煩悩日和   作:タナボルタ

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大変お待たせいたしました。

なめろう美味しい。(すごくどうでもいい)

今回も建造で人が増えます。だが出番は増えるのかな?(クズ)


夢への疑問

 

 ここ最近、同じ夢ばかりを見る。

 自分がまだ(ふね)だった頃の記憶だろうか、多くの軍人達の夢だ。

 皆、歌っている。大きな声で歌っている。

 そうだ。これだ。だから、私は歌が――――。

 

 

 

 

 

 遂に始まった2―4“沖ノ島海域”の攻略。

 横島鎮守府は新たな艦娘の建造、古参の艦娘の改造、装備の開発など、様々な強化を実行し、戦いに臨んでいる。しかし、攻略は順調とは言い難かった。

 沖ノ島海域の深海棲艦の艦隊には必ず一体は強力な霊力持ちであるeliteが編成されている。場所によってはそれが複数編成されており、更にはeliteを超えるflagshipが。挙句の果てにはそのflagshipが四体も編成されている場所も存在する。

 横島鎮守府の艦隊は彼女らに苦戦を強いられている。情報は掴んでいたためそう簡単に勝てるとは思っていなかったが、実際に戦ってみるとその強さがよく分かる。既に出撃回数は十五回を超えていた。

 

「うわあああーーーーーー!!?」

「涼風ぇっ!!」

 

 旗艦を務めていた涼風が重巡リ級eliteの砲撃に吹き飛ばされ、大破となる。ここは未だ一つ目のマスであり、海域の入り口部分だ。

 その後今回の戦闘は何とか勝利を掴むことは出来たが、旗艦大破により帰投することが決定。艦隊は鎮守府に戻ることになる。

 

「悪い、涼風。俺のフォローが遅れちまって……」

「何言ってんだよ、天龍の姉御。あたいが砲撃を避けらんなかったのがそもそもの原因なんだ。……みんな、ごめん。あたいのせいで鎮守府にとんぼ返りすることになっちまって……」

 

 涼風は海上を進みながら艦隊の皆に向き直り、頭を下げる。今回の編成は軽巡一人に駆逐が五人。こうすることでルートを固定し、戦闘回数をなるべく減らしてボスマスへと向かう予定であった。

 涼風と天龍以外のメンバーは初春、弥生、若葉、陽炎。全員が攻撃力・走力に秀でた、攻撃的な人選である。

 

「まあ仕方ないって。こんなこともあるよ」

「そうじゃな。それにあのリ級、仲間を囮にしたりと中々に悪知恵が働くようじゃったしの」

「生きて帰ることが出来るんだ。次は勝てばいい」

 

 いつも元気な涼風が落ち込んでいるのを見て、皆は優しく声を掛ける。そこに、霞が通信で割り込んできた。

 

『謝るのは私の方よ。ごめんなさい、みんな。私の指示が遅れたせいで……』

 

 今回指示を出していたのは横島の秘書艦である霞。彼女は第三艦隊の指揮官にあたる存在でもあり、艦隊の指揮を執っていたのだ。

 普段は大淀が率いる第二艦隊と共に遠征が主な任務となる第三艦隊であるが、横島の負担を少しでも減じる為に大淀と霞が沖ノ島攻略の指揮も行うことにしたのだ。

 今までも海域に出撃したことがあったので基本的な指揮は問題ないが、横島の指揮と比べると防御に重点を置く傾向が強く、今回の艦隊メンバーとはそもそもの相性が悪く、リズムを崩されてしまったようだ。

 霞の課題は艦娘達の性格・戦闘スタイルへの対応力と言ったところか。ちなみにだが大淀は攻撃一辺倒な指示を出すことが多い。横からアドバイスをする分には冷静にバランスの良い提案を出せるが、いざ自分が指揮をするとなると意外と脳みそ筋肉なゴリ押し戦術を好むようだ。

 

「ま、すぐそっちに帰っからよ。何か温かいもんでも飲みながら反省会しよーぜ」

『……そうね。甘いココアでも用意しておくわ。みんな、気を付けて帰ってきてね』

「あいよ!」

 

 この場は上手く天龍が纏め、第三艦隊は帰路を急ぐ。霞の淹れるココアは美味しいのだ。この一杯があるから戦えるのである。

 

 

 

 

 

「んー……最後の一回もレア艦レシピでいこうか」

 

 頭に三段ほどのたんこぶを乗せた横島が妖精さんに指示を出した。

 ここは工廠、建造ドック。既に三回ほど建造を終わらせており、次で建造任務が完了する。

 新たに建造されたのは軽空母“祥鳳”、“鳳翔”、潜水艦“伊8”と、珍しく連続で新たな艦娘が着任した。美女が二人、美少女が一人。彼女達が建造されるたびに煩悩を滾らせ、その度に今回のお目付け役(おてつだい)の夕立に信管爆薬抜き酸素魚雷で脳天を割られてきたのだ。

