煩悩日和   作:タナボルタ

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大変お待たせいたしました。
なんやかんやあって、四月の休日は二日しかありませんでした。
そんなこんなあって今回も短いですねー。

……最初は短いのを投稿していくとか言ってたのに、いつの間にか長くなってたんだよなぁ。




悩み多き日々

 

「……うーん」

 

 ――――歌が嫌いだった、か。

 

 那珂の言葉に、横島は顎に手をやって唸る。

 続く話の内容から、那珂が()()()()()()()()()()()()、そしてアイドルに憧れた理由についても想像は付く。単なる憶測ではあるが、間違ってはいないだろう。

 ちらりと見やった那珂は、随分と落ち込んだ表情を浮かべ、俯き加減に横島の言葉を待っている。相談に来た時点で分かっていたことだが、どうやら那珂は己の本当の想いに気付けていないようだ。

 

 ――――那珂ちゃんも俺と同じで目先のことに囚われがちだからなー。

 

 横島は思わず天を仰ぐ。横島が身じろぎする度に那珂は少し反応を返す。どうも怯えているようにも見えて、どことなく居心地が悪い。

 ここでそのままずばり答えることも出来るが、事は那珂の夢……もっと言えば、存在意義(レゾンデートル)に関わってくることだ。

 こういう場合、答えは自分の手で見つけさせた方がより良い結果を齎すはずだ。そうすれば那珂は更なる成長を得て、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ――――決して間違ってたら恥ずかしいとか、格好悪いだとか、せっかく上げた好感度が下がってしまうとか、そんなことは少ししか考えていない。きっと、少しだけなら許容範囲だ。

 

「……何となく、那珂ちゃんが求める答えは分かる」

「ほんと……っ!?」

 

 やっと口を開き、そして自らが望んでいた答えを持っているという横島の言葉に、那珂はずいと身を乗り出す。やはり横島に相談を持ち掛けたのは間違いではなかった。流石は私の提督(コーチ)だ! と、那珂は気分が高揚してくる。

 しかし、次の横島の言葉で、那珂の表情は再び曇ることになる。

 

「でも、この答えは那珂ちゃんが自分で見つけなきゃ意味がない。……そういう類のものだ」

「え……」

 

 期待していただけに落胆は大きい。真剣な顔で真っ直ぐに自分の目を見つめてくる横島に心がときめかないでもないが、流石に今の雰囲気でそういった気分は盛り上がらず、那珂はまた俯いてしまう。

 

「……まぁ、ここで終わったら相談に乗った意味がないし、多少の助言はするけどな」

「ええ……?」

 

 人の気分を下げたり上げたり、中々忙しい男だ。

 横島は拙いながらも那珂にヒントを与える。那珂は納得していない様子ではあったが、一先ずその助言を受け、自分で色々と考えることにしたようだ。

 ぺこりと頭を下げ、那珂は退室する。その儚く寂しげな後ろ姿に横島はちょっと煩悩を刺激されてしまうが、溜め息を吐いて窓の外を見つめる。

 

「んー、あんな感じで良かったのか……。美神さんや小竜姫様ならなんて言うかな」

 

 自らの師匠達を思い浮かべ、横島は嘆息する。

 美神は普段の言動から誤解されがちだが、ああ見えて面倒見はいいし、スパッと悩みを解決してしまいそうだ。

 小竜姫は永きを生きる竜神にして武神、そして仏門の徒でもある。きっと自分以上に上手く那珂を導いていけるはずだ……と、横島は考える。

 確かに横島の考えることは間違ってはいない。しかし、美神はある程度以上仲を深めなければ他人の手助けを(ほとんど)しない女性であるし、小竜姫は上級神族であることもあってか人間の精神や感情といった部分を軽視しがちであるので、あまりこういった相談事には向かないタイプである。

 

「案外ヒャクメとかが適任だったりしてなー」

 

 あっはっは、と横島は笑う。その態度から分かるように横島も本気で言っているわけではないが、前者二人と比べればヒャクメの方が余程適任であるというのは言うまでもない。……まあ、ふざけず茶化さず真面目にすれば、の話であるが。

 それにしても同じく師匠の一人であるのに欠片も思い出されなかった斉天大聖や、美神の師匠であり身内で屈指の人格者である唐巣神父の名前が出てこない辺り、流石は横島であると言ったところか。

 二日後にようやく二度目の演習が行われるというのに、薄情な男である。

 

