。
「あれー?」
「もしかして失敗でしょうか?」
改造されたというのに変化が分からない五十鈴と大淀は首を傾げる。明石を呼んだ方が良いのだろうかと横島に振り向くと、そこには目を丸くして驚いている横島と、そんな彼にしがみついている初雪と望月の姿があった。
「……すげーな、ここまで変わると思ってなかった。これが改造か……」
「ん……、ん」
「うえー、身体がびりびりするー」
横島の呟き、そして初雪達二人の様子に目を見合わせる五十鈴達。どういうことかと尋ねると、横島はゆっくりと頷いて説明を始める。
「いや、改造した瞬間から五十鈴に内在する霊力がぐんと膨れ上がったんだ。正確にどのくらいかって聞かれると困るけど、多分倍近いと思う」
「そんなに!?」
想像を超えていたパワーアップに目が飛び出んばかりに驚いた。ただ改造をしただけで倍近い強化とは、恐ろしい。
「……でも、猿神鎮守府の長門さんがあれだけデタラメだったんだ。不思議ではないと思うよ。ボクも改造してほしいな」
「確かにねー。私も改造出来るはずだし、ついでに改造してくんない?」
「ああ、時雨も川内も練度は充分――――ふおぉっ!?」
横島の身体が驚愕に跳ねる。ここにいないはずの二人がいつの間にか自分と腕を絡めていたのだから仕方がない。時雨と川内の忍者(?)師弟が、横島の美少女センサーを軽く突破。そして甘えるように身を寄せ、上目遣いで見つめてくる。
「あああああ、二人の控えめな胸の感触があああああああ……!!」
「控えめは余計だと思うんだけど!?」
「そうだよ! 少なくともボクは川内より大きいよ!」
「時雨!?」
最近の白露型は成長著しく、横島も思わず鼻の下が伸びてしまうこともしばしば。夕立などは気軽にくっついてくるため、横島の煩悩も燃え上がってしまい、抑え込むのが難しくなってきた程だ。
突然の師匠の裏切りに傷心した川内はソファーでふて寝を開始。流石に失言が過ぎたと時雨は横島から離れ、川内に謝罪をするが、そう簡単に機嫌は直らないようで。
とりあえず時雨と川内の改造は後日に回された。
「……それにしても、霊力がそんなに上がったんなら、こう……『信じられんほどのすさまじい力が……!!』とか、なったりしないの?」
「ええ……?」
「そうそう、もっとこう、『私は今究極のパワーを手に入れたのよーーーーーー!! うははははーーーーーーっ!!!!!』とか言って、海域に出撃して深海戦艦をちぎっては投げちぎっては投げ……」
「私はナ〇ック星人でもないの」
五十鈴は初雪達の台詞に頭を抱えたくなった。
「ていうか元ネタが分かるなんて、けっこう詳しいんだね」
「ん。意外……」
「あー……」
自分達が振ったとある漫画のネタをきちんと返してくれる五十鈴に二人が俄かにキラキラし始める。二人ともかの漫画・アニメの大ファンなのだ。
「長良が好きなのよ。特にベ〇ータとピッ〇ロのファンで、時々フィギュアを買ったりしてるみたい」
「おお、これまた意外」
「ん。……これは是非、語り合わねば……!!」
意外なファンの登場に遂に二人はキラキラ状態となった。暇を見つけて語り合おうと今から計画を立てるようで、二人は珍しい程元気に執務室を後にする。
執務室にはいじける川内とそれを慰める時雨、そして何となく話をし辛い雰囲気に流されるだけになった横島達が所在なさげに佇んでいる。
「あー……そういえば、どうして初雪達は自分でも分からなかった私の変化に気付けたの?」
「確かに気になりますね」
気まずさを払拭しようと五十鈴が口に出した話題は、大淀も気になっていたこともあり、横島も乗ることにする。
「ほら、あの二人は川内の件で弱ってたろ? あの二人は霊的な感覚が鋭いから、目の前でいきなり強い霊力が発生したから驚いたんだよ。……これは暁が遠征行ってて良かったのかもな」
「な、なるほど」
「ま、お前ら二人とも感知に関してはからっきしだからな。制御はそこそこ出来るのに」
「う……っ」
横島の何気ない言葉に五十鈴たちはばつが悪くなる。もちろん責めているわけではないのだが、二人もそのことを自覚しているため、あまり聞きたくない話である。
川内も川内で触れられたくない話が出てきたことにより小さなお胸を押さえて「ふぐぅっ」と呻き声を上げるが、それは時雨に変な目で見られるだけで済んだ。当然嬉しくはない。
「さて、話を戻すが――――改造はこれで終了。霊力も一気に強くなったわけだが……どうだ? 制御の方は問題あったりするか?」
「え、ちょ、ちょっと待って」
今まで脱線が過ぎたが、本題は改造についてである。横島に指摘され、五十鈴は全身に霊力を行き渡らせたり艤装を展開して感覚を確かめ、細かな操作を行う。数分ほど色々と試し、五十鈴は一つ頷いた。