 夕立曰く「提督さんが暴走したら叩いて治せって叢雲に頼まれたっぽい!」とのこと。横島が頭をカチ割られるたびに新人さん達の目から光が消えていっているが、これはしょうがない犠牲なのだ。祥鳳は個性的な方ですねとどこかずれた感想を持ち、鳳翔は冷汗をかいて引きつった笑顔で「あらあら」と呟き、伊8――はっちゃん――は既に意識を失くしているぞ。

 

「さーて、最後は……お?」

 

 最後の建造時間は1:25:00。重巡洋艦だ。

 

「これは……来たか!?」

「提督さんどうしよう? 高速建造材使うっぽい?」

 

 横島に尋ねる夕立はそわそわと動いており、高速建造材を使いたいと全身で表していた。どうやら火炎放射器の迫力にはまってしまったらしい。そんな様子に横島は仕方ないなと使用の許可を出した。

 

「ふふーん。だから提督さん好きー」

 

 うきうきとした様子で端末を操作する夕立。横島はこんなことでそんなことを言われても、と呆れ気味だが、夕立の本心は夕立にしか分からない。火炎放射器から放たれる轟音に、夕立は何事かを呟く。それは誰の耳にも入らないように発した、秘密の言葉だ。

 やがて炎が途絶え、妖精さんがやり切った顔で退散する。ドックが開いた先に浮かぶシルエットは、カードではなく艦娘の物だった。

 

「よっ! アタシ、摩耶ってんだ。よろしくな!」

「こちらこそよろしくー!!」

「うおぅっ!?」

 

 建造されたのは高雄型重巡洋艦三番艦“摩耶”。

 ドックから出た瞬間に男に手を握られ、驚きの声が出てしまう。しかも次の瞬間には夕立が横島の頭に魚雷を叩き込むのだからたまったものではない。

 

「もー、全然懲りないんだからー」

「お、おい……大丈夫なのか、そいつ……?」

「もーまんたいっぽい!」

 

 いきなりバイオレンスなところを見てしまったせいか、摩耶は胸を押さえながら夕立に問いかける。夕立は問題ないと言うが、到底信じられる光景ではない。

 

「大丈夫大丈夫。こんくらいいつものことだからな」

「ああ、そうなのか……ってぇ!!?」

 

 気が付けば先程脳天に魚雷を叩き込まれた男が自分の肩に手を回し、さわやか(笑)に話しかけてきていた。おかげで摩耶は身体が一瞬跳ねる程に驚いた。

 もはやそういった類の妖怪なのではないのかと疑いたくなる光景であるが、残念ながら横島は純粋な人間である。

 横島はまた魚雷で殴られるのを避けるため、すぐに摩耶の肩から手を離し、ちゃんと正面から向き合って名を名乗る。

 

「俺はこの鎮守府の司令官の横島。改めてよろしく!」

「お、おう……アタシは摩耶。よろしく」

 

 横島に応える摩耶は驚き疲れたのか、建造直後の覇気が感じられなくなっていた。未だ心臓が跳ねまわって血流が加速しているのか、やや身体全体が赤くなっている。

 

「ん。それじゃ、この後は夕立が鎮守府を案内してくれるから、ついて行ってくれ。一通り回ったら最後に執務室に来てくれ。そこで諸々の説明をすっから」

「あ、ああ。了解」

「んじゃ、夕立。みんなを任せたぞー」

「ぽーい!」

 

 元気よく返事をする夕立の頭を撫でる。嬉しそうにする夕立の姿に、思っていたよりも良い司令官なのかも? といった考えが鳳翔やはっちゃんの脳裏を過ぎる。脳の働きが鈍っている証拠だ。

 それじゃあ出発、となったところで、摩耶が恥ずかしそうに待ったをかける。

 

「あ、悪い。先にトイレ行っていいか? ちょっと頭を冷やしてーんだけど」

「分かった。それじゃあ俺が案内して」

「いい加減にするっぽい」

 

 横島は床に沈み、摩耶は夕立が案内した。

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 バシャバシャと顔を洗い、ハンカチで顔を拭う。じっと鏡を見つめ、震える両手に目を落とす。

 

 ――――お、お、お、男に手、手ぇ握られて……!! し、しかも、肩を抱かれた……!!?