 随分と期間が空いてしまったが、これにはちゃんとした理由が存在する。

 演習と言えば、横島鎮守府でも大量の経験値を得られる絶好の機会だ。どうやらある程度以上霊力を扱えるようになった艦娘同士の戦いでは、獲得出来る経験値の量が大幅に上昇するらしく、以前の演習で戦闘に参加した艦娘達の練度が一気に上がっていたのだ。

 勿論ただ演習に参加すれば練度が上昇するわけではなく、個々人がその演習を通して肉体的・精神的に成長したためにパワーアップに繋がったのであるが、それでもその成長具合は凄まじかった。

 何せ演習に参加した戦闘班でも平均練度が20程度だったのに、演習が終わってみれば平均練度が30近くになっているのだ。

 流石にこの上昇率は大本営(うんえい)の方でも予想外であり、色々と調査を行わなければならず、演習を開けなかったのだ。ヒャクメ主導で調査を行ったところ、見事に原因を究明。現在は各宇宙のタマゴの最終調整を行っているところである。

 ちなみにだが練度の大幅な上昇は横島鎮守府だけでなく、カオス鎮守府でも一部の艦娘に確認されている。当然ではあるが、何も演習は横島鎮守府だけと行うわけではないので、カオス鎮守府も各鎮守府と演習を行っていたのだ。

 横島鎮守府との調整が難航しただけであり、他の各鎮守府間での調整はそこまで難しくはなかったようだ。もしかしたらこれも例の社員(てんし)が宇宙のタマゴの設定をいじくりまわした弊害かもしれない。

 かつて横島がアダムとイブに性行為を教えて宇宙のタマゴを腐らせたことを鑑みると、駆逐艦娘しか()まれないようにしていたのに問題なく世界を運営出来ていた――表面上は――社員(てんし)は非常に優秀な人物なのかもしれない……と感じるかもしれないが、騙されてはいけないぞ。

 余談ではあるが、この不可思議な練度上昇の原因を突き止めたヒャクメは「横島さんもお爺ちゃんも大変なのね」と、ケラケラ笑っていたそうだ。

 

 さて、今回横島鎮守府と演習を行うのはワルキューレ鎮守府のみである。調査も終了し、それぞれの宇宙のタマゴの諸々の調整で最も早く終わったのがワルキューレの所であり、これからは毎日とはいかないが定期的に演習を行うことが可能になるのだそうだ。無論、他の鎮守府も調整が終われば同様に演習を行えるようになる。

 この情報に最も喜んだのがパピリオだ。現状、パピリオは妙神山に缶詰め状態であり、当然横島に会いに下界に降りることなど絶対に許されない。そして、現在横島も妙神山に訪れることを禁止されている。

 そんな中、半電脳空間とはいえ横島に直接会えるようになったのだ。いつその日が来てもいいように、パピリオは仕事そっちのけで可愛い服や一緒に遊ぶためのゲームなどを買い求めるようになり、ワルキューレ鎮守府から視察(という名の面会)に来たベスパに窘められてしまう。

 余談だが「お前らもあんまり甘やかすんじゃないよ!」と艦娘達も一緒に叱るベスパは、いつの間にかパピリオ鎮守府で姐御・姐さんと呼ばれるようになってしまった。

 そんな背景もあり、ワルキューレ鎮守府の次はパピリオ鎮守府と演習が可能になることを通達されている。横島が以前抱いた感想の様に、随分とパピリオに甘い措置である。もしかしたら、何者かの意思が働いているのかもしれない。例えばどこかの社員(てんし)とか。

 

 

 

 そしてやって来た演習の日。ワルキューレとベスパが連れて来たのは最強の6人。つまりは本気メンバーである。

 二色持ちの重巡洋艦“高雄”と“那智”を筆頭に、航空戦艦“日向”、正規空母“加賀”、軽巡洋艦“矢矧”、そして秘書艦でもある駆逐艦“叢雲”という陣容だ。

 当然ながら練度も高く、その平均は70以上。猿神鎮守府やパピリオ鎮守府と比べると聊かインパクトに欠けるが、それでも現在の横島鎮守府の最高戦力の倍ほどの練度の持ち主達だ。少しでも油断しようものなら一瞬で打ち負かされるだろう。

 今回のメンバーもグラマラスで露出の激しい艦娘が居り、特に高雄と矢矧を見た横島は大興奮だった。……のだが、以前の演習の時と同様にその様子に一部の艦娘は違和感を覚える。