「なんか、不思議と今までと感覚は変わらないみたい。攻撃力とかは訓練とかで確かめないと分からないけど、それ以外なら今までと同様に扱える……かしら」
「……そうか」
五十鈴の言葉に横島は暫し考えに耽る。霊力が一気に増大したというのに、それを今まで同様に扱えるものだろうか? そう考えた横島は自分が龍神の装具を身に着けた時やアシュタロスをコピーした時、同期合体した時のことを思い出し、「あ、何だ。だったらいけるじゃん」と楽観的にも程がある答えを導き出した。
龍神の装具の時はともかく、アシュタロスをコピーした時はアシュタロスの経験がフィードバックされていたし、同期合体の時は美神が霊力の制御を担当していたのだから、今回のケースとはまた別である。
「んー……ま、それならいいか。とりあえず五十鈴にはしばらく訓練とかで様子を見てもらうか。言ってくれれば監督すっから。……次に改造するなら誰が良いと思う?」
五十鈴のことは心配だが、それでも横島は彼女の言葉を信じることにした。なまじ優秀な霊能力者であるのが功を奏したと言えるのか、結論から言えば大丈夫なように“調整されている”。要は霊感に従っただけだ。
ちなみに後日このことを美神に話した際、説教を喰らったのは別のお話。
「そうですね。大井さんはいかがでしょうか? 彼女は改造することで艦種が軽巡洋艦から重雷装巡洋艦となり、甲標的という装備を積めば先制雷撃が出来るようになります」
「おお……!! 何かよく分からんが強そうだ……!! っつーことは、同じ球磨型の球磨と多摩もその……重雷装? だっけ? その艦種になるのか?」
「いえ、残念ですが球磨型で重雷装巡洋艦に改装されるのは北上さんと大井さんの二人だけですね」
「そうか……」
そうそう旨い話はないもので、横島は少々気落ちする。とはいえ、霊力の向上だけでも戦力は劇的に向上していると言える。ゆっくりでもいい、急がずとも確実に強くなっていけばいいのだ。
「んじゃ、他の子は誰にする? 五十鈴の改造は問題なく済んだし、何人か一気にやっちまおうと思うんだが……」
横島の提案に大淀は考えを巡らせる。限りある資源。改造に掛かる資材も少なくない。なるべく資材を消費せずに戦力の大幅な向上を狙える艦娘と言えば――――。
「霞ちゃんはどうでしょうか。彼女ならば必ず提督のお役に立ちますよ」
「え、霞? でも霞は戦闘班じゃなくて遠征班だし、秘書艦で第三艦隊の指揮も執ってるし……」
「霞ちゃんはどうでしょうか。彼女ならば必ず提督のお役に立ちますよ」
「いや、だから……」
「霞ちゃんはどうでしょうか。彼女ならば必ず提督のお役に立ちますよ」
「………………はい」
とにかく圧が凄かった。いつの間にか部屋の隅にまで追い詰められた横島は眼鏡を光らせた大淀に屈するほかなかったのだ。
それからしばらく話し合い、改造する艦娘達が決定した。
「んじゃ、改造するのは駆逐は霞、叢雲、不知火、電、朧、曙。軽巡が龍田、長良、由良、神通、那珂ちゃん。軽空母は龍驤。正規空母は赤城さん。重巡と戦艦、潜水艦は無し。……これでいいな?」
「はい。少々物足りませんが、万が一ということもありますし一度に全員はやめておいた方がよいでしょう。霊力の扱いに関しても五十鈴さんが特別ということも考えられます」
「大丈夫だと思うんだけどなー」
「念のためですよ」
改造する艦娘の中に天龍、加賀、金剛の名前がないのには一応の理由がある。彼女達は“二色持ち”という特異な艦娘であり、その性質から彼女達の霊力は莫大だ。彼女達の改造はヒャクメや斉天大聖など、何かあっても対処が可能な者を呼んでからになるだろう。どちらがより危険かは言うまでもないが、その気配りを他の艦娘達にも見せてやってほしいものである。
「ボクたちは?」
「ダメです」
時雨と川内の進言は却下された。仕方ないね。
「ここじゃ狭いし、とりあえず工廠の方に行こうか? 確か倉庫に甲標的が何個かあったはずだし、それの確認も兼ねて何人か呼び出そう。今空いてるのは大井に不知火と龍田、龍驤、赤城さんだったな」
「はい。他の子達は出撃と遠征中ですので、まずはその五人から改造しちゃいましょう。ついでに建造任務もこなしちゃいましょうか」
「私はどうする? ついて行った方がいい?」
「いや、五十鈴は自由にしてくれて構わねーぜ。初雪達とベジ〇タについて語り合っててもいいし」
「了解。巻き込まれないように気を付けるわね」
五十鈴達三人を残し、横島と大淀は執務室を後にする。機密らしい機密がないとはいえ、一艦隊の司令官としては危機感が薄い。もしここに霞がいればお説教が始まったに違いない。
「提督達行っちゃったね」
「んー……」
「あなたたちはこれからどうするの?」
溜め息交じりの時雨の言葉に川内は生返事し、五十鈴は手持無沙汰になってしまったので他の二人の予定を確認する。もし何か面白そうなことをするのであれば、便乗させてもらう腹積もりである。