 

 摩耶は鏡に映る真っ赤に染まった顔を、両手で押さえて隠す。脳裏に浮かぶのは先程の光景。手を握られ、肩を抱かれ、耳元で囁かれる(誇張)自分の姿。心の中でキャーキャーと叫び、身体がぐねぐねと動いてしまう。

 どうやらこの摩耶は男に対して免疫がなく、恥ずかしがり屋らしい。もしかしたらいわゆる古典的少女漫画的な乙女思考も有しているかもしれない。

 摩耶は再び顔に冷水をかける。無理にでも心を落ち着けないと、このまま何十分でもジタバタしてしまいそうだ。

 

「……ふう」

 

 結局五分ほどかけ、摩耶は夕立達の下へと戻ってきた。皆からは「怒るのは分かるけど許してあげよう」「彼も悪気があったわけではないと思います」「……大丈夫!」「本当はいい人っぽい」と、説得を受けた。

 摩耶に対するイメージから、怒りを鎮めに行ったと思われたようだ。摩耶としては複雑な気持ちになるが、本当の理由を知られるよりはマシと思い直し、そのままにすることにした。

 

「……いや、別に気にしてねーよ。重要なのは指揮能力だしな」

 

 ついつい見栄を張ってしまう摩耶なのであった。

 

 

 

「hmm……比叡が焼いたクッキーは美味しいネー。紅茶にも良く合いマース」

「どうやらお料理が得意な比叡さんだったようですね。いえ、お菓子作りと料理はまた別物でしょうか……?」

「えへへー、照れますねー」

 

 談話室でお茶会をしているのは金剛、加賀、そして比叡の三人だ。金剛と加賀が食べているのは比叡お手製のクッキー。素朴だが素材の旨味が引き出された、中々の一品だ。種類もたくさんあり、どれも美味しそうに見える。

 

「まだまだたくさんありますから、どんどん食べてくださいね、お姉様! 加賀さんもどうぞ!」

「ありがとネー」

「いただきます」

 

 ほのぼのとした空気の中、さくさくとクッキーを食べる三人。今回のお茶会が当初『私を惚れさせてみろとはどういうことだワレ』という査問会だったことを知る者は少ない。

 と、変化に乏しいながらも非常に美味しそうにクッキーを食べていた加賀が、眉どころか顔面のあらゆるパーツを思いきり顰めるという人前に晒すのはどうかと思う表情をし、咀嚼もぴったりと止まる。

 

「……ど、どうしました?」

 

 突然の加賀の顔芸に驚き、恐る恐る何があったのかを尋ねる金剛。加賀はその問いかけをスルーし、比叡に重要なことを問う。

 

「……比叡さん、このクッキー……味見はしたんですか?」

「あっ」

 

 その問いの内容に、金剛は何かを察したかのような声を上げた。

 加賀が手に持つクッキー。一見普通の物の様に見えるが、よく見ると何やらマーブル模様になっていた。それぞれの層ごとに味が違い、その一つ一つが微妙に混ざったり混ざらなかったりしてえもいわれぬ味を生み出しているのだ。

 

「その、そんなにデスかー……?」

「決して不味くはないのですが、何というか全てにおいて強烈な違和感があるというか……」

 

 やはり言葉にするのは難しい味だったようだ。

 加賀に問われた比叡は少しショックを受けたような様子で、慌てて返答する。

 

「味見って……ちゃんとしましたよ! お姉様方に食べてもらうんですから、ちゃんと私も食べて美味しいと思ったものを持って来たんですよー!」

「ah、ソッチだったかー」

 

 そう。この比叡、料理は上手く、味音痴でもない。ないのだが……単純に、『美味しい』と感じる領域が無駄に広すぎるのだ。彼女に掛かれば間宮や伊良湖の料理はもちろん、メシマズ属性のカオス鎮守府の比叡の料理すら「ちょっと変わってるけど充分美味しい」という感想を抱く、厄介な味覚の持ち主なのだ。

 それって味音痴なのでは? 加賀は訝しんだ。

 

「……でも、お二人の口には合わないみたいですね。これは私が処分します……」

 

 しょんぼりと落ち込んだ様子でマーブル模様のクッキーを回収していく比叡。金剛はそんな比叡の手をそっと止める。

 

「お姉様?」

「妹にそんな顔をさせたとあっては、お姉ちゃんの沽券に関わりマース! ここはこの金剛お姉様に任せナサーイ!」

「ええ!? で、でも……」

 

 戸惑う比叡をよそに、金剛は意を決してマーブルクッキーを一つ口に放り込む。

 

「ぬぐぅ……っ!?」

「うわぁ」

「お、お姉様ー!!? 無理は止めてくださいよー!!」

 

 乙女にあるまじき重低音を響かせる金剛。やはり金剛を以ってしても辛いものがあるのか、若干身体が震えている。比叡もそんな金剛を止めようとするが、当の本人に手で制されてしまう。