 それがどういった類の物かは分からないが、ともかく何かが妙に感じたらしい。

 

 さて、気になる勝敗であるが……当然、と言っても良いだろう。ワルキューレ鎮守府の勝利である。

 今回横島が選んだ6人は赤城、龍驤、川内、那珂、龍田、五十鈴。大淀の推薦を受けての選出だ。

 赤城、龍驤、五十鈴は横島鎮守府で最初に改造された3人であり、その新たな力に身体が馴染んできた頃であり、強者との戦いで一度自分の力がどの程度の物なのかを把握したかったのだ。

 川内は明石特製夜戦ゴーグル(仮称)を装備し、テンションアゲアゲ状態で待機していた。ついでに活躍した場合に横島に何か()()()をもらおうと考えていたらしく、だらしなく口を歪めていた。

 龍田は皆の纏め役であり、赤城達3人が出撃するならと、何となく連帯感を持っての出撃だった。

 問題なのは那珂であるが、悩みに悩んで出撃を決める。

 横島から言われた言葉。それがずっと頭から離れない。それについて考える度に“それ”を否定する言葉が浮かんできてしまう。考えて考えて、悩んで悩んで……那珂はとりあえず一暴れして鬱憤を晴らすことにした。意外と彼女の脳みそは筋肉質なのである。

 

 そんなメンバーだったから負けた、というわけではないが、横島艦隊はほとんど何も出来ずに戦闘は終了した。

 高雄と那智という規格外が居たのは確かだが、勝敗を分けたのはやはり“チーム”としての強さだ。

 横島艦隊も強いことは強いのだが、それはあくまでも個人個人の話。ワルキューレ艦隊のように“艦隊”としての力量はまだまだ低い。

 それに加えてワルキューレの的確な指示。いくら横島の指揮が優秀と言っても、それは素人の中での話。歴戦の軍人であるワルキューレの指揮に比べればまだまだ未熟も良い所なのだ。

 

「いいか、横島。お前は個の力に頼り過ぎている。確かにお前の部下達の力は素晴らしいものだ。しかし、だからと言ってそれで同等の力を持った者が集まった軍隊に勝てるわけがない。そう、我々が指揮しているのは“個”ではなく“隊”なのだ。それをもっとよく考えてみろ。今のお前の指揮では個人の裁量に任せている部分が多すぎる。指揮官となったからにはもっとちゃんとした戦術・戦略を学んで――――」

「……んなこと言われても」

 

 そんなわけで、横島はワルキューレからお説教を受けてしまう。最初はお互い立って話をしていたのだが、いつの間にか横島は正座をしてワルキューレの話を聞くようになった。口では反発したようなことを言っているが、どこか思うところがあったのかワルキューレの言葉を受けて真剣な表情を浮かべている。

 

「航空戦艦……戦艦の大火力に空母の航空運用力を持った艦。やはり強かったですね」

「ロマンやなー。実際には色々と問題もあるんやろうけど、それが全然分からんくらいにあっさりと負けてしもたからな」

「そういえば加賀さんは当初戦艦として()まれるはずだったんですよね……これはワンチャンあるのでは?」

「いや、流石にないと思うけど」

 

 お説教されている横島を見ながら、空母組の赤城と龍驤が雑談を交わしている。航空戦艦日向のインパクトは中々に強かったようで、彼女の実力の高さを称えていた。赤城は加賀の出自を考えて「彼女も航空戦艦になれるのでは?」と考えたようだが、龍驤はそれを苦笑しつつやんわりと否定する。

 

「いやー、完敗だったね」

「うん……」

「……夜戦に入ることも出来ないとはねー! けっこう自信あったんだけどなー!」

「うん……」

「……」

「……」

 

 話が盛り上がる赤城達とは対照的に、川内と那珂の姉妹は会話が続かなかった。川内が話を振っても那珂は話を聞いているのかいないのか、ただ曖昧な返事を返すだけであり、他の反応が見られない。何とか会話を続けようと努力するも、結局話は途切れ、気まずい沈黙が川内に圧し掛かってくる。

 

 ――――助けててーとくー!!