「……家探し、かな」
「ちょ」
「提督ならこの執務室にもえっちな本を隠してそうだよね」
可能性は否めないが、果たして秘書艦三人がいるのにえっちな本を読めるだろうか。もし見つかってしまえば、霞などは烈火のごとく怒りだしそうである。
「提督の好みの女の子はどんな感じかな?」
「そりゃ胸の大きい……胸の、大きい……」
川内は己の胸を見、言葉に詰まる。次に時雨の胸、そして五十鈴の胸へと視線を動かしていく。俯き、身体がプルプルと震える。
「せ、川内……?」
「――――――ッ!!」
恐る恐る出した五十鈴のその声が引き金となったのか、川内はがばっと顔を上げる。
「私にもそのおっぱいを分けてよーーーーーー!!」
「無茶言うなぁっ!?」
本気の泣き顔で五十鈴に飛び掛かる川内であった。
場所は変わり、工廠。横島の前には数人の艦娘が整列している。赤城、龍驤、大井、龍田、不知火だ。
「赤城以下五名、揃いました」
「ん。悪かったな、急に呼び出して」
「いえ、問題ありません。それで、一体何を……?」
艦娘を代表し、赤城が横島と話す。赤城達は横島から説明を受け、それぞれが期待に胸を膨らませる。
「改造……。こ、この不知火、司令の期待に全力で応えてみせます」
「んっふっふー。この鎮守府の縁の下の力持ちが誰なんか、よう分かっとるみたいやねー」
「ふふ、加賀さんではありませんが、これは気分が高揚しますね」
不知火、龍驤、赤城の三人は喜びを露にする。龍驤や赤城はごく普通に喜んでいるだけなのだが、不知火は少し様子がおかしかった。珍しく誰かに出し抜かれたりなどせず、横島から直接選ばれたのが嬉しかったのだろう。いずれ全員がそうなるとはいえ、最初期段階で選出されるというのは嬉しいものである。
さて、残る二人なのだが、大井は少々難しい顔で悩み、龍田は申し訳なさそうな笑顔をしている。
「あれ、もしかして嫌だったか?」
改造することで性能が大きく変化する艦娘も存在する。前述したように大井がそれなのだが、そういった事情が関係しているのかもしれないと横島は思う。しかし、実際はそうではなかった。
「嫌ってことはないんだけど……。わがままであるのはわかってるんだけどね? どうせなら天龍ちゃんと一緒のタイミングが良いなぁーって……」
そう言って龍田は横島から視線を逸らす。わがままであると自覚はしているので、両手の指先を合わせたりともじもじしている。他の皆からは生暖かい目で見られたりして、縮こまっていく姿は中々に可愛らしいギャップを感じさせる。
「んー……まあ、龍田がそれでいいならこっちも無理にとは言わねーけど」
「ほ……っ」
横島は「天龍には黙っておくか」と考えて龍田のお願いを容認する。何だかんだと天龍に今回の話が伝わってしまうだろうが、その時はその時だ。
「……大井さんも北上さんが着任してからにしますか?」
未だ悩む大井に大淀が確認を取る。それを受けた大井は結論が出たのか、伏せていた顔を上げ、口を開く。
「……いえ、それも考えましたけど、やっぱり改造してもらうことにします」
大井は改造してもらうことにしたようだ。
「龍田さんの様に一緒のタイミングでっていうのも良いんですけど……練度が高くて改造もバッチリされてて、作戦などで大活躍している私の姿を見せて、着任したての北上さんに頼られたり甘えられたりしたいんです……!!」
そう語る大井の瞳は、とても綺麗に澱んでいた。とはいえ、その願望は可愛いものである。誰だって好意を持つ相手に頼られたりはしたいだろう。
「分かる。すごくよく分かる」
「分かってくれますか提督!」
承認欲求が強い横島は大井の言葉に共感した。がっちりと手を取り合い、見つめ合う姿はまるで恋人のようである。しかし二人の間にそのような感情は今のところ発生しておらず、妙に距離が近い友人のような関係で落ち着いていた。
「んじゃ、早速改造してみるか」
「それじゃあみんな、艤装を展開して一列に並んでねー」
いつの間にそこにいたのか、明石が皆を誘導し、列を作って距離を取らせると、どこから持ってきたのか様々な機材を用意し、意気揚々とセッティングを始める。折角の機会だと色々データを取る気らしい。
そして始まる改造。まずは不知火からだ。身体が光って数秒、つつがなく改造は終了し、不知火はパワーアップを果たした。
「これが……改造、ですか」
自らの内に漲るかつてないパワーに不知火は気分が高まってくる。霊力の感触を確かめるように手をゆっくりと握り締める。
「うおお……霊力が膨れ上がっとる」
「凄まじいものがありますね……あの長門さんの強さにも納得がいきます」