 

「ふ、ふふ……。覚えておきなさい比叡。人生には絶対に避けてはならない戦いというものがあるのヨ……!!」

「それ絶対に今じゃないですよお姉様!!」

「私はこれを全部食べて――――そのご褒美に提督に膝枕してもらったり頭を撫でてもらったりするんデース!!」

「私のクッキーをダシにしないでくださいよーーーーーー!!?」

「その手があった……!!」

「加賀さんまでぇ!?」

 

 この後、金剛と加賀は味覚に合わない物を無理に食べ過ぎたせいで体調を崩して横島に叱られ、比叡は横島に慰められました。

 

「ひえぇ~……」

「あー、もう。泣くなって。これからどれがダメでどれが大丈夫なのか調べていきゃいーだろ? 俺も手伝ってやっから」

「ううぅ。司令~、ありがとうございます~」

 

 

 

 一日の仕事を終え、横島は自分の部屋でゲームをしながら考え事に耽る。

 まず第一に海域のこと。難関だとは聞いていたが、これは思った以上に手こずりそうだということ。

 次は建造やドロップについて。金剛型に妙高型。どちらも半分ずつ着任してくれたのだが、残りが揃うのにどれだけの時間が掛かるのか。

 それから新たに着任した艦娘達の適正について。戦闘班と遠征班に分かれて任務に当たってもらっているのだが、中には戦闘が苦手なのに戦闘班に入りたがる子も存在する。

 基本的には本人の希望優先なので、戦闘班の誰かの下で訓練を積み、まずは簡単な海域を周回してもらうことになる。スケジュールの調整なども行わなければならないので、管理が大変だ。

 

「……お、レベルが上がった。次でようやく89か。じわれ覚えんの遅いんだよなー」

 

 ちなみに横島がプレイしているゲームは明石の酒保でゲーム機と一緒に購入したものだ。明石曰く一番思い入れのあるゲームらしい。ナンバリングでは大体中間辺りだが、一番嵌ったのがこれなのだという。

 

「周回で金も貯まったし、別荘の家具を――――ん?」

 

 やり込み要素の一つを埋めようとしたところ、ドアが控えめにノックされた。横島はゲームを一時中断し、お客を部屋へと招き入れる。

 

「失礼しまーす」

「おう、こんな時間にどうしたんだ、那珂ちゃん?」

「あの、ちょっと相談があって……」

 

 訪ねて来たのは那珂であった。いつもの笑顔はなく、何か悩んでいるような、どこか落ち込んでいるかのような表情だ。

 横島は那珂の様子から真剣な相談なのだと察し、気持ちを切り替える。

 那珂を椅子に座らせ、横島は話を促す。

 

「えっとね、最近よく同じ夢を見るんだ」

「夢?」

「うん」

 

 那珂が最近よく見るようになった夢。それは艦の時の記憶なのだという。

 その夢の中では多くの軍人が居り、皆歌を歌っていた。

 眼に涙を溜め、震える身体を押さえ、恐怖に怯える心を誤魔化すため――――彼らは歌っていた。

 

「それでね、気付いたっていうか……思い出しちゃったっていうか」

「……うん」

「私……歌のこと、嫌いだったんだ」

 

 それは那珂の根幹に関わる矛盾。

 

「それで、分からなくなったの。何で歌を好きになったのか、何でアイドルになりたくなったのか。……全然、思い出せなくなっちゃったの」

 

 小さな声でそう話す那珂は、いつもよりもずっと小さく見えた。

 最近思い悩んでいることに横島は気付いていたが、その悩みは思っていたよりも重いものだったようだ。

 

 

 

 

第四十九話

『夢への疑問』

~了~

 

 

 

 

金剛「て、ていとくぅ~……」

加賀「ううぅ……てい、とく……」

横島「まったくお前らは本当にもう……ぐふふ」お腹なでなで

不知火「……っ!」ぴこーん!

磯波「……っ!」ぴこーん!

響「……っ!」ぴこーん!

黒潮「不知火、ステイや。ステイステーイ」

白雪「磯波ちゃん、キャラ変わった?」

暁「比叡さんに失礼でしょ。無茶なことして気を引こうとしなくても響は充分可愛いんだから」




お疲れ様でした。

那珂ちゃんの悩みは解消されるのかな……?

横島がやってたゲームはポケモンのプラチナ。
時代考証……? いえ、知らない子ですね。

摩耶さんの性格のモチーフはながされて藍蘭島のりんです。
「なんか見た目似てるなぁ。この二人」と思ったので……(個人の感想です)
ただまあ別物になっちゃいましたけど。

それではまた次回。

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