 

 心の中で泣いて横島に助けを請うが、当の横島はまだワルキューレのお説教の最中である。視線を彷徨わせ五十鈴と龍田を発見するが、彼女達は彼女達で盛り上がっており、そのままどこかへ移動していく。彼女達の視線の先にはワルキューレ艦隊の叢雲が居り、彼女に話を聞きに行くらしい。

 

「叢雲ちゃんはどんな必殺技(フェイバリット)を持ってるのぉ? ムラクモクローバーホールドとかだったり?」

「最近は打撃技が多かったから、ここらで関節技か落下技が見たいんだけどね。叢雲十字架落としとかどう?」

「何の話!!?」

 

 その会話の内容は聊かクレイジーであった。

 

「……」

 

 遠くで聞こえるお説教。それより近くから響くおかしな会話。すぐそばからの言葉。

 それらは那珂の耳に入り、認識されぬまま通り過ぎていく。今の彼女の心を占めるのは横島の言葉だけだ。

 結局、今回の演習は憂さ晴らしにはならなかった。むしろ、より気になるようになってしまったと言える。

 

 横島の言葉――――「本質は同じである」

 

 

 

 

 

「――――那珂ちゃんは別に歌が嫌いだったわけじゃないと思う。本当に嫌いだったら今みたいにアイドルになりたいって思うわけがねーしさ。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そこを考えてみてくれ」

 

 

 

 

 

「そんなわけないよ……」

 

 ぽつりと呟いた言葉に力はない。恋慕の情を抱いている横島の言葉ではあるが、それについてはどうしても否定したかった。

 だが、声が出ない。感情は揺らぎ、思考は上手く回らない。

 ……思い当たる部分があるというのか? そんなことはない。絶対にない。

 根拠のない否定と、思い当たる部分が存在する謎という矛盾。那珂の心は、千々に乱れる。

 

 ――――しかし。だがしかし、だ。

 驚くほど早く、()()()は訪れる。

 答えが出る日は、近い。そう遠くない場所に、それは見えているのだ。

 

 

 

 

 

第五十話

『悩み多き日々』

~了~

 

 

 

 

ヒャクメ「ここの海域ってどんな編成で攻略したの?」

パピリオ「ここは駆逐艦の子達をでちゅね」

斉天大聖「まずは箭疾歩で間合いに踏み込んで……」

ヒャクメ「そーゆーことを聞いてるんじゃないのねー」

小竜姫「……」

 

ヒャクメ「この子が欲しいのに全然建造出来ないのねー!」

パピリオ「あー、ビスマルクちゃんはレーベちゃんやマックスちゃんを秘書艦にしないと建造出来ないでちゅよ?」

ヒャクメ「ええ!? そんな設定があったのー!?」

斉天大聖「ちなみに通常の建造ではなく大型建造じゃから気を付けるんじゃぞ」

ヒャクメ「ひーん、最近資材がカツカツなのにー」

小竜姫「……」

 

ヒャクメ「この前駆逐の子達が――」

パピリオ「それならウチの戦艦達も――」

斉天大聖「ワシのとこは重巡の奴らが――」

小竜姫「……」

 

 

~美神除霊事務所にて~

小竜姫「最近、疎外感を覚えることが多くて……」

美神「う、うーん……」

 

 何と返答したものか迷う美神であった。

 そしてその後、ヒャクメ鎮守府と猿神鎮守府にて艦娘に剣を教える小竜姫の姿があったとかなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

左の鬼門「のう、右の」

右の鬼門「それ以上はいかんぞ、左の」




お疲れ様でした。

オチに使ってごめんね小竜姫様。ついでに鬼門。

急激な練度上昇についてですが、一応物凄くふんわりとした理由はあります。
ちなみに横島鎮守府で特に上昇率が高かったのは天龍・加賀・金剛・扶桑・那珂・叢雲・夕立・時雨・響・不知火・深雪、そして吹雪です。……多いなぁ。

カオス鎮守府では榛名・あきつ丸・福江です。横島鎮守府があれだからもう少し多くてもいいかな?

例の社員(てんし)こと阿部さんですが、その正体は天使アブデル。
ハルマゲドンでルシフェルに一撃食らわせて大怪我を負わせたらしい。
煩悩日和では階級は熾天使で超上級神族。実力だけはミカエルも信を置いている……という設定。

ちなみにミカエルはウェーブのかかった金の長髪に褐色肌で非常にぴっちりしたハイレグのボディスーツを身に纏っている巨乳美女です。
ウェーブのかかった金の長髪に褐色肌で非常にぴっちりしたハイレグのボディスーツを身に纏っている巨乳美女です。

それではまた次回。

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