思っていた以上の強化に、赤城は時雨と同じように猿神鎮守府の長門を思い浮かべる。しかし、彼女の場合は世界の理を超えての強化であり、一つ次元が違う強化であるので実際には更に遥か上だ。
「なるほどなるほどー……じゃあ、次は赤城さんと龍驤さんお願いします!」
機材と繋がっているパソコンのモニターを眺め、何かのデータを打ち込んでいる明石が続きを促す。横島も一つ頷き、端末を操作して二人を順次改造した。
二人から放たれる光は先の不知火に負けるものではなく、強く輝いている。光が収まったそこには、以前よりも遥かに力強い
「うっは……! これは凄いな! 今なら何でも出来そうな気ぃする!」
「確かに、これは……!」
赤城、龍驤共に力が溢れる高揚感からか、頬に赤みがさしている。当然それは不知火も同様であり、血色の良くなった三人(主に赤城)に横島は鼻の下を伸ばす。
「いいですよいいですよー! 今までにないデータが取れてます! 身体の隅々まで精密検査したいなー!」
三人とは別の意味で昂っているのは明石である。鼻息荒くマッドな笑い声をあげているので、今の彼女の周囲には妖精さんすら近寄らない。
強化に喜ぶ三人に自分も嬉しくなる横島だが、ちょっとだけ残念なことがあった。
「しっかし、せっかくの改造なんだからもっと見た目も派手に変わればいいのにな。水着になるとかブルマになるとか」
「いや、流石にそれはないやろ」
横島の妄言に龍驤が突っ込む。しかし、この場の誰も気付いていないが、確かな変化は存在するのである。誰かの性癖にぶっ刺さる、とんでもない変化が。
そう、その変化は龍驤に起こっている。その変化とは――――。
ただのミニスカートから、吊りスカートに変化しているのだ――――!!
だから何だとは言わないでほしい。“龍驤が吊りスカートをしている”。それがぶっ刺さる人にはぶっ刺さるのだ。
「それじゃ、最後に大井さんですね!」
「大井さんは……いえ。改造をどうぞ、提督」
「んー? ……まあいいや。いくぞー」
「お願いします」
最後に残った大井を改造する前に、大淀が何か含みのありそうな態度を取る。横島もそれが気になったが特にこだわることもなく、端末を操作する。
「……ん? これは……」
大井から放たれる光は今までの誰よりも強く、更に横島が感じる霊力の上昇も凄まじい。天龍達には劣るが、それでも扶桑と同等、あるいは凌駕するほどにまで高まっている。
光が収まり、そこに立っていた大井の姿は一変していた。長袖になり、深緑へと色が変わった制服。両脚のふとももとふくらはぎ、左腕に装着された魚雷発射管。今までとは違う、力強さとロマンを兼ね備えた姿であった。
「おほー! これは凄い!! 最高のデータです!!」
「どんなデータなのか気になりますが……聞くのはなんか怖いですね」
狂喜する明石に一体どのようなデータが取れているのか疑問に思う赤城であったが、それの中身を知るのは何故か恐怖心を煽られた。艦娘といえど、否、艦娘だからこそマッドな技術者は怖いのである。
「これが、改造された私……!! これなら北上さんも私を頼ってくれるかも! どうですか、提督!」
「………………」
「え……?」
艤装、そして霊力の強化具合に感情が昂り、興奮した様子で横島に向き直る大井。しかし、当の横島は難しい顔で大井を見つめている。そのいっそ異様な雰囲気は皆に不安を抱かせるに充分であった。
「あ、あの。どうかしたんですか、提督……?」
恐る恐るといった調子で横島に問いかける大井。横島は顔を伏せ、手で覆い、絞り出すかのように一言呟く。
「――――露出が減った……」
皆はずっこけた。
「露出って……長袖になっただけやんか!」
「バカモン! フトモモとふくらはぎも隠れてるだろーが!!」
「そこ重要なんですか!?」
「俺にはとっても重要なの!!」
「流石司令。男らしさの塊です。代わりと言っては何ですが、不知火のふとももを愛でてみるというのはどうでしょうか?」
「不知火いいいぃぃぃ!! もっと自分のふとももを大事にせぇ!!」
「うーん、困った提督だねぇ」
予想外のセクハラ発言にその場の皆はちょっとした混乱に見舞われた。男の子としての横島は大量の魚雷にむき出しの発射管など、ロマンをくすぐられる艤装に心ときめいているが、男としての横島は健康的なエロスを秘めていた大井の制服が変化して露出が減ったことで落ち込んでしまった。これでは男と言うよりはただのスケベオヤジである。
「ま、まあ冗談はともかく、すげえパワーアップには違いない。せめてノースリーブかへそ出しとかが良かったけど、今の制服も似合ってるし」
「“せめて”の要求が高すぎません?」
大井は頬を赤らめつつジト目で横島を睨み、少し距離を取る。一定以上の年齢層へのセクハラは見てきたが、矛先が自分に向いたのは初めてであるため少々戸惑っているのだ。不思議と嫌悪感は少ないが、流石にセクハラをされて喜ぶ特殊な趣味はない。
