今回は早めに更新出来たかな?
まあ、その分文字数は前回の半分以下なんですけどもね。
でも描写したいシーンは(多分)全部入れられたからこれはこれで良かったのかも。
さて、那珂ちゃん改二の実力は如何に……?
それではまたあとがきで。
「うおお……!!」
「すごい……」
「これが……これが――――!!」
霊気が海域に充ちる。強く、優しく、温かな霊気が。
そう、ここに新生したるは数多の艦娘が夢に描き、掴み取ろうと手を伸ばし続け、なお手に入らなかった天の星。
世界に――――宇宙意思に資格ありと認められた、頂点の一。
――――那珂改二。それが、この海域にて生まれた超越者の名である。
「……!!」
那珂が走る。真っ直ぐ、一直線に深海棲艦に向かって。
「アアアアアアッ!!!」
那珂一人を狙った全艦による一斉砲撃。裂帛の気合と共に放たれたそれは、各々が全力で霊力を込めた必殺の凶弾だ。当たれば如何なる艦娘も、例え二色持ちである金剛や天龍でもただでは済まないだろう。
「那珂ァ!!」
摩耶が最悪の未来を幻視し、叫ぶ。摩耶だけでなく、皆も他の艦娘のサポートに回っていたため、誰も那珂に追いついていなかったのだ。
これでは那珂が――――!! 絶望が皆の脳裏を過ぎり、例え間に合わないと分かっていても痛む身体を無視し、駆けつけようとする。
「だいじょーぶ!!」
焦燥感に身を焼かれる思いの皆に、那珂はそう答えた。
「――――だって、アイドルの衣装は……!!」
着弾、爆発!! 爆煙と共に炎が迸り、爆音が大気を震わせ、海面が爆ぜる。
「那珂アアアッ!!」
絶望の叫びが、爆音の余韻が残る海に木霊する――――次の瞬間。
「――――そう簡単に、破れたりしないもん!!」
爆煙を突き抜け、那珂が飛び出した。
「はあぁっ!!?」
摩耶が、赤城や他の皆が、通信越しに見ている全員が心の底から驚いた。そしてそれは艦娘だけではない。
「――――ッ!?」
深海棲艦――――特に旗艦のル級は目を見開いて驚愕に呑まれる。自らの、全艦の砲撃が――――
『那珂ちゃん』
「提督!」
横島からの通信。自分に絶対の信頼を示してくれた想い人の声に、那珂の表情は花の様に綻んだ。
『那珂ちゃん、分かってるな?』
「うん」
『那珂ちゃんはアイドルだ』
「うん!」
『だったら、やるべき事は一つ!!』
「うん!!」
二人の間で交わされる短い会話。そこに迷いはなく、淀みもなく。
横島と那珂。二人の心は今、完全に通じ合っていた。
『さあ――――歌え!! 那珂ちゃん!!』
「――――うん!! いっくよーーーーーー!!」
光の輪を持ち、光の翼を広げるその姿はまるで、戦場を駆ける天使である。
「ちょ、歌えって……!? 歌わせてどーすんのよ!! 戦わせなさいよ!!」
横島の先程の言葉に霞が噛み付いた。
それも当然だろう。何せ改二という存在は半ば伝説と言っても良いものであり、こうして通信越しの映像でさえもその次元の違う強さが窺い知れる程なのだ。
そんな超強力な艦娘と化した那珂に対して出した命令が『戦え』ではなく『歌え』なのだ。霞だけでなく、他の艦娘達も横島の意図が分からず困惑気味だ。
横島は霞の言葉を受け、皆に視線を送る。そしてニヤリと笑うと。
「まぁ見てろって。……いや、この場合は『聞いてろ』か? どっちでもいいか。とにかく――――すげーことが起こるからさ」
それだけ言って、映像へと向き直る。
まるで意味が分からない。分からないが……それでも、大丈夫であると確信している様子の横島を見て、皆の胸に自分も信じてみようという気持ちが湧き上がった。
これも横島が今まで培ってきた信頼の成せる業である。
そしてどうでもいいことだが、横島の悪戯小僧然とした笑顔に彼へと好意を寄せている艦娘達は、煩悩を滾らせてしまうのだった。
これも横島が今まで培ってきた煩悩の以下略。
――――前を見据える。敵艦……否、深海棲艦を見据える。
まだ動揺が抜けていない彼女達に、心からの、魂からの想いを込めて、ただ一つの歌を贈ろう。
