煩悩日和   作:タナボルタ

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艦隊作戦第三法がイベント初参加の私、お気に入りの艦娘とそれ以外の艦娘のレベル差がありすぎて無事攻略不可能のもよう。

お気に入り→大体Lv65以上。(15人くらい)
それ以外→軒並みLv1。高くても20以下。(100人以上)


もうどうしようもないことってあるよね。


初陣は無茶をしがち

 

 叢雲と白雪は現在、鎮守府正面の海の上を()()していた。

 彼女達艦娘が履く靴。これが海の上を走るという現象を可能としているのであろう。それには妖精さんの秘密の技術がふんだんに使用されている。

 風を切り、波を越え、優雅に海上を進む姿を端末越しに見ている横島は、彼女達の姿に羨望を抱いた。

 

「いーなー。俺もやってみてーなー」

「あはは、あれは艦娘じゃない普通の人には使用出来ませんので……」

 

 宥める吹雪の声も遠く、横島は幼い子供のように羨ましがる。

 

『ふふん、そんなに羨ましいのかしら?』

 

 端末からは叢雲の得意気な声が聞こえてくる。その声音は今の横島にとって、非常に小憎らしく聞こえる。横島は思わず「セクハラしてやろうか」などと考えてしまうが、残念ながら叢雲はロリの範疇。ラッキースケベならともかく、自分から進んでセクハラする気にはなれない。

 横島にとって、今の叢雲では色々と足りないのだ。

 

『……あんた、何か失礼なこと考えなかった?』

 

 横島の思考が伝ったのか、叢雲が画面越しに威圧してくる。眉を吊り上げ、目を細めて行われたそれは、叢雲の整った容姿も相まって非常に怖い。だというのに同時に可愛らしくもある。横島の脳裏に上司の姿が浮かび上がる。

 

「なーんか美神さんみたいな子だな」

「美神さん……ですか?」

 

 横島の呟きに吹雪が反応する。

 

「ああ。俺の雇い主の人で、俺より年上なんだけど子供っぽいとこもある人でな。さっきの怒り顔の叢雲にちょっと似てるんだよ」

 

 横島の解説に吹雪は小さく頷く。吹雪の中ではどんな姿が想像として描かれているのか。

 

『ちょっと、また何か失礼なこと言ってんじゃないでしょーね?』

「いや、そうじゃなくて……」

 

 横島達の話が聞こえたのか、叢雲がまたも不機嫌そうに声を掛けてくる。横島はそういうわけじゃないと弁解をする前に、割り込んできた者がいた。

 

『ダメよ、叢雲ちゃん。司令官にそんな口を利いちゃ』

 

 白雪である。白雪は叢雲の頭をこつんと小突くと、叢雲の言葉使いを窘める。怒られた叢雲は少々不満げな顔をしたが、それでも渋々とだが謝った。

 横島はその様子を感心したように眺めていたが、叢雲に誤られたのを機に口を開く。

 

「いやいや、あんま気にしなくてもいいって。俺自体そういうのは苦手だからさ。気楽……って言うと違う気がするけど、そこまで畏まらなくてもいいよ」

『そうなんですか?』

「ああ。叢雲もあんま気にしないようにな」

『……了解』

 

 横島の言葉に叢雲も頷く。その後少しの間無言が続いたが、それも終わりを告げる。

 

『……!! 前方に敵影を確認しました!!』

「ついに戦闘か。吹雪、サポートよろしくな」

「はいっ、司令官!!」

 

 叢雲達と敵を囲むように、ある程度の大きさの何らかの空間が発生する。どうやらこれが戦闘をする際の領域であるようだ。

 眼前の敵は“駆逐イ級”という、黒い魚雷のような外観をした深海棲艦。顔に当たる部分が中々に厳しい物となっており、その生物的でありながら機械的でもある姿は非常に不気味である。

 一目見た横島は全力で「キモい!!」と叫んだ。酷い言われようである。

 

『ふん。それじゃ、私の実力を司令官に見てもらおうじゃないの!!』

 

 叢雲が威勢良く駆逐イ級に突っ込んでいく。彼女の背中の艤装に搭載されている“12.7cm連装砲”が火を吹き、イ級の身体に砲弾が命中する。

 

「叢雲、あんまり一人で突っ込むんじゃねーぞ! 白雪、叢雲の反対側から回り込んでサポートしてやってくれ!」

『分かりました!』

 

 横島は叢雲に注意しつつ白雪に指示を出す。事前に吹雪から艦娘の戦闘に関する説明を受けていたせいか、意外にも様になっている。

 

 白雪は横島の命令通りに叢雲のサポートに回る。イ級が叢雲に対して反撃を行おうとすれば、即座に背後から砲撃を浴びせ、その行動を潰していく。そのおかげでこの戦闘はごくあっさりと決着がついたのだった。

 

『んー、勝ったのはいいけど、なーんかつまらないわね』

『油断はダメよ、叢雲ちゃん』

『分かってるわよ。まったく、いつまでも子ども扱いしてくれちゃって……』

 