「とりあえずこれで改造は終了だ。みんなには訓練とかで身体能力や霊力の制御について確認をしてもらうことになるけど、俺の手が空いてる時なら監督するから、その時は遠慮なく言ってくれ」
「はーい」
取り繕ったように真面目な話しをする横島に皆の視線は冷たいが、横島はそれをスルー。女性に冷たい視線を向けられるのは日常茶飯事なのだ。だから彼の目から熱い液体など流れ出てはいない。
「それじゃ、早速私は今取れたデータを纏めてきますので! お疲れ様でーす!」
「お疲れさーん」
そして明石は周りを気にすることなど一切なく、奥の小部屋へと引っ込んでいった。ドクターカオスとマリアに出会って以来、色々と影響されたのか部屋に籠って何かを制作しているらしい。横島はそれが事件を引き起こしはしないか戦々恐々の毎日である。
「それじゃあ建造に入りましょうか」
「そうだな。みんなは自由にしていいぞー」
「はーい」
横島の言葉を皮切りに、皆は思い思いに動き始める。
「龍驤さん、この新たな力……ちょっと試してみませんか?」
「いいよ。ほんじゃ訓練場に行こか」
「司令、出来れば後で訓練を見てもらいたいのですが……」
「あ、私も不安なのでお願いします」
「あいよー。とりあえず建造が終わってからな」
「それじゃあ、みんなで待ってようねぇ」
艦娘達はひとまず二グループに分かれるようだ。霊力の上昇に高揚している者と、不安を抱く者。二つの違いは霊力の制御に対する自信である。元より赤城は霊力を用いて矢を艦載機に、龍驤は式鬼を艦載機に変換していたので熟練度が違う。不知火や大井は特殊な艤装のないオーソドックスな艦娘と言える。
「それで、レシピはどうするのぉ? 重巡が出るのが良いんだよねぇ?」
「んー……レア艦レシピ二回、戦艦レシピ一回かなー。改造ってけっこう資材を食うし、あんまり重いのもな」
「りょうかーい」
龍田は横島の指示通りにまずレア艦レシピを回す。建造時間は共に1:30:00。見事に重巡洋艦を引き当てた。
「うおおおおお!!?」
「司令、まだです! まだ妙高型と決まったわけではありません!」
「高速建造材の使用許可を!」
「高速建造材、使用承認!!」
「了解! 高速建造材、プログラム・ドラァーイブッ!!」
「……何でみんなこんなテンション高いのぉ?」
皆がノリノリで熱血し、妖精さんが「よっしゃあっ!!」と火炎放射器をぶっ放すさまを見て、龍田は一人取り残される。何とも言えない疎外感だが、染まってしまうのもちょっとヤだなぁと思いつつ、それはそれでちょっと寂しい龍田であった。
まず一つ目のドックが開く。そこから現れたのは黒いショートヘアー、臙脂色のセーラー服に半ズボン。ボーイッシュな雰囲気の少女が柔らかな笑顔を浮かべている。
「ボクが最上さ」
「ボクっ娘JKキターーーーーー!!」
「ちょっ、お、落ち着いてください提督!?」
新たな艦娘も当然美少女だったので横島の煩悩が炸裂した。幸い最上はスカートではなかったので無事だったが、他の皆はスカートだったために思い切り翻ってしまう。とりあえず龍田が薙刀を横島の頭に叩き込んだので煩悩は沈静化した。適度に血が抜けたので暴走の心配も少なくなるだろう。
「あ、あの……大丈夫かい?」
「ああ、大丈夫大丈夫! 僕司令官の横島忠夫! よろしくー!」
「う、うん。よろしくね、提督」
横島の勢いには面食らったようだが、特に何の問題もなく横島を受け入れている。話を聞くと、どうやら独特なノリの人物には耐性があるらしく、横島のことも元気な男の人くらいにしか思っていないらしい。中々将来有望な娘さんである。
「ボクと一緒にもう一人建造したんでしょ? 誰が来るのかなぁ」
「よし! 高速建造材、使用承認!」
「了解! 高速建造材、セーフティーディバイス、リリーブッ!!」
「みんなテンション高いね」
「お恥ずかしいところを見せちゃって……」
天丼気味であるが熱血な皆について行けない龍田と最上。先程と同じく「よっしゃあっ!!」と火炎放射器をぶっ放す妖精さんを見て、ボクもこんな風に生まれたんだなぁ、という感想を抱く最上はどこか天然な気配を醸し出している。
そうして二番目のドックから出てきたのは黒い長髪をツインテールにし、白い襟で深緑の制服を着たやや小柄な美少女。自信に充ち溢れた笑みを浮かべ、胸を張ったその立ち姿から気丈な性格であることを推測させる。
「吾輩が利根である」
「吾輩……だと……!?」
「司令、あれが“のじゃロリ”ってやつです!」
「のじゃロリ……ロリ……? 利根さんってロリですかね?」
特徴的な口調でやや幼い容姿の利根に、不知火は彼女をのじゃロリというカテゴリーに当てはめる。しかし見た感じ少々幼い風貌であると言うだけで、駆逐艦娘達の様に本当に幼いわけではないため、大井がその分類分けに疑問を呈する。いずれにしろ本人を前にしてよい議論ではない。