私から、貴女達へ。全ての人達へ。
「――――――――……」
戦場の中心、戦火の只中で、優しい歌声が響き渡る。
軽やかに、時に切なげに、ありったけの想いの籠った歌が広がっていく。
那珂の頭上で輝く光の輪が、彼女の歌声に合わせて拡大と縮小を繰り返す。やがて輝きはいや増していき、那珂の身体からは膨大な霊力が迸った。
「――――ゥア、アアァ!?」
ル級の一人が頭を押さえ、声を上げた。その手から、身体から、全身から光の粒子が浮かび、ほろほろと離れていく。
これは彼女達の肉体を構成する霊力の灯火。それが那珂の歌によって綻び、分解され、宙を舞っているのだ。
「オオオ、オオオオオオオ……!!?」
我が身に起こる不可解で理不尽な現象。心より湧き上がる
「シャアアアァアァッ!!」
撃つ。撃つ。撃つ。だが全て躱される。避けられる。防がれる。クリーンヒットが全くない。那珂は歌いながら、激しく鋭い機動で攻撃を回避し続ける。
那珂はアイドルだ。踊りながら歌い続けるアイドルにとって、この程度は出来て当然なのである。
ありえない。ありえない。こんなことはありえない。
攻撃は通じず、身体もいずれ完全に光の粒子となるだろう。恐怖で気が狂いそうになる――――
那珂と対峙するル級達の心には――――安らぎと、救いが齎されていた。
「……あれ、どうなってんの?」
呆然と霞が呟く。それは今も那珂の戦いを見守る全ての艦娘達も思っていることだろう。
まるで分からない。理解が追い付かない。
深海棲艦の身体が、霊力の粒子となって崩れていっている?
会議室にいる全艦娘の視線が横島へと注がれる。しかし、横島の視線は動かない。
今も戦いの中で
「あれが那珂ちゃんの霊能だよ」
「え……」
誰にも振り返らないまま、横島が答えた。
「歌が……歌声が霊波に変換されて、海域に広がってる。那珂ちゃんの
「は――――はあああああぁっ!!!!!!????」
何でもない事の様に語られた那珂の超絶反則能力に、艦娘達はただ驚き叫ぶことしか出来なかった。
横島はほんの一瞬たりとも視線を動かさず、那珂の戦いを見守り続ける。その目はまるで眩しいものを見るかのように細められ、口元には微かな笑みが浮かんでいる。
その様はまるで、大好きなアイドルのコンサートを見つめる、一人のファンの姿の様であった。
――――何でだろうね。貴女達の気持ち、分かる気がするんだ。
砲撃を躱し、歌い続ける那珂の心は戦火に曝されているというのにひどく穏やかであり、深海棲艦達に一切の敵愾心を持っていなかった。それどころか、慈しみをすら持っていると言ってもいい。
――――どうしてだろう。やっぱり、元は同じだったからかな?
艦娘も深海棲艦も、本を正せば同じ
彼女達は同じコインの表と裏。進む先、望む未来は正反対だとしても、根本部分はきっと同じ。
――――私達、今はこうして戦っているけど。でも、いつか。きっと、いつかきっと――――!!
「アアアアァァァッ!?」
ヘ級の艤装が崩壊する。自らの終わりを覚悟したが、那珂の両脇の海面が突如として盛り上がる。
「VAМOOOOOOO!!」
ロ級だ。二体のロ級は那珂の歌なぞ知ったことかと雄叫びを上げ、食いつかんと迫る。ロ級は那珂の歌の影響をまるで受けておらず、その身も艤装も霊力の粒子に変換されていない。
そう、ロ級には歌を歌と認識する程の知能が備わっていなかったのだ。ロ級にとって那珂の歌はただの音でしかなく、そこに込められた想いなど読み取れるはずもない。
ただ本能のままに敵を沈めんとする怪物に、歌も想いも届かない。
『那珂ちゃんさん!?』
左右より迫るロ級の牙に、悲鳴にも似た声が通信より響く。避けられないと思ったのだろう。確かに完璧なタイミングだった。だが、避けられないのではない。
「うおっ――――」
「――――っりゃあーーーーーー!!」
那珂の背後より、拳が、蹴りがロ級達を吹き飛ばす。
「へーんっ!