 結果は見事なまでの完全勝利。横島の端末には“S勝利”と表示されていた。

 

「お疲れさーん。怪我とかはないよな?」

 

 横島は勝利にほっとしつつ、叢雲達に怪我の有無を問う。端末を見る限りは無傷なのだが、一応確認をしておきたかったのだ。

 

『当然よ。さっきの戦闘、見てたでしょ?』

『私も問題ありません』

「……ん、ならいいんだ」

 

 横島は叢雲達に柔らかく微笑む。心の底からの安堵の笑み。こう見えて横島はトラウマ持ちである。彼女達が無傷なことが純粋に嬉しかったのだ。

 

「それで、こっから分かれ道みたいなんだが……この最初から赤くなってる点がこの海域のボスがいる場所なんだよな?」

「はい、その通りです司令官。この分岐点の所で羅針盤を回して、行き先を決めるんです」

「なるほど、羅針盤を回して――……羅針盤は回して使う物じゃないんだけど?」

「司令官、ゲームですので」

 

 ゲームならば仕方がない。横島も「羅針盤を普通に使ったらすぐ終わっちまうか」とすぐに理解を示す。ゲームには運要素も必要だろう、と。しかし横島はこの後、運要素を絡めた羅針盤の恐ろしさを身をもって体験することになる。その時まで、今はまだ遠い。

 

「さて、そんじゃ二人とも。今なら撤退も出来るみたいだけどどうする? 俺としては一旦帰ってから、今度は吹雪も一緒に出撃してほしいんだけど……」

『ハァ? アンタ、私の話聞いてたの? 私はこの海域をクリアするって言ってたんだけど?』

『ちょ、ちょっと叢雲ちゃん!?』

 

 横島の言葉に叢雲が反発する。横島としてはボスに挑むのならなるべく安全を期して最善を尽くしたかったのだが、叢雲はどうやらそれがお気に召さなかったようだ。

 叢雲にとっては自らの実力をアピール出来、尚且つ格好良いところを見せるチャンスなのである。そのためか少々視野狭窄に陥っている。

 

「んー……」

 

 横島はハラハラとこちらを見ている吹雪を安心させるように頭を優しくぽんぽんと撫で、考えを纏める。

 

 ――命令って形なら流石の叢雲も従うだろうけど……今後の信頼関係に響くだろうな。だったら叢雲の意見を採用して、なるべく安全な方に誘導していった方がお互いに得かな……? 叢雲みたいな可愛い女の子に嫌われたくねーし。

 

「……分かった。すまんけど、二人にはそのまま海域の攻略を任せるよ」

『そうこなくっちゃ!』

「ただし、危なくなったらすぐに撤退しろよ? 叢雲も白雪も、轟沈とかしたら鎮守府に魂を縛り付けてやるからな」

『……怖いこと言わないでよ』

 

 横島の半ば本気の言葉に叢雲は身震いする。家須から横島がGS(ゴーストスイーパー)だと聞いているので、そうなった場合のことを想像してしまったのだろう。白雪はとんだとばっちりである。

 

「白雪、悪いけど叢雲のサポートをよろしく頼む。……ごめんな?」

『いえ、了解です司令官。……司令官のお気持ちは、私も理解していますから』

 

 白雪は横島に微笑みかけたあと、じっとりとした目で叢雲を睨み付ける。それは叢雲も思わず後ずさってしまう程の迫力を持っており、叢雲は自分の言動に少しの後悔を抱いた。

 

「さて、話も纏まったし、さっそく羅針盤を回すか」

 

 横島は画面にタッチし、羅針盤を出す。すると妖精さんのようにデフォルメされた、黒いセーラー服の女の子――通称“羅針盤娘”――が現れ、羅針盤を思い切り回す。

 カラカラと回る羅針盤が止まり、行き先を指し示す。その方角は東南東。ボスのいる場所だ。

 

「……ボスのとこか」

『ふんっ! 腕が鳴るじゃないの!!』

『はぁ……』

 

 その結果に叢雲は鼻息を荒くし、白雪は溜め息を吐く。初陣から苦労の絶えない白雪だが、彼女はこれを()()()()なのだと考えることにした。

 

『目指す場所も決まったし、さっさと敵主力艦隊を倒しに行くわよ!』

「まじで気を付けろよー?」

『行ってきます、司令官』

 

 白雪も気持ちを切り替え、叢雲と共に海を駆ける。そんな二人を見て心配で堪らないのが二人の姉、吹雪だ。

 

「ううぅ……二人とも、大丈夫かなぁ……」

「吹雪には悪いけど、もうこうなったからには仕方ないって。俺もちゃんと指示は出すつもりだけど、もし何か間違っているようだったら指摘してくれ。俺だってあの二人は沈めたくねーし……」

「はい……」

 

 こう見えて吹雪は横島の判断を支持している。あのまま帰港させていたら、叢雲が不満を抱えて反発し、後々命令違反をして危険なことをしでかすかもしれない。そうしないために手綱を握る必要がある。