「な、なんじゃこいつら……」
「やあ、ボクも着任したばかりなんだ。よろしくね」
「ん? うむ、よろしく頼むぞ。……ところで筑摩はおらんのか? 筑摩ー?」
「どうだろうね? 妖精さん、何か知らないかな?」
最上と利根。同じタイミングで生まれた二人は挨拶を交わすと、利根の妹である筑摩と言う艦娘について妖精さんに尋ねる。しかし返ってきた答えは「まだいないよー」であり、利根は大きく落ち込んでしまうのであった。
「何か悪いな。うちで一番多いのは駆逐艦なんだ。今は海域攻略のために戦力の拡充を狙ってんだけど、なかなか上手くいかなくてな」
「なるほど、そういうことじゃったか。ならば仕方あるまい。筑摩が着任するのをゆっくりと待たせてもらうか」
「最上型もボクだけかー。戦艦は? 扶桑さんと金剛さんだけ? そっかー」
場の空気も良い感じに落ち着き、次はお待ちかねの戦艦レシピで建造だ。最も来てほしいのは金剛型(金剛を除く)の誰かだ。第四艦隊の解放が近付いてくる。もし他の戦艦でも大火力艦が増えるのは素直に嬉しい。
たとえ戦艦でなかったとしても、このレシピは重巡が出る確率も高い。その場合は妙高型(那智と足柄以外)が望ましい。これも第四艦隊開放に必要だからだが、いっそのこと利根の妹である筑摩や、最上型の誰かでも構わない。重巡の力は横島鎮守府に必要なものである。それにあの二人も美少女なのだ。その妹ならば美少女に違いない。
横島はヨコシマな希望的観測を以って美少女の建造を始める。何というか何とも言えない不思議な表現だ。
――――結果、4:00:00。戦艦である。
「お、おおおおあああ!? うわあああああああああああぁぁぁっ!!!???」
「き、キタ!? キタコレ!!?」
「お、おちおちおちち落ち着いて下さい。落ち着いて素数を数えるんです。3.14159265358979323……」
「それ素数じゃなくて円周率!」
願望が叶いそうになる現実を前に、皆が何故か正気を失った。横島は叫び、不知火は他の艦娘が乗り移ったかのような言葉を叫び、大淀は円周率を唱えて大井が突っ込む。そしてそれを見つめることしか出来ない龍田と利根と最上。
横島は逸る気持ちを抑え、高速建造材を使用しようとする。しかし指が震え、上手く狙いが付けられない。上手く感情をコントロール出来ない横島の手に、小さな手が重ねられた。手袋をつけたその手。不知火のものだ。
「不知火……」
「大丈夫です、司令。怯えることはないはずです」
また一人、また一人と手を重ねていく。大淀が、大井が、ゆっくりとその手を重ね、横島へと視線を送る。全幅の信頼が籠った、熱く優しい瞳が横島に向けられている。
「信じましょう、提督」
「提督なら、きっと望む結果を得られるはずです」
「お前達……!!」
横島は自分の手に重ねられた手を見やり、一瞬目を伏せ、再びキッと端末を見据える。その眼にはもう怯えも怯みも、不安すらなかった。
「俺は一人じゃない……俺達は、一つだああああぁぁぁ!!!」
そうして、ついに高速建造材が使用された。
「……なんじゃこれ」
「ここの人達は建造の度にあんな感じになるの?」
「違うの……違うのぉ……!!」
利根と最上の冷めた目が龍田の心にとっても痛い。龍田は今にも泣きだしかねないほどに顔を真っ赤にし、両手で顔を隠してしゃがみ込んでしまった。
「さあ来い!!」
何だか触れるもの皆光に変えてしまいそうな火炎放射を受けたドックが開く。そこから現れるシルエット――――それは、とある艦娘に酷似していた。
明るい茶色のショートヘアー。太い帯を締め、チェック柄のスカートをはいているが……
「金剛お姉さ――――」
「YEAAAAAAAAAAAAAAAH!!!」
「ひえええぇっ!!?」
ドックから出てきた女性の言葉を、歓声がかき消した。待望の戦艦。待望の金剛型! 第四艦隊開放に一歩近付いたのだ。横島が大粒の涙を流し、不知火が横島に抱き着き、大淀と大井が抱き合って喜びを分かち合っている。利根と最上はよく分からないがとりあえず拍手をして祝っている。龍田は恥ずかしさの限界を超えたのか、既にこの場にはいなかった。トラウマにならなければいいが。
「な、何なんですかぁッ!? わ、私はイエ―じゃなくて比叡ですよぉっ!」
金剛型高速戦艦二番艦“比叡”。それが彼女だ。着任した瞬間に強烈なお出迎えに会い、涙目となっている。両手を振ってぷんすかと怒りを表している姿は外見の年齢からは少々幼さが過ぎるが、どこかそれが似合う雰囲気を放つ美女である。
「わりーわりー。金剛型の子が来てくれたのが嬉しくってさー」
「そ、そうなの……? えっと、君は……?」