「私達
加古と比叡だ。
二人は孤軍奮闘する那珂を助ける為にその背を負い、こうして護る事に成功した。そして今度は二人の主砲が火を噴き、二体のロ級はその身を海底に沈める事となる。
「ぃよっし!」
「やりました!」
ハイタッチを交わす加古と比叡の背中に庇われた那珂はほんの少しの間だけ瞑目し、己の不出来をそっと嘆いた。
もっと上手く歌うことが出来ていれば、ロ級達にも歌を届けることが出来たかもしれない。心の師匠であるジェームス伝次郎であれば、確実に歌を、想いを伝えることが出来ていただろう。
道はまだ遠く、目指す背中を視界に捉える事も出来ていない。だからこそ、今はありったけの想いを込めて。祈りを込めて。
きらきらと、夜の海に輝いて。
――――届きますように。私の歌が届きますように。私の想いが届きますように。
「――――ア、アア……ああぁ……!!」
ヘ級が光の中へと消えていく。ひび割れた仮面の隙間から、涙が覗いていた。光の中で、彼女は一体何を見たのだろう。
ただ分かる事があるとすれば、彼女の涙は温かな光を放っていた事だ。
「……オ、オォ」
消えていく。仲間達が消えていく。ああ、この歌は救いなのだ。かつて失った、確かに懐いていたはずの感情が蘇る。
――――そうだ、私は……私達は……。
最早一人となった旗艦、ル級。彼女の艤装も光に消えた。その身も、すぐに
だが、
下らない、意味のないその行為。しかしその行為にこそ、ル級は価値を見出した。
これが、最後の勝負だ――――!!
ル級は那珂へと走り出す。艤装もなく、ただ海を走れる程度の能力しかなくなってしまった、その身体で。
「あんにゃろっ」
加古が突っ込んでくるル級に主砲を向けると、それを遮るように、那珂が前へと出る。
「ちょ、何やってんの那珂!?」
すんでのところで発砲は免れたが、そうこうしている内に那珂とル級の距離は縮まり、互いの手が届くほどにまで近付いた。
「アアアアァァァッ!!」
渾身の力を込め、突き出されたル級の拳。最後に残った意地の拳は、那珂の胸に向けられて繰り出された。那珂はその拳を――――両手を広げ、受け入れる。
驚きに目を見開き、ル級の一瞬気が緩む。そして、その胸に拳が触れる瞬間、ル級の腕は、光へと還った。
「……フフ」
連鎖する様に光へと変換されていくル級の身体。それを見つめるル級の目には最早負の感情など一切なく。
――――負けた。たった一人の艦娘に、自らが率いる最強の艦隊が完全敗北を喫した。だが、その心を満たすのは怒りでも悲しみでもなく。
きっと、もっと尊いものだ。
「キレイ、ナ、ウた……」
ゆっくりと、目を閉じる。微睡むように薄れゆく意識の中、最後に幻視したのは
「また……聞きたい、な……」
その言葉を最後に、ル級は光へと還っていった。
暗い夜の海を淡く照らす、蛍火が如き光達。やがてそれらはゆっくりと天へと昇っていく。それはまるで、天使が魂達を天国へと送り出す様に見えた。
那珂は天へと昇り逝く光に涙と、微笑みを浮かべ、呟いた。
「……うん。今度は、一緒に歌おうね」
艦娘が、深海棲艦が。かつて夢見た平和な世界。きっと遠くない未来で、再び出逢い、そして今度は共に笑い合い、そして共に歌い合おう。
――――いつかきっと、楽しい海で。
第五十三話
『いつかきっと、あの海で』
~了~
お疲れ様でした。
そんなわけで那珂ちゃんの言霊使いとしての能力は『
歌声がそのままネクロマンサーの笛の代わりになります。
那珂ちゃんの悩みが解決したことで能力が覚醒したのでした。
凄い能力ではあるんですが難点もそれなりにあるので扱い辛い能力でもあります。そこら辺は次回に明かされる……かも知れません。
前回赤城と瑞鳳の出番がそこそこあったので今回は丸々カットすることになってしまいました。お許しください。
それではまた次回。