 言わば、まだお互いに相手の実力を測っている段階だ。この敵主力艦隊との戦いにより、互いの認識が決まるだろう。

 

「……ところで吹雪、そんな風に端末を見られたら、俺が画面を見れねーんだけど」

「あわわ、すいません司令官!?」

 

 吹雪は身を乗り出すように端末にかぶりついていたため、横島には画面が見辛かったのだ。そのかわり、横島は吹雪の上から服の中を覗き込めていたため、気分はハッピーだったりする。ちなみに吹雪はブラも白だった。

 

 

『――敵艦隊捕捉! 数は3! 駆逐イ級2……軽巡ホ級1!』

 

 白雪が敵艦隊を探知。先程倒した駆逐イ級が2体、そして未確認の軽巡洋艦ホ級が1体。横島の表情が少々曇る。

 

「3対2……しかも1体は軽巡か……っていうか軽巡ホ級キモい!! マジキモい!!」

『なに怖気づいてんのよ! これから戦闘に入るわ、指示をお願い!』

 

 叢雲は敵艦隊の周囲を回るように移動、白雪もそれに続く。横島は敵艦隊の様子を見ながら指示を出す。

 

「一先ず軽巡は狙わずに駆逐から倒してくれ! 2対1で確実に仕留めろ!」

『了解!!』

 

 横島はまず小回りが利き、速度もある駆逐イ級を優先して狙う。ある程度の練度(レベル)があるのなら軽巡ホ級を狙っても良かったのだが、生憎戦場の二人は共に練度(レベル)1。おまけに近代化改修という強化も行っていないばかりか、装備すら初期のままだ。

 叢雲には吹雪から借りた()()()()()があるとはいえ、必要以上に危険な冒険をするわけにはいかない。

 

「よっし、いいぞ! そのままイ級を倒せ!」

 

 叢雲は白雪と共に駆逐イ級に砲撃を浴びせる。駆逐イ級は魚雷のような体をしており、口から砲塔を出すという特徴から攻撃の際の狙いが甘い。はっきりと言えばカモである。二人はまず1体の駆逐イ級を撃破。

 

「次もまたイ級を狙え! それから叢雲は気を付けろ! 敵は多分お前から先に倒そうと狙ってくるはずだ! 主な攻撃を担当してるし、距離もお前の方が近いし、何より少し突出しすぎだ! もうちょっと下がってくれ!」

『りょ、了解!!』

「ほら、敵さんが撃ってきたぞー!!」

 

 横島は初めての指揮にもかかわらず、それを思わせないような冷静な指揮をしてみせる。

 敵の動きを読み、それに合わせた戦術を選択し、それを指示して実行させる。こういった経験がないはずの横島の的確な指示は、叢雲に多大な信頼感を抱かせた。

 

 ――岡目八目。横島は叢雲達を沈めたくない一心から驚異的な集中力を発揮。今の彼は敵の動きがある程度予測出来ている。

 

『うわっと!? あっぶないわね……!!』

 

 しかし、そんな横島にも予測出来ないことがあった。

 

『くっ……! 本当に私ばかり狙ってくる……!!』

 

 叢雲は敵の攻撃の回避に専念し、ここからは白雪に攻撃役をスイッチさせる。横島はその命令を出そうとした。だが、その前に。

 

『私が前に出て囮になります!!』

『ちょ、ちょっと白雪!?』

 

 白雪が敵の気を引こうと12.7cm連装砲を乱射しながら前に出る。

 横島は気付いていなかったのだ。白雪も横島に良い所を見せようと考えていたことを。

 

「白雪!? おい戻れ!! それは流石に無茶すぎだ!!」

『……!!』

 

 横島が白雪に戻るように言うが、それでも白雪は戻らない。叢雲だけでなく、自分も戦闘で役に立とうと意固地になってしまっているのだ。彼女の動きは吹雪達が知っているものよりも幾分固さが見て取れた。

 そして、敵はそんな白雪を見逃すほどに優しくはない。

 

『――ッ!? 白雪、戻りなさい!!』

 

 軽巡ホ級の主砲が白雪に狙いを定めているのに叢雲が気付く。だが、白雪はもう避けられない。駆逐イ級の砲撃によってバランスを崩してしまったからだ。

 

『――――っ!!?』

 

 叢雲が手を伸ばす。だが、無常にも軽巡ホ級の主砲――5inch単装高射砲が火を噴いた。

 

「白雪ぃぃぃいいいっ!!」

「白雪ちゃぁぁぁあああんっ!!」

 

 

 

 

第四話

『初陣は無茶をしがち』

~了~

 




私の嫁艦は今の所

ハイパー北上さま、ハイパー大井さん、叢雲、古鷹、加古、大鳳、ヴェールヌイ、島風、球磨

の9人です。

友人からは「声優の大坪由佳さんが好きなん?」と聞かれました。
特にそういうわけでもなかったのですが、育ててるうちにハマってしまったようで。
特に北上さまが一番好きですね。
あのまったりとした感じが。


それではまた次回。

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