「おっと、忘れてた。俺はこの鎮守府の司令官やってる横島忠夫だ。よろしく」
「しれ……!? し、失礼しました! 金剛お姉様の妹分、比叡です!! 気合い入れて頑張りますので、よろしくお願いします!!」
比叡のどことなく幼げな雰囲気からか、自分より年上に見える比叡にもフランクな口調で横島は話しかける。比叡はそんな横島に怪訝な表情を浮かべるが、相手が鎮守府のトップだと知ると態度を一変。見事な敬礼を以って横島に名を告げる。
握手を交わす二人。珍しく煩悩が噴き出ないのは、比叡の雰囲気がどこか馴染みのある雰囲気だったためだろうか。横島は頭の中で無邪気にじゃれついてくる弟子の姿を思い浮かべる。目の前の比叡が、何故か重なって見えるのだ。
「金剛の妹分かー。んじゃあ鎮守府の案内は金剛に任せるか」
「お姉様は着任されてるんですか!?」
「おう、いるぜー。ウチの最高戦力の一人だ。今は……休憩中だっけか。大淀、放送で呼び出してくれるか?」
「はい。少々お待ちください」
横島は大淀に頼んで金剛を呼び出してもらう。工廠から放送室まで行かなければならないので数分は掛かるだろう。なので、雑談の時間だ。
「今艦娘寮は……」
「ふむ、基本は二人部屋……」
「へー、艦種はあまり関係ないんだ……」
不知火と大井が現在の艦娘寮のルールなどを軽く教える。部屋数はかなり多いので希望があれば個室も用意出来なくはないのだが、何故か個室を望むものは一人も出てきていない。そしてこれも今のところ希望者は出ていないが、了解が取れれば同居メンバーの変更も可能である。(姉妹艦で固まりたいという要望が出た時のため)
「司令司令、金剛お姉様と同室になりたいですー」
「比叡さんは本当に金剛さんが好きなんですね」
「そりゃもう!」
比叡がキラキラとした様子で要望を伝えると、彼女の様子にシンパシーを覚えた大井が微笑ましそうに感想を述べる。そうして横島鎮守府の金剛がいかに活躍しているかの話が始まり、霊力という力についても簡単な説明がなされた。
「うむむ、面妖な……」
「でも凄いね。ちゃんと習得出来ればかなりのパワーアップに繋がるはずだよ」
「……お姉様が最高戦力の一人と言うことはつまり?」
「ええ、金剛さんは鎮守府最大の霊力を持っていますよ」
「おおお! 流石お姉様!!」
自らの予測が当たり、比叡は大喜びだ。憧れのお姉様が鎮守府でも最強であると分かり、より尊敬の念を強くする。今後は金剛から霊力の扱い方を学び、いずれは金剛の相棒になるという目標が出来た――――のであるが、しかし。ここで、一つ騒動の種がまかれてしまう。
「そういえば金剛さんと言えば着任時にも驚かされましたね。不知火は直接見ていないのですが、司令に対してディープなキスを――――やべぇ」
気付いた時にはもう遅い。比叡の反応が楽しくて得意気に話していた不知火だが、ついうっかり余計なことまで話してしまった。これは完全に不知火の落ち度である。しかしいずれは知られることであろうし、早いか遅いかの違いでしかないので、むしろ今知ることが出来たのは幸運なのではないだろうか? やはり不知火に落ち度などないのです。分かりましたね、司令?
「しーれーいー……?」
「ぅぉぅ……」
ぐりんと首を曲げて
「いくら……いくら司令と言えど私は認めませんよー! お姉様は私のお姉様なんですからー!!」
「んなこと言われても……!」
むきーとヒステリックに怒る比叡の姿は、彼女の人柄故かどこか可愛らしい。そんな空気ではないのに横島はちょっとだけ和んでしまったほどだ。
逆に利根と最上は不知火や大井に横島と金剛の仲について根掘り葉掘り聞きだそうと頑張っている。頑張っているが……横島を中心とした中々に複雑な人間関係に昼ドラの内容を聞いたような心境になってくる。
「……比叡。お前は少し勘違いをしているようだ」
「な、なんですかそれは……?」
腕をぐるぐる回してポカスカと叩いてくる比叡の手を掴み、横島は無駄にシリアスな顔で彼女の間違いを正そうと語り掛ける。
「俺はこの鎮守府の司令官。つまりはここのトップだ」
「……そうですね」
「ということは? この鎮守府に着任した艦娘はみんな俺の部下になる。――――つまり! この鎮守府の艦娘はみんなまとめて俺のものだったんだよ!!」
「な、何だってーーーーーー!!?」
横島の自信と願望と煩悩に充ち溢れた妄言に、比叡は背後に雷鳴を迸らせてショックを受ける。大井はまた始まったと呆れる程度で済んでいるが、着任したばかりの利根と最上は戸惑うばかりだ。
「な、何という堂々としたハーレム発言……!! 逆に男らしい……!! 吾輩が提督の物かはともかく、その豪胆さは気に入ったぞ!!」
「うーん、男性にそういうことを言われたのは初めてだね。でもいきなりはちょっとね。もっと交流を重ねてからじゃないと……」
「意外と順応してる……」
ちなみに不知火は「俺のもの」発言に照れて顔を赤らめて俯いている。
「み、みんなまとめてって……!!」
比叡はよほどショックだったのか、ヨロヨロと後ずさる。いきなりお前も俺のもの発言をされたのだから無理はあるまい。比叡は方々に視線を彷徨わせ、両手の指を絡めながら横島に問うた。
「みんなってことは……わ、私も……私も、司令のもの……ってこと、なんでしょうか……」
「――――おや?」
頬を赤らめてちらちらと横島の顔色を窺うような仕草をする比叡に、横島は戸惑う。横島の思考は加速する。そうして出した結論は。
「――――そうだ!!」
「――――!?」
とりあえず煩悩に任せて肯定することであった。
わなわなと身体を震わせる比叡。今、彼女の中で渦巻く感情は、暴れだす思考はどんな答えを導くのであろう。
「……だ、ダメですよそんなの! 私にはお姉様がいるんですから!!」
「二人まとめて俺のもの!!」
金剛をダシにしての回避は出来そうにない。横島の回答が色んな意味で無敵すぎて会話が出来ないのである。どうするか、どうすればいいのか。
「~~~~~~っ!! 分かりました! いいでしょう!」
「えぁっ!? い、いいのか!? 大丈夫か!? ちゃんとよく考えたほうがいいぞ!!?」
「何で司令がそんなに驚いてんですかっ!? それに、何も無条件に受け入れるわけじゃありません!!」
加速する思考で考えに考えて、出した結論はどうやら条件付きで受け入れるということらしい。では、その条件とはいったい何なのか。
「先程の話からするに、お姉様は司令にゾッコンなんでしょう。それは……まあ、いいでしょう。ええ、受け止めますとも……!!」
「血涙流しながら言われても……」
「何か提督みたいですね」
苦虫を何十匹も噛み潰したような顔で血涙を流しながら、比叡は金剛の想いを尊重する。いつも自分が流してる血涙を他人が流している姿はどこか横島にとっては新鮮であり、また思った以上に怖いビジュアルだったので、今後は流さないように気を付けようと誓う。
「ただ、私を自分のものとしたいなら……私を、司令にメロメロにして見せてください!!」
「め、メロメロ!?」
それが比叡の条件だった。自分が欲しいなら、自分を惚れさせてみろ。至極真っ当な要求ではないだろうか。それが出来なければ、この話はなかったことに。
「そうです! 私を惚れさせることが出来るか! それとも出来ないか! 勝負です!!」
「おおーーーーーー!!」
ビシッ! と横島に指を突きつける比叡。周囲の皆は比叡の気迫に感心し、何か面白いことが始まったと拍手喝采である。
横島は疑問符を大量に浮かべたような表情をしていたが、やがて不敵な笑みを浮かべ比叡の指に己の指を合わせる。
「つまりこれは――――己を賭けた、恋のバトル!!」
「はい!! ――――恋も! 戦いも!! 司令には負けません!!」
バックに炎を背負い、二人の勝負は唐突に始まった。……と言っても、何か特別なことが起きるわけではない。二人は日々を普通に過ごし、普通に親交を深めていく。
横島も比叡も、勝負と言いながら勝負をする気はなく。ただ自然に、続いていく日々の先にある答えを待てばいいのだから。
「hmm……どういう状況なんデス?」
「えーっと……さぁ?」
ようやく到着した大淀と金剛は変に温まった空気に困った表情を浮かべるのであった。
第四十八話
『改造、そして建造』
~了~
夜、長良の部屋にて
長良「最近司令官を見ると、何か胸がドキドキしちゃうんだよねー」
名取「え、えぇっ!?」
望月「おっほ! 何か切っ掛けがあったりすんの?」
長良「えーっとね……」ほわんほわんほわんながら~
横島『く……くそったれ……!! い……いつも……いつも銀ちゃんは俺の先を行きやがる……!! 頭にくるぜ……!! 顔が良くて性格が良くて歌って踊れて好感度ナンバーワン俳優の幼馴染なんてよ……!!』
長良「……って泣きながら“踊るゴーストスイーパー”を見てた時かな」
初雪「んん……私も、ちょっと胸キュン……」
望月「私もだよ……」
名取「え? えっ? ええ……っ!?」(ベジー〇を知らない)
お疲れ様でした。
今回大淀さんが「球磨型で重雷装巡洋艦に改装されるのは北上さんと大井さんの二人だけ」と言っていますが、これは木曾が重雷装巡洋艦になるのが“改”ではなく“改二”だからです。
煩悩日和の設定では改二になったのは前世を含めても猿神鎮守府の長門だけですので、木曾改二の情報を知りえない為です。ご了承ください。
龍驤の吊りスカートは……正直私はピンと来ないんですけども、クリスマスのサンタ龍驤は刺さりましたねぇ……。
まさかノーパン白タイツとは……しかも中破したらあんなことになるなんて……!!
それではまた次回。